「Nothing」と一致するもの

アイスランド・ミュージシャン・インタヴュー・シリーズ#2:
interview with Sindri Eldon(シンドリ・エルドン)

アイスランド・ミュージシャン・インタヴュー・シリーズ#3:
interview with Paul Fontaine(ポール・フォンティン)

アイスランド・ミュージシャン・インタヴュー・シリーズ#4:
interview with Leifur Bjornsson(レイファー・ビョーンソン)

 この2年、アイスランド・エアウエイブスというレイキャビックでおこなわれるフェスティヴァルで、アイスランドのインディペンデント・ミュージックの活き活きとしたシーンに感銘を受けた。フェスということもあって、都市自体が盛り上がっていたこともあるが、バンドのクオリティの高さ、年齢幅の広さ、国をあげてフェスをサポートする姿勢(飛行機に乗るとブローシャーが配られ、音楽プログラムには、エアウエイブスのチャンネルがある)などから、アイスランドという国にも興味が湧いた。
 初めてアイスランドに行ったときは、レイキャビック以外の郊外にも出かけたのでショックが倍だった。違う惑星かと思うくらい、厳しい自然の姿が目の前に広がる。これが日常なら、私たちは違った感覚も生まれるのではないかと思えるほど。

 ここに、アイスランド・シーンのキーパーソン3人のインタヴューを紹介する。3人とも、経済破綻に関係なく、アーティストはずっと貧乏だというが、バーに入るのに夜中の3時でも行列を作り、街で浮浪者を見たこともないし、治安も良い街では、その言葉の意味も、私たちの使っているそれとはちょっと違うのではないかと思えてしまう。
 街が小さくて、街を出て行っても、しばらくするとアイスランドに戻ってくる人が多いのもそのため?

 音楽、アートなどの文化に関しては、気候(寒くて外に出れない)、国民性(大酒呑みでフレンドリー)、アイスランドに対する批判的な意見はあるが、自分にはどうしようもない、ここに居るしかない、という一種の諦めが、創造性を掻き立て、クオリティが上げているのだろう。
 子供の頃から、文化に触れる機会が多々あることや(エアウエイヴスには親子連れに観客や18歳以下のバンドも多い)、アイスランドのイメージからは遠い、アフロ、レゲエ、ヒップホップ、ラップ・シーンまである多様性も、音楽シーンを独特にしている。それら音楽にアイスランド語が乗ると別物に聞こえる。
 平均的なアイスランド人はグローバリゼーションには関心がないようだが、シーンはとてもグローバリズムに感じる。

まず自己紹介をお願いします。

Sindri(シンドリ):僕は、あまり知られていないミュージシャンで、翻訳とソーシャル・メディアでお金を稼いでいます。

※Sindri Eldon
ミュージシャン(シンドリ・エルドン&ザ・ウェイズ)、ソーシャルメディア&翻訳家。アイスランド出身。
https://soundcloud.com/sindri-eldon

Paul Fontaine(ポール・フォンティン):僕はジャーナリスト/ライターのポール・フォンティンです。grapevine.isで僕の書いた記事が読めます。

※Paul Fontaine
ジャーナリスト、ライター。アメリカ、メリーランド州出身。
媒体grapevineで執筆。
Paulの記事はこちら: https://grapevine.is/author/paul-nikolov/

Leifur Bjornsson(レイファー・ビョンソン): 僕はレイファー・ビョンソンです。ロウ・ロアというバンドでキーボードやビート、サンプラーを担当しています。僕は、ロンドンで勉強をしていたアイスランド人の両親から生まれました。アイスランドに戻ってからは、西海岸の小さな街で育ち、怖いもの知らずの、とても自由な環境で育ちました。

※Leifur Bjornsson
アイスランドのバンドLow Roarのメンバー。アイスランド出身。
https://www.lowroarmusic.com

どのくらいアイスランド(レイキャビック)に住んでいますか。現地の生活について教えてください。

S:行ったり来たりしているけど、だいたいアイスランドに住んでいます。一番長くアイスランドから離れていたときで3、4年ぐらい。小さいときはロンドンに住んでいました。しかし、僕はアイスランドが大嫌いで、なんとか離れようとしています。頑固で頭が小さく、外国人嫌いで、貪欲な保守的な大バカ者と自己中心なスノッブが、不注意に共謀し、出来るだけ物を高く、視野を狭く、古い考えに持っていく、愚かで無意味な小さな国です。田舎は素敵ですが、それは人があまりりいないからです。

P:15年ぐらい前にアメリカからアイスランドに引っ越してきて、ここ8年はアイスランドの市民です。僕の人生のように、ここはとても快適です。

L:レイキャヴィックには高校に進学する為に引っ越し、それ以来ずっとここで暮らしています。レイキャヴィックは素敵な街ですが、小さいと感じる時が良くあります。幸運な事に、僕はバンドで、時々ここを離れる事が出来ますが、レイキャビックは、素晴らしい自然に囲まれているので、それもここに住む利点だと思います。

ポールはなぜイスランドに引っ越したのですか? アメリカからアイスランドに引っ越すのは簡単ですか?

P:僕は元々メリーランド州のバルチモア出身です(TVシリーズの「ザ・ワイア」を見たことあるならそこです)。アイスランドに引っ越したのは冒険心からです。1998年にヴァケーションで来て、国を旅行しているうちに何人かのアイスランド人に会い、同じ年の後半に、またこの新しい友だちに会いにきました。バルチモアに戻ってから、真剣にアイスランドに引っ越すことを考え始めました。何故なら……出来るときにやろうと決めたからです。もしうまくいかなかったら、戻ってきたら良いだけですし。結果うまくいったのです。ヨーロッパ以外の国から引っ越すとなるとアイスランドは難しいです。引っ越す前に、仕事と住むところが必要です(幸運にも僕には助けてくれる友だちがいました)。市民になりたいのなら、7年間は法に触れることができませんし、6ヶ月以上国を離れることは出来ません。ヨーロッパの人は、比較的簡単にアイスランドに引っ越せます。

バルチモアとアイスランド(レイキャビック)とではインディ・ミュージックシーンはどう違いますか。

P:面白い質問ですね。と言うのは、バルチモアとレイキャビックは同じようなインディ・ミュージックシーンがあると思うからです。お互いのショーに行き、サイドプロジェクトのためにメンバーを交換したり、バンドはお互いをサポートしています。ですが、アイスランドのミュージシャンは、バルチモアより世界に露出できる確率が高いと思います。

アメリカとアイスランドでは生活費などは違いますね。アイスランドは生活コストが高いですが、どの様に暮らしているでしょう。

P:アイスランドは世界で4番目に物価の高い国です。冗談じゃないです。しかも、右翼の政府は、食べ物の税を上げたばかりです。食べ物ですよ!

アイスランド語はとても難しい言語ですが、あなたはアイスランド語をはなしますか? もし話せないのであれば、そこに住んでいて疎外感など感じることはないのでしょうか。

P:僕はアイスランド語を話します。英語と同じ言語家族ですが、習得するのはかなり難しい言語です。僕は字幕のついたテレビをたくさん見て覚えましたが、この方法はオススメしません。僕もアウトサイダーの気持ちはわかります。まだ言葉を理解できない1年目は孤独でした。とにかく習えるだけ習って、移民の友だちも作り、結果たくさんのアイスランド人の友だちができました。

私は、2013/14年のアイスランド・エアウエイヴス時にレイキャヴィックに滞在し、ユニークなインディ音楽シーンと文化に魅せられました。アイスランドは、一度経済崩壊した国にも関わらず、少なくとも、同じように、経済的、将来の不安にさらされながら、活動している他の国のインディバンド達に比べて、とても元気で活発なエネルギーがあります。それはなぜでしょうか。

S:経済崩壊は、バンドの人たちに影響を与えませんでした。彼らは元々お金を持っていなかったし、崩壊しても、失うものがありませんでした。一般的に言って、この国はうまく渡っていて、ほとんどの人は借金のために働く賃金奴隷ですが、道で食べ物に困って倒れているわけではありません(いまの政府は、この10年の間にみんな貧困で死ぬように働きかけているけど)。なので、彼らは趣味でバンドをするための時間、お金、エネルギーがあります。ここの90%の音楽シーンはアマチュアが基本で、ミュージシャン、テクニシャン、ブッキング・エージェントも、本当の「仕事」を持ちながら、自分たちの音楽をサポートしています。ここにも、経済的、将来への不安はありますが、単純に、ミュージシャンでやっていける人はいないし、だから基本的に何も変わらないし、経済がどうであれ、僕たちは、やっぱり貧乏で必死にもがいているのです。

P:抜け目ない観察力ですね(笑)。たしかに、とくにレイキャヴィックは、長いあいだ、とても良い揺れ動くようなインディペンデント音楽シーンがあります。最近は、競合するようになりましたが、地元のバンドはお互いを助け合っていますし、違うバンドのメンバーたちが、同じ音楽シーンから出てきて、一貫性の感覚を加えます。正直に言って、インディペンデントミュージシャンは元々貧乏で、厳しい中で繁栄しプレイし続けるので、良くも悪くも、経済が音楽シーンに影響したとは思いません。

L:ここアイスランドは、たしかに生々しく、保存された才能に溢れています。音楽コミュニティはとても小さく孤立していますが、ほとんどのミュージシャンは、いくつかのバンドを掛け持ちし、リンクしています。アイスランドの音楽シーンの人びとは、音楽やアートを作ることだけに占領されず、ラジオやメディアなど、あらかじめ決められた基準にフィットしているような気がしますが、これが物事を本物で新鮮にしているのかもしれません。経済破綻のあるなしに関わらず、アートは発見されるのです。アイスランド通貨の低下など、良い面、悪い面はありますが、アイスランドは、いままでで最高に観光地として人気で、アイスランド文化やアートへの興味がどんどん上がりました。

レイキャヴィックに、マクドナルドやスターバックスがないのはなぜでしょうか?

S:マクドナルドやスターバックスが他の国で占めているニッチな部分を、ここでは他のチェーン店が占めています。マクドナルドの支店は、10年ほどありましたが、彼らは生き残れませんでした。なぜかはわかりませんが、アイスランドの人びとは、すでにドミノピザ、KFC、サブウェイなどを食べ過ぎていたので、マクドナルドがなくても困らなかったのではないでしょうか。スターバックスについては、アイスランドには、KaffitárとTe & Kaffiというふたつの地元のチェーン店があって、スターバックスと同じような機能を果たしているからだと思います。

P:はは、その通りです! 最後のマクドナルドがアイスランドを去ったのは2008年。マクドナルドの材料を輸入するにはコストがかかりすぎで、ちっぽけな値段でしかチャージできないからだと思います(マクドナルドには、彼らが生産した物しか使わないと言う、材料に厳しい規定があります)。それにマクドナルドは、ドミノピザなどの、他のチェーン店に比べ、アメリカンフードとして、そこまで人気がでなかったです。スターバックスに関しては、ここには、Te og Kaffi(tea and coffee) という同じようなチェーン店があって、すでにコーヒー市場を占領していて、さらには個人経営のコーヒーショップもあります。スターバックスのアイスコーヒーのボトルはスーパーマーケットで見かけますが、スターバックスがアイスランドで生き残れるチャンスは少ないと思います。小さな市場にたくさんの競争相手です。

 注:アイスランドで最後に出されたマクドナルドのチーズバーガー(2008年)が、6年たっても変わらないという記事がPaulも執筆する媒体に出ている。
https://grapevine.is/news/2015/01/26/last-mcdonalds-burger-sold-in-iceland-unchanged-after-6-years/

L:アイスランドにマクドナルドは昔ありましたが、スターバックスはないです。何故だかわかりませんが、大手の企業はこんな小さな市場、たった30万人の人口から、十分な利益が出ると思わなかったのでしょう。アイスランド人はクールなので、大企業はまわりにいらないという人もいますが、そうだとは思いません。アイスランドの郊外の生活を見たらわかると思いますが、何処でもあるような光景が広がっていて、全然クールだと思いません(笑)。

アイスランドの人びとは、反グローバリゼーションを意識しているのでしょうか? またアイスランドがEUに加盟しない理由はなんでしょうか?

S:アイスランドはEU加盟国ではありません。この問題はいまも続いていて、僕が覚えている限り、熱い討論になることもあります。いまの政府は、無能なハッカーと貪欲者、操られた田舎者によって成っていて、なかにはEUへの加入についての話し合いを辞めるように、任意に決める反社会者ギリギリの人もいます。なので、いまのところEUに加盟していませんが、いままで起こっていることを総体し考えると、それが良いのかもしれません。個人的にはどちらでも良いですし、正直に言って、僕の毎日の生活がからりと変わるとは思えないし、EU加入国になったら、魚が載っている馬鹿げたコインを使わなくてよいぐらいだと思います。
 反グローバリゼーションについてはわかりません。わかっているのは、グローバリゼーションがなければ、アイスランドは存在していないでしょう。我々はほとんどの物を輸入に頼っていますし、個人的に僕は、グローバリゼーションのプロです。でも君もわかっていると思いますが、僕にはアイスランド全体のことは話せません。

P:アイスランドから見て、グローバリゼーションとEUへの加盟は別の問題と考えています。平均的なアイスランド人は、彼らがグローバルな企業から買う製品は、発展途上国で低賃金で作られた物で、未開発で危険な時もあるとは、そんなに真剣に考えていません。
 EUについては、ほとんどのアイスランド人は加盟することに反対です。ただし、反対意見にも、問題について意見を混ぜています。いまの右翼の政府は加盟に反対していますが、反対の左翼は問題に対して国民投票を望んでいます。アイスランドがEUに加盟するのは、良くも悪くも、時間の問題だと思います。

L:グローバリゼーションはアイスランドではそんなに大きな問題ではないので、人びとはあまり気にしていませんが、EUは大きな問題です。EUに加盟しないのが、良いのか悪いのかわかりませんが、一般の人びとは良いと思っているのでしょう。アイスランドは、世界で10本の指に入る物価の高い国ですが、人びとはそんなにお金を稼ぎません。問題はアイスランドが他の国と天然資源を共有しないことかもしれませんが、僕にはわかりません。

ビョークのニューアルバムが発売されましたが、ビョークはアイスランドでも特別人気があるのでしょうか? レイキャヴィックで素晴らしいバンドをたくさん見た後では、ビョークもアイスランドではごく普通なのではと思いました。

S:君はだいたい正しいと思います。ビョークは、ここではそこまで人気ではありません。ヨーロッパで人気がでるまで、彼女やシュガーキューブのことを誰も凄いと思っていませんでしたが、ここでは良くある話なのです。実際同じことは、オロフ・アーナルズやオーラヴル・アルナルズ、アウスゲイル、オブ・モンスターズ・アンド・メンに起こっています。いまでも、ここでは彼らのことを聞いている人はあまりいません。彼らは、アイスランド以外で人気があるのです。ビョークは、ここ何年かでアイスランドの顔になってきましたが、いまでも平均的なアイスランド人はそんなに彼女を聞かないし、聞くのは他の場所と同じように、アーティなオルタナティブ・キッズのみだと思っています。

P:アイスランド人は、もちろんビョークが好きですが、他の国ほど彼女に対して大騒ぎはしません。彼らは、彼女を地元ではなく、グローバルシーンにいる、一人のアイスランド人としてみています。彼女を尊敬し賞賛していますが、地元で活躍するアーティストの方に注目しているのではないでしょうか。

L:アイスランドはビョークが誰かは知っていますが、知名度はそこまで大きくはありません。僕のまわりの人たちはビョークの作品を高く評価し、素晴らしいアーティストだと思っています。しかし地元のメディアや僕のまわり以外は、そこまでではありません。一般的なアイスランド人は、ビョークが世界的にインパクトあるアーティストだと思っていないのではないでしょうか。

シンドラはアイスランドが大嫌い、ということですが、どこに住んでみたいなど、希望はあるのでしょうか。

S:いま、シアトルに引っ越そうと思っています。僕の妻がシアトル出身で素敵な都市だし、快適に暮らせると思うのです。

アイスランドの音楽に共通する特徴は何だと思いますか? 自然主義的なところはひとつあると思うのですが。

P:難しいですね。アイスランドの音楽は、他の国の同様に多種多様です。世界的に知られているとは思いませんが、アイスランドのラップ・シーンもあります。一般的に言って、アイスランドのポップ音楽はインディ・テイストに、ソフトロック、アコースティック、フォーキーな感覚が備わったものが多いと思います。Of Monsters And Menなんかは良い例です。

L:自分のまわりの自然、話す言葉の響きなど、人は自分の置かれた環境に影響を受けるので、それがアートにも表れるのでしょう。ある場所の、全ての音楽に共通点を見つけるの、難しいです。恵まれたことに、たくさん種類のアイスランド音楽がありますから。

アイスランドで好きなバンドを教えて下さい。彼らはコミュニティとして存在するのか、より独立しているのでしょうか?

P:お恥ずかしいことに、そんなにたくさん「いま」のアイスランドの音楽を聴いていないのですが、僕がアイスランドのミュージシャンで好きなのは、100,000 Naglbitar、とくにアルバム『Vögguvísir fyrir skugguprins』、Emiliana Torriniのアルバム『The Fisherman's Wife』、Ragnheiður Gröndalのモノならなんでも。彼女の声は素晴らしいです。『Rokk í Reykjavík』のサウンドトラックや、Mammút、友だちのシンドリも、とても良い作品を作ります。

L:すでにレコードを出しているアーティストなら、Múm, Sin Fang, Sóleyなど。新しい物なら、Mr. Silla のニュー・アルバムは楽しみです。今日はいつも素晴らしいと思う、スロウブロウというアイスランドの古い音楽を聞いていました。新しい物、古い物、どちらも良い物がたくさんあります。

Eccy - ele-king

どもです!エクシーです。

2月も半ばになりましたが、2014年のアルバムチャートを発表したいと思いますー!!

今年はCandleさんとFollow The White Rabbitというヒップホップユニットを組んだので、アルバム出します。その他もまだ発表出来ないプロジェクトなどもあるので、お楽しみに!

10 Best Albums Of 2014

Sunil Sharpe - ele-king

 初期にはゼロ年代のドローン/パワー・アンビエント・ムーヴメント以降の良質なローファイ・クラウトロックやエクスペリメンタル系のリリースを手掛けている印象の強かったアイルランド発のインディペンデント・レーベル〈トレンスマット(Trensmat)〉が近年は良質な電子音楽をリリースしている。「ドローン、ノイズ、オシレーション、そしてグルーヴをお届けします」というレーベルのステートメントにあるように、彼らには純粋な意味での電子音楽に対する美意識を強く感じさせるし、多くのレーベルが繋ぐことができなかった過去10年間のアンダーグラウンドの流れを見事に包括している希有な存在ではなかろうか。

 アイルランドはダブリンを拠点に活動するスニル・シャープ(Sunil Sharpe)は90’sリヴァイヴァル・ハードテクノに終わらない現代的な感覚をトラックへ昇華させているし、それが彼のサウンドの比較対象であるようなベテラン勢たちが近年みせてくれる、ノワールなイメージ、リヴァーヴに劣化音質といった判で押したようなスタイルとは決定的に異なっているのも好印象である。

 スニル・シャープが同郷のディフェクト(DeFeKT)と結成したライヴ・エレクトロニクス・デュオ、ティンフォイル(Tinfoil)もまた素晴らしい。〈ブラックネックス(Blacknecks)〉傘下である同名レーベルからこれまで2枚の12インチをリリースしているが、どちらも息を呑む、セッションならではの緊張感をテクノに落とし込んだ良盤である。

直球なアシッド・ラインに乗る、ハードを用いて探求されたであろう個々の音作りも見事で、近くに寄ってテクスチャーを感じても、遠くからグルーヴに身を任せても楽しめるレコードとなっている。なぜアルミ箔なのか? そのあたりもガッツリとコンセプトがありそうではあるが不明である。そういえばDJソイビーンズ(DJ SOYBEANS)の音源のジャケもアルミ箔なんだけど流行ってるのか? 噛んだ感じがいまのテクノっぽいとかで?

interview with NRQ - ele-king

 2014年12月29日午後8時過ぎ、インタヴューを終え、服部将典とともに宴もたけなわの階下に戻ると居間のソファの上でおくれてきた中尾勘二が牧野ジュニアともつれあっていた。嬌声をあげ激しく対等に遊んでいる。場のムードはだんだんによいよいで、敏腕ディレクターである〈Pヴァイン〉の安藤氏はほかに担当するバンドのライヴがあるので辞去され、取材を終えた吉田さんの頬はほのかに赤らみ、ホストの牧野氏はもてなしに忙しい。私はビールを2、3杯飲んだけれど酔うほどではない、というか取材なのでベロンベロンになるわけにいかない。ゆえに素面、シラフのMCなのであった。

 このインタヴューを読まれる前に、昨年初秋に出たエレキング別冊第1号をお持ちであれば、そのなかの中尾勘二と牧野琢磨の記事にお目どおし願いたい。コンポステラやストラーダでハナからジャンルにおいそれと括られなかった中尾勘二の多才、異才の一端をそこには記しており、本稿はそれを承けつつ、ひとまわり以上年の離れたバンドのなかで、打楽器および管楽器奏者あるいは作曲者として何を目論見、また初志というよりも音楽の本能というべきものを貫くことの楽しさと難しさについての彼の考えを補遺するものとなれば幸甚である。

 とまれ、ここで私がながながと書き連ねるのもヤボであろう。話のつづきにさっそくとりかかりたい。
 もっともっと遊んでほしそうな牧野くんの愛息に断って、二人は階段をあがり中尾勘二はこういった。
「あのひと(牧野ジュニア)は自分の意見を通したい、一度何かを思いついたら変えたくないんですよね。非常によくわかります。その発想も組み方まで私と似ている。思いつきなんですよ」


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その思いつきを完遂するんですよね。

中尾:思いつきでいってみようって感じなんですね。

外部から説得されて考えが変わることはありませんか?

中尾:まったくないです(笑)。

それは説得の仕方如何ではないですか?

中尾:それだけの力量あるひとがついぞ現れなかったということでしょうね。

いまに至るものもありませんか?

中尾:協調性に関しては、小学校の5、6年のときの先生が多少は軌道修正をしてくれました。4年生までの先生は完全に私にお手上げだったんですが、その先生にはその感じはありませんでした。お陰で若干協調性は芽ばえました。若干ですよ、若干。

先生たちの対応から大人を観察していたのかもしれないですね。

中尾:私のオヤジは教育者だったんですが、ああいうので先生が務まるのだろうかとつねづね思っていたんですよ。親子関係が悪かったわけではないですけどね。趣味は合うんです。山に連れていかれても山は嫌じゃないし、音楽も演歌とロックのレコード以外はたいがいあってそれが毎日のようにかかっていて、それはいいんです。だからちょっといびつでした。
 先生のアレは職業病なんですかね? 何かと絡んでくるんですよ。オヤジは家でも自習時間に回ってくる先生みたいな感じで、何か悪さをしているんじゃないかと監視するんですね。そのときの録音の記録が残っていますよ。

とにかく録音でした。ラジオが好きで。中波、短波ラジオを録音していました。

中尾さんが監視を録音されたということですか?

中尾:はい。オヤジが様子を見に来たところを録音したんです。いま聴いてもあれはゾッとします。足音が恐いんですよ。ドン、ドン、ドン、ドンとしだいに大きくなって、最初は小声ではじまるんです、九州弁で「何しよっとや?」って。それを4回繰り返すたびに声がだんだん大きくなり、最後は「何やってんだ!」と大声です。私はビビりながら「あっ、ちょっと録音を試している」というのに対して「ひとが喋っているのを録るんじゃない。このバカ野郎」みたいな返答をしているのが録音に残っています。恐怖政治のなかで私は録音に勤しんでいたんですね(笑)。

録音が世界との接点だったのかもしれないですね。

中尾:とにかく録音でした。ラジオが好きで。中波、短波ラジオを録音していました。昨日も聴き返したんですが、その頃に録ったものはいまもおもしろいですね。北朝鮮の70年代のアジ番組とかね。

朝鮮語だと何をいっているかわからないですよね。

中尾:日本人を洗脳するための日本語放送なのでわかるんです。私はそれでプロレタリアートとかブルジョアとか帝国主義ということばを憶えました(笑)。

北朝鮮からことばを輸入したんですね。

中尾:裏切り者集団とかね。当時のソ連のことなんですけど。フルシチョフとかブレジネフは裏切り者集団で、資本主義をとりいれているとかね(笑)。

でもそれはただの演説ですよね?

中尾:その喋り方が面白いと思ったんですよ。日本人はこんな喋り方はしないなと。NHKの喋り方ともちがうけれども、調子は日本語と似ているんですよ。当時は韓国の日本語放送も聴いていました。『玄界灘に立つ虹』とかね。それもテープが残っているんです。北朝鮮とは内容がだいぶちがいます。つまりスピーカーとか、マイクとか、電波を介していろんなことをやるということですね。録音をしてしまえば、そのなかに入っていけるような気がしたのかもしれないですね。

ご自分を音素に還元する感じなのでしょうか?

中尾:というよりラジオのマネがしたかったんでしょうね。そんなに高尚な考えではなかった。

テレビではなく、あくまでラジオなんですね。

中尾:ビデオが普及する前だったので映像をつくるのは現実的ではなかったし、テレビの画面のなかにはどうやっても入ることができなかった。ウハハハハハ。でもラジオはがんばればトランスミッターでFM音源を飛ばすことも当時はできたし、そこまでしなくてスピーカーから出ている音自体を、これは放送だと自分にいい聞かせれば、それは放送なんです。ただ再生して聴いているだけでも、これは放送だっていう設定の自分がそこに居れば、放送になりえるわけですよね。そこがテレビとはまったくちがいます。

中尾さんはインターネットのような現在のメディア環境に興味はありますか?

中尾:ないですね。

それは当時のメディアとまったくの別物ということでしょうか?

中尾:いや、延長線上にあると思いますよ。

じゃあなぜ興味をもたれないんですか?

中尾:自分のキャパを超えているんです。ネットを引くにはお金が要る。これはマジメにそうなんです。携帯を持たないのと同じで、経済的な理由ですよ。いまはだいぶ安いのがあるらしいですけどね。私は通信費は3000円までと決めています。

その上限はどこに由来するんですか?

中尾:NTTからくる請求書がだいたい2500円くらいから携帯のひとと長電話をしたときは3000円くらいだから。

なるほど(笑)。

中尾:それ以上は払いたくないですね。それに携帯ではファックスが受けられない。

携帯をもつ代わりに家の電話をやめなければならない?

中尾:経済的にはそうせざるを得ない。どっちを選ぶのかってなると、まだまだ家電いえでんとファックスでいけるだろうと。明日仕事があるかどうかわからない人生を歩んでいるので、とにかく、いまあるお金を大事に大事にしていかなきゃいけないわけです。

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私は18歳のときにはじめたビルメンテナンスを生業に収入を得て、その片手間に何かお誘いがあったら音楽の真似事をやっている、そういう設定になっているんです。


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しかし中尾さんはこれだけ長いこといろんなバンドで活躍されてきましたよね。

中尾:はっきりいってそれは関係ないですよ! プラマイで考えたらゼロかマイナス、いやはっきりとマイナスですね。ちゃんとした会社に入れるとは思いませんけど、それでもフルタイムで週6の仕事をすればもっと安定するはずなんです。演奏していたらそんなことできっこないじゃないですか? 音楽なんかやっているから貧乏なんですよ。こんなことに片足を突っ込んじゃったせいで──

片足ではないと思いますが。

中尾:いや、片足です! 私はビルメンテナンスの仕事をしているんですが、1年半前に定期で入っていた現場の仕事がほぼ7割くらいなくなったんです。これはもう家賃が払えないとなと、急遽借金をして引っ越しまして、部屋も広さを半分に、家賃をきりつめ、荷物を田舎に送り返して、要するに生活レベルをガクッと落とすことによって、ギリギリ生き延びることに成功したんです。でも定期的な収入は何も確約されていない。偶然この1年半はなんとかなっているだけで、来年以降のことはまったくわからないですね。そんなときネットなんてやっていられないですよ。ハハハハハ。

でも中尾さんの口ぶりには悲壮感をおぼえませんね。

中尾:額面どおりにこの状況を受けとめたら、私は本来3つくらいバイトをかけもちしなきゃいけないんです。それを「なんとかなるだろ!」と思うために現実をみないようにしているんです。そうすることによって、逆に何とかなっているともいえるわけですよね。あくせく昼も夜もバイトいれたりするべきなんでしょうけど、そういうのはいっさいしない。ないときはないときでいい、あるときに稼いでプールしておけばいいと思ったんです。でも逆にそのためには極端な節約ですね。通信費は3000円まで、外食は基本的にほとんどしない、酒もタバコもやらない、飲みに誘われても10回に1回しか行かないとかね(笑)。そうしている間もレコードを買ったりしなきゃいけないし。研究費ですからね!

名目は何でもいいと思いますが(笑)。

中尾:そのレコードも(税込み)108円のとかしか買わない。

逆にそうしてまで音楽はやらなければならない。

中尾:そんなことはないです。音楽がなければもう少し安定化が図れます。ちゃんと仕事をすればいいんですから。

それはまあそうですけど。

中尾:音楽でちゃんとお金を払ったひとなんてほとんどいないですよ。●●●とか●●●とかみんなもち逃げ、もち去り。

具体的な名称を出すのはやめてください(笑)。

中尾:いや、だって本当だもん! でもまぁ、私はミュージシャンじゃないっていう立場で自分はそう考えようと思っているんですよ。ミュージシャンだと考えたらこれはもう赤字で成り立っていないですよ。そんなもんでは食えない。私は18歳のときにはじめたビルメンテナンスを生業に収入を得て、その片手間に何かお誘いがあったら音楽の真似事をやっている、そういう設定になっているんです。
 大原裕くんには「中尾くんは音楽で食おうとか思わずに、仕事をしていてそれでやっているのは羨ましい」みたいなことはいわれましたよ。でもそれはミュージシャンでやろうとするから大変なことになっていくわけですよ(笑)。私はプロになりたいとか音楽で食いたいとか一度も思ったことはありません。でも小学生の頃の延長線上だと思えばべつに関係ないじゃないですか。自分で面白いと思ってやっていて、40何年にわたって研究がつづいていると思えば、別にそれはいいんじゃないか、ということですね。

“スロープ”ではバスドラとハイハットを足で踏みながらクラリネットを吹いています。これはコンポステラで鍛えられた技です。昔とったキネヅカでございますよ。

先ほど、片足を突っ込んでいるとおっしゃいましたが、片足だけでも抜け出せないこともありますよね。

中尾:いや、抜けだせますよ。

(笑)

中尾:前にもいいましたが、私は誘われるから外に出ているわけであって、自主的な活動はいっさいしていない。篠田(昌已)くんが私を誘ったから露出したのであって、それがなければ私は家でニヤニヤしながら録音しているだけなのはこれはたぶん変わらない。誘われなければ、ただひきこもるだけの話です。そりゃあ家では何かはやりますよ。そのちがいだけです。
 外に出るとなるとある種の責任が発生するじゃないですか。たとえば、メンバーだといわれちゃったりする。自分では無責任だと思っていても外部的には責任が発生しますよね。急にやめちゃったりとか、楽器を捨てたり譜面を破ったり、ライヴ中に「こんなバンドをやめてやる!」とか叫んだり、そんなことちょっとできない。

その状況がたまたまつづいているだけだと?

中尾:そうです。だからみんなは中尾勘二をもう呼ばなくていいと思えば、自然と元に戻る。

その点はNRQでも変わりませんか?

中尾:私の印象としては何らかの利用価値を見いだしたひとが、ちょっと試しに私を使ってみよう、と思いついた観があるんです。かかわったものすべてがそうです。だって譜面が読めない、コードがわからない、楽器をちゃんと習得しているわけではない。それに声をかけるのは、よほどの特殊な思いつきじゃないとありえないし。私だったら頼まないもん。ワハハハハ。

普通じゃない思いつきだから頼むということですよね?

中尾:でもそれって普通のメンバーの感じでもないじゃないですか? 何を考えているんだろうって逆にこっちが思います。「いい」といわれても何がいいのか。具体的にはいえないじゃないですか(笑)? あんまりそういうことをはっきり訊いたこともありませんが。

NRQが3枚めになって他のメンバーとの関係性に変化はなかったですか?

中尾:変わっているはずなんですよ。たぶん第三者が傍らにずっといれば分析できるんでしょうけど、なんせこういうのは灯台下暗しですからね。ガラッと変わったわけでもないですからね。でも、現実にどうなっているかっていうのは、私は自分の音源は自作の多重録音以外は聴かないので(笑)、ちょっと今回の作品がどうなっているのかよくわかっていないんですけども、印象としては何か変化があるんだろうなとは思います。でもそれが前作、前々作と異色な位置にあるとは思わないです。

今回は前作までより管楽器を多用されていますね。

中尾:アコースティック・アンサンブル的な思考が芽生えている、なんとなくそういった流れはあるかもしれません。一時期ブンチャカブンチャカやればいいのに、流れているきらいもあったので。

流れるというのはどういうことですか?

中尾:「ビートのある曲で掴みたい」といった考えに対する疑惑を、私は抱いていたことがあるんですね。ライヴのときの(曲の)並べ方とかね。そういうのもわかるけど、それはべつに他のひとがやればいいでしょ? そのことを私は口にしたわけではないので、みんなに気づかれたのかどうかわかりませんが、アコースティック・アンサンブル的にはなっているかもしれないですね。

その方向をとるにあたって、バンド内で話し合いはもたれていないということですよね。

中尾:でもリハをしているとどちらでもいい局面はいっぱいあるんです。新しい曲をやるとき、ドラムを叩くか管楽器を吹くか決まってないと試しにいろいろやってみるんですが、そのときに私の思いというか希望がね、ドラムはちょっとイヤだなというのがバレたのかもしれません。一般的にいえばドラムであればおさまるんです。そのぶんイージーなんですね。それに私は管楽器が上手なわけではないので(曲に)慣れるまではアラが出るというか、不安定な状態がわりとつづくんです。そういうときにバンドが我慢できるかという問題もあって、それを我慢すれば、ちがうかたちになる場合もあることに薄々気づかれているのかもしれない。

べつに気づかれたってかまわないじゃないですか(笑)。

中尾:ワハハハハ。

今回はほとんど一発録りなんですよね。

中尾:ほとんどそうですね。かぶせている曲もありますけど。

かぶせるなら、ドラムも管もどちらもできるはずですよね。でもそれを積極的にやろうとは思わないということですよね?

中尾:そうですね。それはライヴでやるときのこともあるということです。私なんか、コンポステラの経験もあるから、ドラムがなくてあたりまえだという、でも、それに対して、(ドラムが)あると安心というのはあるじゃないですか。つねにこのせめぎ合いですよね。

資料にありましたけど“スロープ”では──

中尾:バスドラとハイハットを足で踏みながらクラリネットを吹いています。これはコンポステラで鍛えられた技です。イヤイヤやっていたのが役に立ちました(笑)。でもじつはクラリネットを後でかぶせるためにプレイバックした場合、ノリを合わせるほうが難しいんですよ。だから一度にやるに越したことはないという理由もあります。レコーディングの日を置いてしまうと自分の音が別人のように聴こえることもありますよね?

そうですね。数日前の自分がやったことがわからなくなることはありますね。

中尾:それよりは、足りなかったり、アラがあったりでも同じひとが演奏したほうがいいんじゃないかという発想です。そっちのほうがリズムも管楽器のフレーズも安定します。

立ってベードラを踏みながら演奏するひとはいますが、両足で踏みながら管楽器を吹けるひとは見たことありませんね。

中尾:昔とったキネヅカでございますよ。

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インチキには合理性が大切なんです。インチキは即製であって、合理性がなければ、手間をかければかけるほど本格的になってしまう(笑)。ムダを省き、これだけあればそれに聴こえる、見える、相手を欺けるということですね。


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コンポステラでのときも、曲の要請から仕方なくやったんですか?

中尾:できるからやったんです。それでちょいちょいやっていました。トム・コラがメンバーだったスケルトン・クルーってあったじゃないですか? 篠田くんはあのバンドのようにメンバーが(楽器を)どんどんもちかえるのに憧れたていたみたいで、一度コンポステラで、3人の前にバスドラはじめ打楽器を置いてライヴをやったことがあるんですよ。そしたら、篠田くんと関島(岳郎)くんはぜんぜんできなくて(笑)、それはその1回でヤメになっちゃいました。私だけに残ったんです。

それを今回録音の場で実践したと。

中尾:吉田くんの曲中の繰り返しフレーズは、コンポステラでの私の苦い経験を彷彿させるものでもあったのです(笑)。

この前のインタヴューで吉田さんはコンポステラの影響は大きいとおっしゃっていましたね。

中尾:あるんでしょうけどね。私としてはイヤだけど、このほうがおさまるだろうと。それに、苦痛をおぼえる時間も最短で済む(笑)。

スタイルから発想までたぶんに合理的ですね。

中尾:インチキには合理性が大切なんです。インチキは即製であって、合理性がなければ、手間をかければかけるほど本格的になってしまう(笑)。ムダを省き、これだけあればそれに聴こえる、見える、相手を欺けるということですね。

練習や鍛錬はお好きではないですか?

中尾:それを意識しないことです。みずからなにかを追求する、それに時間を要するのは問題ないんです。いくらインチキでもやらないとできないからね。その結果、私自身笑えれば、うまくごまかせればいい。録音物としては「やり捨てゴメン」みたいなところは私にはありますよ。なにをやったのか憶えていない、レコーディングで「OK! ありがとうごうございます」といわれた瞬間に忘れてしまう(笑)。

あえて忘れるように自分を仕向けていませんか?

中尾:ちがいます。一所懸命ではないから憶えてないんです。もちろんフと思い出すこともありますよ。私は真剣に音楽のことを考えてない。それはある一部のひとには伝わっている。そういう人たちは私を誘うまい、と考えているはずなんです。

そういう方がいたとしても、私には音楽についての考え方のちがいとしか思えませんが。

中尾:それを音楽をマジメにやっていないと見なすんじゃないですかね。実際にマジメにやっていないですから、その評価はあたっていますけどね。

その側面では当りだとしても、でもマジメにやらないことをマジメにやっていると思うんですよ。

中尾:たしかに、いい加減にやることに真剣とはいえるかもしれない。でもだったら「ちゃんと勉強すれば?」といわれるんです。

その点を突き詰めたのは、中尾さんの独断場ともいえるかもしれない。

中尾:いや、そんなことない。このまえ、むかし録音したタモリの「オールナイトニッポン」を聴いたんですが、すごいですよ、あのひと。ニセ現代音楽とかね。タモリは30歳くらいで東京に出てきたときに、仕事がほとんどなくて暇でテープにラジオドラマとかを録音していたらしいんです。それで、そのテープを自分の番組で流しているのを私はエアチェックしていたんですけど、もうすごいんです。水を入れた瓶を吹いたり叩いたりしてニセ現代音楽をやっている上にデタラメなスペイン語でサルヴァドール・ダリが自作を語るナレーションが入るんです(笑)。

ダリのモノマネされてもだれだかわかりませんよね。

中尾:最初に日本語で「サルヴァドール・ダリはこういった」っていうんですけどね(笑)。

それはうまいですね。

中尾:さいきん新しくはじまった番組でも、フラメンコのギタリストとパーカッショニストの前でデタラメのファドを歌いあげていましたから私なんかぜんぜん敵わない(笑)。私は家で多重録音をニヤニヤしながら聴くくらいが関の山ですから上には上がいるということです。それがコンポステラとストラーダのせいで、マジメで真剣なひとだと思われてしまったので、そうじゃないということをね、死ぬ前にそのことをみなさんにお伝えしなければならない、自己開放をも兼ねたムーヴメントが私のなかに起こってきているのです。人前でデタラメに歌ったりするのも、そういうことに努めているともいえます。

コンポステラとストラーダのせいで、マジメで真剣なひとだと思われてしまったので、そうじゃないということをね、死ぬ前にそのことをみなさんにお伝えしなければならない、自己開放をも兼ねたムーヴメントが私のなかに起こってきているのです。

コンポステラをシリアスに聴いていたお客さんのなかにはそれを聴いて引いてしまうひともいるかもしれませんね。

中尾:お客さんにも悩んでいただいたほうがいいんです。一面的なところで納得されても困るじゃないですか。「こんないい加減なやつがやっていたんだ」って思ってもらいたい。それで「なんであんなふうに聴こえたんだろう?」と考えてもらったほうがよいのではないでしょうか? これも前にいいましたが、コンポステラはイヤではあったけれども、やるからには真剣であったわけで、シリアスさにはウソはないんです。しかし一方では人間はシリアスではないと伝えなければならない。そうすると「中尾勘二は切り捨てる」ひともいると思いますけど、逆に「中尾はいい加減なやつだ」だと思っているひとにもそこから別の発想が出てくるかもしれない。そういうふうに影響し合えば面白いかなと思いました。

ご自分の過去の活動に対する、自分なりの再定義を試みる時期なんでしょうか?

中尾:そうかもしれません。当時は「あー、終わってよかった」くらいの勢いでした。最後は篠田くんと絶交していましたからね。それがいまは、あれは何だったんだろうっていうのは考えます。ひとからいろいろ訊かれるたびに、いまの考えを含めて語るようになりました。そしてむしろ仲がおかしいときのほうが、なあなあのときよりもよかったのではないか、そういう話になってくるわけですよね(笑)。だからイヤななかで自分が何をするのかを考えるも、自分のためになるとは若いひとにいっているんですよね。「嫌いだからやらない!」というのは簡単ですけど、あえて嫌いなヤツのとこに入り込んで何をするのかというのも意義あることだと思います。私には「ゴキブリ共生論」というのがむかしからありましてね。

ほう。

中尾:「ゴキブリは嫌だ、見つけたら殺す」という考えはわりとあるじゃないですか?

普通ですよね(笑)。

中尾:でも全滅させるのはムリですよね。だったら嫌いなやつがうろちょろしていても、いいじゃないか、ともに地球で生きていけないだろうか。私はノンポリですけどね、宗教上の問題とかもそうやって考えればね。それにそう思えば、アジられて利用もされにくい。なびかないためにも、そういうゴキブリ思想をもっていたほうがいいんじゃないかと。

そうかもしれません。

中尾:それは音楽にも全部繋がっていて、思うわけですよ、あれはイヤだから、と排除しても、同じ地球上にいるかぎりかかわらないとしたら、自分の領分がどんどん狭くなるだけなんです。
 私は20代のときはすごく好き嫌いがはっきりしていましたから、イヤなら絶対にやらなかった。というより、イヤなことはまずできないし、拒否反応で体が動かなかった。音も出なくて、リハは行ったけど本番では逃げ出しちゃったこともあります。

そういうなかでも自分で何かやる道筋みたいなものを見いだせるようになったということですか?

中尾:いや、逆に自分を呼ぶひとが選んでくれるようになったんです。まちがって呼んだひとがそういう目に遭う(笑)。そのなかで諦めるひともいるでしょうし、もうちょっと出てくるかもしれないって粘るひとも出てくるかもしれない。いまは粘っているひとだけが残っているんじゃないでしょうかね。でもそれもいつかは愛想を尽かすかもしれない。転換期がきたらそれでおしまいかもしれないわけですが、どうなるかはわかりません。私は「なんとかお願いしますよ」と頼んだことなんてないですから。

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音楽を生け捕りにするのは難しいですよ。名曲は歩いているときに思いつくんですけど、ほとんど忘れます。


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中尾さんはNRQでここしばらく曲は書いていませんね。

中尾:今度出るアナログ盤用に曲を書いたんです。まあ駄曲ですけどね。

アナログ盤だけに収録するんですか?

中尾:そうみたいです。

どうしてまた?

中尾:もっていくのが遅かったからじゃないですか? それと、みんなにくだらない曲だということもちゃんと説明しちゃったから、みんなあまり真剣にとりくめない。

私はファーストの“台湾のおじさん”はよい曲だと思いましたよ。

中尾:あれは偶然できたようなものですから。あの曲は相当古いんですよ。パソコンでいろいろつくっていた頃の曲で、オクラ入りになりかけていたんです。それが、みんなが曲をもってこいとあまりにもうるさかったので、しょうがなくもっていったんです。

いまはパソコンでつくらないんですか?

中尾:環境を整えようと必死でとりくんではいますが、なかなか難しいですね。ネットをやっていないでしょ? いまのソフトはネット認証、ネット登録なので現行のものはまず使えない。それでちょっと前のMiniMacを2台買ってしまいました。クラシック環境で使える1台とOSXになりたてのヤツ。

がんばって2台買うなら、その分でネットを引きましょうよ(笑)。

中尾:ネットに接続するとアップデートの渦に巻き込まれるだけです。それくらいなら、壊れなければなんとかなるっていうのでいきたいんですよ。それでうまくいかなかったら、OS7.56くらいに戻れば済むハナシです。

OS7代の可動品があるんですか?

中尾:実家にあるんですよ。モノクロで、ヒューレット・パッカードの可動品のプリンターもあるので、それでMIDIといっしょにできる環境はあるわけですから、いざとなればそれを立ち上げればいいだけです。これからはコンパクトにいきたい。ソフトも新しくしたいなと思っているんですが、それがなかなかうまくいかない。プリンターが問題というのもありましてね。何も考えずに近所のハードオフでキャノンのプリンターをドライバーと説明書付570円で買ったんです。そしたら、OSが10.4くらいの中途半端なヤツで、最新のOSでもクラシックの環境でも動かないんです。

過渡期だったんですね。

中尾: OSXのMiniMacではプリントできるんだけど、クラシック環境のMiniMacではソフトがインストールできない。だったらPDFアウトにすればいいとか、いろんな技を試しているところなんです。

総じて中尾さんの家の外とは互換性のないシステムですね。

中尾:それでも、つくった曲を譜面でプリントアウトしてひとに配れる体制は復活させなきゃいけないと思っています。ここ6、7年そういう環境から離れていますから、それはいつでもできるようにはしないといけないとは考えているんです。外界と繋がるにはそれしかない。なんでもいいからインチキな譜面をつくってばらまいて、適当にやってもらう。

楽曲を自動的に譜面化するソフトを使われているんですか?

中尾:むかしはオールインワンのソフトはあまりなくて、シーケンスはシーケンスだけ、譜面は譜面だけ独立していたんですが、そこで手弾きでデタラメなアウトラインの雰囲気だけをつくるんです。それを頭のなかで四捨五入し、みずからクォンタイズをかけながら省略しつつ譜面ソフトで打ち込んで、正しいかどうかわからないから、再生しながら聴いてたしかめる(笑)。

めんどうな話ですね。アナログに収録される新曲もそうやってつくったんですか?

中尾:それはもうできていました。鼻歌ですぐに思いついて、それを忘れなかった。だいたい駅で切符を買ったときに忘れちゃったりするんですけど。ワッハッハ。みなさんは譜面を書けたり、もしくはiPadでつくっちゃったりするんだけど、私はそれはムリなので、公衆電話で歌って自宅の留守電に録音する手段も何回か試みましたが家で聴いてみると何をいっているのか見当がつかない(笑)。音楽を生け捕りにするのは難しいですよ。名曲は歩いているときに思いつくんですけど、ほとんど忘れます。たまたま生け捕りに成功した例もあるんですけど、たいした曲じゃなかった。いま私がいる従業員2名の会社で健康診断を受けに行くのに三鷹駅から会場の役所の施設まで歩いていたときに思いついたんです。そのときのシチュエーションもふくめ憶えています。

私はNRQ色をあの3人にもっと出してもらいたいと思うし、かたちになっていないものもふくめ、その因子はいっぱいあると思うんですよね。

そのときは曲の全体像が出て来るんですか?

中尾:そうです。つまり何かに似ているんですよ、ローランド・カークのつくる曲が何かに似ているように(笑)。断片のはっきりしたセオリーに適わないコラージュのようなものです。

それでも、コラージュにおける断片の位置関係には中尾さんは独自なものがあると思いますが。

中尾:それは音楽がわかっていないからヘンになっちゃうんですね。私はぶつかる音がきらいじゃないし、コードに合わない音もOKだと思っている、それがみんなを悩ませるんです。関島くんに「ここぶつかっているよ?」といわれたこともありますが、むしろぶつかっているほうが好きだったりするからヘンになっちゃうんですね。

作曲された曲についてそういう指摘を受けることはあるんですか?

中尾:しょっちゅうです。あとは、鼻歌を12音に置き換えるというズレるというのもあります。平均律で(音を)拾って調整するとニュアンスがちがってくることはありますね。先日「マヘル(Maher Shalal Hash Baz)30周年」のライヴに呼ばれて、短い曲ばっかりやったんですけど、「譜面が読めないからこれはやんなくていいや」と思って、ずっと座っていようとしたら、(工藤)冬里くんが1曲ずつ説明してくれるんですよ。メロディを弾いてくれたり歌ってくれたりして。そのメロディを聴かせてくれたときに歌ってごらんっていわれてマネたら、冬里くんは「低いでしょ?」というわけです。冬里くんは譜面が頭に浮かぶひとですが、それでも自分で歌って鍵盤でメロディを拾うと実際の音程よりもちょっと低いらしい。

頭のなかの音と身体で鳴らす音のあいだにズレがあると。

中尾:向島ゆり子さんにも私はちょっと低めに取っているといわれたことがあります。あとで聴き直すと気持ち悪いからわかるんですけど、それで12音に割り振っていくと、落とし所がズレていってヘンなことになっちゃうことがあるんですよ。

それがわかっていれば、作曲時にクォンタイズすればいいのではないですか?

中尾:それはもう諦め、それにより自分でも思ってもいない譜面ができあがるんです。だからやる気がしない反面、演奏によっては意外と面白くなることもある。

譜面を牧野くんや吉田くん服部くんに渡して、試しながら微調整していく?

中尾:お任せです。気になるところがあったら指摘しますが、私自身多重録音をしているときのことを考えたら、そこまでやりませんからそうなったらなったでいいんです。他の団体で「その曲はそうじゃない」といったことは1、2度ありますが、NRQではまだありません。NRQを思い通りに動かせないという悩みが牧野くんにはあったりするんですが、もうこの曲をやめようと私からいったことはありません。向こうはそう思っているかもしれないけど(笑)。

でももう5、6年はつづけてこらたわけですからね。

中尾:まだ何かでるんじゃないかと思っていますけどね。

どういったことか、具体的にことばにできますか?

中尾:私はとにかく、あのひとたちの色を出したい。自分のことをやるなら、多重録音という基本が私にはあるからいいんです。そういう意味ではあんまり曲をもっていきたくないんです。むしろNRQ色をあの3人にもっと出してもらいたいと思うし、かたちになっていないものもふくめ、その因子はいっぱいあると思うんですよね。ヘタにヘンな私の曲をやって、それが面白いとなったらそれはちがうと思うんですよ。「中尾がやっている面白いバンド」にはしたくないんですよ。彼らはネタが枯れたとかいったりすることありましたけど、まだまだだと思うんですよ。それをもっと出してほしいから私の曲をあまりもっていきたくない。もっていくなら、NRQを想定して新たにつくらなきゃならない。

それは今後の課題ですか?

中尾:そうですね。MiniMacがどうのこうのって体たらくですから全然進んでいません(笑)。生きているうちにはできないかもしれませんが。

UKオヤジ・ロックの逆襲 - ele-king

 今年もフェスのラインナップ発表の時期がやってきた。
 国内はもちろん、海外のフェスも続々と出演者の発表をはじめている。40代後半も終わりが近い僕にとっての今年最大のトピックはもちろんライドの再結成だ。
 日本はいったいどっちなのかハラハラしながら発表をまっている。

 そんな中、アール・ニューボールドというファッション・ブランドが今年の春夏シーズンのテーマに“MADCHESTER”(https://www.rnewbold.com/news/SS15-New-Season-Madchester-News.html)を掲げてきた。
 しかもハッピー・マンデーズのアートワークを手がけてきたセントラル・ステイション・デザインのオリジナル・デザインを大々的にフィーチャーしている。ロゴ以外にも1988年リリースの名作『ならず者』のアルバム・ジャケットやタイポグラフィーによるメッセージなどを展開、折しも今年マンデーズは〈フジ・ロック〉に出演が決定している。

 そしてシャーラタンズが3月に来日公演を行う。5年ぶりにリリースしたニュー・アルバム『モダン・ネイチャー』はメンバーの死を乗り越え、これまでのシャーラタンズのイメージを覆すような力作になっていた。

 つい先日には〈サイコキャンディー再現ツアー〉中のジェーザス・アンド・メリー・チェインが『NME』のインタヴューで新作の制作を行う予定だという発言が話題となった。ニュー・オーダーもなんと〈ミュート〉から今年リリースする予定の新作がほぼ完成という。そういえば去年インスパイラル・カーペッツも20年ぶりのアルバムを出していた。

 2014年はスロウダイヴの復活もあったし、あれ? ハウス・オブ・ラブもツアーやってる。ちょっと気になって調べてみたら、ワンダー・スタッフもジェイムスもステレオMC’sも、ノースサイドやファーム、テレスコープスまでライヴ・ツアーをやってるではないか! オアシス以外の〈クリエイション〉の主要バンドもマンチェ4大バンドもこの2015年に活動している、もしくは活動継続中だ。

 90年代リヴァイヴァルもここまでくると単なる再結成ブーム以上のことに思えてくる。2010年の〈スクリーマデリカ20周年ライヴ〉から、ローゼズの再結成、マイブラのアルバム・リリースなどの大きな話題が毎年続いている、この現象はいったい何を物語るのだろう。

 50年代のプレスリー、60年代のビートルズ、70年代のパンク、ポップ・ミュージックが多くの若者に夢を見せてきた。そこからバトンを受け取り、ダンスという武器を手にして新しい夢を見た90年代の若者たち。いまやオヤジとなった彼等は中年になり人生に悩み、さまよったとしても結局素直に立ち返るのは夢を見た日々だと気づいたのではないだろうか。そう思うと、再結成はロックのピュアネスを汚すものではなく、もう一度何かに挑戦するプロセスなのかもしれない。
そして、この現象を支えているのはオーディエンスに他ならない、ほんとにイギリスという国は音楽を愛している。うらやましい話だ。

 さて、僕等オヤジ世代にとって最大の関心ごとはローゼズの行方だ。一度は挫折したヒーローが歓喜のカムバックを見せたのは記憶に新しい。僕は彼等がその先をどう見せてくれるのか固唾を飲んで見守っている、心の半分ではもうなにも起きないかもしれないと、ほんの微かに思いながら。
 いや、しかし、これが単なる再結成でないと信じるならば、充分大人になった彼等は同じ過ちは繰り返さないだろう。

 僕等は信じて待ってもいいはずだ。(与田太郎)

ShotahiramaをTOWER RECORDS渋谷店で! - ele-king

 Shotahirama、この若き才能は何に苛立ち、何に戸惑い、そして何に向かって疾駆しているのだろうか──。本日掲載のディスクレヴューに加え、近日公開の三田格氏によるインタヴューからは興味深いアーティスト像が次々と露わになるようでいて、むしろミステリアスさの度合いも強まっていく(乞うご期待!)。ぜひともこの最新作『Stiff Kittens』や、それを記念するインストア・ライヴも目の当たりにしたい。

■shotahirama 『Stiff Kittens』発売記念ライブ+特典引換会

shotahirama (LIVE)
Ametsub (DJ)

開催日時:
2015年3月1日(日)

開始時間:
16:00

場所:
TOWER RECORDS渋谷店
8F Space HACHIKAI

内容:
ライブ+特典引換会

参加方法:
観覧自由(*)

ノイズ/グリッチミュージックの新機軸として、いま国内で最も注目を集めるshotahiramaによる待望の最新作『Stiff Kittens』発売を記念してタワーレコード渋谷店での貴重なライブパフォーマンスが決定!また、日本が世界に誇る音楽家AmetsubがスペシャルゲストとしてDJセットで登場!エレクトロニック・ミュージックの新たな地平を切り開き、シーンの最前線を直走るサウンドを発信する両雄の一夜限りの豪華共演、絶対にお見逃しなく!(担当:高野)

◆shotahirama by Shota Hirama Independent sound label SIGNALDADA
https://www.signaldada.org/

◆Ametsub Official Website
https://www.drizzlecat.org/

(*)
2/22発売(渋谷店先行2/15入荷)shotahirama『Stiff Kittens』(SIGNAL010)をタワーレコード渋谷店、新宿店にてお買い上げいただいたお客様に、先着で特典引換会参加券を差し上げます。特典引換会参加券をお持ちのお客様はライブ終了後の特典引換会にご参加頂けます。

対象店舗:
渋谷店 ・新宿店

対象商品:
shotahirama『Stiff Kittens』(SIGNAL010)
2015/2/22発売(渋谷店先行2/15入荷) 2,000円(税別)

※対象商品のご予約、お取り置きはお電話とタワーレコードホームページ(https://tower.jp/)の店舗予約・取置サービスでも承っております。
※特典引換会参加券の配布は定員に達し次第終了いたします。終了後にご予約(ご購入)いただいてもお付けできませんのでご注意ください。
※特典引換会参加券を紛失・盗難・破損された場合、再発行はいたしませんのでご注意ください。
※ライヴ終了後特典引換会を実施致します。
※特典特典引換会参加券1枚で1名様ご参加頂けます。(ライブ観覧自由です)
※当日は必ず特典引換会参加券をお持ちください。盗難・紛失等による再発行は致しません。
※当日の混雑具合により入場規制をかけさせて頂く場合がございます。
※イベント対象商品は不良品以外での返品をお受け致しません。
※カメラ及び録音機器等によるLIVE模様の撮影及び収録は固くお断り致します。
※店内での飲食は禁止となっております。
※都合によりイベントの内容変更や中止がある場合がございます。あらかじめご了承ください。


Shotahirama - ele-king

 ノイズが、グリッチが、サウンドが疾走している。ショータヒラマの音楽/音響を聴くと(というより聴覚に摂取すると)、その速度をありありと実感することができる。速度は、彼自身の鼓動や知覚、記憶の運動のようだし、同時に、この現代を生きている自分たちのリアリティのようでもある。破壊、粉砕、構築、速度。ビートは粉々に分解され、ノイズ・音響は超高速で接続される。これまでの事実が意味をなくし、新たな事実が増殖するように。そして音楽の反復性は有限の中に封じ込められ、一瞬の永遠が圧倒的な速度=強度のなか立ち現れるのだ。

 2014年のショータヒラマは、「速度」そのもののような活動を繰り広げてきた。『ポストパンク』『クラスター』『クランプダウン』『モダン・ラヴァース』などのアルバム4枚連続のリリースを敢行したのである。本作は、それらをすべて収めたボックスセットだ。まずは各アルバムについて簡単に述べておこう。

 ショータヒラマは2014年1月に自身のレーベル〈シグナルダダ〉からサード・アルバム『ポストパンク』をリリースする。清冽にして精密な電子音響作品であったファースト・アルバム『サッド・ヴァケイション』(2011)、セカンド・アルバム『ナイス・ドール・トゥー・トーク』(2012)を超える決定的なアルバムであった。ノイズ/グリッチが高速/高密度で展開し、新時代のノイズ/グリッチ・ミュージックの幕開けに相応しい傑作である。
 同年5月には、京都の電子音楽レーベル〈シュライン・ドット・ジェーピー〉のiTunes限定リリース・シリーズとして『クラスター』を発表した。電子ノイズが四方八方に炸裂するような強烈な作品である。芸術家・津田翔平による素晴らしいアートワークとの相乗効果もあり、イマジナティヴな作品に仕上がっていた。本ボックスも〈シュライン・ドット・ジェーピー〉からのリリースで、津田がアート・ディレクションを手がけている。

 翌6月にはマイクロダイエットとのスプリット盤『クランプダウン』を〈シグナルダダ〉からリリース。街中を包囲網に包むような、臨戦態勢を思わせる緊迫感に満ちた作品である。翌7月、カセット作品にして、初のドローン作品『モダン・ラヴァース』を福岡のカセット・レーベル〈ダエン〉から発表した。〈ダエン〉は、オヴァル、メルツバウ、イクエ・モリ、中村弘二(ニャントラ名義)、杉本圭一(フォーカラー名義)などのカセット作品を送り出しており、マニアから絶大な信頼を得ているレーベルだ。この『モダン・ラヴァース』は、音の粒が高速の粒子になり、そのまま線=千の持続的な音響になったかのような美しいドローン作品である。ちなみに『クラスター』と『モダン・ラヴァース』は本ボックスによって初CD化された。

 この4作を一気に聴き直してみると、彼のサウンドは電子音響でありながらも聴覚にアディクトするような「神経的」なものというよりは、肌に触れるヒリヒリとした感覚を想起させる「触覚的」なものだということがわかってくる。90年代末期から2000年代、〈メゴ〉以降に誕生したグリッチ・ノイズ・サウンドが偶発的なエラーを導入し、聴覚の神経性にアディクトするデジタル・パンクであるとするなら、ショータヒラマの発する電子ノイズやグリッチ・ノイズは、彼の鼓動やリズムと直結しているかのような肉体性を獲得しているように思えた。まさにポスト・デジタル・パンクといえよう。われわれ聴き手の肌や皮膚を直接的に刺激してくるような(電子ノイズの)触覚性。彼のトラックは低音が極端に少ないのだが、それは音響の空間性の確保し、サウンドの運動性を向上させることで、触覚性・肉体性を得るためではないかと勝手に考えてしまう(余談だが私は彼の痙攣し疾走するようなノイズとエレクトロニクスを聴くと、不意に阿部薫のサックスを思い出してしまう。もしくはアート・リンゼイのノイズ・ギターも)。
 
 デジタル・ノイズと肉体性を直結させるという新しい領域へと踏み込んだショータヒラマ。その2014年における驚愕のリリースは何を意味するのか。私は真夜中の世界からの闘争だったと(とりあえずは)仮定してみたい。2013年にリリースされたEP『ジャスト・ライク・ハニー』(DUCEREY ADA NEXINOとのスプリット盤)以降、アートワークの写真が夜の光景であったことを思い出してみよう。2011年の『サッド・ヴァイケション』と、2012年の『ナイス・ドール・トゥー・トーク』は、陽光が降り注ぐような写真であったのだから対照的である。たしかに、2011年にリリースされたユウ・ミヤシタとの『サッド・ヴァケイション・アゲイン』のアートワークは昼の光景とは思えないが、しかし2013年以降のアルバム・EPのほとんどが夜の意匠を纏っていることは紛れもない事実である。

 では、なぜ彼は真夜中の世界を選択したのか。それは昼という穏やかで安定した世界が、もう終わってしまったと実感したからとは考えられないか。夜は不可視のモノたちが蠢く世界である。闇は視界を遮るが、そのぶん、音たちの存在感は増してくる。つまり音楽とは本来、夜の世界に属するものだ。ショータヒラマは夜のストリートに蠢くサウンドの群れを、電子音響によってリ・スキャンしマッピングするようにコンポジションする。音の光景は、高速でグリッチするように変化し、聴き手の肌を夜風のようにすばやく触れて走り去っていくだろう。破壊、粉砕、構築、速度。こうして音たちは解凍/解放される。となれば、これは(世界との/からの)闘争=逃走の音だ。

 同時に彼は「愛」の人でもある。ジャケットのアートワークで佇む女性たちの姿を思い出してみよう。それは闘争=逃走の向こうにいる女性たちの姿だろうか(いわば未来の「娘」たち?)。
 ゆえに私はショータヒラマの作品に、闘争と愛という二面性を聴く。いわば「ラヴァーズ・ノイズ」。その愛こそが、ヒリヒリするような皮膚感覚の音響で現在を疾走するショータヒラマの「未来への希望」なのかもしれない。思えば、2014年のラスト・リリースは『モダン・モヴァーズ』と名づけられていた(もっとも彼の作品のタイトルはほとんど引用であるのだが、大切なことは何を、どう引用しているかという点である)。この美しいドローン作品は、いわばドローン/ノイズによるコーダといえよう。そして『モダン・ラヴァース』はその曲名にも記されているように(ワールド・トレード・センターのエレベーター・ミュージック?)、9.11の記憶が刻印されている。声のない哀歌として。声を喪失したラブソングとして。音響のコーダとして。終わりからはじまるアリアとして。となれば、この曲もまた闘争と愛の幕開けだったのではないか。

 2015年。疾走は継続している。2月、ニューアルバムがリリースされるのだ。その名は『スティフ・キトゥンズ』(!)。私はこの新作をプレビューで聴いたのだが、ノイズが、リズムが、音響が、極限まで解体/再構築されており、途方もない速度でサウンドが疾走していた。そこは音響のゼロ地点であり、闘争のゼロ地点ですらあった。音の蠢きはさらに圧縮/解凍され、新しい闘争と愛が同時に世界に解放されていく。しかもジャケットには夜から早朝(もしくは夕焼け)の光景も! ショータヒラマの闘争と愛はつづく。それは同時に私たちの闘争であり、愛の選択でもある。聴くしかない。

interview with Future Brown - ele-king


Future Brown
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 アンダーグラウンド・スーパーグループ? ホントかよ? いかにもハイプな称号に思えるが、フューチャー・ブラウンはたしかにアンダーグラウンド・スーパーグループだ。欧米メディアはもちろんのこと、僕のまわりでも昨年末から「12インチ聴いた?」とか「アルバムどうだった?」とか、なにかと話題になっている。「アルバムよりシングルのほうが良かったんじゃない?」とか、「でも、よくよく聴いたら良かった」とか、FKAツイッグスのときに似ているかもしれない。
 メンバーは、ファティマ・アル・カディリ(クウェート出身で、昨年ハイパーダブからアルバム・デビュー)、ダニエル・ピニーダ&アスマ・マルーフ(LAを拠点とするイングズングスのふたり組。ナイト・スラッグス一派)、Jクッシュ(シカゴのジューク天才児、ラシャドの作品で知られる〈Lit City Trax〉主宰)の4人。ね、スーパーグループでしょ?

 いまアンダーグラウンドがどこにあるのか、それがレッドブルでないことは『vol.15』に書いたけれど、ひとつは確実にインターネット空間にある。ポルノのことではない。たとえば、我々は液晶画面の向こう側に見えるワールド・ミュージックを知っている。サイバーな探索旅行を通してアクセスするワールド・ミュージックだ。イラクの音楽も南アフリカのバカルディもアンゴラのクォドロも、もちろんプエルトリコのレゲトンだって、なんだって聴ける。エジプトのシャアビも、シカゴのドリルも、なんだって。
 フューチャー・ブラウンは、まさにそんな時代を反映している。世界中のビートに影響を受けて、世界中にアクセスしている……といったら大袈裟だが、イメージとしてはそうなる。ディアスポラ音楽、ハイブリッドという言葉は、従来は、USの黒人音楽ないしはラテン音楽における文化的衝突に象徴されるものだったが、フューチャー・ブラウンを聴いていると、インターネット時代における「ワールド」を意味するものへと変わりゆくんじゃないかと思えてくる。
 もちろん、なんでもかんでもあるわけじゃないけど。フューチャー・ブラウンの基盤にあるのは、おそらく……UKのグライムとシカゴのジュークだろう。
 以下、4人揃ってのインタヴュー。

 F=ファティマ
 J=ジェイミー (J-クッシュ)
 D=ダニエル
 A=アスマ

 4人とも、自分の言いたいことを言ってくれたおかげで面白い取材になった。ちなみに、UKでは2014年はグライムの「セカンド・カミング」と言われたほど、ディジー・ラスカルのデビュー以来の、グライム熱が高まった1年だった。インターネット時代のグライム、ディアポラ音楽としてのグライム、ハイブリッド・ミュージックとしてのグライムを代表するのが、この若さとエネルギーに満ち満ちた4人組なのである。

外交上、丁寧な物の言い方をしましょう。文章でも何でも、積極的に誰かをディスすることはしたくないわ。私たちはディプロのことは好きじゃない。それだけ。

このプロジェクトは、世界中のアンダーグラウンド・シーン/ローカルなダンス・ミュージックにコネクトしながら、ハイブリッドな音楽を創出するものだと思います。メンバー4人もNY、シカゴ、LA、レーベルはロンドンとそれぞれ距離的に離れていてながら、ひとつにまとまっている点も現代的だと思います。そもそも、このコンセプトはどのように生まれたのですか? 

F:メンバー同士が、一緒に音楽を作っていたけれど、グループとしてではなかった。つまり、ダニエルはアスマと音楽を作っていたし、私はジェイミーと音楽を作っていたし、私はアスマとも音楽を作っていた。そんな状況で仕事をするのはまったく効率的じゃないと思ってグループで仕事をすることにした。

レーベルの資料によれば「グライムの進化型」をファティマさんが描いたことが発端となったそうですが、我々としては、そうだとしたら、なぜ「グライム」という言葉を使ったのか、気になりました。

F:それは本当じゃない! 悪いけど、嘘だわ。全然本当じゃない(爆笑)! ワオ、誰がそんなこと言ったの!? クレイジーだわ。

J:グライムの進化型??

F:そんな表現は聞いたこともないわ!

J:ひととつだけ言いたい、それは……

F:幻想よ。

J:矛盾してるときって何て言うんだっけ?

F:知らない。

通訳:Oxymoron(=矛盾表現)でしょうか?

J:そう! 「グライムの進化型」って表現はoxymoron(矛盾表現)だ! グライムとは、その当時、盛んだった音楽だ。そのシーンを経験した奴じゃなければグライムは作れない。それを、よりスマートなグライムとか、グライムの進化型と表現するのは屈辱に近い。だって、歴史的実例をひっくり返して、進化型と称してるんだぜ。過去のレイアウトを使ってるくせに進化型と呼ぶのは、どうかと思う。

F:「グライムの進化型」という考えを描いたことは一度もないわ。今後もそういうことはないと思う(笑)。

J:グライムが自由な音楽だということを前提で、そういう表現を使ったなら少しは理解できる。俺たちも自由な音楽を作っているから。

A:なんて訊かれたの?

J:フューチャー・ブラウンは、ファティマが「グライムの進化型」を描いたことが発端か?

F:(笑)とにかく、それは全くの嘘よ。

いちばん最初にサウンドクラウドに“Wanna Party”を公開したのが2013年ですよね? それから2年後のアルバムとなったわけですが、プロジェクトのコンセプトや脚本は、最初からある程度決まっていたのですか?

F:ええ。“Wanna Party”をネット上で公開したときから、アルバムに収録された曲のインスト版がすでに出来上がっていたの。

J:あの時点で、ヴォーカルに関しては半分くらいが出来上がってたよな。

A:グループとして何がやりたいのかというのはわかっていたわ。

J:このプロジェクトをはじめた当初から、ヴォーカリストのためにビートを作りたいと思ってた。

そもそもこの4人はどうやって知り合ったのですか?

J:音楽活動を通じてだよ。ニューヨークで。

D:ああ。

J:シェインとヴィーナスが、ゲットーゴシックというパーティを毎週やっていて、そのパーティでプレイするために、イングズングズが隔月でNYに来ていた。俺もけっこう頻繁に、そのパーティでプレイしていた。そこで俺たちは、音楽の趣味が似ているなとお互い感じた。ファティマもこのパーティによく来ていたから、みんなでよく一緒にいた。そこで意気投合したんだ。でもアスマとファティマはそれ以前から知り合いだったのかな? よく知らないけど。

今回のプロジェクトが生まれる上で、もっとも重要だった4人の共通項って何だったのでしょうか?

A:音楽を愛していること。

F:私たちの音楽の趣味というのはかなり同系だと言えるわ。それがもっとも重要な事だったと思う。同じような音楽が好きだとコラボレーションも容易にできる。それに、お互いが、各自の安心領域から、出なきゃいけなくなるような流れになるの。他の人と一緒に仕事をすると、自分の安心領域から出ざるを得なくなるから、とても良いチャレンジになっているわ。

J:自分がいままでやったことのないことをやるようにと、追い込んでくれるのは、このメンバーが一番ハードにやってくれる。あと、新しいことを学んだりするのも、こいつらと一緒のときが多い。誰かがクールなことをして、それがインスピレーションになり、自分もそれに影響されて何かをやってみたくなるんだ。俺たちが一緒に音楽を作るときは、すごく楽しいエネルギーが充満してるよ。

ファッション・ブランドの「HBA(フッド・バイ・エア)」があなたがたをバックアップしたそうですが、どんなブランドなのですか?

F:フッド・バイ・エアのデザイナー、シェイン・オリバーとは長年の友だちだった。彼がフッド・バイ・エアを立ち上げる前からよ。だから、昔からの友だちがある日突然、有名デザイナーになったという感じ。私たちはお互いの作品のファンでもあるわ。

J: ファティマは、シェインと6年くらい仕事をしてたんだよな? フッド・バイ・エアの音楽を何シーズンもやっていたよな? それから……

F:そんなに何シーズンもやっていないけど。フッド・バイ・エアの音楽を頼まれたことは何度かあった。それから、私とシェインは2008年に音楽プロジェクトを一緒にやった。だから長い間、一緒に仕事をしていることになるわね。でも、それより大事なのは、私たちがそれ以前から友だちだったということよ。

それでは、アルカもそのブランドと繋がっているそうですね。

J:アルカは俺たちの友だちだよ。

F:そう、彼も友だちなの。フッド・バイ・エアは友だちとしか仕事をしないブランドなの。ファミリー志向が強いブランドよ。フッド・バイ・エアが仕事相手に選ぶ人やサポートする人というのは、フッド・バイ・エアと長い間、友だちだった人、親しい間柄の人だということ。

アルカも、自分のバックボーンにはチャンガトゥキ(Changa Tuki)という地元ヴェネズエラの音楽を持ちながら、インターネット時代らしく、国境を越えていろいろな文化にアクセスし、ハイブリッドな音楽を作っていますよね。そういう姿勢には、やはり、共感するところはありますか?

J:俺たちはコンセプトを思い付いて音楽を作っているわけではない。俺たちの曲は、コンセプチュアルな作品ではないんだ。

F:でも、訊きたいのは、インスピレーションについてよね? アルカは地元の音楽にインスピレーションを得て音楽を作っているけど、私たちはどうか、ということよね? 私の場合、クウェートの民族音楽にインスピレーションを得てフューチャー・ブラウンの音楽制作に影響を与えているか? ということよね。アスマの場合、インドの民族音楽にインスピレーションを得てフューチャー・ブラウンの制作に影響しているか? ということ。

D:俺は、インドの民族音楽に、すごいインスピレーションを受けてるよ!

A:私もインドの音楽からインスパイアされているわ!

F:でも、それがフューチャー・ブラウンの制作に影響している?

A:直に繋がっているわけではないけれど……

J:意識している部分はあるということか。

A:むしろ、無意識に、影響として表れてくるんだと思う。自分の耳にどう聴こえるか、というような影響。私がインド人だからこそ、ある種の音に魅力される影響とか。そんな感じのこと。

F:直接的な影響と間接的な影響があると思う。ひとりが回答するインタヴューなら、まとまった答えができるけど、私たちは4人だから、回答も難しくなってしまうわ。

A:でも、私たちはみんな……

F:私たちはみんな、様々な音楽にインスピレーションを受けている。それがたとえ地元でも地元じゃなくても。

A:その通り! たとえば、私たちは、イラクの曲の構成にインスピレーションを受けたりする。別に私たちがその場所の出身でなくてもインスピレーションを受けるわ。だって、私はレゲトンやダンスホールにも強いインスピレーションを受けるもの。

J:俺たちの出身がどこかというのはとくに関係ないと思う。むしろ、何を経験して聴いてきたかということや、どんな響きに愛着を感じるかということの方が大きい。そういうものが影響して、俺たちが作ったものが出来上がった。

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例えば、私たちは、イラクの曲の構成にインスピレーションを受けたりする。別に私たちがその場所の出身でなくてもインスピレーションを受けるわ。だって、私はレゲトンやダンスホールにも強いインスピレーションを受けるもの。


Future Brown
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みなさん、ふだんはネットでやり取りしていると思うのですが、4人揃うことって、やはり大変ですか? 

J:そんなに大変じゃないよ。

A:計画は必要ね。

F:そう、前もって計画するだけよ。

フィーチャリングされているラッパーやシンガーもいろんな人がいますが、レコーディングはスタジオでおこなわれたそうですね。そこはこだわったんですか? よくあるデータ交換ではなく、あくまでもリアルな現場を共有しながら作るんだということに。

J:それは、実際のところ、全てがその過程でおこなわれたわけではなかった。スタジオでレコーディングをやったのは50%ほどで、残りの50%は俺たちがいないスタジオでレコーディングされ、ファイルが送られてきた。

A:でもたしかに、スタジオに入ってリアルな現場で音楽を作るというのは私たちにとって大事なことだわ。可能な限りそうしたいと思っている。

F:毎回、可能というわけではないから。

A:そうなの。

J:距離的、金銭的な限界がある。

実際は、どんな風に作品が生まれていったのでしょう? 4人で話ながら作っていくんですか?

F:スタジオに入って(笑)、ワニを呼んで、象の鼻を引っ張って(爆笑)、フレンチブルドッグのお腹をさすって……まあ、とにかく……創造する過程は個人的なものだから、それを説明すると、その魔法が解けてしまう気がするの。

J:みんなでスタジオに入る。みんな、一緒に仕事ができることにワクワクしている。誰かがアイデアを出して作業が始まり、そこから作り上げていく。

A:曲の作り方はそれぞれ違うわ。決まった作曲方法があるわけではないの。アルバムの曲を聴けば、それが分かると思う。

〈ワープ〉と契約したいきさつについて教えて下さい。

J:〈ワープ〉が俺たちの音楽を聴いて気に入ってくれた。そこで契約について話し合い、契約がまとまっただけだ。音楽面では、自分たちがコントロールできるような状況を与えてくれた。〈ワープ〉は、俺たちにとって一番フィットするレーベルだった。

D:俺たちがどんな音楽を作るか、ということに関して〈ワープ〉は、とくに指示を出さなかった。だから自由にできた。

フューチャー・ブラウンのような音楽は、アメリカよりも欧州のほうがウケが良いですか?

D:それはマジでわからないな。まだアルバムを出してないから。

F:そうよ、まだアルバムはリリースされてないのよ。

J:正直言って、俺は、メディアが書いているものをあまり読んでない。

通訳:では、ライヴの反応はいかがでしょうか? アメリカでライブはやりましたよね?

D:えーと、ああ。やったことあるね。

F:ええ。

J:アメリカでライヴってやったっけ?

D:PAMM(マイアミ美術館)とかPS1とか。

J:それはパフォーマンスだろ。

D:最高だったよな。だから、アメリカでの反応もすごく良かったよ!

F:いままでやったライヴでは、観客はみんなノリノリで楽しんでいたわ。でも、アメリカとヨーロッパで反応の違いというものは、とくに感じていない。

J:アメリカはひとつの国だけど、ヨーロッパは幾つもの国を指す。ヨーロッパの方が何カ国でもプレイする機会は多いわけだけど、それが果たして、ヨーロッパの方が受けが良いからなのかというのはわからない。

F:物事を一般的に捉えて答えるべきではないと思う。

J:アルバムには、いくつものサウンドが含まれている。アメリカにインスピレーションを受けた曲や、ヨーロッパにインスピレーションを受けた曲。他にもいろいろあるから、それをひと言でまとめるのはムリだ。

みなさんは、たとえば、エイフェックス・ツインやオウテカのような、〈ワープ〉の古株のアーティストの作品を聴きますか?

J:俺は聴いたことはあるよ。

F:私も。ティーネイジャーのときに聴いていたわ。

D:俺も昔、聴いていた。新作ももちろん聴いたよ。

プロジェクト名にある「ブラウン」は何を意味するのでしょうか? 

F:「フューチャー・ブラウン」という名前全体が……

J:「ブラウン」単体の意味というのは無い。

F:そう、「ブラウン」には何の意味も無いわよ。

J:前もそんな話になったよな。ま、いいけど。

F:「フューチャー・ブラウン」とは、(DISマガジンの)ソロモン・チェイスが思い付いた言葉で、それは、自然界に存在しない茶色なの。

“Wanna Party”や1曲目の“Room 302”でフィーチャーされているティンクについてご紹介ください。かなりの評判のシンガーだそうですね。

J: 彼女と制作をはじめたのは……

F:2013年5月。

J: 本当に意欲のある人。彼女と話してみると、彼女がどれだけ音楽に情熱を持っているかということがすぐに分かる。彼女にデモをいくつか聴かせたら、彼女は4時間以内に2曲分の歌詞を書いた。そして、撮り直しなど一切せずにそれらの曲を完成させた。正直言って新鮮だったよ。あれほど完璧な体験は、そう頻繁に起こるもんじゃない。最高の仕事相手だったよ。

F:まさに神童ね。素晴らしい才能に恵まれている。

J: ヴォーカリストはみんな意欲的で、一生懸命、俺たちのビートに乗っかってきてくれたから、俺たちはヴォーカリストには恵まれていた。ヴォーカリストたちが、安心領域というか、身近な人たちのいる環境よりもアウェイな状況に挑んでいく様子を見るのはクールだった。

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私たちは、政治に無関心なわけではない。真空の住人ではないのよ(笑)。


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ロンドンのロール・ディープ・クルーのメンバーも参加していますね?

J:参加しているのは、ロール・ディープの元メンバーのローチー、それにラフ・スクワッドのラピッドとダーティ・デンジャー。俺たちはみんな、ロール・ディープとラフ・スクワッドのファンだったから。俺のロンドンの友だちが、ロール・ディープとラフ・スクワッドと仕事をしていて、長年グライムのシーンに関わっていた。その彼が、俺たちにラピッドを紹介してくれた。そこから連絡を取り合い、ダーティ・デンジャーとローチーにも曲に参加してもらおうということになった。そこでビートをいくつか彼らに送ったというわけさ。

最近は、ワイリーをきっかけに、ウェイトレス・グライムという、アンビエント・タッチのグライムが注目を集めてますが、好きですか?

J:それはグライムのファンが作った言葉で、その人なりのグライムの解釈の仕方なんだと思う。よくわからねえ。ある意味、冗長表現だと思う。ワイリーの、デビルミックス・グライム・ミュージック、つまりビートレスなグライム・ミュージックをリ・ブランディングしたというか……。それにグライムは、以前よりも自由でなくなっている。みんな、ワイリーのサウンドに似たようなものを作りたがる。グライムの本質は、自分特有の音を作ることなのに。だから、とにかくばかげてるよ。

F:グライムとは自由であることなのよ。プレデタが以前、こう言ったわ。「グライムを作るのにグライムをリブランディングする必要はない」と。グライムはグライムなのよ。

A:そうよ。

F:グライムの進化型でもないし、ウェイトレス・グライムでもない。ただのグライムってこと。

J:自分特有のことを表情豊かな音楽でやるということ。過去をやり直すとしたら、こうなります、って言ってるようなもんで訳が分からない。作品をウェイトレス・グライムと称している人達は、ワイリーにそれを聴かせるだろうか?多分しないだろう。なぜなら、それはワイリーの作品のリメイクに聴こえるからだ。コンセプチュアルの面にしてもそうだ。アイデアが……

A:でもときには、優れた作品だってあるわよ。

J:もちろん、良い曲はたくさんあると思う。

A:問題になってしまうのは、音楽を理解したいがために、新しい呼び名やジャンルを作ってしまうことだと思う。

F:元々あった呼び名で十分だったのにね。

J:それを、元のものより、優れているとか、進化しているとか、表現してしまうのが問題だ。

F:元のものより新しいとか。

A:そう、新しくてパワーアップした、みたいな。

J:ウェイトレス・グライムというのはワイリーのデビルミックスと同じコンセプトのもので、それは2002年、2003年から存在し、存在し続けているものだ。新しくも何ともない。ウェイトレス・グライムが新しくエキサイティングなものだというのは真実では無い。

F:リ・ブランディングね。

A:そうだわ。

J:マーケティングの良い訓練にはなると思うが。

メンバーの役割みたいなものはどうなっているのでしょうか? いまどちらに住んでいるんですか?

F:私はクエート出身で、いまはどこにも住んでいない。NYに住んでいたときもあったけど、いまは……

J:素晴らしい音楽を普及させるために世界を飛び回っているのさ。

F:プロデューサーとしての強みや弱みは、私たちそれぞれにあると思う。だけど、同時に、自分の安心領域から抜け出すために、あえて弱みに焦点を当てて、自分を成長させて行くこともできる。私たちは、強みを磨き、お互いを通して、弱みの部分を成長させて行っている。

J:役割に関して決まり事は作っていない。それを決めたら……

F:快適過ぎてしまうから。

J:自分を追い込んで、普段とは違ったことをした方が、エキサイティングなものができるかもしれないだろ。

ちなみにJクッシュさんのルーツはどこなんですか?

J:母はイラン人。父はリトアニア系のアメリカ人だ。

通訳育ったのはシカゴでしたっけ?

J:いや、シカゴに住んだことは一度もない。

通訳:そうでしたか、でもDJラシャドの作品でも知られる〈Lit City Trax〉を立ち上げたのはあなたですよね?

J:そう、俺が立ち上げた。シカゴのフットワーク・シーンが盛り上がっていたから、音楽をプッシュするために俺が出来る限りのことをやった。シカゴには何度も行ったことはあるけど住んだことはない。生まれたのはNY。そこに10年住んで、ロンドンに移住して10年住み、その後またNYへ戻ってきた。

ふだんもネットで世界中のビートを探しているんですか?

A:(笑)ええ。そういうときもあるわ。

F:DJ用にってこと?

J:たしかに俺たちはネットで音楽を見つけている。

F:でも、曲のビートは、スタジオに入って作るの。

J:アイデアとしてはじまるけど、そこから積み上げて曲を作っていくんだ。

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グライムの進化型でもないし、ウェイトレス・グライムでもない。ただのグライムってこと。


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これはDJクッシュさんにおたずねしますが、シカゴの新世代のゲットー・ラップ、メディアが「ドリル」と掻き立てているシーンとジュークとは実際に繋がりがあるのですか? 

J:いや、別物だ。ジュークはハウス・ミュージックがベースになっている。ドリルはラップから来ている。類似点はあるかもしれないが、別物と考えていい。

ドリルに対して、「シカゴ・バップ」は、よりダンサブルで、DJネイトなどジュークともより繋がりがあるのでしょうか?

J:バップ・シーンはジューク・シーンから直に発展したものだ。DJターボはバップの曲でよく名前が挙がる人だが、彼がバップ・シーンをけん引したひとりだ。他にもそういう人が何人かいるが、みんなフットワークのシーンから出てきた人たちだ。だからそこにはたしかな繋がりがある。

ドリルとバップ、シカゴのいまのヒップホップ・シーンがどうなっているのか教えて下さい。

J:この質問はみんなも答えてくれよ。シカゴのヒップホップ・シーンはみんな好きだし、アスマとダニエルは、以前何年もシカゴに住んでいたんだぜ。

D:俺たちがシカゴに住んでいた頃は、ドリルやバップはなかった。シカゴは音楽シーンが盛んで、才能のある人がたくさんいる。

A:とても独創性のある街よね。私とダニエルがシカゴにいた頃はドリルやバップはなかったけど、またたく間に大きなシーンが出来上がったもの。シカゴからは、素晴らしい才能の持ち主がたくさん現れてきている。今回のアルバムにも、意図的ではなく、シカゴのアーティストがたくさんフィーチャーされているわ。

J:シカゴでは面白いことがたくさん起こっている。シカゴに住む人の状況や環境などが、その人のパワーとなり、良い音楽を作らせている。シカゴから抜け出すためにね。シカゴから出たいという願望を持ったアーティストを俺は何人も知っている。治安の悪いシカゴから逃れたいと言う。シカゴの人は、ダンスに対してありがたみを感じているし、シカゴの音楽にはソウルが溢れている。俺たちはシカゴが大好きだ!

ドリルの、たとえばリル・ハーブなんかは、緊張感のあるニヒリスティックな作風を打ち出していますが、フューチャー・ブラウンは、もっとパーティに寄っているように思います。

F:私はその意見にとても賛成できない。私たちのアルバムを聴けばわかると思うわ。アルバム聴いた?

通訳:聴きましたよ。

F:あなたはいまの意見に賛成?

通訳:すべてがパーティというわけではないと思います。パーティ曲は1曲だけだったかと……。

F:私たちのアルバムは「パーティ」感が前提となっているわけではない。まったくそうではないわ。「パーティ」感は、いち要素として存在するけれども、アルバム全体のコンセプトではない。

では、みなさんはディプロをどう思いますか? 彼は早い時期からボルチモア・ブレイクやバイレ・ファンキなど、グローバル・ビートを取り入れて自分なりに編集した人です。影響を受けているのでしょうか?

J:奴のグラミー賞を取り下げるべきだ。

通訳:ディプロはグラミー賞に値しないと……?

F:外交上、丁寧な物の言い方をしましょう。文章でも何でも、積極的に誰かをディスすることはしたくないわ。私たちはディプロのことは好きじゃない。それだけ。

J:彼は、アンダーグラウンド・ミュージックを商品化し、金銭面で大きな得をしただろう。だが、彼は、元々そういう音楽を作ってきた人たちのために、シーンが持続できるような未来を用意するまでに至らなかった。

昨年はアメリカで人種暴動がありましたし、シャルリ・エブド事件やISによる人質事件があったり、ウクライナ情勢とか、国際舞台では政治的な事件が続いています。関心はありますよね?

D:もちろんだよ。アメリカの出来事は、人種暴動というより、警察の暴力に対するデモと表現した方が的確だろう。

フューチャー・ブラウンの政治的関心をひとつ挙げるとしたら?

F:警察の残忍性について。

D:こういうことは、みんな各自で興味を持つべきだと思う。グローバルな問題だから、世界の人すべてが関心を持つべきだと思う。

F:私たちは、政治に無関心なわけではない。真空の住人ではないのよ(笑)。

J:だが、フューチャー・ブラウンに、ひとつの政治的アジェンダや動機があって、それを人々に伝えたいというわけでもない。個人において、それぞれ強い政治的信念や意見があるということだ。

もし誰かにリミックスを依頼するとしたら、誰がいいでしょう?

J:ディジー

D:トータル・フリーダム

F:トータル・フリーダム

J: トータル・フリーダム、ディジー・ラスカル……

A: トータル・フリーダムでいいんじゃない?

最後に、みなさんが注目しているシーン、もしくはいま面白いと思っているビート/リズムについて話してもらえますか?

F:たくさんあるわ。たくさんありすぎて……。アルバムを聴いてちょうだい。そしたら私たちが聴いている音楽のバイブスがわかるわよ。たくさんあるから。

A:そうね。

F:クドゥーロもみんな好き。

J:クラブ、ラップ……

F:ラップ……

D:クラブ、バップ、ドリル……

A: まだまだあるけどいくつか挙げるとこんな感じ。

愛国と狂気を見つめる - ele-king

アメリカン・スナイパー
監督 / クリント・イーストウッド
出演 / ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー 他
配給 / ワーナー・ブラザース映画
2014年 アメリカ
©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
2月21日(土)より、全国公開。

 『アメリカン・スナイパー』劇中、ある海兵の葬儀の場面では弔砲が鳴らされ、トランペットの高らかで悲壮な演奏が響く……日本に住んでいる僕たちでも、この儀式は知っている。なぜならば、何度もその場面をアメリカ映画のなかで目撃してきたからだ。そう、何度も何度も……そこで広がっていくアメリカ映画的としか言いようのない叙情。だけど僕たちは、どうして繰り返し兵隊たちの死を見届けているのだろう?

 イラク戦争で160人を射殺したクリス・カイルを取り上げ、予想を遥かに上回る大ヒットとなっているイーストウッドの新作は、「殺戮者を英雄視する、コンサバティヴな映画」との批判も受けつつ、まさにいまもっともコントラバーシャルな一本としてアメリカを揺らしている。立場的には共和党支持者である(実際は中道に近いとも言われるが)イーストウッドへの色眼鏡もあるのだろう、とくにリベラルを自認するメディアからは疑問の声も多い。オバマ政権の行き詰まりに際して、ブッシュ政権時の「英雄」を浮上させる試みなのではないか、と。
 しかし、たとえばキャスリン・ビグロー『ハート・ロッカー』(2008)を「戦意昂揚映画だ」とするひとがいたときも、自分にはどうも、そんなふうには思えなかった。戦時下のイラクの張り詰める死の匂いのなか、地雷処理という命懸けの作業に向かって行くジェレミー・レナーは大義もないままただ「処理」としての戦争に向かいつづけるアメリカの呪われた姿の化身にしか見えなかったのである。たしかにそこに立ち向かっていく兵士たちは勇壮にも見える。が、イラク戦争においてはそれがいったい何のための勇ましさか見えなくなっていたのは誰もが多かれ少なかれ気づいていたことで、だからそこには剥き出しの映画的反復のみが残っていたのだろう。『アメリカン・スナイパー』のブラッドリー・クーパーも自宅とイラクの戦場を往復するなかで壊れていくが、それでも戦地で遥か彼方の敵に銃を向ける。そうしないと生きる理由を見失う、とでも言うかのように。
 だからこれはイーストウッドが繰り返し描いてきた、トラウマを抱えた男の物語であるだろう。そしてその傷痕は、紛れもなくアメリカの歪みが生んだものである。『ミスティック・リバー』(2003)の頃には「良心的な」アメリカのリベラルたちは「この国にいるのが恥ずかしい」と言っていた。だが、ラストで償いようのない罪を背負うことになるショーン・ペンを思い返すとき、そこに横たわっていたのはイーストウッドからの「それを負え」という重々しい念のようなものだった……かつてひとを殺しまくっていたダーティハリーだけがあのとき、そのことを告げていたのだ。

 『世界にひとつのプレイブック』(2012)でも怒りをコントロールできなくなったブラッドリー・クーパーは、ここでは「レジェンド」と讃えられるいっぽうで精神に混乱をきたし、父であることも剥奪されている。強い父になることがアメリカのかつての理想だったとして、太平洋戦争における『父親たちの星条旗(Flags of Our Fathers)』(2006)、すなわち「父たちのアメリカ」と、イラク戦争における「アメリカの狙撃手」であることには大きな隔たりがあるようなのだ。彼を所有するのはあくまで国家であり、個人であることは後回しにされている。イーストウッドはこれまでも――とくに21世紀の作品において――二分される政治的立場を超える倫理的葛藤を問いつづけてきたが、舞台がイラクであることで、フィルム自体が混乱しているようにも見える。クリス・カイルは英雄か被害者か? ではなく、同時にそのどちらでもあることが起こってしまっている。
 映画ではクリス・カイルが志願したきっかけはテロのニュースを見たからだとされているが、そこで「国のために」と迷いなく宣言する姿を理解することが僕にはできない。しかし理屈ではない何か強烈にエモーショナルな迸りがそこにはあり、だとすれば、それは「政治的立場」なんてものよりも遥かに恐ろしいもののように思える。愛国という狂気の下で、クリス・カイルは英雄の自分と被害者の自分に引き裂かれていった。ただそのことが痛切だ。

フォックスキャッチャー
監督 / ベネット・ミラー
出演 / スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ 他
配給 / ロングライド
2014年 アメリカ
© MMXIV FAIR HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
2月14日(土)より、全国公開。

 ベネット・ミラー『フォックスキャッチャー』もそのような愛国の下で熟成される狂気を見つめる一本である。映画は財閥の御曹司がレスリングの金メダリストを殺害するまでを張り詰めた空気で映し出すが、スティーヴ・カレル演じる御曹司ジョン・デュポンは経済力によってチャニング・テイタム扮するレスリング選手の疑似的な父親になろうと試みているように見えなくもない。が、それはけっして達成されないまま、関与した人間たちの運命をひたすら狂わせていくことになる。
 それはデュポン自身の内面の問題であったからなのか、母親との確執のせいだったか映画では明示されないが、しかし「強いアメリカ」を標榜する彼の目は宙を泳いでいるようだ。それが「ありもしないもの」だったことが証明されたのがこの四半世紀ないしは半世紀だったとして(映画の舞台は30年前)……しかし彼らはなおも、諦められないのだろうか? 映画はそして、「USA!」の大歓声で幕を閉じる。

 愛国心にまつわる問題をアメリカ映画や、あるいはスプリングスティーンの作品などに見出してきたとき、ヘヴィなものだと認識はしつつもそれでも「よそのこと」だと感じていたのだと僕はいま認めざるを得ない。なぜなら、ここに来て日本に住む人間にとってもそれが急激に生々しいものとして立ち上がってきているからだ。「強い国家」「美しい国」が幻であると、うすうすそのことに気づいていたとしても、熱狂は止められないのだろうか? だとすれば、それはいったいどこに向かっているのだろうか?

 『アメリカン・スナイパー』のエンド・クレジット、そこで流れる映像にはただうなだれるしかなかった。それはたぶん、これからもその場面を繰り返し見なければならないという予感が的中しているからだろう。

『アメリカン・スナイパー』予告編

『フォックスキャッチャー』予告編

Zs - ele-king

 スティーヴ・ライヒのクラッピング・ミュージックを彷彿とさせる手拍子ポリリズム運動からはじまったかと思いきや、有無を言わせずに持続とヴァイオレンスが拡大し、ディス・ヒートばりの「この熱さ」がぐつぐつと蒸気を上げて(マサカーばりの鋭利さと凝縮力と言ってもいい)、舌の根も乾かぬうちに無骨で攻撃的なミニマル・アンサンブルにばったばったとなぎ倒される。ああ、こんなジーズを待っていた! 2000年に結成ということなので、ヤー・ヤー・ヤーズ、ライアーズ、ブラック・ダイス、アニマル・コレクティヴ、ライトニング・ボルト、バトルズ、アクロン/ファミリー、ダーティー・プロジェクターズなどなど、極彩色の音を放ちまくり、自由奔放に個性の固まりをぶつけてくるブルックリン一派たちと同世代ながら、そのなかでもひどく特殊なエネルギーをもった(特殊すぎて日本ではヤバさのみが伝播してイマイチ人気がないところがニクイ!)脱構築/新構築フリー音楽集団=ジーズの新作がリリースされたのだ。

 サム・ヒルマー(サックス)を中心に不定形なメンバー構成で活動をしてきたジーズだが、本作は、ヒルマーのほか昨年来日したガーディアン・エイリアンのドラマーとしてもお馴染みのグレッグ・フォックス(ドラムス/パーカッション/エレクトロニクス)、パトリック・ヒギンス(ギター)によるシンプルなトリオ編成にしてハミ出し方はマキシマムな、最新型ジーズの初のスタジオ演奏が収められている──こいつは2013年に来日したときにイキまくりの演奏を聞かせてくれたメンバーではないか!前作『Grain』(2013)ではいつもの反復運動に加え、サイケデリックにうずを巻きつつオウテカなんかも思い出させるグリッジーでバキバキのノイズ〜エレクトロニクスが導入されたり、古い音源をあれこれ加工したりして、ジーズがジーズを客観的に眺める冷めたエディット感覚を楽しむことができた。この極北感こそジーズなのだ。が、しかしそこに少しのもの足りなさを感じていたのは筆者だけだろうか? 整頓されて取りすました暴力なんて似合わない。ジーズはごつごつと粗雑でいてお熱いのにかぎる。

 そして本作『Xe』だ。熱い。金属的なのに熱い。息をつかせぬ緊張感の連続にばくばくと鼓動が高鳴り、ひたすら熱い。スタジオ一発録り&ノー・エフェクト、ノー・エディット。ポスト・プロダクションとしていっさい手を加えてないという産まれたままの音が潔い。もう一度言う。熱い。熱すぎる。個人的に2010年のベストであった『ニュー・スレイヴス』の頃に立ち返ったような、いや、それ以上に露骨で肉体的な質感。パトリックによるピッチシフトされたテクニカルなメタリック・ギターにカキンコキンと打楽器のように鳴らされるハーモニクスとブラッシング・ノイズ。そこに、「鉄は熱いうちに打て!」と言わんばかりに細かく連打されるグレッグのリム・ショット。内臓破りのバス・ドラム。土着的なタム回し。ときに竜巻のような脅威をもって襲いかかるそのリズムは、ミルフォード・グレイヴスの野蛮とハン・ベニンクの頓智をないまぜにしたようなきっかいさを食らわせてくれる。そして、なんと言ってもヒルマーの雄叫びのようなサックスが凄まじい。ペーター・ブロッツマンが脳裏をかすめる豪快なマシンガン・ブロウにアルバート・アイラーが取り憑いたようにすすり泣く咆哮。がさごそとした騒音からファラオ・サンダースばりの神妙なフレーズまで飛び出すプレイは、まるで古い薬箪笥のように引き出しが多く、どこを開いてもアヴァンギャルドな処方せんが用意されているので癒しどころか軽くめまいを覚えてしまう。

 ブルックリン一派だけでなく、レコメン〜ノイズ/フリー・ジャズ系にも激しく呼びかけ、極めてオルタナティヴなエネルギーを放出するジーズの新作。かつてジョン・ライドンがP.I.Lのシングル“ライズ”(1986)のなかで「Anger is an Energy(怒りはエネルギーだ!)」と繰り返し叫んだように、ジーズの根っ子には怒りがありハードコアがある。そこには彼らがよく比較されるバトルスがもっていた数学的な聡明さというよりも、もっと本能的で、ずっとヤクザで、少し数字が苦手そうな(失礼……!)大阪のボナンザスやgoatたちとの親和性を感じるのは筆者だけではないはずだ。黙ってラスト18分にも及ぶ“Xe”を聴いてほしい。すべての音にぶっちぎりのテンションが宿り(同時にプリズムの板のように研ぎ澄まされた繊細さをもち、輝かしい光を跳ね返す!)、模索するのではなく、はっきりとした意識をもって迷いなく新しい尺度を構築するわがままなアンサンブルにむんずと胸ぐらをつかまれて、とことんまでビビらされたあげく、私たちが知ってるつもりでいた通念的なアヴァンギャルドの皮を根こそぎ引っ剥がされるわ、肝をつぶされるわで、ぐりぐりされてあんぐりするのがオチである。

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