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Home >  Columns > 9月のジャズ- Jazz in September 2025

Columns

9月のジャズ

Jazz in September 2025

小川充 Sep 26,2025 UP

 英国はレゲエをはじめ、スカやダブ、ダンスホールなどの影響が強い国である。かつて統治下にあったジャマイカからの移民が多く住み、サウンドシステムなどの音楽文化やダブ・ミックスの手法が育まれていくなかで、レゲエやダブはほかの音楽と交配してきた歴史がある。それはジャズの世界においても言えるところであり、今月はそうしたレゲエ/ダブの要素が濃厚な作品が集まった。

Steam Down
I Realised It Was Me

Ganix Recordings

 スティーム・ダウンはマルチ・インスト奏者のアナンセことウェイン・フランシスによって2017年に結成されたグループで、音楽制作からイベント開催など複合的な活動をおこなう。ウェイン・フランシスはかつてユナイテッド・ヴァイブレーションズのメンバーで、テオン・クロスやイル・コンシダードなど南ロンドンのジャズ・シーンのアーティストらの作品にも加わると同時に、ディーゴ&カイディ、IGカルチャー、ポール・ホワイトなどクラブ・カルチャーにも関わってきた。
 ロンドン南東部のペッカムを拠点に活動するスティーム・ダウンは、ドミニック・キャニングなどのジャズ・ミュージシャンからラッパーやシンガーもいろいろと参加しており、ライヴやレコーディングごとにメンバーが入れ替わるコレクティブに近い形態である。2019年にデビュー・シングルの “Free My Skin” をリリースするが、アフロビートとダブステップ、グライムが結びついたエズラ・コレクティヴに近いようなナンバーで、自らをアフロ・パンク・バンドと形容する彼ららしい作品と言える。その後、2020年に〈ブルーノート〉のオムニバス企画『Blue Note Re:Imagined』への参加を経て、2021年にEPの「Five Fruit」を発表。ジャズ、アフロ、ヒップホップ、グライム、R&B、ドラムンベース、ダブステップなどが結びついたストリート・サウンドを展開している。ジャズとクラブ・サウンドの融合具合では、エズラ・コレクティヴ、ブルーラブビーツノイエ・グラフィック・アンサンブルなどに匹敵するか、それ以上とも言える。

 その『Five Fruit』から久々にリリースしたのがファースト・アルバムの『I Realized It Was Me』となる。今回もジャズとアフロやクラブ・サウンドの融合は見られるが、全体に感じられるのはレゲエやダブとの結びつきの深さである。“Sum Of Thing” はボブ・マーリー、ピーター・トッシュ、アスワド、サード・ワールドといったレゲエのレジェンドたちを彷彿とさせる作品で、ソウルやファンク、ジャズ・ファンクと結びついて独特のUKレゲエが生み出された英国の音楽文化ならではの果実と言える。シンガー/ラッパーのアフロノート・ズーをフィーチャーした “Tempest” は、ジャズとダブ、ダブステップを融合した作品でサンズ・オブ・ケメットに近い作品。アフロノート・ズーの歌も、例えばホレス・アンディやビム・シャーマンのような往年のレゲエ・シンガーのそれを彷彿とさせる。“Let It Go” は深みのあるダビーなソウル・ナンバーで、サックスやドラムの即興的な演奏は南ロンドンのジャズらしい。レゲエやダブ・カルチャーと密接に結びついていたマッシヴ・アタックやスミス&マイティーなど、ブリストル・サウンドやトリップ・ホップと近似する部分も見いだせる楽曲だ。


Joe Armon-Jones
All The Quiet (Part 1) / All The Quiet (Part 2)

Aquarii / ビート

 リリースとしては春から夏にかけてだが、ジョー・アーモン・ジョーンズが『All The Quiet』をパート1と2に分けてリリースした。ジョー・アーモン・ジョーンズは自身のレーベルの〈アクエリー〉を2021年にリリースしてから、ジャズよりもほかの音楽的要素の強い作品をリリースする傾向があり、2024年にリリースした「Wrong Side Of Town」「Ceasefire」「Sorrow」という一連の12インチEPは、完全なレゲエ/ダブ集というべきものだった。『All The Quiet』についてはジャズ・ファンク、アフロ、ソウル、ブロークンビーツ、ヒップホップなど雑多な要素が結びついたジョー・アーモン・ジョーンズらしいアルバムであるが、やはり彼の音楽的基盤のひとつであるレゲエやダブの要素も入っている。

 演奏メンバーは全てクレジットされていないが、ヌバイア・ガルシアオスカー・ジェロームといったいつも演奏を共にするメンバーが参加。そして、ウー・ルー、ヤスミン・レイシー、グリーンティー・ペン、ハク・ベイカー、アシェバー、ゴヤ・グンバニらがシンガーとして参加。このなかでハク・ベイカー、アシェバー、ゴヤ・グンバニはアフロ・レゲエやラガマフィン系の歌を持ち味とする人たちだ。ハク・ベイカーをフィーチャーしたパート2の “Acknowledgement Is Key” はディープなテイストのジャズ・ファンクで、ジョー・アーモン・ジョーンズの鍵盤演奏も往年のウェルドン・アーヴィンを彷彿とさせる。楽曲全体にダビーなミックスが施されており、後半のハク・ベイカーの歌はナイヤビンギのようにラスタファリの思想に満ちている。スピリチュアリズムという点ではルーツ・レゲエに通じる作品と言えよう。
 アシェバーをフィーチャーしたパート1の “Kingfisher” は、ブロークンビーツ調のリズムとアシェバーの開放感に満ちたヴォーカルが結びついて、ジャマイカン・ジャズというかカリビアン・ジャズとでも言うような作品となっている。パート1の “Lifetones” は1980年代初頭のポスト・パンク~ニューウェイヴの時代に活動した幻のエレクトロニック・ダブ・ユニットで、近年再評価が進むライフトーンズに捧げた楽曲だろうか。ほかの曲においても大々的にレゲエのモチーフはなくとも、メロディの断片にその片鱗が見られたり、ダブ・ミックスの手法を用いるなど、ジョー・アーモン・ジョーンズにとってのレゲエ/ダブの影響が随所に感じられるアルバムだ。


Ebi Soda
Frank Dean And Andrew

Tru Thoughts

 ブライトン出身のエビ・ソーダも、リーダーのウィル・イートンがトロンボーン奏者ということもあり、ジャズやジャズ・ファンクとレゲエ/ダブを折衷した音楽を一貫してやっているバンドだ。アルバムは2022年にセカンド・アルバムの『Honk If You’re Sad』をリリースしているが、ゲストにヤズ・アーメッドを迎え、重低音の効いたリズム・セクションとホーン群の情熱的な演奏にエレクトロニクスを交え、全体的にはダビーな空間構成がなされた作品だった。そうしたダブの影響下にあるサウンドと、サイケやクラウトロック、ニューウェイヴの要素も交えた混沌とした世界も楽しめるところもあったわけだが、それから3年ぶりの新作『Frank Dean And Andrew』が完成した。

 今回は今まで以上にダブの要素が強い作品集だ。“Bamboo” というタイトルや、中国とベトナムのハーフである英国人ラッパーのジアンボをフィーチャーした “Red In Tokyo” など、日本や東洋に馴染みのある曲が並んでいるが、その “Bamboo” はダビーなサウンド・エフェクトを交えたメロウなジャズ・ファンク。どっしりと低音を支えるリズム・セクション、メランコリックなメロディや空間構築、低音のトロンボーンやトランペットなどの管楽器のアンサンブルなど、全てにおいてダブからの影響が強い楽曲だ。“When Pluto Was A Planet And Everything Was Cool” はダブステップ調のビートを持つダークな楽曲で、リチャード・スペイヴンゴーゴー・ペンギンなどにも通じる。クラブ・サウンドも柔軟に取り入れるエビ・ソーダらしい楽曲だ。“Horticulturalists Nightmare” はサイケデリックで前衛的な側面も持つ楽曲だが、リズム構成やミックスなどにおいてやはりダブの影響が強い。“Grilly” や “Toucan” についても言えるのだが、今作は演奏はもちろんのこと、ことさらミックスにおいてダブの手法が大々的に用いられている点が特徴と言えるだろう。


Nat Birchall
Liberated Sounds

Na-Bi

 マンチェスター出身のナット・バーチャルはキャリア的にはベテランに属するサックス奏者で、ジョン・コルトレーンファラオ・サンダースの系譜に属するプレイヤーである。彼のずっと後輩にあたるマシュー・ハルソールがそのサックスに惚れ込み、自身のバンドで演奏してもらって数々のアルバムをレコーディングしたほか、ナット・バーチャルもマシューが主宰する〈ゴンドワナ〉からリーダー作品を数枚リリースしている。それらは基本的にシリアスなモード・ジャズ、スピリチュアル・ジャズと呼ぶべき作品集だが、一方でブレッドウィナーズというレゲエ/ダブ・バンドを組むプロデューサーのアル・ブレッドウィナーや、スカタライツのドン・ドラモンドの息子であるヴィン・ゴードンなどとコラボして、完全なレゲエ/ダブのアルバムもリリースしている。それもアルバム1枚というわけではなく、数枚のアルバムやダブ・ミックス・アルバム、7インチ、12インチに渡る数々のリリースがあるので、ナット・バーチャルは相当レゲエやダブに入れ込んでいるのだろう。

 新作の『Liberated Sounds』はアル・ブレッドウィナーやヴィン・ゴードンなどの力を借りることなく、すべての楽器演奏(サックス、フルート、ベース、ドラムス、ピアノ、キーボード、ギター、パーカッションなど)とプロデュース、ミックス、レコーディング、マスタリングなど全ての業務をナット・バーチャルただひとりでおこなっている。表題曲の “Liberated Sounds” を筆頭に、1960年代後半にジャマイカからイギリスに渡って広まったスカにインスパイアされたアルバムである。なかでもドン・ドラモンド、トミー・マコック、ローランド・アルフォンソ、レスター・スターリング、ババ・ブルックス、デイジー・ムーア、ロイド・ブレベット、アーネスト・ラングリン、ジャッキー・ミットゥー、ロイド・ニブ、ドラムバゴなどに対するオマージュとナット自身が述べているのだが、こうした面々の名前が上がるところから、彼がいかにジャマイカ音楽に対して知識や愛情を持っているかが伺い知れる。こうしたミュージシャンの多くはもともとジャズ・ミュージシャンで、プリンス・バスターズ・オールスターズ、スカタライツ、ババ・ブルクス・バンド、キング・エドワーズ・グループといったバンドで演奏してきた。そこにはジャマイカにおけるジャズとレゲエの関係性があり、ナット・バーチャルもそこを理解した上で、ジャズなりレゲエやスカなりを演奏していることがわかる。

Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

COLUMNS