Home > News > RIP > R.I.P. Sensational (Colin Julius Bobb) - センセーショナルとの思い出

センセーショナルは、もともとアメリカのメジャーなラップ・グループ、Jungle Brothersのメンバーだった。本人から聞いた話では、気がついたらいつの間にかメンバーから外されていたらしい。
そんな経歴を持つ彼と僕が出会ったのは、2002年頃だったと思う。彼のことを知ったきっかけは、僕が十代の終わり頃、1998年に参加した〈Mille Plateaux〉のコンピレーションだった。そこに〈WordSound〉のSpectre(スペクター)が参加していた。そこから少し掘っていって、センセーショナルが1997年にリリースした『Loaded with Power』というアルバムを見つけた。それを聴いて、僕は「すごくカッコいいな」と思った。当時、僕は日本で音楽イベントを企画したりしていたので、彼を日本に呼ぶことにした。それが、センセーショナルとの付き合いの始まりだった。
日本に招聘してイベントをやったことをきっかけに、僕たちは一緒に音楽を作るようになった。最初は僕のトラックを彼のアルバムで使ってもらうことができて、その後、一緒にアルバムを一枚作ることになった。当時から交流のあったAutechreも、僕とセンセーショナルのことを気に入ってくれていたので、僕たちの作品のリミックスまで引き受けてくれた。しかも、たしかギャラは1ドルだったと思う。それが2005年頃だった。
そこから僕はセンセーショナルを何度も日本に呼んだし、一緒にヨーロッパツアーにも何度か行った。そして、センセーショナルと一緒にいると、とにかく何でも珍道中になった。彼と遊んでいるというより、彼と一緒にいること自体が、もう珍道中だった。例えば、日本に呼んだときのこと。いつだったかは忘れてしまったけれど、ホテルが全然取れなくて、僕と〈WordSound〉のレーベルオーナーのスペクターとセンセーショナルの三人で、一部屋しか取れなかったことがあった。その夜、僕とスペクターが寝ている横で、センセーショナルが女の子を連れ込んで、何やら始めてしまった。
「おいおい、ここ三人部屋やぞ……」
と思いながら、僕らはどうすることもできず部屋を出た。
そもそもセンセーショナルは、ものすごく女好きだった。
本当に、目が合った女の子を片っ端からナンパするような勢いだった。一緒に街を歩いていると、またナンパしている。「またかよ」と思って、3メートルくらい歩いたら、もう別の女の子をナンパしている。ヨーロッパでも、またナンパ。アメリカでも、またナンパ。一緒にいるこっちが恥ずかしくなるくらいだった。ニューヨークのメトロでもナンパしていた。
たしか大阪だったと思うけれど、そのときもセンセーショナルが女の子をナンパしていた。ところが、その女の子は、どう見てもヤクザっぽい男と一緒に歩いていた。普通に二人で歩いているのに、その連れの男が明らかに怖そうな人なのに、センセーショナルはかまわずナンパしていた。その瞬間、僕はさすがに「これはヤバい」と思って、若干隠れた。「俺は関係ありません」という感じで。
そんな人だった。
ヨーロッパツアーでも、いろんなことがあった。
たしかフランスのマルセイユからパリへ戻るTGVのなかだったと思う。センセーショナルはものすごく酔っ払っていた。僕は対面式のシートに座って、ちょっとうとうとしていた。周りには普通にたくさんの乗客がいる。すると突然、センセーショナルがお金を取り出して、破り始めた。
「What the fuck is money?」
そう言いながら、札をビリビリ、ビリビリと破っていく。
数百ドル分くらいはあったと思う。周りの乗客は完全に引いている。
僕も「うわ、最悪だ」と思った。もうこれは悪夢でしかない。
だから僕は、寝たふりをした。
「俺は何も見ていません」ということにした。
そしてパリで下車するとき、同じ車両に乗っていたフランス人のおばあさんに、「私はあなたのお友達のこと、一生忘れないと思うわ」と真顔で言われた。
そんなこともあった。
でも、センセーショナルは、ただめちゃくちゃな人だったというだけではない。彼には、ものすごく強烈な音楽的な身体感覚があった。食べるものにもかなりこだわりがあって、イタリア料理か、ハンバーガーしか食べなかった。どこに行ってもハンバーガー。海外ツアーでもハンバーガー。日本でもハンバーガー。
一緒にどこかのハンバーガー・ショップにいたときのことだったと思う。たしかフレッシュネスバーガーだったような気がする。
店内でフォーク・ミュージックみたいな音楽が流れていた。
するとセンセーショナルが、その音楽に合わせて突然踊り始めた。
その踊りが、ものすごくカッコよかった。
やっぱりリズム感がすごい。何気なく踊っているだけなのに、身体の動きそのものが音楽になっているような感じだった。
「ああ、この人はやっぱりすごいな」と思った。
楽器屋に一緒に行ったこともある。MPCみたいなリズムマシンを見つけると、センセーショナルは適当に触り始める。別に真剣に曲を作っているわけでもない。
ただ遊んでいるだけ。
ところが、適当に打ち込んだリズムが、もう異常にカッコいい。
「なんだそれ?」と思う。
本人は遊んでいるだけなのに、出てくるリズムが完全に音楽になっている。そういう瞬間が何度もあった。
ライヴも、また大変だった。
センセーショナルは、ものすごく緊張する人だった。ライヴ前になると、汗が指先からしたたり落ちるくらい汗をかいている。そしてライヴが始まる。僕がDJとして、自分の作ったトラックをかける。センセーショナルが、その上でラップをする。
ところが、 「あ、これ違う」と言う。
次の僕の曲をかける。
「これも違う」
また次。
「これも違う」
3曲、4曲と、次々に僕の曲を却下していく。
客は目の前にいる。
ステージの上である。
僕としては、
「いや、どれやねん……」という感じになる。
でも、ある瞬間、僕がかけた曲に対して、
「あ、これ」という感じになる。
すると突然、バーッとラップを始める。
それまで何曲も「違う」と言っていたのに、ハマった瞬間、一気に始まる。
そういうライヴだった。
事前に全部決められたものを淡々とやるというより、その瞬間に自分の感覚に合うものを探していたんだと思う。
そして、ハマった瞬間の彼は、本当に凄かった。
もちろん、無茶苦茶なこともたくさんあった。ライヴ前に無茶をしすぎて、ステージに立てなくなってしまったこともあった。僕は無茶をしない人間なので、横で見ながら「こいつ、やばいだろ」と思っていた。
でも、今振り返ると、それも含めて全部センセーショナルだったんだと思う。
とにかく、彼と一緒にいると何かが起きる。
普通にホテルに泊まることすらできない。
普通に電車に乗ることすらできない。
普通に街を歩くことすらできない。
普通にライヴをすることすらできない。
も、そういう人だったからこそ、一緒にいて面白かった。
いや、正確に言うと、全部面白かったし、全部面倒くさかった。
それが僕にとってのセンセーショナルだった。
文:Kohei Matsunaga (NHK yx Koyxen)