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Random Access N.Y.

Random Access N.Y.

vol.20:グランジの時代ではないけれど

文:沢井陽子 Nov 14,2011 UP

 マリッサ・アバッテが歌いだすとスゴい。その小さい体からは考えられない声を発揮する。引き込まれるし、「オー! 大丈夫か」と言うぐらいにパワーを持ってる。ギターもうまい。最近は黒尽くめのワンピース(私はエミリー・ザ・ストレンジと呼んでいる)で、それが彼女のスタイルとなっている。前髪も眉毛の下まであって、きちんと顔を見たことがない。たんにシャイなのか、普通にゴスなのか......。彼女を中心とするスクリーミング・フィメールズは、ニュージャージーのバンド、こっちでは実力派のバンドとして知られている。 http://screamingfemales.com/

 いままで何回かショーを見ているけれど、見るたびにどんどんタイトになっている。最初に見たのは、たぶん3年ぐらい前のトーク・トーマルとのニュー・イヤーズ・イブだった。トーク・ノーマルを見に行ったのにスクリーミング・フィメールズに感動した。はじけてて、ストレートで、危なっかしい、そのさじ加減が絶妙だった。ツアーで鍛えられたのか、荒々しいなかにもちょっと洗練された感じがある。80年代ハードコア・ブームの感覚も否めないが、こんなピュアでストレートな音楽は現在そうそうできるものでもないだ。これってやっぱりニュージャージーという土地柄も影響している。あそこは本当にすることないんです。田舎なんです。逆にニューヨークにいたらちょっとひねくれようかなという気が起こるものですが、彼らの音楽には何もそうしたトリックがない。もっとストレート・パワーを感じる。
 とはいえ、いまは2011年であって、1980年のグランジ・ブームの時代ではない......。

 11月5日のショーは、〈285kent〉というかなりトレンドなヴェニューだった。もともとは〈ウエスト・ナイル〉という名前で、2年ぐらい前には週末ともなるとアンダー・グラウンドなノイズ・バンドやエクスペリメンタルなバンドが夜な夜なプレイしていた場所。ほとんどが住んでいる人や友だちのバンドなのだが、いつも混んでた。私も〈ハートファスト〉でショーを組ませてもらったことがある(ちなみにトーク・ノーマルのサラはここの住人だった)。1年半ぐらい前から新しい場所として再出発して、最近はインディ系でも大きめのバンドがプレイするようになった。

 トッド・Pというプロモーターがブルックリンのキッズが好きそうなライトニング・ボルト、フレンズ、ソフト・ムーン、さらにまた今月からは『ピッチフォーク』の支援するアルター・ゾーンが3ヶ月間のレジデンシー(ニュー・イヤーズ・イブまで)となっている。そしてこれからジ・オー・シーズ、アンドリューWK、スケルトンズ、フォーン・タグ、トータル・コントロール、パーツ・アンド・レイバー、オネイダなどのショーが控えている。つまりヒップスター系の場所なのだ。だから個人的には、スクリーミング・フィメールズにはあまり似合わない。どちらかというと隣にある〈ディス・バイ・オーディオ〉がしっくり来るし、実際そこで何度か見ている。そんなわけで、ちょっとおそるおそる、実際どんなクラウドが来ているのかも気になっていた。

 土曜の夜ということで人は多い。クラウドは若いかと思いきや、意外に年配者もいた。あとで聞くといろんなメディアが取材にきていたようだ。『ヴィレッジ・ヴォイス』もがんばっている。
 この場所はDIYなので、ミュージック・ホールのようにライヴ部屋とは別にラウンジがあって、バーがあって、バスルームが広くて、バルコニーがあって......などではない。ドアでお金を払い、カーテンを開けてなかに入ると、ただっ広い部屋がひとつ。習字のようなアートが前、右、左全面の壁に描かれている。前に来たときはもっと汚いイメージだったが、ちょっと変わった? 端にソファーはあるが、ドリンクを飲む憩いの場所(=バー)さえない。音楽が嫌いだったら避難する所がないのだ。友だちと話しもできない。外に出るとセキュリティーに怒られるし、いやでも聞けってことだろうか。見たいバンドがひとつしかなくて、時間を間違えたら地獄だ。

 私がついたときはストリート・イーターズ(http://streeteaters.com)というベイエリア出身のバンドがプレイしていた。女の子ふたりだがかなりの爆音、今日はこういう"夜"なのね。
 共演は、The Men。ル・ティグレのメンバーだった、JD samsonのバンド。意外な組み合わせだ、と思ったら、こっちでした。http://wearethemen.blogspot.com/
 JD samsonのバンドはMENで、こっちはThe Men。ブルックリン出身の男の子4人組のハードコア・バンド。はじまるまでまったく気づかなかった。というか、Theがあるかないかでバンド変わるの、どうなの。Man Manもいるし。
 彼らは、〈サクレッド・ボーンズ・レコーズ〉(他にサイキック・イルズ、クリスタル・スティルズ、ゾラ・ジーザス、カルト・オブ・ユースなど)というレーベルからアルバムを出している。最近は、ジ・オー・シーズとツアーをまわっていたらしい。前のほうはモッシュがピークで大変なことになってる。男の子のファンが多いけど、女の子も負けずに盛り上がってる。ちょっと初期のライトニング・ボルトの観客を思い出した。
 
 そしてスクリーミング・フィメールズ。今日もマリッサは、エミリー・ザ・ストレンジな格好だ。スカート丈、膝丈か少し下で、ワンピース。普段は色物もTシャツも着ているらしいけど。ドラムのジャレットはスター・スクリームのメンバーにも似ている、ちょっと勉強できるタイプに見える。The Menを見ているときに、端っこのソファーに座って黙々とドラム・スティックを持ってエクササイズしていた。ベースのマイケルは体育会系で、さばさばしている感じ。ずっとマーチ・テーブルのそばにいたので、意外にきちんとしているのかな。
 ショーのあいだは、私は人の大群の下敷きになったり、機材が落ちそうになったので抑えてみたり、マイクを直したり、ハラハラしたが、最初から最後までいちばん前で声援を送り続けてしまった。『ブルックリン・ヴィーガン』の写真家にあったのでいっしょになって見ていたら、横で写真を撮らずに大盛り上がりしていた。
 スクリーミング・フィメールズは、見ているとやんちゃな子供たちという感じだが、長くやっているだけあってサウンドがしっかりしている。努力家で、宿題きちんとやるんだろう......とまた違うことを考えてしまった。

 ちなみに彼女たちのレーベルはニュージャージーの〈Don Giovanni Records〉で、私は『Power Move』というアルバムしか持っていないのだが、新しいアルバムは『Castle Talk』がもう出ている。また、最近は初期のアルバムも再発されたらしい。http://www.screamingfemales.com/store_usa.html

 ショーが終わってマリッサと少し話をした。とてもかわいいお嬢様だった。少女漫画のようなキラキラした目をしている。これではもう1回見たくなるし、『ブルックリン・ヴィーガン』の写真家がせっせとショーに顔を出すのもうなずける。

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Profile

沢井陽子沢井陽子/Yoko Sawai
ニューヨーク在住20年の音楽ライター/ コーディネーター。レコード・レーベル〈Contact Records〉経営他、音楽イヴェント等を企画。ブルックリン・ベースのロック・バンド、Hard Nips (hardnipsbrooklyn.com) でも活躍。

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