「S」と一致するもの

Expressway Yo-Yo Dieting - ele-king

 先月、アウター・スペースをピック・アップした際に「ドローンとテクノの壁にも穴が空きはじめ(中略)それがひとつの流れになるならば、スティーヴン・オモーリーのギターにジェフ・ミルズがリズムをつけるとか(中略)聴いてみたいと思う組み合わせは無数に思い浮かぶ。誰が最初にやるんだろうか」と書いた直後にデトロイト・テクノのホアン・アトキンスがこのところ急速にドローンへの傾斜を強めているサイキック・イルズのリミックスを手掛けていて、一瞬はゲッと驚いたものの、仕上がりはそれほどのものではなかった。キックが途絶えてドローンの一部がループされるなど手法的にはテクノ・フィールドに引きずり込んだだけで、ドローンは素材として料理されていただけだったからである。かなり本格的なドローン・ミュージックがダンス・ミュージックのリミックスを求めた例としてはもちろん特筆に価するし、アトキンス以外にはファウストやバットホール・サーファーズからギビー・ヘインがリミキサーに起用されているという発想は、もちろん、悪くはなかった。

 同じ時期にリリースされたインディグナント・セニリティ(タイプから『プレイス・ワグナー』をリリース)ことパット・マウアーによる別名義は、しかし、何か違う扉をこじ開けようとしているように感じられる。簡単にいえばドローン・サウンドにさまざまなタイプのダンス・ビートがミックスされ、それらがDJミックスであるかのように構成された結果、ドローンとしてもダンス・ミュージックとしても使えないものに仕上がっている。そのどちらかを求めている人には単なる失敗作でしかない。ビートが導入されているという時点でドローン・サウンドとはとてもいいがたく、ダンス・ミュージックとしての機能を持つにしては全体がドローンに呑まれすぎで、どうしてもビートを追い続ける努力が必要になってくる。両方の価値観が渾然となって襲ってくるサウンドは壮大なる失敗作としかいいようがなく、その混沌とした存在感をなぜかわくわくしながら受け止めるのみである。なるほど、〈ウィアード・フォレスト〉にしかこれは出せないだろうと思いながら。

 テクノやブレイクビーツ風のリズムも使われているけれど、ヒップホップのリズムやカット・アップ、あるいはジャケット・デザインに〈トミー・ボーイ〉のシルエットが使われるなどヒップホップの幻に取り付かれている様子はありありで、「バブル+サグ=実体のないチンピラ」とでも訳すのか、アルバム・タイトルもそんな風情を偲ばせる(インディ・ロックとヒップホップの架け橋となったアンチコンには、その初期にはヒップホップの正統を名乗ろうという気概があったけれど、ここにあるのはもはやフィールド・レコーディングの対象としてのヒップホップでしかない)。

 ドローンの波間から残像のように立ち現れるヒップホップの幻影。ヒップホップをドローンに溶かし込んだという意味では力作である。とはいえ、それはもはやドローンではない。では......何なのだろう?

Tricky - ele-king

 子供の頃から朝起きるとまず吸って、そして寝る直前まで吸い続けていたという彼は、新作のジャケットでも思い切り吸っている。......が、最近は、喫煙をやめているらしいのである。「3週間止めているんだ」、そういう彼に『ガーディアン』(9月19日付)の記者は驚き、そして確認する。「止めたいと思っている」、とトリッキーは答える。明らかな変化だ。
 42歳のトリップホッパーは、そして同紙のインタヴューで、(まさに濃い煙の賜物であり、煙そのもののカオスの具現化とでも喩えられるであろう)自らの初期の作品を「醜悪に聴こえる」とまで言っている。実際に新作は、数多くの賞賛を浴びた過去のどれとも違っている。アイルランドの歌手、フランキー・ライリーとデュエットするスローなファンク"エヴィリー・デイ"、エレクトロ調のダンスホール"UKジャマイカ"、アルジェリアのギタリストをフィーチャーしたソウルフルな"ハキム"、スウィングするリズム&ブルース"カム・トゥ・ミー"、ロッキンなダンス"マーダー・ウェポン"......より多彩で、よりダンサブルで、誤解を恐れずに言えば、よりポップだ。
 
 トリッキーのアルバムはファンのあいだではよく指摘されるように、とにかく1曲目が最高である。2年前の『ノウル・ウエスト・ボーイ』の冒頭の咳き込むようなブルース"プピー・トイ"、『ジャックスタポーズ』の突き刺さるナイフのような"フォー・リアル"、そしてもちろん『マキシンクェイン』のトリップホップの頂点と言えるであろう"オーヴァーカム"......それらは、そこにいるだけで目が痛くなりそうな、モクモクと煙の充満した地下世界の魅惑的な入口として機能している。甘美な魔物が耳元で囁き、手招きしているのだ。
 そうしたトリッキーのある種サタニックな響きは、彼の特異なバイオグラフィー(母親の自殺、育ての親である叔父の家での親戚同士の血まみれの喧噪といった幼少期の記憶、あるいはドレスを着てドープを吸ってクラビングしていた日々、あるいは兄弟たちの非業の死)を知らなくても、リスナーを深いネガフィルムの世界へと沈ませる魔力を持っている、が、しかし、彼の音楽から彼の自叙伝を排除することは不可能でもある。有名な"ヘル・イズ・アラウンド・ザ・コーナー(角を曲がればそこは地獄)"は言うにおよばず、2枚目のアルバム『ニアリー・ゴッド』も彼の記憶とその恐怖の妄想の産物だったが、マッシヴ・アタックと違ってトリッキーは、ブリストルから逃げるようにまずはロンドンに住み、次はニューヨークへと、で、その次はロサンジェルスへと移り住んでいる。そしていまはパリ、新作は初のパリ録音でもある。
 
 「進むためには振り返らなければならない。過去について書かなければならない」、トリッキーは『ガーディアン』の記者にそう語っている。たしかに、『ノウル・ウエスト・ボーイ』によって長いあいだ逃げ続けてきた故郷に目を向けた彼は、マッシヴ・アタックの「デイリーミング」から20年後に発表された9枚目のアルバムにおいてもブリストルを見つめている。アルバムの題名である『ミックスド・レース』(ミックスされた人種)とは、トリッキーの説明によれば彼が経験したブリストルのマルチ・カルチュアラルな音楽シーンから来ている。このアルバムの驚くほどの多彩な音楽性は、彼の記憶のポジティヴなところによるものなのだ。アルバムには、刑務所から戻ってきた実弟マーロン、キングストンのポリティカルな女性"ハードコア"ラッパーのテリー・リン、あるいはボビー・ギレスピーらが参加している。
 政治と宗教を同等に憎むという彼は、その理由を「何も変えないからだ」と話している。ストリートワイズとはそういうところで身に付くものであり、トリッキーにとってターニング・ポイントになるであろう『ミックスド・レース』には歳を重ねたストリートワイズの寛容さが出ている、と言えるだろう。なにせアルバムにはクラブでプレイできるような曲が初めて収録されているのだ。もちろんそれらがいままでのファンをがっかりさせるようなことはない。

Shop Chart


1

DJ FUNNEL

DJ FUNNEL AMBIENT PARK VOL.1 melting folk mix MOIRE / JPN »COMMENT GET MUSIC
美麗なメロディーラインの楽曲~トリップ感満載のサイケデリックサウンドを、おなじみのFUNNEL独特のMIXで、時間軸を穏やかに狂わし安住の地へと導いていく。ジャケットは、彼が日常の生活で訪れた場所で何気なく撮られた写真の画像やコーヒーの匂いが薄っすらと染みる1点1点異なる仕様で、すべてハンドメイドで制作された限定MIXCD!!

2

COMMIX

COMMIX Re:Call To Mind METALHEADZ / UK »COMMENT GET MUSIC
COMMIX最高傑作アルバム「Call To Mind」が豪華メンバーによってリミックスを施され再リリース! DUBSTEPからは、NON PLUSのINSTRA:MENTAL、EXITのD BRIDGE、HESSLE AUDIOのPANGAEA、HYPER DUBのBURIAL、HOTFLUSHのSIGHA、そして2562の変名A MADE UP SOUNDが参加。またデトロイトを代表するUNDERGROUND RESISTANCE、さらにベルリンシーンを代表するMARCEL DETTMAN、WORKSHOP/MIKRODISCOのKASSEM MOSSE等、普通では考えられない各シーンを代表するプロデューサー陣が参加したプレミアムなリミックス・アルバム!

3

MICHEL CLEIS

MICHEL CLEIS Un Dolce CADENZA / GER »COMMENT GET MUSIC
La Mezclaのヒットが記憶に新しいMICHEL CLEIS の12"が同じく『CADENZA』からリリース。完全にジャンルを横断した早くもクラシック入り決定のキラー盤。A-1"Litoral (Original Mix)"はQUANTEC & HIS COMBO BARBARO 「Un Canto A Mi Tierra」ネタ使い。B-1には、すでに現場でスピンされまくっているというキラートラックB-1"Don Fiore (Original Mix)"を収録。

4

EMMANUEL JAL

EMMANUEL JAL Kuar EP INNERVISIONS / GER »COMMENT GET MUSIC
Henrik Schwarz リミックス!!!!ケニアのシンガーEMMANUEL JAL の楽曲をHenrik Schwarz と 北欧エレクトロ・ユニット THE KNIFE のメンバー Olof Dreijer のリミックスを収録した1枚。A-1はHenrik Schwarz。自身もすでにプレイ中というさすがのリミックス。B-2 Olof Dreijer はオリジナルを自身の色、ダーク・エレクトロ・ハウスに昇華。

5

WESTBAM

WESTBAM A Love Story 89-10 KONTOR / GER »COMMENT GET MUSIC
今年でついに21年という長い歴史に終止符を打つ事となったこのテクノ・ミュージック最大のフェスティバルに第1回目から参加し、またLOVE PARADEのアンセムも数多く手がける等非常に深い関わりを持つジャーマン・テクノの首領、WESTBAMによる"LOVE PARADEに捧げる"スペシャル・コンピレーション/ミックスCD!!

6

PACIFIC HORIZONS

PACIFIC HORIZONS Forest Electric/Jack Parsons' Laboratory PACIFIC WIZARD FOUNDATION / US »COMMENT GET MUSIC
1stシングルがDJ Harveyの強力サポートの元大ヒットを記録したUS発のPacific Horizonsの第2弾シングルが到着!前作の流れを踏襲したエモーショナルなギターを鳴らすAサイドは温かみのあるコードと生ドラムな鳴りが魅力。Bサイド"Jack Parsons' Laboratory"では様々な要素を絶妙にミックス、ドープかつドラマティックに展開する楽曲性の高いトラック!

7

ROBERT OWENS

ROBERT OWENS Art COMPOST / GER »COMMENT GET MUSIC
Larry Heard他、豪華プロデューサー陣のバックアップの元、レジェンドRobert Owens、3年振りとなる2枚組フルアルバム完成。ディープかつリズミカルに、時にクラシカルなアシッドに、エモーショナルなダンストラックを披露。黒くそのウェットな歌声を存分に引き出し絶妙な温度感が心地良いヴォーカル・アルバムへと仕上がった。

8

LEVON VINCENT

LEVON VINCENT Recorded Lived@Club Eleven UNDERGROUND QUALITY / US »COMMENT GET MUSIC
USアンダーグラウンドハウスの要注意人物、JUS-EDと共に、実力と知名度を徐々に上げているキーマンLEVON VINCENT。9月に来日した際、西麻布ELEVENにてプレイした音源をCD-R化!自身の作品のような、インダストリアル+アシッド感は幾分抑え目に、NYに始まる東海岸のHOUSE MUSICの地下っぽさを抽出した骨太なMIX音源!

9

DJ SLUGO

DJ SLUGO Chicago Old School Mix Vol.1 SUBTERRANEAN / US »COMMENT GET MUSIC
かつてDance Maniaから数々のシングルをリリースしてきたGhetto DJ Sligoが80年代のシカゴハウス・クラシックにスポットを当てミックスしたローカルリリース・オンリーの1枚。全30トラックと聴き応え十分の内容!

10

DJ ROC & DJ D-BLOCK

DJ ROC & DJ D-BLOCK Juke City 3 VIOLATOR / US »COMMENT GET MUSIC
80年代にうまれたシカゴハウス、そして90年代のDance Maniaを中心としたGhetto House / Bootyと枝分かれシカゴのローカルのみで独自の進化を遂げ、デトロイトの「Jit」と共に発展してきたストリートミュージック「Juke」。今回ディスクユニオンではローカルのみで販売されているJuke~Ghetto House~Chicago House ClassicsのミックスCDRを入手、ぜひこの機会にチェックしてみてください!

Chart by JETSET 2010.10.11 - ele-king

Shop Chart


1

DJ YOGURT & KOYAS

DJ YOGURT & KOYAS INTO THE PEAK / RIDE IT ON »COMMENT GET MUSIC
DJ Yogurt & Koyas名義としては、初となるダンス・トラックを収めた限定12インチが登場!KLFの「Chll out」のトリビュート盤が大ヒット中のDJ YOGURT & KOYAS。その「Chill Out」製作中にダンスものが作りたい欲求に襲われて完成した強烈な2トラックを収録!

2

MOODMAN / SHHHHH

MOODMAN / SHHHHH ZZK RECORDS PRESENTS THE DIGITAL CUMBIA EXPLOSION »COMMENT GET MUSIC
MoodmanのミックスCD+ShhhhhがコンパイルしたCDの豪華パッケージ!アルゼンチン、ブエノスアイレスに拠点を置くZZK Recordsの音源の魅力を余すことなく堪能できる珠玉の一品!さらに限定特典として、Moodmanのミックスをさらにもう1枚!

3

CUT CHEMIST

CUT CHEMIST ADIDAS TO ADDIS »COMMENT GET MUSIC
大好評ライブ・ミックス"Sound Of The Police"から2曲が12"カット!同ライブの主役だった、Mulatu Astake"Alemiye"使いのエキゾチックで激グルーヴィーな"Adidas To Addis"!

4

NITE JEWEL

NITE JEWEL AM I REAL? »COMMENT GET MUSIC
Prins Thomasお買い上げ!素晴らしいとしか言えません。西海岸インディ・シンセ・クイーンがさらに輝くスーパー傑作マキシ!!説明不要のNite Jewel、ホームGlorietteから6曲入りEPが到着しました!!全て新録音、プロデュースはもちろんCole M.G.N.=Samps。

5

MARK RONSON & THE BUSINESS INTL

MARK RONSON & THE BUSINESS INTL THE BIKE SONG »COMMENT GET MUSIC
注目のアルバムから今度はSpank Rockを迎えたポップなキラー・チューンがカット!スコティッシュ・バンド、ViewのKyle FalconerによるVo.も心地よい一曲。そしてSide-BにはMajor Lazer Remixを収録!

6

AUTRE NE VEUT

AUTRE NE VEUT S.T. »COMMENT GET MUSIC
またまたOled English Spelling Beeからの超衝撃盤。本気80'sメロディにシビれまくりです!!Toro y MoiとNite JewelとGamesを足して80年代MTVで割ったような衝撃のインディ・シンセ・ソウル・ユニット、Autre Ne Veutのデビュー・アルバム!!

7

FINDLAY BROWN

FINDLAY BROWN PROMISED LAND »COMMENT GET MUSIC
永遠のハウス古典大名曲の素晴らしいカヴァーが遂にシングル・カット!!This Is Musicから'08年にリリースされた"All That I Have"に収録され話題を呼んだシカゴ・クラシック"Promised Land"のカヴァー&Pilooski Editが、フランス"Record Maker"から10"ゴールド・カラー・ヴァイナルにて再登場。

8

BABE, TERROR

BABE, TERROR SUMMERTIME OUR LEAGUE »COMMENT GET MUSIC
Gonzalesの爆裂ヒットも記憶に新しいErol Alkan率いるPhantasy Soundから、新星Babe, Terrorによる当店直撃レフトフィールド・ミニマル・リミキシーズが登場!

9

UMAMI / NICONE

UMAMI / NICONE I COME TO YOU »COMMENT GET MUSIC
即戦力仕様のエキゾ・スウィンギン・ミニマル・ハウス特大傑作が誕生!!前002番が当店爆裂ヒットしたモントリオール系スウィンギン・ミニマル・レーベルからの第3弾。必殺の日本戦後歌謡ネタ炸裂のB2がヤバ過ぎます~!!

10

DUFF DISCO

DUFF DISCO I NEED YA EP »COMMENT GET MUSIC
Eddie C, James Johnstonをリミキサーに起用し、注目のフレンチ・レーベルにDuff Discoが初参戦!!自身のレーベルも立ち上げ波に乗るUKのJeremy Duffyによるソロ・プロジェクト"Duff Disco"の最新作がフランスCompositeから登場。Under The Shade諸作品を彷彿とさせるグルーヴィ・トラック満載でのデリバリーです。

Solar Bears - ele-king

 かつてトラウマはトラとウマに分かれてどうのこうの......といってたのは浅田彰だけど(爆)、00年代前半の花形サウンドだったエレクトロクラッシュもいつのまにかチップチューンとチルウェイヴに分かれていた。M.I.A.のレーベルにサインしたスレイ・ベルやディスラプト、あるいはクォーター330やニール・キャンベルによるアストラル・ソシアル・クラブの新作もチップチューンで、聴いたことはないけれど、撲殺少女工房やエラーズもその筋に当たるらしい。アイコニカフライング・ロータスも部分的には手を出しているし、ペット・ショップ・ボーイズは早くも「ドィド・ユー・シー・ミー・カミング?」でリミックスに取り入れている。詳しくは書かなかったけれど、実はコレもそうだった→https://www.dommune.com/ele-king/review/album/000755/
 いっぽうのチルウェイヴはエレクトロクラッシュ(やその先祖である80年代のシンセ-ポップ)がシューゲイザー(とくにアンビエント・シューゲイザー)と結びついたもので、アリアル・ピンクウォッシュト・アウトが起源とされている。サーフ・ミュージックとの親和性も顕在化していて、このところ急速に拡大しているのは......レヴュー欄の過去ログを参照。
 
 ダブステップの狂騒に湧く〈プラネット・ミュー〉から「イナー・サンシャインEP」でデビューしたダブリンのジョン・コワルスキーとライアン・トレンチもその裾野を広げようとするニュー・カマー。ほぼ1ヶ月のインターバルでリリースされたデビュー・アルバムもチルウェイヴの例に漏れず、実にやる気のないはじまりで、EPでは『レムリアン』の成功で知られるアンビエント調ヒップホップのローンによってリミックスされていた"ツイン・スターズ"のオリジナルや続くタイトル曲に辿り着く頃には完璧にダレ切っていること請け合い。なんの深みもない音楽の谷間に意味もなく埋没してしまいます。エレクトロクラッシュからチルウェイヴを通り越してすでにラウンジ・ミュージックの域に達していると考えたほうがいいのかもしれないし、レコード・ショップのバイヤーを真似て「これがチルウェイヴの決定版だ!」と開き直ったほうがいいのかもしれない。実際、ティーンガール・ファンタジーのデビュー・アルバムはそのように書かれていた。半分ぐらいはバリアック・ハウスなんだけど。

 チルウェイヴの穏やかさにはひとつ特徴があって、それは感情的な強さを持たず、思ったほどセンチメンタルでもなければ絶望感もなく、ましてやハッピーではないし、メロディが豊富なわりにどこか淡々としていることだろう。なぜ、ここにリズムがあり、ロー・ファイのクリシェから意識的に遠ざかろうとするのか。一脈で通じる部分があるながらもピンク・フロイドのようなドラマ性はもちろんループ・サウンドの多用によって周到に回避されている(やはりアニマル・コレクティヴについてもっと考えるべきなのか?)。彼らはいったい、何を抑圧しようとしているのだろうか。それともこのシーンにフロイト的な葛藤が隠されていると判断する僕の方が何かに抑圧されているのだろうか。わからない。ぜんぜん、わからない。

 そういえば、10年ほど前に♪心の揺れを静めるために静かな顔をするんだ~と歌い出す曲があったな......

Chart by Pigeon Records 2010.10.08 - ele-king

Shop Chart


1

Axel Boman

Axel Boman Holy Love Pampa [GER] »COMMENT GET MUSIC

2

Crue-l Grand Orchestra

Crue-l Grand Orchestra Barbarella Crue-L Records [JPN] »COMMENT GET MUSIC

3

Dasha Rush

Dasha Rush Sonic State Sonic Groove [US] »COMMENT GET MUSIC

4

Donato Dozzy

Donato Dozzy K Further Records [US] »COMMENT GET MUSIC

5

Hot Chip

Hot Chip Hand Me Down Your Love - Wild Geese Remix White [UK] »COMMENT GET MUSIC

6

Michel Cleis

Michel Cleis Un Dolce Cadenza [CH] »COMMENT GET MUSIC

7

Pacific Horizons

Pacific Horizons The Forest Electric / Jack Parsons' Laboratory Pacific Wizard Foundation [US] »COMMENT GET MUSIC

8

Peter O

Peter O Tell Me Herz Ist Trumpf [GER] »COMMENT GET MUSIC

9

Psyk

Psyk Throes Figure [GER] »COMMENT GET MUSIC

10

Traks Boys

Traks Boys Starburst Internasjonal [NOR] »COMMENT GET MUSIC

タバタミツル - ele-king

 出てから半年ちかく経った作品をとりあげるのはインターネットの即時性の面でどうかと思わなくもないが、タバタミツルの『ルシファー』は聴くたびに肝銘と混迷を深める作品なので、おゆるしいただきたい。しかしタバタミツルの『ルシファー』はゆるしを乞うようなものではない。不易流行の流行の部分と敢然と袂をわかっており、その点では野田努のアフィ評で(二木信とともに)ファッショナブルじゃないといわれた私にはぴったりだが、タバタミツルがファッショナブルではないというわけではない。タバタミツルの音楽には不易を徹底してきた孤高――と書くとひどく陳腐だが――と、それに対する含羞があり、それらのブレンドはタバタの加わったのいづんずりやオリジナル・ボアダムスの脱力感をたんに脱力のままにしておけない狂気へとある種の屈折を抱えたまま転調し、80年代末からゼロ年代を通り現在にいたる彼の特異なキャリアの底流になっている。

 このアルバムではそれがもっとも顕著に噴出しているのは、このアルバムがポップあるいはウタモノのせいだ。歌とギターの多重録音を中心とした『ルシファー』の簡素なメロディと反復構造は麻薬のような酩酊感をもっているが、私はこれらの音の連なりは恣意的な逃避のためのトリップ・ミュージックというよりも、無意識下の譫言みたいな虚空に言葉を投げるような、身体的である以上に本能としてのサイケデリック・ミュージックを聴いた思いがした。余分な装飾を身につけないということだ。いや、もしかしたら裸かもしれぬ。裸でありつつづけることがタバタミツルに含羞をもたらしたとすればファッションとやはりはちがう。元から裸だったのか、いつしかそうなったのかは問題ではない。ある時期から一貫して裸だったのがおそるべきことなのだ。『ルシファー』でタバタはそれを実証するようにギターのワン・フレーズ、歌のメロディの一片にまで降りて、音楽が成り立ってしまう(「成り立ってしまう」に傍点をふってください)不可思議な作用を探り当てようとする。そこでは当然、記録した譫言を事後的に点検するような、徹底した相対化とも批評ともいえる緩衝地帯が作者と作品の間に出現してくるのも忘れてはならない。

 前述のように『ルシファー』はポップでありサイケデリックであるが、私のいうサイケデリックはそれとは幾分隔たった――しかし曖昧な区分の――アシッド・フォークやミニマルといったキーワードを含み、不易が流行を先回りしているのである。"世界最古のヤクザ~Lucifer"のヒプノティックなギターとつきものが落ちたような素面の歌の執拗なリフレイン、歌の描く情景が跛を引き旋回する"月の石"、"気分はショウニ!""アハー(ウフーン)" "フランス人皆殺し"といった中盤の曲の(ブラック)ユーモアは乾いており、音響には反=オーケストレーションとも呼びたくなるSF的なニュアンスさえ感じるのはわたしだけ? だとしても、『ルシファー』はレニングラード・ブルース・マシーン、ゼニゲバからパグタス、ウルトラ・ビデのヒデとボガルタの砂十島NANIとのトリオ、アマゾン・サリバ、このアルバムのプロデューサーでもある河端一とのアシッド・マザーズ・テンプル&コズミック・インフェルノといった音楽性の隔たったバンドのいずれでも独自のポジションを見いだしてきたギタリストの比類のなさの一端を示すものであり、倦まずたゆまず彼が音楽をつづける限り、私たちはさらにそれを知ることになる。

「きみたちに足りないもの きみたちに必要なもの」("殺しのライセンス")とはこういったものだと思った。

こだま和文 from DUB STATION(w/DJ YABBY) - ele-king

 僕と水越真紀は乃木坂の駅を出てから西麻布の路地裏をしばらく迷い、同じ区画を一周し、途方に暮れ、問い合わせ先の番号に電話をかけたその瞬間、目の前に〈新世界〉があった。よくある話である。入口には長谷川賢司がいた。この新しいライヴ・スペースには〈ギャラリー〉を主宰するベテランDJが関わっていると知って嬉しく思った。そのこけらおとしとして、二夜連続でこだま和文のワンマンライヴとくれば、日常的には関わりのない西麻布というエリアの初めて入る会場にも親近感が湧いてくるというものだ。

 〈新世界〉はざっと50人も入ればそれなりにいっぱいの、思ったよりもずいぶんと狭い会場だが、テーブルと席があることで落ち着いた雰囲気を醸し出し、より親密な空間を作っているように感じる。この手の会場は、昔よくロンドンで経験した。実験色の強いエレクトロニック系のアーティストのライヴをメインにやっていて、客は学生が多く、集中して聴くことができた。じっくりと音と向き合えるという意味では、最適な空間だとも言える。いままでの東京にありそうでなかったタイプのヴェニューで、今後の展開が楽しみである。

 そんな感じの良い空間の、最初のライヴが4年ぶりのこだま和文のワンマンだというのは、実に贅沢な話だ。先頃このアーティストは、著書『空をあおいで』を上梓している。生活を生きるということを、とても温かく描いているその本に僕はずいぶんと勇気づけられた。彼は、何億光年も彼方の惑星から覗いた地球という星における人の営みのピーマンやミシンについての話を、宇宙よりも大きく描くことができる。疑いの目を一瞬たりとも忘れずに、たったいま生きていることの実感を控えめに滑稽に、しかし力強く描く彼のエッセイは、彼の音楽と同質の悲しみと喜びを有している。

photo: Maki Mizukoshi

 〈新世界〉の通りを渋谷方向にずっと歩いていくと、ポスト・パンク時代にその名を馳せたレッドシューズがある。ミュート・ビートはその頃のレッドシューズに出演していた最高にスタイリッシュなバンドのひとつだった。僕の世代にとっては憧れである。われわれはあの時代、細身のスラックスを穿いて、ハットを被った。襟のついたシャツを着て、踊った。それから20年以上の月日が流れ、こだま和文は燕尾服を着て、頭には白いタオルを巻いた上からハットを被って、スタージに登場する。だぶだぶのスラックスのサイドには、彼自身がミシンで縫いつけたストライプが光っている。

 1曲目は"サタ"だった。アビシニアンズの、崇高的なまでに美しいコーラスで有名なこの曲をこだま和文は演奏する。続いて2パックの"ドント・ユー・トラスト・ミー"のカヴァー......。「お前は俺を信用しないのか?」、夭折したギャングスタ・ラッパーへの思いが込められたトランペットの音色は、狭い場内を埋め尽くしたオーディエンスの感情を宙づりにする。YABBYのコンソールから来る重たいベースとレゲエのリズムは身体にリズムを取らせるが、こだま和文の静かなメランコリーが心の置きどころを簡単には与えない。彼は途中のMCでいよいよハイボールを注文すると、こだま和文らしい言葉がゆっくりと出てくる。今年の猛暑のなか、幸せそうな人たちの顔を見るとそれに落ち込む自分がいるのであります......私の曲はダークで悲しいと言われますが、どうかみなさんが少しでも嬉しくなれればと思って演奏するのであります......場内からは少しずつ笑い声も聞こえるようになる。

 "ロシアより愛を込めて"のカヴァーに続いて、彼は、縁日の屋台で売っているような、子供が遊ぶプラスティック製の水笛を吹きながら曲を演奏する。水は溢れ、彼のステージ衣装を濡らす。曲が終わるとこだま和文は、それは1986年に起きたチェルノブイリの原子力発電所事故のときに書いた"キエフの空"という曲だと説明する。ああ、これが『空をあおいで』に書いてあるそれか、と思った方も少なくないはずだ。チェルノブイリからそう離れていないキエフの空に、いまでも鳥が鳴いていることを願って水笛を吹きました......とこだま和文は続ける。そして『スターズ』に収録された"アース"を演奏して、第一部が終了した。

photo: Maki Mizukoshi

 波の音に混じって、シド・ヴィシャスの歌う"マイ・ウェイ"が流れると第二部がはじまった。スカにアレンジされた"マイ・ウェイ"を演奏すると、そのままロックステディ調の曲が続く。それから"黒く塗れ"のカヴァー......それはいままで聴いたなかでもっとも本気で「黒く塗れ」という思いが込められているであろうカヴァーだったように思う。
 それから、こだま和文はマイクを手に取り、横田めぐみさんとナポリタンの話をする。横田めぐみさんについても、ナポリタンについても『空をあおいで』に収録されている。そして、自分が料理し、食するナポリタンの大切さについて説く。しかし......何よりも大切なのは、私のナポリタンなのであります......場内から笑い......ゆっくりと上昇する場内の温度とハイボールのお陰で、こだま和文はすっかり饒舌になっている。インターネットを通じて顔の見えない相手とコミュニケーションしていると思えるほど自分は浅はかではありません、コミュニケーションとはこういう場のことを言うのです......などといったような内容の話をユーモアを交えながら話し終えると、Kodama & Gotaの"ウェイ・トゥ・フリーダム"を演奏する。
 もうその頃には、〈新世界〉の会場はその親密な空間に相応しい雰囲気を作っていた。不自然なほどの礼儀正しい言葉遣いで話しながら、トランペットと交互に水笛を吹いているこだま和文は、滑稽で悲しいわれわれの日々のなかの、ほんのささやかな喜びを、ゆっくりと手で揉みほぐしながら抽出しているようだった。そしてコンサートも佳境を迎えた頃に再度2パックの"ドント・ユー・トラスト・ミー"のカヴァーを演奏すると、メドレーでザ・ビートルズの"サムシング"を吹くのである。その予期せぬ急な展開と秋の風のように優しい調べによって感情は強く揺さぶられ、何かとても大切な経験をしたような気持ちになった。小さな喜びの、大きな手応えというささやかな経験だ。

 アンコールは2回あった。1回目では、こだま和文はマイクを握って歌を歌った。2回目で"スティル・エコー"を演奏した。場内からは心のこもった拍手がいつまでも鳴り響いた。
 こうして小さな会場の、大きなコンサートは終わった。音楽を生で聴いて、心が満ち足りたのは久しぶりのことだ。僕はその場に居られたことを幸せに思い、こだま和文の音楽がこの世にあることに感謝した。

神聖かまってちゃん - ele-king

 インターネットの普及も、ゼロ年代後半にはそのコミュニティのサークルの断片化が加速し、充足化を経たことで、薄っぺらい共感を我先に求める傾向が強まっている。何時、何処でも、さまざまな情報にコネクトできるがゆえ、目先の自由に翻弄されることも多くなり、人はその現実と理想とのギャップを何とか埋めようとする。その所業に一喜一憂しながら、以前には感じることがなかったであろう疲弊を覚えている。神聖かまってちゃんはそうした「空しい現代」の申し子のように登場した。

 今年の春に放送されたNHKの音楽番組で、神聖かまってちゃんの生演奏を観た。"ロックンロールは鳴り止まないっ"は、ドラマーであるみさこの「ワン! ツー! スリー! フォー!」という威勢のいいカウントではじまる。スティックを叩くときの彼女の笑顔は、実に晴れやかだった。の子が「ロックンロールは鳴り止まねえんだよっ」と吐き捨てる姿も、美しく思えた。の子は、最後に「俺はいまこそ輝いているのであって、俺の時代なのである。いまこそが!」「イッツ・マイ・ジェネレーション!」と吐き捨てた。大人たちからは病的に捉えられがちな彼らの音楽だが、ちゃんと聴けば彼らのそこには、この時代の歪んだコミュニケーション文化を自覚しながらも、そのなかを逞しく生きようとするポジティヴなパワーがみなぎっていることがわかる。

photo : Tetsuro Sato

 三連休の真っ直中、9月19日の日曜日、〈渋谷AX〉。アニメ・ソングのようなおかしなSEが流れはじめると、大歓声のなか、メンバーがステージに現れる。と同時に、ステージ後方には巨大ヴィジョンがゆっくり降りて来る。そこには〈ニコニコ動画〉のライヴ・ストリーミングを使用した公式生放送〈ニコニコ生放送〉の中継映像がそのまま映し出される。閲覧者たちによる「キターーーーーー!!!!!!」「始まったwwwwww」といった挨拶代わりのコメントから、「みさこ結婚してくれ」「あご(メンバーのmonoは顎が出ているから)」といったふざけたコメントまで、〈にちゃんねる〉的な煽りで埋め尽くされている。現場と電脳空間を巻き込んだ大規模な演出や、閲覧者のコメントに触発される形で、現場のオーディエンスはさらに歓声を大きくする。そう、この日のライヴは、現場の空気を共にするアーティストとオーディエンスの関係性だけによって成立するのではなく、PCの前に腰を下ろした〈ニコニコ生放送〉閲覧者も加わって、初めて成立するのだ。
 開演した時点で、すでにヴューワーの総数は8,000人近くまで上り(「8,000キタ!!」などのコメントが表示されるので、会場に居てもすぐにわかる)、現場にいる2,000人近くのオーディエンスを加えると、武道館クラスのキャパシティでこのライヴを共有していることになる。これには興奮せざるを得ない。しかしメンバーたちは、自分たちの姿とコメントが映ったヴィジョンを眺めながら、何だか他人事のように、グダグダと喋りながら戯けて楽しんでいる。この相変わらずともいえる人を食った態度は、〈にちゃんねる〉や〈ニコニコ生放送〉に慣れ親しんだ彼らの自然体なのだろう。
 
 そうした興奮に包まれたまま1曲目"夕方のピアノ"がはじまる。この曲は、の子が学生時代に受けた虐めが元ネタになっているとか、真相は定かではないが、「死ねよ佐藤/お前の為に/死ね/死ね」の叫びは、音源で聴くよりもよりいっそう痛々しい。しかもそのコーラスを、大勢のオーディエンスが力一杯に拳を掲げて「死ねー! 死ねー!」とシンガロングする。ヴィジョンには、「死ね」といった悪質なコメントの投稿は禁止されているので、代わりに「タヒね(「死ね」を崩したインターネット・スラング)、「SINE」といったコメントが嵐のように過ぎ去っていく。いったいどうして「死ね」と叫ばずにはいられなかったのか。どうしてこんなコミュニケーションが成り立ってしまうのか。いったい誰がここまで追いやったのか。自分もゼロ年代に翻弄されたユースのひとりである。自分は、の子とは同い歳だ。ネット社会のエクストリームな縮図ともいえるその空間に身を置いた自分は、その光景を観て涙をこらえ切れなかった。

photo : Tetsuro Sato

 その後も、"ベイビーレイニーデイリー""天使じゃ地上じゃ窒息死"といった目を覆いたくなるタイトルの曲が連発された。ライヴはすぐに中盤を迎え(曲間の喋りが長い)、いつの間にか〈ニコニコ生放送〉のヴューワー総数は15,000人に達している。の子は「こうやってロック史が刷新されていくのだと思います」といったようなMCをして、急に思い出したように「ディス・イズ・ヒストリー!」と叫ぶ。90年代を代表するワーキング・クラス・ヒーロー、オアシスの言葉をオマージュとして使うあたり、この状況に対して、やはりどこまでも自覚的なバンドだ。
 そしてその「ディス・イズ・ヒストリー!」のコール・アンド・レスポンスとともに、"ロックンロールは鳴り止まないっ"のイントロのピアノ・フレーズが聴こえる。このときは思わず鳥肌が立った。オーディエンスもこの日いちばんの雄叫びを上げ、ヴィジョンは「ネ申曲(神様級の曲という意味)」などといったコメントでいっぱいになる。この曲は、ビートルズもセックス・ピストルズもわからなかった少年が、ある日突然、音楽に胸を打たれる瞬間、そう、あの迸る初期衝動をただただピュアに表現した曲でもある。ディストーション・ノイズと目いっぱいに散らしながらギターをかき鳴らすの子の姿には、初めてギターを抱え、アンプのつまみをマックスまで捻り、憂鬱を振り払おうと轟音を鳴らそうとした少年時代の自分の姿がダブって見える。「遠くにいる君めがけて/吐き出すんだ」「遠くで/近くで/すぐ傍で叫んでやる」と、の子は叫ぶ。mixiやtwitterを弄ぶこの時代において、何ともリアルな叫びだ。

 その後は"学校に行きたくない"などを挟み、本編ラストには、サイケデリックなノイズ・ポップ"いかれたNeet"という、実に自虐的なタイトルの曲を披露した。穏やかな狂気じみたその曲調も相まって、ヴィジョンに映る「働いたら負けだと思っている」「今日も自宅警備が忙しい(働かないでずっと家に居ることの皮肉)」といったコメントに胸を締め付けられる。彼らはこうして今日の生き辛さを生々しく告白しているのである。
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 演奏終了後、興奮したの子は、自前のWEBカメラ付きノートPC(USTREAMもしていたらしい)を抱えたまま、客席にダイヴした。オーディエンスたちが、自分たちの心情を代弁してくれたの子に感激の意を込めて、フロアで手厚くもみくちゃにしていたのは、美しい光景だった。ただ、セキュリティの手によってステージに引き上げられたときに、いつも着ている割烹着のような衣装がめくれてしまい、勢いで自ら下半身局部を露出してしまったことで、〈ニコニコ生放送〉の中継がやむを得ず中断してしまったのは、「ディス・イズ・ヒストリー!」の終幕としてはあまり美ししいとは言えなかったが......。

 先日、クラクソンズは『サーフィン・ザ・ヴォイド(虚空をサーフしろ)』という素晴らしいタイトルを冠した新作をリリースした。そのタイトルが示す通り、空しい現状の自覚と、それを何とか打破しようとする彼らの力強い表現には勇気をもらった。そんな自分は、この日本で現代の空しさと真っ向に対峙し、フラストレーションをまき散らしつつ、戯けたようにサーフし続ける神聖かまってちゃんを追いかけずにはいられない。

[house & techno] #4 by Kazuhiro Abo - ele-king

1. DN3 / Perfect Toy EP | Secouer

 〈カリヨン〉や〈セクーエ(Secouer)〉といった新興レーベルが活発な動きを見せ、にわかに勢いを増すイタロ・モダン・ハウスのシーン。コスミック・ディスコの起源とも言われ、北欧ニュー・ディスコ・シーンにも影響を与えたイタリアの伝説的クラブ〈Cosmic〉のサウンドが再評価されている機運も関係しているのか、サイケデリックなサウンドのなかにオーガニックでほんのり土の匂いがするようなサウンドのテック・ハウスが多いようだ。そんなシーンにおいて、数ある新興レーベルのなかでも最近とくに元気があるレーベル〈セクーエ〉から届けられたのは、チェーザレ・デッランナとグイド・ネモラという畑違いの奇才たちによるコラボレート・シングルだ。
 チェレーザ・デッランナはイタリア南部の都市、プーリア州レッチェを拠点に活動するトランペッター。ジャズやトラッド・ミュージックをルーツに持つ彼は、地元で自身のレーベル〈11/8〉を運営しており、多国籍ブラス・バンド"オパ・クパ"や、アルジェリア音楽を取り入れたユニット"ジーナ"としての活動も知られている。また、地元のDJやサウンドシステムとの交流にも積極的で、ローカルなダンスミュージックアーティストとのプロジェクト"タランタ・ヴィールス"としても活動している。このプロジェクトには、今回のパートナーであるグイド・ネモラも参加している。まぁ、言うならば、地元の顔役ってやつなのだろう。
 グイド・ネモラもグイド・ネモラで、アクが強く雑食性を感じるトラックをリリースすることで知られるアーティストだ。先日〈Joyful Noise〉からリリースされた「アマリ(AMARI)」は、ブルーグラス調なカントリー・サウンドをフィーチャーしたハウス・トラックだった。そんな、畑は違えど通ずる雑食なマインドを持つふたりがローカル・コミュニティで繋がったことは、幸福な出会いと言わずになんと言おうか。
 A1に収録されているオリジナル・ヴァージョンは、フェンダーローズとウッドベース、そしてスウィングするアコースティック・ドラムを基調としたトラックの上でチェーザレが吹きまくる煙たいジャズ・ハウスだ。エレピもウッドベースもスウィング・ドラムも、演奏は控えめでクールな空気感を作っている。その上を駆け回るように演奏するチェーザレのトランペットに施された控えめなダブ処理も良い湯加減だ。
 サイドBには、〈Apparel Music〉を中心に、上質なジャジー・テック・ハウスを数多くリリースしてきたキスク(KISK)によるリミックスも収録されている。こちらはスウィングするドラムを生かしつつも、イーブンキックを強調したフロアライクなミックスだ。深度を増した空間処理と、新たに追加された重たいサブベースがダンス強度を増しながらもよりドス黒く煙たい空気を作っている。ローカル・コミュニティから生まれた1枚ながら、すでにフランソワ・Kにも注目されている今作。ここにきて、イタリア南部のシーンに要注目である。

2. Locussolus / Tan Sedan / Throwdown | International Feel

 ルーカス・スーラス(Locussolus)は、もうほとんど生きる伝説と化しているDJハーヴィによる変名プロジェクトだ。盛況を極めた今春のDJツアーも記憶に新しいところだろう。ハーヴィの音楽キャリアは、彼が10代前半の頃にニューウェイヴ・バンドのドラマーとしてスタートしている。80年代の初頭にパンク/ニューウェイヴの文化圏に居るということは必然的にヒップホップの洗礼を受けることになる。旅行先のNYでヒップホップと出会い、レコードを使ってオーディエンスを操るDJという存在を知ったハーヴィも、例に漏れずその世界に飛び込んでいった。そしてセカンド・サマー・オブ・ラヴの到来により、いよいよハーヴィのプレイはフリーフォームになっていく。そして90年代には自身のパーティ〈Moist〉に敬愛するラリー・レヴァンを招聘するなど、精力的な活動によりシーンへの影響を強めていった。それ以降の、つまりバレアリックやディスコ・ダブ、あるいは北欧コズミック・ディスコ・シーンにまで影響力を持ったカリスマとしてのハーヴィについてはみなさんのご存知の通り。ちなみに、この〈Moist〉には、当時イギリスに留学中だったサイコジェム(Psychogem)ことDJ HIROAKIも通っており、多大な影響を受けたそうな。
 さて、何故わざわざハーヴィのキャリアを再確認したかというと、このEPのサウンドこそが、それこそハーヴィのキャリアを総ざらいするような内容だからだ。A1に収録されている"タン・セダン"は、80'sニューウェイヴ感バリバリのシンセリフが印象的な、熱量の大きいディスコ・ハウスだ。イーブンキックをキープするリズム・マシンと、アコースティックなドラムの絡みも絶妙だ。オーガニックなグルーヴとマシン・ビートのハイブリットという手法はまったく珍しいものではないが、今作ではハーヴィのエディットによって巧妙にその比率が刻々と変化し、ときにディスコ・ダブ的に、ときにシカゴ・ハウス的にと、ビートの印象が玉虫色に変化する。ドラッギーな空間処理が施された電子音が、それらの要素の間を埋めるように飛び交い、そして熱く男っぽいヴォーカルがリフレインする。各サウンドのフレーズは総じてどこかぶっきらぼうだが、確実にこちらのダンス衝動を鼓舞してくれる。
 B1収録の"スロー・ダウン"は、ハーヴィ自身がヴォーカルをとる、メランコリックなギターのアルペジオを基調としたダウンテンポなバレアリック・チューンだ。こちらではサイドAとは対照的に、あくまでフォーキーなサウンドで攻めている。チルアウトしているつもりが、いつの間にか深いサイケデリアの沼にハマってしまうような、そんなトラックだ。B2には、ベースとビートを強調して、全体をよりいっそう煙たくダブワイズしたヴァージョンも収録されている。

3. madmaid / USED 90's E.P. | Maltine Records


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 先日、エレキングに掲載されたインタヴューも話題を読んだ17歳の新星、マッドメイドの新作EPが〈マルチネ・レコーズ〉からリリースされた。前作の『Who Killed Rave at Yoyogi Park EP』に続き、今作も大胆なフレーズサンプリングを用いたベースライン・ハウスを展開しているが......、一言で言うならば「やり過ぎ」である(良い意味で)。
 M1の"telstar"は、シャイFXのジャングル・クラシックス"Original Nuttah"のMCを引用したハードコアなベースライン・ハウスだ。ベースライン・ハウスは、スピードガラージの流れを組むUKのベース・ミュージックのひとつで、グライムやダブステップとも影響しあっている。両者ともLFOによって大きくうねるウォブリーなベース・サウンドがキモになっているが、マッドメイドのそれはもはや一言でウォブル・ベースと呼んで良いのか不安になるほど、うねりは過剰になり、そして高速になっている。シンセサイザーの音作りに明るい人ならピンとくるだろうが、音色を高速で揺さぶると元の音色には無かった高次倍音が発生する。マッドメイドの今作は、そうして音色そのものが変化するギリギリまで攻め込んだ音作りがなされている。前作では、あくまでサンプリングしたネタを中心に置いたプロダクションだったが、今作ではサンプリングは自らのアイデンティティを表明するためのエッセンスに留まっている。聴かせたいのはなによりベースだという気持ちが伝わってくる。このEPの凄いところは、ウォブル・ベースのヴァリエーションがまるでおもちゃ箱をひっくり返したように入れ替わり立ち代わり、目まぐるしく登場するところだ。決してワンアイディアになることなく、ポスト・ダブステップのベース・ミュージックを楽しみながら作っているのをひしひしと感じる。
 先日マッドメイドのインタヴューをおこなった際に、ルーツのひとつとして、『ビートマニア』などの所謂"音ゲー"と呼ばれるヴィデオ・ゲームに収録されていたレイヴ・サウンドの影響を語ってくれた。ここでのレイヴ・サウンドというのは90年代初頭にエイベックス・トラックスが主導して"ハイパー・テクノ"などと言う呼び名で打ち出していた、日本的に解釈されたハードコア・テクノのことだ。これらのサウンドは、当時のコアなテクノ・リスナーには好意的に受け入れられず、むしろ物笑いの種にすらされていた。しかし、マッドメイドの持ち味である無邪気で行き過ぎた感じは、そういったサウンドの「ハイパー感」も大きく影響しているのだろう。それはある意味で、日本の土壌だからこそなしえた、良性の転移とも言うべきものなのかもしれない。

4. Rick Wade / The Mack Of Moscow | Shanti Records

 セオ・パリッシュやムーディマン、そして10代の注目株であるカイル・ホールなど、今年はデトロイト・ハウスの良質なリリースが続いている。そこで忘れてはならないのが、いぶし銀ともいうべきリック・ウェイドの存在だろう。ムーディマンのむせ返るようなエロディシズムやセオ・パリッシュの埃っぽい黒さとはまた異なる黒さがリック・ウェイドの音にはある。
 幼少期から、シカゴのラジオ〈WBMX〉を聴いて育ち、若くしてデトロイトの名レコード・ショップ〈レコード・タイム〉でバイヤーも勤めていたリック・ウェードは、その広いライブラリーを駆使した絶妙なサンプル使いに定評がある。丁寧に磨き上げられたサンプルを用いて、ワンループを基調に構築されるそのトラックは、DJプレミアやピー・トロックにも通じるクールな黒さがある。そしてなにより、リック・ウェイドのサウンドでは、ささくれ立ったトゲっぽさや不良性のアイコンとしての煙たさは巧妙に隠されており、一聴すると極めてエレガントな印象を受ける。が、エレガントな上物のベールに覆い隠されているのは、サウンドシステムで再生してはじめて牙を剥く、どすの利いた強烈なボトムの音作りだ。老獪な"ワル"の音作りがそこにはある。ムーヴDもリリースする、モスクワの〈Shanti〉からリリースされた今作も、例によって、クールでエレガントで、そしてワルい。
 A1の"need you back"は、ギリギリまで装飾を排して、エレピ、シンセベース、ビートのシンプルなループで引っ張っていくディープ・ハウス・トラックだ。メインのシンセ・ベースにはアタックを遅らせたサブベースが重なっており、一小節のなかで一箇所だけ裏拍でサブベースのみが鳴る箇所が作られているのが絶妙なアクセントになっている。ときおり現れるシンセ・ストリングスの音色も美しい。
 A2の"Big Score"はさらにミニマルな構成になっており、さらにワン・ループの抜き差しだけでグルーヴを作るコンセプトが推し進められている。派手な空間処理はないが、異なる質感のサンプルをレイヤーすることで、独自の音空間を作るテクニックは流石というべきだろう。この巧みなグルーヴ・コントロールのテクニックは、彼のDJプレイにも反映されている。10月末にはハック・アブドゥルとともに来日し、渋谷の〈amate-raxi〉にてプレイするということで個人的にも非常に楽しみにしている。

5. Nebraska / Minor Key Memories | Rush Hour


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E王   ファルティDLもリリースするオランダの名門レーベル〈ラッシュアワー〉。ここで、このところ勢いがあるのがアリステア・ギブス(Alistair Gibbs)のプロジェクトであるネブラスカだ。DJスニーク周りのビート感と、デトロイト・ビートダウンのファンクネスをいい所取りしたようなサウンドながら、ネブラスカのサウンドの根底から滲み出てくるのは、言うなれば"クリスタル感"とでも言うべきだろうか? 80'sサウンドにも散見されるような独特なアーバン・テイストだ。
 A1の"This Is The Way"、フィルタリングされたディスコ・ループが心地よいジャッキン・ハウスだが、注目するべきはタイトルの由来にもなっている「This Is The Way~♪」と歌い上げるヴォイス・サンプルだ。このサンプル、良く聴くと阿川泰子の"Skindo-le-le"をサンプリングしているではないか! なんというか、まさかのオシャレ30・30。アーバンもここに極まれりといったところか。
 A2の"Bar Story"は、キラキラしたエレピの二小節ループを中心に展開する小洒落たトラックだが、こちらも一筋縄な展開ではない。中盤以降トラックの主導権を握るのは、降り注ぐようにフィルタリングされたホワイト・ノイズや細かくカットされ、リヴァーブとディレイで飛ばされたシンセ・リード、そして図太く粗野なムーグ系のシンセ・ベースだ。小洒落たディープ・ハウスが、いつの間にかデトロイト・フレーバーのするテック・トラックに姿を変える。
 B2の"Ras El Hanout"は、よりテッキーな路線を突き進め、ファンキーなベースラインでぐいぐいと引っ張っていく。デリック・メイの初期作にも見られたような、ピッチ・ベンドで捻じ曲げられた粘っこいシンセ・リードと、空間を分かつように疾走するストリングスの絡みには、デトロイト・テクノ好きは否応無しにもアゲられてしまうだろう。しかし、ここまでの多様な音楽的アイディアを、良くぞ一貫してウェルメイド感のある作品に纏め上げたものだ。正直感心して唸ってしまった1枚。

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