「S」と一致するもの

The Album Leaf - ele-king

 ジ・アルバム・リーフは......先日レヴューしたフォー・テット同様、10年前のポスト・ロック/エレクトロニカ時代にそのシーンのひとりとしてデビューしている。西海岸のサンディエゴを拠点とするジ・アルバム・リーフことジミー・ラヴェルは、それ以前はスウィング・キッズなど地元のハードコア・バンドにも参加していて、あの奇妙なコスチュームで知られる英雄的バンド、ザ・ローカストのオリジナル・メンバーだったという経歴まである。もちろんジ・アルバム・リーフの音楽はザ・ローカストとは180度違った種類のもので、それは透明なタッチを特徴とする抒情派IDMといったところだ。シガー・ロスに見出され、アイスランドのシガー・ロスのスタジオで録音して、2004年にシアトルの〈サブ・ポップ〉とベルリンの〈シティ・スラング〉から発売された3枚目のアルバム『イン・ア・セイフ・プレイス(In A Safe Place)』が初期の代表作である。

 ポスト・ロックは、それが注目された頃は毒にも薬にもならない"壁紙音楽(wallpaper music)"などと揶揄されたものだが、しかし90年代の狂騒におけるチルアウトとして機能した......と僕はフォー・テットのレヴューで書いたが、しかしそれがダンス・カルチャーと切り離され、それ自体の独立を求められたときに、ではこれら音楽は何を目的意識とすればいいのかという問題が生じてくる。ボーズ・オブ・カナダはサイケデリックな荒野を選び、そしてジ・アルバム・リーフの辿ってきた道は、その問いに対する典型的な回答のひとつとなった。それはポスト・ロック/エレクトロニカのチルアウト感覚とアーティな香りを残しつつポップになること=俗称ポップトロニカへの道である。

 ジ・アルバム・リーフにIDM的な目新しさ、刺激や奇矯さを見出すのは困難だが、より親しみやすい音楽、より柔らかいチルアウトへと進んでいる。透明なタッチで描かれた風景画のようであり、詩情漂う写真集のようでもある。飛び道具のように電子音を使うことはないが、ここには美しいメロディがあり、エレガントなアンサンブルがある。毒のないボーズ・オブ・カナダ、もしくは抒情派アンビエント・ポップとでも言おうか。

 通算5枚目のアルバムとなる『ア・コーラス・オブ・ストーリーテラーズ』も優秀なポップトロニカだ。ポップといっても、ジ・アルバム・リーフの音楽はメランコリックである。彼の音楽を特徴づける電子ピアノの音色は美しいが、同時に悲しく、淋しく響いている。そして"Summer Fog"、"There is a Wind"、"Falling from the Sun"......こうした曲名から彼が自然をモチーフに好んでいることがわかる。あるいは"Within Dreams"という曲名からも喚起させるように、彼の音楽には良くも悪くもロマン派的なこってりとした抒情が表現されている。変形された電子音によるドラム・ループとシンセサイザーのストリングス、そしてピアノのメロディ、あるいはヴァイオリンが重なっていくその曲は、アルバムのベスト・トラックである。彼のメロディ・センスが光る鮮やかなドリーム・ポップ"Falling from the Sun"も素晴らしい。しかしこの人にしかできないスタイルがあるとしたら、ほとんどヴァイオリンとピアノ、そしてストリングのみで構成される"Summer Fog"のような曲だろう。

 いっそうのこと、ブライアン・イーノの『ディスクリート・ミュージック』もしくは『ミュージック・フォー・エアポート』の領域まで振り切ってしまえばいいのにと思うのだが、しかしこの人はあくまで中道なのだ。この音楽を聴かないなんてもったいない! とは決して言わないけれど、買って聴いても損はない......と思われる。安心して聴けるという意味において。

Four Tet - ele-king

 フォークトロニカを定義した2001年のセカンド・アルバム『ポーズ』は、よく聴いたものだった。上質なクリームのように甘くドリーミーなテクノ・サウンドは、あの時代が生んだ価値ある1枚のひとつである。

 この潔癖性的なエレクトロニカは、1990年代半ばのポスト・ロックを出自としている。フォー・テットを名乗るキエラン・ヘブデンは、元々はロンドンを拠点とするフリッジのメンバーで、いわばトータス・フォロワーだった。それは行き詰まりを見せていたダンス・カルチャーにおける新潮流で、結局のところ、ポスト・ロックにしてもエレクトロニカにしても、なかばの風俗と化したドロドロのダンスフロアに背を向けて「もうちょい品良くいこうぜ」ということだった。僕は当時のこうした気持ちを理解できる。ジャズとクラウトロックとアンビエントとの融合だとか、いろんなことが語られてきたが、大きな目で見れば、ポスト・ロックにしてもエレクトロニカにしても、これらは1990年代というディケイドにおけるチルアウトだったのだ。

 『ポーズ』も良かったし、サード・アルバムの『ラウンズ』(2003年)も愛聴した。彼のライヴにも行った(まあまあだった)。キエラン・ヘブデンはそれから、『ラウンズ』を最後に彼のフォークトロニカを止めてしまい、2005年の『エヴリシング・エクスタティック』ではビートを強調した。悪くないアプローチだった。『ポーズ』も『ラウンズ』もリズムという観点ではヒップホップの影響を取り込んでいるとは思えないほど凡庸なところがあった......が、『エヴリシング・エクスタティック』はその弱点と向き合った。ロマンティックな彼の音楽のなかにダンスの要素を取り入れようと試みた。それは結果として成功し、それからヘブデンは売れっ子リミキサーとなった。他方で彼は自分のフリー・ジャズ趣味を満足させるかのようにジャズ・ドラマーのスティーヴ・リードのプロジェクトにも参加した。サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンの『ファイヤー・エスケープ』では見事なプロデュース・ワークも見せた。

 ヘブデンは、そして2008年のシングル「リンガー」でミニマル・テクノに挑戦すると(それは決して出来が良いとは思えなかったが)、おそらくその延長としてブリアルとのスプリット・シングルを自身のレーベル〈テキスト〉から昨年発表した(こちらは素晴らしかった)。この流れで考えれば、5年ぶりのアルバムとなる『ゼア・イズ・ラヴ・イン・ユー』がミニマリズムの冒険になることは納得のいく話なのだろう。

 だとしても、新しいアルバムは4つ打ちを基調としている......などと書けば昔ながらのファンは懐疑的になるかもしれない。繰り返すが、フォー・テットとは10年前の4つ打ちの狂騒へのアンチテーゼだったのだ。が、ご心配は無用である。ヘブデンは今世紀のベルリンではなく1970年代のニューヨークもしくは1970年代のデュッセルドルフへと向かっている。スティーヴ・ライヒのミニマリズム(現代音楽における"陶酔")であり、クラウトロックにおけるアートのほうに。

 アルバムは女性の美しい声の反復とエディットによるミニマリズム"エンジェル・エコーズ"ではじまる。夢見るブレイクビートの"ラヴ・クライ"が再生され、そしてベスト・トラックのひとつ"サークリング"へと続く。スティーヴ・ライヒ的な音の重なりによって場面が変化しながら、絶妙にクラウトロックへとスライドする"サークリング"には、ヘブデンの音楽の良いところすべてが凝縮されている。ドリーミーで、ロマンティックで、つまり潔癖なトランスなのだ。

 それでもヘブデンは、興味深いことに、前作以上にダンスフロアを目指している。"シング"はコーネリアスがミニマル・テクノをやったようなユニークな曲で、リスナーはサイケデリックな遊園地のメリーゴーランドを楽しむことになる。『ゾビゾーゾー』の頃のクラスターをわかりやすく現代風にしたような"ディス・アンフォールズ"のユーモラスでキュートなエレクトロニカも魅力的だ。心地よいパーカッションと素朴な単音によるメロディがディレイで重なっていく"シー・ジャスト・ライクス・トゥ・ファイト"もまた素晴らしくラヴリーな曲で、このアルバムの最後に相応しい出来だと言える。

 時代の"チルアウト"から離れて、フォー・テットは彼のダンスフロアを練り上げた。危険なほど甘く、溶けてしまいそうなそこは、現実などクソ食らえと言わんばかりに妖しく発光している。

Massive Attack - ele-king

 ロバート・デル・ナジャ......3Dによれば彼が『ヘリゴランド』のポスターのために描いた絵は、ロンドンの地下鉄では使えないそうで、何故ならそれがあまりにも"ストリート・アート"すなわちグラフィティに見えてしまうからだという。もっともそれはマッシヴ・アタックにとって今回のアルバムが成功していることの証左でもある。しばしデヴィッド・リンチを引き合いに出して語られるマッシヴ・アタックの"暗さの芸術(art of dark)"は、ごくありふれた日常のなかの暗い予感を拡大してみせる。「嵐を予感すると人は背を向ける/不安だから」、と『ヘリゴランド』の"パラダイス・サーカス"でホープ・サンドヴァルが歌っているが、これは彼らの不朽の名曲"アンフィニッシュド・シンパシー"でシャラ・ネルソンが歌った「夜も知らないでどうやって昼を過ごせると思うのか」というフレーズとまあ同じようなもので、マッシヴ・アタックはこの世界の負性のようなものと向き合うことで自らのアートを磨いてきた。彼らは闇を友とし、雨を祈願した。コミュニケーションよりもディスコミュニケーションを、笑みよりも無愛想でいることを選んだ。そうした暗さの芸術家たる姿勢がいまやお馴染みとなった3Dの政治活動にも繋がっているのだろう。

 ただ、ファンにとって複雑だったのは、3Dが積極的な反戦デモ活動をおこしていた時期にマッシヴ・アタックが発表した『100th・ウィンドウ』が実に不可解な出来となっていたことだった。彼らのそもそもの武器――つまり、彼の地の音楽における二大要素=パンクとレゲエを繋ぐことのできた彼らの方法論――それは言うまでもなくヒップホップである。バンドからマッシュルームが去ったとき、多くのファンがマッシヴ・アタックから離れたのは無理もない話なのだ。彼らの暗さの芸術に眩い光沢を与えていたのはマッシュルームのブレイクビートであり、サンプリングのセンスだったのだから。『100th・ウィンドウ』にはそして、ダディー・Gすら関わっていない。豊富な音楽の知識を持つブリストルのベテランDJも離れ、音楽からは"ソウル"が消えてしまった。3Dは明らかに孤立し、そしてマッシヴ・アタックは長い冬眠に入った。もちろん誰一人としてそれを責めなかった。彼らは1990年代にクラシックと呼べる最高のアルバムを3枚(+1枚)も発表しているのだから。

 そんなわけで昨年の先行シングルを聴くまでは、僕はこのブリストルの大物の新作に何の期待もなく、注目もしなかった。だが、2008年にポーティスヘッドの10年振りの『サード』が素晴らしかったように、7年振りの『ヘリゴランド』も見事だった。3Dとダディー・Gはふたたびタッグを組んだ。多くの協力者が集まり、マッシヴ・アタックはソウルを取り戻したようだ。

 昨年リリースされて先行シングル「スプリッティング・ジ・アトムEP」を聴いてあらためて感心したのは、彼らの"暗さ"だった。中毒性の高いスカンキング・ビートをバックに、地上に釘付けにされたようなダディー・Gの(音程をキープできるギリギリの低音の)歌ではじまり、続いてホレス・アンディの高く甘い声、そしてまたダディー・G、そしてまたホレス・アンディ、それから3Dの妖艶な声へと代わっていくそのタイトル曲は、不機嫌というよりは恐怖の領域で鳴っている。そしてタチの悪いことに、曲も歌詞も魅惑的なのだ。「ドープなしではホープはない。失業者のお帰りだ」――とても他人事とは思えないだろ? 結局"スプリッティング・ジ・アトム"はアルバムのなかでもベストな1曲で、曲のモチーフは昨年の、G20金融サミットときの銀行を粉々にしたロンドンにおける反資本主義の暴動ではないかと思われる。(筆者による『SOOZER』誌のための取材で3Dは、暴動はコンサートよりもマシだと大いに肯定している)

 『ヘリゴランド』の1曲目となった、TV・オン・ザ・レイディオのヴォーカリスト、トゥンデ・アデビンペをフィーチャーする"プレイ・フォー・レイン(雨乞い)"の不気味なパーカッションによる墓場のダンスホールもたまらない魅力がある。が、マルティナ(トリッキーの初期の名作におけるヴォーカリスト)の個性あるパンキッシュな声をフィーチャーした蜃気楼のダブステップ"バベル"、アシッディなミニマリズムとマルティナの歌による"サイケ"、あるいはホレス・アンディが歌い、ブレイクビートと震動するベースラインがしなやかな絡みを見せる"ガール・アイ・ラヴ・ユー"のような曲こそファンが待ち望んでいるマッシヴ・アタックかもしれない。これらの曲は『ブルー・ラインズ』へと接続する。そして、エルボウのガイ・ガーヴェイをフィーチャーしたドラッギーな悲歌"フラット・オブ・ザ・ブレード"、西海岸から参加したホープ・サンドヴァルの妖艶な声とピアノ・サンプルのループが目眩を生む"パラダイス・サーカス"は『メザニーン』へと接続する。

 3Dが歌う"ラッシュ・ミニット"もまた『メザニーン』的な――つまりヴェルヴェット・アンダーグラウンド的な暗いトリップで、これが『ヘリゴランド』のハイライトである(残念なことに日本盤ではこの曲の訳詞が割愛されている)。盟友デーモン・アルバーンのソウル・ヴォーカルをフィーチャーした"サタデー・カム・スロー(土曜日はゆっくり来る)"は、エリザベス・フレイザーによる"ティアドロップ"をはっきりと思い出させる。

 3Dによれば、アルバムの歌詞にはあらゆる位相において政治的な問題提起がされているとのこと。なお、日本盤には"フェイタリズム"の坂本龍一と高橋幸宏によるリミックスが収録されている。昨年マッシヴ・アタックがメルトダウン・フェスティヴァルのキュレーターを務めたときに、3Dいわく「政治的な理由から」YMOを呼んでいる。また、ブリアルによるリミックスも近い将来に聴くことができそうである(グレイト!)。

Scout Niblett - ele-king

 この10年、いわば退廃的な女性シンガーというのが顕在化していて、ホープ・サンドヴァル、キャット・パワー、あるいはエマ・ルイーズ"スカウト"ニブレットあたりがその代表と言えよう。彼女たちはまるで......とくに在米イギリス人のスカウト・ニブレットは、スティーヴ・アルビニと組んだサード・アルバム『アイ・アム』(2003年)以降は、温かいブルースと激しいのソウルのミックスジュースで、エレガントなバラードを歌うかと思えば、ローファイ・ノイズ(エレクトリック・ギターとドラムによる)が爆発する曲もある。牧歌的なフォークもあるし、天文学についての曲もある。だが、いずれにしてもニブレットの本質とはブルースなのだ。それもまた、傷ついて、疲れ、すり減った心が歌う勇敢なブルース。彼女がいまだに熱心なファンを逃さないのは、彼女の音楽にはどうしようもなく魂を揺さぶられるような瞬間があるからである。

 〈トゥ・ピュア〉を離れ、〈ドラッグ・シティ〉からのリリースとなった通算6枚目のアルバム『ザ・カルシネーション・オブ・スカウト・ニブレット』は、ウィル・オールダムとのデュエットなどに象徴されるような3年前のフォーキーな前作とは打って変わって、よりハードに、よりノイジーに、よりシンプルに、ニブレットのブルースが強調されている。エレクトリック・ギターのみで弾き語られる"I.B.D."のようなバラード、"ベルジン"のような美しいブルースは彼女の独壇場で、彼女のこの手の曲はいつ聴いてもうっとりさせらる......が、このアルバムはこれまでの彼女のキャリアのなかでもっともハードな作品になっている。

 アルバムはまるでストゥージズのように、彼女の強烈に歪んだギターからはじまる。そして2曲目の"ザ・カルシネーション・オブ・スカウト・ニブレット"や"ルーシー・ルシファー"のような不機嫌なブルース・ロックがアルバムの方向性を浮かび上がらせる。アルバムの後半も穏やかさと激情が交錯する"リップ・ウィズ・ライフ"、ひときわノイジーな"ストリップ・ミー・プルート"(彼女が好きな天体をモチーフとしている)といった曲が続く。

 ニブレットの歌は、間違いなく研磨されているようである。彼女のなかの激しさは自分の理性によってコントロールされ、アルバムでは彼女の新しいスタイルが作られようとしている。それはいわばローファイ・オルタナティヴ・ブルース・ロックで、長年のパートナー、スティーヴ・アルビニの手によってあたかもライヴハウスで聴いているような音になっている。その驚くほどの生々しさが、彼女のエモーショナルな音楽をさらに特別な響きにしている。

Eccy、あるぱちかぶと - ele-king

 ダブステップで踊りたい――身も蓋もないその思いは、ここ1~2年で突然変異のように多様化したこのジャンルの魅力に取り憑かれ、いまどき12インチを漁っているような人間にとっては拭い去れない衝動である。先日、2年もの休止を経てようやく再オープンする宇川直宏の〈マイクロオフィス〉(まだ準備中)に行ったときも、彼の自慢のファンクション・ワンでイターナルの『メッセージ・フロム・ザ・ヴォイド』を鳴らしてもらったほどだ。そういうわけで、エクシーのDJとクオルタ330のライヴが聴けるのであればと、昔同じ編集部で臭いメシを食った仲間である西崎博之の送別会を抜けて、僕はひとりで渋谷の〈プラグ〉へと向かった。その夜は、あるぱちかぶとのライヴもある。あるぱちかぶとというのは、つい先日目の眩むようなデビュー・アルバムを発表したばかりの、まだ20代ちょいの才気溢れるラッパーである。

 午前0時ぐらいに会場に着くとフロアは若い連中で賑わっている。ほとんどが20代前半だろう。間違っても30代はひとりもいない......が、40代はふたりいた。僕とY氏である。これだけ若者で埋め尽くされたパーティに行ったのがものすごーく久しぶりだったので、それだけで充分に新鮮だった。フロアにいるのは50人ぐらいだったが、20年前のレイヴ前夜の東京のクラブもこんなものだったので、懐かしくもあった。もっとも、若い世代による若いダンス・カルチャーの素晴らしいエネルギーがみなぎっているこの夜のフロアは、ノスタルジーに浸ることなど許さない。

 EMFUCKAのDJ、小宮守のライヴ、HAIIRO DE ROSSI のDJとオロカモノポテチのMCがフロアを盛り上げる。Broken HazeのライヴDJを経て、クオルタ330のライヴがはじまる。もったいつけるようにしばらく間をおきながら、ダブステップのあの揺れるような汚い低音が飛び出す。格好いい~!

 ロンドンの〈ハイパーダブ〉(ダブステップの最重要レーベル)から作品を出しているこの日本人クリエイターの音楽は、既発のモノに関して言うなら、テクノ・ポップをダブステップに変換したような作風を特徴としている。が、ライヴではレコードで聴ける"ブリープ"なテイストはなく、そしてダブステップは彼の音楽の一部であり、すべてではなかった。とはいえダブステップ世代らしいセンスが随所にあって、新鮮なテクノ・サウンドを披露した。

 そこへいくとエクシーは彼のダブステップ体験を存分に発揮した。既発のダブステップ音源を自分流に手を加え、さらにそこに自分の音源を混ぜたりしながらのライヴDJだった。最後はビョークの"ハイパーバラッド"の彼自身によるダブステップ・ヴァージョン。上機嫌になって「未来は明るいね!」と、僕はY氏に鼓膜に喋ったほどだ。

 あるぱちかぶとはフロアからは目が見えないほど帽子を深くかぶって登場した。右手にはマイク、左手にはスナフキンの指人形があった。その姿はラッパーというよりも、別の世界から何かの間違いで迷い込んだ少年だった。彼は手はじめに、"完璧な一日"と"トーキョー難民"といったアルバムのなかでもとくに印象的な曲を続けざまにやった。あのおそろしく大量な言葉をアルバムに録音されたスピードで彼はラップした。世界への冷酷な眼差しと温かい慈しみが交錯する"完璧な一日"はライヴではなおすさまじく、"トーキョー難民"で綴られる猛スピードの風景はその場を圧倒した。あるぱちかぶとは時折フロアに目をやるものの、多くはステージの右から左へと往復して、たびたび天を仰いだ。最後の曲は"日没サスペンデッド"だった。「だけど欲張って他人の人生を生きるなんて/そんな愚かなことはないだろ?」――曲のなかでとくに印象的なこのフレーズは、人生のロールモデルとなる大人が不在のこの国の子供たちの、静かな決意のように思える。

 新しい言葉と音が渋谷の暗い暗い地下2階で、胎児のように動いていた。鮮烈のラッパーのライヴが終わったとき、時刻は午前4時だった。僕は長い距離を歩いて、そしてタクシーに乗った。

Gucci Mane - ele-king

 ジェイ-Zやスヌープ・ドッグの新作も悪くはない。耳を引く瞬間だって何度かはあった。キャリアの重みを聴き取ることも音楽体験の一部だろうし、なによりも彼らの表現がそのことに押しつぶされていないということはけっこう重要だといえる。目も当てられない大御所というのはゴマンといるわけだから。

 しかし、ジェイ-Zだったら"ハード・ノッキン・ライフ"、スヌープだったら"ワッツ・マイ・ネーム pt.2"を聴いた時と同じ興奮を感じさせてくれる曲がいまここにあり、どちらを繰り返し再生するかといわれれば、前者に勝ち目があるわけがない。なぜなら、時代と強く結びついているのは明らかに後者であり、その時にしか味わえないスリルを多分に有していることがポップ・ミュージックを聴く意味や理由になっていたりするのだから(音楽をよく知っている人はスクリームを聴きませんよね)。マイルス・デイヴィスやビートルズがとんでもないのは、彼らの曲がいまだに彼らのキャリアを超えてしまう瞬間が頻繁にあるからだろうし、ある特定の時代を思い出すという感覚とは、それはまったく異なるものである。


 メジャー2作目(国内盤は初)。09年度に行われたMTVのMCランキングではリック・ロスに続いて6位に入るという注目株。E-40やヤング・ジョックほどサウンド的にズバ抜けているとは思わないけれど、エレクトロ系では先行したソウルジャ・ボーイに多少のヒネリを与えたような仕上がりで、時によっては典型的なサウス系のトラックに力の抜けたフロウが妙に合う(ソウルジャ・ボーイも"ビンゴ"でフィーチャー)。大上段に振りかぶるか、奇をてらった展開に出るか、いずれにしろ極端な傾向が目立つサウス・サイドではしっとりとした感性が際立ち、抒情に流れそうな一歩手前でビート・ミュージックとしても独特の機能を有している(なんというか非常にしなやかで、寝技という言葉がとてもよく似合う)。リル・ウェインをフィーチャーした"ストゥーピッド・ワイルド"はケイデンス・ウェポンのファーストを思わせるし、トラックとフローの整合性がいったいどこで取れているのかという驚異はK-ザ・I???『ブロークン・ラヴ・レターズ』でイヤというほど思い知らされたことだけれど、"~~~"でもそれに近いスキルは(も随所で)堪能することができる(これはもうジャズを聴く感じか?)。


 スヌープ・ドッグを彷彿とさせるゴシップは割愛。ヒップホップでは珍しくない話だし。ちなみに"ジンジャー・ブレッド・マン"の「アイ!」という合いの手のループがスチャダラボーズの声に聞こえてしょうがない......

flyers
flyers
flyers
paryty flyers

 ライアン・マッギネス(https://www.ryanmcginness.com)。アーティストとしてすっかり有名な彼だが、彼が〈50 parties〉というパーティを、自分のスタジオ(@チャイナタウン、隣はエミネムのスタジオ!)で、毎週金曜日にはじめた。2009年の7月3日に第1回を開き、ワイン、カジノ、ディベート、スケート、ゴス、ドローイング、かなり個人的なバースディ、季節にそったニュー・イヤーズ、ハロウィン、プール、ホワイト・トラッシュBBQ、その他意味がわからない、唾飛ばしパーティなど、ぶっちゃけ何でもあり。パーティ内容は,キュレーターによって全然違うが、タイトルに沿った催しをするのだろう。それぞれのパーティにロゴマークがデザインされ、お酒はオープン・バー、招待された人しか入れない、秘密のプライヴェート・パーティである。

 私が参加したのは、1月22日に開かれた"ロックンロール・パーティ"。28回目になる。この2回前は"セックス・パーティ"、1回前が"ドラッグ・パーティ"、そしてこの週が"ロックンロール・パーティ"、でこの次の週は"リハブ・パーティ"。"セックス、ドラッグ、ロックンロール!"、そして"リハブ".....一応繋がっているのだろう。

 私は参加していないが、聞いた話によると、セックス・パーティは、ベイブランドという大人のトイショップの人がキュレーターで、個室が作られ,光り輝く穴、プロの手があり、ドラッグ・パーティは、たくさんのサイケデリックな物を試していき、どんどんいろんな種類の良い物がテーブルの上に積み上げられ、リハブ・パーティは、マッサージとカラー・セラピー、日本でいうところの健康ランドみたいな状態になったらしい。想像ばかりが膨らみ、真相をたしかめたい気もするが、どのパーティもプライヴェートなのでお誘いがないと参加できない。

 で、こういうときに強いのが,顔の広いパーティ・ピープル。いろんな人を捕まえては、内容を聞き出そうとしたが,結局パーティ好きのアメリカ人なので,どんなパーティでも、いろんな人と話し、お酒を飲んでいるのは変わらないとのことでした。
そして,今回お誘い頂いた、ロックンロール・パーティ。キュレーターはDJ Listo。タイムテーブルは以下の通り。

Punk Rock Karaoke
Punk Rock Karaoke

Hard Nips
日本人の女性たちによるHard Nips

Sugarlife
Sugarlife

9:00 pm
- Guy Fantasy

9:45 pm
- Punk Rock Karaoke

10:45 pm
- battle of the bands:
Hard Nips vs. Scorpio Rising

12:00 pm
- Sugarlife

12:30 pm
- LightAsylum

dj's Virgil Rhames - dj Listo(me)

 今回のパーティの客層(というかどのパーティもほとんど層は変わらないと思うが)は、ライアンやキュレーターの友だちで、アート系,音楽系の20代後半から40代前半ぐらい。とにかくお酒の飲めないキッズ系はいないので,少し余裕のある大人のパーティという感じだ。

 パンク・ロック・カラオケは、演奏する人たちの経歴が長いのか、演奏が激うま! かなりたくさんのカラオケリストを持っている。プロの演奏で歌うカラオケ(それもパンク仕立て)はかなりいい感じで、5~6人がフリも完璧で歌っていた。キュレーターのひとりはバウ・ワウ・ワウの"アイ・ウォント・キャンディ"を歌っていたが、着ていたTシャツまで、「I want Candy」という懲りよう。

 次の女の子バンドのバトルは、スペースの端と端にバンドのセットをし、1曲1曲交代で演奏する。お客さんは見たいバンドの方に来る。といっても、行ったり来たりする人がほとんどだったが、バトルといってもキャット・ファイトなので、普通に盛り上がる。どちらもブルックリンのローカル・バンドでハード・ニップスは日本人女の子4人のバンドである。

 今回のメインはライト・アサイラム。!!!のボーカルもしていたシャノンという女の子のバンドで、かなりやばい。時間がかなりおして2時頃からはじまったのに帰るひとはいない。その後はまたもやダンス・パーティ......

 うちのカフェ〈スーパーコア〉からも歩いて近い、〈モンキー・タウン〉という、レストラン、イヴェント・スペース、音楽ヴェニューがある。オーナーがアーティストで、内装が素敵でとても良い空間を生み出している。レストランのメニューはインターナショナルで、ハンバーガーにでさえひと工夫が加えられている。イヴェント・スペースにはスクリーンが、前、後、右、左と4つあり、そこでは、違う映像を流したり、同じ映像を流したり、バンドが演奏したり、DJがいたり。そこでお酒を飲み、ご飯を食べ、ゆったりとソファにくずれ落ち、寝転びながら、音楽と映像を浴びるのである。

 このインディペンデントな場所が1月末にクローズした。最後の日に行ったら案の定すごい人。レストラン・スペースも、後ろのイヴェント・スペースも動けないぐらい人でいっぱい。そこには、先ほど書いた、〈50 parties〉のキュレーターやバトル・バンドのスコーピオ・ライジングのメンバーも来ていた。イヴェントがあるとみんなきちんと現れるのがNY風だ。宇宙のような空間でのDJの後は、ラヴ・イズ・オールをもう少しクレイジーにしたようなバンドが登場。その後はソファーやイスをすべて取っ払って、朝までダンス・パーティ。とても楽しかったが、かなり複雑。ブルックリンで重要なスペースがまたひとつ消えたから。

The Drums - ele-king

 フロリダ。メキシコ湾に臨むこの温暖な都市で、夏とヴァカンスのムードに引きこもり、ハイウェイ下の小さなアパートでロネッツやシャングリラズを聴きながら曲を書く日々。ギタリスト、グラハムの職場はディズニー・ワールドだ。流行の音楽は聴かず、車も持たず、浮き世を離れて紡ぐ「シンプルな」ポップ・ソング......しかし、それは何だ?

 ザ・ドラムスは頭がいい。アメリカというすさまじいノイズと外部性に曝された場所に生きながら、例えば9・11以後のアメリカを歌わない。あるいは等身大のリアリティを歌わない。そんなものは無粋だ。もっと「アリ」なもの......夏と海と恋を歌おう。「起きてハニー、素敵な朝だよ。星がまだ瞬いてる。一緒に行かないかい? ビーチへ駆け出そう」

 ベースの小気味よいリフと、心躍る口笛が印象的な"レッツ・ゴー・サーフィン"。ハンドクラップが軽やかに浜辺へと誘い、メロディは一度聴いたら耳を離れない。もっとも生命が燃え、肉体が充実する季節を50'sサーフ・ポップへのオマージュとネオ・アコースティックのときめき感たっぷりに描き出す楽天的な2ミニット・ポップ......。

 だから初めて聴いたときの感想はサーフィン・クソ野郎、だった。みんなもっとがんばっているじゃないかと。昨年で言うならダーティ・プロジェクターズやアニマル・コレクティヴ、アトラス・サウンド、あるいはパッション・ピットやタイヨンダイ・ブラクストン。みんな「いま」という時間と鋭く切り結んだ、戦士たちといった印象だ。シンセ・ポップなニュアンスを持って台頭した一群も、80年代の享楽と90年代の絶望を止揚するかのように、柔らかで明るい――しかし半面にシビアな現実認識がある――地平を拓いた。ガールズは......別格だ。彼らは......刺せばどこからでも血が吹き出る。

 ザ・ドラムスはボーダーのTシャツとジーンズで浜辺を駆け巡り、「夏や恋や海以外に大事な問題ってあったっけ?」というような表情でいまという問題設定をキャンセルしてみせる。なんかずるいな。いいんだけど、もっとリスキーな勝負をしている連中をなんとなくバカにしてるみたいに見えて、好かないな。そんなふうに思った。が、しかし、彼らの音の訴求力というのは半端じゃない。店でかけても「これ誰ですか?」という問い合わせの多さに驚かされる。『NME』などUKのプレスも、過去10年でもっとも熱いニューヨークのバンドとして彼らを熱狂的に迎え入れている。そうなのか。

 注意して聴いてみる。すると彼らの一種の「過剰さ」に思い当たる。なんだか出来過ぎているな、というのは全曲に感じることだ。レトロな質感を持ったシンプルなポップ・ソング。そのコンセプトはよくわかるけれど、彼らのなかにあるのはシンプルさではなく、シンプルであることへのオブセッションなのではないか。ソングライターでヴォーカルのジョナサン・ピアースはこう語っている。「......たぶん何曲かはハッピーな曲に聴こえるだろうね。だけどすべての主題となっているのは、すごくきついものなんだ。不幸にもね。僕は愉しい曲を書こうとしてきた。だけど僕にできるベストは、君が小躍りできる悲しい曲を書くことなんだ」(「ミュージック・フィックス」2009.7.11)


 この発言は、彼らのイメージを華麗に裏切る。あれらが本当は悲しい曲だとは......。なるほど彼らは楽天性を志向するように思えるが、本当のテーマはそうではないのだろう。では、なぜ敢えてハッピーな(=シンプルな)曲を書かねばならないのか。複雑で踊れなくて悲しい曲じゃ、なぜいけないか。その答えはとくに述べられない。いろいろあるだろう。単に好みの問題かもしれない。だが、事実「なぜか」そうせねばならない。この点に、彼らのリアルと呼べる感覚が初めてひりひりと立ち上がってくるように思った。シンプルさが無邪気に調達されたものではないことに、そこに彼ら固有の問題がありそうだということに。同時に、たしかにそのくらいの複雑さを持ったバンドだよなと、納得もする。あの出来過ぎたポップ・ソングはいまや少し苦く響くようになった。

 彼らの翳りはまた、ヴィンテージ・ブリッツへの愛にも伺い知ることができる。ザ・スミス、ジョイ・デイヴィジョン、ラーズ......ピアースが自らの主題と考える「きついもの」は、おそらくはそこにある。サーフ・ポップの裏側にニュー・オーダーがいることは、彼らのサウンドを説明する上でも重要だ。〈ファクトリー〉のプロダクションを彷彿させる、コーラスがかったペナペナな音(それはペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートを筆頭としたc86リヴァイヴァリストたちのモラトリアムなムードと、ノー・エイジや〈ウッドシスト〉~〈キャプチャード・トラックス〉周辺のシットゲイズなローファイ感覚をハイブリッドに繋ぐ、2009年の離れ業でもあったわけですが!)は、はっきりとそのオマージュだと言える。そしておそらくは、それがUKでも歓迎される所以だ。

 バンドはUKのインディ名門〈もしもし〉より2009年8月にファースト・シングル「レッツ・ゴー・サーフィン」を、続いて「アイ・フェルト・ステューピッド」をリリースしている。それらに3曲を加えた7曲入りEPが、この『サマータイム!』だ。ジョナサン・ピアースと、幼馴染みでフロリダに住んでいたギタリスト、ジェイコブ・グラハムを中心とした4人組。バンド結成のためにピアースはグラハムの許へ移住、その後4人体制になっている。そう、終わらない夏を希求するかのようにピアースがフロリダへ向かったところから、ザ・ドラムスははじまっている。こんなところもでき過ぎている。切ない。

環ROY - ele-king

 うむむむ。環ロイのセカンド・ソロ・アルバム『BREAK BOY』を聴いて、思わず唸ってしまった。僕は、音楽的好奇心に満ち溢れ、鋭い批評精神を持つ、(この国においては)稀有なラッパー、環ロイの活動をそれなりに追ってきた人間だ。ライヴを観たこともあるし、彼がデリック・メイ、ベーシック・チャンネル、ザゼン・ボーイズを聴き、TSUTAYAで最新のUSヒップホップのCDを数十枚も借りるほど勉強熱心なラッパーであることも知っている。以前インタヴューした際に、日本語ラップに対する見解や愛憎を論理的な言葉で語ったこともよく覚えている(ラッパーの自分語りと写実主義と階層、あるいは階級意識について述べていたと記憶する)。こちらの質問に斜めから切り返す態度を見て、面白い人だなと思ったし、その捻くれっぷりに親近感さえ湧いた。

 それだけに、本作が中途半端な出来に思えるのは残念だ。ファースト『少年モンスター』(06年)を特徴付けていたリラックスしたムード、あるいは遊びの延長線上でラップを楽しんでいる感覚が薄れ、なんと言うか、堅苦しさが目立つ。"任務遂行"という曲では、「ゴタクじゃねーぞ/感情をぶつける」とラップしてはいるが、そのリリックは裏返しの気持ちを表明しているようで、妙に言い訳がましく聴こえてしまうときがある。僕が環ロイに負けず劣らず捻くれた根性の持ち主だからだろうか。いや......、というか、環ロイが閉塞を感じている日本語ラップ・シーンに自らを閉じ込めてしまっているように見えるのだ。例えば、日本語ラップへの愛憎をラップした"J-RAP"のフックで、「排他的で閉鎖的J-RAP」と叫び、最後に「J-RAP オレは愛してるさ」と締めくくる気持ちは痛いほどよくわかるが、彼ほどさまざまな音楽にアクセスするセンスを持つラッパーであれば、もっとナチュラルに突き抜けて良かったのではないだろうか。

 とはいえ、トラックメイカー/ビートメイカー選びにおける視野の広さ、チェレンジ精神はさすがである。列挙すると、Himuro Yoshiteru、CONFLICT、punpee(PSG)、三浦康嗣(□□□)、Spitters Den、NEWDEAL、Bun、RIOW ARAI、olive oil、Fragment、となる。90年代中盤を彷彿とさせるオーセンティックなヒップホップ・トラック、エレクトロニカ以降のヒップホップ・ビート、トランシーでファンキーな(あるいはロッキンな)ブレイクビーツ、エクスペリメンタル・ビート・ミュージックの数々。これだけのトラックを乗りこなすラップ・スキルには、やはり特別な輝きがある。それ故に、ここで音質について語るのはフェアじゃないかもしれないが(ミキシング、マスタリングにはレーベルの意向やエンジニアの趣向が強く反映されるものだ)、いくつかのトラックが気の抜けたデジタル・ロックが空騒ぎしているように聴こえてしまうのは、どうにももったいない。

 少々話は逸れるが、重要なインフォメーションなので書こう。Bun、olive oil、RIOW ARAIらは、カルロス・ニーニョ、デイデラス、ガスランプ・キラー、フライング・ロータスらが活躍する、LAのエクスペリメンタルなクラブ・パーティ〈ロウ・エンド・セオリー〉やインディ・ネット・ラジオ局〈ダブラブ〉と共鳴する活動を展開していて、実際、Bunのトラックは〈ダブラブ〉でプレイされているし、olive oilはD・スタイルズにサインを求められたことがあるらしいし、RIOW ARAIは〈ロウ・エンド・セオリー〉が来日した際のパーティに出演している。ディスク・ユニオンで、Bunのビート集のCDRを2枚ほど手に入れたが、ビート・ジャンキーのみならず、フライング・ロータス周辺の音が気になっているのであれば、チェックすることをおすすめする。ちなみに、所謂ニュー・ビート(もしくはダブステップ)に飢えている方は、2月13日深夜、東京・中野にあるクラブ〈heavysick zero〉にてKKがオーガナイズする〈Lo-Vibes Recordings Presents MO'FUN -Vol.5-〉というパーティに遊びに行くといいだろう。本作に参加したHimuro Yoshiteruも出演する。そして、クラブ明けの蕎麦屋で焼酎のお湯割りを飲みながら、朝9時までダブステップについて熱く語る男、KK氏の『in the khaos`69』というダブステップ・アルバムでも環ロイはラップしている。また、曽我部恵一のレーベル〈ROSE RECORDS〉のコンピレーション『Perfect!』に曲を提供し、本作のラストを飾るソウルフルな"Break Boy in the Dream"には、楽曲制作者、ヴォーカリストとして七尾旅人を迎えている。環ロイはそのように、常に異なるジャンルとの出会いをエネルギーに変えてきたラッパーである。

 本作中の"BGM"は、RCサクセションの元メンバー、チャボこと仲井戸麗市のソロ曲のカヴァーなのだが、アンチ・ポップスを歌った原曲の歌詞を、ポップ・ミュージックを肯定する歌詞に現代的にアレンジしてラップしている。そこには環ロイの健全なるスケベ心がシンプルに表現されていて、とてもいい感じだ。そう、だから、「音楽は何も変えないけど/変えるかもしんないかもしんない」("バニンシングポイント")という逡巡ではなく、「音楽は何も変えないけど/変えるかもしんない!」と力強く喝破してこそ、環ロイの音楽は、さらなる説得力を獲得するに違いない。

Various - ele-king

 昨年、UKのダンスフロアの主役の座に躍り出たコズミック(バレアリック)なるジャンルに、ここ日本でずいぶんと早い時期から先鞭を付けていたのが〈クルーエル〉だが、このリミックス集がそうしたひとつの方向性で統一されているわけではない。とはいえ、1曲目のディスコセッションの"TV Scene"のソフト・ロックスによるリミックス、あるいはルーガー・イーゴの"A Trader In Furs Living In Exile"のクワイエット・ヴィレッジによるリミックス、それからポート・オブ・ノーツの"You Gave Me A Love"の井上薫のリミックス――この3つはまさにバレアリックといった感じで、実に心地よい。ブライトンの注目株たるソフト・ロックスは憎たらしいほどユーフォリックな楽園を描き、このジャンルにおけるチルアウト感覚を表現したクワイエット・ヴィレッジはダブを上品なラウンジ・サウンドへと転換する。井上薫にとってチルアウトは昔からお手の物だ。パーカッションのデリケートな響きを抽出して、そこにダブの無邪気な遊び心を加え、そしてさらにソウルフルな展開を与える。まったくアルバムの最後に相応しい。

 ストーンド・グリーン・アップルズの"Sugar K"のゆらゆら帝国によるハウス・リミックスにはリリース時に多くの注目が集まっている。ハウスといえども、4つ打ちに新たなギターとベースラインをかませて作り上げたその空間的な響きは紛れもなくゆらゆら帝国のもので、まるで下へ滑っていくような、なんとも言えないグルーヴを創出している。もっともアシッディなリミックスをしているのはDazz Y DJ Nobuで、これはDJノブのプレイそのものに聴こえる。DJなら深い時間にかけたいトラックだろう。ポート・オブ・ノーツの"Regret "の砂原良徳によるリミックスは、『ラヴビート』の延長に思える。スローなテンポでうねりを出し、エレガントなトリップを展開する。

 他にバーミンガムのマーク・Eのような新世代、ケンイシイやフォース・オブ・ネイチャーのようなベテラン勢もいる。マーク・Eはスロー・テンポの渋いダビー・ハウス、フォース・オブ・ネイチャーはアッパーなディープ・ハウス。そしてこのスタイリッシュなアルバムのなかでたったひとり浮いているのがケンイシイで......聴いていると1992年にタイム・スリップする!

 スリーヴ・アートは〈クルーエル〉らしく手の込んだ段ボールネジ止め特殊パッケージ。ジャケに対する並々ならぬ力の込めようにも、レーベルの強い気持ちが表れているようだ。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972 973 974 975 976 977 978 979 980 981 982 983 984 985 986 987 988 989 990 991 992 993 994 995 996 997 998 999 1000 1001 1002 1003 1004 1005 1006 1007 1008 1009 1010 1011 1012 1013 1014 1015 1016 1017 1018 1019 1020 1021 1022 1023 1024 1025 1026