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Hercules and Love Affair

Hercules and Love Affair

Blue Songs

Moshi Moshi

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野田 努   Feb 22,2011 UP

 前にも書いたことだが、今年の正月に静岡でデリック・メイのDJを聴いた。彼は、ロバート・オウェンスが歌う、あのたまらなくセクシャルなクラシック"ブリング・ダウン・ザ・ウォールズ"をスピンした。なんといってもあの曲は、オウェンスの喘ぎ声にも似た歌い方もさることながら、ベースラインがきまっている。ものの10秒でアドレナリンがこみ上げてくる、1986年あたりのシカゴ・ハウスのグルーヴ。2008年にハーキュリーズ&ラヴ・アフェアが〈DFA〉からリリースしたデビュー・アルバムにはそれがあった。"ブラインド"におけるアントニー・ヘガティの歌とアンディ・バトラーのトラックは、われわれを危険な領域に持ち上げた。そしてフランキー・ナックルズのリミックスがそのグルーヴを完璧なものにした。快楽の館、美しき蕩尽の世界、ようこそ、ディスコ/ハウスの楽園へ!

 ハーキュリーズは確信犯的なリヴァイヴァリストだ。2年前に登場したとき、彼らははっきりとクラブ・カルチャーにおける最良の場所にはドラッグとセックスがあると話し、その文化の復興について説いた。それはニューヨークのディスコ・アンダーグラウンドがエイズによって長いあいだ言えなくなっていた言葉でもあった。音楽におけるエロティシズムの追求は、最高のカリスマ性を備えたヴォーカリストとティム・ゴールドワーシー(DFA)の力を借りて走り出した。バトラーは70年代のディスコと80年代のハウス・ミュージックを研究して、強い曲をいくつも作った。それら結実が2008年の素晴らしいデビュー・アルバムだった。この度発表した『ブルー・ソングス』は2年ぶりのセカンド・アルバムである。

 そしてそれは......僕には凡庸なセカンド・アルバムに思える。ヘガティの声とゴールドワーシーのドラム・プログラミングはたしかに強力だったけれど、彼らの不在だけがアルバムのグレードを落としているとは思わない。単純な話、新作にはデビュー・アルバムにあった強さがないのだ。中途半端にポップを志向しているうえに、説得力の乏しいバラードまでやっている。その凡庸な展開が前作にあった危うさを水で薄めている。がっかりしたが、それだけ僕は楽しみにしていたのだ。
 まったく魅力を欠いたアルバムというわけではない。"マイ・ハウス"は1986年あたりのシカゴ・ハウスのベースラインを持った曲で、間違いなくベスト・トラック。シングル・カットするとしたらこれだろう(12インチで出たら買うだろう......)。ディスコのベースとドラマティックなストリングスが掛け合う"ペインティッド・アイズ"も、ミディアムテンポの綺麗なラヴ・ソング"レオノラ"も、あるいは"ボーイ・ブルー"のようなチルなバラードも悪くはないのだけれど、まあとにかく"ブラインド"のように感情を釘付けにするような強さがない。ただ、そのまま、ぼーっと聴き流してしまうのだ......ドナ・サマーのシングルのB面のように。

 楽しみにしていた作品がいまひとつだったときは悲しいものだが、考えてみればこの2月はインパクトの強いアルバムが重なっていた。ジェームス・ブレイクとトロ・イ・モアをはじめ、ワイアーの新作も良かったし、ザ・ストリーツの最後のアルバムも実はこっそり聴いていた。今日は自転車で下高井戸まで行ってスラックの新しいアルバムを買ってきた。同じ時期に競合が多すぎたというのはある。時間をおいてまた聴いてみればもうちょっと好きになれるかもしれないけど......。

野田 努