Home > Reviews > Album Reviews > GoGo Penguin- Necessary Fictions
クラシックを背景に持ちつつも最先端のエレクトロニック・ミュージックを指向するような。あるいは、ミニマル・ミュージックを影響源としながらも、ダンス・ミュージックとしても十全に機能するような。マンチェスターのピアノ・トリオ、ゴーゴー・ペンギンの新作『ネセサリー・フィクションズ』は、複数のジャンルを貫通するハイブリッドの所産と言っていいだろう。
2023年の『エヴリシング・イズ・ゴーイング・トゥ・ビーOK』で新ドラマーのジョン・スコットを迎え、〈ブルーノート〉からベルリン拠点のレーベル〈XXIM Records〉に移籍。フジロックにも出演した彼らは、屈強なライヴ・バンドとしてもならし、日本のfox capture planと並び、コンテンポラリー・ジャズの新しい領野を切り拓いてきたピアノ・トリオとしてシーンに屹立してきた。
冒頭2曲から惹きこまれる。“Umbra”“Fallowfield Loops”では重厚でヘヴィな音色のウッドベースが、執拗な反復により聴き手を深い酩酊へと誘う。特に後者は曲名の通りループ構造が露わになっている。冒頭で反復されるのはおそらくプリペアド・ピアノだろう。琴のようにも聞こえるし、エイフェックス・ツインの『アンビエント・ワークス』を連想する人もいるに違いない。
地鳴りのような低音が強調される“What We Are and What We Are Meant to Be”は彼らなりのベース・ミュージックといった趣きで、ダブの要素もある。人力ディレイとでもいうべきか、スネアのリムショットを巧みに重ね合わせて残響を現出させているところなど、とびきりユニークだ。雨音とヒスノイズが交差する“Background Hiss Reminds Me of Rain5”は彼らなりのアンビエントとでも言うべきトラックである。
“Living Bricks in Dead Mortar”はスローでダークなトリップ・ホップ風だし、“Naga Ghost”はドラムンベースのニュアンスがある。全体的にメランコリックな空気が際立ち、泣きのメロディが支配しているのも特徴だ。ヴァイオリンが主旋律をリードする“Luminous Giants”などにその傾向が顕著である。
かように多用な要素が交錯するアルバムだが、ぶっといウッドベースがその重心を支える背骨の役割を果たしている。普通ジャズのピアノ・トリオというと、リズム隊が底辺を支え、そのうえでピアノが自由にソロを取るというイメージを抱きがちだが、彼らはまったく違う。ウッドベースが中軸をなし、ピアノはその上にのっかり、ドラムは軸を補強する。ビートを先導するのもウッドベースである。
2021年の『GGP RMX』では、コーネリアスやスクエアプッシャーや808ステイトが彼らの曲をリミックスしていたが、同作は既に彼らの音楽の〝踊れる〟側面を浮き彫りにしていた。その発展形として、このアルバムがあると言えるだろう。ダンサブルでありながら、人力ならではのオーガニックな感触は損なわれていない。こんなアルバム、ゴーゴー・ペンギンにしか作れないだろう。
土佐有明