Home > Reviews > Live Reviews > 少年ナイフ- @秋葉原クラブ・グッドマン
ロックンロールはいつだって、なんて素敵なんだ。60代になってもこの真理は変わらないことはとても幸せなことだと思う。ライヴ・ツアーで世界をまわって過ごす60代のロック・バンドという存在はいまさらめずらしいものではないし、ライヴの最中にそんな “感慨” を噛み締めるなんてこともないのだけれど、それでもそれを感じることに胸が熱くなる瞬間のあるライヴというのもいいものだ。
今年の春には、1981年の結成から40年を(コロナ・パンデミックのために2年遅れて)祝ったイギリスとヨーロッパのライヴ・ツアーを成功させてきた少年ナイフは、「過去を振り返ったこともないし、将来の計画を立てたこともなかった」という、彼女(たち)らしい緩めの時期設定で、少し早い年末ライヴが秋葉原の Club Goodman であった。
フロアの一角には、10年ぶりくらいだという「フリーマーケット」で、ギターや古本や手作りアクセサリーなんかが並んでいる。そういえばいろんな年代物の少年ナイフTシャツを着ている客の率が非常に高い。つられて買いたくなるくらいだ。きっと昔からのファンもいて、半分くらいの年齢に見えるガールズもいるし、人種国籍たぶん幾分バラエティにとむ。そんなこんなで、開演に向かって、ゆっくりじわじわと、とてもあたたかいスペースになっていく。
古い曲と新しい曲がかまうことなく続いていく。こういうことでもまた、時制が少年ナイフ世界のものになっていく。
“Twist Barbie” は30年前の曲だけれど、30年後にフェミニズムの副読本みたいな『バービー』の映画を観た私には、バービーに投影される女の子や元女の子たちの愛の経過というか、愛憎にも似た、あの子どものおもちゃとしては過剰にセクシーな曲線美を持たされた塩ビの質感の、ピンクピンクのバービーハウスを知っていると同時に、その完全無欠なドリームランドですら、自分の老い(死)を見つめてしまったために追放されることになった最新の「バービー物語」も知っていて、そのランドの設定はさながら、寿司やアイスクリームやクッキーやバームクーヘンや、あるいはバイソンやセイウチやカッパやフジツボことなんかを歌い続けてきた少年ナイフの世界がふっと重なったりもする。食べ物や動物のことをロックに載せるこのバンドの、ミラクルでマジカルなワールドの床がやっぱり畳であるとは、最新アルバム『Our Best Place』のジャケットにある通りだし、このライヴでも披露されたその一曲目 “MUJINTO Rock” で紹介される無人島には王も女王も大統領も首相もいない、私を邪魔するものは誰もいない。「電車はありません、飛行機、車はありません、国境はありません、ロック、ロック、無人島ロック」という感じ。少年ナイフの「ロック」は同じ顔の仲間であふれた塩ビの町ではない、「私を邪魔するものは誰も住んでいない(でも動物はきっとたくさんいる)」島でじゃんじゃんかき鳴らされる。
かっこいい。ロック・ツアーをしながら老いていく女が、21世紀にはじゃんじゃん現れるだろう。メンバーが変わったり、また戻ったりしながら、11月に年末ライヴをやったり、にこにこフレンドリーに「私の邪魔をする人はいない」と唯我独尊な世界を描いてみたり、バームクーヘンについて詳細に語ってみたりする、“男性社会” としての近代世界から、自分の「時間」というものを取り戻した、あるいはもともと手放さないでいた、「無人島ですら、自ら王にも女王にもなろうとしない女」のロック・ツアーだと思う。なんて考えてみたら、しかしそれはラストの “Daydream Believer” はそういう世界を、もう一周外からみている人のようにも浮かび上がらせるかのようで、それはもう夢心地の一夜となった。
文:水越真紀