Home > Columns > #15:「すべてのロックンロールに反対してやる」- ──『UKインディ・ロック入門』刊行のお知らせ
「すべてのロックンロールに反対してやる(We oppose all rock and roll)」──サブウェイ・セクトの1978年のシングル「Ambition」のB面曲で歌われたフレーズである。「これこそが自分たちの信条になっていった」と回想するのはトレイシー・ソーンで、ヴィック・ゴダードによるこの歌詞は、パンク/ポスト・パンクにおけるスローガン/コンセプト/警句でもあった。つまりそれは、オレンジ・ジュースの歌詞のもっとも有名なフレーズ──「(これまでのものを)ズタズタに引き裂いて、また最初からやり直そう(Rip it up, and start again)」とほとんど同義でもある。
しかもそれは、ジョン・ライドンというハーメルンの笛吹き男、その時代においてビートルズ級の影響力をもった若者がセックス・ピストルズ時代の最後のほうに吐いた言葉と共鳴していたのだから、たまったものではない。「俺はただすべてをぶち壊したいだけだ。ロックなんて好きじゃない。なぜ自分がそこにいるのかさえわからない」
パンクを大いなる「否(ノー)」とするなら、その矛先はパンク自身にも向けられたのである。
ポスト・パンクとは、パンクを通過した「脱パンク運動」のことだ。「脱パンク運動」を先導したのが、パンク推進運動の中心人物、ライドンだったという史実はいま考えても最高におもしろい。ポスト・パンクとは、パンクに触発されながらパンクには成し得なかったことをやろうと、1970年代末から80年代にかけての英国で起きたムーヴメントのことである。パンクにできなかったことは何か。そのひとつが、大資本を頼りにせず、自分たちでレコードを作るという「DIY主義」だった。(オリジナルのパンクはほとんど皆メジャー・レーベルと契約していた)
セックス・ピストルズの “ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン” という曲がある。歌のなかには、「未来はない(no future)」という決定的な言葉が出てくる。ジョン・ライドンは、その「未来はない」をじつに力強く歌った。前向きな「未来はない」だ。そうか、じゃもう期待しても仕方がない。自分たちのやり方で好きにやろう。これがポスト・パンクであり、こんにちの我々がなんとなく「UKインディ」と呼んでいるものの原点である。
ズタズタに引き裂いて、また最初からやり直そう
そのときに、いまほど惨めな気持ちになっていなければいい
以下、私観。
ある短期間において、複数のアーティストが複数の素晴らしい作品、なかには流れを変えてしまうような決定的な作品がリリースされていった点において、ポスト・パンク時代のUKとデトロイト・テクノは似ている。じっさい両者には奇妙な共通点がある。DIY主義、反メジャー、反伝統的態度、階級の混在、いちぶの高い政治意識、文化的な横断性と雑食性。インテリとストリートワイズの共犯関係、美術系アーティストがいたことも共通している。
「すべてのロックンロールに反対してやる」その二。
そりゃあもう、そう言うからには、ポスト・パンクはロックンロールがやらなかったことをやった。ジャズ、ファンク、ダブ、即興、実験、ディスコ、エレクトロニクス……ポスト・パンクはブラック・ミュージックに借りがあるが、デトロイト・テクノはポスト・パンク時代のシンセ・ポップに借りがある。で、英国に輸入されたアシッド・ハウスやデトロイト・テクノからの影響は、レイヴ・カルチャーを触媒にUK音楽史における移民文化の大発明、すなわちジャングルへと展開するのだった。
「すべてのロックンロールに反対してやる」その三。
それって要するにクリシェに抗するということである。「難しいことは抜きにして愛し合おうぜ」という理屈をすっ飛ばしたエネルギー、ロックの真骨頂のひとつ、それに対する容赦なきクリティック。
愛はぼくたちを引き裂く(Love Will Tear Us Apart)
これはお前らの好きなラヴソングなんかじゃない(This Is Not a Love Song)
これは愛よりも奇妙だ(This Is Stranger Than Love)
むしろ「愛」の定義の解体に腐心していたというか、ザ・バズコックスの “Love You More” にしても恋愛関係のアイロニーでしかないし、ザ・モノクローム・セットにいたっては「愛は排水溝へと流れ落ちていく(Love Goes Down the Drain)」ものなのだ。
さように、ポスト・パンクには言葉があった。じっさい文学(哲学)かぶれが多かったし、その代表例をいくつか挙げれば……
アルベール・カミュ: 『転落』ならザ・フォール、『異邦人』ならザ・キュアー
フランツ・カフカ: 『審判』の主人公から名取ったジョセフ・K
J.G.バラード: 『残虐行為展覧会』ならジョイ・ディヴィジョン、『クラッシュ』ならザ・ノーマル
フリードリヒ・ニーチェ: 『善悪の彼岸』ならザ・ポップ・グループ
アルチュール・ランボー: 『地獄の季節』ならフェルト、アルバム・スリーヴのヴィジュアルにしたのはリップ・リグ&パニック
アンソニー・バージェス: 『時計仕掛けのオレンジ』からはヘヴン17
ディキシーズ・ミッドナイト・ランナーズのようなメンフィス・ソウルを素地にもつ汗まみれのバンドでさえも、歌詞のなかにサミュエル・ベケットやローレンス・スターン(『トリストラム・シャンディ』の作者)といった前衛文学者の名前が出てくるし、スクリッティ・ポリッティにいたっては、ウィトゲンシュタインにデリダ、フーコーなどなど、現代思想オタクぶり全開である。また、ウィリアム・S・バロウズのカットアップ手法を取り入れたスロッビング・グリッスル(TG)やキャバレー・ヴォルテールらの存在も忘れてはならない。
ザ・フォールのマーク・E・スミスもバロウズ流を実践したひとりだが、 彼の場合は、“ポスト・パンク界のM.R.ジェイムズ(Burialも大好きな怪奇小説家)” と形容されたほど、怪奇幻想文学めいた歌詞を書いたことで知られる(詳しくは『K-PUNK』をどうぞ)。ただしその冷徹な辛辣さは、労働者階級のリアリズム、あらゆる権威や知識人、パンクにも向けられていた。
もちろん、文学といってもひとそれぞれの好みがあり、多声的で、マーク・E・スミスのような「苛ついた不条理の塊」の対極には、なかば優雅に、言わばスマートなアイロニーをもってシーンに切り込んだエドウィン・コリンズがいた。なにせ言葉もサウンドもポスト・パンクへの逆張りと言える、『きみの愛を永遠に隠し通すことなんてできない(You Can't Hide Your Love Forever)』がデビュー・アルバムなのだ。彼らには、若いときにありがちな微笑ましい、文学マウンティングのエピソードもある。架空レーベル名に『ライ麦畑でつかまえて』の主人公ホールデン・コールフィールドの名を忍ばせたコリンズに対し、「へっ、サリンジャーだってよ」と嘲笑したのは、レーベル・メイトのジョセフ・K(ポール・ヘイグ)だった。のちにコリンズは、リチャード・ブローティガンの『アメリカの鱒釣り』をもじった楽曲まで残しているが、モダニズム的な重さに寄りかかっていた他のポスト・パンク勢に比べ、彼はじつに「村上春樹的」な感性を先取りしていたと言えるのかもしれない。(ポストカードに関しては、The Go-Betweensというバンド名もL・P・ハートリーの同名小説に由来している)
あらためて、つくづく特異なシーン/時代だったと思うけれど、しかしそれもそのはずで、彼らのルーツにあったのはエルヴィス・プレスリーではなくデイヴィッド・ボウイだったのだから。(マーク・フィッシャーの名言「グラムこそパンクである、歴史的にもコンセプトにおいても」)
さあ、そこで “バカになろうぜ(Get Stupid) ” 、マントロニクスの出番である。1985年のこの曲のUKにおける予想外のスマッシュヒットは、ポスト・パンクの高踏さへの反知性主義的な反動というよりは……まあ、それも多少はあったかもしれないけれど、オウテカにとっての最大の影響源のひとつなのだからそれだけとは言い切れない。思うに、サッチャー政権時代の抑圧からの逃避や、社会的弱者にとっての暗い将来に対する開き直りだったのではないだろうか。ポスト・パンク勢の多くは、80年代なばかには勢いを失っていたし、こと政治に走ったいくつかのバンドは、サッチャーが三回目の当選を果た80年代後半になると、もうダメだ、やってらんねえよと言わんばかりにアシッド・ハウス/レイヴ・カルチャーへと猛進した。あるいは、ラジオから流れる“Eric B. Is President” や“Pickin' Boogers”、 “South Bronx ” なんかに気持ちを持っていかれた連中も少なくない。これらの影響をダイレクトに受けた世代が、後の〈XL〉や〈Warp〉だったりするのわけだが、『UKインディ・ロック入門』ではそこまでは追っていない。あくまで、ポスト・パンク以降のUKインディ・ロック史、その誕生と発展、そしておそらくは衰退までの話になると思う。
その第一弾、副題は「ポスト・パンク、ギター・ポップ、スカとレゲエ編」を刊行します。インディ・シーンにとってもっとも重要なメディアであった7インチ/12インチ・シングルを含む450枚以上のレコード(CDではない)を辿りながら、「そもそも“インディ”とはどこから来て、何を意味し、そしてどうなっていったのか」を解説しているという、たんなるディスク・カタログではないのです。
では、このとりとめのない文章の最後は、ザ・フォールの1980年の最高にクールな、いかにもポスト・パンクらしい皮肉たっぷりの“Totally Wired”。この曲を聴いて混沌とした時代を乗り切ろう。ま、乗り切れることができたらいいけどね。
全神経がバキバキ
完全に覚醒している
完全に冴えている
わかるだろ?
人生に不意打ちはつきもの
お前の眼球にビンタをかましてくる
もし俺が左翼的な曲を歌っていたら
保釈金を払えるくらいは儲かったかもな
でも現実はまったく違うね
朝の光が差し込む
また新たな戦いのはじまり
また別の口論、そうだろ、そうだろ、そうだろ
尖る(weird)ために、尖る(weird)必要はない
アメリカの反体制ブランドを取り入れる必要もない
異端(strange)であるために、異端(strange)になる必要なんてない
俺の心と身体の意見は一致してる
イライラする、ムカムカする
最悪の状態、最悪の状態さ