「Nothing」と一致するもの

Autechre - ele-king

 ダブステップのレーベルとして知られる〈ホットフラッシュ〉を運営するスキューバにとっての最大の影響がオウテカの『インキュナブラ』『アンバー』だそうだ。たしかに初期のこの2枚にあるものと言えばダンス・カルチャー(レイヴ・カルチャー、いや、セカンド・サマー・オブ・ラヴと言ってもいい)からの影響......というかその時代の甘い夢のような感覚だ。『インキュナブラ』には明らかにアシッド・ハウスの脳天気なトリップ感が漂っているし、いまとなっては「あのオウテカでさえもこの時代は......」といったところだろう。その1年後の、ダンスの俗的な熱狂から離れて、そしてIDMというサブジャンルを開拓したと言われる『アンバー』にいたっては満場一致で初期のマースターピースである。

 『アンバー』が面白いのは、"Nil"のようなぞくっとするほど美しいアンビエントがある一方で、おそらく彼らのもうひとつのルーツであると思われるインダストリアル・サウンドをよりアシッディに変換した"Foil"のような曲があることだ。そういう意味で引き裂かれているのだが、"Foil"をアルバムの1曲目に持ってきたように、それに続く『トライ・レペテー』以降のオウテカは"Foil"の路線、要するにアシッド・ハウス的な夢からどんどん醒めて、彼らのインダストリアルな感性を急進的に磨いてきたそのときどきの結実だと言えるだろう。

 まあ、それでもまだ『トライ・レペテー』には甘い記憶がある。が、シロー・ザ・グッドマンやコーマが影響を受けたという『キアスティック・スライド』にしても、あるいは『LP5』にしても......、いやいやそれを言ったら『コーンフィールド』以降にいたっては......、まあとにかくオウテカのリズム・トラックからはなかばサディスティックなまでのインダストリアルな感性が聴こえてくる。アレックス・ルタフォードが自身のLSDトリップをヒントに作ったという『ガンツ・グラフ』の映像、あるいはオウテカの作品を飾る一連の素晴らしいデザイン――例えばフランク・ロイド・ライトの建築を引用した「エンヴェイン」、フェティッシュな人工美をデザインした『コーンフィールド』や『ドラフト7.30』等々のアートワークからもそれは充分にうかがい知ることができる。こうした人工美への病的とも思えるこだわりこそ彼らがマントロニクスの音楽から聴き取ったものなのだろう。同じエレクトロ・ヒップホップをルーツに持ちながらもそこがプラッドらとは大きな違いである。そしてあたかも音楽表現における精神主義に逆らうように、工業都市マンチェスターからやってきたふたりの頑固者は自分らの美学を曲げることなく、しかもリスナーの耳を離さなかったのである。

 が、そんな理解のあるリスナーからも、さすがに『アンティルテッド』(2005年)に対しては「冷たすぎる」という拒否反応があった、と彼らは言う。冷たさはオウテカの魅力のひとつではあるが、彼らはやり過ぎたのかもしれない......先日『SNOOZER』誌で取材したときにロブ・ブラウンが語ったのは、『アンティルテッド』ほどファンの好き嫌いを分けた作品はなかったということだった。ブラウンは、しかし『クオリスタス』(2008年)によってそれを覆したと言うが、本当にそれができたのは本作『オーヴァーステップス』である。

 『オーヴァーステップス』はディテールにおいてより複雑である――とふたりが話すように、このアルバムは面白いように彼らの複雑性を楽しめる。いわゆる"non music"と呼ばれるものの最新型であろう。これを聴いたあとでは『LP5』や『ep7』がポップに思えるほどだ。

 僕がオウテカのアートワークのなかでもっとも気に入っているのは『アンバー』だ。彼らの作品中で唯一、自然の景色をジャケットにあしらっているアートワークだが、しかしそれは......砂丘なのだ。デザインを手掛けたデザイナーズ・リパブリックのセンスを褒めるべきなのだろうけれど、あの写真の、自然が自然ではないような際どさを醸し出している図像はオウテカの音楽とたしかに重なる。そうした絶妙な不確定さが『オーヴァーステップス』にはある。音像の細部に変化があり、つかみどころがなく、下手したら無人島に置き去りにされたような悪夢を味わうかもしれないけれど、それでもこの作品はいままで以上に耳を楽しませる。また、嬉しいのは、このところ続いていた過剰な激しさの代わりに穏やかで美しい瞬間が聴けることだ。『アンバー』の頃のような美を聴くことさえできる。アートワークも素晴らしい。

 話を冒頭に戻そう。オウテカの徹底的に無機質なアンビエンスはダブステップの"ダークの芸術"にも通じる。スキューバは、「しかしいまのオウテカは聴けたものじゃない」と話しているけれど、『オーヴァーステップス』を聴いたら考えを変えて、納得するかもしれない。『アンバー』が15年かけて凄みを増し、何か別のモノに化けてしまったということに。

CHART by DISC SHOP ZERO 2010.02 - ele-king

Shop Chart


1

HYETAL & SHORTSTUFF

HYETAL & SHORTSTUFF DON'T SLEEP / ICE CREAM PUNCH DRUNK / UK / 2010.1.26 »COMMENT GET MUSIC

2

HANUMAN / ATKI2 & DUB BOY

HANUMAN / ATKI2 & DUB BOY BOLA / TIGERFLOWER IDLE HANDS / UK / 2010.1.26 »COMMENT GET MUSIC

3

D1

D1 JUS BUSINESS / PITCHER DUB POLICE / UK / 2010.2.2 »COMMENT GET MUSIC

4

BAOBINGA

BAOBINGA RIDE IT BUILD / UK / 2010.1.26 »COMMENT GET MUSIC

5

unknown

unknown HARMONIMIX 001 unknown / UK / 2010.2.2 »COMMENT GET MUSIC

6

SMITH & MIGHTY / ROB SMITH

SMITH & MIGHTY / ROB SMITH B-LINE FI BLOW / LIVING IN UNITY PUNCH DRUNK UNEARTHED / ポーランド / 2010.1.26 »COMMENT GET MUSIC

7

AITON

AITON LOVERS DUB / LOVE FOR THE HANDS ABUCS / UK / 2010.2.2 »COMMENT GET MUSIC

8

J-TREOLE / SULLY

J-TREOLE / SULLY THE LOOT (SULLY RMX) / IN SOME PATTERN KEYSOUND / UK / 2010.1.26 »COMMENT GET MUSIC

9

unknown

unknown DING THE ALARM unknown / UK / 2010.1.26 »COMMENT GET MUSIC

10

QUANTIC and his COMBO BARBARO

QUANTIC and his COMBO BARBARO UN CANTO A MI TIERRA TRU THOUGHTS / UK / 2010.1.26 »COMMENT GET MUSIC

Wet Hair - ele-king

 ブルース・スプリングスティーンやザ・ホラーズとのスプリット・10インチ・シングルをはじめ、限定3000枚のCD6枚組のボックス・セットで発売された『Live 1977-1978』など、この2~3年で加速的に再評価されたのがスーサイドで、以前ファック・ボタンズに取材したときも、このニューヨークのトランス・アート・パンクの伝説こそ若い彼らにとっての最高の追体験だったと話していた。もっとも多くのファンを驚かせたのは、ザ・ホラーズやファック・ボタンズではなくブルース・スプリングスティーンによる"ドリーム・ベイビー・ドリーム"のカヴァーだった。しかし、これとて深い縁があったことをアラン・ヴェガはあるインタヴューで明かしている。つまり、スーサイド再結成後の2002年に〈ミュート〉傘下の〈ブラスト・ファースト〉から発表したアルバム『アメリカン・シュプリーム』が9.11を主題としたもので、ヴェガはその取材でこれでもかと反ブッシュを叫んでいる。こうしたヴェガの政治的主張もスプリングスティーンとの仲を深めるのに大いに働いたことだろう。

 ちなみに〈ミュート〉は2000年に未発表を加えたCD2枚組としてスーサイドのファースト・アルバムをリリースしている。未発表音源に関する興味と(それがまたホントに良かったのよ)リマスタリングということで僕も買ったのだけれど、封入されたブックレットにはヴェガとマーティン・レヴの対談も載っていて、そこでヴェガは彼のセシル・・テイラーについて、あるいはイギー・ポップからの影響について語っている......。まあ、そう言われてみればたしかにストゥージズだ。

 ウェット・ヘアーは完璧なまでにスーサイド・フォロワーである。フォロワーというか、最初に聴いたときはスーサイドの新作かと思ったほどだ。僕はこのレコードが渋谷の〈ワルシャワ〉でかかったときからおよそ1時間悩んで、それで、結局買った。かれこれ1ヶ月前の話だ。

 アイオワで〈ナイト・ピープル〉なる(主にカセットをリリースする)レーベルを運営するライアン・ガーブスとショーン・リードのふたりによるウェット・ヘアーは、昨年のはじめに最初のアルバム『ドリーム』を発表して、そして年末にセカンド・アルバム『グラス・ファウンテン』をリリースした。ヴィンテージ・シンセサイザーとエフェクトをかましたうなり声、ドラムマシン、まさにスーサイド・スタイルだが、本家よりもノイジーでさらにトランシーでもある。そのあたり、モダンなセンスが注入されている。

 アルバムは気が遠くなるようなミニマリズムとうなり声からはじまるが、このバンドの個性はメランコリックな曲作りにある。A面2曲、B面3曲の計5曲入りだが、僕にはB面の1曲目"正しいときが来たら"のメランコリーが最高だ。それはスーサイドの"キープ・ユア・ドリーム"というか、豪雨のなか殺人者が歌うオールディーズ・ポップスのように聴こえる。"コールド・シティ"のメロディも悪くないし、"ステッピング・レイザー"は"ロケットUSA"というか......。

 ウェット・ヘアーのようなここ2~3年で台頭してきた新種のUSインディでもうひとつわからないのが、彼らがデジタルを放棄していることである。『ドリーム』は別のレーベルがCD化したが、『グラス・ファウンテン』に関してはいまのところヴァイナルのみでダウンロードすらない。こうした時代と逆行するかのようなアプローチも興味深い(テクノ系ではあれだけアナログにこだわっていたベーチャンが批判されながらデジタルに進出したものだが、シャックルトンはアンチ・ダウンロードを貫くらしい......)。

 ところで〈ミュート〉からの再発盤のブックレットによれば、ヴェガとレヴはスーサイドをはじめた当時一文無しで、ヴェガいわく「ケツを凍らせながらテントで寝ていた」という。彼らは純粋なまでに極貧で、自殺者という名前もまんざら大袈裟ではなかったようである。都市の辺境のギリギリのところから発せられたのが、ヴェガのあの叫び声だったのだろう。スーサイドの1978年のザ・クラッシュとのツアーは有名で、ふたりはステージで客から罵声を浴び、モノを投げられ、血を流し、暴動を誘発した。スーサイドのふたりから見たら、ザ・クラッシュの絵に描いたような左翼っぷりはどんな風に見えたのだろうか......。ファッションに見えただろう。しかし多くの聴衆が崇拝したのはザ・クラッシュだった。そして僕は紛れもなく崇拝者のひとりだった。

銀杏BOYZ - ele-king

"ボーイズ・オン・ザ・ラン"のPVが話題になっている......いや、すでに数週間前の話だが。とにかく、それなりに話題になっていた。ご覧くださればその理由もおわかりになるはず。あの『SNOOZER』もまったくスルーした"ボーイズ・オン・ザ・ラン"のPV、その合評をどうぞー。

観て一驚を喫したのは、そこに映し出されていたのが、
このとき振り落とされた男性たちであったことです。文:橋元優歩

 GOING STEADY時代のファンが多いというだけのことかもしれませんが、驚いたのは、あの女性ジャケのシングルを実際に被写体のような女性が買いにくることです。いまはなき御茶ノ水の某店舗、パンクとインディ・ロックだけを置いた薄暗いフロアにて、ファースト・アルバム2枚同時リリースから2年半を経て、銀杏BOYZのシングル「あいどんわなだい」が店頭に並んだとき、鋲打ちジャケットの男性や若いサラリーマン等々の後ろから、正月でもないのに着物を着た可愛らしい女性がちょこちょこと入ってきて「みねたくんのシーディーください」(!)と言ったことは、非常に印象深かったです。その週は女性客がいつになく多く、もちろんたいていは「みねたくんのシーディー」のお客さん。そしてたいていが可愛らしい。ちょっと待ってください、あなたがたは、スカートをめくられ("日本人")、体操服を盗まれ("Skool Kill")、1000回妄想("トラッシュ")されているのですよ!? しかし「みねたくん」ならよいのです。

 曲中では、女性=「あの子」はいつも手が届かないひとつの究極の存在として表象されるし、そのために結局は転校してしまう("あの娘に1ミリでもちょっかいかけたら殺す")けれど、実際にはモテてしまう「みねたくん」。彼が同世代の男性に課したハードルはとても高い。

 PEACEとPISSを心に放て スカートをめくれ/凶暴的な僕の純情 キュートな焦操/
(中略)/球場を埋め尽くす十万人の怒号と野次/グラウンドに投げ込まれるゴミの嵐にも負けず/九回の裏50点差の逆転を狙う/素っ裸の九番打者に僕はなりたい――"日本人"

 デビュー・アルバム『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』収録曲ですが、2005年に、この主題はあまりにハードです。地下鉄サリン事件から数えても10年も経っている。九回裏での50点差......九回裏ってものが、10年前に終わってしまっている。これを言えるならヒーローだ。それなら女性もついてくる。また、ついてくるからこそそう言える。しかし、この主題を真に受けるなら、ほとんどの者がそこからこぼれ落ちるだろう......。

ボーイズ・オン・ザ・ラン 銀杏BOYZ
ボーイズ・オン・ザ・ラン


初恋妄℃学園/
UK.PROJECT

 久しぶりのリリースとなる本シングルのPV「ボーイズ・オン・ザ・ラン」を観て一驚を喫したのは、そこに映し出されていたのが、このとき振り落とされた男性たちであったことです。一種のドキュメンタリー・ムーヴィーの形をとっていて、「将来の夢」とおぼしき事柄を書いたフリップを持った男性が次々と現れ、簡単なインタヴューを受ける。それが延々と続く。セーラー服や、彼らの3枚のシングルのジャケットを飾る、あのあどけない表情をした女性の登場を予期していると、完全に肩すかしを食らいます。それどころか女性はひとりも出てこない。戦争オタクを皮切りに、アイドル、ガンダムなど各種オタク、「脱ニート」や「リア充」を掲げるライトな生活者、正社員志望のロスジェネ既婚者から5000万円を女性に貢いでしまった中年男性、親の介護で消耗しきっている青年等々矢継ぎ早に映し出され、そのいっぽうで「世界一周」や「ストパーかけたい」というささやかな願望も語られる。ごく普通の若い人もいるけれど、頭の薄い人や話し方が宿命的にイタい人など、ある一定の線は充分に意識されている印象を受ける。ひどく滑舌の悪い中年男性の夢は「21世紀のリーダー」だ。

 素っ裸の九番打者どころの話ではないです。過剰な流動性を生み出す成熟社会にあって、また、生きていくのに必要なだけのストーリーを調達するのに以前ほどには素朴でいられないポスト・モダン状況にあって、多くの人が舵を切り損ねている。あるいはオタク化するなど急ハンドルを切っている。

 「みねたくん」の言葉は今度は彼らに届くのでしょうか。もういちど彼らを挑発することができるのでしょうか。率い、目指され、より説得力のある男性モデルを立ち上げることができるのでしょうか。映像は画面転換の速度を増し、曲はバーストし、とくに結論は導き出されない。ただ、最後に写った男性の言葉は、とても印象的に使われていました。「まあ、なるまで......闘います。闘ってもダメだったら、まあ勝つまで、諦めない、まあ死ぬまで、まあ天国に行っても、諦めません。」

 彼は何になるのか? なりたいのか? 正社員に、です。「ほぼ見込みがないかも」という自信のなさをありありと表情に伺わせながら、「まあ」を多用して諦めないことの照れを隠しながら、ただ「諦めない」というキャラだけは自分に設定しておこう、と。もう切なくて観れたものではないです。天国に行ってから正社員になってもまったく意味がないのですから。

 前シングルからさらに2年のインターバルを置き、自らのテーマの洗い直しをおこなったかに見える本作は、だから以前までは曲の対象からはずされていた種類の女性に対しても届き得るものになっているのではないでしょうか。おひとりさま、腐女子、カツマー、さらには森ガール等々の類型は、上に出てくる男性たちと対称形を成している。それは流動的な社会を生きる上で、ひとつの拠り所として切実に選択された態度です。

 サア タマシイヲ ツカマエルンダ――"若者たち"

 つかまえあぐねている人びとに、もう以前のようには煽らない。そこにはそれ相応の背景や事情があるから。でもやっぱり、さあ、魂を、つかまえるんだ。複雑な社会であることはわかっているけど、やっぱりやらなければいけない、「もう一丁」!――"ボーイズ・オン・ザ・ラン"

 "ボーイズ・オン・ザ・ラン"は、それを以前のように直接言わないことで、より普遍的な表現を勝ち得た力作であり、PVとしては破格の喚起力を持った問題作である。もちろん、社会問題が絡む以上は若干の既視感は否定できない、が、実際にいまを生きている男性の顔を正面から撮りまくるというのは、方法的にも非常に有効であると思う。人が素でカメラに向かうと、いろいろなものが写り込むから。

文:橋元優歩

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何がそんなに腹立たしかったのか。それは、制作側の銀杏BOYZの、「イケてる/イケてない」という判断基準のベタさ加減だ。「勝ち/負け」にたいする想像力の貧困さと言い換えてもいい。文:二木 信

銀杏BOYZ
ボーイズ・オン・ザ・ラン


初恋妄℃学園/
UK.PROJECT

 "ボーイズ・オン・ザ・ラン"のPVが巷で話題になっていると聞いて、youtubeで見てみた。いまさらこの映像に鼓舞され、熱狂する若者がいると思うと悲しくなった。愕然とし、無力感に襲われ、そして、「もういい加減にしてくれよ」とひとりごちた。銀杏BOYZが関わっているとだけ教えられた僕はその時点で映画も観ていないし、原作の漫画も読んでいなかった。銀杏BOYZを聴いたこともなかった。それでも、けっこう期待していたのだ。好き嫌いはあるとしても、若者から熱烈な支持を得ているロック・バンドが関わっているのだ。何かこうヴィヴィッドなものを見せてくるのだろうと。それなのに......僕は映像を見た後、しばらくして腹が立ってきて、悪態をつく衝動を抑えることができなかった。

 "ボーイズ~"は、たしかに現代の日本社会のある側面を捉えている。映像は、街頭に立つ男たちと彼らが画用紙に書いた「夢」を次々に映し出す。場所はおそらく、渋谷、原宿、秋葉原だろう。「世界征服」「平和」「21世紀のリーダー」「脱ニート」「童貞を捨てる」「北川景子とベロチュー」「アイドル万才」「公務員」。男たちはカメラに向かって、意気揚々と夢を語り、現実の厳しさを訴え、ふざけた調子で踊り、怒りを吐き出す。衰弱した様子の中年の男は、精神科に入院する母親の介護から解放されたいといまにも泣き出しそうな表情で訴える。また、排外主義者の若い男は、外国人地方参政権に反対だという主張を捲くし立てる。登場するのは、だいたいが冴えない日本人の男たちだ。彼らの多くは、切実であり、切迫している。感情を揺さぶられる場面がないわけではない。

 では、何がそんなに腹立たしかったのか。それは、制作側の銀杏BOYZの、「イケてる/イケてない」という判断基準のベタさ加減だ。「勝ち/負け」にたいする想像力の貧困さと言い換えてもいい。制作側は、意図的に「イケてない」男たちを選んでいる。そして、顔や風貌が冴えない男たちの振る舞いをどこか滑稽に撮影している。その偽悪的な撮影手法の裏には彼らなりの倒錯した愛があるのだろう。ただ、"ボーイズ~"が人を腹立たせ、不快にさせるのは、この場合転倒を図るべき新自由主義政策以降の社会における既存の「勝ち/負け」の基準を結果的に補強してしまっているからだ。世のなかには、経済的に恵まれていて、それなりに社会的地位があって、容姿が良くても不幸な男はいるし、その逆もまた然りである。顔や風貌が冴えなくて、貧乏で、ちょっと狂気じみている男たちだけが「負け組」で、「モテない」とは限らない。「勝ち/負け」というのはそんな単純なものではない。結局、多様性を打ち出しているようで、映像で提示されている「負け」はステレオタイプなものばかりなのだ。それは、単純に表現として退屈だ。

 自分だけが被害者だと思う人間は最大の加害者になる、というようなことを書いた橋本治の言葉を思い出す。不幸なのは自分たちだけではない。中二病的な自己憐憫で心を慰撫し、小さい自意識に固執して、「モテる/モテない」などという他人の尺度ばかりが気になるというのは本当に恥ずかしいし、イタい。時に醜悪でさえある。翻弄されるぐらいならば、そういうゲームからさっさと退場するべきだし、その方法を考えるべきだ。

 そもそも映像は、ゼロ年代を通じて可視化した社会的弱者のあり方をなぞっているに過ぎない。別の言い方をすれば、雨宮処凛や湯浅誠らが組織した、プレカリアート運動や反貧困系の運動以降の青春パンクと言うことができる。「フリーター」「ニート」「派遣」「格差社会」「ワーキング・プア」「ファシズム」「モテ/非モテ」「オタク」。新聞、週刊誌、テレビからネットまで、ありとあらゆるメディアが散々取り上げてきたキーワードだ。さすがにそれらを前提にして、男たちの自分語りの映像を見せられても白けてしまう。早い話が、"ボーイズ~"は、手垢のついた記号を引っ張り出して、捻りもなしに「イケてない」男たちに当て嵌めているのだ。12分近くにもおよぶPVの中盤以降、連帯を促すようにかき鳴らされるメロディアスなギター・サウンドの演出の陳腐なこと! 男たちのカタルシスだけで社会が変革できるのであれば苦労はない。銀杏BOYZというのは、いまだ社会化/可視化されることのない、こんがらがった言葉や感情を表現して時代の先を行くバンドだと思っていたが、"ボーイズ~"のPVは、完璧に時代から一歩も二歩も立ち遅れてしまっている。

 そう、花沢健吾の原作漫画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のクライマックスがあんなにも素晴らしいのに。いわゆる非モテの主人公、田西敏行が鼻水を垂らし性に翻弄されながら駆けずり回る前半から、複数の物語が絡み合いながら、「家族=共同体」再編というメッセージが練り上げられていく後半へのドラスティックな展開は感動的だ。荒れた父子家庭で父親に無視され、学校では凄惨ないじめにあい、ボクシング・ジムに入り浸る小学生の男の子「シューマイ先輩」、荒くれ者の元ボクサーの夫を持つ、耳の聞こえないボクシング・トレーナーの女「ハナ」、そして田西が、時に傷つけ合い、時に助け合いながら絆を深めていく。ある時、ハナの夫にボコボコにされた田西は、「結局......非力な人間は負け続けなければならないのか?」というシューマイ先輩の問いに、「自分ざえ認めぎゃ、まだ負けじゃないっずっ!!」とぐしゃぐしゃな顔で答える。最終的に3人は、それぞれの「負け」を噛み締め、お互いを認め、前を向き、家族=共同体として生きようとする。社会の片隅で生きる女と子供と男が寄り添いながら、ともに堂々と胸を張って歩きはじめるのだ。とても美しいし、夢があるし、素敵な物語だ。そして、いまの時代に、説得力を持ち得る物語だ。

 PVには、その、原作の重要なメッセージがまったく反映されていない。PVの最後は、「一日も早く正社員になりたい」という夢を持つ男が、「まあ、(正社員に)なるまで闘います。闘ってもダメだったら、勝つまで諦めない。死ぬまで、天国に行っても諦めません」と、自身の労働問題をなかばテンパり気味に語るシーンで締めくくられる。それは、前述した田西の発言に対応している。労働問題、重要である。競争も熾烈だ。現実は厳しい。ただし、少なくとも僕は、被害者意識に呪縛された男たちだけの共同性より、女と子供と男が入り乱れた予測不能な共同性の方に圧倒的に可能性を感じる。

文:二木 信

»Next 磯部 凉

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酷く複雑な気持ちになるのは、その映像の露悪性と、音楽の露善性の強烈なギャップだ。銀杏は彼らを思いっきり突き放すと同時に、同じ強さで抱きしめる。文:磯部 凉

「セックスのことを24時間考えている」。所謂"童貞"ブームの代表格だったマンガ家・古泉智浩が、童貞を失った後の世界を描いた単行本『ピンクニップル』(08年)の、自身による後書きには、そんなタイトルが付けられている。何故、考え続けなければならないのだろうか? それは、決して満たされることがないからだ。ひたすら虚しいセックスを繰り返す同作の主人公同様、私達は言わば餓鬼道に堕ちた罪人である。

 00年代前半は、サブ・カルチャーにおいて、性愛の問題が重要な位置を占めた時代だった。もちろん、性愛の問題は常にあるものなのだけれど、キーワードを並べていくと、90年代後半に特徴的だったのが、援助交際が物議を醸した"コギャル"や、青山正明が先導した"鬼畜系"等、アンチ・モラリズム的な傾向だとしたら、00年代前半に特徴的だったのは"ケータイ小説"や"セカイ系"、"童貞"など、反動としてのよりモラリズム的な傾向である。また、ふたつのタームのあいだにあるのは断絶ではなく、あくまで変化であって、最初に挙げた"コギャル"が、その後の"ケータイ小説"へと形を変えたのだと考えられる。例えば、社会学者の宮台真司は、当初、援助交際を性愛のセルフ・コントロールとして高く評価していたのを、その後、当事者である女子高生の多くが精神のバランスを崩して行ったのを受け、彼女たちを守るシステムを構築するために保守主義へと転向していったが、速水健朗『ケータイ小説的ーー"再ヤンキー化"時代の少女たち』(08年)で指摘されていたように、純愛モノの仮面を被った"ケータイ小説"の裏に隠れているのはデートDVという醜い現実であり、その物語世界は、現実世界の性愛関係で受けた傷を治すための、ある種のヒーリングとして機能しているのだ。ありもしないふたりだけのセカイを夢想するのも、過ぎ去った童貞時代を美化するのも、また然り。00年代も中頃になると、なかには、最初から傷付かないために現実の性愛関係自体を回避するという極端な思考まで登場した。ライト・ノベル作家の本田透が発表したエッセイ『電波男』(05年)がそうで、リアルな女性に見切りを付け、ヴァーチャルな女性との恋愛を楽しもうという提案がなかば本気で試され、支持を得ていたのは記憶に新しい。

 さらに言えば、性愛の問題とは、イコール、コミュニケーションの問題である。どんな人間もひとりで生きていくことはできない。いや、肉体的には生きていくことはできるだろう。ただ、人間は家族や友人、恋人といった他人とコミュニケーションを取り、彼らから承認を得ることによって、初めて生きていく意味を得るのだ。本来、セックスは、その承認を得る行為のひとつであるはずだ。セックスの機会自体は、ポスト・モダン化が進むなかで、多種多様な性的コンプレックスが解放され、増えたかもしれない。しかし、日本では、コミュニケーションの総体としての社会が80年代のバブル景気以降、一気に形骸化してしまった。つまり、セックスとコミュニケーションが切り離され、セックスだけがデフレ化してしまったのだ。90年代後半のアンチ・モラリズムとは、若者たちがそんな社会に対して発した、ある種の警戒だった。それでも、当時はまだそのストレスを消費によって発散させてくれる経済的な余裕があったため、露悪的な表現で済んだのが、00年を越えて不況が現実化し、しかも、政府が対策として新自由主義を打ち出し、格差が拡大するーーさらにコミュニケーションが枯渇するという焦りが拡大すると、若者のあいだで防御としての露善的な表現が浮上しはじめる。警戒から防御へ、反応のレヴェルが上がったのだ。

 ポップ・ミュージックで言えば、強くモラルを訴えていた、当時の青春パンクや日本語ラップがそうで、その際、シーンや国家といった架空の共同体を通して、社会性の復権を計るという点ではネット右翼も同じである。そして、露悪的な表現よりも、露善的な表現のほうが、善というあってないような価値観に無条件で寄り掛かっているために、質が悪いし、深刻なのだ。00年代後半、露善的な表現はさらにその純粋さを過剰化していった。まぁ、桜ソングや応援歌ラップみたいなものがTVや街頭のスピーカーから垂れ流されている分には、チャンネルを変えたり、ヘッドフォンをして他の曲を聴けば済むだけの話なのだけれど、それまで、あくまでヴァーチャルな世界のなかに留まっていたネット右翼が"在特会"のように、リアルな世界に溢れ出て来た時は、ナチスが台頭して来た頃のドイツを連想し、ゾッとしたものだ。ナチスこそはまさに、愛国と経済再建をモットーに掲げ、その意に沿わないノイズを徹底的に排除していった、露善的な団体ではなかったか。

 ところで、銀杏BOYZ(=峯田和伸と、イコールで結んでしまってもいいだろう)の『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』と『DOOR』という2枚のアルバム(共に05年)を特徴付けているのは、言わば露悪的な表現と露善的な表現のミックスである。例えば、『君と僕~』のちょうど折り返し地点である6曲目"なんて悪意に満ちた平和なんだろう"は、当時の日本のサブ・カルチャーにはっきりとあった、戦争反対というメッセージを通して皆がひとつになろうとするようなムードに冷や水を浴びせる、つまり、戦争反対もまた、戦争と同じ全体主義ではないのかという"戦争反対・反対"ソングだが、続く7曲目"もしも君が泣くならば"は一転、「もしも君が死ぬならば僕も死ぬ」と熱唱する、何処となく軍歌的な響きのあるシング・アロング・ナンバーで、そこでアルバムは露悪的な前半から、露善的な後半へと突入していく。そして、その二律背反的な二部構成は、どっち付かずや分裂症的というよりは、『DOOR』もほぼ同様の構造を持っていることからも、かなり意図的に制作されていることを思わせる。一方、前身のGOING STEADYが残した2枚のアルバムはストレートに露善的であり、要するに、バンドが銀杏に発展し、新たな要素として付け加えられたものこそ、露悪的な表現だったのである("なんて~"は新曲だが、"もしも~"はゴイステ時代から歌われている曲だ)。考えるに、銀杏がここでやりたかったのは、当初の青春パンクが持っていたヒーリング的な側面を機能させつつも、その表現が陥りがちな純粋性の強調の果ての、ノイズの排除に向かわないために、露悪性を導入することだったのではないだろうか。その試みは、最近で言うと神聖かまってちゃんのようなバンドにも引き継がれているし、興味深い事に、SEEDAの『花と雨』(06年)のリリースがきっかけで日本語ラップ内に起こったハスラー・ラップ・ブームともリンクしている。ドラッグやセックス、ヴァイオレンスについて歌った露悪的な楽曲と、家族や友人、恋人への愛を歌った露善的な楽曲という、一見、チグハグな組み合わせこそがハスラー・ラップ・アルバムの肝だからだ。

 ただし、もっと細かく言えば、峯田の変化は、『君と僕~』と『DOOR』ではなく、GOING STEADYが2枚のアルバムを経てリリースしたシングル『童貞ソー・ヤング』(02年)からはじまっている。古泉智浩がジャケットのイラストを手掛けた、その名もズバリ、"童貞"ブームを象徴するような、前述したロジックで言うならモラリズム/露善的なタイトルのこの楽曲で、峯田は「一発やるまで死ねるか!!!」と叫んだ後、「一発やったら死ねるか!!? 一発やったら終わりか!!?」と続けている。つまり、ここで歌われているのは、童貞的な純粋さに逃げ込むのではなく、むしろ、童貞を捨てた後にはじまる現実こそを生きていけ、というメッセージなのだ。中学生時代に担任教師から性的虐待を受けたことが原因で、異性と話しただけで嘔吐してしまう程の性的コンプレックスを抱いていた峯田にとって、性愛はもっとも重要なオブセッションであり続けているが、同曲は極めて重要なターニング・ポイントとなった。自身の性的コンプレックスに初めて向き合うことで、他人とのコミュニケーション、延いては社会を相対化することに成功したのだ。セカイ系から世界系へ。この成長は、この時期においては、かなり真っ当だったと言えるのではないか。

 やがて、00年代も後半に差し掛かると、所謂"童貞"モノのなかにも、『童貞ソー・ヤング』の後に続くように、ポスト"童貞"をテーマにした作品が現れはじめる。松江哲明の映画『童貞をプロデュース。』(07年)は童貞を拗らせた教え子(=かつての自分)に業を煮やした監督が彼らを現実に立ち向かわせるドキュメンタリーだったし、花沢健吾のマンガ『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(05年~08年)は、前作『ルサンチマン』(04年~05年)におけるヴァーチャル世界=童貞のディストピア(『電波男』の表紙にも引用されている)が崩壊するラストから地続きに、リアルな恋愛の地獄をしっかりと描いた作品だった。それでも、マンガ版『ボーイズ~』の読後感は悪くない。銀杏の『僕と君~』『DOOR』が、"アンチ・モラリズム/露悪→モラリズム/露善"という流れを持っているため、あくまでポジティヴな印象が残るのと同じ物語構造を採用しているからだ。そこを甘いと感じる人もいるだろうが、これはこれで悪くない。何故なら、もともと現実の性愛関係に疲れて、妄想の性愛関係に逃げ込むような人間に、いきなり、徹頭徹尾厳しい現実を突きつけたからといって、拒否反応を起こしてしまうだけだからだ。リハビリとしてはこれぐらいで調度良い塩梅なのだ。

 しかし、さらに社会の状況が悪化していくにあたって、いつまでもそのようなロマンチシズムに留まっていられないのもたしかで、例えば、この1月に公開された映画版『ボーイズ~』は見事、そんな時代に対応した傑作である。00年代演劇において、チェルフィッチュの岡田利規と並んで露悪的なアプローチでもって性愛の問題に取り組み、だからこそ露善的なアプローチが幅を利かせるエンターテイメントの世界ではいまいちポピュラリティを得ることができなかったポツドールの三浦大輔は、この初の大舞台となる映画第3作で、ここぞとばかりに、原作では掴みに過ぎない露悪的な面を強調し、後味の悪さを残すことにひたすら賭けている。全10巻に及ぶマンガの第一部まででストーリーを終えるのは、映画の尺の関係で仕方がないとして、原作では主人公を承認してくれる役割のヒロインをバッサリとカットしてしまったのは見事だった。その選択によって、映画版は、原作版のロマンチシズムと引き換えに、新たなリアリズムを得ることに成功しているのではないだろうか。

ボーイズ・オン・ザ・ラン 銀杏BOYZ
ボーイズ・オン・ザ・ラン


初恋妄℃学園/
UK.PROJECT

 そして、映画版『ボーイズ~』で主演を務め、銀杏として同名の主題歌を手掛けた峯田は、自身が監督した12分にも及ぶPVにおいて、映画版にタメを張る才能を発揮している。それは、まるで『君と僕~』と『DOOR』の全29曲を混ぜ合わせてひとつにしたような作品であり、この世界そのものように混沌としている。映像は、松本人志の『働くおっさん人形』(03年)を思わせる露悪的なインタヴュー形式で、ネット右翼からヤンキー、童貞からホストまで、極端なタイプの若者達に夢ーーそれはさまざまな形の承認欲求であるーーを語らせ、現代日本若者像のステレオタイプを浮かび上がらせていく。そして、そのバックには銀杏のシングルとしては初めてと言っていいくらい、ストレートに露善的な、如何にも青春パンクといった歌詞と曲調の楽曲版『ボーイズ~』が鳴り響く。画面に映る"ボーイズ"たちこそは、まさに、銀杏のファン像であり、そして、銀杏が承認してあげたいと考えている若者たちなのだろう。しかし、本PVを観ていて酷く複雑な気持ちになるのは、その映像の露悪性と、音楽の露善性の強烈なギャップだ。銀杏は彼らを思いっきり突き放すと同時に、同じ強さで抱きしめる。これは、J-POPでも日本語ラップでも、ファンを囲い込み、ノイズを排除し、現実を切り離してしまうような、日本のポップ・ミュージックにありがちな態度とは真逆のやり方である。私はつい先日、twitterでこのPVを紹介し、さまざまな人のあいだで賛否両論の議論が巻き起こり、広がっていくのを目の当たりにした。また、同じ問題を巡って、アンチ銀杏を表明している田中宗一郎の「何故、自分がこのバンドを嫌いなのか明確になった」というコメントをネットを通して読み、同じくアンチ銀杏だったはずの野田努の「峯田和伸には江戸アケミ的なところがあると思った」という発言を直に聞いた。その過程で私は、彼らが00年代の日本においてもっとも重要なロック・バンドであることを再認識したのだった。いま、こんなにも議論を呼ぶバンドが、日本に他にいるだろうか。

 そして、この猥雑とした映像に辛うじて整合性を与えているのが、ラストにほんの一瞬だけ映るライヴ・シーンである。血と汗と涎まみれになって演奏を終えたメンバーたちは、それでも満足できないのか、まず、ギターのチン中村が天井に上がっていく垂れ幕に飛びついてぶら下がり、あわやというところで手を離し、落ちて来る。それをきっかけにベースの我孫子真哉が、続いて峯田が、次々とフロアに飛び込んでいく。と、突然、映像は真っ暗になる。そこに、Youtubeをぼんやり覗き込んでいた自分の顔が写り、人は我に変えるだろう。いま、画面のなかで喋っていた醜い奴らと自分は同じなのだと。それは、現代日本の優れた演劇やコンテンポラリー・ダンスが、かつてのように肉体の可能性を模索するのではなく、むしろ、肉体の限界性を表現することで、現代を描写するのと同じヴェクトルを持っている。当たり前の話、人間は飛ぶことはできないし、ロックは世界を変えることはできないのだ。銀杏には『僕たちは世界を変えることができない』というDVDがある。そのタイトルは決してシニシズムではなく、むしろリアリズムである。願わくば、この批評性を楽曲だけでも表現して欲しいと思うが、モダンなロックンロール・バンドとしては、自身の肉体や人生までも含めたありとあらゆるメディアを通じて、メッセージを発信していくのは、私はありだと思う。最近のPVでは、南アフリカはケープタウンのホワイト・トラッシュたちによるクワイト・ユニット、ダイ・アントワードの「ゼフ・サイド」と並ぶ衝撃だった。これら、地理的に遠く離れているだけでなく、音楽性もかけ離れた2本の作品に、唯一の共通性が見出せるとしたら、それは、自分たちを取り囲む状況に対する批評性ではないだろうか。そう、批評こそは、地獄に丸腰のまま落とされた私たちにとっての、唯一の武器なのである。

文:磯部 凉

Les Trucs - ele-king

 去年の秋ぐらいから中古レコードで見かける高い値段のレコードに興味を持っちゃって、ジャンルも知識も関係なく、ただ高い値段が付いているというだけで「どうしてこんな値段になるのか」と考えながら聴くようになって。高いまま買ってしまうこともあるけれど、たいていは同じものがCDで再発されていれば、そっちを聴いてみるので、意外と数もこなせるし、まー、何よりも思わぬ出会いが多く、自分がどこへ向かっているのかさっぱりわからない感じがまた面白くて。アーカイヴ=整理された事態ではなく、むしろ、その中で迷子になる方法を見つけたというか。

 とはいえ、それはあくまでも他人の評価が導線になっているわけで、「なるほどこれに7000円という値段をつけたくなる気持ちもわからなくはない」という聴き方は、どれだけ音楽とダイレクトに結びついて聴いたつもりになっていても、どこかに「確認」という感覚が残っていることは否めない。どうしたらレコード・レヴューを読まずに、しかし、いいレコードに辿り着くかというのは昔からの大きな課題だし、「高い値段」というのもそれを回避する方法のひとつになると思ったのだけど、どんな音楽にも「他人の耳」はついて回るのだなーと。『12枚のアルバム』の中原昌也じゃないけれど、「確認」というのはつまらないものに対して用いられる作業であるべきであって、「言葉を失うほどの音楽体験」を必要とするものがやることではないんだなー(REMIXで最後になってしまった連載ページを参照)。

 そうなると、一律に似たような値段が付けられた新譜から1枚を選ぶ方がやはり近道である。いい音楽と出会う確率は低くなるかもしれないけれど、言葉を失う確率は格段に高い。プロフィールさえよくわからない新人のアルバムに手が伸びてしまうのはそういうわけである。そして、この文章を読む人にとってはそれが「他人の耳」となって、その人(つまり、あなた)にとって、この音楽を聴くことは「確認」でしかなくなってしまう。なはは。では、手短に。

 シャーロッテことスカーレット・スカンパーとトビー(あのトビーではない)によるチープなパンク・ポップの1作目。ムーやチックス・オン・スピードがダンス・ビートから完全に離れ、ドイツ風のスラップスティックな展開をふんだんに持たせた打ち込みパンク(うわあ~懐かしい表現)。TTCがバンドになったというか、アタ・タック+ディジタル・ハードコアつーか。......もっと読みたいですか?

Yossy Little Noise Weaver - ele-king

 ヴァンパイア・ウィークエンドと音で渡り合えるバンドが日本にいることをご存じか。そう、ヨッシー・リトル・ノイズ・ウィーヴァー(YLNW)である。彼らの3枚目のアルバム『Volcano』は、カリブ海の音楽とミュータント・ディスコのブレンドで、エゴ・ラッピンとザ・ゴシップ・オブ・ジャックスによるあの素晴らしい『EGO-WRAPPIN'AND THE GOSSIP OF JAXX』に続くかのようにポスト・パンクのダンス・サウンドを演奏する。

 実際のところ、YLNWは大雑把に言って日本のレゲエ・シーンから生まれている。中心にいるのは元デタミネーションズ/元ブッシュ・オブ・ゴーストという経歴を持つキーボーディストYossyとトロンボーン奏者のicchieで、またメンバーには菅沼雄太(エゴ・ラッピン他)やThe K(元ドライ&ヘヴィー)もいる。2005年のデビュー・アルバム『Precious Feel』はキングストンの海辺で録音されたエレクトロニカであり、隙を見てはカンの『フロー・モーション』に接近する。2007年の『Woven』はジャッキー・ミットゥーがフォー・テットと一緒にスタジオで作ったミュータント・レゲエである。そうした過去の美しい2枚の抒情主義と打って変わって、3年ぶりの『Volcano』は、リスナーの身体をより大きく、波のように動かせる。

 "スーパー・ラビット"はトーキング・ヘッズがジャマイカ旅行したような曲だ。あかぬけたリズムとディレイの効いたスカのトロンボーン、そして滑らかなエレピのコンビネーションが甘い夢を紡いでいく。"ピース"はプラスティックスのカヴァーで、今回のアルバムにおけるベスト・トラックのひとつ。4/4ビートとジャジーな鍵盤とスカの香気が心地よいミニマル・ポップである。タイトなヒップホップ・ビートを取り入れた"ウォッシング・マシン・ブルース"やドリーミーな"ドラム・ソング"は過去2枚と連なるバンドの抒情性がよく出ている曲で、"ヴォルケーノ"は日差しを浴びたミュータント・ディスコ、"ペイル・オレンジ"はラテンの陶酔に包まれた温かいスロー・ダンスだ。

 こうした彼らの音楽は、とにかくキュートだし、耳障りの良さゆえにその背後にある挑戦が見過ごされがちだが、彼らの目的はジャマイカとディスコを並列させることでもはなく、ワールド・ミュージックのレトリックでもない。それは絶えず変化しながら新しいミュータント・サウンドを創造することに違いない。

 ここ数年続いている欧米のポスト・パンク・リヴァイヴァルとはまるで共振することのない日本の音楽シーンだが、興味深いことにレゲエ系のシーンではそれが起きている、起きていくかもしれない――そう思わせるYLNWの新作で、バンドはこの路線を継続しながら、初期のエレクトロニカ・スタイルをあらためて加味すべきである。何故なら、YLNWの輝きはこの1枚に限ったことではないのだ。

Excepter - ele-king

 2003年から電子音とゾンビ声によってひたすら"荒廃"を描き続けるブルックリンのイクセプター、アニマル・コレクティヴのレーベル〈ポウ・トラックス〉になってからは昨年の12インチとDVDによる『ブラック・ビーチ』を挟んで2年振りの2枚目となるアルバム(通算では8枚目らしい)――といっても2003年から2009年前の彼らのライヴ音源を編集したもので、CDで2枚組140分近くの代物となる。ここで取り上げるくらいだから、それを最後まで聴かせる力量がこのバンドにはあると思っていただきたい。喩えるのなら......ヘア・スタイリスティックスから駄洒落を抜き取ってもっとへなへなにして意味不明にしているのがこの5人組の音楽で、初期クラスターやコンラッド・シュニッツラー、あるいはドローンやミニマル・ミュージックやハウス・ミュージックさえも通過している痕跡を瞬間的には見せるものの、しかしそのどこにも依拠しないという本物の根無し草としてこのバンドは、『ピッチフォーク』から一定の評価を得ている(出せばほとんどレヴューされる)。そして今回の壮大のインプロヴィゼーションの記録においてその根無し草感性のたしかさが証明されている。早い話、つかみどころがないのである。

 31分におよび、6つのパートからなる1曲目の"テレポーテーション"(08年10月収録)はこれまでの彼らの軌跡を追うように、イクセプターのすべてが込められていると言える。おおよそクラウトロックの残骸とダブの抽象概念のブレンドによってはじまるこの冒険は、ノー・ネック・ブルース・バンドの輪郭をゆっくり溶解しながら限りなく退屈な、そして実に魅惑的なトリップを繰り返す。ハイライトに向かって電子音がまばたきをするようにとことこ鳴る。そしてテリー・ライリーの悪夢と腐敗したハウス・ミュージックのダンスフロアが待っている。尽き果てることのない異常な酩酊状態......それはこのバンドの真骨頂だろう(タイトルの"テレポーテーション"="念力移動"通りの展開とも言える)。7曲目の"レング"(08年冬)はメランコリックなアンビエント、8曲目の"OG"(07年)は寒々しいドローンである。

 2枚目の1曲目、タイトル曲である"プレジデンス"は03年の演奏で、本作でいちばん古い。"テレポーテーション"の不透明でカオティックなトリップと違って、中心人物であるジョン・フェル・ライアンによるソロ・シンセのミニマリズム(実に33分にもおよぶ)は明らかに催眠効果を高めていく。電子の単音が延々と鳴り続けて、いつ展開があるのかという思いを踏みにじるかのようにそれは続く。20分を過ぎたあたりでリスナーは宇宙の誕生を見てしまうかもしれない。そしてこの曲をアルバム・タイトルにした理由を悟ることだろう。「ああ、そういうことだったのか」と。少なくとも底力がなければ演奏できない曲である(バンドはこれを"long distance music"と定義している)。"アンチ・ノア"(07年)ではテレビのナレーション(天気予報らしい)のコラージュ、"ザ・オープン・ウェル"(08年)ではいっさいのヒューマニズムを排した人工的で無機質な電子を鳴らし続ける。年代不明の最後の曲"ウェン・ユー・コール"は、言うなればスーサイドの屍体とダブステップの混合である。

 電子によるフリー・ミュージック、いまどきこういう音楽はあるものだと思われるかもしれない。しかしイクセプターはそう考える以上に挑戦的で頑固者である。

Zinc - ele-king

 DJジンクは彼がハウスに回帰した理由について語る。「初期のジャングルというのは、ハウスと同じエネルギーを持っていた。同じテンポで、同じエレメンツだった」――昨年の7月28日、奇しくも筆者の誕生日に『ガーディアン』はDJジンクの提唱するクラック・ハウスについての記事を掲載している。アシッド・ハウス、アンビエント・ハウス、メタル・ハウス、ラガ・ハウス、プログレッシヴ・ハウス、ディープ・ハウス、ファンキー・ハウス、テック・ハウス、ミニマル・ハウス、マイクロ・ハウス、エレクトロ・ハウス、フィジット・ハウス......、そしてクラック・ハウス。まあ、なにはともあれ、ドラムンベース界のパイオニアのひとりがハウスに向かったとは興味深い話だ。

 DJジンクといえば、ジャンプ・アップ・ジャングルのアンセム"スーパー・シャープ・シュート"によって傑出した経歴を築いた人物である。が、彼は2007年にそのジャンルに背を向けている。そしてDJジンクは2008年を息子と一緒に過ごしながら自身が前進するための術を思案したという。そこで生まれたのがクラック・ハウスである。DJジンクは初期のジャングルにしばしば見られたような4/4ドラム・パターンをブレイクビートにブレンドする。そのドライヴするベース音、くらくらするシンセ音、歌と陶酔、それは90年代初頭のレイヴのヴァイブを想起させる。そしてそれはプロデューサーのルーツをより鮮明にする。女性MCのノー・レイを起用した彼の"サブマリンズ"や"キラサウンド"にはジャンプ・アップ・ジャングルと同じようなエネルギーがあるのだ。彼は彼がかつて恋したハウスというルーツに立ち返ってジャングルを再発見したのである――と同紙は記している。

 で、まあ本当にその通りなのだよ、これが。昨年末にリリースされた10トラック入りの『クラック・ハウスe.p.』は90年~91年あたりのレイヴ・サウンドの現代版だと言える。これはノスタルジーから来たというわけではない。同紙の取材で、ジンクはこの再発見の契機となったのがスウィッチとシンデンだったことを明かしている。フィジット・ハウスのベースラインがジンクを20年前の倉庫の熱狂へと導いたというのだ。また、同紙でジンクはダブステップへの複雑な気持ちも告白している(UKガラージがドラムンベースを食ってしまうかと心配されたが、むしろ現在はダブステップに有能な新人が持っていかれている――そうだ)。いずれにしてもUKダンス・カルチャーの競争意識、しのぎ合いが新しいスタイルと新しい呼称を生み出しているわけだ。クラック・ハウスはたしかに面白い。シンプルな4つ打ちとベースラインの絡みにしても、ヴォイス・サンプリングにしても、レイドバックしているというよりもダンス・サウンドとしての説得力の強さを感じる。もちろんでっかい倉庫で浴びるように聴きたいけれど、家で流しているだけでも気分は良い。

 さて、2010年はUKファンキーの年だと言われているけれど本当にそうなるのだろうか。だが、その前にまだまだダブステップの快進撃も続きそうだ。スキューバのセカンド・アルバムも良かったし......。

CHART by JET SET 2010.03.08 - ele-king

Shop Chart


1

V.A.

V.A. 20 YEARS OF STRICTLY RHYTHM MIXED BY DJ NORI & TOHRU TAKAHASHI »COMMENT GET MUSIC
Strictly Rhythmから豪華すぎるアニヴァーサリー・アイテムが到着!DJ NoriとTohru TakahashiによるミックスCDに加えて、国内の気鋭なクリエイター陣が本作のためにRe-edit、Remixを施した未発表曲を収めた3枚組。

2

SOMBRERO GALAXY

SOMBRERO GALAXY JOURNEY TO THE CENTRE OF THE SUN »COMMENT GET MUSIC
Lovefingers新レーベル"ESP Institute"第1弾!!Discossessionのキーボード奏者Jonny NashとオランダCBS一派のTakoによる新ユニット、Sombrero Galaxyによる待望の1st.シングルが、噂のLovefingers主宰ESP Institute第1弾として登場!!

3

JOY ORBISON

JOY ORBISON SHREW WOULD HAVE CUSHIONED THE BLOW »COMMENT GET MUSIC
☆特大推薦☆ダブステップ・シーンから登場した超新星による美麗特大名曲!!デビュー曲"Hyph Mngo"が特大アンセム化、Four Tetの特大ヒット"Love Cry"でもリミキサーとぢして大抜擢された超新星が、待望過ぎる3rd.12"をリリース!

4

MENDO

MENDO ENCANTOS EP »COMMENT GET MUSIC
絶好調Cadenzaからの新作!!Michel Cleis"La Mezcla"の大ヒットと共に、近年のトレンドとなったアフロ・チャント系トライバルなモダン・ミニマルハウス作品!!

5

LINDSTROM & CHRISTABELLE

LINDSTROM & CHRISTABELLE BABY CAN'T STOP PT.2 »COMMENT GET MUSIC
Prins Thomas & Idjut Boysという鬼に金棒なリミックス!!アルバム国内版CDに先行収録されていてシングルカットを待ち望んでいた方も多かったはずのPrins Thomas、idjut Boysリミクシーズが遂に登場!!

6

QATJA S

QATJA S KROM EP »COMMENT GET MUSIC
☆大推薦☆これが当ジャンル'10年の一推しサウンド=フレンチ・テックだ!!当店お馴染みのベルジャン・ジャンパーDr. Rudeとのコラボ12"もリリースしているフレンチ・テック・マスターQatja Sによる特大傑作がこちら!!

7

ANDREW CEDERMARK / FAMILY PORTRAIT

ANDREW CEDERMARK / FAMILY PORTRAIT SPRIT »COMMENT GET MUSIC
Real Estate好きは絶対泣きます。Underwater Peoplesからの素晴らしすぎスプリット!!特大スイセン盤★Real EstateをリリースしたUnderwater Peoplesからの4枚目。Real Estate~Ducktails~Julian Lynchなロウファイ・ビーチ・ポップ・スプリット。完璧です!!

8

DOMINIK EULBERG

DOMINIK EULBERG DATEN UBERTRAGUNGS KUSSCHEN (REMIXES) »COMMENT GET MUSIC
美麗テックからディープなダビー・ミニマル・アレンジまでの好リミックスEP!!先ごろMassive Attackの過去名作"Taerdrop"のリミックスを手掛け話題となったMinilogueがリミックスを担当!!

9

DJ SPINNA

DJ SPINNA THIRST / SUMMER MADNESS »COMMENT GET MUSIC
これは間違い無し!その通りSide-B"Summer Madness"使いです!定番クラシック・ネタKool& the Gang"Summer Madnnes"をうまくバラしたSpinna印なトラックに4th・アルバムにも参加していたNYのラッパー、Fresh Daily、Daniel Josephをフューチャー。

10

GAPE ATTACK!

GAPE ATTACK! BURN THIS CITY »COMMENT GET MUSIC
どんどん出てくるBlank Dogsフォロワー・バンド。この人たちも超最高です!!シアトルのシンセ・パンク・トリオ、Gape Attack!のデビュー・7インチ!!ノイジーなダンス・ビートがCold Caveにも通じるキラー・チューン。絶対注目です!!
プラスティック・オノ・バンド
プラスティック・オノ・バンド!(photo: Kevin Mazur/ Wire Image )

 プラスティック・オノ・バンドが、去る2月16日(木)に〈BAM〉で再結成しプレイした。「●●がゲストに来る」......など、私のまわりでもさまざまなうわさが回っていて、ショーはあっという間にソールドアウト! あまりにも早くて、この1日前にはリハーサルをパブリックに公開するショーも追加で催された(こちらもかなり競争率が激しかったらしい)。

プラスティック・オノ・バンド
プラスティック・オノ・バンド!
(photo: Kevin Mazur/ Wire Image )

このショーは、現在のオノ・バンド・メンバー(コーネリアス、ショーンレノン、本田ゆか)に加え、曲ごとに豪華なゲストが登場した。エリック・クラプトン、ソニック・ユースのサーストン・ムーアとキム・ゴードン、ポール・サイモン、ベティ・ミドラー、マーク・ロンソン、シザー・シスターズ、細野晴臣......この上ない豪華なショーである。年齢(77歳!)をまったく感じさせないパワフルなパフォーマ ンスはもちろん、彼らをこの場所に一同に集めることができるYoko Onoの存在はさすがというしかない。このショーを見た人は一同に「彼女はすごい!」と言うし、このゲストたちが、最後に一列に並んであいさつした時は、ニューヨークにおけるYoko Onoと言う存在を重要さを再確認した。

mi-gu
mi-gu
Ghost Of A Saber Toothed Tigers
Ghost Of A Saber Toothed Tigers

 ところで、私が今回ピックしたいのは、数日後に行われたmi-guのショー。mi-guはコーネリアスのドラマー、あらきゆうこさんのバンドで、昨年は〈HEARTFAST〉のCMJショーケースにも出演して頂いた。ショーン・レノンとガールフレンドのバンド、Ghost Of A Saber Toothed Tigers(Sean Lennon & Charlotte Muhl)の前座として出演。ギターのシミーとドラム&ボーカルのゆうこさんの息もぴったりなショーは、数日前のプラスティック・バンドと比べるとこじんまりして、タイプは違うが、雰囲気がとてもよく、観客もアットホームな感じで、声援を送ったりして盛り上げる。観客には、坂本龍一の姿もあり、私の友だち(アメリカ人男)は大興奮して、一緒に写真を撮ってもらったりしていた。最後の2曲にはゲストとしてショーン・レノン、本田ゆか、そしてコーネリアス本人が出演。そして次のバンド(Ghost~)が登場すると、先ほどと、メンバーがシャーロット以外全て同じ! ただ、そのシャーロットが、この世のものとは思えない程かわいい。ショーン・レノンが自慢したくなる気持ちもわかるが、かわいいだけでなく歌も歌えるしベースも弾ける。基本ショーンとシャ―ロットふたりのバンドなのだが、今回はメンバーがいたのでバンド編成になっている。フォーキーなロックで、サウンド的にはショーンのソロに女の子ヴォーカルが入った感じだ。

 2月、NYはファッションウイークでもある。うちの近所のウィリアムスバーグにもファッション・ショーが存在する。NYファッション・ウイークエンドに対抗したウィリアムスバーグ・ファッション・ウイークエンド(WFW)だ。ローカルの若いデザイナーたちが斬新なアイディアや手法で洋服を作り、個性あるファッション・ショーを作っていく。 洋服はもちろんのこと、とくに面白いのはデザイナーのプレゼンの仕方。NYファッション・ウイークのように、洋服がメインで、モデルがキャット・ウオークをするだけではなく、こちらは、どちらかというとパフォーマンスがメイン。

フラウク
ウィリアムスバーグ・ファッション・ウイークエンドにおけるフラウク
トータル・クラップ
トータル・クラップ
ロボット・デス・カルト
ロボット・デス・カルト

 今回の2010年春夏のショー は、WFWでは初のサンフランシスコのデザイナーで、テクノロジーv.s.自然をテーマにしたライン、フラウク、グラムとパンク、アヴァンギャルドをミックスしたライン、トータル・クラップ、Lace & Voidをテーマにし、普段も着れるドリーミーさが売りのデシラ・ペスタ、主催者のラインであるKing Gurvy等々......。

 個人的にいちばん好きだった、ルフェオ・ハーツ・リル・スノッティはリーズ・ア・パワーズのミュージック・ヴィデオ"イージー・アンサーズ"のデザインも担当していて、メンバーはモデルで登場したり、アフター・パーティではDJをしたり大活躍。2010年の冬をイメージした野生の冒険のキャラクター、ガチョウ、イルカ、カエルをモチーフとし、カラフルな色を切り貼りしてリサイクルした洋服を着たモデルたちがラッパーに合わせてダンス・パフォーマンスを展開。ホットドッグやアイスクリームを、ウエブサイトの入ったフライヤーと一緒にオーディエンスに投げたり......。

 アートギャラリーでもある、シークレット・プロジェクト・ロボットのライン、ロボット・デス・カルトは、モンスター(ドラキュラ、フランケンシュタインなど)メイクのモデルたちが、ロボット・デス・カルト印の旗を持って、ステージに突如現れ大騒ぎ、そしてすぐに去る。5分ぐらいのショーだったが、存在感とインパクトは圧倒的。

 どのデザイナーもいまあるものを使い、いろんなアイディアを組み込んで、新しいものに変えていく。レイヤーだったり、コラージュだったり、リサイクルだったり。NYファッションウイークと規模はまったく違うけれど、DIY精神の面白いファッションショーだと毎回感心する。

 最後に、このファッション・ショーの主催者のアーサー・アービットに話を訊いてみた。彼は、元ツイステッド・ワンズという名前で、ライトニング・ボルト、ブラック・ダイス、ヤーヤーヤーズ、ライアーズなどを初めてウィリアムスバーグでブッキングした人で、最近では、DJ、イラストレーターとしても活躍している。また、普段もスーツでびしっと決めている人だ。


RNY:ウィリアムスバーグ・ファッション・ウイークエンド(WFW)はいつ、どのようにはじめたのですか。

アーサー・アービット:3年前、これから出てくる若手デザイナーにプラットフォームを作ってあげたいと思った。

RNY:NYのファッション・ウィークとは、どの辺が異なりますか?

アーサー・アービット:デザイナーたちはデザインをプッシュすること、それを創造する工程にとくに興味を持っていて、ビジネスは透明になっている。

アーサー・アービット
ウィリアムスバーグ・ファッション・ウイークエンドの主催者のアーサー・アービット

RNY:当日いろんなメディアのインタヴューを受けていましたが、WFWはどのようにプロモートしているのですか。

アーサー・アービット:いつも同じだけど、主要なメディアやブログサイト、ファッション業界の人たちだね。

RNY:WFWで何が大変で、何が楽しみですか。

アーサー・アービット:いまは楽しいことしか思いつかない。これが自分のやりたいことだからね。

RNY:あなたは主催者でもあり、デザイナーでもありますが、あなたの洋服ライン「King Gurvy」を紹介して下さい。

アーサー・アービット:エクスペリメンタル!

RNY:2010年おすすめのデザイナーは。

アーサー・アービット:フラウク(Flawk)だね!

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