ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. AMBIENT KYOTO 2023 ──京都がアンビエントに包まれる秋。開幕までいよいよ1週間、各アーティストの展示作品の内容が判明 (news)
  2. interview with Adrian Sherwood UKダブの巨匠にダブについて教えてもらう | エイドリアン・シャーウッド、インタヴュー (interviews)
  3. Tirzah - trip9love...? | ティルザ (review)
  4. Spellling - Spellling & the Mystery School | スペリング、クリスティア・カブラル (review)
  5. Oneohtrix Point Never ──ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、新作『Again』を携えての来日公演が決定 (news)
  6. Columns 創造の生命体 〜 KPTMとBZDとアートのはなし ② KLEPTOMANIACに起こったこと (columns)
  7. Columns 9月のジャズ Jazz in September 2023 (columns)
  8. interview with Loraine James 路上と夢想を往復する、「穏やかな対決」という名のアルバム | ロレイン・ジェイムス、インタヴュー (interviews)
  9. Caterina Barbieri - Myuthafoo | カテリーナ・バルビエリ (review)
  10. Kazuhiko Masumura ——さすらいのドラマー、増村和彦の初のソロ・アルバムがbandcampにアップ (news)
  11. Milford Graves With Arthur Doyle & Hugh Glover - Children of the Forest | ミルフォード・グレイヴス (review)
  12. 国葬の日 - (review)
  13. Tirzah - Colourgrade | ティルザ (review)
  14. Various - Micro Ambient Music (review)
  15. interview with Wu-Lu 世界が変わることを諦めない音楽 | ウー・ルー、インタヴュー、マイルス・ロマンス・ホップクラフト (interviews)
  16. Soccer96 - Dopamine | サッカー69 (review)
  17. Lost New Wave 100% Vol.1 ——高木完が主催する日本のポスト・パンクのショーケース (news)
  18. 10月開催の「AMBIENT KYOTO 2023」、坂本龍一、コーネリアスほか出展アーティストを発表。テリー・ライリーのライヴもあり (news)
  19. Oneohtrix Point Never ──ニュー・アルバムをリリースするOPN、公開された新曲のMVが頭から離れない (news)
  20. world’s end girlfriend ──7年ぶりの新作『Resistance & The Blessing』がついにリリース (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Carpainter- Declare Vicrory

Carpainter

Carpainter

Declare Vicrory

TREKKIE TRAX

Bandcamp iTunes Spotify

BreaksRaveTechno

Native Rapper

Native Rapper

TRIP

TREKKIE TRAX

Bandcamp Spotify Amazon iTunes

Future BassTechnoPop

小林拓音   Apr 15,2019 UP

 いま日本の音楽シーンにおいて何がオルタナティヴなのかということを考えたときに、僕が最初に思い浮かべたのは〈TREKKIE TRAX〉だった。彼らは昨年、レーベルとしてのベスト・アルバム第2弾『TREKKIE TRAX THE BEST 2016-2017』をリリースしたり、Maru & ONJUICY による「That's My S**t」のような強力なシングルを送り出したり(ONJUICY はその後スウィンドルともステージで共演)、813Jaymie Silk といった海外勢も果敢にフックアップするなど、どんどんその勢いを加速させていっている感がある。フィジカルでのリリースも着実に重ね、少なくとも当初の「ネット・レーベルのひとつ」というイメージはすでに大きく超え出ていると言っていいだろう。そんな〈TREKKIE TRAX〉から届けられた最新作2枚がこれまたどちらも魅力的だから困ってしまう。

 2年前に三浦大知のヒット曲(『仮面ライダーエグゼイド』主題歌)をプロデュースしたことでより広汎な層へもその名を轟かせることとなった Carpainter は、〈TREKKIE TRAX〉の創設者のひとりであり、同レーベルの核たる TREKKIE TRAX CREW のメンバーでもある(ボカロ・リスナーにとっては八王子Pやアナマナグチのリミックスも記憶に新しいだろう)。そんな彼による「勝利宣言」と題されたニュー・アルバムは、まさにいまの〈TREKKIE TRAX〉の勢いを象徴するような1作だ。
 終盤の“Wut U Tryin”や“Noctiluca”のようにブレイクスに光を当てた曲たちもチャーミングなのだけど、まずはやはり表題曲“Declare Victory”や先行公開された“Mission Accepted”のレイヴィなサウンドに耳を持っていかれる。じっさいには体験していない世代による独自のレイヴ解釈といえばゾンビーを筆頭にあげることができるが、Carpainter はよりスマートというか、継承の仕方がもっと素朴で、それはこのアルバムのもうひとつの顔であるデトロイト由来の美しい上モノたちについても言える。タイトルからして最高な“Future Folklore”はそのロマンティシズムを堪能するのにうってつけの1曲だし、ポーター・ロビンソンがセットに取り入れたことで話題となった“Sylenth Warrior”のミニマリズムも、ある時期のジェフ・ミルズやカール・クレイグ、リッチー・ホウティンあたりを彷彿させる仕上がりだ。もちろん、レイヴとデトロイト・テクノというのはこれまでも Carpainter の音楽を特徴づける大きな要素だったわけだけど、本作ではそれが成熟の域にまで達している。30年近く前の音楽に触発されているにもかかわらず、レトロ感が稀薄なのもポイントで、それはおそらく彼が10年代以降のベース・ミュージックの感覚をナチュラルに体得していることに起因するのだろう。双方のエッセンスを巧みに両立させたのが冒頭の“Transonic Flight”である。

 Native Rapper のファースト・アルバムも負けていない。これまで〈TREKKIE TRAX〉から2枚のEPをリリースしている彼は、プロデューサーであると同時にみずから歌唱をこなすシンガーソングライターでもある。ゆえに、種々の押韻や“Passion Fruit”、“Like a Swimming Pool”などの言葉遊びに体現されているように、彼の最大の魅力はその歌詞にこそ宿っている。“Swag Girl”の「ハイレゾの街、しばしおさらば/機内モードで全部チャラにしよう」という表現にも唸らされるが、より印象的なのは一昨年シングルとして発表された“Keep It Real”だ。「誰だって多少の変わりたい願望でちょっとおしゃれしてみたり/ずっと変わんねえなって褒め言葉受けて、らしくありたいと思ったり」という心理描写のあとに、「アップデイトした携帯電話/使いづらくてもすぐ慣れてしまう/SNSの次に来るのはなんだ」と今日のインフラにたいする感慨を接続してみせるところには、彼がどのように現代のリアリティを切りとろうとしているかがよく表れている。
 もちろんトラックのほうも忘れちゃいけない。きめ細やかなサウンドがめまぐるしい展開を見せる“Rainy Dance”や、先を急ぐように切り刻まれる電子音と ゆnovation によるピアニカが見事なコントラストを織り成す“Grand Melodica”といった曲には、トラックメイカーとしての Native Rapper の才が凝縮されている。シンプルにテクノとしてアガるのは表題曲の“TRIP”だが、歌詞も含めてキラーなのはやはり、上述の〈TREKKIE TRAX〉のベスト盤にも収録された、彼の代表曲たる“Water Bunker”だろう。ここには、朝四時頃にひとりでフロアに佇んでいるときの感傷がすべて詰め込まれている。

 レーベル主宰者のひとりである Seimei は昨年、取材したときだったか UNIT で会ったときだったかは忘れてしまったけれど、〈Warp〉や〈Brainfeeder〉のような存在になることを目標にしていると熱く語っていた。その夢ははっきり言ってもう、ほとんど実現してしまっているのではないだろうか──〈TREKKIE TRAX〉から立て続けにリリースされたこの2枚の新作は、そう思わせるに足るだけのクオリティと、そして何よりパッションに満ちあふれている。

小林拓音