ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第二回 ボブ・ディランは苦悩しない
  2. Lawrence English - Even The Horizon Knows Its Bounds | ローレンス・イングリッシュ
  3. 別冊ele-king ゲーム音楽の最前線
  4. The Murder Capital - Blindness | ザ・マーダー・キャピタル
  5. interview with Acidclank (Yota Mori) トランス&モジュラー・シンセ ──アシッドクランク、インタヴュー
  6. Columns ♯11:パンダ・ベアの新作を聴きながら、彼の功績を振り返ってみよう
  7. Shinichi Atobe - Discipline | シンイチ・アトベ
  8. Columns 2月のジャズ Jazz in February 2025
  9. R.I.P. Roy Ayers 追悼:ロイ・エアーズ
  10. interview with DARKSIDE (Nicolás Jaar) ニコラス・ジャー、3人組になったダークサイドの現在を語る
  11. Richard Dawson - End of the Middle | リチャード・ドーソン
  12. interview with Elliot Galvin エリオット・ガルヴィンはUKジャズの新しい方向性を切り拓いている
  13. Bon Iver ──ボン・イヴェール、6年ぶりのアルバムがリリース
  14. Arthur Russell ——アーサー・ラッセル、なんと80年代半ばのライヴ音源がリリースされる
  15. Meitei ——冥丁の『小町』が初CD化、アナログ盤もリイシュー
  16. Horsegirl - Phonetics On and On | ホースガール
  17. Soundwalk Collective & Patti Smith ──「MODE 2025」はパティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴのコラボレーション
  18. 三田 格
  19. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ
  20. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第一回:イギリス人は悪ノリがお好き(日本人はもっと好き)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Tribe- Rebirth

Tribe

Tribe

Rebirth

Planet E / P-Vine

Amazon

野田 努   Nov 18,2009 UP

 〈トライブ〉とは、1970年代のデトロイトを駆け抜けたアンダーグラウンド・ジャズ・レーベルかつその集団名で、イギリスでは1996年に〈ソウル・ジャズ〉がリイシュー盤を発表し、日本では2005年に〈Pヴァイン〉が全カタログを再発している。その音楽はポスト・シヴィルライツ/ポスト・マーティン・ルーサー・キングの流れにおけるスピリチュアル・ジャズで、同時代のサン・ラー、NYの〈ストラタ・イースト〉、LAの〈ブラック・ジャズ〉、あるいはシカゴの〈AACM 〉(←タイヨンダイの親父さんが在籍していたチーム)、セイントルイスの〈BAG〉らと同じように"アフリカ系の自立"と"共同体意識"に基づいた音楽だ。70年代的なファンクのセンスがポスト・コルトレーン的スピリチュアル・ジャズに注がれている。70年代のデトロイトといえば、ポスト・ライオットの10年であり、街に廃墟化していった10年だ。もっとも大変な時期に、〈トライブ〉なるインディー・ジャズ・レーベルは活動していたことになる。

 さすがにマイク・バンクスはこの年配のジャズ集団を知っていたし、そしてカール・クレイグにいたっては2003年のザ・デトロイト・エクスペリメント・プロジェクトにおいてトライブのトランペッターだったマーカス・ベルグレイヴを招いて、彼の曲"スペース・オデッセイ"をカヴァーしている。続けてクレイグは、〈プラネット・E〉傘下にジャズを専門としたサブレーベル〈Community Projects〉を設けて、2007年と2008年にトライブのシングルを発表している。そして、昨年発表したクレイグの「Live in Paris」でトライブの創設者のひとり、ウェンデル・ハリソン(サックス奏者)が演奏しているように、デトロイト・テクノと70年代のスピリチュアル・ジャズとの仲はいまでは実に親密だ。こうしてデトロイトの伝説的ジャズメンは、クレイグのプロデュースのもとで再集結し、レコーディングしたのである。録音には2年を費やしたという。

 カール・クレイグはあくまでプロデューサーだ。ザ・デトロイト・エクスペリメントとは立場が違っている。とはいえ彼はシンセサイザーを弾き、あるいはこの老練たちの音楽にモダンなビート感を与えている。アンドレス(KDJからのリリースで知られる)もコンガを叩ているが、これがまた効果的で、心地よさを与えている。浅沼優子さんが『waxpoetics』でやった取材によると、クレイグは「ただファンキーなジャズ・レコードを作りたかった」そうで、実際にこの音楽は彼がこれまで関わったジャズ・プロジェクト、インナーゾーン・オーケストラやザ・デトロイト・エクスペリメントなどと比較すると、ずいぶんと親しみやすいサウンドとなっている。実験性を表に出すことなく、むしろ1曲目の""Livin In A New Day"(2007年のシングル曲)のようなおおらかさがアルバムを貫いている。目新しさはないけれど、デトロイトという美しいコミュニティから生まれた美しい音楽で、そのリラックスしたムードが作品の最大の魅力となっている。

野田 努