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The Stalin

Post-Punk

The Stalin

Fish Inn - 40th Anniversary Edition -

いぬん堂(CD)/Pヴァイン(アナログ盤)

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三田格 Jul 09,2024 UP Old & New

 70年代にJamやHEAVENといった雑誌をサポートしていた群雄社という出版社があり(84年に倒産。ニューアカで有名な冬樹社が表なら、こちらが仮に裏とでも思って下さい)、そこで出版部長を務めていたYさんから「ミチロウがテクノに興味を持っていて、彼のスタッフから連絡が行くと思う。電話があったら相談にのってあげてくれ」と言われたことがある。ラフィン・ノーズのYOSU-KOとPONがCOW COWというハウス・ユニットを始めた頃で、パンクからハウスへの変化は必然だったと彼らから聞いていたこともあり、ミチロウがテクノというのもありえない話でもないのかなとは思ったものの、結局、スタッフから電話がかかってくることはなく、次の年にはテクノどころか「遠藤ミチロウがギター一本で全国ツアー」みたいな告知文を目にすることとなった。ザがつかないスターリン解散直後のことで、ミチロウが次に何をやろうか迷っていたなかに何パーセントかはテクノという可能性もあったのかなと(スタッフの勘違いでなければ)。

 遠藤ミチロウは何度か音楽性を変えていて、『Fish Inn』はそのことが最初に議論を呼んだアルバムだった。『TRASH』から『虫』までザ・スターリンはずっとパンクだったし、その次に出た『ベトナム伝説』はソロで、しかもカセットだったから、音楽性が変わってもそういうこともあるだろうぐらいの感じだったから、変わったことに関してはザ・スターリン名義でリリースされた『Fish Inn』に議論は集中した。『Fish Inn』が変わったといっても歌詞に大きな変化があったとは思わなかった。サウンドは勢いがなくなった。もしくは重くなったというのが最初に出てくる感想だろう。客席に臓物やゴミをブチまけるステージが評判になり始めた頃、ミチロウが「音楽誌は最後でいい」とコメントしていたのが印象的で、社会と対峙するのがパンク・ロックだからまずは一般紙誌で取り上げられることが目標だったと。そして、それはすぐに達成され、いよいよ音楽誌がスターリンに裁定を下すという段階で『Fish Inn』が俎上に上げられた。批評に熱があったとは思わないし、そもそも自分の気持ちもよくわからなかった。ミチロウやザ・スターリンについて決定的な言葉というのを読んだ記憶がなく、なるほどと思える批評に出会わなかったことで自分の気持ちもどこかへ散ってしまったままになった。パンク・ロックが音楽性を変えてしまうことはすでに前例がたくさんあり、ジョン・ライドンがセックス・ピストルズからPILになり、ポール・ウェラーがザ・ジャムからスタイル・カウンシルになるなど驚くようなことは出尽くしていた感があったので、ザ・スターリンがどう変わろうと驚くことはなかっただろうし、むしろ驚かせてみろという気持ちだったかもしれない。そういう意味では『Fish Inn』の変化は中途半端で、『TRASH』のスタジオ・サイドに収められていたラストの “溺愛” だとか、同じく『虫』のタイトル曲など既視感がなかったわけではない。人がいうほどの変化ではなかったというか、『虫』までの演奏でPIL『Metal Box』も随所で取り入れられていたから、『Fish Inn』はもしかすると最初はザ・スターリンからパンクを差し引いたら何が残るかという実験だったのかもしれない(といいつつ、ソニック・ユースやカスパー・ブロッツマン・マサカーのようなポスト・パンクはどうしても思い出す)。もしくはザ・スターリンはその前に自閉体と名乗り、自衛隊がディフェンスに徹している様をうまくとらえた名義を使っていたということだったので、外よりもうちへ向かうエネルギーに集中したという解釈は可能かなと思ったり。『虫』に収められていた “アザラシ” ですでに無力感は訴えていたので、それもまったくの新しい局面ということではなく、 “T-Legs” で「お前は空白 落ち込むことさえできない」とさらに追い打ちをかけることに。それでも外にエネルギーは漏れ出してしまったというか、基本的な力強さという意味ではなかなか並ぶもののない存在だった。

 後年になって知ったのは『Fish Inn』は「ザ・スターリンを終わらせる」というコンセプトを持っていたということ。なるほど。これで終わりという気持ちは確かに感じられる。整地された空き地のような落ち着きがあって、どこへ飛んでいくのかわからない無邪気さは皆無。「ザ・スターリンを終わらせる」とは、しかし、どういうことか。ザ・スターリンは最初からインパクトがあって、ソリッドな演奏と暴力的な言葉遣いが魅力だった。言葉が汚ならしいだけでなく、立て看でしか見たことがない言い回しや「コミュニスト」とか「インテリゲンチャ」といった思想家を罵倒する言葉の使われ方が新鮮で、佐野元春やダウンタウン・ブギ・ウギ・バンド、あるいはパンタ&HALが社会全体に風刺の言葉を向けたり、漠然と世の中全体に文句を言うのではなく、社会について何か考えを持っている人に攻撃の矛先を向けたということに興味を掻き立てられた。いま思うと “ロマンチスト” などは俗流の構造主義解釈で、当時の流行りだった相対主義に落ち着いただけなのに、何か思想を持つことに対する否定的な感情というだけでものすごい感じがしたものである。ミチロウ本人が自分自身に向けた言葉も多かったのだろうけれど、なんというか、ユース・カルチャーが政治性を失い、「敵が誰だかわからない」という常套句がまかり通っていた時代に攻撃対象が明確にあるというだけで他とは決定的に違っていた。 “玉ねぎ畑” “解剖室” “アレルギーβ” “虫” と忘れられない曲は多く、 “Stop Girl ” の「おまえは帰るとこがない だからここにいる オレは行くべきとこがない だからここにいる」という歌詞もなぜか好きだった。「ザ・スターリンを終わらせる」というのは、だから、ザ・スターリンもついに攻撃対象を見失ったということではないだろうか。たとえば “メシ食わせろ” で「おまえらの貧しさに乾杯!」と歌っても80年代後半に意味するビンボーはもはや集団就職や全共闘時代のそれではなく、ザ・スターリンが想定する対立点はことごとく、そして巧妙に隠蔽されるようになっていた。実際には原発労働や国鉄民営化など労働問題はむしろ重厚さを増していたのに、それは「おいしい生活」(©︎糸井重里)という認識の変換がすっかり見えないものにしてしまった。ザ・スターリンが、もしくは遠藤ミチロウが政治運動ではなく、ポップ・カルチャーに止まり続けるにはスタンスを変える必要があり、実際、『Fish Inn』後にミチロウが取るスタイルはニュー・グロテスク・ポップと名付けられたレトロ・フューチャー感覚で、寺山修司の表現を手掛かりとし、歌詞に政治色はなく、セックスを連呼するような不道徳路線がメイン、曲調はリズム・ギター全開の60s回帰だったり、プリンスを思わせるファンク・ビートやビートルズのダムド風カヴァーなどだった(そして、ブルーハーツが “リンダ リンダ” をヒットさせた2年後にザがつかないスターリンとして復活し、和光大学の卒業試験で行ったデビュー・ライヴによって再び新聞沙汰に)。

 『Fish Inn』は2年後にビル・ラズウェルによるリミックス盤がリリースされ、05年にCD化されたものはアナログ起こしだったそうで、今回が初めてマスターテープからのCD化。オープニングの “廃魚” が「腐った魚が食いたくて」という歌い出しだったので、東北大震災が起きた4ヶ月後の真夏に気仙沼に行き、屋根の上まで腐った魚で埋め尽くされていたことを思い出した。あの凄まじい悪臭のかたまりをステージからぶちまけられたら……(ちなみにスターリンというバンド名だと中国では発売禁止だそうです。みんなで風船にCDをくくりつけて中国に向けて飛ばそう!)。

三田格