聴いていると耳が忙しくなる音楽、というのがある。いち時期流行った言葉を使えば、要は情報量が多い、ということだが、イルリメの場合、エレクトロからヒップホップ、ハードコアまでをも自由に乗りこなすそのアヴァンな音楽性はもとより、躁的ともいえるラップがそのせわしなさを加速させていた。筆者が初めてイルリメの音楽に出会ったころ、ECDとの共作『2PAC』(2005)、あるいは『www.illreme.com』(2004)のせわしなさを前に、思わずたじろいでしまったことを覚えている。それは、ラップ・ミュージックの人力性におけるひとつの達成だったといまでは思う。
しかし、同作収録の"トリミング"が放った異彩を、私は忘れることはなかった。写真の切出し加工をモチーフに、胸いっぱいの愛を、言葉にも音にも落とし込めないもどかしさを、だからこそ肯定するような、メランコリックなエレクトロ・ポップ。それは紛れもなく、先のディケイドに産み落とされたJ・ポップのひとつのクラシックだった(同曲を『360°SOUNDS』(2010)に再録したイルリメ自身も、相当の感触を得ていたのだろう)。
そして、おそらくは多くの人と同様に、私が彼に対する認識をほぼ完全にあらためるのは、『二階堂和美のアルバム』(2006)での全面的な楽曲提供、プロデュースであった。そこで、私はイルリメを鴨田潤として、覚え直すことになる。
とはいえ、表面的なイメージでしか彼のことを知らない私のような人間からすれば、それは、結ばれるはずのない二点が、隠されたたくさんの補助線で知らぬ間に繋がれてしまったような気がして、いまひとつ納得できないのもまた事実であった。が、それが決して大掛かりなトリックではなかったことが、その後、"トリミング"の変奏ともいえる"さよならに飛び乗れ"(2009)、イルリメが変装を忘れて鴨田潤の楽曲を歌ってしまったような"たれそかれ"(2009)、そして、鴨田潤名義での小細工なしの弾き語りアルバム、『一』(2011)で少しずつ明かされていくことになる。鴨田は、そこで歌っていた。「思い出のあの場所は今も残っているだろうか/明日、春の風が吹いたら/久しぶりに帰ってみようか」"はるいちばん"
そんな風にして、やや無軌道に蛇行しながらも、アッパーなヒップホップから、人懐こいポップスの保守本流へとじょじょに旋回していったイルリメは、本作『(((さらうんど)))』において、新たなキャラクターの獲得を果たしている。彼はイルリメとしても、鴨田潤としても振る舞い、過剰なアッパーさも、対極にある無装飾も、結局は1枚のコインなのだと受け入れ、そのギャップを最高のかたちで埋め合わせているのだ。両者のあいだを取り持つのは、端的には80年代のシティ・ポップであり、シンセサイザーであり、山下達郎のロマンティシズムである。K404とCrystalによるエイティーズ・マナーのプロダクションは、決して作りこまれ過ぎることなく、音のニュアンスが読み取れる程度の干渉にとどまり、クリーントーンで鳴るキーボードやシンセサイザーは、透明度の高いアンビエンスを提供している。
資料なし・目隠しの状態で聴いたとしたら、どの曲も古いアニメ・ソングに思えるほど、言い様によっては馴れ馴れしいまでの親しみを携えている。アルバムのハイライトである高城晶平(cero)との共作"タイムリープでつかまえて"は、時を遡る能力を手に入れ、人生を自由に微調整しながら、だからこそたくさんの人と、そしてかけがえのない"あなた"ともすれ違っていく少女の、二度と訪れることのない夏を描いた『時をかける少女』(細田守監督、2006)に捧げられたかのよう。
ほかにも、すでに配信・公開済みである、本作の名刺代わり"サマータイマー"、もっとも歌謡テイストの強い"冬の刹那"、暖かいアルバムのムードを引き締めるアンビエント・バラード"Gauge Song"、そして、佐野元春の打ち込みカバー、"ジュジュ"(1989)も最高の仕上がりだ。さらには、いまどき珍しいほどに吟味された(であろう)完璧な曲順からは、3人がこのアルバムにかける思いを想像することができる。
また、プロモーション用のCDをこの1ヶ月アイフォーンに忍ばせ、日々の生活のなかで繰り返し聴いていたのだが、ふと、すべての曲のすべての歌詞が無理なく聞き取れることに、驚いた。もちろん、イルリメ時の高速ラップでもその滑舌の良さは際立っていたが、とにかくいち音にいち字、メロディに丁寧に言葉を乗せ、ときに軽いビブラートを利かせながら、きわめて中立的な発声で淡々と歌うこの男を、きっとあなたは知らないと思う。その分、リリックの内容は、リスナーが言葉を無意識に追いかけても決してプロダクションの景観が損なわれない、人工的な、一人称の主語に負荷をかけないフィクショナリー・ポップとなった。
そう、彼ら(((さらうんど)))は、ポップのクラシックスが保証する伝統の半径を一歩も侵していない。全10曲、ランニングタイム40分で駆け抜ける『(((さらうんど)))』は、批判を恐れずいえば、新たなディケイドにおけるポップ・ミュージックとして、なんらスリリングではない。ラディカルさをあらかじめ放棄した、とも言える。それを、居直りや開き直りと切り捨てるのは簡単だ。が、おそらくは彼らが思春期の原体験として持つポップ・ミュージックの残像を、なんとなくいちど、真心でもって直視してみたかった、という気持ちが、私はわからないでもない。
本作は3月7日にリリースされるが、初めて聴く際、隅々にまで調整が行き届いたある種の潔癖さを前に、なにか警戒してしまう人もいるだろう。が、ポップ・メロディに対するこの実直さは、並大抵ではない。言うなればこれは、ポップスの馴れ合いに対する愛ある警告だ。それは、単なるノスタルジー以上の価値を持つ。気付けば繰り返し聴いてしまうよ。なんの皮肉でもなく、『ミュージック・マガジン』では10点でないとおかしいと思うが、内容的にも、過干渉なメッセージがますます氾濫するいま、こうしたポップスの人工性、虚構性は貴重だ。ますますイルリメのことがわからくなったよ。
「CEã€ã¨ä¸€è‡´ã™ã‚‹ã‚‚ã®
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EDDIE PALMIERI
Mi Congo Te Llama
FANIA / US /
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GEOFFREY ORYEMA
Kei Kweyo (Joaquin Joe Claussell Remixes)
WHITE / US /
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DELANO SMITH
Odyssey (LP)
SUSHITECH / GER /
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PUBLIC LOVER
Broken Shape Of You
THESONGSAYS / JPN /
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OMAR S PRESENTS AARON "FIT" SIEGEL FEAT L'RENEE
Tonite
FXHE RECORDS / US /
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DJ SURGELES
Something In The Sky Mix
SOMETHING IN THE SKY / US /
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ROXY MUSIC
Love Is The Drug (Todd Terje Remix) / Avalon (Lindstrom Remix)
VINYL FACTORY / UK /
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以前ワイリーが来日したとき、本人が言葉の壁をひどく重たく感じたという話を関係者から聞いたことがある。なるほどとうなずけはするが、少々意外にも思った。なぜならワイリーは、その音だけでも充分に魅力的だ。
ワイリーの音楽は、その昔は、「エスキービート(ないしはエスキモー)」なる呼称で語られるほど寒々しかった。せっかちな早口ラップとダークなガラージ・ビートによる独特のアーバン・サウンドは、ぞんぶんに尖っていた。そして、それは実に多くの若い世代に影響を与えた。ゴス・トラッドもワイリーがひとつの契機になったと話していたが、ラスティもゾンビーも、あるいはジョーカーも、多くのダブステッパーはワイリーのエスキービートに影響されている。
実際のところいまやグライムの古典とされる2004年の『トレッディン・オン・シン・アイス』、2007年の『プレイタイム・イズ・オーヴァー』の2枚はUKアンダーグラウンドからの奇襲攻撃だった。エスキービートとは、ワイリーが自らのオルターエゴを「エスキーボーイ」と名乗ったことに由来するが、グライムというジャンルを定義したワイリーの発明は、いわば氷点下のmp3によるガラージで、それはジャングルのブレイクビーツのパートをそっくりラップに入れ替えることで生まれる氷のハーフステップだった(たとえば、140bpmの言葉、70bpmのスネア)。
『プレイタイム・イズ・オーヴァー』がリリースされたときワイリーが何をラップしているのかを知りたくて訳してもらったことがある。そこで描かれていたのは、東ロンドンのボウ、縄張りのこと、路上の緊張感、仲間や彼女のこと、あるいは服のブランドのことなど、まあ、僕にはいまひとつピン来るような言葉ではなかったが、これがUKにおいてマイクを通して拡声されればとんでもない騒ぎへと発展するわけだ。グライムのパーティあるところに警察ありとは有名な話である。
とはいえ、ワイリーがシーンの幅広いところから脚光を浴びたのは紛れもなくサウンド面における革新性ゆえだった。当時はオウテカのようなIDMの巨匠までもが「エスキービート」を賛辞したほどで、おそらくワイリーが思っている以上に彼のアートはさまざまな次元で伝播している(ちなみに言っておくと、グライムも立派にベッドルーム・ミュージック)。
ワイリーは、無計画にひたすら作り続ける、野性的なタイプのアーティストである。嗅覚とリズム感、そしてひらめきをもっている、いわば天才型のプロデューサーだ。ハウス路線を展開した2008年の『シー・クリア・ナウ』もUKファンキーの台頭と歩調を合わせていると言えばそうだし、USラップに刺激されながらもUKレイヴ・カルチャーという彼のアイデンティティを明かしている点においても興味深い内容だった。が、自分の性に合ったのはワイリー直系で言えばスケプタ(ボーイ・ベター・ノウ)、もしくはテラー・デンジャー、ガラージ系だったらスティッキーのようなダンスホール寄りな感じ、さもなければ関西在住のCESのミックステープ......そんなところだった。『シー・クリア・ナウ』に収録された4/4ビートのポップ・ダンス"ウェアリング・マイ・ロレックス"はワイリーにとって最初のメインストリームでの商業的成功作となったが、ポップに舵を取ったワイリーに僕はそれ以前までのような魅力を感じなかったのである(これはリアルタイムで聴いてきた人にはわかる話だ)。
『プレイタイム・イズ・オーヴァー』以来4年ぶりの〈ビッグ・ダダ〉からのリリースとなった昨年の『100%パブリッシング』に続いての同レーベルからの本作、『進化するか、さもなければ絶滅させられるか』というタイトルのこれは、Discogsで数えると7枚目となるが、2008年には〈エスキービーツ・レコーディングス〉から『グライム・ウェイヴ』も出しているのでワイリー名義では8枚目......いや、前作『チルアウト・ゾーン』を入れたらワイリー名義としては公式には9枚目だ。しかし、ネットにupされたzipファイル、エスキーボーイ名義を入れたら彼のカタログはさらにもっと増える(本人でさえも過去の自分の作品をすべて覚えていない)。
アルバム・タイトルが言うように、新しいことをやってやろうという意気込みを具現化したのが『イヴォルヴ・オア・ビー・イクスティンクト』だ。CDで2枚組、アナログ盤で3枚組となったこの大作は、彼の多様なビートが詰め込まれている。それはこの2~3年のあいだワイリーから遠ざかっていた僕にとって都合の良いコレクション......というわけでもなかった。
ワイリーの魅力は、5~6年前まではその寒々しさ、路上の緊張感にあった。コンピュータに取り込まれた低容量データの屈折した混合で、プロデュースの行き届いたヒップホップとは対極の、むしろフットワークと共振しうるような、ダンサーさえも戸惑うような少々せっかちな変異体にあった。『イヴォルヴ・オア・ビー・イクスティンクト』は活気のある作品だが、初期のカオスに回帰することはない。ワイリーは、このアルバムでは彼におけるポップ路線を新たなアプローチによって再構築しているように思える。『シー・クリア・ナウ』のときのような4/4ビートによる露骨なポップ・ダンスをやっているわけではない。が、アルバムのリリース前にネットでupされた"ブーム・ブラスト"と"アイム・スカンキング"の2曲、前者はエレクトロ路線で後者はご機嫌なトライバル、前者はスタイリッシュで後者はシンコペーションの効いた リズミックなトラック、どちらもユニークな曲だが耳に入りやすいキャッチーな曲でもある。実際、"ブーム・ブラスト"はものの見事にUKのナショナル・チャートに入ったが、僕はこれはワイリーがヒットを狙ったんじゃないかと思っている。だとしたら、『イヴォルヴ・オア・ビー・イクスティンクト』は無鉄砲なワイリーがいままで以上に練ったアルバムということになる。
この10年でグライムの一流の役者すなわち街の問題児たちは、UKではポップの主役の座をモノにしている。それでもなお、幅広い層へのインパクトという観点で言えば、『ボーイ・オン・ダ・コーナー』と『トレッディン・オン・シン・アイス』の冷淡なカオスを脅かす作品は出ていない(まあ、新世代から出きそうな気配はいまある)。『イヴォルヴ・オア・ビー・イクスティンクト』は、グライムの親玉が『トレッディン・オン・シン・アイス』の高評価に自ら反論するかのような力作である。
気持ちの良さを持ったアルバムだが、ビートの実験も忘れていない。"ブーム・ブラスト"にはワイリーらしい解釈が加えられているし、本作における最高の驚きのひとつ、UKテクノのベテラン、マーク・プリチャードの参加はアルバムに新鮮な活力を与えている。その2曲"スカー"と"マネーマン"にはUKテクノとグライムとの濃密な邂逅がある。前者ではアシッド・ハウスとの、後者はオールスクール・エレクトロとグライムとの溝を埋めている......というのは安直な説明だが、2曲とも真剣に格好いい。
何はともあれ、これぞアーバン、そう、UKアーバン・ミュージックの最良の1枚だ。アルバムにはしっとりとしたR&Bバラードもあれば寸劇もある。タクシーの運転手との喧嘩らしいのだが、言葉がわかるとそれなりにバカバカしくて面白いらしい。かつて薄氷のうえを歩いていたグライムの長老は(といっもまだ33歳だが)、ユーモアも忘れない。
ジョーイ・バートンというフットボーラーがいる。UKでは貧困と犯罪で知られるエリアで育ったミッドフィルダーである。少年時代、親類は殺され、学校には暴力があった。バートンはしかし、彼の才能と努力でイングランド代表にまでになったが、刑務所にも入った。模範生として釈放されると、フットボーラーとして活躍してはまたしても事件を起こし......数々の試練を経ていまも現役の、そして有能なパサーである。ワイリーとは、音楽におけるジョーイ・バートンであるとBBCはたとえている。
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STEVIE WONDER
LATELY-TIMMY REGISFORD & ADAM RIOS REMIXES
TIMMY ADAM / WHITE (US)
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どんな音でも受けて入れてしまえ文:野田 努
カセット・レーベルがこの日本でも増えている。東京の〈コズ・ミー・ペイン〉をはじめ、〈クルックド・テープス〉、そして福岡の〈ダエン〉......〈コズ・ミー・ペイン〉は昨年に欧米進出を果たしつつ、〈クルーエル〉からビューティが12インチをリリースし、〈クルックド・テープス〉はロサンジェルスの〈ノット・ノット・ファン〉などとの協調しながらリリースを重ね、そして福岡の〈ダエン〉はレーベルとしての第二弾を発表した。それが今回の中村弘二によるニャントラ名義の作品。100本の生産らしいが、こうした超限定盤を土台としながら、今日USアンダーグラウンドが盛り上がっていることを思えば、当たり前の話、ちょっと期待してしまう。日本国内でのカセット・テープの生産は終了したというから、それなりに強い気持ちがないと継続はできない。
もっともUSのインディ・レーベルがアナログ盤とカセットのみのフィジカル・リリースに至った理由も、昔は良かった的なノスタルジーというよりも、実利的な観点に立ったときの前向きさにあるんじゃないだろうか。CDでリリースしても勝手にダウンロードされてしまうわけだし、だったら数は少なくなくても買ってもらったほうがいい。ボロ儲けたい人には向かないが、経済活動と芸術活動を両立させるうえではひとつの可能性だと言える。
ここ数年、USのカセット作品を買いまくっていたという中村弘二にとっては、こうしたリリースは望むところだったに違いない。この作品は、アンビエント・テイストが際だっていた過去のニャントラ名義のどの作品とも違っている。作り方としては、ジェームス・フェラーロやOPN、ハイプ・ウィリアムスなんかと近いと思われる。音の断片を集め、それを編集していく。ナカコーらしく、まったくもって感覚的な作品だが、ひとつ思うのは、一時期のトーマス・ケナーのようにこの音楽には多くの静寂があるということだ。ケナーはかつて自分の音楽を「ふだんは聴こえない音を聴く」行為だと定義しているが、ニャントラのカセットもそれと似た謙虚さからはじまる。デヴィッド・リンチの映画のように一瞬だけ暴力的な世界に引きずり込みはするが、すぐにまた柔らかい電子の海へと戻してくれる。
ナカコーらしく、まったくもって感覚的な......と僕は先に書いたが、彼の音楽においてもっとも重要なことは、彼が音に対してオープンであるということである。年を経るごとにどんどん開かれていく。多くの時間を空想に費やすであろう彼だが、部屋に引きこもるだけではなく、彼はアルヴァ・ノトのライヴにも石野卓球のDJにも出かけ、灰野敬二と同時にガムランの響きにも耳を傾ける。彼の鼓膜はつねに好奇心を帯びている、そうだ、どんな音でも受けて入れてしまえ。
本作は、そういう意味では様式(スタイル)を持たない印象的音楽(アンビエント)で、中村弘二の自由の断片を聴くことができる。スーパーカーのファンの期待から逃れながら、販売戦略の文脈には乗らないこの音楽性がカセットで発表されるということも、まあ、微笑ましいと言えば微笑ましい。本当に聴きたければ聴けばいいし、手続きが面倒であるのならそれだけの話。
文:野田 努
[[SplitPage]]素直に楽しめない作品では、あるが...... 文:竹内正太郎
いつかは君と本当の空を飛べたらなぁって、それだけさ
スーパーカー"CREAM SODA"(1997)
本当じゃない空を走る、真っ白なひこうき雲。成熟に対する拒絶と、未熟に対する拒絶を同時に抱えながら、反抗という社会性をなんら帯びなかったそのバンドの思春期は、シューゲイジーなギター・プロダクションと、倦怠をはらんだ歌唱、そして何より、言葉に落とし込まれた過敏な十代の感性によって、世の典型さや平凡さを斜めに断裁しながら、あっという間に過ぎていった。癖になった意味のないため息、うんざりするような馴れ合い、不必要に甲高い連中の笑い声、ありふれた虚栄、虚飾、駆け引き、出し抜き、気持ちの悪い上昇志向、そして、それらをシニカルに見つめる自分の凡庸さ。『スリーアウトチェンジ』(1998)は、およそ十代という罪深い幻の季節を、コンパクト・ディスクの許容値ぎりぎりまで使い、ギター・ロックのエチュードとして録音している。
1995年、青森県八戸市にて結成。どう考えても遅すぎる出会いだったが、私は彼らの解散がアナウンスされた後、初めてその車に乗った。従前のギター・プロダクションにエレクトロニクスが屈託のない表情で交わる『JUMP UP』(1999)は、作品のバランスという点で、彼らの早熟さをもっとも端的に捉えている。ウォーク・スローリー。しかし、この時期のシングルB面で、ドラムンベースの試験的導入や、憂鬱なダウナー・ポップを披露せずにはいられなかった彼らにとって、そうした思春期性はもはや足枷でしかなかったに違いない。ろくにトリートメントされていないようなロウなミックスで過去を一括清算した『OOYeah!!』『OOKeah!!』(1999)を経て、彼らはトランス・ロックの加速度でもってゼロ年代の始まりを一気に駆け抜ける。『Futurama』(2000)は、レイヴ・ミュージックへの憧憬を、ロックの文脈においてヴァーチャルに昇華させた意欲作だった。
ところで、良くも悪くも独りでは曲を作れないという点に、団体音楽の大きな魅力がある。密室で顕微鏡をのぞくような、省察が行き届いた孤独なベッドルーム・ミュージックにはない、共同体の中でのある種の運動(ときに競争原理)が働くことによって、バンドのポップ・ポテンシャルが大きく引き出される例を、私たちはよく知っている。『HIGHVISION』(2002)は、互いの方向性に違和を感じ始めた彼らにとって、ポップ・バンドとしては最後の結実だった。益子樹や砂原良徳らとの合流、テクノの跳躍力、電子音の煌めき。全反射するような"愛(I)"は光の伝送路で無限に増幅され、ひこうき雲が消えた本当じゃない夜空に、"Strobolights"を何本も突き刺す。終盤、勝井祐二のバイオリンが外界の光を閉じていくそのアルバムは、バッド・トリップ気味に暗い示唆をまき散らしながら終わっていく。
消えてしまったストーリー
出番を独り待っている
静かに 静かに ただ静かに 夢を見ている
スーパーカー"LAST SCENE"(2004)
そして、最後の妥協点を探るように作られた『ANSWER』(2004)は、ポップ・バンドとして結成された彼らが、かつて拒絶していた成熟(少なくとも高度化や洗練)を受け入れ、セミ・ポップの領域へと踏み出したことを如実に物語る。音の装飾よりも空間のニュアンスを重視した、メロウなプロダクション。散文的な歌詞。ミニマルな展開。その削ぎ落とされた妥協点は、逆説的に彼らの飽和でもあった。翌年、バンドは解散を選ぶ。これ以降の4人の物語と、私はなぜか一定の距離を保ってきた。個人的にもっとも親しみをもって追いかけたのは、リミックス・ワークを通じてTV・オン・ザ・レディオやデイダラスら海外のオルタナティブ、そしてボーカロイド文化とも前向きに交わってきたフルカワミキであるし、一般的にもっとも成功した存在として認知されているのは、ロック・バンドのプロデュースからK・ポップの作詞まで手掛ける、いしわたり淳治であろう。
中村弘二(以下、ナカコー)はといえば、アンダーグラウンドを好み、端的にはiLLを名乗ってレフトフィールドの開拓を試みてきた。テクノ、アンビエント、グリッチ、ドローン、ストーナー・フォーク、チェンバー・ポップ、ひと回りしてのロック、あるいはスーパーカーの再考、そしてLAMA。そうした変遷の先に、いつの間にか復活させたNYANTORA(ニャントラ)名義によって、ナカコーは相変わらずの実験趣味(と孤独趣味)を爆発させている。〈ダエン〉からのリリースとなった、レーベルの代表アーティストでもあるダエンとのコラボレーション『duenn feat nyantora』は、相当時間の無音部・微音部を含む、実に抽象的な作品となっている。カセット・テープなので、スキップもできずにとりあえずは黙って聴いているしかないわけだが、音も鳴らないし、あー、眠ってしまおうか、と、忘れたころに浮かび上がる音。かと思えば、あれ、いつから音、鳴ってないんだっけ、と、気付いたら霧散している音。鳥のさえずりもあれば、心地よいグリッチ、耳をかすめる程度のノイズもある。
正直にいえば、一応、遅れてきたスーパーカー世代である筆者としては、素直に楽しめない作品では、ある。私はまだ音楽に加速度を欲しているし、ポップのある意味での下品さを必要としている。とはいえ、狭く聴かれることと、広く聴かれないことを同時に望んできたナカコーの立場からすれば、本作は完全な匿名性をまとうことに成功した作品ではある(いま、無条件でカセット・テープを聴ける人はそう多くないはずだし、ネット上で聴くこともできない)。というか、不況だ、不況だと言われて久しい昨今の音楽業界にあって、内容的にも外装的にも、"あえて広がり過ぎない音楽"をアナログ・メディアでリリースすることを、私は贅沢なことのように思う。DIY文化のプライドか、LAMAとのバランスか。いずれにせよ、小さな承認を大仰に分け合う、繋がりすぎた私たちのネットワークを断ち切るように、聴き手の受動性を拒絶するアンダーグラウンドの精神は続く。
文:竹内正太郎
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JEFF MILLS
Taken
(Taken / 12inch)
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SECRET CIRCUIT
Nebula Sphynx / Parascopic Rope
(Beats In Space / 12inch)
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MODEL 500
Control
(R&S Records / 12inch)
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BOB CHANCE
Wild It'S Broken/It'S Broken
(Emotional Rescue / 12inch)
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MITSUAKI KOMAMURA
Vintage Moon Ep
(Weedis / 12inch)
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MARVIN BELTON
Find A Way
(Mahogani Music / 12inch)
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HARDWAY BROTHERS
MANIA THEME
(Is It Balearic? / 12inch)
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ROBERT OWENS
Sacrifice
(Ndatl / 12inch)
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DISCO DEVIANCE PRESENTS
Ray Mang Edits
(Disco Devience / 12inch)
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