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DJ Deep

DJ Deep

@Midnight East

2025年10月3日

文・写真:渡部政浩 Oct 17,2025 UP

 終電で渋谷へ。10月に入り湿気もいくらかマシになり、深夜のクラブ活動もずいぶん動きやすくなった。道玄坂周辺は相変わらず盛り場を愛する人々でごった返していたが、僕には早くこの雑踏をかき分けて〈O-EAST〉へ向かう理由がある。今夜はフランスのハウス・シーンにおける重要DJが東京へ帰還する日だ。
 DJディープことシリル・エティエンヌ。ロラン・ガルニエとともに――彼らがやっていたパーティ名のごとく“目を覚ませ!”とばかりにパリにアンダーグラウンドなダンス・ミュージックを叩き込んだ張本人のひとり。こと90年代フランスは、フィルター・ハウスやフレンチ・タッチなる言葉が注目されていただろうし、カシアスやダフト・パンクが商業的成功をもって迎えられた時代と言えるかもしれない。
 しかしその時代、〈F Communications〉のようなシーンの良心と関わり、サン・ジェルマンを模範としながら、パリの〈Rex Club〉にムーディーマンをいち早く招聘するなど、この地に根を張りハウス・ミュージックに並々ならぬ情熱を注ぎ続ける男がいたのだ。

 ん? 到着したと思ったら入り口が閉まっているような……。戸惑っていると、どうやら3Fのロビーのみ使用するとのこと。なるほど、メイン・フロアは使わず一部のフロアとバー〈東問屋〉で構成された〈MIDNIGHT EAST〉の形態があるのか。日にちを間違えてないことに安堵しつつ入場。このバーではムードマンをはじめスロウモーションズの面々が今夜を演出するようで、気になりつつも足早に階段を上がる。フロアは例えるなら表参道〈VENT〉のメイン・フロアをさらに一回りこじんまりさせた感じか、さらに小さいかも? そこでは、ヴォヤージュ・ヴォヤージュのプレイが終盤を迎えつつあり、横にはすでにDJディープが構えていた。
 やせ型で長身のこのフランス人は、Tシャツ一枚に眼鏡というシンプルな装いで――フランス人らしい上品さは垣間見えるものの、レコード屋でディグってきた音楽オタクがそのままフロアに現れたような出で立ちだった。自身のYouTubeでは、〈Nu Groove〉などレーベルTシャツを着用しつつ愛するレコードを素朴に紹介していたが、フロアでもまったく同じ雰囲気を放っていた。当たり前だが、DJの選んだ音楽を媒介にそこに居合わせた人々が夜を明かすのに、大仰な舞台やブランドの服はあってもよいが、必須ではないということだ。そのままの取り繕わない佇まいにプレイまえから信頼度が高まる。

 (ここからはシャザムの力を借りつつ)全体的には彼の得意分野であるハウスを軸としながら、いろいろな音が鳴っていた。序盤はヴォーカルを中心に据えた選曲が目立ち、ルイ・ヴェガ率いるエレメンツ・オブ・ライフ “Children of the World” やテン・シティ “Love Music” など往年のヴェテランの近年作を回していたのが印象的だった。ピアノ、ホーン、ゴスペル調のヴォーカル……四つ打ちに乗せてさまざまなサウンドが繰り出されるなか、中盤以降になるとシャザムもお手上げになっていき、音の質感もいくらかテッキーに、フロア仕様のサウンドへと突き進んでゆく。
 ふとあたりを見ると、友人と談笑しながら身体をかすかに揺らすひと、スピーカーの目のまえに陣取り音の響きを体感するひと、音に聴き入りながらひとりただ踊るひと、それぞれが音楽を共有しつつ、しかしみな違う感じ方をしていたように思えた。終盤に差し掛かるといってあっと驚くような山場を作るわけでもない。ミキシングの曲芸で魅せるスタイルでもない。プレイに派手さはなかったかもしれないが、DJディープは最後までこのささやかで自由な空気をキープするプレイに徹していたように思う。この2時間はあっという間に過ぎ去り、締めのゴンノへとバトンタッチされた。
 このままフロアに残るかバーで余韻に浸るのも良いかと思ったが、少し早めにフロアを去る。夜明けまえのいちばん冷たい時間が好きだ。ぎゅうぎゅう詰めの汗だくなフロアも楽しいが、今夜のように多くはない人数が親密な空間で多様に踊っている夜もまた素敵だな、なんて思いふけりながら歩いていると、もう肌寒い秋の夜風を実感した。

文・写真:渡部政浩