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Shotahirama

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デンシノオト   Feb 16,2015 UP

 ノイズが、グリッチが、サウンドが疾走している。ショータヒラマの音楽/音響を聴くと(というより聴覚に摂取すると)、その速度をありありと実感することができる。速度は、彼自身の鼓動や知覚、記憶の運動のようだし、同時に、この現代を生きている自分たちのリアリティのようでもある。破壊、粉砕、構築、速度。ビートは粉々に分解され、ノイズ・音響は超高速で接続される。これまでの事実が意味をなくし、新たな事実が増殖するように。そして音楽の反復性は有限の中に封じ込められ、一瞬の永遠が圧倒的な速度=強度のなか立ち現れるのだ。

 2014年のショータヒラマは、「速度」そのもののような活動を繰り広げてきた。『ポストパンク』『クラスター』『クランプダウン』『モダン・ラヴァース』などのアルバム4枚連続のリリースを敢行したのである。本作は、それらをすべて収めたボックスセットだ。まずは各アルバムについて簡単に述べておこう。

 ショータヒラマは2014年1月に自身のレーベル〈シグナルダダ〉からサード・アルバム『ポストパンク』をリリースする。清冽にして精密な電子音響作品であったファースト・アルバム『サッド・ヴァケイション』(2011)、セカンド・アルバム『ナイス・ドール・トゥー・トーク』(2012)を超える決定的なアルバムであった。ノイズ/グリッチが高速/高密度で展開し、新時代のノイズ/グリッチ・ミュージックの幕開けに相応しい傑作である。
 同年5月には、京都の電子音楽レーベル〈シュライン・ドット・ジェーピー〉のiTunes限定リリース・シリーズとして『クラスター』を発表した。電子ノイズが四方八方に炸裂するような強烈な作品である。芸術家・津田翔平による素晴らしいアートワークとの相乗効果もあり、イマジナティヴな作品に仕上がっていた。本ボックスも〈シュライン・ドット・ジェーピー〉からのリリースで、津田がアート・ディレクションを手がけている。

 翌6月にはマイクロダイエットとのスプリット盤『クランプダウン』を〈シグナルダダ〉からリリース。街中を包囲網に包むような、臨戦態勢を思わせる緊迫感に満ちた作品である。翌7月、カセット作品にして、初のドローン作品『モダン・ラヴァース』を福岡のカセット・レーベル〈ダエン〉から発表した。〈ダエン〉は、オヴァル、メルツバウ、イクエ・モリ、中村弘二(ニャントラ名義)、杉本圭一(フォーカラー名義)などのカセット作品を送り出しており、マニアから絶大な信頼を得ているレーベルだ。この『モダン・ラヴァース』は、音の粒が高速の粒子になり、そのまま線=千の持続的な音響になったかのような美しいドローン作品である。ちなみに『クラスター』と『モダン・ラヴァース』は本ボックスによって初CD化された。

 この4作を一気に聴き直してみると、彼のサウンドは電子音響でありながらも聴覚にアディクトするような「神経的」なものというよりは、肌に触れるヒリヒリとした感覚を想起させる「触覚的」なものだということがわかってくる。90年代末期から2000年代、〈メゴ〉以降に誕生したグリッチ・ノイズ・サウンドが偶発的なエラーを導入し、聴覚の神経性にアディクトするデジタル・パンクであるとするなら、ショータヒラマの発する電子ノイズやグリッチ・ノイズは、彼の鼓動やリズムと直結しているかのような肉体性を獲得しているように思えた。まさにポスト・デジタル・パンクといえよう。われわれ聴き手の肌や皮膚を直接的に刺激してくるような(電子ノイズの)触覚性。彼のトラックは低音が極端に少ないのだが、それは音響の空間性の確保し、サウンドの運動性を向上させることで、触覚性・肉体性を得るためではないかと勝手に考えてしまう(余談だが私は彼の痙攣し疾走するようなノイズとエレクトロニクスを聴くと、不意に阿部薫のサックスを思い出してしまう。もしくはアート・リンゼイのノイズ・ギターも)。
 
 デジタル・ノイズと肉体性を直結させるという新しい領域へと踏み込んだショータヒラマ。その2014年における驚愕のリリースは何を意味するのか。私は真夜中の世界からの闘争だったと(とりあえずは)仮定してみたい。2013年にリリースされたEP『ジャスト・ライク・ハニー』(DUCEREY ADA NEXINOとのスプリット盤)以降、アートワークの写真が夜の光景であったことを思い出してみよう。2011年の『サッド・ヴァイケション』と、2012年の『ナイス・ドール・トゥー・トーク』は、陽光が降り注ぐような写真であったのだから対照的である。たしかに、2011年にリリースされたユウ・ミヤシタとの『サッド・ヴァケイション・アゲイン』のアートワークは昼の光景とは思えないが、しかし2013年以降のアルバム・EPのほとんどが夜の意匠を纏っていることは紛れもない事実である。

 では、なぜ彼は真夜中の世界を選択したのか。それは昼という穏やかで安定した世界が、もう終わってしまったと実感したからとは考えられないか。夜は不可視のモノたちが蠢く世界である。闇は視界を遮るが、そのぶん、音たちの存在感は増してくる。つまり音楽とは本来、夜の世界に属するものだ。ショータヒラマは夜のストリートに蠢くサウンドの群れを、電子音響によってリ・スキャンしマッピングするようにコンポジションする。音の光景は、高速でグリッチするように変化し、聴き手の肌を夜風のようにすばやく触れて走り去っていくだろう。破壊、粉砕、構築、速度。こうして音たちは解凍/解放される。となれば、これは(世界との/からの)闘争=逃走の音だ。

 同時に彼は「愛」の人でもある。ジャケットのアートワークで佇む女性たちの姿を思い出してみよう。それは闘争=逃走の向こうにいる女性たちの姿だろうか(いわば未来の「娘」たち?)。
 ゆえに私はショータヒラマの作品に、闘争と愛という二面性を聴く。いわば「ラヴァーズ・ノイズ」。その愛こそが、ヒリヒリするような皮膚感覚の音響で現在を疾走するショータヒラマの「未来への希望」なのかもしれない。思えば、2014年のラスト・リリースは『モダン・モヴァーズ』と名づけられていた(もっとも彼の作品のタイトルはほとんど引用であるのだが、大切なことは何を、どう引用しているかという点である)。この美しいドローン作品は、いわばドローン/ノイズによるコーダといえよう。そして『モダン・ラヴァース』はその曲名にも記されているように(ワールド・トレード・センターのエレベーター・ミュージック?)、9.11の記憶が刻印されている。声のない哀歌として。声を喪失したラブソングとして。音響のコーダとして。終わりからはじまるアリアとして。となれば、この曲もまた闘争と愛の幕開けだったのではないか。

 2015年。疾走は継続している。2月、ニューアルバムがリリースされるのだ。その名は『スティフ・キトゥンズ』(!)。私はこの新作をプレビューで聴いたのだが、ノイズが、リズムが、音響が、極限まで解体/再構築されており、途方もない速度でサウンドが疾走していた。そこは音響のゼロ地点であり、闘争のゼロ地点ですらあった。音の蠢きはさらに圧縮/解凍され、新しい闘争と愛が同時に世界に解放されていく。しかもジャケットには夜から早朝(もしくは夕焼け)の光景も! ショータヒラマの闘争と愛はつづく。それは同時に私たちの闘争であり、愛の選択でもある。聴くしかない。

デンシノオト