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Seefeel

AmbientDub

Seefeel

Sol.Hz

Warp/ビート

野田努 Jul 15,2026 UP
E王

 『Selected Ambient Works Vol. II』のようなアンビエント・アルバム、それに匹敵する作品は他に何があるのだろうかと、数年前、同作が再発されたとき、久しぶりに聴きながら考えた。霞がかった音像、あの半透明なオブラートに包まれたようなテクスチュアは、聴いて感じるものでありながら、見えるようでもある。Seefeel、見て感じる。
 『Vol. II』に対する『Vol. I』は存在しない。『85-92』は、作者は同じでも内容は似て非なるものだ。もし、なかば強引にでも、その『Vol. I』を歴史のなかに探してみると、行き着くのはブライアン・イーノの『On Land』(82)になる。暇な人は試して欲しい。静かだが、物々しさを秘めたテクスチュアは、聴いて感じるものでありながら、見えるようでもある。
 Seefeel、見て感じる。切ないほどに90年代的なネーミング。大学時代に知り合い、お互いコクトー・ツインズの大ファンだったことが結成のきっかけだったという話を『ワイアー』で読んで、なるほどーとうなずいた。
 なるほどー、これはとても面白いエピソードだ。ぼくは、コクトー・ツインズの、まだふたり組だった時代のアルバム『Head over Heels』(83)をとても好んでいる。サイモン・レイモンドという音楽の常識を知っているメンバーが加入する前の、スコットランドの美しいとは言えない産業都市からやって来たリズとロビン(そして〈4AD〉創設者アイヴォ)が作り上げたサウンド。リヴァーブたっぷりのギターを水彩画のように塗りたくったあの音像が、ハロルド・バッドの煌めきのアンビエントと合流するのは周知の通りで、そしてあの黄金の大河が、90年代初頭にはシーフィールへと流れ着いたというのは、デイヴィッド・トゥープ的な「音の海」そのものであり、そして、その美しい連鎖のなかにあるのが、いまぼくが聴いているシーフィールの『Sol.Hz』というわけだ。

 『Sol.Hz』に収録されている、たとえば“AM Flares”という曲を聴いていると、そのサウンドは手で触れることができるんじゃないかと思えてくる。音は水のように液状化し、流れている。冒頭の“Brazen Haze”は、霞がかった大気が広がるように、そのサウンドが自分の部屋の空気のなかに溶けていくようだ。ダブに関する彼らなりの解釈がここでは実験されている。控えめとはいえビートが挿入され、ベースが脈打ったとしても、加工された電子音はそよ風や雨に混じってしまう。作中、もっともダビーに感じる“Until Now”は、キング・タビーが生まれ変わってイーノ風のアンビエントをやっているかのようだ。
 『Sol.Hz』は、『On Land』や『Vol. II』の系譜に連なっているが、その源流には『Head over Heels』もある。同アルバムは、いわゆるドリーム・ポップを定義した作品のひとつとして再評価されている。ドリーム・ポップの本質にあるのは大いなる現実逃避、異界への誘いである——なんてことを、ちょうど紙エレキングの「サイケ&ドリーミー」特集のために書いていたところだった。
 また、ポップでありながら非言語的というドリーム・ポップの本質は、ボカロやラップのような言語的なものが好まれる日本の文化土壌のなかでは、生まれづらいものでもある。その特集のディスクガイドの1枚として、ぼくは彼らのデビュー・アルバム『Quique』を選んで書いた。90年代初頭という、いまのところ最後の楽天主義的な時代のエレクトロニカを聴いていると、なんだかいろんなことを思い出し、ここ数か月、あれこれ言ったり書いたりしてきたボーズ・オブ・カナダに関しても、ようやく少しは納得できるものが書けたんじゃないかと思っている(我ながら、まわりにまわって、馬鹿みたいな、実にシンプルな結論に達した)。
 とまれ。新作『Sol.Hz』は、『Quique』の延長線上にあるアルバムでもある。聴いて、見て感じることができる、それはぼくにとって幸せなひとときなのだ。

野田努