ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Helen - Linda's Head | ヘレン
  2. interview with Adrian Sherwood and Nightmares On Wax UKダブ・“トーク”・セッション | ――エイドリアン・シャーウッド×ナイトメアズ・オン・ワックス特別対談
  3. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  4. Black Marble - Life in Small Spaces | ブラック・マーブル
  5. Gaku Kiishi ──『サイコ』『オーメン』『シャイニング』『リング』から『8番出口』『バックルームズ』まで、ホラー映画の音楽を分析する1冊が刊行
  6. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  7. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  8. Horse Lords - Demand to Be Taken to Heaven Alive!  | ホース・ローズ
  9. アンビエント/ジャズ マイルス・デイヴィスとブライアン・イーノから始まる音の系譜
  10. 食品まつり a.k.a foodman - HIKARIGASASHIKOMU
  11. Columns ♯17:もしもパンクがなかったら ——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ
  12. The Clash ——ザ・クラッシュ、結成50周年記念ベストがリリース
  13. Bicep ——バイセップが3つの新曲で、フリー・パーティ、レイヴ、サウンドシステム文化を主張する
  14. Klara Lewis - Opening | クララ・ルイス
  15. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  16. RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO - TOKYO -
  17. Robert Del Naja ──マッシヴ・アタックの3D、二度目の逮捕
  18. Malaria! ——80年代初頭の西ベルリンから、ポスト・パンク/アヴァンギャルド・シーンを象徴する最重要バンド、マラリア!再発
  19. Arca - XXXXX
  20. Helen - The Original Faces  | Grouper、グルーパー、ヘレン

Home >  Reviews >  Album Reviews > The Drums- Summertime!

The Drums

The Drums

Summertime!

Moshi Moshi

Amazon iTunes

橋元優歩 Feb 10,2010 UP

 フロリダ。メキシコ湾に臨むこの温暖な都市で、夏とヴァカンスのムードに引きこもり、ハイウェイ下の小さなアパートでロネッツやシャングリラズを聴きながら曲を書く日々。ギタリスト、グラハムの職場はディズニー・ワールドだ。流行の音楽は聴かず、車も持たず、浮き世を離れて紡ぐ「シンプルな」ポップ・ソング......しかし、それは何だ?

 ザ・ドラムスは頭がいい。アメリカというすさまじいノイズと外部性に曝された場所に生きながら、例えば9・11以後のアメリカを歌わない。あるいは等身大のリアリティを歌わない。そんなものは無粋だ。もっと「アリ」なもの......夏と海と恋を歌おう。「起きてハニー、素敵な朝だよ。星がまだ瞬いてる。一緒に行かないかい? ビーチへ駆け出そう」

 ベースの小気味よいリフと、心躍る口笛が印象的な"レッツ・ゴー・サーフィン"。ハンドクラップが軽やかに浜辺へと誘い、メロディは一度聴いたら耳を離れない。もっとも生命が燃え、肉体が充実する季節を50'sサーフ・ポップへのオマージュとネオ・アコースティックのときめき感たっぷりに描き出す楽天的な2ミニット・ポップ......。

 だから初めて聴いたときの感想はサーフィン・クソ野郎、だった。みんなもっとがんばっているじゃないかと。昨年で言うならダーティ・プロジェクターズやアニマル・コレクティヴ、アトラス・サウンド、あるいはパッション・ピットやタイヨンダイ・ブラクストン。みんな「いま」という時間と鋭く切り結んだ、戦士たちといった印象だ。シンセ・ポップなニュアンスを持って台頭した一群も、80年代の享楽と90年代の絶望を止揚するかのように、柔らかで明るい――しかし半面にシビアな現実認識がある――地平を拓いた。ガールズは......別格だ。彼らは......刺せばどこからでも血が吹き出る。

 ザ・ドラムスはボーダーのTシャツとジーンズで浜辺を駆け巡り、「夏や恋や海以外に大事な問題ってあったっけ?」というような表情でいまという問題設定をキャンセルしてみせる。なんかずるいな。いいんだけど、もっとリスキーな勝負をしている連中をなんとなくバカにしてるみたいに見えて、好かないな。そんなふうに思った。が、しかし、彼らの音の訴求力というのは半端じゃない。店でかけても「これ誰ですか?」という問い合わせの多さに驚かされる。『NME』などUKのプレスも、過去10年でもっとも熱いニューヨークのバンドとして彼らを熱狂的に迎え入れている。そうなのか。

 注意して聴いてみる。すると彼らの一種の「過剰さ」に思い当たる。なんだか出来過ぎているな、というのは全曲に感じることだ。レトロな質感を持ったシンプルなポップ・ソング。そのコンセプトはよくわかるけれど、彼らのなかにあるのはシンプルさではなく、シンプルであることへのオブセッションなのではないか。ソングライターでヴォーカルのジョナサン・ピアースはこう語っている。「......たぶん何曲かはハッピーな曲に聴こえるだろうね。だけどすべての主題となっているのは、すごくきついものなんだ。不幸にもね。僕は愉しい曲を書こうとしてきた。だけど僕にできるベストは、君が小躍りできる悲しい曲を書くことなんだ」(「ミュージック・フィックス」2009.7.11)


 この発言は、彼らのイメージを華麗に裏切る。あれらが本当は悲しい曲だとは......。なるほど彼らは楽天性を志向するように思えるが、本当のテーマはそうではないのだろう。では、なぜ敢えてハッピーな(=シンプルな)曲を書かねばならないのか。複雑で踊れなくて悲しい曲じゃ、なぜいけないか。その答えはとくに述べられない。いろいろあるだろう。単に好みの問題かもしれない。だが、事実「なぜか」そうせねばならない。この点に、彼らのリアルと呼べる感覚が初めてひりひりと立ち上がってくるように思った。シンプルさが無邪気に調達されたものではないことに、そこに彼ら固有の問題がありそうだということに。同時に、たしかにそのくらいの複雑さを持ったバンドだよなと、納得もする。あの出来過ぎたポップ・ソングはいまや少し苦く響くようになった。

 彼らの翳りはまた、ヴィンテージ・ブリッツへの愛にも伺い知ることができる。ザ・スミス、ジョイ・デイヴィジョン、ラーズ......ピアースが自らの主題と考える「きついもの」は、おそらくはそこにある。サーフ・ポップの裏側にニュー・オーダーがいることは、彼らのサウンドを説明する上でも重要だ。〈ファクトリー〉のプロダクションを彷彿させる、コーラスがかったペナペナな音(それはペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートを筆頭としたc86リヴァイヴァリストたちのモラトリアムなムードと、ノー・エイジや〈ウッドシスト〉~〈キャプチャード・トラックス〉周辺のシットゲイズなローファイ感覚をハイブリッドに繋ぐ、2009年の離れ業でもあったわけですが!)は、はっきりとそのオマージュだと言える。そしておそらくは、それがUKでも歓迎される所以だ。

 バンドはUKのインディ名門〈もしもし〉より2009年8月にファースト・シングル「レッツ・ゴー・サーフィン」を、続いて「アイ・フェルト・ステューピッド」をリリースしている。それらに3曲を加えた7曲入りEPが、この『サマータイム!』だ。ジョナサン・ピアースと、幼馴染みでフロリダに住んでいたギタリスト、ジェイコブ・グラハムを中心とした4人組。バンド結成のためにピアースはグラハムの許へ移住、その後4人体制になっている。そう、終わらない夏を希求するかのようにピアースがフロリダへ向かったところから、ザ・ドラムスははじまっている。こんなところもでき過ぎている。切ない。

TrackList

  1. 1. Let's Go Surfing
  2. 2. Make You Mine
  3. 3. Don't be a Jerk,Johnny
  4. 4. Submarine
  5. 5. Down By the Water
  6. 6. Saddest Summer
  7. 7. I Felt Stupid

橋元優歩