スリーフォード・モッズの装飾性を剥いだ、淡々としたビートは、ふわふわした情緒に対する解毒剤で、いまはこっちのほうが全然ノれる。ジェイソンは、相も変わらず飾りっ気のない声を響かせているが、豪華なゲスト陣が楽曲に色気を足して作品の入口を広くしていることをぼくは嬉しく思う。新作『ザ・ディマイズ・オブ・プラネット・X/The Demise of Planet X(惑星Xの崩壊)』は、アンドリュー・ファーンのトラックの核にある底冷えた感覚を棄てたわけじゃないだろうが、だが、これまでの作品のなかでもっとも多彩な曲調を揃えてもいるのだ。
むき出しの絶望、怒りの濁流だったおよそ10年前の(いまとなっては2010年代の決定打)『Divide and Exit』と比べれば、ずいぶん取っつきやすくなったものだ、と思われる向きもいよう。あの寒々しい煉獄ループはどこいった? と言いたくなるファンがいても不思議ではない。でも待ってくれ。彼らにしても毎回同じことを繰り返すわけにはいかないし、ぼくのように10代からポスト・パンクや80年代ニューウェイヴのハイブリッドなスタイルに親しんでいたリスナーにしたら、これこそがUK音楽の魅力である、と声を大にして言いたくもあるのだ。レゲエ、パンク、テクノ、ソウル、ポップス、ヒップホップ、グライム、そんなものが混ざっている世界で、『モア・スペシャルズ』や『サンディニスタ!』、マッシヴ・アタック、セイバーズ・オブ・パラダイス、ザ・ストリーツ……大きくはそんなものたちの系譜にある。
以下、推薦曲をいくつか挙げておく。“The Good Life” “Double Diamond” “Elitest G.O.A.T.” “Megaton” “No Touch” “Bad Santa” “The Demise of Planet X”……つまり、1曲目から7曲目まではほとんど完璧に思えるが、このなかで1曲選ぶなら迷うことなく(いつまでも消えない)精神的な不安定さを主題にした“The Good Life”。
歌詞の観点で言えば、興味深いことに “Megaton”は、坂本慎太郎の新曲“麻痺”ではないが、情報過多の地獄に慣れ切った現代人の麻痺(思考停止)状態を表現しているようにも読める。(日本盤の訳詞担当は坂本麻里子)
■まずは2025年のよき思い出から話して下さい。〈War Child〉(*戦災被害を受けた子供や家族を支援する慈善組織。SMはシングル“Megaton”の収益と26年英ツアーのチケット1枚ごとにその売上から1ポンドを同団体に寄付する)支援や『Divide and Exit』アニヴァーサリー再発後の小規模ライヴハウス・ツアー、入場料にも考慮したライヴ(*SMは低所得者層向けに5ポンド=約1000円の割引チケット枠を設定している)など、過去1年ほどいろんなことをやられていましたよね?
ジェイソン:元兵士のあいつはPTSDか何かに苦しんでて、そのせいで酒を飲んでばっかだし、そしてあの悲惨な殺し屋仕事を請け負うことになる、と。だからあの一節、“Screams fill clouds/Like the bloke from Kill List(空に届く悲鳴で雲すら埋まる/『キル・リスト』のキャラのあいつみたく)”ってのはそれなんだ。
■かつてジェイソンはソーシャルメディア上でノエル・ギャラガーや複数のバンド(*ブロッサムズ、アイドルズ他)を相手にけなしあいを繰り広げましたが、そうしたご自身の攻撃性は自分自身を傷つけることにもなった、それって果たしてどうなのかと自問自答した——“The Good Life”にはその気持ちが歌われているそうですが、この曲をアルバムの冒頭にもってきたのはなぜでしょう?
■『The Demise of Planet X(惑星Xの崩壊)』というタイトルにはSF風の表現が入っていますが、いま自分たちが生きているこの社会が悪い冗談のように思えることがあります。トランプの存在もそうですし、日本では山から大勢のクマが人間の生活圏に侵入し、多くの被害者を出して、いま社会問題になっています。
その変化は、たとえば、歌詞においてもそうで、一人称を意識的に排したという前作から翻って、ここではいくつかの曲で一人称や二人称が歌われる。しかし、もちろん、その「わたし」が見汐だったり、「あなた」が見汐の周囲の人間だったりを指している感じはしない。以前、“永い瞬間 Eternity As An Instant”で歌われていたように、拾いあつめた「言葉の落穂」のなかに、「わたし」や「あなた」という言葉がたまたまあった、という感触なのだ。
見汐と共同でこのアルバムのプロデュースをおこなったのは、岡田拓郎である。2024年には柴田聡子の『Your Favorite Things』と優河の『Love Deluxe』という優れた作品をものにし、岡田は、いまシンガーソングライターのプロデューサーとして重要な立ち位置にいる。
そんな岡田との協働によって、見汐の歌は新しい音のなかに……馴染んでいる、と言えばいいのだろうか。プロダクションのなかに自然と、もともとそうあったかのように、ただある。これには、岡田によるミキシングも確実に大きく寄与している。
“Cheek Time”や“わたしのしたことが Things I’ve Done”といった曲は、坂本慎太郎のレコードにおけるハワイアン歌謡やムード歌謡への接近、またはトロピカリズモの要素を感じさせるも、一方で意外だったのは“無意味な電話”で、近年ひとつの潮流をなしている、いわゆるヴィンテージ・ソウルのマナーでこの曲はアレンジされている。
そして、“Cheek Time”の密室的なリズム・ボックスのビートにしても、“Turn Around”の浮遊するコーラスやミュートされたドラムの打音にしても、“昨日の今日 Yesterday and Today”のゴーストリーなメロトロンやオルガンの音にしても、“Quiet Night”のひどくざらついたテープ・ノイズや狭い音像、音のゆがみにしても、アルバムを覆っているのは、埋火の音楽にあったものとはまた別種のサイケデリアだ。それが湿り気を増幅させ、見汐の歌をバンドの演奏と接着し、ひとつの心地よい音の風景に落としこんでいる。
1. おじいさんへ (Dear Grandpa)
2. あなたの場所はありますか? (Is There A Place For You There?)
3. 正義 (Justice)
4. 脳をまもろう (Protect Your Brain)
5. 時の向こうで (On The Other Side Of Time)
6. 時計が動きだした (The Clock Began To Move)
7. 麻痺 (Numb)
8. なぜわざわざ (Why Do This?)
9. ゴーストタウン (Ghost Town)
10. ヤッホー (Yoo-hoo)
Written & Produced by Shintaro Sakamoto
Recorded, Mixed & Mastered by Soichiro Nakamura at Peace Music, Tokyo, Japan 2025
Vocals, Bass (10), Keyboard, Acoustic, Electric & Lap Steel Guitar: Shintaro Sakamoto
Bass & Chorus: AYA
Drums & Percussion: Yuta Suganuma
Flute & Saxophone: Tetsu Nishiuchi
Marimba: Manami Kakudo (8, 9)
2026年1月23日(金) Digital/CD/LP/リリース
国内Pre-save / Pre-add: https://virginmusic.lnk.to/Yoo-hoo_pre
1. おじいさんへ (Dear Grandpa)
2. あなたの場所はありますか? (Is There A Place For You There?)
3. 正義 (Justice)
4. 脳をまもろう (Protect Your Brain)
5. 時の向こうで (On The Other Side Of Time)
6. 時計が動きだした (The Clock Began To Move)
7. 麻痺 (Numb)
8. なぜわざわざ (Why Do This?)
9. ゴーストタウン (Ghost Town)
10. ヤッホー (Yoo-hoo)
Written & Produced by Shintaro Sakamoto
Recorded, Mixed & Mastered by Soichiro Nakamura at Peace Music, Tokyo, Japan 2025
Vocals, Bass (10), Keyboard, Acoustic, Electric & Lap Steel Guitar: Shintaro Sakamoto
Bass & Chorus: AYA
Drums & Percussion: Yuta Suganuma
Flute & Saxophone: Tetsu Nishiuchi
Marimba: Manami Kakudo (8, 9)
日本でも根強い人気を持ち、数多の来日公演、坂本慎太郎やcero、中村佳穂BANDとの共演、ラッパーKID FRESINOやCampanellaの楽曲プロデュースなども行ってきた彼の最新アルバム『Music Will Explain』がStones Throwより6月27日(金)にリリース。その新作を携え、2019年以来約6年半ぶりの来日公演が決定した。
「なぜ私たちは創造するのか?」「なぜ音楽を作るのか?」
『Music Will Explain』は、「人間の声が響く場所」「愛や悲しみ、つながりを受け止める心のスペース」、そして「言葉では説明できないことを伝える音楽だけの領域」——それらすべてをめぐる、Mockyなりの“音楽による証明”。
Formed in 2014 as an instrumental trio of harp, keyboard, and bass, んoon evolved into a genre-defying band in 2016 with the addition of vocalist JC. Their sound blends elements of noise, free jazz, hip-hop, soul, punk, choir, and electronica, creating a rich and unpredictable sonic palette. The band’s name, derived from the Japanese word hoon—a casual expression of curiosity or indifference—adds a playful twist by incorporating the hiragana character “ん,” giving it a uniquely Japanese yet universally intriguing identity.
Each member brings their ideas freely to the table, resulting in a collaborative, boundary-pushing sound that thrives on spontaneity and individuality. This openness fosters a dynamic energy that feels fresh, bold, and endlessly exploratory.