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interview with Isao Tomita - ele-king


冨田勲
PLANETS ZERO ~Freedommune<zero> session with Dawn Chorus

日本コロムビア

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冨田勲
惑星(プラネッツ) Ultimate Edition

日本コロムビア

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 『PLANET ZERO』は、もともと〈FREE DOMMUNE〉のために準備されていた演奏で、フェスティヴァルの無念の中止を経て、そしてこのたびCD化されることになった。作品の下地には冨田勲のもっとも有名な作品のひとつ、『惑星(Planets)』がある。そして宇宙の現象を音に変換するという、ユニークなアイデアの「ドーン・コーラス」もある。〈FREE DOMMUNE〉のサイトでさんざん記されていたように、「ドーン・コーラス」とは太陽の黒点から発せられる電波を受信する音のことで、その音はおおよそ明け方において受信できる。詳しくはココを読んで。→www.dommune.com/freedommunezero/2597

 冨田勲とは、言わずと知れた電子音楽における"もうひとりのゴッドファーザー"である。YMOより数年先立って、シンセサイザー・ミュージックの祖としての冨田勲は日本よりも海外において知られている。以下のインタヴューのなかで僕がそれを『惑星』という日本語タイトルで喋っているのに対して冨田勲本人はそれを『Planets』と英語読みで話すのも、作品が1970年代当初は日本での理解を得られることなく先にアメリカのレーベルからリリースされていたという過去をあらためて知らしめていると言えよう。
 経験的に言っても、それはうなずける。イサオ・トミタの名前は、むしろ海外のテクノ・ミュージシャンの口から聞いたものだった。「5歳のときに父親の部屋でトミタを聴いて、まるで別世界に連れて行かれたような気持ちになって、それからエレクトロニック・ミュージックを好きになった」という話をしてくれたのはグローバル・コミュニケーションだったか......ジェフ・ミルズは〈FREE DOMMUNE〉で同じステージに立てることを楽しみにしていたというし、フライング・ロータスもリスナーのひとりだという話を耳にしたことがある。この20年のあいだ、欧米のエレクトロニック・ミュージックのスリーヴノートの「inspired」のクレジットにおいて「Isao Tomita」という名前を見つけている人は少なくないだろう。

 『PLANET ZERO』には、世界に名だたるこの巨星の音楽の醍醐味が凝縮されている。電子音楽という"手段"における目的意識とその聡明さ、サラウンドシステムという音響体験にもとづいた他に類を見ないミキシング、そして「ドーン・コーラス」と呼ばれるコズミック・ノイズの――まるで鳥の奇妙なさえずりのように聞こえる――そう、ロマンティックな面白さ。取材当日、用意された部屋には4つのスピーカーのサラウンド・システムの再生装置――といっても、家庭用のコンパクトなもの――が置かれていた。30分ほど早めに着いた僕とカメラマンの小原泰広君は、サラウンド・システムで再生された『PLANET ZERO』の立体音響のすごさにまずは驚いた。

高速道路を走ると、先端がひゅいともやしのように曲がっているだけの照明がずらーっと遠方まで並んでいるんですね。まるで印刷されたようにね。あれはあれでね......、つまりシンセサイザーの電気的な音はあれのことだと思うんですよ。出しやすいんです。同じ波形が続いている。

いま、この部屋で初めてサラウンドのシステムで『PLANET ZERO』を聴いたんですが、音酔いするかのような臨場感に驚きました。『PLANET ZERO』を聴くためにサラウンドを買おうかなと真剣に考えてしまいました(笑)。

冨田:でしょう? それなのになんで一般的にサラウンドが盛り上がらないんでしょうね(笑)。なぜだか、サラウンドで聴くには100万円ほどの機材が必要じゃないかという偏見があるんですよね。いまお聴きになったシステムは、フルセットでせいぜい4~5万円ですよ。昔の安いスピーカーといまの安いスピーカーでも雲泥の差ですからね。昔のように、値段が安いから音が貧素とかではないんです。

ひとつの作品として、サラウンドというのは音が良い悪いではなく、ステレオ作品とはまた何か別物の作品なんだなと思いました。

冨田:そうなんです。ステレオの延長ではないんです。聴いてもらってよかったです。

それでは質問したいと思いますが、今日は初めて冨田さんの作品に触れるであろう若い世代のためにも、初歩的な質問をさせてください。まずは、冨田さんとシンセサイザーとの出会いを振り返ってみたいと思います。そもそも冨田さんはシンセサイザーのどんなところに魅力を感じたのですか? 

冨田:私がNHKのラジオの仕事をはじめたのが昭和27年ですから......1952年ですね。日本が戦争に負けて7年目ですか。慶応大学の2年だったんですが、NHKで作曲の仕事をさせてもらっていたのですが、最初の頃はまだ大きな番組ではなく、朗読と音楽みたいなね、15分ぐらいの短編の番組で、その頃はシンセサイザーなんかは陰も形もない頃でした。その後立体音楽堂などで大編成のオーケストラを手がけるようになったのですが、モーグ・シンセサイザーと出会うまでに20年ぐらいあったんですね。その頃は僕は、誰しもが陥る行き詰まりですか。

行き詰まり?

冨田:要するに絵の場合は、いまの現代画家でも必要とするものはなんでも原料として色彩のもとにする。金粉でもいいし、石炭ガラでもいいわけです。ところがオーケストラは......僕はもともとオーケストラにものすごく興味を持っていたんだけれど、立体音楽堂をやっていた頃(まだFM放送がない頃)、NHKのラジオの第一放送をLチャンネル、第二放送をRチャンネルでという、両方のチャンネルを使った大編成のオーケストラの豪華番組があったんですね。それはオーケストラを扱った番組の頂点みたいなものだったんです。そこまでやらせてもらっていた。ところがいまお話しした絵と違って、オーケストラのスコアの楽器の配分というのが、ワーグナーの時代からの100年間はそんなに変わってないんですね。モーツァルトからワーグナーまでの100年間ははずいぶんと変わった。楽器も改良された。音質も良くなったんですね。しかし、ワーグナーから現代までほとんど変わっていないわけです。そうすると譜面を書いていて、これはもうすでに誰かがやっているんじゃないかという邪想が出てくるんです。音源が同じですからね。当時でも、SEを入れたりしている人がいましたけど、やっぱきちっとしたオーケストラとなると、フルートからはじまってオーボエ、クラリネット、ファゴット、トランペット、ホルン、トロンボーン、テューバ......あとは弦楽器、それから打楽器......それは変わっていない。

19世紀末からそれほど変わってないという。

冨田:そこで新しい楽器を考案しても、じゃあ誰が演奏するんだと。バイオリンでさえも20何年間も弾きこんでやっとプロになるのにね、そう簡単に新しい楽器が入り込むことは不可能。そんなことを考えているときにシンセサイザーという話を聞いたんですよ。

はい。

冨田:これは演奏者、扱う人間のアイデア次第によってどんな音でも出るんだと。いまのシンセサイザーというのはボタンを押すとプリセットされたいろんな音が出ますよね。モーグ・シンセサイザー(MOOG III-C)っていうのは、それがない。ぜんぶ自分で作らなければ音にならないんです。

まさに合成機械なわけですね。

冨田:そう、シンセサイズ(合成)しなければならない(笑)。だからね、パレットだけをモーグさんはミュージシャンのために作ったわけです。そこではいろんな音を作ることができる、いろんな音の素を集めて倍音を重ねることもできればフィルターで特定の音をピークにして音色を作るとか、ピッツィカートやシロフォンのように、音がすぐに止まってしまう成り立ち、それからドラのように叩いた瞬間はたいした音はしなくても、あとからブアーンと広がってくるとか、あとでクレッシェンドしてくるとか、そういうような音の成り立ちとか仕組みの細かい......、いまでいう電子オルガンみたいなもののもとになるありとあらゆる装置をバラバラに箱の枠に並べただけという。それをコードをつないで、自分で数あるヴォリュームを調整しながら音を仕組んでいくわけですね。まあ好きなようにやってくださいと。

根気が要る話ですね(笑)。

冨田:最初はこのモーグのどこがアウトかわからなくてね(笑)。それで各モジュールのすべてインとアウトがあるなかの、線をつないだいちばん最後のモジュールのアウトが、そのモーグ・シンセサイザーのアウトだったということがわかったんですね。(笑)。

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戦時中ですから、西洋音楽は聴くのも演奏も禁止、ラジオから聞こえてくるのは、軍歌、国民歌謡、文部省唱歌だけなんです。ジャズもシャンソンも、ラテンも、西洋音楽はすべて禁止されていたんです。


冨田勲
PLANETS ZERO ~Freedommune<zero> session with Dawn Chorus

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冨田さんご自身がモーグ・シンセサイザーを取り寄せたのが......?

冨田:1972年です。

それで1年4ヶ月かけて研究された。

冨田:自宅というよりも自分の工房ですよね。

当時、おいくらしたんですか?

冨田:1千万ですね。

うぉぉぉぉ!

冨田:いや、1千万だけれども、僕が個人で道楽で入れたわけではないんです。ひとつのプロダクションを作りまして、それで輸入したんです。だから町工場で営業用の印刷機や洗濯機に1千万円を投じると言ったら、それほどたいした金額ではないでしょ。だって、それで稼ぐつもりでいたわけですから。

はははは。ちなみにどうやってモーグ社と連絡を取って購入したんですか?

冨田:それはもう、連絡の取りようがなかったですね。

いまみたいにインターネットがあるわけじゃないですからね。

冨田:ですから、個人的に、モーグ・シンセサイザーを作っている工場を知っているという人を介して、その人の紹介状をもってモーグさんを訪ねていったんです。

アメリカまで行かれたわけですね。

冨田:いまのような格安の航空券などないし、しかも1ドルが360円の時代ですから、それはもう高い渡航費ですよ。JALの普通のクラスの座席で40万円しましたから。それでバッファローの工場に尋ねて行ったんですが、田舎の野原のなかのお粗末な平屋の工場で、以前は屠殺場だったとか。とても世界の最先端を行く電子楽器をここで作っているとは思えませんでした。入り口には受け付け窓口もなく、いきなりモーグさんが奥からぬっと顔を出しました。まさに「暗闇から牛」です。

連絡はどうやって取ったんですか?

冨田:テレックスですね。打ってくれる人がいましてね、それでやりとりしていたんです。それでね、シンセサイザーを買ったものの、税関がどうしてもこれは楽器に見えないと(笑)。

はははは、見たことないですもんね。

冨田:それでとにかく通関が通らなくて、手こずりました。1ヶ月ぐらいかかりましたね。どうしても楽器じゃないと言うんですよ。そうこうしている羽田の倉庫が狭いというんで、千葉県のJALの倉庫に入れられちゃったんですよね。それで1ヶ月後に通関税を払うべくモーグを取りにいったら、1ヵ月の倉庫の保管料を払えって言うんですよ。

はははは、シンセサイザー、1台を取り寄せるのがどれほど困難だったかという(笑)。

冨田:そうですね(笑)。それと、僕もその時点ではよく把握していなくて、それがどういうものなのか理解するのに苦労しましたね。電源スイッチを入れても音が出ないんですから。出るには出ても意図した音は出ないんです。オシレーターから発信音むき出しの音で、音程も合ってないんですから。ようやく意図する音色が出せるようになっても、次は音程を合わせなければならない。

初期の、組み立て式のコンピュータみたいなものですか?

冨田:コンピュータまでいかない。たんなる音出し機ですね。

なるほど。さきほど音を創ることに惹かれたと言いましたけど。

冨田:そこなんです!

最初はワルター・カーロスの『スイッチト・オン・バッハ』を通してシンセサイザーと出会われたという話ですが。

冨田:そうです。大阪万博の1970年にその存在を知りました。現物はみていませんがそういうものがあるということを知ったわけです。

それで、いまおっしゃったように、ご自身で輸入して、時間をかけていろいろ研究されたと。実際に手に取ってみて、あらたにお気づきになった魅力などありましたか?

冨田:それはもう、従来の楽器の枠におさまらない音が出るということです。組み合わせによっては従来の楽器の音に似た音も出せますが、僕が興味を持ったのは、従来のオーケストラの楽器のなかにはない音が自分の技術によって出すことができるということでした。

エレクトロニックな音質というか、電気的な音への魅力はなかったですか?

冨田:そんなもの、何も魅力を感じてなかったでしたよ。

ハハハハ(笑)。

冨田:電気的な音とは何を言うのか(笑)。たとえば電話の受話器を上げると「ツー」っと発信音が鳴りますけど、あれは電気の発信音ですけど、あの無機質にはぜんぜん興味はないです。そうではなくて、自分のイメージした音を出すということなんです。そもそも電気とは自然のエネルギーですからね。風が吹けば風車がまわり、水が流れれば水車がまわるように、電気の流れたがっている自然の習性をうまく利用して仕組んだのが電子楽器で、その習性を人間が捻じ曲げたら回路は働かないんですね。だいたい電気的な音とはどういう音ですか?

我々はそれをエレクトロニックな響きとか、ブリープ音などと言ってしまうのですが、電子機材で生成される無機質な音色、電子機材を介して生まれる信号音めいた響きと言いますか。そういう音が、乱暴な言い方をすれば僕のようなリスナーにとっては使い方次第ですが、バイオリンやクラリネットの音と等価でもあるんです。

冨田:道路に並んだ照明がありますよね。昔は日本橋の照明なんかもものすごく彫刻に手の込んだ照明がありました。ところがいま高速道路を走ると、先端がひゅいともやしのように曲がっているだけの照明がずらーっと遠方まで並んでいるんですね。まるで印刷されたようにね。あれはあれでね......、つまりシンセサイザーの電気的な音はあれのことだと思うんですよ。出しやすいんです。同じ波形が続いている。オシレーターにうつしても動いていないんですね。同じ波形が続くんです。バイオリンでもフルートでも、かならず揺らぎますからね。似た波形でも、同じ波形は出てこないんです。電気的な音とはその波形が同じことなんじゃないでしょうか。

たしかに、おっしゃる通りです。

冨田:電話の受話器の「ツー」っという音に揺らぎはないですから。同じ波形が続くだけですからね。初期の電子楽器はそういう音を出しやすいんです。簡単にコンデンサーとコイルでもって発信させればそういう音になりますからね。それは安易で、出しやすい音なんです。しかし、たしかに意図的にそれを使っている人もいますよね。

まさにそのことなんです。クラフトワークですね。

冨田:そう、あのドイツのね。あれはあれで、僕は面白いと思うんですね。あれは、まさにシンセサイザーの無機質な音を逆手に使っているんです。

そうですね。

冨田:それから最近では音響で、48k(Hz)よりも96k(Hz)のサンプリングとか、192k(Hz)とか、それは細かければ細かいほどいい音になるといわれています。だけども、トレヴァー・ホーンがアート・オブ・ノイズをやったときには、逆にそのクオリティを悪くした音を使って面白いアルバムを作りましたよね。

すいません、冨田さんの口からアート・オブ・ノイズという名前が出てくるとは思いませんでした(笑)。

冨田:あれはあれで面白いですよ。たしかに自然音を録音した場合は、48kと96kでは差があると思うんです。気配も違う。自然音はハイサンプリングのほうがより自然に近く聴こえます。でも、モーグ・シンセサイザーの場合は、スピーカーやヘッドフォンによらない生音がないので比較のしようがない。モーグさんは40年前にはそのようなハイサンプリングで聴かれるとは考えていなかったので、せいぜい48kぐらいまででそれ以上の高聴波は想定していない。実はそこの部分に予期せぬノイズが潜んでいて編集機に悪さをし苦労をしました。生音とは比較することのできない、シンセサイザーでの場合は48kまでで充分だと思っています。『Planets(惑星)』は96kでやってしまいました。労力の無駄でした。
 トレヴァー・ホーンは人間の声をあえて低周波数でサンプリングしましたよね。まるで初期のサンプラーみたいな使い方をしたんです。それが面白かった。サンプリング周波数の高低は音響技術者のなかでの話しで、アートはサンプリングの周波数の高低のなかには潜んでいないんですよね。

おっしゃる通りだと思います。

冨田:礼拝堂のタイル職人が作ったタイルの絵がありますね。あれは素子が荒いですね。イエスだろうがアラーだろうが、素子が荒いんです。それが細かければありがたみが上がるわけではないんですね。シンセサイザーにも、それと似たところがあるんです。そこはたしかに現実音とは違います。それを電気的と言うのか、人工的と言うのか(笑)。そういう意味では面白いジャンルです。とくに若い人たちには面白い題材ではないでしょうか。初期のモーグ・シンセサイザーのあの面倒くさい操作にも挑戦してもらってね。

ハハハハ。

冨田:というのも、最近のシンセサーザーは操作がすごく簡単になってますでしょ。あまりにも簡単過ぎるんですよね。したがってだんだんひとりひとりの個性がなくなってきていますね。僕の音とYMOの音では表現しているものがぜんぜん違います。僕がモーグ・シンセサイザーを使うのと松武(秀樹)君が使うのとではぜんぜん違うんです。また喜多郎さんも違う。

音が均一化されているのはたしかにそうだと思います。それだけ広く普及したってことでもあると思うんですけど。

冨田:それが残念なんです。

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ニューヨークはね、ロスと違ってアメリカでもヨーロッパ側だから保守的なところがあるんです。面白いことに、ヨーロッパのなかでもイギリスだけが違ってましたね。イギリスは、けっこう受けたんですよ(笑)。ところがフランスあたりになるとね(笑)。


冨田勲
月の光

BMG JAPAN

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Wendy Carlos
Switched on Bach

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質問を変えますね。シンセサイザーを使った最初の作品はドビュッシーの『月の光』(1974年)の演奏でしたが、ドビュッシーの作品を選んだ理由を教えてください。

冨田:それはもう、ワルター・カーロスの『スイッチト・オン・バッハ』を意識しました。当時、参考になるものを探していたんです。シンセサイザーだけで1枚のアルバムを作ったとなるとワルター・カーロスしかいなかったんです。しかし、あれはどう聴いても線画的と言いますか、オシレーターの、さっき言いましたように放っておけばおのずから出てくるような音なんですね。バッハの曲はそういうところありますよね。バッハは対位法の使い方は天才的で、構築の仕方もすごいですね。まあ、超天才的な作曲家なんで、だから線画的に演奏しても形になってしまう曲なんです。だけど僕はシンセサイザーというのは画家の使うパレットのようなものだと思ってましたから、そうなるとフランスの印象派になるわけです。

それはすごく面白い話ですね。僕はクラシックに関しては浅学ですが、たしかにバッハにはそういうところがあるのは僕なりに理解できます。ロックで言えばポール・マッカートニーみたいな人ですよね。作曲が優れているから誰がカヴァーしてもそこそこ様になってしまうと言いますか......。でも、だからドビュッシーだったんですね。

冨田:これだったら勝負できるかなと思ったんです。色合いを出したかったんですね。線画とは違ったものを出したかったんです。

ああ、なるほど。そうだったんですね。そのお話はとても面白いです。僕はてっきり、冨田さんの代表作となった『惑星』(1977年)がそうであるように、宇宙というテーマ、冨田さんのコズミック・ミュージックの第一歩ということなのかなと思っていました。でも、違ったんですね。

冨田:違うんですね。色彩なんです。色合いです。フィルターがあって、楽器では出ない音色が出せる。そこで勝負しない手はないなと思ったんですね。

ではなぜ、その後『惑星』のように宇宙をテーマにすることになったんですか?

冨田:ドビュッシーをやって、賛否両論でした。「けっこう良い」っていう人もいましたが、「あれは邪道だ」という人もいました。しかし音楽的でなければ音楽以外の何かが聴きてに感情移入をする。ぼくはそれで充分なのです。僕はね、わりと実況中継的音楽というものに興味があるんですよ。

実況中継的音楽?


冨田勲
源氏物語幻想交響絵巻

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冨田:そこでなにかがおこなわれているという。たとえば......、これはオーケストラでやったものですが、僕には『源氏物語幻想交響絵巻』というアルバムがあります。そのなかで、王宮の庭園でされている儀式であるとか、六条御息所の生霊が出て来て葵の上との、まあ女同士の争いですよね。それから、たとえば葵祭の行列の見物の場所取り争いですよね、そういう、なにか起きている場所のパノラマ音、それを実況的に描く......。レスピーギの"ローマ3大交響詩"からおおいに影響を受けています。そういう何かがおこなわれている情景を表現するためにサラウンドである必要があったんですね。源氏物語の最後の"宇治十条"の浮舟の場面もそうです。雪が降る宇治川に浮舟が入水自殺をはかる切ない場面の表現なんですが。

ああ、なるほど。それで立体音響(サラウンド)でなければならない。

冨田:それを僕は適当な表現がないので実況中継的って言ってしまうんですけど、だから『惑星』も同じなんです。宇宙のどこかでおこなわれていることと言いますか。あの作品のなかでは、たくさんの宇宙スタッフたちのインターカムの音が入ってくるでしょ。当時のインターカムの音は悪いんですよ。でも、そのうちインターカムで歌い出してしまったりして(笑)。

なるほど。『惑星』もたまたま『惑星』であって、その本質は、何かが起きている"場"を音で表現しているんですね。

冨田:そうなんです。それをサラウンドで作ってしまおうとしたんです。聴いてそんな感じするでしょ?

はい、たしかにそれはいま理解できます。空間を創出すると言いますか。

冨田:ただ、それほどアート的ではないかな(笑)? やりすぎて。へんな宇宙人も混じっていますし、"木星"なんかもね、UFOがどっかから飛んできたり(笑)。

『惑星』には茶目っ気があるんですね。

冨田:ありますね。手塚治虫さんのアニメの音楽をやってきていたんでね、もう「ぱふぉぱふぉぱふぉ」とか、ヒゲオヤジやヒョウタンツギのイメージです。実はあの作品は手塚さんからの影響が強いですね(笑)。

なるほど(笑)。しかしいまお話をうかがって思ったのは、冨田さんの場合は、リスニングというよりもエクスペリエンス(体験)ということのニュアンスが強いのかなということなんです。

冨田:いやね、僕らの世代、子供の頃に音楽なんてなかったんです。戦時中ですから、西洋音楽は聴くのも演奏も禁止、ラジオから聞こえてくるのは、軍歌、国民歌謡、文部省唱歌だけなんです。ジャズもシャンソンも、ラテンも、西洋音楽はすべて禁止されていたんです。音楽なんかなかったんです。そして日本が負けて、進駐軍が入ってきたときに、進駐軍向けのラジオ放送のなかにおもちゃ箱をひっくり返したようにいろんな音楽が出てきたんです。僕らの世代のミュージシャンはみんなそこから影響を受けたんですね。それまで音楽を知らなかったんですけど、ちょうど好奇心旺盛な年代のときにカルチャー・ショックが起きたんですね。

そのお話は、大きくは戦後リベラルのなかで洋楽に慣れ親しんだ僕の世代にもつながりますね。

冨田:ただね、3歳の頃から教育ママにピアノを習わされて、やれソナチネだとかバイエルだとかやらされたようなのとは違うんです。教育された世代とはどうも違うんです。父の仕事の都合で北京に行っていたことがあったんですけど、天壇公園の音の反響に5歳のときにものすごく驚いたんです。それで帰国して、昭和16年かな、ラジオで蓬莱山、仏法僧の放送を聞いて、それで僕はどうしても仏法僧の声を聞きたくて、岡崎の比較的近くの三河の蓬莱山まで行って、夜中の宿坊で......、宿坊ったって、人気のない、信仰をもった年取った人がちらほらいるような、蝋燭もないから山で拾った雑木をかまどで燃やして明かりにしてましたけど......。その宿坊から仏法僧の声を聞いたんですね。

宿坊にはお父さんと行かれたんですか?

冨田:父は兵隊に取られていませんでした。8歳上の従兄弟と行きました。その記憶が忘れられず、NHKのサラウンド番組で霊山のあちこちに楽器を配置をして「仏法僧に捧げるシンフォニー」というのをやりましたけど、崖の山で音の反響が面白くそのときの"場"の音を利用したシンフォニーを書いたんです。つまり岩肌を反響する音の聞こえ方に興味があったんですね。だから『Planets(惑星)』も同じ考えなんです。当時あれは音楽じゃないと言われましたけど、もともと音楽をやろうとは思っていなかったんです(笑)。音楽でないのなら音楽でないもの。それを聞いた人が何かを感じ取ってくれればいいんです。

なるほど。それもまた興味深いお話ですね。ところ僕はもうひとつね、冨田さんが当時、1977年の時点で国際的に活動されましたでしょ。そこにも興味があるんですね。たとえばアメリカのジャーナリストが書いたレヴューを読むと、そのレヴュワーは『惑星』を評価しているんですけど、文章のなかに「クラシックの純粋主義者からは叩かれているが......」みたいなくだりがあるんですね。

冨田:そうそう(笑)。とくにニューヨークはね、ロスと違ってアメリカでもヨーロッパ側だから保守的なところがあるんです。面白いことに、ヨーロッパのなかでもイギリスだけが違ってましたね。イギリスは、けっこう受けたんですよ(笑)。

それはわかります(笑)。

冨田:ところがフランスあたりになるとね(笑)。

はははは。

冨田:もうすごかったですよ(笑)。

当時『惑星』を聴いていた客層というか、どんなオーディエンスだったんですか?

冨田:そこまでは僕は意識していないですよ。僕はただ好きで作って、聴いた人が自分の気持ちのなかで何か、ある場を想像してくれたら良いなとは思ってましたよ。それがシンフォニーなのか、シンセ音楽なのか、作っている僕自身がそんな区分けは考えていない。今回の『PLANET ZERO』だってそうですよ。音楽でなくても良いんです。いまの若い人たちも、きっとそこはこだわるところじゃないと思うんです。

まったくその通りですね。いまそこにこだわることはないですよね。

冨田:ただいまは別の意味で過渡期だとは思いますけどね。

海外と国内との反応はどんな差がありましたか?

冨田:日本はもう......保守的ですよね。ドビュッシー(の『月の光』)を日本からは出せないと、それでアメリカから出したわけですから。日本では誰も認めてくれませんでした。

それでアメリカのRCAとコネクションができたんですね。

冨田:そう。『スイッチト・オン・バッハ』を手がけたピーター・マンヴェスがRCAに移籍していたんですね。彼のところに持って行けば絶対に反応してくれるだろうと。彼しかいないと。それでピーター・マンヴェスのところに持って行ったんですね。

そういう経緯だったんですね。

冨田:やっぱああいう人がいないとね。

そうですよね。

冨田:あとは営業ですね。

営業ですか。

冨田:これはという企画でも営業でダメになったんですよ。要するにこんなものをレコード店のどの棚に置くんだと。映画でもないし、クラシックでもない、室内楽でもないし、ジャズでもない。

ロックでもない(笑)。

冨田:そうなると、営業から「売れない」と言われるんですよね。『スイッチト・オン・バッハ』なんか効果音というコーナーに置かれてましたからね。

効果音はないですよね。

冨田:それじゃ、ちょっとねと、そしてピーター・マンヴェスのところに持って行ったんですね。そうしたら彼が「すぐにやろう」と言ってくれたんです。その反応の違いたるやすごかったですよ。営業にプッシュする力もまったく違っていたんですね。話が通るのが早かったですよ。それから、『ビルボード』や『キャッシュボックス』、業界誌、あるいはニューヨークの大きなレコード店「サム・グーディー」だとか、発売前にそういう人たちを集めて記者会見を開くからもういちど来てくれと。

『惑星』のヒットもアメリカが先だったんですか?

冨田:そうです。日本では出してないんです。

アメリカ先行だったんですね。オリジナルはアメリカ盤になるんですね。あのジャケットも。

冨田:『Planets(惑星)』はそうですね。アメリカで作ったジャケットをそのまま使うと、日本では使用料を払わなければならないので、『月の光』も『火の鳥』も日本でジャケットを作ったんですが、『Planets(惑星)』のジャケットはアメリカ盤のがあまりにもいいんでね、お金を払ってまでもアメリカ盤のものをそのまま使ったんです。今年コロムビアから出した『惑星 ultimate edition』のジャケットの河口洋一郎さんによる宇宙探索機のイラストもなかなか負けちゃいないというか。はやぶさ(小惑星探査機)のイメージとして描いたんですよね。僕はこのイラストに触発されて曲を書いたくらいなんですが......"イトカワとはやぶさ"ね......、そういえば糸川(英夫)博士(注:日本の宇宙工学の父)は、僕のこの『Planets(惑星)』ができたときにバレエを踊ってくれたんですよ。しかも帝劇でね、

帝劇で!

冨田:60の還暦だというのに、踊ってくれてね。

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ワーグナーは、それほど宇宙のことは知らなかったと思うんだけど、聴くと宇宙そのものと言いますか、やはり愛は宇宙なのかと、そのことを僕はすごく感じていたんです。あの曲には、いくつものいくつもの星雲を乗り越えていくようなイメージがありますからね。


冨田勲
PLANETS ZERO ~Freedommune<zero> session with Dawn Chorus

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それはまたすごい話ですね。そろそろ時間がなくなってきたので、今回の『PLANET ZERO』について訊きたいと思うのですが、当日に設営してあったドーン・コーラスの装置の写真をあらためて見ると、残念でなりません。

冨田:ドーン・コーラスの装置に関しては、そんなにたいしたものではないんですよ。実にちゃちなものでね、コイルを置けばそこに(電磁波が)入ってくるんです。低周波ですから、それを音に置換すれば「ぴゅーぴゅーぴゅーぴゅー」と出てくるんです。

まあ、〈FREE DOMMUNE〉では、ジェフ・ミルズというテクノDJをはじめ、出演者のなかでも楽しみにしていた人も少なくなかったですし、本当にこれをあの場で生で聴けたらなと、CDを聴いていてもついつい思ってしまうのですが、冨田さんご自身はあのフェスティヴァルでのライヴに関してどのような期待がありましたか?

冨田:まあ、NASAで発表する宇宙の天気予報と、地球の天気予報を両方気にして見ていたわけですが、地球の天気は楽観してたなぁ。地球のほうでやられるとは思っていなかった。そこへもってきてさらに、晴れて朝日がトランペッターの顔を照らすとき、天空に向かって"ジュピター"を吹くというのを想像していたんですが、ぜんぶがうまくいくとは限らない......。まあ、そういう考えが天に通じて意地悪されたんでしょうかね(苦笑)。やぁ......。

あのロケーション、そしてオーディエンスを考えてみても、実に惜しい。そう思います。

冨田:ねぇ。ツイッターを見るとすごい人たちが期待してくれていた(笑)。8月の1、2、3日と浅間山麓でドーン・コーラスの降りてくる未明に頑張ってテストをやったんです。それで2日に良い音が入ってきたんです。それを収録したんですね。それで、まあ、ドーン・コーラスの音もあり、シンセサイザーの背景音楽もすでにできている。本間(千也)さんのトランペットの録音もオッケーだと。これだけ素材が揃っているのに、これは出さない手はないんじゃないかと。それをリリース元の日本コロムビアが理解してくれた。

それで今回のリリースにいたるわけですね。

冨田:楽しみにしてくれていた方々が本当に多かったんです。だから、この作品を聴けば、「あー、そうだったのか」と。わかっていただけるんじゃないかと思います。そもそもドーン・コーラスは、リハーサルができないんですよ。(もしリハーサルをやるとしたら)前の日の夜明けにやらなければならないですし、その両日のドーンコーラスの元になる太陽の黒点の状態が同じ状態であるとは限らないわけですよ。浅間山麓で録音したときも1日と3日は(音が)来ないんです。ものすごく大きな黒点が直線上に4つ揃ったんですが、地球に対する向きも関係しているみたいでね、2日だけ非常に強いのが入ってきたんです。

シンセサイザーは冨田さんにとって音をクリエイトできる装置だったと。パレットであり、音を塗ることができる。ドーン・コーラスとはまたそれとは違った発想ですよね。

冨田:そうです。音源であればパレット以外のものであってもいいのです。戦時中、いつ敵の空襲に遭うかわかりませんから、寝るときもラジオをつけっぱなしにしておくわけです。名古屋のNHKでしたけど、とにかく長波で、長波にしないと、相手に電波の発信源がわかってしまうんですね。潜水艦も長波だったらしいですけどね。まあ、敵にわからないってわけで長波を使うわけです。そのかわりに長波は混線の神様みたいなもので、いろんなものが入ってきてしまう。そのなかにドーン・コーラスも入ってきたんですね。明け方、朝の30分ぐらい、毎朝聞けるわけじゃないんですが、入るときは「ぴーぴーぴーぴー」言うわけです。

最初は何の音だと思いましたか?

冨田:何の音かわからなくてね、第一次大戦のときに無線のヘッドフォンのなかにドーン・コーラスが入ってきて、最初は敵の妨害の電波かと思ったらしいですね。要するに程度の悪いラジオや送信機に入ってきてしまうんですね(笑)。ノイズとしてね。ドーン・コーラスはノイズですから、性能が良い機械になれば入ってこないんです。太陽と地球の関係というのはたかが半世紀ぐらいではそう変わらないので、いまでも入ってくるんです。ただし、いまでは電波の数が多いですから、AMラジオの音も入ってきてしまうんですね。その周波数は帯域を調節することで抜け出すことができるんですが、どっかで雷があれば、かなり遠方であってもその音が「ガリガリガリガリガリ」と入ってきてしまうんですね。地球上のどっかでそれはかならず鳴ってしまうからね。だから浅間山で録ったときにもやっぱりそういう音も入ってきてしまったんですが、それは削除して、編集したんですね。実際に(コイルを使って)やるとあんな(CDで録音されているような)綺麗には出ないですよ。いろんなノイズが入ってしまいますから。

そのドーン・コーラスは、音としての面白さなんですか、それともそのドーン・コーラスというコンセプトの面白さなんですか?

冨田:まあ、天空からの音ですからね。地上からはそれをトランペットで迎えると。そのアイデアです(笑)。それを聴いてリスナーがどう思うか? あるひとつの雰囲気は浮上したんじゃないかと僕は思っているんですけどね。

なるほど。

冨田:ドーン・コーラスをモノラルにしてスピーカーに分岐して出すべきか、サラウンドにするべきか......、違う場所にいくつかのコイルを置けば、飛び込んでくる磁力線は違うでしょうから、違った磁力線をそのままそれぞれのスピーカーにつなげばサラウンドになるんじゃないかとも思ったんです。だけども、現場でそんな凝ったことをやってもうまくいかないんじゃないかと。それでひとつのコイルに飛び込んできた音にディレイをかけてサラウンドにすることにしたんです。それならひとつの音だけ監視していればいいわけですからね。

なるほど。

冨田:でも、実際はノイズも入ってきたでしょうね。とくに川崎のあの場所は工場地帯ですからね。たしかに明け方は工場は動いてませんが、昼にリハーサルをやったときにはいろんなノイズが入ってきましたね。

それはそれで逆にそのノイズを聴きたかったですね。

冨田:そうですね。

インプロヴィぜーションですね。

冨田:そうです。あなたの言うように、まさにインプロヴィぜーションなんです(笑)。それができなかったことは本当に残念です。

ライヴでは、『PLANET ZERO』に収録された曲順通りの演奏予定だったんですか?

冨田:ええ。"トリスタンとイゾルデ"を入れるかどうかだけは迷いましたけどね。

まさに最後の質問として、なんで"トリスタンとイゾルデ"を入れたのかということを訊こうと思っていました。

冨田:あの曲から感じるものはまさに宇宙でしょう。せっかく本間さんにトランペットを吹いてもらうんだし、CDでは"トリスタンとイゾルデ"でトランペットのパートを作って吹いてもらいたかったのと、ライヴでは太陽が出る前の明け方の混沌とした状態のなかで宇宙の広がりを見せようと思ってましたけど、今回はレコードですから、最初からドーン・コーラスと"トリスタンとイゾルデ"をみなさんに聴いて聴いていただいてもいいんじゃないかと。"トリスタンとイゾルデ"は、すでに1986年のニューヨークでの「自由の女神100年祭」でハドソン川で演奏しているんです。ワーグナーは、それほど宇宙のことは知らなかったと思うんだけど、聴くと宇宙そのものと言いますか、やはり愛は宇宙なのかと、そのことを僕はすごく感じていたんです。あの曲には、いくつものいくつもの星雲を乗り越えていくようなイメージがありますからね。

 1997年の『音山』(水声社)以来の湯浅学さんの音楽評論集『音楽が降りてくる』はもう店頭に並んでいますので、耳も目も手も足も早いエレキング読者の中には手にとった方もいらっしゃるかもしれません。まだの方はぜひご一読ください。この本はなんといっても読み物としておもしろいので。とはいい、指南書、入門書、レコードやCD購入の手引きやファンブックの類を期待すると肩すかしをくうかもしれない。私は冒頭に音楽評論集と書いたが、この本は向こう10年あまり、湯浅氏が音楽雑誌を中心に寄稿した原稿を編集した本である。こういった体裁の本はすくなくなった。とくに音楽本ではなりをひそめた。90年代の天井しらずの音楽産業に追従してカタログ本が隆盛を迎えたのはゼロ年代初頭だった。以後、音楽の本をつくるには、カタログづくりの手法を磨くか、新書のようにワンアイデアを薄くひきのばすかに二分されたところはなくはない。つまり評論集が必要とされない時季が何年も続いた。読むより先に聴くことができるシステムができたからだともいえる。音楽について書いた言葉は事後承認を受ける立場になった。しかし同意や共感とは何であろうか。
 とまあ、外堀を埋めるような書き方をしてしまいましたが、先に書いた通り、『音楽が降りてくる』は音楽を読むことのおもしろさ、音楽を肴に宵の口といわず深夜といわず明け方まで、ギリギリまで考える、湯浅さんの粘り腰をあらためて感じさせる一冊であることは、この本に収めたいくつかの原稿を宵の口といわず深夜といわず明け方といわず翌日まで待ち続けた私がいうのだからまちがいありません。
 たとえば、下記目次にある「What is JAZZ?──ジャズ・1」。この原稿は当時英国の『Wire』誌の編集長だったトニーさんにお願いしたのが断られたので湯浅さんに書いてもらった。「ジャズ寓話も生まれた──ジャズ・2」はジャズ特集のために、故・平岡正明さんとのダブル巻頭言を書いてもらおうと頼んだ。平岡さんはジャズと落語について書いてきた。湯浅さんの原稿は論評というより寓話みたいだった。とくに注文はつけていない。それが何か響きあっていたのが編集者であった私はおもしろかった。ふたりとも手書きで文字面が原稿の中身を表していた。ありがちな裏話だが、それは仕事というより読者として、雑誌をパラパラめくりながら不意に目がとまる「あの感じ」にちかかった。その感じはこうして本になるとまたちがった感じになったとも思う。日本語ロックについての原稿、はっぴいえんど、遠藤賢司、裸のラリーズ、突然段ボールや浜田俊一、勝新、大竹伸朗や長新太という音楽と関係なさそうなものまでここには収めてある。洋楽ではプリンスとラモーンズと〆のディラン三連発。若いリスナーの方は昔のことと思われるかもしれないが、聴き方や考えは簡単に古びるものではない。それが「あの感じ」の背骨ともなる。で、結局「あの感じ」ってどんな感じ?かというのはこの本を読めばただちにおわかりになれます。

追記:『音楽が降りてくる』の刊行に際して、今週金曜日、下記のイベントを行います。

11.18 fri
「かくきくこと」第1回 ~湯浅学・連続講義 音楽を聴き、言葉を読む~
原宿VACANT 
開始 19 : 30
ゲスト/直枝政広(カーネーション)
https://event.n0idea.com/post/12109785984/11-18-fri


湯浅学
音楽が降りてくる
河出書房新社

Amazon

湯浅学『音楽が降りてくる』(河出書房新社)

音楽が降りてくる 目次

はじめに 

◎福は内
日本語はロックにのるか──日本語のロックvs英語のロック
ロックとは?の自問自答の中でまさぐった"ニュー"──日本のニューロック
洋楽好きだからこそなしえた発想と実践──はっぴいえんど
内なる響きを求める旅人──細野晴臣
"自分のことば"で歌い続ける──遠藤賢司『niyago』ライナーノーツ
菩薩の誘い、人生の一大事──遠藤賢司『満足できるかな』ライナーノーツ
豪胆な歌世界──布谷文夫『悲しき夏バテ』ライナーノーツ
漂うべき空を失った煙の行方──加藤晴彦 追悼
黒い太陽が昇る──裸のラリーズ
じゃがたらは軌跡だった。──じゃがたらライナーノーツ
名付けえぬ音を生む意志──アルケミーレコード
純粋なぐうたら──突然段ボール『成り立つかな?』ライナーノーツ
本当にど最低のクズ──浜田俊一『無芸術大王』ライナーノーツ
万物流転の流れをキャッチする──小杉武久
行き場のなかった駄々っ子の里に、つむじ風が吹く──武満徹
貼りまぜる力──大竹伸朗・1
あらゆる妄想の避雷針──大竹伸朗・2
歌謡解放宣言
ニッポン歌声ヒストリー
剣術とロックンロール──美空ひばり『ミソラヒバリ リズム歌謡を歌う 1949-1967』ライナーノーツ
自覚的アイドルの先駆──南沙織『シンシア・アンソロジー』
緊張の高まりと弛緩の塩梅の妙──中島みゆき『あ・り・が・と・う』
男女交わって歌は不滅なり
人間存在そのものの絶対的空漠感──ピーター『ベスト・オブ・ピーター』ライナーノーツ
天女のように舞う──青樹亜依『アンドロメダの異星人』ライナーノーツ
男 宇宙 裸──コンピレーション『男 宇宙』ライナーノーツ
ビッグバーン──藤本卓也
野放図な歌心が坂をころげ昭らかに地を揺るがせるが如し。──野坂昭如『マリリン・モンロー・ノー・リターン』ライナーノーツ
善悪の彼岸をひょいっと乗り越えた哲人──勝新太郎・1 追悼
世界はすでに勝新さんの中にあった──勝新太郎・2 勝新太郎『勝新太郎 夜を歌う』ライナーノーツ
慈しみの音像、市の風車──勝新太郎・3 『座頭市』
「俺は"社外人"だ」と勝新さんは言った。──勝新太郎・4
不振や陰気を吹き飛ばすロックンロールの根元──輪島大士
無邪気なオノマトペに圧縮された執念──谷啓
かこうと思えば──長新太

◎鬼は外
What is JAZZ?──ジャズ・1
ジャズ寓話も生まれた──ジャズ・2
土星からの使者サン・ラーが奏でた天空の音楽
新たなる"衝突と即興"を求めて──ジャズとの共振から生み出されたロック
永久現役──『俺がJBだ! ジェームズ・ブラウン自叙伝』解説
プリンスはいかにして"プリンス"になったか
愛と革命のディープ・リスニング──日本におけるソウル/ファンク聴取史
狼の闘争──ハウリン・ウルフ
歪んだ世界をギターで殴り書け!──ガレージ・ロックに近しいブルース
なにはなくとも1234ラモーンズ
しっぽが見えてる人でなし──ハウリング・ヘックス『ナイトクラブ・ヴァージョン・オブ・ジ・イターナル』ライナーノーツ
楽器破壊者の系譜
君は日本の空にぽっかり浮かぶエルヴィスの巨大な渋面を見たか──日本におけるエルヴィス・プレスリー受容史
エコーからさぐるアメリカ南部への道──フィル・スペクターとジョージ・ハリスン
『スマイル』の幻想──ビーチ・ボーイズ『スマイル』
ニール・ヤングが俺に教えてくれたこと
歪みとドローンの詩情を求めて──ヴェルヴェット的"音響"の背景
七四一週チャート・インのモンスター・アルバム──ピンク・フロイド『狂気』
敬意とパロディ精神の混在──グラム・ロックの背景としてのオールディーズ・ブーム
天国のスパークス
マドンナの利
速度探究から重厚なドラマへ──メタリカのメタル以外の側面
亡霊たちと歌い続けることを当然のものとした"歌極道"──ボブ・ディラン・1
生きることがそのまま現状打破──ボブ・ディラン・2
歌うことに身を捧げた音楽の使徒──ボブ・ディラン・3
あとがき
初出一覧


APPARAT - ele-king

 アパラットが来日する。しかもバンド・セットだ。
 エレガントなIDMと清々しいアコースティック、あるいはダブステップをブレンドする最新アルバム『Devil's Walk』に感動したリスナーは少なくないはず。
 周知のようにアパラットとは、ドイツでもっとも国際的に成功したアーティストのひとりで、レディオヘッドの日本公演のオープニング・アクトに抜擢など幅広いファンを持っている。また今回のライヴ公演では、砂原良徳のライヴも聴ける。
 エレクトロニカ/IDMのリスナーは行くしかないっすよ!



root & branch / UNIT Presents APPARAT

root & branch / UNIT Presents
APPARAT

11.25 fri @ UNIT
LIVE: APPARAT (BAND SET)
GUEST LIVE: Y. Sunahara
GUEST DJ: DJ KENSEI, INNER SCIENCE

SALOON: soup presents "absolute follies"
LIVE: DUB-Russell (+MUS), miclodiet + Yousuke Fuyama (sludge), shotahirama (SIGNALDADA / mAtter), Pakchee+wk[es] (Hz-records) and more acts TBA.
DJ: wat (THRUST / 秋葉原重工), nobuki nishiyama (Tiltloose)

OPEN / START 23:00
TICKETS: ¥3,800 (ADVANCE), ¥4,000 (w/ FLYER), ¥4,500 (DOOR)
INFORMATION: 03-5459-8630 (UNIT) www.unit-tokyo.com

Chart by UNION 2011.11.16 - ele-king

Shop Chart


1

THEO PARRISH

THEO PARRISH S.t.f.u. SOUND SIGNATURE / US »COMMENT GET MUSIC
THEO PARRISH最新作は、コードを持たせない骨組みだけで造形されたシカゴハウスへのオマージュ!オールドスクールな音色を醸しだすも、その構成は見事にアップデートされ単なる焼き直しではないTHEO PARRISHらしいグルーヴを感じるビートダウンハウスに。ハイ、ミッド、ロウのスリーレイヤーのドラムだけで独特な空間を演出、特にスネア~リム系のウワものはかつてのWISH MOUNTAIN~RADIO BOY辺りにも通じるユニークな間で置かれており、不穏なベースラインと共にガッチリとフロアをキープさせるユースフルなトラックに仕上がっています!

2

FAR OUT MONSTER DISCO ORCHESTRA

FAR OUT MONSTER DISCO ORCHESTRA Keep Believing (Can You Feel It) FAR OUT RECORDINGS / UK »COMMENT GET MUSIC
FAR OUTの人気シリーズにTHEO PARRISHが登場。MARK Eや4HERO等が続いたFAR OUT MONSTER DISCO ORCHESTRAの16thアニヴァーサリー12"はTHEO PARRISH、ONUR ENGINを擁するUSのPLIMSOLLからリリースするKOMPLEKSが担当。優雅に浮遊するストリングス/シンセのフレージングにポエトリーと鍵盤のカットアップを交え、クラッピングの連打で変化をつける荒削りなドラミングでスリリングに展開するTHEO PARRISHリミックス、肝となるジャジーな鍵盤フレーズを変化させビートダウン・トラックに落とし込んだB-サイドのKOMPLEKSも負けず劣らず好リミックスを披露しています。

3

CIO D'OR

CIO D'OR Magnetfluss - Remixes PROLOGUE / GER »COMMENT GET MUSIC
ドイツ発の優良アンダーグラウンド・ミニマルレーベルとして人気のPROLOGUEより、レーベルファミリーの紅一点・CIO D'OR嬢による最新シングルからのリミックス盤。SANDWELL DISTRICTでお馴染みのベテランSILENT SERVANT、続いてLUKE SLATERのMOTE-EVOLVERやNAKED INDEX等の地下系レーベルで注目を集める謎のプロジェクト・SHIFTEDに加え、DO NOT RESIST THE BEAT!等で近年気を吐くMILTON BRADLEY等それぞれに主役級のアンダーグラウンド・シーンの住人達が集う注目の1枚。底なしの底でひたすらジリジリと反復し展開する、危険で不穏で深く、そして美しいサウンド。

4

HARVEY PRESENTS LOCUSSOLUS

HARVEY PRESENTS LOCUSSOLUS Tan Sedan / Throwdown Remixes INTERNATIONAL FEEL / URG »COMMENT GET MUSIC
DJ HARVEYによる新プロジェクトのアルバム『Locussolus』からのリミックス12"。RUB N TUGのERIC DUNCAN a.k.a. DR.DUNKSと、GHOSTLY INTERNATIONALからデビューを果たしたCOM TRUISEを起用し、エレクトロ/ロック色が強かったオリジナルがここではヴォイスサンプル以外全てを一から構築しなおしたかのようなダンサブルなディスコチューンに。パーカス~カウベルといった鳴り物でじっくり攻める前半から次第にムーグ調のキーボードシンセと疾走するベースラインがフェードイン、T-connectionの"Do What You Wanna Do"を意識したかの様な抜群の構成力でロングプレイに適した仕上がりで◎。LTD 500!

5

DE-LITE/DESIYA

DE-LITE/DESIYA Wild Times (Mayday Mix) / Coming On Strong »COMMENT GET MUSIC
DE LITE"Wild Times" MAYDAY(DERRICK MAY)ミックス、復刻!数あるデリックのリミックス・ワークの中でもとりわけ人気が高く、これまで幾度もリイシューされてきた89年発の名クラッシック、DE LITE FEAT. OSCA CHILD"Wild Times (Mayday Mix)"が、ロンドンの名門BLACK MARKETから再発(音質もGOOD!)。更にBサイドにはこちらもアーリー90'sハウスの名クラッシック、91年発のDESIYA"Coming On Strong"を収録、往年のハウス~テクノ・ファン直撃の嬉しいW復刻となっています。

6

ONUR ENGIN

ONUR ENGIN Onur Engin Edits Vol. 5 WHITE / UK »COMMENT GET MUSIC
ONUR ENGINによる人気エディット・シリーズの5番はGILLES PETERSONをも虜にする山下達郎の名曲のキラーエディット!すでに話題騒然の山下達郎の"Love Talkin' (Honey It's You)"をリエディットした1枚です!多幸的な雰囲気がにじみでた原曲が原曲だけに、細部まで分厚くアップデートされDJユースフルにエディットされたこの盤は必携。B-サイドには、トルコ産レアグルーヴSENAYの"Kent Yasami"のエディットを収録した限定プレス。

7

ELAN

ELAN Next 2 Last MONKEYTOWN / GER »COMMENT GET MUSIC
MONKEYTOWN発/カリフォルニアのビートメイカーELANのデビュー・アルバム!アーティスト集団"WEDIDIT COLLECTIVE"のメンバーでもあり、自らがレジデントを務めるパーティーではSA-RA CREATIVE PARTNERSを招聘する等、精力的な活動を続ける新進気鋭のプロデューサーELAN STOUFFERことELAN。その独創性溢れるビート・ミュージックにMODESELEKTORの2人が一聴してすぐさま虜になり、これまでコンピレーション作品等にも参加してきた俊英が満を持して発表するアルバム作品!

8

FINK/RED RACK'EM

FINK/RED RACK'EM Move On Me (Marcus Worgull Edit) / Kalimba PHILOMENA / GER »COMMENT GET MUSIC
ドイツ地下より密かにリリースされDIXONやPRINS THOMAS、そしてMARCEL DETTMANN等が携わってきたINNERVISIONS傘下のエディットレーベルPHILOMENA6作目はMARCUS WORGULLのリワーク&RED RACK'EMの完全オリジナル音源!09年にNINJA TUNEからリリースされたFINKの"Move On Me"をリワーク、アコースティックなオリジナルに生に近いバスドラを刻むことで、雰囲気を損なうことなく叙情的なダンストラックとしての機能を付加させた無二の仕上がり。AME & DIXONも既にプレイ中のBサイドにはTIRK等からリリースするRED RACK'EMの完全オリジナル音源"Kalimba"を収録。その名の通りカリンバのヴィンテージな鳴りに加え、深いリヴァーヴが支配するドープなベースと浮遊感漂うウワもののグラデーション等ディープな仕上がりはPHILOMENAならでは!

9

AKIKO KIYAMA

AKIKO KIYAMA Doublethink OP.DISC / JPN »COMMENT GET MUSIC
ベルリン在住の女性アーティストAKIKO KIYAMA2枚目のアルバムは田中フミヤ&半野喜弘のOP.DISCからリリース!ここ数年彼女がチャレンジを重ねてきたあらゆる実験と実践の集大成であると同時に、稀有な作家性がいよいよ完全な調和を形成しつつあることを示す作品。音楽的な要素と非音楽的な要素をあえてぶつかり合わせる事によって生まれるユニークなサウンドスケープは、いわゆるミニマルでリズム・オリエンティッドなテクノというカテゴリーには到底収まりきらない非常に自由な感覚に満ち溢れている。彼女にとって大きなターニングポイントとなるであろう傑作アルバム。

10

V.A.(JAMES SIMS/DJ MO REESE/DJ LEANDRE)

V.A.(JAMES SIMS/DJ MO REESE/DJ LEANDRE) Music Works Vol. 3 PARKER MUSICWORKS / GER »COMMENT GET MUSIC
3曲すべてTERRENCE PARKERリエディット!!デトロイト・ハウス・シーンのベテランTERRENCE PARKERが自らが主宰するレーベルPARKER MUSICWORKSからコンピレーション12"の第三弾をリリース。ポエトリーを横目に重厚なベースと美麗な鍵盤リフを交えたA-1、サックスのフレージングを絡めたフュージョン・ハウスB-1、フィルター越しに野太いキックがハメられたB-2など、なんとも黒々しく展開された彼らしいイ傑作リエディットを3曲収める人気シリーズ最新作!

DiskJokke - ele-king

 ディスク・ヨッケの3枚目のアルバム、ネットを見ると「ガムランにインスパイアされたアンビエント作品」なんて書かれているけれど、実際のところこのアルバム『サガラ』にはガムランと言われてすぐに思う浮かぶような、あのキラキラとした騒がしさはない。何の予備知識もなくこのアルバムを聴いて熱帯雨林気候を思う人はまずいないだろう。ノルウェーのオスロを拠点とするコズミック・ディスコの最高の作り手のひとり、ディスク・ヨッケがインドネシアのジャワやバリを旅して経験したガムランがこのアルバムに影響を与えているのは事実だが、アルバムはそうした非西欧文化圏の民族音楽のテクスチャーを前面に打ち出すことはなく、至極真っ当な、『ミュージック・フォー・エアポート』めいたアンビエントを展開している。新しさはないが、『サガラ』が自分にとって2011年のもっとも大切なアルバムだという人がいても驚かない。その穏やかさによってムードを変えるという点においては力のあるアンビエント・アルバムなのだ。

 この作品がディスク・ヨッケにとっての方向転換なのか、寄り道なのか、気まぐれなのか、あるいはコズミック・ディスコ・ブームの頂点が過ぎ去ったあとの静けさなのか......、まさかヨガ教室へのアプローチではないだろうけれど(すいません、冗談です)、まあ〈スモールタウン・スーパーサウンド〉らしい佇まいのアルバムだ。昔ながらのこのレーベルのファンなら、キム・ヨーソイの『ホープネス』(2004年)やラーシュ・ホーントヴェットの『プーカ』(2004年)のような作品を思い出すかもしれない。品が良く、潔癖性的で、こんじまりとしているがむしろそれを長所とするような、控えめであることを美徳としながら、そこには印象的なコードとメロディがある(ディスク・ヨッケはそれなりに修練を積んだヴァイオリニストでもあるらしい)。イーサリアル(エーテル系)的なぼやけ方という点では2011年という年のひとつのトレンドともリンクしているとも言えなくもないが、しかしこれはやはり癒しのための音楽、平穏をもたらすための理性的で抑制の効いた音楽と言えよう。嘆き、悲しみ、不機嫌、苛立ち、あるいは逃避......そういった今年際だっていた感情、あるいはマーク・マッガイアらの大いなるトリップとはまったく別種の趣がある。エキゾティズムやワールド・ミュージック的なテクスチャーを期待する作品ではなく、早い話、地味な音楽の良さ、スローであることの良さ、古典的なアンビエント・アルバムとしての魅惑的なムードを提供している。それまでのおよそ28分が、クローザー・トラックのための長いイントロであったとしても。

Shabazz Palaces - ele-king

 キップ・ハンラハンが醸し出すアヴァン・ラテン・ジャズの妖しい色気とワンネス・オブ・ジュジュのアフロ・ファンクの濃厚なブラックネスと〈ストラタ・イースト〉のスピリチュアル・ジャズの気高さを同時に味わえるアヴァン・ヒップホップとでも言えるだろうか。あるいは、シャバズ・パラセズは、アンチコンやデイダラス、アンチ・ポップ・コンソーシアムやカンパニー・フロウ、マイク・ラッドといったヒップホップのレフトフィールドの実験主義者たちに並ぶ存在と言えないだろうか。この手の前衛的なヒップホップを聴くと、黒人音楽(あるいは、黒人文学)の歴史の奥深さというヤツを思い知らされる気がする。アミリ・バラカがシャバズ・パラセズを聴いたら、なんと評するだろうか、という知的好奇心を刺激される音楽でもある。『ピッチフォーク』はシャバズ・パラセズのことを「得体の知れないシアトルのアヴァン・ラップ・プロジェクト」と評して、2009年に彼らが自主で発表した『オブ・ライト』『シャバズ・パラセズ』といった2枚のミニ・アルバムを高く評価している。ここで紹介する『ブラック・アップ』は、彼らにとって初のオフィシャル・フル・アルバムとなる。

 シャバズ・パラセズはPalaeer LazaroとTendai Maraireという2人から成るヒップホップ・プロジェクト。(おそらくリーダーの)Palaeer Lazaroは、90年代前半にジャズ・ラップの先駆的存在としてネイティヴ・タンやアシッド・ジャズと併走したディゲブル・プラネッツの元メンバーで、バタフライことイシュメール・バトラーとして知られた人物でもある。ディゲブル・プラネッツのデビュー・アルバム『リーチン』はクロスオーヴァー・ヒットし、彼らは1993年度のグラミーの最優秀ラップ・グループ賞を受賞している。1994年にセカンド・アルバム『ブロウアウト・コーム』を発表後、実質、活動休止状態に入り、2005年にコレクション・アルバム『ビヨンド・ザ・スペクトラム』を〈ブルーノート〉から発表している。その後はグループとしては目立った動きを見せていない。イシュメール・バトラーはディゲブル・プラネッツの活動休止後、チェリー・ワインというオルタナティヴ・ヒップホップ・グループのフロントマンとして活躍している。音楽評論家の小林雅明氏のツイートで知ったのだけれど、イシュメール・バトラーは4ヒーローやテック9の曲にも参加している。ちなみに、フライング・ロータスのセカンド・アルバム『ロス・アンジェルス』の"Testament"に参加したゴンジャスフィは彼のいとこでもある。なんというか、調べれば調べるほど、ユニークなキャリアを持ったアーティストなのだ。

 PCとサンプラーを操りながら渋い声でぼそぼそとラップするPalaeer Lazaroに、Tendai Maraireはパーカッションとラップ、マリンバなんかを駆使しながら応答していく。やっていることはシンプルなのだけれど、サンプリング・ソースの引き出しの多さと間の取り方とラップの抑揚で、黒人音楽の歴史を総ざらいしていくようにこれだけ多くの表情を見せられるというのはやはりかなり面白い。マイゼル・ブラザーズの官能的なフュージョンをアップデートしたような甘美な"アー・ユー...キャン・ユー...ワー・ユー(フェルト)"やキャバレーで流れる煙たいアフロ・キューバン・ジャズとビリー・ホリデイとエレクトロニック・ミュージックを融合させた" エンデヴァーズ・フォー・ネヴァー"といった曲があったかと思えば、チャントのような掛け合いや酔っぱらったマーチング・バンドとジャズ・ドラマーをミックスさせたようなポリリズミックなドラム・プログラミングを披露したりしている。"アン・エコー・フロム・ザ・ホスツ・ザット・プロフェス・インフィナイタム"という曲のホラー・コアなトラックはオッド・フューチャー周辺とそう遠くない領域にあるように思える。またリリックが面白くて、シュールなブラック・ユーモアに溢れたリリックには、それこそイシュメール・リードのような黒人文学からの影響があるのではないかと想像する。まあ、とにかく、聴けば聴くほど、深みにはまるというか、〈サブ・ポップ〉が初めて契約を交わしたヒップホップ・アクトであるというのも納得できる。

SOUL II SOUL SOUND SYSTEM - ele-king

 ザ・ストーン・ローゼズが「僕は太陽だ」と歌った1989年、「アフリカ・センターは世界の中心だ」と宣言したのがソウルIIソウルだった。その歌を信じて、セカンド・サマー・オブ・ラヴのロンドンの最重要発火点のひとつ、コヴェント・ガーデンの駅の近くにある、小さな、本当に小さなあのアフリカ・センターを訪ねた人は少なくないでしょう。

 アシッド・ハウスだけだったら、それをセカンド・サマー・オブ・ラヴなどと大きく呼ぶ必要はなかった。あの季節には、ソウルIIソウルの掲げた"UKブラック"というコンセプトがあったことも忘れてはならない。そこにはパブリック・エネミーもデ・ラ・ソウルも、レゲエもソウルもファンクもジャズもあった。ザ・ストーン・ローゼズがロックでやったようなことを、ソウルIIソウルはブラック・ミュージックの文脈においてやった。現在、ハイパーダブやフローティング・ポイントがやっているようなことの原点がそこにあった。

 ご存じだろうか? 2011年の現在、マンチェスターのパブから下北の居酒屋のテーブル席にいたるまで、ひとつの面白い議題をめぐって、音楽ファン のあいだではジョッキを片手に熱い議論がかわされているってことを。それは「ザ・ストーン・ローゼズはいま再結成すべきか?」というもので、『ガーディアン』が大々的に読者に問うたことに端を発している。この大きな問いに、たとえば田中宗一郎が「すべきだ!」と叫んでいるという、きわめて興味深い感情が表出している。つまりそう、あの時代のダイナミックなエモーションはいま必要なのか? それらの音は、サマー・オブ・ラヴではないこの時代に聴いたときに、当時とは違った意味を持つのではないのか......云々。

 キープ・オン・ムーヴィン......動き続けろ、ソウルIIソウルは、ジャジー・Bは、キャロン・ウィラーは、愛の夏のときにそう繰り返し歌った。我々はそれを真に受けて、動き続けようと思った。それではみなさんにもここで問おう。「ソウルIIソウルはいま聴くべきか?」
 11月27日(フューチャー・テラーの翌日かぁ......)の恵比寿リキッドルームにその答えがある。


SOUL II SOUL SOUND SYSTEM
SOUL II SOUL SOUND SYSTEM

2011.11.27 sunday afternoon
liquidroom presents
[PLAY, JAPAN! Red Bull Music Academy]
SOUL II SOUL SOUND SYSTEM
open/start 16:00 end/close 22:00
adv.(now on sale)* 4,500yen
door 5,500yen(with flyer 5,000yen)

■LIQUIDROOM
SOUL II SOUL SOUND SYSTEM (Jazzie B, Charlotte Kelly, MC Chickaboo)
DJ Mil'o (wild bunch)
DJ KRUSH -hip hop set-
TADASHI YABE (United Future Organization)
DJ NORI

■LIQUID LOFT
SHUYA OKINO (Kyoto Jazz Massive)
DJ JIN (RHYMESTER/breakthrough)
DJ KEN-BO
TOSHIO MATSUURA
RAPHAEL SEBBAG (United Future Organization)

■Time Out Cafe & Diner(kids room)
PLAYGROUND Djs:DJ 246、坂田かよ、Kaori a.k.a.LadySomething Different、Ayako Nakamoto

 ジャングルやドラムンベース、現在のダブステップまで、斬新な音楽のスタイルを生み出し続けているUKのDJカルチャー。80年代後半から90年代初頭にかけては、UKのDJカルチャーが、ポップ・ミュージックに大きな影響を与えるまでになった時代だ。この時代を象徴する存在のひとつがSOUL II SOULと言えるだろう。UKのカリブ系移民のサウンドシステム・カルチャーやレア・グルーヴ、ウェアハウス・パーティなどを背景に、UKブラックの新たなソウル・ミュージック=グランド・ビートを作り出し、その流れは世界的潮流ともなった。そんなSOUL ・ SOULがSOUL ・ SOUL SOUND SYSTEMとして来日し、DJスタイルのライブ・パフォーマンスを行う! ほぼ同時期の80年代ブリストルにおいて、MASSIVE ATTACKの前身とも言える伝説的サウンド・クルー、WILD BUNCHにて活躍していたDJ MIL'Oもプレイする。まさにUKのDJカルチャーに大きな影響を与えた伝説的なふたりのDJが恵比寿リキッドルームに登場する!

■Jazzie B (SOUL ・ SOUL SOUND SYSTEM)
Jazzie B Jazzie Bとその友人Daddaeは、彼らが若干13歳の頃、Jah Ricoというレゲエ・サウンドを始め、その3年後にSoul II Soulが誕生した。「Soul II Soulという名前は、俺らの音楽だけを意味するわけではなく、Daddaeと自分自身をも意味する―つまり、一緒に寄り添う2つの魂という意味もあるわけだ」
当時のSoul II Soulはローカルレベルでの人気は確立していたが、資金がまだ必要だった。18歳の時にJazzieは、Tommy Steeleのテープ・オペレーターとして働き、時に風当たりの厳しい音楽業界で働くことのできたわずかな黒人の内の一人であった。「いら立ったこともあったけど、ある意味俺らが一切興味を持たない業界の側面を見ることはできたね。なぜなら俺らは常に最先端で活躍したかったから。そこで働くことは自分自身を鍛えてくれたよ」

1980年代にはアシッド・ハウスという新たな音楽ジャンルが旋風を巻き起こした。「俺らはアーリー・サウンドとしてまるでアートのような存在だった。普通のスピーカーは一切使わず、ハウス・パーティではフロアで花火を打ち上げ、旗やストロボ使っていたんだ!」
その後、Soul ll Soulは、ロンドンのコベントガーデンにある、今では伝説的なAfrica Centreでライヴを行っていた。レコード会社が彼らに追いつくまでにそうは時間はかからなかった。

Soul II Soulは1986年に<Virgin>と契約を交わし、'Keep On Moving'や'Back To Life'などのヒット曲でチャートを賑わすことになる。UKや海外、そしてロンドンのKiss FMのJazzieの番組を通じて、数多くのレジデントクラブナイトを展開した。1990年、彼らはふたつのグラミー賞を獲得し、JazzieはLA、NY を含むアメリカ7都市へ渡ることになる。国境を超えたアメリカでもSoul II Soul時代が到来するのである。

Soul ll Soulは<Motown>とレーベル契約を結び、その後<Epic>とプロデューサーとしての契約を交わすことになる。 Jazzie BはSoul ll Soulのためのヒット曲を生み出しただけでなく、彼はプロデューサーとして、またリミキサーとして、The Fine Young Cannibals、James Brown、Public Enemy、Sinead O'Connor、Ziggy Marley、Nas、Destiny's Childなどに楽曲を提供していた。Soul ll Soulは、世界的に680万枚のアルバムセールスを記録。そしてJazzieは、世界100カ国において3500万枚のアルバムセールスを認められ、NYのUniversal AmphiTheatreなど、世界中の有名な会場でも公演を行った。Jazzeは現在、ロンドンのスタジオにて、独立系レーベル<Soul ll Soul Recordings>の運営を行っており、BBCラジオの番組をレギュラーで担当している。2008年5月、"英国のブラックミュージックに貢献した人物"としてIvor Novello賞を受賞。同月、英国王室より30年に渡る音楽業界における貢献を称えられ、OBE(大英勲章)を与えられる。女王陛下により授与された初めての音楽人であり、おそらく最も価値のある勲章となったに違いない。

■DJ Mil'o (wild bunch)
DJ Mil'o 70年代後期~80年代初期のブリストル、Nellee HooperやGrand "Daddy G" Marshallらとともに彼のDJとしてのキャリアは始まる。当時では珍しい、ファンク、ニューウェイヴ、ディスコ、ジャズ、レゲエ、ソウル、パンク、ヒップホップなど幅広い選曲のスタイルが話題となり、サウンドシステム・ユニット、Wild Bunchが結成される。その後、<Island Records>よりシングル "Friends and Countrymen"や"the Look of love"をリリース。DJ Miloが、Adrian SherwoodやNeneh Cherryらと活動している間、Nellee Hooper は、Soul II Soulへ参加、その他のメンバーは、Massive Attackを結成するなど、Wild Bunchの当時のシーンへの影響力は多大であり、この頃の彼らの活動が、ブリストル・アンダーグランド・シーンを引率し、世界に波及させたといっても過言ではない。また、DJ Miloとしては、日本とも馴染みが深く、<MAJOR FORCE>とのレコーディングから、U.F.O.や高木完らのリミックス、ファッション・ブランドとのコラボレーションまで幅広く展開している。他にも、ツアーDJとして、The Jungle Brothers、Soul II Soul、Kool DJ Red Alert、Tricky、そしてPublic Enemyらとツアーをまわるなど活躍し、1989年に、NYへと移り住む。オリジナル・ソロ・アルバムをリリースするなど、生ける伝説として今もなお、精力的に活動を続けている。

2011.11.27 sunday afternoon
at LIQUIDROOM
access→ https://www.liquidroom.net/access/
open/start 16:00 end/close 22:00
adv.(now on sale)* 4,500yen door 5,500yen(with flyer 5,000yen)
*PIA[P-code 153-226]、LAWSON[L-code 76554]、e+、BEAMS RECORDS、bonjour records Daikanyama、DISC SHOP ZERO、DISK UNION(SHIBUYA CLUB MUSIC SHOP/SHINJUKU CLUB MUSIC SHOP/SHIMOKITAZAWA CLUB MUSIC SHOP/KASHIWA CLUB MUSIC SHOP/IKEBUKURO/KICHIJOJI/MACHIDA/YOKOHAMA-NISHIGUCHI)、JAZZY SPORT MUSIC SHOP TOKYO、JET SET TOKYO、Lighthouse Records、LOS APSON?、TECHNIQUE、LIQUIDROOM

※SOUL II SOUL SOUND SYSTEMのライブ・パフォーマンスはDJスタイルで行います。
※10歳未満は入場無料。

vol.20:グランジの時代ではないけれど - ele-king

 マリッサ・アバッテが歌いだすとスゴい。その小さい体からは考えられない声を発揮する。引き込まれるし、「オー! 大丈夫か」と言うぐらいにパワーを持ってる。ギターもうまい。最近は黒尽くめのワンピース(私はエミリー・ザ・ストレンジと呼んでいる)で、それが彼女のスタイルとなっている。前髪も眉毛の下まであって、きちんと顔を見たことがない。たんにシャイなのか、普通にゴスなのか......。彼女を中心とするスクリーミング・フィメールズは、ニュージャージーのバンド、こっちでは実力派のバンドとして知られている。 https://screamingfemales.com/

 いままで何回かショーを見ているけれど、見るたびにどんどんタイトになっている。最初に見たのは、たぶん3年ぐらい前のトーク・トーマルとのニュー・イヤーズ・イブだった。トーク・ノーマルを見に行ったのにスクリーミング・フィメールズに感動した。はじけてて、ストレートで、危なっかしい、そのさじ加減が絶妙だった。ツアーで鍛えられたのか、荒々しいなかにもちょっと洗練された感じがある。80年代ハードコア・ブームの感覚も否めないが、こんなピュアでストレートな音楽は現在そうそうできるものでもないだ。これってやっぱりニュージャージーという土地柄も影響している。あそこは本当にすることないんです。田舎なんです。逆にニューヨークにいたらちょっとひねくれようかなという気が起こるものですが、彼らの音楽には何もそうしたトリックがない。もっとストレート・パワーを感じる。
 とはいえ、いまは2011年であって、1980年のグランジ・ブームの時代ではない......。

 11月5日のショーは、〈285kent〉というかなりトレンドなヴェニューだった。もともとは〈ウエスト・ナイル〉という名前で、2年ぐらい前には週末ともなるとアンダー・グラウンドなノイズ・バンドやエクスペリメンタルなバンドが夜な夜なプレイしていた場所。ほとんどが住んでいる人や友だちのバンドなのだが、いつも混んでた。私も〈ハートファスト〉でショーを組ませてもらったことがある(ちなみにトーク・ノーマルのサラはここの住人だった)。1年半ぐらい前から新しい場所として再出発して、最近はインディ系でも大きめのバンドがプレイするようになった。

 トッド・Pというプロモーターがブルックリンのキッズが好きそうなライトニング・ボルト、フレンズ、ソフト・ムーン、さらにまた今月からは『ピッチフォーク』の支援するアルター・ゾーンが3ヶ月間のレジデンシー(ニュー・イヤーズ・イブまで)となっている。そしてこれからジ・オー・シーズ、アンドリューWK、スケルトンズ、フォーン・タグ、トータル・コントロール、パーツ・アンド・レイバー、オネイダなどのショーが控えている。つまりヒップスター系の場所なのだ。だから個人的には、スクリーミング・フィメールズにはあまり似合わない。どちらかというと隣にある〈ディス・バイ・オーディオ〉がしっくり来るし、実際そこで何度か見ている。そんなわけで、ちょっとおそるおそる、実際どんなクラウドが来ているのかも気になっていた。

 土曜の夜ということで人は多い。クラウドは若いかと思いきや、意外に年配者もいた。あとで聞くといろんなメディアが取材にきていたようだ。『ヴィレッジ・ヴォイス』もがんばっている。
 この場所はDIYなので、ミュージック・ホールのようにライヴ部屋とは別にラウンジがあって、バーがあって、バスルームが広くて、バルコニーがあって......などではない。ドアでお金を払い、カーテンを開けてなかに入ると、ただっ広い部屋がひとつ。習字のようなアートが前、右、左全面の壁に描かれている。前に来たときはもっと汚いイメージだったが、ちょっと変わった? 端にソファーはあるが、ドリンクを飲む憩いの場所(=バー)さえない。音楽が嫌いだったら避難する所がないのだ。友だちと話しもできない。外に出るとセキュリティーに怒られるし、いやでも聞けってことだろうか。見たいバンドがひとつしかなくて、時間を間違えたら地獄だ。

 私がついたときはストリート・イーターズ(https://streeteaters.com)というベイエリア出身のバンドがプレイしていた。女の子ふたりだがかなりの爆音、今日はこういう"夜"なのね。
 共演は、The Men。ル・ティグレのメンバーだった、JD samsonのバンド。意外な組み合わせだ、と思ったら、こっちでした。https://wearethemen.blogspot.com/
 JD samsonのバンドはMENで、こっちはThe Men。ブルックリン出身の男の子4人組のハードコア・バンド。はじまるまでまったく気づかなかった。というか、Theがあるかないかでバンド変わるの、どうなの。Man Manもいるし。
 彼らは、〈サクレッド・ボーンズ・レコーズ〉(他にサイキック・イルズ、クリスタル・スティルズ、ゾラ・ジーザス、カルト・オブ・ユースなど)というレーベルからアルバムを出している。最近は、ジ・オー・シーズとツアーをまわっていたらしい。前のほうはモッシュがピークで大変なことになってる。男の子のファンが多いけど、女の子も負けずに盛り上がってる。ちょっと初期のライトニング・ボルトの観客を思い出した。
 
 そしてスクリーミング・フィメールズ。今日もマリッサは、エミリー・ザ・ストレンジな格好だ。スカート丈、膝丈か少し下で、ワンピース。普段は色物もTシャツも着ているらしいけど。ドラムのジャレットはスター・スクリームのメンバーにも似ている、ちょっと勉強できるタイプに見える。The Menを見ているときに、端っこのソファーに座って黙々とドラム・スティックを持ってエクササイズしていた。ベースのマイケルは体育会系で、さばさばしている感じ。ずっとマーチ・テーブルのそばにいたので、意外にきちんとしているのかな。
 ショーのあいだは、私は人の大群の下敷きになったり、機材が落ちそうになったので抑えてみたり、マイクを直したり、ハラハラしたが、最初から最後までいちばん前で声援を送り続けてしまった。『ブルックリン・ヴィーガン』の写真家にあったのでいっしょになって見ていたら、横で写真を撮らずに大盛り上がりしていた。
 スクリーミング・フィメールズは、見ているとやんちゃな子供たちという感じだが、長くやっているだけあってサウンドがしっかりしている。努力家で、宿題きちんとやるんだろう......とまた違うことを考えてしまった。

 ちなみに彼女たちのレーベルはニュージャージーの〈Don Giovanni Records〉で、私は『Power Move』というアルバムしか持っていないのだが、新しいアルバムは『Castle Talk』がもう出ている。また、最近は初期のアルバムも再発されたらしい。https://www.screamingfemales.com/store_usa.html

 ショーが終わってマリッサと少し話をした。とてもかわいいお嬢様だった。少女漫画のようなキラキラした目をしている。これではもう1回見たくなるし、『ブルックリン・ヴィーガン』の写真家がせっせとショーに顔を出すのもうなずける。

Chart by JET SET 2011.11.14 - ele-king

Shop Chart


1

坂本慎太郎

坂本慎太郎 幻とのつきあい方 (初回限定盤) »COMMENT GET MUSIC
自身のレーベル、Zelone Records HPでの先行配信曲「幽霊の気分で」と、7インチ・シングルのカップリング曲「何かが違う」の2曲のアルバム・ヴァージョンを含む全10曲収録。インスト・バージョン・アルバム付きの豪華2枚組紙ジャケ仕様初回限定盤。

2

DJ YOGURT & KOYAS

DJ YOGURT & KOYAS SOUNDS FROM DANCE FLOOR »COMMENT GET MUSIC
DJ Yogurt & Koyasがダンス・トラックを中心にしたアルバムをついにドロップ!『There is Music』収録の"Slow Hand"をはじめ即完売となった12インチ収録曲"Into the Peak""Ride it On"などを収録。

3

SHIMMY SHAM SHAM

SHIMMY SHAM SHAM SHIMMY SHAM SHAM 004 »COMMENT GET MUSIC
Fela Kuti & Roy Ayersリエディッツの第一弾を皮切りに毎リリースがカルト・ヒットを記録しているミステリアス・シリーズ"Shimmy Sham Sham"最新作は、Arthur Russell & Nina Simoneクラシック・ネタ!!

4

ALTZ & RONDEION

ALTZ & RONDEION SOL LEVANTE EP »COMMENT GET MUSIC
Bosconi発"Extra Virgin"シリーズから大注目の一枚、Altz × Rondenionによるディスコ・スプリット。

5

COTTAM

COTTAM DEEP DEEP DOWN EP »COMMENT GET MUSIC
待ちに待ったCottam最新作が英"Aus"から登場。オリジナル2作品に加え昨今話題のウクライナ気鋭Vakulaを抜擢したリミックスもマスト過ぎる大推薦ビートダウン・トラックス!!

6

C.O.M.B.I.

C.O.M.B.I. SNAKES WINES / LOOKING A STAR »COMMENT GET MUSIC
男気溢れるワイルドなフロア・キラー・リエディットを量産しているDr.Dunks a.k.a. Eric Duncanによる"C.O.M.B.i."シリーズ最新作「Q / R」が到着!!

7

FAR OUT MONSTER DISCO ORCHESTRA

FAR OUT MONSTER DISCO ORCHESTRA KEEP BELIEVING (CAN YOU FEEL IT) »COMMENT GET MUSIC
M&M, 4 Hero, Isoul8, Mark E, LTJ Xperienceら豪華陣営によるリリースを繰り広げてきた、UKの老舗レーベル"Far Out"の設立16周年アニヴァーサリー・シリーズに、デトロイト・ビートダウン御大Theo Parrish、そしてUS地下発のリエディット専科"Plimsol"からデビューしたKompleksが手掛けた傑作盤が入荷!!

8

TEEBS

TEEBS COLLECTIONS 01 »COMMENT GET MUSIC
Flying Lotus率いる大人気レーベルBrainfeederからペインターとしての顔も持つTeebsが、優雅な美麗トラックを詰め込んだ2ndアルバムをリリース!

9

ROCKETNUMBERNINE

ROCKETNUMBERNINE LONE RAVER EP »COMMENT GET MUSIC
大人気Textからのデビュー作が大きな注目を集めた兄弟デュオRocketnumbernine。名門Soul Jazzからの初リリースとなる今作でもポスト・ポスト・ロックな強力3トラックスを披露です!!

10

GEORGIA ANNE MULDROW

GEORGIA ANNE MULDROW OWED TO MAMA RICKIE »COMMENT GET MUSIC
今回は生音を中心に、控えめかつ絶妙なシンセ、引き込まれるような雰囲気たっぷりの歌声が絡み合った極上ネオ・ソウル・アルバム。素晴らしいのは言うまでもありません!
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