Home > Reviews > Live Reviews > TESTSET- @恵比寿ガーデンホール
TESTSETの曲でいちばん好きなのは “Moneymann” だ。ピキピキときしむ電子音やファンキーなベースがカッコいいのはもちろんなのだけれど、理由はもっと単純で、カネが生み出す関係性やそれが引き起こす状況を歌っているとおぼしきリリックに、日々カネのことばかり考えているぼくはどうしても引きこまれてしまうのだ。さりげなく挿入される日本語の「さりげない さりげない えげつない」には何度聴いてもドキッとさせられる。ほんとに、そうだよね。だから、今回のライヴを迎えるにあたってもこの曲をもっとも楽しみにしていた。
ふだんはフラットな恵比寿ガーデンホールのフロアに段差が設けられ、椅子が用意されている。どうやら着席の公演のようである。にもかかわらず、照明が落とされるやいなや一斉に、オーディエンスのほぼ全員が立ち上がった。まあそりゃそうだろう。ファンクネスあふれるTESTSETの音楽はからだを揺らしながら体験したほうがいいに決まっている。
響きわたる鳥の鳴き声。1発目はアルバム同様、“El Jop”。電子音の反復とギターの残響がいやおうなくこちらのテンションをあげてくる。そして待ち望んでいた曲はすぐにやってきた。印象的なコインの音に導かれ “Moneymann” が走りだす。ステージ後方には株価の変動をあらわしているかのようなグラフ、数値化された世界が映し出されている。ライヴだと一層なまなましさが際立つというか、円安に物価高がつづく今日、この切迫感にはほかのオーディエンスたちもきっとハッとさせられたにちがいない。
あらためて、演者は4人。向かって左から永井聖一(ギター)、LEO今井(ヴォーカル)、砂原良徳(キーボード)、白根賢一(ドラムス)が横一列に並んでいる。背後のスクリーンやメンバーの近くに設置された電光の棒も込みでステージをつくりあげるという点において、TESTSETのライヴはコーネリアスのそれと似ている(今井が動いたりMCを入れたりするところは異なるものの)。つまりはメンバーのキャラクターなり人間性なりにたのまないということで、ようするにテクノだ。ファンクに寄った曲が多いのもなるほど、テクノのルーツのひとつに想いを馳せれば不思議はない。
アルバムとおなじオーダーで4曲が終わると、今井が最初のMCを放つ。「ほぼ全出しセットでまいります」。今年のラスト・ライヴということで、気合いがみなぎっているのが伝わってくる。じっさいこの日は『1STST』から全曲が演奏され、「EP1 TSTST」からもいくつかピックアップされていたように思う。METAFIVEの曲も披露され、TESTSETのファンク・サウンドがMETAFIVEの発展形であることを再確認させられる。
ゆえにもっとも注目すべきは、終盤に差しかかったころに差し挟まれた高橋幸宏のカヴァーだろう。インタヴューで砂原が「いちばん好き」だと発言していた81年のアルバム、『NEUROMANTIC』のオープナーだ。スクリーンには雨の映像が流れている。歌詞をググってみると、たしかに窓を雨が伝っている。「だれかがここにいたはずなのに/痕跡さえもない/ただ顔の記憶だけが」。このバンドの出発点がどこにあったのかを思い出させる、なんともせつない追悼──であると同時にそれは、どこか鎖を断ち切るようなポジティヴな意味合いを含んでいるようにも受けとれる。彼はもういないんだ、と。
MCで今井は「来年はもっとたくさんライヴをやる、新しい曲もつくっていく」と語っていた。もしかしたら、TESTSETがほんとうにはじまるのはこれからなのかもしれない──そんな期待を抱かせてくれる、熱気に満ちた一夜だった。
文:小林拓音