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Alex Deforce & Charlotte Jacobs

ExperimentalPoetry readingSpoken Word

Alex Deforce & Charlotte Jacobs

Kwart Voor Straks

STROOM.tv

デンシノオト Mar 11,2024 UP

 声と音。言葉と音。その交錯、その融合、その反発、その共存。独自の世界観を持ったアルバム『Kwart Voor Straks』は、それらの問題を考えるヒントが込められていた。非常に批評的な音楽作品であった。
では、このアルバムを作ったのは誰か。ひとりは、ベルギーはブリュッセルにおいて詩人として活動しているアレックス・ディフォースである。もう一人は、ブルックリンのサウンドアーティスト/ボーカリスト シャーロット・ジェイコブである。この二人のコラボレーション・アルバムが本作『Kwart Voor Straks』だ。
 リリースは、ベルギーのエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈STROOM〉からである。この〈STROOM〉は、オランダのニューウェイヴ・バンドW.A.T.の『WORLD ACCORDING TO』の再発、ヴォイス・アクターのアルバムなど、リイシューから新譜まで広くリイシューしている注目のレーベルだ。 
 昨年リリースされたヴォイス・アクターの新作『Fake Sleep』もそうだったが、「声と電子音」のミックスも、このレーベルの方向性なのだろうか。じじつ本作『Kwart Voor Straks』も、アレックスとシャーロット、二人の声によるポエトリーリーディングと独創的でどこか優雅な電子音のミックスによる楽曲によって成立している。
 『Kwart Voor Straks』 のポエトリーリーディングとエレクトロニクスのコンビネーションによるサウンドは、なかなかユニークである。実験的な電子音楽からリズム/ビートを導入したトラックまで変幻自在なサウンドを展開し、そこにアレックスの言葉がレイヤーされ、まるで映画/演劇のサウンドのような音世界を存分に展開しているのだ。
 越境的な音楽・音響作品であり、ある意味では、アレックスとシャーロットによるヴォイス・パフォΩマンスを音源として定着した作品ともいえる。ここで語れている「詩」を理解できる能力を持たな自分としては、本作を(無理を承知で)まずもって声と電子音による「電子音楽作品」として位置付けしたい。

 じっさい声と電子音というのは不思議と相性が良い。有機的なものと無機的なものという対称的なものだからという面もあるだろう。声の持っている「音の肌理」と電子音が放つ「音の肌理」の相性はとても良いように感じるのだ。どちらの「音」のテクスチャーが複雑かつ繊細、かつ強靭という意味で。
 アルバムには全7曲収録されている。1曲目“Kwart Voor Straks (Deel 1) ”では、アレックスによる詩を朗読する「声」がグリッチ状に加工され、そこに透明なシャーロットの歌声に近い「声」が折り重なる。この見事に対称的な音/声は、本作のサウンドを象徴しているように感じられた。声がエディットされ電子音に近くなることで、より物質的な音になるし、なにより「声」の言葉を伝えるという機能性が若干「遅延」するような感覚も生まれ、その「ズレ」の感覚こそ、本作の肝ではないかと思ったのだ。2曲目“Kwart Voor Straks (Deel 2+3)”は曲名からして、1曲目からして連作だが、ミニマルで乾いた音色のピアノに、シャーロットの歌声が折り重なる曲だ。どこかフォーキーな印象があるが、時折、挿入されるアレックスの声/朗読と微かなノイズがレイヤーされていく。
 3曲目“Aeiou”(どうやら日本語モチーフにした言葉らしい)は声と電子音のコラージュ的な楽曲だ。4曲目“Turquoise”は二人の声のコンビネーションに、アトモスフィリックな電子音とどこか古典的な電子音のアルペジオが展開し、どこか映画の1シーンのようなサウンドを展開する曲である。5曲目“Mantra Voor Mikes”も声と電子音のコラージュ的なトラックだ。楽曲前半では実験的なドローン・サウンドに、二人の声による朗読と歌声が交錯し、中盤以降は、分断されたビートのようなサウンドへと変化していく。本作中でも多彩な音楽性が圧縮された曲といえよう。
 6曲目“Umami”(この曲名も日本語由来だという)では、リズムが明瞭化し、ウワモノのシンセがコードを鳴らすにより、さらに「楽曲」的になっていく。二人もユニゾンで朗読すれる。その結果、」「声」と「電子音」が一体化する。アルバムに満ちていた「ズレ」と」「遅延」の感覚が希薄なり、何かが統合されたような、感動的ともいえる躍動感に満ちた曲に仕上がっている。まさにこの曲こそアルバムのクライマックスともいえよう。アルバム最終曲にして7曲目“Dit Gedicht”もアレックスとシャーロットのユニゾンによる朗読に、透明な電子音が重なり、アルバムは終焉を迎えていくだろう……。

 『Kwart Voor Straks』は、電子音はドローン、ノイズ、テクノ、アンビエントと多彩なサウンドを展開しつつ、アレックスとシャーロットの朗読/歌声によって、どこか「アルバム全体でひとつの楽曲」とでもいうような不思議な統一感が生まれている作品だ。
 何より、他にはない独自の世界観に満ちているアルバムなのである。エレクトロニック・ミュージックの形式を包括しつつも、しかし、ジャンル内の方法論のマナーにとらわれることなく、自由に音楽/音響世界を展開している、とでもいうべきか。だからといって破壊的というわけでもない。どこか優雅なのだ。貴族的な実験音楽作品?
 しかし不穏と不安に満ちた現在において、この「優雅さ」はとても貴重とも思う。未聴の方は日常のふとした隙間にこのアルバムを1曲目から聴いてみてほしい。時代の空気から浮遊しているような、エレガントな電子音楽作品とわかるはず。何より声と電子音のエレガントな舞踏のように鳴り響いていることに驚きを感じるはずだ。声と音。歌声と電子音。声とノイズ。有機と無機の交錯。そんな優雅で実験的な音の舞、音の舞曲、それがこの『Kwart Voor Straks』なのである。


デンシノオト