ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Wool & The Pants - Wool In The Pool (review)
  2. Grischa Lichtenberger - Re: Phgrp (Reworking »Consequences« By Philipp Gropper's Philm) (review)
  3. interview with BBHF 歓びも、悲しみも痛みもぜんぶ (interviews)
  4. Adrian Sherwood, Roots Of Beat & Exotico De Lago ──エイドリアン・シャーウッドの来日公演にオーディオ・アクティヴ、ドライ&ヘヴィの面々からなる新バンドが出演、エキゾティコ・デ・ラゴも (news)
  5. Hair Stylistics ──2004年のファーストが初めてヴァイナルでリリース (news)
  6. Nightmares On Wax ──ナイトメアズ・オン・ワックスが来日 (news)
  7. Local X9 World Hyperdub 15th ──15周年を迎える〈ハイパーダブ〉が来日ショウケースを開催 (news)
  8. Neue Grafik Ensemble - Foulden Road (review)
  9. Mall Boyz ──Tohji 率いる Mall Boyz が全国ツアーを開催 (news)
  10. NITRODAY × betcover!! ──ミニ・アルバムを発売したばかりのニトロデイがツアーを開催、ninoheon の参加も決定 (news)
  11. Danny Brown ──ダニー・ブラウンがまもなくリリースされるアルバムより新曲のMVを公開 (news)
  12. マスターズ・アット・ワーク来日直前特別対談 時代を越える存在──DJ NORI と Dazzle Drums が語る MASTERS AT WORK (news)
  13. Alva Noto & Ryuichi Sakamoto ──アルヴァ・ノト&坂本龍一がライヴ盤をリリース (news)
  14. Grischa Lichtenberger - Spielraum (review)
  15. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか (columns)
  16. interview with KANDYTOWN 俺らのライフが止まることはないし、そのつもりで街を歩く (interviews)
  17. Daichi Yamamoto - Andless (review)
  18. Madame Gandhi - Visions / Various Artists - Manara International Presents: The Ultimate Spice Mix (review)
  19. クライマックス - (review)
  20. The Art Ensemble of Chicago - We Are on the Edge: A 50th Anniversary Celebration (review)

Home >  Regulars >  Random Access N.Y. > vol.102:NYの映画館で坂本龍一の映画を観る- Ryuchi Sakomoto Coda @ cinema village

Random Access N.Y.

Random Access N.Y.

vol.102:NYの映画館で坂本龍一の映画を観る

Ryuchi Sakomoto Coda @ cinema village

沢井陽子 Jul 31,2018 UP

 『NYタイムス』の記事で、坂本龍一がよく行く日本食レストランの話があった。彼はその店の音楽が嫌いで、普通なら何も言わないでそこを立ち去るのだが、そのレストランは彼のお気に入りなので、音楽の選曲を担当させてくれないかと申し出た、という。ふんふんと頷きながらこの記事を読み進めていくと、同時に『CODA』が紹介されていた。


https://coda.mubi.com

 2014年6月、咽喉癌の段階3と診断された彼は、7月10日に公表し、治療に専念することにした。Alejandro González Iñárritu監督から突然電話があったのは、何ラウンドかの化学治療を終えた翌年の春のことだった。坂本龍一は、明日もし可能ならLAに来てくれないか、と言われた。起きたばかりでボーとしていたこともあり、休養期間にも関わらず、イエスと答えていた。20代から仕事をし、こんなに長く休んだのは初めてで、仕事をしないことが悪に感じていた頃だった。生命の危険を経験したことで、彼の創造力のモチベーションが上がり、音への追求が果てしなくはじまった。

 という、彼が癌治療をはじめてからの、休養期間に撮影されたドキュメンタリーだ。彼のミュージシャンとして、そしてひとりの人間として、音への情熱、社会に貢献する姿勢、癌後の人生についてなどが、彼の作品や昔の映像を合わせながら綴られている。彼のひと言ひと言に頷き、作品の美しさに体が震え、人間味溢れるキャラクターに親近感を覚えた。

 彼は2011年、津波の被害にあった福島に赴き、原子力反対の運動に積極的に参加し、津波の後に生き残ったピアノで、疎開している人達のためにコンサートを開き、現地のアイコンとなった。ピアノを弾き、災害の後に残ったこれこそが、自然の調律になっている、と彼は思ったと言う。物は自然のままが真の姿なわけだが、現代に生きる私たちは、それを忘れがちだ。

 雨の降る音、鳥が飛び交う音、木がそよぐ音など、自然の音に反応し、北極に行って水の音を録音したり、大雨の降る日に外に出てバケツを頭から被り音を感じたり、シンバルを持ち込んで、バイオリンの弦をあてたり、コーヒーカップで円を描くように音を出したり、理想の音を求め続ける姿が描かれる。

 彼の昔のバンド、テクノ・ポップのイエロー・マジック・オーケストラのライヴ映像や、若かりし日々の坂本さんのインタヴューや音楽、そして俳優としての姿──『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』の映像(ベスト・オリジナル・スコア賞を受賞)ばかりか、昔の東京の映像なども盛り込まれている。時代背景からも様々な想いを馳せることができる映画だ。

 この映画は、威厳としたリンカン・センター(http://www.lincolncenter.org)で見るのが筋かと思ったが(NYは7月末から公開で2映画館のみ)、坂本さんの家にも近い、こじんまりしたシネマ・ヴィレッジ(https://www.cinemavillage.com/)で観賞した。ゆるい雰囲気で、広告もほとんどなく、売り切れにもならず、何気に心地よい。『CODA』のおかげで新しい映画館も発見できた。

Random Access N.Y. - Back Number

Profile

沢井陽子沢井陽子/Yoko Sawai
ニューヨーク在住20年の音楽ライター/ コーディネーター。レコード・レーベル〈Contact Records〉経営他、音楽イヴェント等を企画。ブルックリン・ベースのロック・バンド、Hard Nips (hardnipsbrooklyn.com) でも活躍。

COLUMNS