「P」と一致するもの

 新作『Sonatine』が絶好調のD.A.N.の新しいPVが公開された。映像を手掛けるのはオオクボリュウ。デビューEPの「Ghana」以来3年ぶりの共演になるそうで、オオクボリュウのミニマルな叙情性がばっちりハマっておりますね。

D.A.N. - Sundance (Official Video)

 なお、周知のようにD.A.N.はこの秋、全国ツアーを控えています。チケットの先行発売も受付中なので、確実に行く人は申し込んじゃいましょう。

<D.A.N. TOUR 2018 "Sonatine">

- CHINA -
9月05日(水) 成都(Chengdu)@Little Bar Space
9月06日(木) 深圳(Shenzhen)@B10 Live
9月07日(金) 北京(Beijing)@YugongYishan
9月08日(土) 上海(Shanghai)@Mao Livehouse

- TAIWAN -
9月20日(木) 台北(Taipei)@THE WALL
9月21日(金) 高雄(Kaohsiung)@Live Warehouse

- THAILAND -
9月23日(日) バンコク(Bangkok)@PLAY YARD by Studio Bar

- JAPAN TOUR -

11月17日(土) 仙台 darwin
11月21日(水) 福岡 BEAT STAITON
11月23日(金祝) 岡山 YEBISU YA PRO
11月30日(金) 札幌 PENNY LANE24
12月05日(水) 大阪 梅田CLUB QUATTRO
12月06日(木) 名古屋 BOTTOM LINE
12月08日(土) 金沢 vanvan V4
12月09日(日) 新潟 CLUB RIVERST
12月20日(木) 東京 新木場STUDIO COAST

<D.A.N. オフィシャル先行受付中>
https://d-a-n-music.com/news/d-a-n-tour-2018-sonatine/

【受付期間】7/25(水)20:00 〜 8/6(月)23:59

【枚数制限】お1人様4枚まで申し込み可
【入場制限】小学生以上有料/未就学児童無料(保護者同伴の場合に限る)

https://d-a-n-music.com/

Kajsa Lindgren - ele-king

 W杯期間中、とうぜんJ1リーグはお休みで、その間それぞれのチームは休養したり、練習したりしていたわけだが、ぼくが応援している清水エスパルスというここ数年ぱっとしないチームは、18チームのなかでもっとも長い休暇を取っていた。長谷川健太が指揮を執るFC東京などほぼ休みナシで練習していたというのに、スウェーデン人のヤン・ヨンソンが監督を務める清水エスパルスは16日間も休んでいたし、練習再開後も休みが多いので、サポーターは「大丈夫かよ?」と不安視しているのだが、考えてみればスウェーデンは「短縮労働」の先進国だ。高度化した育児休暇制度をはじめ、「フレキシブル・ワーク」の一般化のみならず、1日6時間労働による生産性の向上という実験もはじめている。欧米では評価されているこうしたスウェーデン式だが、忙しくしていないと落ち着かないという日本社会ではまだまだ浮いてしまっているのが実情だろう。

 カイサ・リンドグレンはスウェーデンの作曲家/エレクトロニック・ミュージッシャンで、本作『ウーム(子宮)』は彼女のファースト・アルバムになる。自然、そして身体におけるフィールド・レコーディングの素材をさらに水中で再構成したという作品で、まったく独特の音響が生成されている。アンビエントともウェイトレスとも言いたくない、引き合いに出されているのはイーノとジョン・ハッセルの『Possible Musics(第四世界の鼓動)』だが、というのもこのアルバムは、まだ見たことのない(聴いたことのない)世界を表現したいという欲望による、ある種の異世界を描いているからだ。彼女は最終的には、無生物の世界さえも空想しているようだ。

 あるいはまた、フランスの実験派の女性アーティスト、フェリシア・アトキンソンと比較されるリンドグレンは、安易な音旅行には舵を取らず、音響の深海へと潜水しているかのようだ。水中ミキシングということで涼を求めるなんてとんでもないです。とはいえ、この音楽は耳障りなわけではないし、人を動揺させるものでもない。極めて静的な音楽だ。
 彼女はこのアルバムのリリースにあわせて、ストックホルムでは水中コンサートを開いたそうだが、なんかそれも生活のなかに気持ちの余裕のあるスウェーデンらしさがゆえの実験なのだろうか。こんな生産性のないことに夢中になれることが羨ましい。それにしても最近は、エレクトロニック・ミュージックにおいて、聴いて良かったので作者を調べてみたら女性だったということがじつに多い。

Tony Allen × Jeff Mills - ele-king

 これは事件です。2016年の末、パリのジャズ・クラブにて共演を果たしたトニー・アレンとジェフ・ミルズの両巨頭ですが、その奇蹟のようなコラボがついにレコードへと結実。9月28日に10インチとしてリリースされます。しかも、レーベルは〈ブルー・ノート〉。このデトロイト・テクノの伝説とアフロビートの伝説との邂逅を逃す手はありません。先行公開されている収録曲“The Seed”を聴きながら、首を長くして待ちましょう。

artist: Tony Allen & Jeff Mills
title: Tomorrow Comes The Harvest
label: Blue Note
format: 10"
release: September 28th
EAN / JAN: 0602567786306

[tracklist]
A1. Locked And Loaded
A2. Altitudes
B1. On The Run
B2. The Seed

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disk union
HMV

Ali Shaheed Muhammad & Adrian Younge - ele-king

 おそらくウィルソン・ピケットの楽曲を由来とするのであろう『ザ・ミッドナイト・アワー』というアルバム。真夜中のソウルという言葉が実にふさわしいこのアルバムは、ア・トライブ・コールド・クエストのDJ/プロデューサーのアリ・シャヒード・ムハマドと、マルチ・ミュージシャンでプロデューサーのエイドリアン・ヤングのプロジェクトによるものだ。アリとエイドリアンの共演は、エイドリアンのプロデュースするソウルズ・オブ・ミスチーフのアルバム『ゼア・イズ・オンリー・ナウ』(2014年)にアリがフィーチャーされたことがきっかけで、その後TVドラマのサントラとなる『ルーク・ケイジ』(2016年)も共同制作している。その頃より『ザ・ミッドナイト・アワー』の制作は開始され、当初は2016年末頃にはリリース予定だったが、ここにようやく発表された。

 DJで熱心なレコード・ディガーであり、また法律の博士号も持つエイドリアンは、奥方と一緒にロサンゼルスでレコード・ショップ兼ジュエリー・ショップを経営し、また〈リニア・ラブズ〉というレーベルも運営している。もともとDJ/トラックメイカーだが、ヒップホップなどの元ネタから古いレコードをコレクトするようになり、そこからさらに楽器演奏を独学で学んでいった。1968年から1973年までを音楽の黄金時代ととらえ、その時期のソウル、ファンク、ジャズ、リズム・アンド・ブルース、ロックなどが好みという。当時のアナログな楽器や録音機材が生み出す温もりや奥行きのあるサウンドに魅入られ、自身で作品を作るときもそうした機材を導入するという凝りようだ。こうしたエイドリアンのこだわりにシンパシーを感じるアーティストは多く、これまでにアリやソウルズ・オブ・ミスチーフはじめ、デルフォニックス、ゴーストフェイス・キラー、ビラル、RZA、バスタ・ライムズ、スヌープ・ドッグ、ケンドリック・ラマーなどと作品制作、コラボ、共演している。ハモンド・オルガン、ミニ・モーグ、フェンダー・ローズなど鍵盤類から、サックス、ベース、ギターまで操る彼は、ヴェニス・ドーンというバンドも率いて『サムシング・アバウト・エイプリル』(2011年)、その第2集(2016年)もリリースしている。ヒップホップ方面との交流が深いエイドリアンだが、この第2集にはステレオラブのレティシア・サディエールをフィーチャーし、幅広い交友関係も見せている。そのレティシアと共演した“メモリーズ・オブ・ウォー”では、サントラのようにジャジーでシネマティックな曲作りも見せていたが、エイドリアンにとってサントラというのも重要なキーワードのひとつである。前述の『ルーク・ケイジ』ほか、デビュー作の『ブラック・ダイナマイト』(2009年)もブラックスプロイテーション映画のサントラだった。また、『サムシング・アバウト・エイプリル』も架空のサントラという設定で、ゴーストフェイス・キラーなどとのコラボ作にもそうした雰囲気が持ち込まれている。アイザック・ヘイズからモリコーネのサントラに影響を受け、ムーディーな音作りを好むというところも、彼のレコード・マニアたるゆえんだろう。

 『ザ・ミッドナイト・アワー』のプロジェクトに関して、エイドリアンはサンプリングなどをせず、全て楽器演奏だけで作ってみようと提案したそうだ。アリはソウルズ・オブ・ミスチーフの『ゼア・イズ・オンリー・ナウ』のリミックス・アルバムを手掛け、そのときは全ての楽曲を生演奏のみで作り変えた。アリにとって初めての楽器演奏によるアルバムとなったが、それが自信となって『ザ・ミッドナイト・アワー』の制作へと繋がっていったのである。ATCQが実際にサンプリング・ネタにしてもおかしくないようなアルバム、というのが念頭にあったそうだ。全部で20曲収録というたいへんヴォリュームのあるアルバムで、演奏はエイドリアンとアリのほか、ヴェニス・ドーンのメンバーらが参加している。従ってエイドリアン・ヤング、及びヴェニス・ドーンのアルバムの延長線上に位置する作品と言えるだろう。ゲスト・アーティストもエイドリアンやアリに関連する人が多く、ビラルやレティシア・サディエールに始まり、シーロー、ラファエル・サディーク、マーシャ・アンブロージアス、クエストラヴ、ジェイムズ・ポイザー、キーヨン・ハロルドらが参加。“ソー・アメイジング”にはルーサー・ヴァンドロスがフィーチャーされているが、彼が生前の1986年に残した歌を、アリとエイドリアンの新たな演奏に乗せる形となっている。“クエスチョンズ”は未完成段階のトラックをケンドリック・ラマーが聴いて気に入り、自身のヴァースを乗せて『アンタイトルド・アンマスタード』(2016年)に収録していた。そこでは“アンタイトルド・06”となっていたが、シーローの歌を入れて完成したヴァージョンとなる。

 ビラルの歌う“ドゥ・イット・トゥゲザー”は、ロータリー・コネクションの系譜に位置するような作品で、エイドリアンが自身の音楽を呼ぶダーク・サイケデリック・ソウルという言葉がピッタリだ。エイドリアンはビラルの『イン・アナザー・ライフ』(2015年)のプロデュースを行なったが、ゴスペル的なエモーショナルさを持ちつつも、オルタナティヴなテイストもあるビラルの歌の特性を生かした曲となっている。レティシア・サディエールが歌い、キーヨン・ハロルドがトランペット、クエストラヴがドラムを演奏する“ダンス・アス・モーメント・デランス”は、基本的にはビート感の強いジャズ・ファンクだが、レティシアのスキャットによって優美さや浮遊感が生まれており、相反する要素をひとつにまとめた好例と言えるだろう。新進女性シンガーのエリン・アレン・ケインが歌う“ラヴ・イズ・フリー”は、『ザ・ミッドナイト・アワー』全体のカラーに通じるヴィンテージ感を醸し出すR&B。ストリングスを用いたゴージャスなサウンドは、往年の〈モータウン〉や〈スタックス〉などの音作りを彷彿とさせる。“ダンス・アス・モーメント・デランス”も“ラヴ・イズ・フリー”も、一聴瞭然なのはドラムの音の太さで、これはやはりアナログ・テープで録音しないと生み出せないものだろう。『ザ・ミッドナイト・アワー』は、そうした音に対する贅沢なこだわり、飽くなき追求が見られるアルバムだ。

Likkle Mai - ele-king

 リクル・マイは、日本のレゲエ・シンガーとして国際舞台でもっとも評価されているひとりで、強いてたとえるなら日本のマーシャ・グリフィスと言えるような素晴らしいアーティストだ。彼女は、世界中の誰もがルーツ・レゲエは時代遅れだと認識していた90年代に真っ直ぐなルーツ・レゲエをやって世界を驚かせたバンド、ドライ&ヘヴィーのヴォーカリストとして登場した。バンドを脱退した後もソロ活動を続けているわけだが、すでに『Roots Candy』や『Dub Is The Universe』、『mairation』など魅力的な作品を残している。2014年には3・11への彼女なりのアンサーとして、レゲエと民謡を融和させた『きたぐにのはる』も話題になった。
 リクル・マイはいつだってレゲエをベースにしながら、人生や社会に関して、シンプルで力強い言葉をソウフルな声で歌う。彼女の音楽はいつだって大らかで、なおかつプロテスト・ミュージックで、いつだって人を元気にさせる。去る7月18日に、4年ぶりのミニアルバム『Rise Up』がリリースされた。ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬が参加し、彼女の盟友でもあるブリストルのロブ・スミスが1曲、ミックスしている。リクル・マイらしい、ポジティヴなヴァイブレーションのじつに溌剌とした作品だが、なによりもすごいのは、長年続けてきている人が持ち得る感情の深みが見えること。ぜひぜひチェックして欲しい。
 また、リクル・マイは精力的なライヴ活動もしている。10月からは「Likkle Mai Rise Up TOUR 2018」も予定されているので、近場の人はぜひ! 彼女のライヴは最高なんで。詳しくはリクル・マイのホームページをご覧ください。

https://likklemai.com/2/live-schedule/



LIKKLE MAI
Rise Up

Hanx Records/MK STARLINER
Amazon

Blawan - ele-king

 2010年に〈Hessle Audio〉から「Fram」をリリースしてクラブ・シーンに登場した Blawan こと Jamie Roberts は、翌2011年に数多くの優れた作品を発表して一躍注目のプロデューサーに。同年 Radiohead が“Bloom”の REMIXER に抜擢したことがそれを象徴的に表している。初期の作品は元ドラマーゆえか、複雑なリズム構成とリズムトラックの高音域の独特な抜けの良いサウンドが特徴的で、この頃はまだクリーンなサウンドの UK BASS といった感じだったが、Alberto Marini と Domenico Cipriani のユニット The Analogue Cops との共同制作の経験を通して、彼の制作スタイルは大きく変化した。その経緯についてはこちらのインタヴュー記事が参考になると思うが、簡単に言うと Ableton (PC)主体からハードウェア主体へと移行し、それ以降のプロダクションではざらついた音色が増えることに。

 The Analogue Cops とは以降も度々共作し、3人で Parassela としても作品を発表するなど、Jamie が彼らから大きな影響を受けていることは、リンク先のインタヴュー記事での発言からもうかがい知れる。
 そして新たな制作スタイルの獲得と Pariah こと Arthur Cayzer との出会いが上手く符合したのか、ふたりのユニット Karenn も2011年に始動し、同年〈Works The Long Nights〉から 12" をリリース。Karenn での活動についてはこちらの記事に詳しく書かれていて、この頃から Jamie はモジュラーシンセにはまっていったようだ。

 2013年には Surgeon とも共作し、Trade 名義で 12" をリリース。2015年に自身のレーベル〈Ternesc〉を立ち上げて、モジュラーシンセ道を邁進。2016年は Bored Young Adults 名義でBPMを落として Jamie 流実験的ハウス 12" を〈The Trilogy Tapes〉から、さらに Shifted の〈Avian〉から Kilner 名義でモジュラーシンセが炸裂する実験的テクノ・トラック集『Walk Type』をリリース。『Walk Type』と2017年に〈Ternesc〉からリリースした『Nutrition』はどちらも大作だが、この2作はあくまでも 12"×2 という体裁でのリリースだった。そして2018年、遂に Blawan が初のアルバム『Wet Will Always Dry』を発表した。

 アルバム冒頭にふさわしく、しばらくの間 BPM を取れない細かく不安定なリズムが刻まれ、緩やかに入って来た持続音だけが取り残される不思議な展開で幕を開ける“Klade”。やがてハイハットが刻まれはじめ、クレッシェンドしていき、変則打ちのキックが入ってくる。持続音はキックに寄り添うように緩やかにうねりながら歪(いびつ)に歪(ひず)んだり、ヴォリュームが大きくなったり小さくなったりしながら、全体的にはクレッシェンドしていき、聴く者の気分を高揚させる。短いブレークが明けると2拍4拍に高音のアクセントが入ってきて興奮はいやまし、リズムトラックにもキックより少し高いタムが加わり勢いは増す。出ている音の構成要素としてはこれぐらいのもので、シンプルであるがゆえの力強さとヴァリエーションを増す持続音のうねりが相まって、早くも最高潮に達する興奮が冷めやらぬうちにリズム隊がひとつひとつ抜けていき、最後に残された持続音も間も無く終息する。

 小節頭にアタックが来る、リズムと柔軟な持続音(歪なメロディー)を兼ねた音が印象的な“Careless”。ボトムを重たくキープする4つ打ちと裏打ちハイハットにアルペジオ・シークエンスが隠し味的に繰り返される上を主旋律たる歪に揺らぐメロディーが響き渡ることで絶妙なグルーヴが生まれ、そこに Jamie お得意のヴォイスサンプルが被さってくる。ブレークが明けて8小節後に16分で刻むハイハットが入ってくるところが、たまらなくかっこいい。

 曲の冒頭から繰り返されるシークエンスの拍頭と感じていた音が、キックの小節1拍目とずれていて、さらに3小節置きに2拍裏でアクセントが入るので拍を追いながら聴いているとかなり混乱してしまうトリッキーな“Vented”。こういう曲はシンプルな4つ打ちの2拍4拍にスネアが入る曲と MIX すると、それまで頭が引っぱられていた聴こえ方とまったく違う印象でシークエンスが聴こえるようになるから面白い。人間の脳はいろいろと錯覚する。お化けでも出てきそうなひょろひょろとした音が漂うブレークが明けると、16分刻みのハイハットを伴ったキックが勢いを増して帰ってくる。やがて再び冒頭のシークエンスが入ってきて、また頭が若干混乱することで曲の勢いが鈍るように感じるのは自分が悪いのか。

 “North”はいきなりモジュラーシンセの柔軟で変化に富んだフレーズが飛び込んでくる。そして間髪入れずにフルスロットルの4つ打ちキックが打ち鳴らされ、ハイハットが加わる。ほぼこれだけで後はモジュラーを巧みに変化させていけば曲はできたようなものだ、と言わんばかりのシンプルさだが、力強くてかっこいい。ブレークではさらに混沌としたフレーズが一瞬挿入されるが、それもかっこいい。中盤のキックメインのパートの上をレゾナンスとヴォリューム控え目で漂うモジュラーも気持ち良い。とくにブレークでキックが抜けると不安定さが際立ってその気持ち悪さが気持ち良く、そこからシームレスにメインのフレーズへと変化していき、帰ってきたキックと共に最後まで走り抜ける。

https://soundcloud.com/ternesc/north

 “Stell”の冒頭から繰り返されるシークエンスはのちにメインフレーズへと変化する種のようなもので、突然変異のように音が引き伸ばされた様な、Arca のジャケットを音に変換した様な、そんな主旋律が非常に印象的。4つ打ちのキックの上を16分裏で小さめに、8分裏で普通(音量)にハイハットを、2拍目にスネア、8分裏にハイハットを入れることでビートがスイングして、グルーヴを生んでいる。ブレークでは細かく刻まれながらタイムストレッチして多様に変化するハイハットとリヴァーブの彼方へ遠ざかっていく主旋律が合わさって、めちゃくちゃかっこいい。

https://soundcloud.com/redbullmusicacademy/blawan-stell-first-floor-premiere

 そしてラストを飾るのが新機軸の“Nims”。これまでに Blawan がこれほどメロディアスなアルペジオ・シークエンスを主軸に据えたことがあっただろうか。たしかに Bored Young Adults の“But We Need This Bench”でもキラキラとしたフレーズは鳴っていたが、これほど前面には出ておらず、主役はあくまでもどこか鬱屈とした低音域の旋律だった。初めてのアルバムを出すに当たって、こういう曲を作れるようになったということも大きいのではないだろうか。このアルバムではモジュラーシンセにより習熟したという自信が、勢いとなって全曲に漲っているように感じる。一皮剥けた、こなれた、という感じがする。もはやかつてのように複雑に組み込まれたリズムは必要ない。事実このアルバムでは1曲目の“Klade”を除いて全てイーヴンキックで構成されている。それでも工夫を凝らせばグルーヴは生まれるし、かつシンプルにすることで生まれる力強さが備わっている。そして全曲にモジュラーシンセによる印象的なフレーズが炸裂している。6分前後の曲が8曲収録されているが、少しもダレることがなく、一気に聴き通せる快作。

 Karenn での相方、Pariah もソロとしては6年、Karenn でのリリースからも4年のブランクを経て、これまでの〈R&S〉からではなく、〈Houndstooth〉からアンビエント・スタイルの美しい作品『Here From Where We Are』をリリース。またふたりでやってくれることを期待しながら、ふたりの最新作同士をロングミックスして擬似 Karenn プレイを楽しみたい。

『Wet Will Always Dry』
 豪雨被害に遭われた方々の濡れた心が、いつの日か乾くことを願って

 『NYタイムス』の記事で、坂本龍一がよく行く日本食レストランの話があった。彼はその店の音楽が嫌いで、普通なら何も言わないでそこを立ち去るのだが、そのレストランは彼のお気に入りなので、音楽の選曲を担当させてくれないかと申し出た、という。ふんふんと頷きながらこの記事を読み進めていくと、同時に『CODA』が紹介されていた。


https://coda.mubi.com

 2014年6月、咽喉癌の段階3と診断された彼は、7月10日に公表し、治療に専念することにした。Alejandro González Iñárritu監督から突然電話があったのは、何ラウンドかの化学治療を終えた翌年の春のことだった。坂本龍一は、明日もし可能ならLAに来てくれないか、と言われた。起きたばかりでボーとしていたこともあり、休養期間にも関わらず、イエスと答えていた。20代から仕事をし、こんなに長く休んだのは初めてで、仕事をしないことが悪に感じていた頃だった。生命の危険を経験したことで、彼の創造力のモチベーションが上がり、音への追求が果てしなくはじまった。

 という、彼が癌治療をはじめてからの、休養期間に撮影されたドキュメンタリーだ。彼のミュージシャンとして、そしてひとりの人間として、音への情熱、社会に貢献する姿勢、癌後の人生についてなどが、彼の作品や昔の映像を合わせながら綴られている。彼のひと言ひと言に頷き、作品の美しさに体が震え、人間味溢れるキャラクターに親近感を覚えた。

 彼は2011年、津波の被害にあった福島に赴き、原子力反対の運動に積極的に参加し、津波の後に生き残ったピアノで、疎開している人達のためにコンサートを開き、現地のアイコンとなった。ピアノを弾き、災害の後に残ったこれこそが、自然の調律になっている、と彼は思ったと言う。物は自然のままが真の姿なわけだが、現代に生きる私たちは、それを忘れがちだ。

 雨の降る音、鳥が飛び交う音、木がそよぐ音など、自然の音に反応し、北極に行って水の音を録音したり、大雨の降る日に外に出てバケツを頭から被り音を感じたり、シンバルを持ち込んで、バイオリンの弦をあてたり、コーヒーカップで円を描くように音を出したり、理想の音を求め続ける姿が描かれる。

 彼の昔のバンド、テクノ・ポップのイエロー・マジック・オーケストラのライヴ映像や、若かりし日々の坂本さんのインタヴューや音楽、そして俳優としての姿──『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』の映像(ベスト・オリジナル・スコア賞を受賞)ばかりか、昔の東京の映像なども盛り込まれている。時代背景からも様々な想いを馳せることができる映画だ。

 この映画は、威厳としたリンカン・センター(https://www.lincolncenter.org)で見るのが筋かと思ったが(NYは7月末から公開で2映画館のみ)、坂本さんの家にも近い、こじんまりしたシネマ・ヴィレッジ(https://www.cinemavillage.com/)で観賞した。ゆるい雰囲気で、広告もほとんどなく、売り切れにもならず、何気に心地よい。『CODA』のおかげで新しい映画館も発見できた。

Mary Lattimore - ele-king

 まるで現代の音響型フォーク・ミュージックだ。まるで木漏れ日のアシッド・フォークのような音楽/演奏は、インストものという範疇や領域を超えて聴き手の耳と心に、優しく語りかけてくる。ひたひたと時が進み、ゆっくりと時間が逆行するような感覚。もしくは穏やかな陽光のなか不意に時が止まってしまうような感覚。メアリー・ラティモアは、前作『At The Dam』(2016)以来、2年ぶりとなるオリジナル・アルバム『Hundreds of Days』によって、これまで以上に「音楽の本質」を見出した。それは音/時の持続による「幸福」の発見である。

 そもそもフィラデルフィア出身にして現LA在住のアンビエント・ハーピストであるメアリー・ラティモアの奏でるハープは、2013年に〈Desire Path Recordings〉から発表した傑作ファースト・アルバム『The Withdrawing Room』からすでに不思議な存在感を持っていた。心地良い肌触りの絹のような感触であっても、その透明な響きの芯には確かな存在感があったのだ。空気の層に溶け合ってしまうような音とでもいうべきか。ジュリア・ホルターからサーストン・ムーア、カート・ヴァイルまでも魅了し(人気バンドのリアル・エステートと共にツアーを回ってもいたらしい)、2014年には「Pew Center for Arts & Heritage」のフェロー賞を受賞したことも納得である。

 本作では、その瀟洒な響きの美しさに加えて、楽曲それ自体の魅力もさらに深まった。2017年にヘッドランズ・アートセンターの音楽アワードを授与されたメアリー・ラティモアは、サンフランシスコ沿岸のビクトリア朝の古い建物で、何人もの芸術家たちと共に2か月の夏を過ごした。そこで彼女は、ゴールデン・ゲート・ブリッジの丘にある広い納屋を与えられ、自由にハープを演奏し、本作を録音したという。ハープだけではなく、グランド・ピアノ、ギター、キーボード、テルミンまで多彩な楽器が用いている。
 そんな心からリラックスできる空間での録音は、本作の楽曲にこれまで以上に豊穣な音楽性をもたらしたようだ。楽器は、いっそうまろやかな響きに、楽曲は、さらに心に染み入るような素朴な美しさを獲得した。まるで伝統的なフォーク・ミュージックのように。

 全7曲、冒頭の“It Feels Like Floating”からして、まるで米国と英国の国境を融解するような音響フォークを展開している。なかでも9分に及ぶ6曲め“On the Day You Saw the Dead Whale”は筆舌に尽くしがたい。フォーキーなコード進行のなかで、ハープの爪弾き、やわらかなピアノ、きれいな空気のようなアンビエント/ドローンが交錯する。光の結晶のなかに、いくつもの音楽が、いくつもの時間が、いくつもの記憶が、うっすらと溶け合っていくのだ。クラシカルも、エレクトロニカも、アンビエントも、フォークも、すべてが「音楽」という奇跡の中に、色彩が溶けるように融解する。

 本作をもってして(現時点における)メアリー・ラティモアの「最高傑作」として称しても過言ではない。聴くことで得られる穏やかな幸福、そして時間が、音楽の波のように息づいている。


 小説家とは何を考え、どのように前に進むのか――デビュー20周年を迎える小説家・古川日出男。そのキャリアの節々で、雑誌でのインタヴューやトークイベントなど様々な場面で対話を繰り広げてきた批評家・佐々木敦。このふたりがこれまでに繰り広げた数々の対話を集成したインタビュー集を刊行します。

 ふたりはこれまで「作家と批評家」という関係に留まらず、様々な形でコラボレートしてきました。その対話は毎回、小説という営為、ひいては創作という行為の原理へと迫る深く濃密なものとなっていきます。

 作品ごとに「アスリート的」とも言われる集中力で臨みながら、通常の作家の数倍におよぶ大量の作品を世に出し続け、そして絶えず自己更新を重ねてきた20年。
 古川作品の背景を知る助けとなるだけでなく、小説家とはどのように小説を書き始め、どのように書き継ぎ、どのように書き終え、そしてどのように次の作品に向かうのか。そうした創作の舞台裏に、長期にわたって迫っていった貴重で壮絶なドキュメントであり、「創作」という行為に興味のある方すべてに読んでほしい一冊です。

 今回は、7月30日の発売に先駆けて、佐々木敦による熱い前書きを公開します。

小説家の、苛烈なる饒舌 ―まえがきにかえて―
佐々木敦

 小説家はそもそもの最初から、そして常にいつも、饒舌だった。
 しかしそれは、こちらの話を封じ篭めようとするような、問う側と答える側の関係性においてやみくもにイニシアチブを取ろうとするような、よくある防御的な意味での攻撃的な饒舌ではない。自分語りへとナルシスティックに閉じていくようなものでもない。むろん単なる話し好き、おしゃべりとも全然違う。私が前のめりに、時にはやや不用意に投げかける問いに対して、ほとんどの場合、即答と言ってよい言葉を能弁に返しながら、そこにはいわゆる当意即妙さとはまるで異なる考え深さと、ある紛れもない繊細さがうかがえた。そこには情熱と誠実がともに宿っていた。
 古川日出男との対話は、初対面の時からずっと変わらず、そうだった。ここには収録されていない、いちばんはじめのインタビューは、今は存在しないカルチャー誌のごく小さな記事のための取材だったが、その時のことをよく覚えていると言うと嘘になるけれど、言葉を交わした瞬間の、打てば響く、響き合うような感触は、今も肌で思い出すことが出来る。しかしその時は、まさかそれからこれほどの長きにわたって何度も問いと答えを継続してゆくことになるとは、そればかりか、インタビューや対談以外のさまざまな試み、小説家と批評家という組み合わせを大きく逸脱する試みを幾つも一緒にやっていくことになるとは、もちろん考えてもみなかった。気づけば十年を超える時が過ぎており、われわれの対話はこうして一冊の書物になるほど蓄積されていた。古川さんの小説家としての二〇年を記念して編まれたのが、本書である。
 こんな言い方も芸がないが、われわれは要するに馬が合ったのだと思う。更に芸なく言えば、話せば話すほど、少なくとも私の方は、古川さんと自分はどこか非常によく似たところがある、と思うようになった。とはいっても、われわれは表面的には、たぶんまったく似ていない。また、これだけ長い付き合いになっても、いわゆる「友人」とは呼べない。理由なく会ったりしたことはこれまでに一度もない。私的な話だってほとんどしたことがない。だから「友人」ではないのだが、しかしわれわれは「同志」なのだ、何の同志か。「世界」と「小説」のかかわりをめぐる、それぞれの孤独な、けっして終わりの訪れることのない闘いにおける同志なのだ、と私は勝手に思っている。そして小説家と批評家が、そのような意味での「同志」になるということは、滅多にあることではない。
 この後に続くページから始まる、私と古川日出男の、ひとつひとつが大変ヴォリューミーな対話たちを再読、通読してみて、いささか驚いたことは、われわれが何度も何度も同じ話ばかりしているということだった。幾つかのキーワード、幾つかの問題意識が、繰り返し出て来る。正直言って、これほど一貫性、反復性があるとは思っていなかった。古川さんへのインタビュー、古川さんとの対話は、いつも完全なインプロヴィゼーションだ。私の場合、それは彼に限らないことだけど、古川日出男が相手の際は特にそうだ。機会によって、お互いのコンディションだってまちまちだし、毎回毎回どんな話になるのかあらかじめの決め事は一切なしに臨んでいるのだが、いつのまにか、いや、すぐさま、問いと答えの応酬は過剰な熱を帯び、速度と強度をいや増していき、そして必ず気づいてみると、その時々の対話のテーマから大きく離陸し、「小説」と「世界」をめぐる原理的な話題に突入している。その時その場に賭けようとすればするほど、アクチュアルであろうとすればするほど、そうなる。
 私にとって、古川さんとの対話は、ほとんど音楽のセッションみたいなものだ。もちろん私も古川さんもミュージシャンではないが、多分にミュージシャン的な気質があると思う。二人で話していると、そういう部分が急激に突出してくる。だから毎回終わってみるとひどく疲れているのだが、それは心地良い疲労である。良い汗をかいた、という感じだ。古川さんと話していると、互いが互いを相手に話しているだけではなく、ともに同じ方向を向いて猛烈に思考しながら語っているという感覚に陥ることがある。それがつまり、同志ということの意味だ。
 小説家と批評家との継続的な言葉のやりとりの歴史、そのひとつの区切りとして本書は立ち現れるわけだが、もちろんわれわれの対話はこれで終わりではないだろう。今後もおそらく何度となく古川日出男と私は話すことになるのだろう。そしてわれわれはやはり同じようなことを問題にし続けることになるはずだ。なぜならそれこそが真に重要なことであるからだ。「世界」と「小説」のかかわりについて、われわれが考えてきたこと、われわれが考えていることが、どのようなことであるのかは、二人の尋常ならぬ饒舌を読んで確かめていただきたい。


【内容】

■目次

小説家の、苛烈なる饒舌 ―まえがきにかえて― 佐々木敦

第一章 ルーツなき作家の誕生と再生の記録 二〇〇七年
第二章 朗読をめぐって 二〇〇八年
第三章 『聖家族』をめぐって 二〇〇八年
第四章 「対談」という「未知との遭遇」 二〇〇九年
第五章 全部小説のためにやっている 二〇一〇年
第六章 不可逆的な出来事の後に 二〇一三年
第七章 歴史を物語る声 二〇一四年
第八章 「三」をめぐる三時間 二〇一五年
第九章 エクストリームなミライへ 二〇一八年

あとがきにかえて

古川日出男 略年譜

作品紹介

【プロフィール】
古川日出男(ふるかわ・ひでお)
小説家。1966年福島県生まれ。
1998年、長篇小説『13』でデビュー。第4作となる『アラビアの夜の種族』(2001年)で日本推理作家協会賞と日本SF大賞をダブル受賞。『LOVE』(2005年)で三島由紀夫賞、『女たち三百人の裏切りの書』(2015年)で野間文芸新人賞と読売文学賞をダブル受賞。2016年刊行の池澤夏樹=個人編集「日本文学全集」第9巻『平家物語』の現代語全訳を手がけた。
文学の音声化としての朗読活動も行なっており、文芸誌「新潮」で朗読CD、文芸誌「早稲田文学」で朗読DVD『聖家族 voice edition』、宮沢賢治の詩を朗読したCDブック『春の先の春へ 震災への鎮魂歌』(2012年)などを発表。
他ジャンルの表現者とのコラボレーションも多く、これまでに音楽家、美術家、漫画家、舞踊家等との共演・共作を多数行なっているほか、2014年には蜷川幸雄演出の舞台のために戯曲『冬眠する熊に添い寝してごらん』を書き下ろした。
2011年の東日本大震災の後、自ら脚本・演出を手がける朗読劇「銀河鉄道の夜」の上演や、言葉と表現をテーマにワークショップなどを行なう「ただようまなびや 文学の学校」の主宰など、集団的な活動にも取り組み文学の表現を探究している。

佐々木敦(ささき・あつし)
1964年生まれ。批評家。HEADZ主宰。小説、音楽、映画、舞台芸術、アートなど、複数ジャンルを貫通する批評活動を行う。
『「批評」とは何か』『「4分33秒」論』『批評時空間』『あなたは今、この文章を読んでいる。』『シチュエーションズ』『未知との遭遇』『即興の解体/懐胎』『ニッポンの思想』『テクノイズ・マテリアリズム』『ゴダール・レッスン』など著書多数。

「小説家」の二〇年 「小説」の一〇〇〇年/ササキアツシによるフルカワヒデオ
古川日出男 佐々木敦(著)
2018/7/30
本体2,500円+税
ISBN: 978-4909483-03-4

butaji - ele-king

 一橋大学で起きたアウティング事件は、性的指向を本人の意思によらず明らかにしてしまうことが人権侵害にあたるということを世に知らしめたという点で、報道されたことにじゅうぶんな意義があったものだ。ほんの数年前まで性的指向がテレビでとくに疑問もなく笑いのネタとされていたような国で、だ。が、同時に報道やそれを巡る言説からどうにも痛ましさが消えなかったのは、それがある「恋心」の問題でもあったからだと思う。人権やカウンセリングにまつわるガイドラインを作る手助けにはなるだろう、しかし、彼の想い自体は永遠に行き場を失ってしまった。わたしたちはSNSや何やらで事件に対する自分の意見を述べながら、じつは、その行き場のなさに立ち尽くすしかないことを忘れているのではないか。
 butajiは本作に収録されたスロウなソウル・バラッド“秘匿”において一橋大のアウティング事件から影響を受けたと表明し、そして、死んでしまった彼の「恋心」の内側にたどり着き、そこに留まろうとする。歌のなかで。「まっすぐに声も出ないほどの拒絶をどこか求めている/何もかも 暴かずにいれたら/愛は特別なまま/君は特別なまま」……ファルセットを駆使しながら、情感のこもった歌を聴かせながら、そしてbutajiは混乱を隠さない。“秘匿”はそして、「認められたら」と何かを切望するように繰り返して終わる。それはつまり、いわゆるLGBTマターが社会に「認められたら」、だろうか。いや……。

 七尾旅人の大ファンだったというシンガーソングライターbutajiのセカンド・アルバム『告白』。いわゆる素朴なSSW作を想像して再生ボタンを押したリスナーは、いきなりの重たいビートの連打に面食らうだろう。やがて重ねられるファンキーなブラス・セクションと女声コーラス、シンコペートするメロディをなぞるセクシーなヴォーカル。オープニング・トラック“I LOVE YOU”は誤解を恐れずに言えば、昭和時代の歌謡曲のテレビ・ショウのような煌びやかなアレンジだ。もちろんプロダクション自体はモダンなので近年の「オルタナティヴR&B」とのシンクロを感じるひとも多いだろうが、なんと言うか、華やかな衣装を着たシンガーがオケを従えているイメージが浮かぶのである。ドゥワップ風のコーラスが導入となる2曲めの“奇跡”もハンド・クラップがアクセントになるエレクトロニック・ソウルで、得意のファルセットからときにかすれる低音までヴォーカルが自在に行き来する艶やかなポップ・ナンバーだ。ファーザー・ジョン・ミスティがアメリカのショウビズ文化を参照しているように、どこか日本の歌謡曲文化を遡っているように聞こえると書けば伝わるだろうか? J-POPのリスナーにもリーチするキャッチーさと色気でもって、まずはbutajiが華美なポップ・ソングの名手であることを『告白』はアピールする。

 ところが、先述の“秘匿”を過ぎたころから、このアルバムがじつは非常に内省的なアルバムであることがわかってくる。“Over The Rainbow”を想起させるピアノ唱歌の小品“someday”、柔らかいアコースティック・ギターの調べと誠実な歌があくまで中心にある“花”。ピアノの和声にどこか日本風のメロディが寄り添う“あかね空の彼方”やフォークトロニカ~ポスト・ロックのアンサンブルを思わせる静謐な“予感”といった比較的長尺の楽曲は、歌にじっくり浸ることを聴き手に要求するバラッドである。そうしてbutajiはゆっくりと時間をかけながら、自分だけの抽象的な感傷や心の揺らぎをひとつずつ解き放っていく。「予感」というのは彼の歌が醸す感情をよく表した言葉で、つまり、はっきりとした形を取らない心象風景を繊細に立ち上げるのがbutajiの歌だ。「じっと目を見る/その顔にある迷いも/幾ばくかの優しさの 予感がする」。ふと日々のなかに現れる慈しみや愛情に似た何か。ここまで来ると、“I LOVE YOU”や“奇跡”のようなゴージャスなポップ・ソングも、butajiの内面の奥から絞り出されたものであることが伝わってくる。どれもが生々しく、官能的だ。

 『告白』はファースト『アウトサイド』で提示したシンガーとしての表現力の豊かさを保ったままトラック・メイカーとしてのbutajiの音楽性の広さを示したアルバムだが、強いて言うならこれはソウル・ミュージック集だろう。それも、とてもパーソナルでデリケートな。「認められたら」と彼が懸命に歌うとき、その歌が願うのは恋心がその行き着く場所を見つけることだ。彼自身がその感情を「認められたら」。これは恋なんかに苦しんでしまうか弱い男の子による(/のための)ソウル音楽であり、ということは、フランク・オーシャン『チャンネル・オレンジ』からのそう遠くない反響である。このラヴ・ソング集は弱さや迷いを隠さないがゆえにこそ、とても勇敢に響いている。

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