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ディスク・ヨッケの3枚目のアルバム、ネットを見ると「ガムランにインスパイアされたアンビエント作品」なんて書かれているけれど、実際のところこのアルバム『サガラ』にはガムランと言われてすぐに思う浮かぶような、あのキラキラとした騒がしさはない。何の予備知識もなくこのアルバムを聴いて熱帯雨林気候を思う人はまずいないだろう。ノルウェーのオスロを拠点とするコズミック・ディスコの最高の作り手のひとり、ディスク・ヨッケがインドネシアのジャワやバリを旅して経験したガムランがこのアルバムに影響を与えているのは事実だが、アルバムはそうした非西欧文化圏の民族音楽のテクスチャーを前面に打ち出すことはなく、至極真っ当な、『ミュージック・フォー・エアポート』めいたアンビエントを展開している。新しさはないが、『サガラ』が自分にとって2011年のもっとも大切なアルバムだという人がいても驚かない。その穏やかさによってムードを変えるという点においては力のあるアンビエント・アルバムなのだ。
この作品がディスク・ヨッケにとっての方向転換なのか、寄り道なのか、気まぐれなのか、あるいはコズミック・ディスコ・ブームの頂点が過ぎ去ったあとの静けさなのか......、まさかヨガ教室へのアプローチではないだろうけれど(すいません、冗談です)、まあ〈スモールタウン・スーパーサウンド〉らしい佇まいのアルバムだ。昔ながらのこのレーベルのファンなら、キム・ヨーソイの『ホープネス』(2004年)やラーシュ・ホーントヴェットの『プーカ』(2004年)のような作品を思い出すかもしれない。品が良く、潔癖性的で、こんじまりとしているがむしろそれを長所とするような、控えめであることを美徳としながら、そこには印象的なコードとメロディがある(ディスク・ヨッケはそれなりに修練を積んだヴァイオリニストでもあるらしい)。イーサリアル(エーテル系)的なぼやけ方という点では2011年という年のひとつのトレンドともリンクしているとも言えなくもないが、しかしこれはやはり癒しのための音楽、平穏をもたらすための理性的で抑制の効いた音楽と言えよう。嘆き、悲しみ、不機嫌、苛立ち、あるいは逃避......そういった今年際だっていた感情、あるいはマーク・マッガイアらの大いなるトリップとはまったく別種の趣がある。エキゾティズムやワールド・ミュージック的なテクスチャーを期待する作品ではなく、早い話、地味な音楽の良さ、スローであることの良さ、古典的なアンビエント・アルバムとしての魅惑的なムードを提供している。それまでのおよそ28分が、クローザー・トラックのための長いイントロであったとしても。
野田 努