Home > Interviews > interview with Ego Ella May - ジャズとネオ・ソウルの邂逅
ヴォーカリストであると同時に楽器演奏からトラック・メイキングまでこなすエゴ・エラ・メイは、これまで多くのUKジャズの才能たちと共演してきた。ジャズとネオ・ソウルのあいだを行き来する優美な音楽をぜひ。
サウス・ロンドン出身の注目の女性シンガー・ソングライターのエゴ・エラ・メイ。ナイジェリアにルーツを持つ彼女は、歌と同時にギター演奏からトラック制作もおこなうマルチな才能を有しており、ジャズとネオ・ソウルをミックスしたような音楽性のなかで、オーガニックな質感とエレクトリックな要素もブレンドしている。2019年のファースト・アルバム『So Far』、2020年のセカンド・アルバム『Honey For Wounds』では、ジャズ系を中心にサウス・ロンドンを拠点とするミュージシャンとも多く共演してきたが、そんなエゴ・エラ・メイの新作『Good Intentions』のリリースにあわせ、これまでの歩みからニュー・アルバムに至る話を訊いた。
※編注:エゴ・エラ・メイの略歴と新作『Good Intentions』のレヴューはこちら。
ニーナ・シモンにはすごく心を動かされたし、特にリリックの面で大きな影響を受けた。彼女の曲にはレジスタンスをテーマにしたものも多くて、日常のなかで実際に起きていることや、葛藤について書くという姿勢にすごくインスパイアされた。
■あなたはサウス・ロンドンのクロイドン出身ですが、両親はアフリカのナイジェリアからの移民ですね。あなたが音楽をやるにあたって、そうしたルーツからの影響はありますか?
エゴ・エラ・メイ(以下、EEM): どちらも大きく影響している。ナイジェリアにルーツがあることは、自分の音楽のサウンドにも確実に影響しているし、ナイジェリアの音楽についてもっと知っていくことも、自分にとってすごく大事なことだと感じている。それから、食文化も自分のなかではとても大きな要素で、そういう部分も含めて、人としての自分を形作ってきたと思う。一方で、サウス・ロンドンで育ったこともすごく大きくて、そこで出会った人たちやミュージシャンたちが、いまの自分の音楽を作っていると言っていいと思う。もしサウス・ロンドンのミュージシャンたちと出会っていなかったら、どんな音楽をやっていたのか想像がつかないくらい(笑)。みんなで一緒に時間を過ごして、最初はただ純粋に音楽を作ること自体を楽しんでいたし、気づけば周りには素晴らしいミュージシャンたちがたくさんいて、そういう環境のなかで育ってきたことが、自分のサウンドにも、人としての自分にも大きく影響していると思う。
■ちなみにあなたの名前はジャズ・シンガーのエラ・フィッツジェラルドから取られたそうですね。父親がジャズ好きだったからとのことで、その影響でジャズやゴスペルなどに親しんできたそうですが、どんなアーティストが好きでしたか?
EEM:最初に聴いたジャズ・ヴォーカリストはやっぱりエラ・フィッツジェラルドだったと思う。自分の名前の由来でもあるし、自然と最初に触れる存在だった。そこからビリー・ホリデイやサラ・ヴォーン、ニーナ・シモンへと聴いていくようになっていって。なかでもニーナ・シモンにはすごく心を動かされたし、特にリリックの面で大きな影響を受けた。彼女の曲にはレジスタンスをテーマにしたものも多くて、日常のなかで実際に起きていることや、葛藤について書くという姿勢にすごくインスパイアされた。たんなるラヴ・ソングだけじゃなくて、もっと厳しい現実や深いテーマに向き合った曲も多くて、そこもすごく魅力的だったし、声のトーンも本当に素晴らしい。だからニーナ・シモンは自分にとってとても大きな存在だった。ジャズやジャズ・ヴォーカルは、自分にとって最初の “初恋の音楽” という感じ。また、ゴスペル音楽にも強く影響を受けている。自分の曲のなかでも、聖歌隊のコーラスが歌っているような響きがあると思うけど、それは私自身が教会で育って、聖歌隊やゴスペルに囲まれてきたことが大きいと思う。いまでもゴスペルを聴くと強く心を動かされるし、たくさんの声がひとつになって祈るように響くあの感覚は、本当に力強くて大好き。
■19歳の頃から独学でギターをマスターし、そしてビートメイクも習得して自身で音楽を作るようになりました。そして、ロンドンのICPM(The Institute of Contemporary Music Performance)に進学し、本格的に音楽を学ぶと同時に音楽仲間のコネクションを広げていくわけですが、ギター演奏や音楽制作において参考にしたアーティスト、歌を歌うことに関して影響を受けたシンガーなどありますか?
EEM:ギターに関しては、やっぱりエイミー・ワインハウス、コリーヌ・ベイリー・レイ、インディア・アリー、それからローリン・ヒルが大きい。みんな本当に素晴らしいミュージシャンで、しかもギターの腕もすごい。彼女たちを見ていると、「自分にもできるかもしれない」と思えた。ヴォーカルだけじゃなくて、ちゃんとしたミュージシャンとして、自分で曲を書いて、自分で伴奏しながら表現できるんだと気づいた。そういう意味で、彼女たちは間違いなく自分に影響を与えてくれた存在。ヴォーカルについては、さっきも言ったように、ジャズ・ヴォーカリストの影響が大きくて、すごく惹かれるものがあった。ジャズって本当に自由に表現できるジャンルで、とくにスキャットなんかは、まるでトランペットになったみたいに声を使ったりして、とにかく楽しいの。すごく解放感があって、表現の幅も広くて、声を探っていくことができるジャンルだと思う。そういうところが本当に好き。
■制作面ではどうですか?参考にしている人はいますか?
EEM:制作に関しては、じつは最初に影響を受けたのは友だちなの。エマヴィ(Emmavie)っていうんだけど、彼女も本当に素晴らしいミュージシャンよ。シンガーでもあるし、ときどきラップもするし、プロデューサーでもある。ヴォーカルのプロダクションについても彼女から影響を受けていて、Logic Proの使い方を教えてくれたのも彼女だった。本当にすごいプロデューサーで、正直に言うと、いちばん影響を受けたのは彼女かもしれない。だからエマヴィには感謝している。
■2013年に自主制作となるEPの『The Tree』を発表してデビューし、その後も2014年に『Breathing Underwater』、2015年に『Zero』をリリースしてキャリアを積んでいきました。この頃のあなたのサウンドはオーガニックなネオ・ソウルとジャズの折衷的なスタイルで、そこにエレクトリックな要素もブレンドしたものでした。それはいまでも変わらずあなたのスタイルとなっているわけですが、こうした自身のサウンドはどのようにして形作られるようになったのでしょう?
EEM:かなりいろいろ試していくなかで形になっていったと思う。その頃はまだ自分のサウンドが何なのか探っている段階だったから、ちょっとクセのあるビートだったり、トラックのなかでいろんなことをやってみたりしていた。とくに当時のハーモニーは、いま振り返るとかなり自由というか、まとまりきっていない部分も多かったと思う。とにかく試しながら録音して、それをSoundCloudにアップして反応を見ていた感じだった。まだ誰にも知られていなかったからこそ、思い切って実験できたし、そういう環境のなかであのサウンドができていったんだと思う。当時はミニ・D(Mini D)っていうプロデューサーと一緒にやっていて、本名はダニエルなんだけど、ふたりでスタジオに入って、とにかくやってみようという感じで制作していた。彼は本当に優れたプロデューサーで、彼のビートのスタイルが、自分がその上でやることにも影響していたと思う。彼のビートはある程度完成された状態で出来上がっていたから、そのうえでどう表現するかという作業になっていて、プロデューサーと一緒に作ると、どうしてもすでにある枠のなかでやることになる部分もある。でもその分、自分もそのトラックのなかでできることを最大限やろうとしていたし、「自分はこういうことができる」というのを見せたかったところもあった。そういう意味で、自分のサウンドはかなり彼の影響も受けていたと思う。もうだいぶ前のことだけど、最初はダニエルと一緒に、とにかく実験しながら作っていったのが出発点だったと思う。
■当時のメディアは、あなたについてUSのムーンチャイルドを引き合いに出しているところもあれば、同じUKでは前述のコリーヌ・ベイリー・レイほか、ローラ・マヴーラ、リアン・ラ・ハヴァスといったシンガー・ソングライターたちの枠で評論するところもありました。また、USのネオ・ソウルの源流であるエリカ・バドゥの影響が見られるのは当然ながら、私の意見ではアコースティックなジャズやソウルとエレクトリックなサウンドとのバランスでは、UKのファティマやヤスミン・レイシーなどのスタンスが近いのかなとも思います。あなた自身はこうしたアーティストたちについて何かシンパシーを感じたり、影響を受けたところはありますか? または、彼らとは異なるということであっても構いませんが。
EEM:たしかに音楽のなかに共通点は感じると思う。たぶん、みんな同じようなアーティストを聴いて、影響を受けているのよ(笑)。それにヤスミンとはすごく長い付き合いで、彼女のやっていることも本当に好き。むしろ影響も受けていると思うし、本当に素晴らしいアーティストだと思っている。すごく正直な表現をする人だし、リリックも大好きだし、声のトーンも本当に独特で魅力的だと思う。だから、もし似ている部分があるとすれば、それはやっぱり共通して影響を受けているアーティストがいるからだと思うし、普段聴いている音楽にも共通点が多いからなんじゃないかな。
ナイジェリアの作家たちに意識的にフォーカスしていて、彼女たちがどんなふうに物事を描写しているのか、どう物語を語っているのかをすごく大切にした。
■2019年にファースト・アルバムの『So Far』をリリースします。このアルバムではいろいろなプロデューサーとコラボしていて、そのなかにはウー・ルー(Wu-Lu)もいます。じつは彼とは最新作でもコラボしているわけなのですが、どのようにして共演するに至ったのでしょう?
EEM:最初のきっかけは、ウー・ルーがブリクストン出身だったことからだったと思う。ブリクストンはサウス・ロンドンにあって、どうやって知り合ったか正確には思い出せないんだけど、もともとは元彼を通じて知り合ったの。当時、ライヴをやるためにバンドを作ろうと思っていて、元彼がキーボードを弾いていたんだけど、その頃ウー・ルーはベーシストとしていろんなバンドで演奏しながら、自分の音楽も作っていた。元彼と彼はすごく仲が良かったから、「ウー・ルーっていう人がいるんだけど、一緒にやってみたらどう?」って紹介してくれたの。それで出会ったときは、彼は主にベーシストとして知られていて、ロウ・マテリアルっていう彼が働いていた場所というか音楽プラットフォームでセッションをよく主催していた。そこにたくさんのミュージシャンやシンガーが集まって、みんなで演奏していた。そういう場所で一緒に演奏するようになって、関係が始まった感じかな。彼は自分にとって最初のバンド・メンバーでもあったし、一緒に音楽も作っていた。それから12年くらい経って、またこうして一緒に音楽を作れているのは本当に素晴らしいこと。最新作では “What We Do” をプロデュースしてくれていて、この曲はアルバムからの最初のシングルでもあるんだけど、とても楽しい曲になっている。こうして振り返ると、ほとんどすべてのプロジェクトに彼が関わってくれているのも、本当にうれしいことね。
■2020年のセカンド・アルバム『Honey For Wounds』では、ジャズ・ミュージシャンとのコラボが目につき、アルファ・ミスト、ジョー・アーモン・ジョーンズ、オスカー・ジェローム、エディ・ヒック、アシュリー・ヘンリー、シオ・クローカーらと共演しています。シオ・クローカーを除いてサウス・ロンドンを中心としたジャズ・シーンで活躍する面々です。同時にあなたはジョー・アーモン・ジョーンズほか、ブルー・ラブ・ビーツ、ヘクター・プリマー、スクリムシャーなどのアルバムにも参加しています。また、サウス・ロンドン勢が集まった〈ブルーノート〉の企画『Blue Note Re:imagined』にも参加しています。改めてとなりますが、あなたとサウス・ロンドン・シーンとの結びつきについて伺えますか?
EEM:私とサウス・ロンドン・シーンには深い結びつきが間違いなくあると思うし、本当に恵まれていることだと感じている。いまでは「サウス・ロンドンのジャズ・シーン」なんて呼ばれているけど、当時は本当に、音楽業界に入りたてのミュージシャンたちが、ただ演奏したくて集まっていたっていう感じだけだったの。それで、「あっちでセッションがあるらしいよ、行こう」とか、「ここで何かやるみたいだから参加しよう」とか、そういう流れで自然とみんな集まっていった。そういうなかでお互いに知り合っていった感じ。それがすごく楽しくて、いまでもその一員でいられるのは本当にうれしいことだと思う。それからすごくいいなと思うのは、いまでもお互いのプロジェクトに関わり続けているところで、みんながいまでも声をかけ合っているというか、そういうコミュニティとしてのつながりがすごく大切だと思っているし、誇りにも思っている。できればこの関係がずっと続いてほしいとも思っている。たとえば『Honey for Wounds』に収録されている “Table for One” ではジョー・アーモン・ジョーンズがキーボードを弾いてくれていて、そのあと彼が「自分のアルバムでバック・ヴォーカルをお願いできる?」って声をかけてくれたりして。そういうふうに、「じゃあ今度は私がやるね」っていうやりとりが自然に生まれている。みんな同じネットワークのなかにいるからこそできることでもあるし、お互いの才能をこうやって分かち合えるのは、本当に素敵なことだと思う。
■『Honey For Wounds』ではアフロ・ジャズ・バンドのヌビヤン・ツイストのリーダーであるトム・エクセルがプロデューサーとして参加していて、逆にあなたがヌビヤン・ツイストのアルバムに参加したこともありました。彼とあなたは結びつきが強いようで、最新アルバム『Good Intentions』では主要なプロデューサーとしてコラボしています。彼はどんなプロデューサー/ミュージシャンで、『Good Intentions』のコラボにおいてはどんなイメージで臨みましたか?
EEM:彼は本当に、音楽性がまったく別次元というか、すごい人。私がトムに「こういう音にしたい」って説明するとき、けっこう支離滅裂になってしまうこともあるんだけど、それでも彼はちゃんと理解してくれるの。私の言っていることがどんなに曖昧でも、それを受け取ってくれる。それだけ私のことをわかってくれているということだと思う。それって、一緒に過ごしてきた時間の長さや、信頼関係があるからこそで、あまり多くを言葉にしなくても、お互いに理解できる関係なんだと思う。さっきも話したように、同じ人たちと長く一緒にやってきたのは、まさにそういう関係性を築くためでもあって、お互いに弱さを見せ合えるような関係ができている。アルファ・ミストやウー・ルーとの関係も同じで、いまではもう、あまり言葉にしなくても通じる部分がある。それってすごく特別なことだと思う。それに、お互いのプロジェクトに参加し合っているというのもあって、私はヌビヤン・ツイストの作品にも参加しているし、彼も私のアルバムに参加してくれている。そういうコミュニティとしての関係が、トムとの間にもある。本当に素晴らしいアーティストだと思うし、彼は私に対して、「私はただのシンガーじゃない」ということを気づかせてくれる存在でもある。プロダクションや音楽的な部分にも自分の意見を持っていいんだと感じさせてくれるし、自分のアイデアをもっと広げていくことを後押ししてくれる人でもある。だから彼にはすごく感謝している。
■『Good Intentions』は話に上ったトム・エクセル、ウー・ルー、アルファ・ミストのほか、ヤスミン・レイシーを手掛けるプロデューサーのメロー・ゼッドたちとコラボし、シンガーのロージー・ロウやマルチ・プレイヤーのアマネ・スガナミらが参加しいます。こうして多彩な面々とコラボすることにより、これまで以上にヴァラエティに富んだ作品集となった印象ですが、意図的にあなたの多様な側面を表現しているのでしょうか?
EEM:もともと、自分のいろんな側面を表現したいという気持ちはずっとあって、このアルバムはそれを実現するのにすごくいい機会だったと思う。もっと広がっていけるというか、いろんなミュージシャンと一緒に制作してみたいと思っていたし、もっと自由に実験してみたかった。このアルバムのテーマはまさにそこにあって、何かに縛られるような感覚は持ちたくなかった。ひとつの枠のなかに収めるのではなくて、とにかく自由に、ただ音楽を楽しみながら作っていきたいという気持ちが大きかった。
■ずばり “Footwork” という曲があったり、アフロとブロークンビーツが融合したようなリズムの “What You Waiting For”、1990年代初頭のアシッド・ジャズ風とも言える “What We Do” など、ダンサブルでグルーヴィーな曲が多いのも本作の特徴かと思いますが、そのあたりは何か意識するところはあったのですか?
EEM:意識したとも言えるし、そこまでしていないとも言えるかな。このアルバムではたしかにいろんなサウンドの幅を持たせたいとは思っていたし、スタイルの違う曲を入れたいという気持ちはあった。でも最初から「こういう作品にしよう」と決めていたわけではなくて、単純に「やってみたい」という気持ちがあっただけだった。もし合わなかったり、うまくいかなかったらアルバムに入れなければいいだけだし、でも試してみることで、自分がそういうスタイルでどう表現できるのかを知ることはできるから。結果的にはそれがちゃんと形になったんだけど、根本には自分らしさがあると思う。ただ、少し違う方向に踏み込んでみた、という感じなのかな。うまく言えないけど、そんな感覚。
■一方で、“We’re Not Free” や “Tarot” はあなた本来のオーガニックなテイストが出たアコースティック・ソウルですし、“Hold On” はジャズとソウルのちょうど中間的な楽曲です。“Back To Sea” や “Good Intentions” はギターの弾き語りによるフォーキーな楽曲で、“Love is a Heavy Thing” は往年のジャズ・シンガーのペギー・リーのようなコケティッシュな魅力の歌が印象的です。これらの楽曲ではあなたのシンガーとしての魅力が一段と深みを増しているように感じますが、あなた自身ではこれまでの作品から進化したのはどのような点だと思いますか?
EEM:自分としては、シンガーとしては確実に成長してきていると思うし、そうであってほしいとも思っている。時間も経っているし、歌う機会も増えてきたなかで、自分の声をよりコントロールできるようになってきたと感じている。とくにテクニックの面ではそうで、というか、テクニックを探求しているというよりは、「ちゃんとテクニックというものがあるんだ」と実感できるようになってきたという感じかな(笑)。2013年の頃や、2020年、2022年の自分と比べても、いまの方が確実に強いシンガーになれていると思うし、それが目指しているところでもある。歌い手としての自分を磨いていくことが大事だと思っているから、今回のアルバムではヴォーカル面でもしっかり自分を押し広げたいと思っていた。ただ同時に、完璧なものにはしたくなかったという気持ちもあった。ジャズ・ヴォーカリストたちの録音って、同じ部屋でライヴで録って、その一発で終わり、みたいなものが多いと思うんだけど、そういう空気感がすごく好きなの。だから何テイクも録って編集で整えるようなことはしたくなくて、できるだけ自然なままのヴォーカルにしたかった。後から聴き返して「もう少しこうできたかも」と思う部分があったとしても、その不完全さも含めていいなと思っているし、それも自分にとっては意図的なことだった。
■“Pot Luck Baby” はチャールズ・ステップニーがプロデュースしたロータリー・コネクションを思わせる楽曲です。あなたの歌もミニー・リパートンを彷彿とさせるところがあって、そこにエリカ・バドゥのようなフレージングもミックスしているように思うのですが、いかがですか?
EEM:そうかもしれない。実際ミニー・リパートンやエリカ・バドゥからはすごく影響を受けているから、その要素が自然と出ているのかもしれない。ただ、この曲を作っているときに、あのふたりを具体的に意識していたわけではなかった。でも、あのトラックの雰囲気もあって、レコーディングしているときに無意識のうちにそういうシンガーたちの感覚が浮かんできていた可能性はあると思う。
■アルバムのインフォ・シートには、あなたが愛読する作家たち――Chimamanda Ngozi Adichie、Patti Smith、Chinua Achebe、Ayobami Adebayo、Joan Didion――からも影響を受けて形作られている、とあります。パンク・ロックにも多大な影響を与えた詩人/ミュージシャンのパティ・スミスと、1960年代の米国カウンター・カルチャーを代表する作家のジョーン・ディディオンというアメリカ人を除いてナイジェリアの作家で、なかでチママンダ・ンゴズィ・アディーチェとアヨバミ・アデバヨは年代的にも同時代の女性作家と言えます。どのような影響を受けて『Good Intentions』は作られたのでしょうか?
EEM:とくに同時代のナイジェリアの女性作家たちの作品はたくさん読んでいて、それがこのアルバムにも影響していると思う。彼女たちの書く物語には、自分自身の歴史のようなものを感じる部分があって、すごく強く影響を受けているからこそ、その流れのなかに自分の声も加えたいと思ったというか、その世界を自分なりに引き継いでいきたいという気持ちがあった。だからナイジェリアの作家たちに意識的にフォーカスしていて、彼女たちがどんなふうに物事を描写しているのか、どう物語を語っているのかをすごく大切にした。そういう意味で、自分もその会話の一部になりたいと思っていたし、同時に彼女たちの素晴らしさをもっと広く伝えたいという気持ちもあった。そういう影響を受けながら、自分もいつか優れた書き手になれたらいいなと思っている。だからこそ、こういう形になったんだと思う。
質問・序文:小川充 Mitsuru Ogawa(2026年4月15日)
小川充/Mitsuru Ogawa