ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Dusty - Dusty & Friends / Commodo - Deep Harbour ft. Alfa Mist / Untold - False Vacuum
  2. interview with Toshimaru Nakamura 世界を魅了する、類い稀なる電子音響 | ──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー
  3. interview with Wendell Harrison 音楽の楽園=デトロイトから、ウェンデル・ハリソンがファラオ・サンダースとサン・ラーの思い出を語る
  4. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  5. Lambchop - Punching the Clown | ラムチョップ
  6. Open Mike Eagle & Kenny Segal - DOOMED! | オープン・マイク・イーグル、ケニー・シーガル
  7. Crack Cloud ──カナダのインディ・バンド、クラック・クラウドの来日公演が決定
  8. interview with Loraine James ロレイン・ジェイムズの“ポップ”な冒険 | ——来日直前インタヴュー
  9. yuu.ten vol.3 ──heykazma主催パーティに石橋英子、Taigen Kawabe+食品まつりらが出演
  10. Cornelius - Refractions | コーネリアス
  11. Fishmans ——京都でフィッシュマンズ写真展とトークイベントのお知らせ
  12. Columns Dennis Bovell デニス・ボーヴェルひさびさの新録は無類のカヴァー集
  13. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  14. Carlos Souffront, PLO Man and 1-Drink ──ファッション・ブランド〈C.E〉が日本で1年ぶりのパーティ
  15. Betty Hammerschlag ——マニア受けしていたZ世代のe-girlシンガーが、実は中年のおじさんだったニュース
  16. 微風ゾーン - The West
  17. Mori Wa Ikiteiru ──森は生きているのアルバム2枚が新たなミックスでリイシュー
  18. interview with Untold 僕はミュージシャンに転職した  | アントールド、インタヴュー、Hemlock、James Blake
  19. interview with HASE-T and Bose パンクからレゲエ/ヒップホップへ、それから30年後の “現代” へ | ──80年代日本ラップ黎明期のリアルな物語をHASE-TとBoseが語る
  20. R.I.P. Miru Shinoda 追悼:篠田ミル

Home >  Reviews >  Album Reviews > Jlin- Akoma

Jlin

ExperimentalFootwork

Jlin

Akoma

Planet Mu

Amazon

野田努 Apr 10,2024 UP
E王

 フットワークのすごいところは、この音楽がダンスのためにあり、ダンスという行為から自発的に生まれる創造性に対応すべく進化した点にある。踊っている側が、バトルのためにより複雑な動きを必要とし、音楽がそれに応えたのだ。つまり、あの平均値80bpmのハーフタイムのリズムと160bpmのオフビートでのクラップとハットの高速反復、初期のそれにはいかがわしいヴォーカル・サンプルも追加されるという(その点ではヴェイパーウェイヴとの並列関係にあった)、ああしたフットワークのスタイルは、アートを目指して生まれたものではない。踊るために機能するサウンドとして生まれ、磨かれたということだ。RPブーもDJラシャドもDJスピンも、みんな元々はダンサーである。いや、その源流にあたるゲットー・ハウスの王様、DJファンクだってダンスからはじまっている。「ファック・アート、レッツ・ダンス」とは初期レイヴの有名なスローガンだが、シカゴはそれを一時期の流行ではなく、世界がシカゴに注目しなくなった90年代後半においてもずっと継続していたのだった(デトロイトのゲットーテックとともに、ダンス・ミュージックにおけるダーティな側面の追求)。きっと、いまでもそうなんだと思う。

 ジェイリンは、シカゴのフットワークをインターネットを通じて知ったその外部者のひとりで、インディアナ州ゲイリーを拠点としている。現場とは直接関わっていなかったがゆえにダンサーたちの要求に応える必要もなく、自由な発想ができる立場にいた彼女は、それでも最初は現場の手ほどきを受け、そして自分のアイデアを加えてフットワークを拡張した。そのみごとな成果は、すでに『Dark Energy』や『Black Origami』といった作品として知られている。とくに後者はオウテカの領域にも近づいており、その4次元的なリズム宇宙とテックライフ系のフロアとの架け橋をしているようなアルバムだった。もっともジェイリンのシカゴの現場へのリスペクトにはたいへんなものがあって、彼女はフットワークのAFXにはならないし、彼女の音楽から「レッツ・ダンス」の要素はなくならない。それは今回のアルバムにおいてもっとも話題となったフィリップ・グラスとの共作“The Precision Of Infinity”も証明している。
 この曲で驚くべきは彼女のリズム・トラックだ。もちろん、いままでもそうだったように、単純な反復ではない。フットワークにおけるハーフタイムの構造を活かし、曲は複数回にわたって別のリズムへと展開する。複雑な構造だが、複雑には聴こえないし、ゲットー・ハウスに聴こえる瞬間すらある。ダンス・ミュージックにおけるもっともダーティな側面(からの進化形)とグラスが、どんな経緯があろうとも結果、共鳴しあっているかと思うと、ぼくはついつい微笑んでしまうのだが、良い曲だと思う。クロノス・クァルテットとの共作“Sodalite”も、同じように彼らの旋律の変化に合わせてリズムも変わる。ちなみにジェイリンは、バージニア・ウルフの小説を下地にした映画『めぐりあう時間たち』のサウンドトラックでグラスを好きになったという話だ。
 
 ビョークとの共作は、ジェイリンがすでにホーリー・ハーンドンとの共作を出していることを思えば驚くに値しない。その曲“Borealis”も、グラスとの共作同様にシームレスなリズムの変化が魅力で、これまでの作風がどちらかと言えばヴァーティカル(垂直的)な傾向(つまり、いつどこで聴いてもその曲の魅力はわかる構造)にあったことを思えば、今回はそこにリズムの展開を加えること(つまり、最初から通しで聴いた方がその魅力がわかる構造)が大きなコンセプトになっていると言えそうだ。それから、まあこれは以前からもあった要素だが、“Challenge ”や“Eye Am”など、パーカッシヴな響きの多彩な見せ方も今作の特徴になっている。野心作としてはほかにも、ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器の音をパーカッシヴに使った、抽象的だがリズミックな“Summon”があるが、この実験においてもフットワークの影響が残っている。そう、だから、シカゴではアートではないからこそアートになりえるという逆説が成り立っていると、ジェイリンはそのことをよく理解していた。フットワークとはリズムの音楽で、その可能性/横断性は限りない。というわけで、さあ、レッツ・アート、レッツ・ダンス!

野田努