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春を彩るダンス・ミュージック7枚

春を彩るダンス・ミュージック7枚

渡部政浩 Mar 30,2022 UP

 野球を観に行った。ひとごみが好きなタイプではないけど、ごった返しの状態になるのもひさびさだったので、なんというか戻ってきたな、と。来る4月もじょじょにフェス、イヴェント、あるいは単なる音楽好きが集まる会やらで予定が埋まりつつあることを思うと、いよいよ始まったと思わされる。でも、始まりあれば終わりあり。同時に渋谷のコンタクトは9月をもって閉店。私事で恐縮ですが僕は大学を卒業し、ここでも一区切りつきました。終わりは嫌だなあ。でも、パーティはみんな終わるとわかっているから、その瞬間をほんとうに楽しめるのだと、これは納得できるとてもいい言葉だね。始まりと終わりはセットでつながっていると思う。僕がいまでも忘れられないDJのいくつかも、終わった悲しさありつつ次への予感も匂わせてくれるようなプレイだ。一直線のときを過ごしたというより、ループしているような感覚。まるでJディラのドーナツみたいに。
 とまれ、ときにそうやって真面目に考えさせてくれるダンス・ミュージックはやはり最高、そして何も考えず音楽で気持ちよくなるのはそれ以上に最高。いまに感謝、おすすめの新譜(リイシュー含む)ダンス7枚です。


Two Shell – Home | Mainframe Audio

 トゥ・シェル自身が主催する〈Mainframe Audio〉はもともとヴァイナル・オンリーだったが、このたび人気の第2番「home / no reply」がデジタルにてリリース。正直、ここ最近ではもっとも繰り返し聴いているかもしれない。いまのモダンなベース・ミュージックのひとつの面白いかたちなのかなと。オリジナルはホワイト・ラベルの無骨な装いだったが、デジタル・リリースに合わせアートワークもポップでかわいらしく変化。彼らデュオは、UKの新世代のひとつと目される〈Livity Sound〉などからもリリース。この周辺はこれからさらに盛り上がりそう。

Burial + Four Tet – Nova/Moth | Text

 長らくヴァイナルでしか入手できなかった「Nova/Moth」がデジタルに登場。言わずもがな最高。デジタル・リリースまえ偶然ディスク・ユニオンで見つけたけど、その盤はマジック書き込み有りで4,000円を超えてたからね。いやあ、価格破壊です。気軽に聴けるようになりすごく嬉しい反面、血眼でレコードを探している人間からするとちょっと悲しいような気もする。まあ物理メディアは音が云々とそれらしい理由づけをして、デジタルもフィジカルも両方買うんですけど。

DJ Python - Club Sentimientos vol.2 | Incienso

 DJパイソンことブライアン・ピニェイロによる新作が、ニューヨークはアンソニー・ネイプルズの〈Incienso〉から届けられた。2020年の『Mas Amble』以来ということになる。あの催眠的で浮遊感のある、しかし明確にビートも感じられる──「ディープ・レゲトン」なる彼のシグネチャー・サウンドは相変わらず健在。僕は普段からレゲエないしダンスホールをたくさん聴く人間ではないので、専門的な切り口からこのEPについて語れないのは容赦してほしい。“Angel” の約11分に充満する音の空気、そこに波打つかのように持続するパッド、反射するように静かにきらめくシンセ……。重力から解放された気さえするが、同時に、意外なほどクラップを軸に据えたビートはかちかちと忙しない。ダンス・トラック的な趣もありながら、ぐっと深いところへも誘ってくれる。ずっと浸っていられるサウンド。

Disclosure & Zedd – You've Got To Let Go If You Want To Be Free | Apollo

 ライ(Raye)との新曲 “Waterfall” のほうが最近だが、こっちについて語りたい。ゼッドはEDM直撃世代の僕にとっては馴染み深いDJで、高校生のころ幕張メッセのライヴも観ている。この曲には、フォー・テットとスクリレックスが2021年にコラボしたとき(2019年にはロンドンでB2Bをしていたりもする)と似た感情を抱いた。少なくとも僕の感じた限りでは、あのフォー・テットが超メジャーのドル箱スターDJとコラボするなんて……といった論調があり、一部の音楽好きの心をささくれ立たせていた(ように見えた)。今回もそれと似たまさかのコラボ。ヴォーカルなど全体的にディスクロージャー風味が強いが、ところどころのビートの質感などゼッドを思い出す部分もある。

PinkPantheress – to hell with it (Remixes) | Parlophone

 去年にリリースされたミックステープのリミクシーズ。2021年のダンス系ニューカマーとして話題をかっさらったピンクパンサレスであるが、やはり面白い。2分にも満たない音楽にさらっと90年代におけるジャングルないしUKガラージがサンプリングされており、ざっくりと「Z世代による90年代レイヴの再解釈」と形容されている。それはピンクパンサレスだけでなく、ニーア・アーカイヴ、ピリ、ユネ・ピンクなどなど、いま同じ感覚を持ったアーティストはたくさんいる。手っ取り早くスポティファイの「planet rave」というプレイリストを聴いてみて。ここに新しい潮流が生まれつつある(のか?)。アンツ、LSDXOXO、フルームあたりがベスト・リミックスだと思う。

buen clima - Transferencia Electrónica | Peach Discs

 〈Peach Disc〉は個人的に追っているレーベルのひとつ。シャンティ・セレステによるこのロンドンのレーベルはアートワークなどが視覚的にポップでかわいらしく、それもレーベル・テーマが「フルーティ&セクシー」なのだからなるほどと言ったところか。ピーチやシエルといった女性DJを多くフックアップする一方、UKテクノ新世代と目されるコール・スーパーやホッジなど男性陣もリリース。ブエン・クリマはこのレーベルが2022年を迎えた初の作品。リズムが面白くそこに乗るウワモノもきわめて独特。チリの男性。

Rilla - Yugeki / 遊撃 EP | SVBKVLT

 遅ればせながら。福岡出身で京都在住のリラによる一撃。テクノ~ベース・ミュージック、トライバルなども消化した5曲入りEPからは、クールさと怖さのバランスに非常に優れたサウンドを感じた。これをガチのサウンド・システムの入った場所で聴いたら、間違いなく僕の身体は持っていかれる。上海の〈SVBKVLT〉から初の海外リリースとなるが、同じく京都在住のストーンズ・タローもUKの〈Shall Not Fade〉からリリースするなど、京都のシーンがかなり盛り上がってきているのを感じる。〈Set Fire To Me〉のトレイ(いまは東京)、CYKクルーのコツ(一時移住)など素晴らしいDJもたくさんいるしね。

渡部政浩