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Andres

Andres

II

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野田 努   Jan 27,2010 UP
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E王

 アンドレス――この名義ではムーディーマンの〈KDJ〉からデビューして2003年には最初のアルバムを発表(あるいは3チェアーズやセオ・パリッシュ作品への参加、ムーズ&グルーヴスからのリリース)、そしてDJデズの名義ではUR傘下の〈ヒプノテック〉からのリリースやスラム・ヴィレッジへの参加などなど、地味ながらキーパーソンたちとしっかり仕事をしているのがアンドレスで――なにせジェイ・ディラからケニー・ディクソン・ジュニア、マイク・バンクスまでなのだから――彼のセカンド・アルバム『II』は、そうした彼の見事な活動領域が鮮やかな形で表出した、まったく素晴らしい作品となった。ハウス、テクノ、ヒップホップ、あるいはジャズやソウル、あるいはアフロやラテン、それらがミックスされたアンダーグラウンド・ブラック・ダンス・ミュージックにおける蜂蜜のようなアルバムである。

 ブラック・ミュージック特有の、都会で暮らす人間の日々の感覚とエモーション――温かい午後の会話から孤独な夜の空しさ、街への愛憎、夢と生活、家族と恋人、人生の歓喜と絶望、それらのデリケートな起伏......そういったものから生まれる音を好む耳とハートを持っている人は、この音楽に逆らえないだろう。アメリカにおける過酷な格差社会と日本の殺伐としたそれとはまた趣が違っているように思うのだけれど、持たざる者による美学という言い方がもし許されるなら、僕はこの音楽にそれを見る。僕はいまでもこういう音楽を聴いているといろんなことを思い出すことができるのだ。貧困ではあるがなんとか互いに助け合おうとして成り立っている社会(コミュニティ)というもののことを。

 喋るだけ、ないしは喋って踊るだけ(まったくラップとダンス)。夕暮れになると家の玄関先の階段にみんな出てきて、子供や母親や老人たちは喋っているだけなのだ。そこに男がいるとしたら職のない男で、冷やかされながら笑っているだけで、それはモダニズムの名残であるとかポスト・フォーディズムの犠牲者とかそんなものではなく、僕は彼らの精神構造のなかに何かそうした経済的な逆境のなかでも笑っていられる"逞しいゆとり"のようなものを感じ取ってきたのだ。日本で言うところの"ゆるい"という言葉とは違った、もっと深いところの"ゆるさ"。それを強いて意訳するなら、「私たちはたまたま仕方なく、諸事情があって、こうして資本主義とつき合ってやっているだけなのだ」という感覚のようにも思える。それがディアスポラってものだろう。

 田中宗一郎によれば『SNOOZER』のコンセプトは「こんがらがった少年少女のため」だそうだが、ブラック・ミュージックは娘も父親も一緒に聴く音楽だ。スタイルがいくら変わっても"変わってゆく同じもの"がそこにはある。"同じもの"とは言うもまでもなく、マイケル・ジャクソンにもケニー・ディクソン・ジュニアにもフライング・ロータスにも偏在するものである。アフリカ・バンバータがパパとママのレコード棚から音楽を作ったことは、決して偶然ではない。だいたい......ラジオからスラム・ヴィレッジの"テインティッド"が流れると、オヤジも子供もみんな歌い出すあの瞬間に居合わせてしまうと......。話がどんどん大きくなりそうなので、このあたりで止めておこう。アンドレスの音楽には自分が経験してきたデトロイトの最良の部分が凝縮されている。

 アルバムはアフリカン・パーカッションで幕を開ける。2曲目は素晴らしいベースラインを持つファンキーなハウス(キーボードはアンプ・フィドラーの)、そしてドープでソウフルなダウンテンポへと展開。4曲目のディープ・ハウスではケニー・ディクソン・ジュニアが煙を吸い込んだ声をナメクジのような絡みを加える。女性DJであるミンクスのターンテーブルさばきを挟んで6曲目以降は甘美なブラック・ソウルの時間がはじまる。スキットがあり、DJデズ(アンドレス)がその素晴らしいスクラッチのスキルを披露する曲もある。ラッパーも登場する。エレクトロもアフロもラテンも、ぜんぶある。なにせCDには30曲が収録されている。長くて4分、だいたい1分から2分、だから細切れに、歯切れ良くアルバムは展開する。

 アンダーグラウンドな"大衆音楽"――まるでデトロイトのラジオ番組を聴いているようだ。気分が良い。

野田 努