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三田 格   Mar 08,2013 UP

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 東京の夜は昼のように明るく、そのために電気代も......という話がよくでる。ヨーロッパの夜は確かに暗い。大通りへ出てもシックな茶色の街灯がポツリポツリと並ぶだけ。落ち着くし、静けさが染み渡っていくように感じられる。しかし、ヨーロッパの夜は9時を過ぎるまではかなり明るく、朝が遅いということもないので、要するに夜といえる時間帯は日本よりもかなり短い。つまり、危険な時間帯も無限に感じられるほど長くはないし、フィツジェラルドが『夜はやさし』と感じるモーメントも(日本人の感覚からいえば)あっさりとしたものだということになる。東京の夜が明るすぎるのは、それが長すぎたからであったのかもしれないし(別に原発推進派じゃないッスよ)、逆に夜という時間帯がどれだけ愛おしいものになるかもそれぞれの地域によって異なるのかもしれない。かつて忌野清志郎は「夜しか歌詞を書かない」と話していた。〈ナイト・スラッグス〉=夜のナメクジたちは、きっと今夜もぐにゃりぶにゃりと奇妙なダンスを踊っていることだろう。

 ここ10年で大量のカセットやRをリリースし、バーニング・スター・コアの後期にライヴ用のサポート・メンバーとして参加したマイク・シフレットによる正規6作目。これまでのノイズ・ドローンから一転してアンビエント・ドローンへ反転し、それこそ夜を追い求め、その優しさに同化しようとしているようなテクスチャーが立ち並ぶ。初雪が舞ってきたような"アシンプトーツ(漸近線)"から弛緩したムードが入り混じるようになり、後半は適度な緊張感を維持しつつも柔らかなギター・ドローンとの拮抗点が探られていく。"インチング(寸動)"で完全にメディテイション・ミュージックへと発展した流れはクロージングで混沌とした側面を取り戻すものの、その表情はやはりかつてのノイズ・ドローンとはかなり隔たりがある。〈タイプ〉からの『サッファラーズ』や『マーシレス』では通奏低音のようにして認められたクラシカルな手法も見事に消え去り、どの角度からも不安を煽るようなことはない。バーニング・スター・コアが徹底した動なら、『聖歌隊、軍隊』と題されたアルバムは完全な静。外に向かって放たれていたエナジーは、いま、回収される時期に来たのかもしれない。

 古くはタレンテルやバーン・オウルからブラザー・レイヴンモーション・シックネス・オブ・タイム・トラヴェルイマジナリー・ソフトウェア、ニガー・ウイズ・ギターズにザ・スレイヴス(紙エレキング8号P33)、kplrや最近ではなぜかイタロ-ディスコじみていたディスカヴァラーなど錚々たるリリースを重ねてきた〈ディジタリス〉を主催し、先ごろ、自分ではもうレコーディングをしないと宣言したブラッド・ローズ(ザ・ノース・シー)のアンビエント・プロジェクト、シャーラタンにもそのような面は濃厚に漂っている(もしかするとラスト・アルバムとなる『アイソレイタリウム』にはそれまでの路線には収まらない側面もあって、これ以上の創作行為がないのはさすがにもったいないような......)。〈アギーレ〉から再リリースされたファースト・アルバム『イキノックス』に較べると、たおやかでしっとりとしたシンセサイザーのうねりはまったく姿を消し、かつては光のなかを歩むようだった雰囲気も闇のしじまへと分け入っていくようなもどかしいニュアンスへとモード・チェンジ。"コーデックス"以下の全6曲は迷子になっていることを楽しんでいるような曲ばかりとなり、その多様性を随時、確認していると、想像力は闇のほうが広げやすいのかなーと。

 ある朝、「夜、どこにあった?」と、かつて仲井戸麗市は嘆いていたことがある。ヨーロッパに較べればかなり長い夜も、彼にはまだまだ足りないらしい。これを書いている午前6時現在、僕も同じようなことは感じざるを得ない。もう少しで外が白みはじめる頃合である。ブラム・ストーカーがドラキュラを生み出したのは歴史的にはオスマン・トルコが恐ろしかったからだけど(トルコがなまってドラク→ドラキュ......と変化した)、いつまでも朝になって欲しくないと願うような人たちがドラキュラのあり方を支持したから、これだけ普遍的な存在になったのかもしれない。そう思っていたらエンディングの長~い"ターミナル・ゼロ"がドラキュラの体内を血液が駆け巡っているような曲に思えてきた。......またパク・チャヌク監督『渇き』でも観ようかな。

 *     *     *    *     *

 『アイソレイタリウム』のスリーヴ・デザインには誰かさんのようにマスクをしたままの女性があしらわれている。これに関しては、エレキング9号で粉川哲夫氏が興味深い考察を加えてくれる予定です(あくまで予定)。また3月11日には粉川哲夫×三田格の共著『無縁のメディア』もエレキング・ブックスから発売です。学生時代に憧れていた方とまさか共著を出すとは思いませんでした! 人生、なにがあるかわからない~。

三田 格