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interview with GoGo Penguin

ジャズの枠組みに収まらない3人組、これまでのイメージを覆す最新作

――ゴーゴー・ペンギン、インタヴュー

interview with GoGo Penguin

ジャズの文脈のなかで、クラシック音楽やエレクトロニック・ミュージックのアイディアをとりいれてきた生演奏トリオ、その新作はヴォーカリストを招くなど、これまでにない方向性を模索している。

取材・序文:小川充 written by Mitsuru Ogawa    通訳:丸山京子 interpretation by Kyoko Maruyama
photo by Mark Gregson
Jun 27,2025 UP

 UKの新世代ジャズを代表するゴーゴー・ペンギン。クリス・イリングワース(ピアノ)、ニック・ブラッカ(ベース)、ロブ・ターナー(ドラムス)というピアノ・トリオ形式の彼らは、通常のジャズの枠では括り切れない存在だ。「アコースティック・エレクトロニカ・トリオ」とも評される彼らは、これまでのピアノ・トリオの概念を変えるスタイルで、クラシックや現代音楽はもとより、テクノ、ドラムンベース、ダブステップ、エレクトロニカといったクラブ・ミュージックの要素や概念を演奏や作曲に取り入れており、アプローチとしてはエレクトロニック・サウンドをアコースティックな生演奏で表現しているとも言える。2018年に『A Humdrum Star』リリース後の来日ツアー時に取材した際は、「あくまで演奏の軸となるのはアコースティック楽器。僕らのスタイルであるアコースティック楽器で演奏するエレクトロニック・ミュージックというのに変わりはない」と発言していた。

 そんなゴーゴー・ペンギンだが、2020年に自身の名を冠した『GoGo Penguin』を発表した後、世界はコロナ禍に見舞われる。そして、2021年にドラマーがロブ・ターナーからジョン・スコットへと交替し、2015年から契約を結んできた〈ブルーノート〉から離れることになった。そうして2023年に新生ゴーゴー・ペンギンは、〈ソニー・マスターワークス〉傘下の新レーベル〈XXIM〉から第1弾アルバム『Everything Is Going To Be OK』を発表し、コロナのために長らく封印されてきたワールド・ツアーも再開する。精力的にツアーをおこなうなか、2023年のフジ・ロック・フェスティバル出演をはじめ、日本でも何度か公演をおこなってきた。2024年には地元マンチェスターでのスタジオ・ライヴを収めた『From the North: Live in Manchester』をリリースし、スタジオ録音による音源がライヴでさらに変化や進化を遂げているところも見せてくれた。そして、このたびスタジオ録音盤としては2年ぶりのニュー・アルバム『Necessary Fictions』が発表された。あくまでアコースティック楽器によるトリオ演奏にこだわってきた彼らだが、今回はシンガーなどゲスト・ミュージシャンとの共演があるなど、いろいろと変化が見られる。もちろん3人の演奏という核となる部分はそのままに、新たに挑戦しているところも見られるアルバムだ。そんなところを含め、マンチェスターの自宅にいるクリス・イリングワースとニック・ブラッカに話を訊いた。

ゴーゴー・ペンギンはピアノ・トリオというとらえ方をされることもあるんだけど、実際にはそんなことはなくて、3人が平等な関係にあるグループなんだ。(クリス・イリングワース)

今回のele-kingのインタヴューは、2018年の『A Humdrum Star』リリース後の来日ツアー時に取材して以来となりますが、この7年間でバンドにはいろいろと変化がありました。2021年から2023年にかけてとなりますが、ドラマーがオリジナル・メンバーのロブ・ターナーからジョン・スコットへ交替し、〈ブルーノート〉から〈XXIM〉へ移籍しました。コロナ禍やパンデミックによる社会の変化にも重なっていたと思いますが、この頃バンドには何らかの変革があったのでしょうか?

ニック・ブラッカ(以下、NB):確かに、そのとき起こっていることは人間わからないものだし、バンドに限らず人って日々ゆっくり成長したり、変化しているじゃないか。だから後で振り返ったとき、こんなにも変わったんだなって思うんであって、その真っただ中にいるときは変化に気づかないものだったりする。でも、言われたとおりに『A Humdrum Star』の後にコロナになって、コロナ以前と以降で世界が変わったし、個人的にも変わったところがあったと思う。それはドラマーが新しくなったりとかもあるけれど、いま変化を経た後、とってもいい場所に自分たちはいるなと思っている。

レーベルの移籍について掘り下げると、〈ブルーノート〉はジャズ専門レーベルで、一方〈XXIM〉はもっと幅広く音楽全般を扱うなかで、特にポスト・クラシカルなどに強いレーベルというイメージがあります。そうしたレーベル・カラー的なものがバンドの方向性に繋がったところはあったりするのでしょうか?

クリス・イリングワース(以下、CI):う~ん、それはどうかな……最初〈ブルーノート〉と契約したときはすごく誇らしいことだったし、大きなレーベルだったから自分たちにとって大事件だったけど、でも音楽的にはこういったものを作れというようなプレッシャーをかけられることは一切なくて、自分たちのやりたいようにさせてくれた。ただ、確かに〈ブルーノート〉と言えば世界を代表するジャズ・レーベルだから、自分たちのなかで知らず知らずのうちにそれに見合ったものを作らなきゃというようなプレッシャーをかけてしまっていたのかもしれないけどね。そして、〈XXIM〉に移ったからといって、自分たちがポスト・クラシカルなものをやっているかといえば、そうじゃないと思う。自分たちにはロックとか、ドラムンベースとか、もっとエレクトロニックなサウンドとか、そういった影響もあったりするわけで。何をするにしても、レーベルは100パーセントの力で我々をサポートしてくれて、やりたいことをやっていいと言ってくれてるから、本当に自由にできているんだ。バンドって僕ら3人だけじゃなく、マネージャーやレーベルなどを含めたチームだと思っているから、そのチームの全員がそれぞれの役割を果たしているんだ。日本だとレーベルは〈ソニー・ミュージック〉になるんだけど、世界中をツアーとかで回るときも、そうした各国のレーベルが僕らをサポートしてくれているからね。

ロブからジョンへのドラマーの交代は、バンドのサウンド面での変化をもたらしましたか?

CI:人間関係ってつねに動いたり、変化したりするものだと思うんだ。音楽に対する考え方だったり、もしくは仕事への取り組み方だったりとかに変化や違いが出てくることがあるんだけど、バンドを続けていくなかで僕とニックはより絆が深まっていって、一方ロブは離れることになってしまった。ゴーゴー・ペンギンは僕とニックによってある程度できあがっていた部分があるけど、そこに新たにジョンという個人が入ってきた。彼は僕らと音楽への考えや向き合い方をシェアできる人物だと思う。ゴーゴー・ペンギンは僕がピアニストということもあって、ピアノ・トリオというとらえ方をされることもあるんだけど、実際にはそんなことはなくて、3人が平等な関係にあるグループなんだ。グループによっては、メインがいて自分はサポート的な立場でいいと満足するミュージシャンがいたりする場合もあるけど、ジョンは決してそうではなくて、バンドの同じ3分の1を担うミュージシャンなんだという意識で挑んでくれる。一緒にやり始めて4年が経つけれど、もっとそれ以上に長くやっているような気にさせてくれるんだ。僕とニックの間には阿吽の呼吸みたいなものがあるけど、ジョンはそれを理解しようと努めるだけじゃなく、その上に新たなアイデアを出してくれることもあって楽しいんだ。僕ら3人は兄弟とか家族のように一緒にいて居心地のいい関係を築けていて、今後もさらにいいものになっていくんじゃないか楽しみだよ。

年をとるとこれまで辿ってきた道を振り返ることが増える。それは感傷的になってノスタルジーに浸るのではなくて、自分がこれまでやってきたことは一体何だったのだろう? 不要なものがあったのではないか? それは捨ててしまうべきではないだろうか? そんなことを考える時期で。(ニック・ブラッカ)

ここからは新作についていろいろ話を伺います。まず抽象的なタイトルの『Necessary Fictions』について、ニックのセルフ・ライナーでは「私たちができる限りオープンで正真正銘の人間であろうと努力し、幼少期に身につけた保護マスクを脱ぎ捨てることを意味している」と述べていますが、今回のアルバムには自身の振り返りや客観視があったということでしょうか? “Umbra” や “The Truth Within” など、自我や自身の内面を探求するような楽曲が多く見られるわけですが。

NB:直接的には『Middle Passage』という本を読んだことがヒントになっている。人が年をとって中年に差し掛かってきたころに感じることが書かれていて、たとえば若いときは先のこと、次のことばかり考えるものだけれど、年をとるとこれまで辿ってきた道を振り返ることが増える。それは感傷的になってノスタルジーに浸るのではなくて、自分がこれまでやってきたことは一体何だったのだろう? 不要なものがあったのではないか? それは捨ててしまうべきではないだろうか? ……などと自分も含めてそんなことを考える時期にきていて、それを『Necessary Fictions』という言葉に託した。そしてバンドに当てはめると、ある曲を書いて、これまでとは全然異なるタイプの曲ができたときに、周りのオーディエンスはそれを一体どう考えるだろうか? いままでと違い過ぎて受け入れられないんじゃないか? と頭に過ることがあるかもしれない。でもそうではなくて、いま自分たちが本当にやりたいこと、進むべき道を歩むことこそが大切だと思っていて、それが『Necessary Fictions』なのだと。

『Middle Passage』は誰かのエッセイ、もしくは何か心理学に関する本ですか?

NB:ジェイムス・ホリスという心理療法士の本だ。僕の妻も心理療法士で、彼女にもこの本をリコメンドしてあげたよ。僕はいろいろなことに興味があって、心理学もそのひとつなんだけど、毎週いろいろな本を推薦してくれるニュースレターに登録していて、そこからこの本を見つけたんだ。こうした具合に頭の中、心の中をいろいろな角度から読み解いていくことがとても好きなんだ。

いままでにない新しいタイプの曲によって人々が混乱するんじゃないかと仰いましたが、『Necessary Fictions』は “What We are and What We Are Meant to Be” という曲が象徴するように、過去のゴーゴー・ペンギンと現在の自分たちを対比させ、新たな世界を生み出していく姿勢が見られるのではないかと思います。その最たる例が “Forgive the Damages” で、ゴーゴー・ペンギンにとって初めてシンガーとコラボした楽曲となっています。フォーキーなムードの素晴らしい作品となっていて、これまでのゴーゴー・ペンギンのイメージを覆すものとなっていますが、どのような意図でこの曲を作りましたか?

CI:ヴォーカルを入れたり、シンガーとコラボすることは、ずっと昔から考えてはいたんだ。実際に他の人やシンガーの側からオファーを受けたこともある。そうした際には、僕らの音楽にとってそれが必要なものなら、必然性のあることなら考えるよと返事はしてきた。そうして、その必要がないままいまに至っていたんだ。今回 “Forgive the Dameges” の原型となる曲を書いたときには、ヴォーカル曲を作ろうと思ってスタートしたのではないんだ。ただオープンでまっさらの状態から始めたんだけど、作っていくなかで強く感情を揺さぶられるものが芽生えてきて、インストのままだと何かひとつ物足りないなと思うようになった。じゃあ何を入れようかってなったとき、最初はフィールド・レコーディング的に人の声や会話、ノイズを入れようとした。でも何か違う。次にスポークンワードを入れてみたけど、これもちょっと違う。じゃあ、ヴォーカルを試してみようかということで、やってみたんだ。だから、最初からヴォーカル曲を作ろうとしたんではなくて、いろいろと紆余曲折を経てできた曲なんだ。

NB:ヴォーカルのダウディは昔からの友人で、いまはスロヴァキアに住んでいるんだけど、昨年たまたまマンチェスターに来る用事があったから、そのタイミングでレコーディングに呼んだんだ。その日はマンチェスターにしては珍しく天気が良くて、スタジオにある庭でお茶を飲んで、アルバムの話とか、さっき言った心理学の本の話をしてあげた。曲のデモを彼に聴いてもらったら、歌詞を作って歌ってくれて、そうやってレコーディングしたんだ。

人間が住む場所や環境は人間にとってとても大事なものだし、僕らもツアーなどから家族や友人のいるマンチェスターに戻ってきて、いまの自分がいるのはこのホームあってのものなんだということを実感する。(ニック・ブラッカ)

ダウディ・マツィコはウガンダ人の両親を持つシンガー・ソングライターで、あなたたちとマネージャーが共通するポルティコ・カルテットのサポート・アクトを彼が務めていたときに知り合ったそうですね。彼が持つダークなムードは、ロンドンのアルファ・ミストが作るヴォーカル作品にも通じるイメージがあります。

NB:うん、わかるよ。

『Necessary Fictions』にはほかのアーティストとのコラボがいくつかあって、室内音楽楽団のマンチェスター・コレクティヴやヴァイオリン奏者のラーキ・シンと共演しています。その “Louminous Giants” や “State of Flux” では、彼らの奏でるストリングスがこれまた新たな化学反応を起こしているわけですが、こうしたストリングスとの共演はいかがでしたか?

CI:ゴーゴー・ペンギンのパートの録音は全て終わって、その録音素材を持ってストリングス用の録音スタジオへ行ったんだ。これまではつねに自分たちはスタジオで演奏して、録音していたけれど、こうした別録音は初めてのことだったよ。スタジオで自分たちの演奏が流れ、それを別のミュージシャンたちが聴いてストリングスをアレンジし、演奏していく光景を見るのはとても奇妙な感覚で面白かったよ。マンチェスター・コレクティヴはヴァイオリン4本、ヴィオラ2本、チェロ2本の8名で、ストリングス・セクションとしては小ぶりなんだけど、スタジオではとても大がかりに演奏していて、僕らの音楽がどんどん大きなものへ変化していくのが感じられた。ラーキも素晴らしいミュージシャンで、彼女ならではの個性を持つ人だよ。彼女のアンサンブルのリードの仕方がとても上手で、ゴーゴー・ペンギンにおける3人のコミュニケーションの取り方と、彼女やマンチェスター・コレクティヴのコミュニケーションの取り方はある種似ているところがあるなと感じられた。そして、僕たちの音楽を彼女たちが楽しんで演奏してくれていたこともとても嬉しかったね。音楽を通じて僕らと彼女たちが何かコネクトできた瞬間だったと思う。今回のコラボは僕たちにとってとても有益なもので、新たな可能性を示してくれた。今後もまたやるかもしれないけど、3人でやるスタイルに戻るかもしれない。いずれにしても選択肢はいろいろあって、自由なんだ。

アルバムのアートワークに用いられた写真はマンチェスターのファロウフィールドにあるトーストラックと呼ばれるビルで、ニックが撮影した写真をもとにクリスがデザインしているそうですね。このアートワークは楽曲の “Fallowfield Loops” にも繋がっていて、この曲はいまでは廃線となってサイクリングロードに用いられるマンチェスターの古い鉄道線路跡を示しています。極めてダンサブルな仕上がりとなったこの曲は、アルバム制作における最初期に作られたということですが、あなたたちがここに込めた思いを教えてもらえますか?

NB:僕とクリスはマンチェスターに近いヨークシャー出身だけど、10代のときにマンチェスターに来て以来ずっと住んでいて、もう生まれ故郷より長く住んでいるから親しみがある。もちろん市政などいろいろ問題があるのも事実だけど、大好きな町であることに変わりはない。だからアルバムを作る際に、ちょっとした敬意を表する意味でマンチェスターについて触れるのは悪いことじゃない。人間が住む場所や環境は人間にとってとても大事なものだし、僕らもツアーなどから家族や友人のいるマンチェスターに戻ってきて、いまの自分がいるのはこのホームあってのものなんだということを実感する。トーストラックは1950年代末から1960年に建てられた古いビルで、いまは廃墟となって使われていないけれど、いまもそこにそのまま残されている。マンチェスターの町並みはいろいろ変わってきているけど、トーストラックはずっと変わらずにあり続けているんだ。見た目もちょっとユニークな感じで、一種のランドマークと言えるかな。僕も日課のランニングでその前を走るんだけど、いつも面白いしいいなと思うんだ。

クリス、ニック、ジョンという3人の組み合わせがゴーゴー・ペンギンで、たまたまそれがピアノ、ベース、ドラムをやっているということ。だから、あるときその楽器が変わることがあるかもしれない。(クリス・イリングワース)

今回のアルバムはエレクトロニクスの比重がさらに増した印象です。たとえば電子的なノイズを背景とした “Background Hiss Reminds Me of Rain”、アコースティックに始まりながら、中盤以降はシンセを多用して大きく変貌する “Naga Ghost”、その逆のパターンの “Silence Speaks” などがその代表ですが、こうした方向性の楽曲には新生ゴーゴー・ペンギンの姿が表われているのでしょうか?

CI:今後こうしたエレクトリックな作品が多くなるのかどうかは、もしかしたらそうなるのかもしれないけど、いまはオプションのひとつだとしか言えないかな。アルバムは発売されたばかりで、実際のライヴでは一度も演奏していないからね。今年の末くらいからアメリカ、カナダ、ヨーロッパ、そしてできれば日本、中国、オーストラリアなどをツアーしていくことになるけど、そこで演奏していくことで曲はどんどんとまた変わっていくと思うから、いまの段階で今後の方向性について言及することはできない。ひとつ言えるのは、これらの楽曲が自分たちの新しい扉を開けてくれたことは間違いないことだし、エレクトロニクスを使うことを自分たちはとても楽しんでできた。でも次のアルバムを作るときには、ひょっとしたらアコースティックに戻ってるかもしれないし、全く違う新たな楽器を使っているかもしれない。極論するならゴーゴー・ペンギンの本質はピアノ、ベース、ドラムという楽器の編成じゃないと思うんだ。クリス、ニック、ジョンという3人の組み合わせがゴーゴー・ペンギンで、たまたまそれがピアノ、ベース、ドラムをやっているということ。だから、あるときその楽器が変わることがあるかもしれない。僕はもともとクラシックを学んできたから言うけど、クラシックの作曲家はオーケストラのために曲を書くことがあれば、小さな弦楽アンサンブルのために書くこともある。でも、そうした異なる用途の楽曲でも、その作曲家の色や個性は同じなんだ。ゴーゴー・ペンギンもそうだと思っていて、アウトプットは違っても、その根底にあるものは変わらないと思うんだ。

“Background Hiss Reminds Me of Rain” に関してですが、東京都現代美術館で開催された坂本龍一の展覧会に行って、そこで受けたインスピレーションを絡めながらコメントしていますね。坂本龍一から受けた感銘や影響についてお聞かせください。

CI:僕らは坂本龍一の大ファンで、残念ながら生のライヴを観る機会はなかったんだけど、展覧会では教授が実際にピアノを弾いているかのようなインスタレーション展示もされていて、本当のライヴに近い体験もできた。“Background Hiss Reminds Me of Rain” については僕が家でシンセをいじりながら書いた曲で、それを携帯で録音してニックに聴かせたところ、音質があまりよくなかったから「まるでヒス音(シューッというような人工的な雑音)が雨音みたいだね」と彼が言って、それがタイトルになっているんだ。そのヒス音が音楽へと生成されていくというのは、ある種教授の作品に通じるところもあるんじゃないかなと僕は思っている。教授は水とか雨など自然の音を作品に効果的に取り入れて、彼の音楽からは自然そのものを感じられることがいろいろとある。彼のドキュメンタリー・フィルムでも、「耳を澄ませば世の中にはいろいろな音があることを感じられる」というようなことを言っていて、自分にとってとても腑に落ちる言葉だった。そうしたセンスは僕たちにも通じるものだと思う。

“Float” はニックが学校卒業後に海外旅行をしているなか、1年ほど滞在したタイのバンコクで見た祭りの風景がモチーフになっているそうですね。タイでは現地のミュージシャンたちとセッションし、ジャズを演奏していたとも聞きますが、文化や生活様式などいろいろ影響を受けたところもあるのでしょうか?

NB:僕の年齢がわかっちゃうかもしれないけど(笑)、大昔にガールフレンドと、いまの妻のことだけど、タイに住んでいて、本当に大好きな国だったね……食べ物もおいしかったし。“Float” のモチーフになったのはローイクラトンという水の神に捧げるお祭りで、バナナの葉で作った船にお供え物を乗せて、灯篭流しのように川へ流してお祈りをするんだ。“Float” を作曲しているころ、ちょうどこのローイクラトンについてのドキュメンタリー映像を観ることがあって、タイで暮らしているころを思い出しながら作ったんだ。僕自身は昔を振り返って曲を作ることはあまり多くはないんだけれど、この曲に関してはそうしたノスタルジーがいい具合にかみ合ったと思うよ。

タイに関連してですが、“Naga Ghosts” という言葉もタイでは蛇や龍の神々を指しているようですが、そうしたものをイメージしているのですか?

CI:いや、チリペッパーソースのことを指しているんだ。僕らは辛いもの好きだからね(笑)。

ええ、そうなんですか? “Naga Ghosts” の意味がわからなくていろいろ調べたところ、いま話したタイの神々の意味が出てきたので、てっきりそうかと。

CI:それは面白いね(笑)。

NB:うん、そうした意味があることは知っていたけれどね。僕らの曲はどちらかと言えばユングとかそうした心理学に関連するシリアスなタイトルをつけることもあるけれど、人生はそればかりじゃなくて、楽しいこともいっぱいあるわけだから(笑)。今回は深く考えずに好きなものをタイトルにしたんだよ。

取材・序文:小川充 written by Mitsuru Ogawa(2025年6月27日)

Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

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