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interview with JINTANA & EMERALDS - ele-king


JINTANA & EMERALDS - Destiny

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 どこかにありそうでどこにもないベイエリア〈エメラルド・シティ〉から、極上のメロウ・ミュージックが届けられた! 横浜を拠点とする〈PAN PACIFIC PLAYA〉から、JINTANAが中心となって結成されたネオ・ドゥーワップ・バンド(!?)、JINTANA & EMERALDS。彼らがこのたびリリースするアルバムがそれだ。すでに7インチ盤「Honey/Runaway」を発表し、そのとてつもなくユニークなサウンドを国外にまで知らしめた彼らが、ついに『Destiny』という10曲入りアルバムをリリースすることになった。

 本作ではドゥーワップにとどまらず、フィル・スペクターを連想させるような、オールディーズの雰囲気がつめこまれている。ロネッツ風あり、モータウン風あり、プラターズ風あり、そしてジョー・ミークのカヴァーもあり。現代の音響技術を駆使してアップデートされた、21世紀版のウォール・オブ・サウンドが聴こえてきたら、そこはもう、青い海と青い空に囲まれた架空の都市〈エメラルド・シティ〉である。

 そんな本作の世界観を支えるのは、スティール・ギターを弾くJINTANAである。彼が抱いていたオールディーズの世界にメンバーは運命(destiny!)のように集まった。このユニークで、どこか大瀧詠一やYMOのノベルティ盤を思わせる本作を追求すべく、主要メンバーであるJINTANA EmeraldsとTOI Emeralds(一十三十一)にインタヴューをおこなった。

JINTANA & EMERALDS
横浜発、アーバン&メロウ集団PPPことPAN PACIFIC PLAYA所属のスティールギタリスト、JINTANA率いるネオ・ドゥーワップバンド、JINTANA&EMERALDS。リーダーのJINTANA、同じくPPP所属で、最近ではあらゆるところで引っ張りだこのギタリスト、Kashif a.k.a. STRINGSBURN、媚薬系シンガー、一十三十一、女優としても活躍するMAMI、黒木メイサなど幅広くダンス・ミュージックのプロデュースをする行うカミカオルという3人の歌姫たちに加え、ミキサーにはTRAKS BOYSの半身としても知られる実力派DJ、CRYSTALを擁する6人組。

「声が個性的でカッコいい唄物」をやりたいと思ったとき、愛聴しているドゥーワップと〈PPP?のノリが僕の中で繋がったんです。それで一十三十一に電話して……  (JINTANA)

『Destiny』、聴かせていただきました。この作品はかなりコンセプチュアルですよね。クラブなどでみんなで話しているうちにノリで作っちゃったような印象を受けて、そこが楽しいのですが、実際の制作の経緯はどのようなものだったのですか?

JINTANA:もともと〈Pan Pacific Playa?(※以下PPP)があって、僕もそのメンバーなんです。それで、ブラックミュージック的なものを掘り下げていきたいなと思っているうちにオールディーズが好きになって、すごく聴くようになったんです。〈PPP?には、LUVRAW & BTBっていうトークボックスをやっているグループがあるのですが、そのトークボックス声がすごくカッコよくて、そういう「声が個性的でカッコいい唄物」をやりたいと思ったとき、愛聴しているドゥーワップと〈PPP?のノリが僕の中で繋がったんです。それで一十三十一に電話して、「誰かまわりにオールディーズ好きでやりたそうな人いる?」って訊いたら……。

むしろ、一十三十一さんがノッてきたんですね。

JINTANA:そう(笑)。「いやいや、わたしがやりたい!」って。

一十三十一さんはやはり、「おもしろそう!」って思ったわけですか?

一十三十一:そうですね。わたしはコーラスを付けるのが好きなんです。それで、全員歌うドゥーワップ・バンドというのはおもしろいなと思って、「わたしが参加したい!」って言ったんです。そこで決まりました。

じゃあ、ドゥーワップとかオールディーズというものが、先立ったコンセプトとして強くあって、その上でおもしろそうな人を集めた感じなんですね。

JINTANA:そうですね。ただ、もともとみんなそういうのが好きということがベースにはありました。KASHIFくんと〈PPP〉のKESくんと一十三十一なんか、それぞれ達郎フリークで「達郎フリークの会」みたいな感じでしたし(笑)。

なるほど、山下達郎ならコーラスものは重要ですよね。JINTANA & EMERALDSは、「悪ふざけ感」がとてもいいですよね。僕が聴いときは、細野晴臣のトロピカル三部作やティン・パン・アレーの『イエロー・マジック・カーニヴァル』を思い出しました。最初に波の音が聞こえて、ナレーションのようなものが入る。細野さんなんかは、自分の音楽を「レバニラミュージック」と呼んで、インチキなエキゾチック音楽をやっていましたが、『Destiny』も、そういう「インチキなベイエリア」のような感じがとてもよかったです。制作時に聴いていたバンドなんかはあるのですか?

JINTANA:個別にはいろいろあるのですが、フィル・スペクターはすごく聴きまくっていました。

なるほど。アルバムでも、“Emeralds Lovers”なんかは完全にロネッツのようなイントロですよね。一十三十一さんは、自身のアルバムで大瀧詠一のジャケットを引用していましたが、そのへんの音楽はいつから好きだったんですか?

一十三十一:自分のルーツとして、両親がわたしの生まれた78年から14年のあいだ北海道で営んでいたレストランがあるんです。その名も「トロピカル・アーバン・リゾート・レストラン ビッグ・サン」といって、まさに大瀧詠一さんや山下達郎さんのような世界観のお店なんです。国道沿いにハリボテのヤシの木がドーン! と立っていて、北海道なのにうちはいつも常夏で、西海岸の風が吹いている(笑)。アロハシャツとアーバンが混ざっているようなお店です。そこでかかっている音楽や雰囲気が、わたしのルーツなんです。店の選曲も両親がしていて、達郎さんやユーミンや大瀧詠一さん、あるいはビーチボーイズなんかがずっとかかっていました。オシャレな店だったので、80年代は着飾った大人たちのデート・スポットとして流行っていました。

国道沿いにハリボテのヤシの木がドーン! と立っていて、北海道なのにうちはいつも常夏で、西海岸の風が吹いている(笑)。  (一十三十一)

鈴木英人の世界ですね。

一十三十一:まさにあの感じです。

フィル・スペクターのサウンドは特徴的ですが、『Destiny』もかなりミックスにこだわっているように思いました。ミックスを担当したクリスタルさんには、なにか注文を付けたりはしたんですか?

JINTANA:いや、最初にサウンドのアイデアを話したときにクリスタルくんともすぐに意気投合したので、あとはクリスタルくんのノリでやってもらっています。トラックを送ってクリスタル君にミックスしてもらい戻してもらう流れなのですが、いつも曲がそこで最終的に磨き上げられて輝く感じです。

『Destiny』ではドラムも特徴的だと思いました。生で叩いている躍動感もあり、一方で打ち込みのようなサウンドの厚さもあり、懐かしいんだけど古臭くもない絶妙なバランスです。ドラムは打ち込みですよね。

JINTANA:ドラムは全部打ち込みです。フィル・スペクターは、オールディーズ的な気持ちいいメロディーに加えて、サウンドもすごく気持ちよくさせようとした人だと思います。大瀧詠一さんも同じことをした。俺らもその現代版をやりたいなと思ったので、いまの音楽的な技術でいちばん気持ちいいと思うサウンドを追求しました。それは、やはり昔の音とは違いますよね。音響的な心地良さを追求しているうちにこういう音づかいになりました。

僕も大瀧詠一さんなど好きでよく聴きますが、サウンドもさることながら、ノリも大瀧詠一っぽいですよね。JINTANA & EMERALDSには、JINTANAさんと一十三十一さんが北海道出身なのに「西海岸」という共通体験をでっちあげちゃうような遊び心があります。

一十三十一:さっき、メンバーのKASHIFくんとLINEで「祝フラゲ日」みたいなことをやっていたんです。「本当に出るんだね」って(笑)。

JINTANA:ふざけているうちに出た感じはあるよね。

7インチのシングルを出したときはどうでしたか。

JINTANA:『Tiny Mix Tapes』とかにも取り上げていただいて話題になり、好評で嬉しかったです。

7インチ・シングルはDJとかで買う人も多いと思います。僕もDJをやっているんですが、現代の潮流からするとこの作品はBPMが極端に遅いんですよね。それがすごく新鮮です。とくに後半はずっとゆったりしていて、その遅さとコーラス・ワークにドゥーワップっぽさを感じました。本人たちとしては、JINTANA & EMERALDSのドゥーワップっぽさはどこにありますか。

JINTANA:仲良さそうなところかな(笑)。昔のジャケットを見ていると、他のメンバーと顔がくっついちゃうようなキャッキャした写真があって、それが僕のドゥーワップのイメージです。

一十三十一:リア充感ね(笑)。


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昔のジャケットを見ていると、他のメンバーと顔がくっついちゃうようなキャッキャした写真があって、それが僕のドゥーワップのイメージです。  (JINTANA)

なるほど、そういうところなんですね(笑)。たしかに、そういう楽しい感じがよく出ているので、リスナーも仲間に入りたくなりますね。イニシアチブを取っていたのは、やはりJINTANAさんですか?

JINTANA:イニシアチブというか、JINTANA&EMERALDSという世界のきっかけをつくったのは僕ですが、その後はみんなで自由に遊んでいる感じですね。

一十三十一:歌詞の世界は「EMERLDS CITY」での物語なんです。デトロイト・ベイビーちゃんという歌詞専門の帰国子女の女性がいて、その子がメンバーの実話をもとに歌詞を書いているんです。だいぶエメラルド・エフェクトがかかっていますけど(笑)。

その世界観はすぐ共有されたんですか。

JINTANA:「いまの音響で気持ちいいドゥーワップがやりたい」という想いが最初にあって。その後、〈PPP?の脳くんが、ドゥーワップには宝石の名前からとったバンド名が多いからという理由で、JINTANA & EMERALDSという名前を付けてくれたんです。

一十三十一さんは、そのような立ち上げの経緯をどう見ていましたか。

一十三十一:その頃、わたしは出産して音楽活動から少し離れていて、5年ぶりに『CITY DIVE』を作っていました。JINTANA & EMERALDSは、そのあいだくらいのタイミングだったんです。子育ても落ち着いてきたし、新しい活動もしたいと思ったときだったので、「あたしやる!」と思って、すぐ参加しました。バンド活動は地味に2年くらいやっていて、今回ついにリリースということになったのですが、ずっと遊んでいるうちにここまで来た感じです。

〈PPP〉の脳くんが、ドゥーワップには宝石の名前からとったバンド名が多いからという理由で、JINTANA & EMERALDSという名前を付けてくれたんです。

ジャケット・デザインやPVなどを見ても、みんなイメージが共有できている感じがしますよね。“18 Karat Days”という曲名も、オールディーズのセンスが最高です。

JINTANA:50年代のスラングとか言い回しを深堀りしてみようと思って、いろいろ調べていたんです。そしたら「すげーヤバい」みたいな意味で「18 Karat」という言葉が使われていた例を知って、曲名はそこから付けています。この曲は、50年代の言葉使いをかなり使っています。

“Runaway”は出だしがプラターズの“オンリー・ユー”みたいですが、そこから外していく感じがおもしろいです。本作はとてもポップなので、誰が聴いてもいい曲だと思えると思いますが、一方でコアなリスナーが聴いたら、いろいろな先行する音楽を思い浮かべて楽しむかもしれませんね。制作にあたっては、「誰々っぽくしよう」とか話したりするんですか?

JINTANA:そういうのはあまりないですね。それよりも、メンバーの誰に向かって作るかということのほうを意識していました。「この曲はカミカオルちゃんの世界観で作ろう」とか。あとはライヴをしていくなかで細かく調整することもありましたね。

活動していくうちに洗練していったんですね。アルバムでは“アイ・ヒア・ア・ニュー・ワールド”と“レット・イット・ビー・ミー”をカヴァーしていましたが、今後カヴァーしてみたい曲とかありますか。

一十三十一:本当はもっと入れようと思って、候補曲もたくさんあったんですよ。でも、今回は2曲だけ。日本語でやろうという話も出ていました。

JINTANA:ビージーズもやりたいと言っていたんですよ。

みんなで力を合わせてやっていく感じに、「バンドっていいな」と思いました(笑)。  (一十三十一)

やっぱり男女一緒にやっていることですかね。ライヴするときも着替えがあるから、控室が女子部屋と男子部屋に分かれていて、修学旅行みたいだと思いましたね(笑)。  (JINTANA)

まだまだ、いろんな方向に広がっていきそうですよね。一十三十一さんは、どのように音楽制作に関わっていたんですか?

一十三十一:JINTANA & EMERALDSのなかで、わたしの担当は歌だけなので、それが自分のソロ活動とは全然ちがうんです。曲ができていく様子を客観的に見れたのが、楽しかったですね。みんなで力を合わせてやっていく感じに、「バンドっていいな」と思いました(笑)。
 ソロのときは守備範囲が広くて緊張感も高かったりするのですが、バンドではみんながサポートしながら作るので心強いです。JINTANA本人も地元の仲のいい友だちとして出会っているし、KASIFくんも一十三十一でもいっしょに曲を作ったりして仲がよくて、カミカオルちゃんもデビューのときから仲良し。そんななかで撮影なども進んでいくので、本当に楽しい活動ですね。このジャケットの笑顔のとおりです(笑)。

JINTANAさんは、いままでの音楽活動と今回で違ったこととかありましたか。

JINTANA:やっぱり男女一緒にやっていることですかね(笑)。ライヴするときも着替えがあるから、控室が女子部屋と男子部屋に分かれていて、修学旅行みたいだと思いましたね(笑)。

それは大きなちがいですね(笑)。LUBRAW&BTBさんが参加していたり、おなじみのメンバーで楽しくやっている感じがあります。

JINTANA:“Destiny”は、「いま、このめんつメンツでこの瞬間にいっしょに音楽やパーティをしているのは、とても幸せな運命の導きで、その幸福な瞬間を心から味わいたい」という気持ちで作った曲なので、ふたりは入れたいなと思いました。

なるほど。ドゥーワップ~オールディーズということですが、お気に入りのミュージシャンなどいますか。

JINTANA:モーリス・ウィリアムス&ザ・ゾディアックス“ステイ”とかは、すごく好きです。普通に歌がはじまったのに、次の瞬間にめちゃくちゃ高い声になるのが──ほとばしっている感じがヤバいんです(笑)。この曲は『僕の彼女を紹介します』っていう韓国映画での甘すぎるシーンのBGMにもなってます。

モーリス・ウィリアムス&ザ・ゾディアックス“ステイ”とかは、すごく好きです。普通に歌がはじまったのに、次の瞬間にめちゃくちゃ高い声になるのが──ほとばしっている感じがヤバいんです(笑)。  (JINTANA)

コーラスに凝っている曲って、最近は意外と少ないかもしれませんね。

JINTANA:少ないですよね。ただ、声で気持ちよくするような曲はある気はします。全部機械ではなく最終的に声で聴かせる曲というのはやっぱりいいし、そういうものが好きな人は多いと思います。

最近はエレクトロ・サウンドが流行っていますが、JINTANA & EMERALDSのように、BPMが遅めでしっかり歌を聴かせられるようなバンドは貴重です。対バンしてみたい相手とかいますか。

JINTANA:対バンというのはあまりに恐れ多いのですが、夢としていつかご一緒したいのは、横山剣さんですね。

今後はどのような予定になっていますか。

JINTANA:7月19日に京都メトロ、21日に代官山〈UNIT〉でレコ発ライヴをします。そこでエメラルドの世界に連れていくような非日常的な体験を楽しんでもらいたいですね。観ただけでトリップするような。

クリスタルさんに音響的な部分をまかせて、どうでしたか。

JINTANA:ミックスが終わってファイルが戻ってくるといつも見違えるように鮮やかになっているのですが、個人的に、いちばん気持ちよかったのは“Moon”ですね。聴いた瞬間、別の世界に誘われましたね。

個人的に思い入れがある曲とかはありますか。

一十三十一:最初の出会いが“Honey”だったので、それは思い入れがありますね。でも、全部びっくりするほど名曲ですけどね(笑)。毎回デモのクオリティがすごく低いんですよ(笑)。どの曲も、全然音程とかわからないところからはじまっているという物語があるので、それぞれおもしろかったです。

JINTANA:僕の声で歌っているデモは、解釈の余地がかなり多いという(笑)。

一十三十一:そうそう。自分なりの解釈で楽しめるところがありました。だから、だんだんデモのクオリティの低さも安心して受け入れられるようになってくるんです(笑)。とんでもないデモが送られてきても、「これもきっとあのレベルまで行くんだな」ということがわかるようになる。そういう、ゴールに向けての成長のストーリーがありました。

一十三十一さんの立ち位置がいいですよね。「わたしは歌を歌うだけなんだ」と。

一十三十一:すごく客観的に見ていました。でも、みんなそれぞれのセンスが光っているので、とんでもないものが送られてきても安心感がありました。いろんな人の手が加わっていくことによって、着地点はいつもdestinyなんですよ(笑)。毎回そのストーリーを追いつつ完成に向かうのが楽しいです。だから、どの曲もいろんな物語があるんです。


 amazonさんでもすぐに品薄になってしまうのですが、おかげさまで『遊びつかれた朝に──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』、好調な売れ行きでございます。お読みいただいているみなさま、ありがとうございます!
 さて、去る4月16日、インターネット・ラジオdublabさんにお迎えいただいて、著者おふたりが本書を紹介されました。dublabさんのアーカイヴにてそのときの模様が公開されましたので、ぜひお聴きください。ご都合のため九龍ジョーさんは途中からのご登場となっておりますが、磯部涼さんのDJとトークをたっぷりお楽しみいただけます。もちろんAZZURROさんによる、〈Ultimate Breaks & Beats Session〉も!

■DJ AZZURRO, Ryo Isobe w/ Yuho Hashimoto & Kowloon Joe – dublab.jp “Radio Collective” live from Malmö Tokyo (04.16.14)

こちらからお聴きいただけます!
https://goo.gl/WhfvY2

dublabさんサイト
dublab.jp

*磯部涼 選曲リストより
1. 浅野達彦 / LEMONADE(M.O.O.D./donut)
2. Gofish / 夢の早さ(Sweet Dreams)
3. 両想い管打団! / キネンジロー(Live at 元・立誠小学校、2013年1月13日)(NO LABEL)
4. うつくしきひかり / 針を落とす(MOODMAN Remix)(NO LABEL)
5. odd eyes / うるさい友達(less than TV)
6. MILK / My(Summer Of Fun)
7. soakubeats feat. onnen / Mission:Impossible(粗悪興業)
8. Alfred Beach Sandal / Rainbow(ABS BROADCASTING)
9. Hi, how are you? / 僕の部屋においでよ(ROSE RECORDS)
10. FOLK SHOCK FUCKERS / ロード トゥ 町屋(less than TV)
11. DJ MAYAKU feat. SOCCERBOY / DANCE WITH WOLVES(Goldfish Recordings)
12. LEF!!! CREW!!! x NATURE DANGER GANG / Speed(NO LABEL)
13. 嫁入りランド / S.P.R.I.N.G.(NO LABEL)

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interview with Mr. Scruff - ele-king

 アンドリュー・カーシー。無精ひげの男(ミスター・スクラフ)と名乗る男が6年ぶりのアルバム『フレンドリー・バクテリア』を発表する。変わらないというか、そもそも変わる必要もないと言ったほうがいいだろう。ミスター・スクラフは、流行り廃りなどに惑わされることなく、相変わらず我が道を進み続けている。

 ミスター・スクラフは、1990年代半ばから作品を出し続けているヴェテランであるが、アルバムに関してはまだ4枚しか出していない。にも関わらず、彼がいまでも人気のあるDJ/プロデューサーであり続ているのは、そのサウンドに経年劣化することのない魅力があるからだ。

 ミスター・スクラフのサウンドは単純に言って、楽しい。ソウル、ファンク、ディスコ、ヒップホップ、テクノ、ハウス、エレクトロ……、さまざまな音楽がミックスされている。エクレクティックでオールドスクールなフレーヴァーも彼のサウンドの特徴といえるが、人懐っこさとユーモア、小躍りしたくなる楽しげなメロディとファンキーなグルーヴ。彼自身が手がけるあの可愛らしいドローイングのように、遊び心がある。


Mr. Scruff
Friendly Bacteria

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 変わらないということは、最新アルバム『フレンドリー・バクテリア』は、つまり相変わらずの傑作ということだ。
 もちろん新たな試みも聴くことができる。1曲目の“ステレオ・ブレス”や“フレンドリー・バクテリア”でのアグレッシヴなベースラインはあほくさいEDMを軽々と破壊するだろう。ゲストも人選も良い。シネマティック・オーケストラのベーシストであるフィル・フランス、ディーゴとのプロジェクトで再び注目を集めているカイディ・テイタム、5曲で素晴らしいヴォーカルを披露しているデニス・ジョーンズ、トランペット奏者のマシュー・ハッセル、さらにはハウス界のレジェンド、ロバート・オーウェンスとのコラボも本作の聴きどころだ。

 一時期は販売も手がけていほどの大の紅茶好きとしても知られる彼は、いまマンチェスターで〈ティーカップ〉というカフェを運営している。DJ活動も順調に続けている。紅茶と音楽と家族と仲間たちに囲まれた暮らし。『フレンドリー・バクテリア』とは、まさに、そうした場所から響いてくる音楽だ。

多くの人たちにとって、1988年はアシッド・ハウスを発見した年だったかもしれないけれど、僕にとってはいつもと変わらないただの夏だった。僕は16歳で、学校を中退した年だったけどね(笑)。

この前の2月で42歳になられたかと思います。

ミスター・スクラフ(以下、MS):はははは、そうだよ。

あなたがDJをはじめたのは12歳の頃だから、もう30年以上も続けていることになりますね。音楽をはじめた当時、30年後も音楽をやり続けているというヴィジョンはありましたか?

MS:うん、その頃から、この先もずっと音楽をやっていくんだろうと思っていたよ。単純な理由だよ。音楽をやっていると心から楽しい。だから歳をとったからって、そんな楽しいことをやめられるわけがないってこと。音楽を止めようと思ったことは、これまで一度もない。

これまでのご自身の人生を振り返ってみて、最も幸せに感じてることを教えてください。

MS:そうだな、心の底から楽しいと思えること、つまり音楽を仕事にすることができているということ。あと結婚して可愛い娘がいること、それもとても幸せに感じている。

お子さんを授かったことで、あなた自身に何か変化はありましたか?

MS:もちろん、あったよ。毎日が音楽だけの人生ではなくなり、リアルな生活という観点から物事を見ることができるようになった。そうやって自分に新しい視点が生まれたことは、とてもよいことだと思っている。音楽を作るうえで、音楽以外のものから影響を受けたり、学んだりすることは、大事なことだからね。また〈ニンジャ・チューン〉に所属していることも幸せだ。〈ニンジャ・チューン〉とはもうずいぶん長い付き合いになる。僕にとっての幸せとは、自分の求める生活ができること、仕事やコミュニケーションが上手くいく人を見つけること、またそうした人たちをリスペクトすることだ。そういったベースが固まったら、学び続け、革新し続け、前進すればいい。

逆にこれまでの人生で後悔していることってありますか?

MS:学校でもっと努力すればよかったと思っている。もっと多くの言語を学べばよかった。この15年間、ツアーで世界中をまわってきたけど、英語圏以外の国では現地の人が僕に合わせて英語を話さなくてはいけないから、いつも申し訳ないと思っている。自分が怠け者のような気になるんだ。もちろん、これからでも学ぶことができるけど、大人になると言語を取得するのが難しくなる。このことにもっと早く気づきたかったな。

長く音楽をやり続けるための秘訣のようなものがあれば教えてください。

MS:いちばん大切なことは、自分を駆り立てることだ。それから自分の直観を信じること。他人が何を好むか、あるいは自分が何を求められているか、そうしたことを知っていることは悪いことではない。僕の場合、例えばそれは“Get A Move On”のような曲であって、あのようなタイプの曲を好むリスナーが多いということも知っている。が、同じようなことを繰り返しやるべきではない。作曲するとき、パフォーマンスするとき、DJするとき……、それらに共通して必要なのは、まず自分がエキサイトできるかどうかだ。他人の期待に合わせ、自分を作りあげていくと、同じことを繰り返してしまい、エキサイティングでなくなってしまう。エキサイティングでなくなってしまうと、ハッピーでなくなってしまう。だから自分をインスパイアさせ、エキサイトさせ、学び続けることが大切なんだ。

なるほど。

MS:すべてを知りつくしたと思わないで、学び続ける。人生とは学びの連続だ。それは歳を重ねるごとにわかっていくものだと思う。そして、自分は一生かけてもすべてを知ることはできない、という事実を受け入れられるようになる。完全なものなどない。だから自分自身や自分の性格も受け入れられるようになる。そして、よりオープンになり、さまざまな影響を素直に受けることができ、他人から何を学べるかがわかるようになっていくのさ。

僕にとって大事なのは音楽の趣味を発展させていくことであり、音楽の趣味や知識を増やすのことだ。実際に当時よりも、今のほうが、興味のある音楽の種類が増えた。ある音楽スタイルについて知ると、その先をさらに知りたくなる。

あなたがDJをはじめた80年代後半、まさに世はセカンド・サマー・オブ・ラヴの狂騒の真っ只中だったのではないかと思うのですが、あなたにとってそれはどのようなものでしたか?

MS:それって1988年のことかい? うーん、よいものだったと思うよ。1988年のマンチェスターといえば、〈ハシエンダ〉やアシッド・ハウスを思い出す人も多いだろうね。でも僕は当時16歳だったから、まだクラブに行ったことがなかったんだ。セカンド・サマー・オブ・ラヴは、パーティに遊びに行き、ドラッグをやって踊りまくるというのがメインだったけど、僕はそのどれもやっていなかった。家でラジオを聴いたり、レコードを買ったり、ミックステープを作ったりすることのほうに夢中だったんだ。

通訳:ではあのシーンは経験していないのですね。

MS:まったくない。8歳まで僕と音楽との接点は、レコード・ショップやラジオや雑誌に限定されていた。最初の10年は誰とも交流を持たず、ひたすら音楽を聴き続けながら、自分のスタイルを確立していったんだ。僕は1986年からアシッド・ハウスを聴いている。地元のレコード店にもシカゴからの輸入レコードがたくさん入荷されていたからね。リヴァプールやマンチェスターなどイギリス北部やスコットランドでは、シカゴ・ハウスやデトロイト・テクノは大きなブームだった。多くの人たちにとって、1988年はアシッド・ハウスを発見した年だったかもしれないけれど、僕にとってアシッド・ハウスはもうそんなに目新しいものではなかった。僕にとってセカンド・サマー・オブ・ラヴはいつもと変わらないただの夏にすぎなかった。僕は16歳で、学校を中退した年だったけどね(笑)。

1995年のデビュー作「The Hocuspocus EP」を聴くと、いまのサウンドにも通じる部分が多くあり、すでにミスター・スクラフとしての音楽性が確立されているようにも感じます。そうした意味では、かなり早い時期に目指すべき音楽の方向性が固まっていたのではないかと思うのですが、ご自身としては、当時と比べ、音楽の趣味であったり、作るサウンドの方向性などが変わったと思いますか?

MS:いや、あまり変わってないと思う。ファースト・アルバム『ミスター・スクラフ』(1997年)をリリースした時点で、僕は10年くらいDJをやっていたし、レコーディングも8年、9年ほど経験していた。そうした中で、いろいろな音楽をミックスさせ、遊び心のあるサウンドを作りたいって方向性がすでにあった。その部分は当時もいまも変わらない。
 ただ、その後も膨大な量の音楽を聴き続けてきた。さっきも話したように、自分を駆り立てながらね。僕にとって大事なのは音楽の趣味を発展させていくことであり、音楽の趣味や知識を増やすのことだ。実際に当時よりも、いまのほうが、興味のある音楽の種類が増えた。ある音楽スタイルについて知ると、その先をさらに知りたくなる。「このミュージシャンはどんな影響を受けたのだろう?」というように。僕の基礎や土台は当時も現在も同じ。ただヴィジョンが広がったということだと思うね。

あなたが音楽制作をはじめた頃に比べると、音楽制作ツールも大きく変化していると思います。そうした環境や機材の変化があなたの音楽にもたらしたものがあるとすれば、それはどんなものですか?

MS:その点においても、あまり変化はないかな。僕は自分のスタイルを前進させきたけど、オールドスクールやルーツっぽいサウンドが好きだという核の部分は相変わらず変わらない。いろいろなスタイル、テンポ、雰囲気のサウンドを試みたとしても、いつも僕はある一定のサウンドにたどり着く。リスナーが聴いて「これはスクラフの曲だな」とわかるようなサウンドさ。自分でもはっきりとは認識していないけど、何かしらの要素が組み合わさり、バランスが取れて、生まれてくるサウンドなんだろうね。

あなたらしいサウンドなるものを決定づける要素とは何だと思いますか?

MS:何がどうなってそれが生まれてくるのか、正直なところ、僕にもよくわからない。でも僕がいまラップトップで音楽を作ったとしても、そこにはきっとドラムマシーンを使ったオールドスクールなフレイヴァーを必ず注入するだろう。ラフで攻撃的なプロダクションが好きだからね。僕はいままだに古い機材もたくさん使っている。30年前の機材がまだ使えて、サウンドもいいなら、僕は喜んでそれを使うよ。アナログ・レコードだってかける。いまのところ最新の技術を常に把握する必要性は感じていない。きっとそんな自分の好みや趣向に導かれ、あのサウンドが出てくるんじゃないかな。

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マンチェスターのアーティストは海外へ出てショーをやったりするけど、地元を基盤にした活動もしっかりおこなっていて、マンチェスターにもちゃんと活気がある。いまだにたくさんのレジデント・パーティがあるしね。

SoundCloudにDJミックスを大量にアップしていますよね。相変わらず精力的にDJをされているかと思います。膨大なコレクションをお持ちだと思いますが、レコードは買い続けているのですか? 

MS:もちろん。レコードは買い続けている。比率は、新譜を2枚買ったら、中古を1枚買うという感じかな。レコードショップに行くときは、中古を買い求めにいくことが多いかな。

通訳:どういうジャンルのレコードが多いですか? 

MS:オール・ジャンルさ(笑)。いまでも週に20枚から30枚のレコードを買っているよ。それらはあらゆるスタイルのものを網羅している。

通訳:ここ最近、新しいレコードであなたを夢中にさせたものは?

MS:何枚かある。〈エグロ・レコーズ(Eglo Records)〉から出たファティマの新しいアルバムは最高に素晴らしい。クアンティックの新しいアルバムもすごくいいね。あとフローティング・ポインツのニュー・シングルも相変わらずいい。カルバタ(Kalbata)とミックスモンスターのアルバムも最高だった。テルアビブの連中がジャマイカに行って、ハードコアなルーツ・レゲエを作った作品なんだけど、本当に素晴らしいよ。

地元のマンチェスターで多くDJをされているようですが、マンチェスターのクラブ・ミュージック・シーンは現在どんな状況でしょうか?

MS:とてもいい。アーティストやレーベルの状況も健全だと思う。マンチェスターのアーティストは海外へ出てショーをやったりするけど、地元を基盤にした活動もしっかりおこなっていて、マンチェスターにもちゃんと活気がある。いまだにたくさんのレジデント・パーティがあるしね。僕もレジデントをやっている。オススメはイルム・スフィア(Illum Sphere)がレジデントを務める〈ホヤ・ホヤ(Hoya Hoya)〉という人気パーティ、それから〈ソー・フルート(So Flute)〉ってパーティだな。〈ソー・フルート〉は僕のパーティやホヤ・ホヤに影響を受けた若い連中がやっているパーティだ。ベース・ミュージックのパーティやレゲエのパーティ、アンダーグラウンド・ハウスのパーティ、インディ・ロックのパーティ、ニューウェイヴのパーティ……、本当にいろいろあるんだよ!

マンチェスターのクラブ・シーンが活況であり続けている理由は何だと思いますか?

MS:音楽好きな若者が多いというのは理由のひとつとしてあるかもね。大学生も多いし、音楽が目当てでマンチェスターに来る人もいるし、クラブで騒ぐために集まってくる連中もいる。こうした若い人の中に、自分たちでクラブ・パーティをはじめたり、音楽をリリースしたり、レコード・レーベルを立ち上げたりするやつらがいる。毎年、大学に通う目的でマンチェスターには大勢の若い連中がやってくる。そのおかげで、マンチェスターは若い人が多く、活気に溢れている。若者の中には、マンチェスターが気に入って住み続ける人も少なくないし、音楽で生計を立てているやつらもたくさんいるんだ。

あなたはマラソン・セットとも呼ばれる6時間近くに及ぶロング・セットを展開することでも知られてますが、あなたがロング・セットを好む理由を教えてください。

MS:理由はふたつある。まずはロング・セットというスタイルがオールドスクールであるから。僕がDJをはじめた頃は、DJはみんなオールナイトでDJし、いろいろなスタイルの音楽をかけていた。僕はいろいろなスタイルの音楽をかけるのが好きだから、短いセットだと窮屈に感じてしまうんだ。たくさんのジャンルを短い時間の中でかけようとすると無理が生まれるだろ。1曲1曲をちょいちょい聴かせるというよりは、ひと晩のDJを通して長い物語のようにプレイしたいんだ。

もうひとつの理由は?

MS:早い時間に、ウォームアップみたいな感じでプレイするのも好きなんだ。夜の早い時間にメロウな曲をかけるのも好きだし、夜の遅い時間にクレイジーな曲をかけるのも好きさ。どっちもやろうとしたら、ずっとやるのがいちばんいい(笑)。それにロングセットをやると、クラブ・ミュージックだけをかけなくてもいい。ジャズやフォークのようなメロウな音楽をかけたかったら、夜のどこかの時点でその音楽がしっくりくるタイミングがある。僕はいままでずっとオールナイトでDJしてきた。だから僕にとってはそれが普通なことで、特別なこととは思っていない。自分が一番上手くDJできると感じられるのがロングセットなんだ。

通訳:DJをするときに最も大事にしていることは?

MS:よいレコードを正しい順番でかけること。それからクラウドをよく見ていること。

フローティング・ポインツと一緒にバック・トゥ・バックでプレイされているようですが、彼とはどのような交流があるのですか? 

MS:彼に会ったのは5、6年前。彼の音楽がとても気に入ったから、僕からメールしたんだ。彼はまだ若いけど、音楽に対する見方はとても成熟している。多くのジャンルに興味を持っていて、プロデューサー、作曲家としても素晴らしい。DJとしての姿勢も好きだ。彼は変わった音楽や古い音楽をプレイし、人をワクワクさせることができる。一緒にDJをするには最適な人だ。バック・トゥ・バックをするとき、もうひとりのDJがヒット・チューンばかりかけていると、DJ体験としては退屈なものになってしまう。が、彼の場合、かける音楽が実に幅広いから、一緒にやっていて面白いだ。とても刺激されるし、勉強になるよ。

2009年の話なのでだいぶ前ですが、あなたがBBCの『Essential Mix 2009』をやったときに、トーマス・バンガルターの“On Da Rocks”を入れていましたが、あなたの作るファンキーなグルーヴのヒントがあるような気がして、とても興味深かったです。Rouleに代表されるあの当時のフレンチ・ハウスは好きでしたか?

MS:ああ、好きなものもあったよ。ボブ・サンクラーやモーターベース、ダフトパンク、トーマス・バンガルター、エティエンヌ・ド・クレイシー、ペペ・ブラドックなどのフレンチ・ハウスのレコードは大好きだった。彼らはよい音楽を作った。なかでもトーマス・バンガルターの“オン・ダ・ロックス(On Da Rocks)”は実にユニークな曲だ。シンプルでキャッチーで、それに他のハウスよりも少しテンポがゆっくりだよね。何よりもみんなが聴いて楽しめる曲。僕からすると、ダフトパンクのどの作品よりも“オン・ダ・ロックス”のほうが優れていると思う。1999年にリリースされたときはあのレコードをかけたけど、いまでもかける。僕にとってはスペシャルでクラシックな曲だ。ディスコの要素が強いから、ハウスとミックスしても合うし、アフロビートのレコードやその他のさまざまな音楽とミックスできる。僕にとっては汎用性のある、本当にクラシックな1枚だよ。


紅茶はイギリスではとても大切なものだ。紅茶はイギリス人にとって身近で大切なものであるにも関わらず、多くのイギリス人は紅茶についてあまりよく知らない。だが、カップにティーバッグを入れて紅茶を飲む。それって、何か安心するんだよね。紅茶は気分をほっとさせてくれるし、よい気分にもさせてくれる。

今回の『フレンドリー・バクテリア』は、オリジナル・アルバムとしては2008年の『ニンジャ・ツナ』以来の作品になるわけですが、その間、主にどのような活動、生活をして過ごされていたのですか?

MS:DJギグをやったり、忙しく過ごしていた。それから3年前、娘が生れた。それもあっていろいろと忙しかった。スタジオで過ごす時間もたくさんあったけど、他のことで忙しいと、大きなプロジェクトを完成させるのに時間がかかってしまう。
 1年くらい前かな、〈ニンジャ・チューン〉に言われたんだ。「そろそろアルバムを完成させたらどうだい?」ってね。「オッケー」と即答したよ。〈ニンジャ・チューン〉は僕にいつもメロウに接してくれる。抱えているアーティストが多いからかもしれないけれど、僕に変なプレッシャーをかけてくることなんてなかった。だから、彼らが少しプレッシャーをかけてきたときは「はい、やります」と素直に返事をしたよ。誰かに指示されることは時にはよいことだ。それで僕はスタジオに入ってアルバムを完成させたというわけさ。

音楽を作るときのインスピレーションはどのようなものから?

MS:アイディアは、サンプル、ドラムループ、ベースライン、メロディをハミングした時、あるいは友だちとの会話から生まれることもある。そうしたひらめきをヒントにして、サウンドを作り、自分がワクワクしてきたら、だいたいいい曲ができあがるものだ。

あなたの曲名やアルバム名はいつもユニークものが多いですよね。今回のアルバム・タイトルである『フレンドリー・バクテリア』の由来について教えてください。

MS:僕は違うスタイルの音楽や違うサウンド、年代の違うサウンド同士を組み合わせるのが好きなんだ。その組み合わせによって、リスナーを笑顔にさせるという反応を起こすことができる。僕は音楽のこの効果をとても気に入っていてね。これは言葉でも可能なことで、変わった感じの言葉の組み合わせから、詳しい説明はなくても、想像力が働き、ユーモアが感じられ、笑ったりほほ笑んだりしてしまうものがある。僕は曲名でもこういうことをするのが好きなのさ。説明する必要もない、単なる言葉遊び。僕はサウンドで遊ぶのが好きなのと同じように、言葉で遊ぶのも好きなんだ。

本作には「フレンドリー・バクテリア」のようにゴリゴリのシンセ・ベースを使った曲から、最後の“フィール・フリー”のようなジャジーでメロウな曲まで、さまざまなタイプの楽曲が並んでいますが、今回の『フレンドリー・バクテリア』のサウンドにおいて、何かコンセプトめいたものはあったのでしょうか? 

MS:コンセプトというほどのものはとくにないけど、デニス・ジョーンズと一緒に作った曲がアルバム全体の土台になっていると思う。今回のアルバムには彼と作った曲が5曲も入っている。曲単位ではいろいろなタイプのものが収録されているけれど、僕とデニスで一緒に曲を作っていた時、ある特定のサウンドを想定して曲を書いていた。アルバムの他の曲は、そのサウンドに合うものを選んだり、そのサウンドに合うように作られた。もちろんヴァラエティ豊かなアルバムにしたいということも考えていたけど。DJをしているときやアルバムを作るとき、僕が大切にしているのは、たくさんのスタイルを取り入れると同時に、それらが一緒になったときにしっくりときて、一貫性が感じられるということだ。僕はDJしているときは、毎回それをしているから、アルバムを通して、多くのスタイルを網羅するのは、自分にとっては自然なことなんだ。普段からDJしているから、アルバムをまとめるの作業には慣れている。

本作にはザ・シネマティック・オーケストラの主要メンバーとして知られるフィル・フランスやカイディ・テイタムといった豪華なミュージシャンたちが参加しています。本作で彼らを必要とした理由を教えてください。

MS:僕が共演した人たちのほとんどは、仲の良い友人たちだ。みんなお互いに尊敬し合っている。僕は彼らの音楽がすごく好きだし、彼らは僕の音楽を気に入ってくれている。コラボレーションは、自分のサウンドを発展させるよい機会だと思う。自分とは違う考えを持つ他の人と一緒に作業するから、スタジオでも常に違ったことをトライしてみることになる。サンプルをあまり使わない場合は、ミュージシャンと一緒に仕事をするのがいちばんだね。ひとりですべての作業をしていると、ときに一歩下がって客観的に自分の音楽を見るのが難しくなる。他の人と仕事していると、自分の音楽を新しい視点から見ることができて楽しいね。

トランペット奏者のマシュー・ハッセル(Matthew Halsall)も素晴らしい演奏を披露していますね。

MS:彼は偉大なトランペット演奏者であり作曲家だ。彼のスピリチャル・ジャズのリリースは本当に素晴らしい。彼とも今後たくさんのコラボレーションをやる予定だ。マシュー・ハッセル、フィル・フランス、デニス・ジョーンズは、お互い面識もあり、マンチェスターのミュージシャン集団として一緒にプレイしている。すでに顔見知りの人たちと一緒に仕事をするのは素敵なことだよ。みんな各自でプロジェクトをやっていて、それが上手くいっているから、みんなが集まると、発想が自由になり、特別で変わったものを作ろうということになる。

このところ、IGカルチャーとバグズ・イン・ジ・アティック(Bugz in the Attic)のアレックスによるネームブランドサウンド(NameBrandSound)が〈ニンジャ・チューン〉から出たり、フローティング・ポインツのレーベル〈エグロ・レコーズ〉からはディーゴ・アンド・カイディ(Dego And Kaidi)が出したり、かつてブロークンビーツを盛り上げたヴェテラン勢たちの活躍が目立ちますが、このあたりの動きには注目してますか?

MS:もちろんだよ。ブロークンビーツというのは、ソウルやジャズ、ファンク、テクノ、ドラムンベースなど、本当にたくさんの音楽の影響を受けている音楽だ。僕は古い音楽のフレイヴァーを持った新しい音楽が大好きだ。いま名前の挙がった人たち、とくにディーゴなどは、これまでにいろいろな種類の音楽をやってきた。テクノもやったし、ハウスもやった、ドラム&ベースもやったし、ヒップホップやソウルのリリースもあった。ブロークンビーツとは彼が作ってきたいろいろなスタイルの音楽の総称のようなものだ。ディーゴ・アンド・カイディは去年、素晴らしい12インチをリリースしたし、今後はセオ・パリッシュと曲を作り〈サウンド・シグネイチャー〉からリリースする予定になっている。それもきっと素晴らしいものになるはずだ。ディーゴ・アンド・カイディは〈エグロ・レコーズ〉からも作品を発表していて、それも最高だった。カイディはGフォースと新しいレーベルを立ち上げるみたいだしね。

そのあたりのサウンドはこれからまた面白くなっていきそうですね。

MS:みんな、長年音楽を作ってきた才能ある人たちだ。メロディやリズムを聴きわけるよい耳の持ち主だし、音楽の素晴らしさを知っている連中ばかりだ。だから彼らの動きは僕にとってもとてもエキサイティングなことだよ。ブロークンビーツのシーンがなくなってしまったのは残念だったけどね。ブロークンビーツシーンは、バグス・イン・ジ・アティック(Bugz in the Attic)が〈ヴァージン〉からアルバムをリリースしたときに途絶えてしまったと思っている。それからブロークンビーツの主なディストリビュータであったゴヤが閉鎖してしまって、彼らのような人たちがレコードをリリースするのが難しくなってしまった。だから、ヴェテラン勢が戻ってきて、音楽をたくさん作ってくれるのは素晴らしいことだと思うよ。

“He Don't”でロバート・オウエンズを起用した理由について教えてください。

MS:ロバートは素晴らしい声の持ち主だ。彼の声を初めて聴いたのは1986年、僕が14歳のときだった。「ブリング・ダウン・ザ・ウォールズ(Bring Down the Walls)」など、当時、彼がラリー・ハードと一緒に音楽を作っていた頃の作品さ。彼のシンプルでエモーショナルなヴォーカルのスタイルが大好きなんだ。彼は僕にとっても伝説的存在だよ。

一緒にやってみてどうでしたか?

MS:“He Don't”のトラックを作ったとき、僕の頭のなかではもうすでにロバートが歌っていた(笑)。この曲には彼しかいないって感じだった。僕はすぐに彼に連絡を取り、彼自身も“He Don't”を聴いて、自分が歌っている姿を想像できるかどうかってきいたんだ。その後、彼に曲を送ったら、数時間後に返信があって「イエス」と言ってくれた。「自分でも歌っている姿が想像できる」と。それで一緒にスタジオに入ることになった。すべてがスピーディに進んだ。今までロバートには会ったことがなかったんだ。彼のレコードはたくさん持っているけどね。ラリー・ハードと一緒に作ったものやコールドカットとの作品やフォーテックとの作品など。彼は本当に才能豊かなインスピレーションを与えてくれる最高のヴォーカリストだ。

いまさらですが、あなたが描くあのかわいいキャラクターはどのようにして生まれたのですか?

MS:僕が若いころ、15歳だったかな、いつも落書きをしてた。子供の頃から絵を描くのが好きだった。その絵がじょじょにシンプルさを増していった。そして、今の形、つまり目と口と体と手足が2本ずつ、になった。子供の落書きがそのまま変わらず今も残っているというわけさ。

あなたは自ら紅茶の販売を手がけるくらい、紅茶に思い入れがあるかと思います。あなたにとって紅茶とはどんなものなのですか?

MS:紅茶はイギリスではとても大切なものだ。自分で作った紅茶の会社はもう手放してしまったけど、いまはマンチェスターでカフェを経営しているよ。「Tea Cup」という名前のカフェで、おいしい紅茶を出している(笑)。紅茶はイギリス人にとって身近で大切なものであるにも関わらず、多くのイギリス人は紅茶についてあまりよく知らない。日本にもお茶のカルチャーがあると思うけど、日本ほどにはイギリス人の飲み方は洗練されていない。だが(日本とは違う種類の情熱だけれども)イギリス人もお茶が好きだ。僕はそういうイギリス人の感じも嫌いじゃなくてね。カップにティーバッグを入れて紅茶を飲む。それって、何か安心するんだよね。紅茶は気分をほっとさせてくれるし、よい気分にもさせてくれる。友だちと一緒に紅茶を飲むときも、仕事中にひとりで飲むときも、紅茶は日常においてスペシャルな時間を提供してくれる。多くのイギリス人がそんな感じで紅茶を愛していると思うよ。

最後になりますが、次のアルバムはいつ頃の予定でしょうか?

MS:2020年までにはリリースしたいと思っているよ。今回、久しぶりにアルバムを作り、、そのための作業が自分にとってどんなに楽しいことなのか改めて感じることができた。すでにデニス・ジョーンズとも、このアルバムのツアーが終わったら、すぐにまたスタジオに入り、新しい曲を一緒に作りはじめようという話をしている。だから、まあ、今回のリリースにかかった時間によりも早く、次のアルバムは出せると思うな。このアルバムの作業は本当に楽しかった。とくに他の人とのコラボレーションはインスピレーションも得られ、刺激的な仕事だった。今後もコラボレーションはたくさんやっていくと思うよ。楽しみに待っていてくれ。

マージナル=ジャカルタ・パンク - ele-king

 インドネシアに熱いパンク・シーンがあるという話はけっこう前から小耳に挟んでいたし、日本からもFuck on the BeachやCheerio、Jabaraといったアンダーグラウンドなハードコア・バンドがインドネシア・ツアーを行って現地バンドと交流しているのも知っていた(FxOxBは東南アジア・ツアーで共演したジャカルタのバンドRelationshitとスプリットCDもリリースしている)。
 そんなジャカルタのパンク・シーンに興味を持ち、取材を続けている日本人女性がいる、ということを都築響一さんがメルマガの記事にしていた。
https://www.roadsiders.com/backnumbers/article.php?a_id=294
https://www.roadsiders.com/backnumbers/article.php?a_id=297

 メルマガでの、フォトジャーナリストの中西あゆみさんへのインタヴューでは、彼女がどのようにジャカルタのパンクに興味を持ち、紆余曲折を経てシーンの中でもある種特別なポジションにあるバンド、マージナルと出会い、彼らに魅せられて取材を続けていったのかが紹介された。最終的にはマージナルのドキュメンタリー映画として完成させることが目標となっているプロジェクトだが、資金調達を兼ねた経過報告として、ライヴハウスなどでの小規模な上映会が行われたのが昨年秋のこと。その際、ぼくは中野のライヴハウス〈ムーンステップ〉で、Cheerioなどいくつかの日本のバンドのライヴと併せた形で行われた上映会に足を運んだ(そのときのことはブログにも書きました。ここで一気に心をつかまれた。

 いわば高度経済成長期にあるインドネシア、とくにジャカルタでは大規模な都市開発が進む一方で、少なからずそれに取り残された人々が存在する。マージナルは学校に行くこともままならないような貧しい子どもたちにウクレレを提供して演奏を教え、自分自身で日銭を稼ぐ術を与えている。バンドの音楽性は代表曲“レンチョン・マレンチョン”をはじめ、人懐っこくも力強いシンガロングをフィーチャーしたフォーク・パンクともいうべきものだが、子どもでも演奏できることが想定されているのだと思うとそれもまた納得できる。



 さらには自分たちが住む住居をコミュニティ〈タリンバビ〉(「豚の牙」の意)として近隣の子どもたちに場所を提供しているのである。バンドのマーチャンダイズ、そしてバンド・メンバーたちによる版画やタトゥーの収入などで家賃を捻出し、みんなで食事をしている姿には、CRASS以来のアナーコパンクの理想が地に足をつけて息づいていることがまざまざと感じられる。

 さて、じつはぼくは1月にインドネシア旅行に行ったので、その際に〈タリンバビ〉を訪れている。数日前からメールや電話でコンタクトを試みていたのだがぜんぜん連絡が取れずにおかしいなと思っていたのだけれど、住所はわかってるからとりあえず行ってみることにした。タクシーの運転手にその住所を見せたところ、「そのあたりは洪水の被害に遭っているから行けないかもしれないよ」と。たしかにちょうどその時期は雨季にあたり、何度か土砂降りにあったりもしていたのだが、それで連絡がつかなかったのか……。でもせっかく来たので「なんなら泳いでいくからとにかく行けるとこまで行ってくれ」とタクシーを走らせて一路郊外へ。1時間ほども走ったところで、「この先だよ」と言って、小さな路地を指差される。見るとたしかに、一歩路地に入ると膝まで水に浸かっている。まあ仕方ない、ここまで来たら行くしかないとザブザブと入っていく。

 道の両脇には民家が並んでおり、ぶらぶらしている人がいるので、前方を指差して「タリンバビ?」と聞いたりしていると、ちょっと前を歩いている女の子たちが「あなたたちもタリンバビに行くの? わたしたちも行くからいっしょいっしょに行こう」と言ってくれた。マレーシアから来たという。
 数十メートルも歩いていくと、小さな一軒家にたどり着く。「ハローハロー」とか言いながら入っていくと、マージナルのヴォーカリスト、マイクや子どもたちが笑顔で迎えてくれた。

 マイクは昨年の上映会の際に来日しており、終了後にぼくもちょっと挨拶もしたのだけど、幸いこちらのことを覚えていてくれて、そこから1時間ほどいろんな話をしてくれた。
マージナルはそもそもスハルト政権時代に、政府に抗議する学生運動を通して生まれたこと、近所の人たちとはうまくやっていて政府から弾圧されるようなことがあってもみんなが守ってくれること、近所の子どもたちからすればタリンバビは第二の我が家みたいなものだということ。洪水の被害は心配していたほどではないようで、雨季にはよくあることなので洪水が来れば近所同士で声を掛け合い、手助けしあって荷物を二階に運んでいること等々。


 そうはいっても大変だろうからせめて何かの足しにでもと思い、Tシャツを買うと申し出たのだけれど、むしろこんな状況でおもてなしもできなかったからと言ってTシャツやらパッチやら次々と「いいから持って帰れ」と言ってこちらに渡してくるので、このままいるとどんどん物をもらうことになってしまいそうなので、再会を誓って帰ることに。
 映画のとおりの魅力的な人物だった。短い滞在だったがいっしょに行った妻(ロックとかパンクとかはぜんぜん興味がないというかむしろ嫌いなのだが)も、マイクの暖かい人柄に、すっかりファンになったのだった。

 そして、そのマイクとマージナルがやってくる。すでにアップリンクにてドキュメンタリー映画(「2014年春版」としてアップデートされている)の上映ははじまっており、マイクおよびバンドのもうひとりの顔であるボブは上映にあわせて一足先に来日してアコースティック・ライヴや版画のワークショップを行っている。「パンク」というものに多少なりとも思い入れを持っているすべての人に見てほしいと思う。



■マージナル=ジャカルタ・パンク 2014年春版
Jakarta, Where PUNK Lives ? MARJINAL


© AYUMI NAKANISHI

渋谷アップリンク・ファクトリー
料金一律¥1,500(別途ドリンク代)
https://www.uplink.co.jp/movie/2014/25940

・5/11(日)アコースティックライヴ&版画ワークショップ
(ゲスト:MARJINAL Mike&Bob)
※5/11(日)版画ワークショップは開場時間から始めさせていただきます。
・5/12(月)アコースティックライヴ
(ゲスト:MARJINAL Mike&Bob)
・6/11(水)トークショー ゲスト近日発表
・6/12(木)トークショー ゲスト近日発表
・6/13(金)トークショー ゲスト:都築響一、中西あゆみ

さらにはほかのメンバーが合流し、バンドとしてのツアーも続く。タートル・アイランド主催の「橋の下音楽祭2014」に出演するほか、各地のすばらしいアンダーグラウンド・ハードコア・バンドたちとの共演や映画上映、ワークショップ等が行われる。

5/16 (Fri): 中野MOONSTEP(東京)
517&18 (Sat)(Sun): 豊田橋の下音楽祭. "SOUL BEAT ASIA 2014," (愛知)
5/19 (Mon): 四日市VOTRTEX(三重)
5/21 (Wed): CAFE BORDER(広島)
5/24 (Sat): PLAYER'S CAFE(沖縄)
5/25 (Sun): 新宿ANTIKNOCK(東京)
5/28 (Wed): 横浜CLUB LIZARD(神奈川)

DBS presents ZINC x LOEFAH x GOTH-TRAD - ele-king

 ドラム&ベース・セッション、通称DBS、5月16日の出演者は、ジンク、ローファー、ゴス・トラッドという大物3人。
 90年代なかばに〈ガンジャ〉レーベルを通して、ジャングルのシーンから登場して以来、スクリームのリミックスをヒットさせたり、クラックハウスを提唱したりと、いまだUKのダンス・ミュージックを更新し続ける超ベテランのジンク。
 マーラたちと並んで、オリジナル・ダブステップ世代を代表するひとり、ローファー名義での数々の名作をはじめ、人気レーベル〈Swamp 81〉の首謀者として知られるローファー。そして「Back To Chill」な男、ゴスさんことゴス・トラッド。
 ジンクは、Rinse FMの相棒MCティッパーを引き連れてのプレイなので、UKベース・ミュージックの興奮ががつんとダイレクトに伝わるでしょう。UKの最高のダンス・ミュージックを楽しめるひと晩!

2014.05.16 (FRI) @ UNIT

feat.
ZINC & MC TIPPA
LOEFAH
GOTH-TRAD

with:
DJ STITCH

saloon:
JUNGLE ROCK
DJ MASSIVE
DJ MIYU
PRETTYBWOY
ZUKAROHI

open/start 23:30
adv. 3,500yen door 4,000yen

info. 03.5459.8630 UNIT
https://www.dbs-tokyo.com

Ticket outlets:NOW ON SALE!
PIA (0570-02-9999/P-code:230-527)、 LAWSON (L-code:76961)
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia/https://www.clubberia.com/store/
渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、
TECHNIQUE (5458-4143)、GANBAN (3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)、Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS (090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、
disk union CLUB MUSIC SHOP(5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、
Dub Store Record Mart(3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)、disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

UNIT
Za HOUSE BLD. 1-34-17 EBISU-NISHI, SHIBUYA-KU, TOKYO
tel.03-5459-8630
www.unit-tokyo.com


DJ ZINC (Rinse,UK)
ハウス、ブレイクビーツの影響を受け、89年からDJ活動を開始。海賊放送やレイヴで活躍、ハードコア~ジャングル/ドラム&ベースの制作をはじめる。95年にGanjaから"Super Sharp Shooter"の大ヒットを放ち、96年にはDJ HYPE、PASCALと共にレーベル、True Playazを設立、ファンキービーツとバウンシーかつディープなベースラインで独自のスタイルを築く。00年の“138 Trek"は自己のレーベル、Bingo Beatsに発展、ブレイクステップの新領域を開き、2ステップ~グライムやブレイクス・シーンに多大な影響を与える。03年にはPolydorから1st.アルバム『 FASTER』を発表。09年以降、“Crack House”と銘打ったZINC自身が提唱する新型サウンドを布教。“Crack House”はBasslineサウンドを主体として、エレクトロ、ダブステップ、フィジェットハウス、ブレイクス、ジャングル等をミクスチャーした最先鋭のエレクトロ・ダンスミュージック。MS DYNAMITEをフィーチャーした10年の"Wile Out"はアンセムとなる。近年はA-TRAKとの共作をはじめ、自身のSoundcloudで新曲を続々とフリー・ダウンロードで挙げ、多大な支持を得ている。毎週金曜にRinse FMでオンエア。
https://rinse.fm/
https://www.facebook.com/djzinc
https://twitter.com/djzinc
https://soundcloud.com/zinc

LOEFAH (Swamp 81, UK)
ディープ&ドープな最重量ベース・サウンドでダブステップの真髄を表現する"King of Wobble Bass"、LOEFAH。90年代ロンドンのレイヴ・シーンでハードコア~ジャングル/ドラム&ベースを体感し、4HEROのReinforced、GOLDIEのMetalheadzからの作品群にインスパイアされる。2000年頃には古いダブ、レアグルーヴ、ソウル、ヒップホップを再発見し、音楽的基礎を広げる。やがて友人のDIGITAL MYSTIKZのMALA&COKIと音を作り始め、138bpmでダビーなトラックを作る等、様々な実験を繰り返す。04年にはDIGITAL MYSTIKZとレーベル、DMZを旗揚げし、"Dubsession"、"Twisup"を発表。またBig Appleから"Jungle Infiltrator"、Tempaから"Truly Dread"、Rephlexからのコンピ『GRIME 2』では3曲フィーチャーされる等、彼の存在がダブステップと共に脚光を浴びる。その後もDMZを始め、Tectonic等からフロアーフィラーを連発する。09年からは自己のレーベル、Swamp 81を設立、ポスト・ダブステップの潮流を開き、エレクトロ、ハウス、テクノ、ガラージ、ゲットー等を奔放にmix。BODDIKA、JOY ORBISON、ZED BIASらを擁し、UKベース・シーンの要塞となっている。
https://www.swamp81.com/
https://twitter.com/swamp81
https://soundcloud.com/swamp81

GOTH-TRAD (Deep Medi Musik, BTC,JPN)
ミキシングを自在に操り、様々なアプローチで ダンスミュージックを生み出すサウンド・オ リジネイター。03年に1st.アルバム『GOTH-TRAD』を発表。国内、ヨーロッパを中心に海外ツアーを始める。05年には 2nd.アルバム『THE INVERTED PERSPECTIVE』をリリース。また同年"Mad Rave"と称した新たなダンスミュージックへのアプローチを打ち出し、3rd.アルバム『MAD RAVER'S DANCE FLOOR』を発表。06年には自身のパーティー「Back To Chill」を開始する。『MAD RAVER'S~』収録曲"Back To Chill"が本場ロンドンの DUBSTEP シーンで話題となり、07年にUKのレーベル、SKUD BEATから『Back To Chill EP』、MALAが主宰するDEEP MEDi MUSIKから"Cut End/Flags"をリリース。12年2月、DEEP MEDiから待望のニューアルバム『NEW EPOCH』を発表、斬新かつルーツに根差した音楽性に世界が驚愕し、精力的なツアーで各地を席巻している。
https://www.gothtrad.com/
https://www.facebook.com/gothtrad

Damon Albarn - ele-king

 このCDのジャケットを見て、「サッド・キアヌ」(邦訳:ぼっちキアヌ)を連想したのはわたしだけだろうか。ここでわたしが言及しているのは、元祖の、フィギュアにもなったあの有名なキアヌ・リーヴスのぼっち姿である。
 さらに、背景の色がまたふるっている。英国の空の色は、一般に「灰色」と表現されるし、わたしも頻繁にその表現を使うが、実際には違う。「濡れた脱脂綿の色」と表現したのは詩人でも作家でもなくダンプ運転手のうちの連れ合いだが、たしかに英国の空はいつも白々としている。
 しかし、なんでデーモンが英国の空の片隅でぼっちキアヌになってんだろう。
 ということが気になり、どうしても気になってつい買ってしまった。

                ******

 ブラー、ゴリラズ、The Good、the Bad & the Queen、Rocket Juice & the Moonなどでの活動の加え、2本の映画音楽と2作のオペラ音楽を手がけ、アフリカで現地のミュージシャンたちとセッションし、現代音楽の作曲家とも積極的にコラボして……という彼のキャリアを見ていると、プロリフィックという言葉はこの人のためにあるようだ。昔はオアシスVSブラーなんて構図がタブロイドを騒がせた時代もあったのだが、ショービズ界のご意見番になったノエル・ギャラガーとは対照的に、デーモンはひたすら音楽を探究して来た印象がある。様々な分野の音楽を交合させるデーモンはハイブリッド・フェチでもあるが、それもそのはず、ブリットポップと“パークライフ”のデーモンは、実はこのパンクばばあと同世代だ。ポストパンク期に思春期を送った人間がハイブリッドに拘泥するのはよくわかる。

 にわかには信じがたいが、本作は彼が本人名義で出す初めてのソロ・アルバムだという。いったいどんな斬新な音が聞けることやら。と思っていると、ジャケットのヴィジュアル同様、サウンドも余白が多かった。花火が見れるかと思ってたら、アロマキャンドルが窓辺に立っていた。という感じ。メランコリックでミニマルでスリーピーだが、この眠気は夜の闇の中で襲われる睡魔ではない。白い朝の空の下でまどろんでいるような音だ。The XXがブライアン・イーノの『ラヴリー・ボーンズ』のサウンドトラックをアレンジして演奏していたら、「いや、それ僕らのほうがうまくやれるかも」とAlt-J(https://www.ele-king.net/review/album/002624/)が出て来たような感じ。と言えばいいのか。コンテンポラリーといえばコンテンポラリーだが、意図的に力を抜いたムードで先鋭的ではない。

 デーモン本人はこのアルバムの音について、「空っぽのクラブで聞こえる音」と語っている。自伝的な作品だと発言していることを鑑みれば、それは開店前のクラブのことなんだろうか。「ソロというのは、あまりに孤独」と本人は言っているが、しかしこのクラブは完全に空っぽというわけではない。Bat For Lashesのナターシャ・カーンやブライアン・イーノも彼と一緒に踊っている。そこら辺も、ハイブリッド・フェチであると同時にコラボ・フェチでもあるデーモンらしいところだ。彼はいろんな意味でソロにはなり切れないアーティストなんだろう。

              ******

 「ぼっちキアヌ」は、ハリウッド俳優が浮浪者風の気の抜けたファッションで公園に座っていたことで話題になったが、「ぼっちデーモン」はいかにもミドルクラスの中年らしい恰好をして座っている。先日、ブライトンで毎年行われているチルドレンズ・パレードという催しを見ていると、子供たちと一緒に歩いていたお父さんたちはみんなデーモンみたいな恰好をしていた(こういう行事に参加するイクメンは、だいたいミドルクラスの人だ)。アルバム中、1曲だけ全然曲調が違う“Mr Tembo”という曲があり、それは娘のために書いた歌だそうで、こういうエコほのぼのとした象さんの歌を子供のために書くというのもいかにもミドルクラスの洒落たダディがやりそうなことだ。
 そういう私生活の部分も垣間見せるので、「これまででもっとも素のデーモンが出ている」とか「もっともパーソナルでしみじみとしたアルバム」とかいうことが、だいたいこのアルバムの定評のようだ。が、わたしは全然そうは思わない。
 
 これはれっきとしたコンセプト・アルバムだろう。
 そうとしか思えないのは、わたしがこのアルバムのジャケットを初めて見た時に、サッド・キアヌのパロディーだと思って大笑いしたせいだが、アルバムの冒頭が、コメディアンのロード・バックリーのギャグのサンプリングだと知ると、いよいよこのアルバムは「ソロ」という分野のパロディ・アルバムなんじゃないかと思えて来る。
 というのも、ポストパンクで育った世代は、物寂しくてメロウな自伝的アルバムを作って、うなだれている自分の写真をジャケットに使うなどということは絶対にできない体質だからだ。
 ぼっち。というジャンルとその一般的な在り様を、ぼっち。を演じてみながら考察したアルバム。とでも言えばいいだろうか。
 いずれにせよ、そういうことを感じさせる自分自身への距離の取り方がデーモン・アルバーンという人の持ち味であり、聡明さである。
 この人は次は全然違うことをやるに違いない。

第6回:女の子が好きな女の子 - ele-king


V.A.
アナと雪の女王 オリジナル・サウンドトラック

Tower HMV Amazon

 ここ1ヶ月半ほど、「ありの~ままの~すがた見せるのよぉ~」と我が家の6歳児がかしましい。もちろん彼女が歌うのは、大ヒット公開中のディズニー・プリンセス映画『アナと雪の女王』の主題歌“レット・イット・ゴー”日本語版です。アンタそれ以上ありのままになってどうするんだ……と突っ込んだところで、「何も怖くない。風よ吹け(I don't care. what they're going to say.Let the storm rage on.)」と、こちらがフローズンされそうな勢い。「友だちの話聞いてたらもう一度見に行きたくなった!」と、彼女の『アナ雪』愛は深まるばかりです。彼女の通う小学校ではサビのフレーズをどれだけ大声で歌うか、もしくはヘン声が歌うかを競うのが女の子の間で大流行。ブランコに乗りながら「アロハ~バイバ~イ」とオラフ(雪だるま)のモノマネをしたり(そんなセリフありましたっけ? 母はうろ覚え……)、オラフのギャグ「てかハンスって誰~?」を繰り返したりするのも流行っているそう。

 ジブリ、ディズニー、ピクサー……これまで数々の子ども向け映画を我が子といっしょに観てきましたが、「クラス中の女子が一つの映画の話題で持ちきり」というほどに子ども界を席巻した映画はなかったように思います。日経ビジネスONLINEによれば、すでにアニメ映画として『トイ・ストーリー3』を抜く全世界歴代1位の興行収入を記録し、実写映画を含むランキングでも歴代6位なのだとか。我が子たちのフィーバーぶりに、この記録的な大ヒットをしみじみ実感しています。
 大ヒットの理由については識者がすでにさまざまな論考を重ねていることでしょうが、少なくとも女児にウケた理由は識者ではない私にもわかります。まず、〈M-1グランプリ〉の決勝大会なみにギャグの手数が多いこと。オラフの体を張ったギャグの数々のおかげで、映画館では子どもたちの笑い声がひっきりなしに鳴り響いていました(女の子は小さい頃からお笑いが大好き!)。そして何より重要なのが、女の子同士の連帯を描いていることでしょう。

 4~7歳のプリンセス期にある女の子は、とにかく女の子が大好き。これは女児を持つ親の多くが実感することではないでしょうか。女の子同士で「○○ちゃんだいすきだよ」「LOVE」などとカラフルなシールやハートマークをちりばめた手紙を毎日のようにやりとりし、遊ぶのももっぱら女の子。テレビを観ていても、少年アイドルやイケメン俳優より少女アイドルやヒロイン女優に夢中です。彼女たちがピンクやドレス、ティアラ、妖精といったキラキラデコデコひらひらしたものを好むのは、それが「女の子」を象徴しているからなのです。
 女の子のプリンセス願望というと、王子様待ちの他力本願、受動的な生き方の象徴としてとかくやり玉に挙げられがちですが、幼い女の子は王子様など眼中にありません。21世紀以降着実に売り上げを伸ばし、現在では2万6千点以上のグッズを抱える「ディズニープリンセス」ブランドも、プリンセス映画から王子様を排除してプリンセスだけで世界観を固めたからこそ、女児のハートをつかんだのです。
 日本でも現代女児の心をとらえてはなさないTVアニメは、『プリキュア』シリーズに『アイカツ!』など、女の子同士の連帯の描写に重きを置いたものばかり。白雪姫とシンデレラはグッズの中で並んでいても、手に手を取って戦ったりはしませんでしたから、プリキュアのほうが進んでいるともいえます。見方を変えれば、『アナと雪の女王』の女児人気は、「ディズニープリンセス」がプリキュア要素を取り入れた結果とも言えるのではないでしょうか。


『アナと雪の女王』
監督:ジェニファー・リー、クリス・バック
製作年 / 国:2013年 / アメリカ合衆国
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話『雪の女王』を原案とした長編アニメ映画。王家の姉妹が試練を乗り越え、凍った国を救い、自身らの愛を取り戻す顛末をスペクタクルに描くディズニー最新作。日本国内でも大ヒットを記録し、公開7週めにして累計動員970万人、興行収入121億円を突破して社会現象化しつつある。映画本体に加えてサントラ盤も好調にセールスを伸ばし、とくにMay J.が歌う主題歌“レット・イット・ゴー”は、国民的なヒット・ナンバーとして連日街頭やテレビなどを華やがせている。


 なぜ女児はこれほどまでに「女の子」の世界に執着するのか。一説によれば、アイデンティティを確立する上で必要なプロセスだからだと言われています。自分が何者かであるかを意識せずに生きていくことは難しい。たいていの大人にとって性別は自明ですし、職業や周囲に認知された人格、あるいは「ボン・ジョヴィのモノマネをさせたら三国一」などの特殊技能でアイデンティティを保つこともできます。しかし通常の子どもは、そこまで確立されたアイデンティティを持ち合わせていませんし、生物学的性差への理解もあやふやです。そこで「性別を象徴するすてきな何か」に自らを同化させ、同じ性別を有する者同士で愛情を育むことで、アイデンティティ確立への第一歩を踏み出すのでしょう。男児がスーパーヒーローに自己同一化するのも同じことです(もちろん男女が逆転する場合もあるでしょう)。

 ところで、女児が同性を好むのが自然な発達過程なのだとしたら、そこを当て込んだ女児向けの女の子連帯モノが昔からあってもよさそうなものです。しかし私の子ども時代の女児アニメといえば『キャンディ・キャンディ』『小公女セーラ』に代表されるように、けなげで無垢なヒロインが意地悪な同性にいじめられても耐え、お金持ちの男性に救われるというシンデレラ・ストーリーが王道でした(いじめ描写が苦手な私は女児アニメを避け、『機動戦士ガンダム』に入れ込んだものです)。富や権力が男性に握られている世界では、結婚で富を得るにしても仕事で成功するにしても、権力のある男性にすくい上げてもらうしかありません。つまりかつての女の子にとってのサクセスとは、自ら目標を立て努力し、他人と協力しながら何かを成し遂げることではなく、自分一人にスポットが当たること。そして男性に愛されるには、自意識や自我を隠し、無垢やけなげを装わなくてはいけない。女の自意識や自我は恥ずべきものであると教え込まれた女性たちは、他の同性の自意識や自我の攻撃に走ることもしばしばです。幼い頃に刷り込まれたこうした価値観は、女性たちの生きづらさの一因になっているようにも感じられます。

Be the good girl you always have to be  良い子でいなさい、いつもそうしてきたように
Conceal, don't feel,  隠しなさい、感情を抑えて
don't let them know  誰にも知られてはいけない

 “レット・イット・ゴー”の歌詞の原文を読んだとき、真っ先に思い出したのは、フェイスブックの女性COOによって書かれた全米ベストセラー『リーン・イン』(シェリル・サンドバーグ)でした。同書がクローズアップしたのは、上昇志向や能力、自己主張を隠し、控えめにふるまうのが愛される「良い子」であると刷り込まれているばかりに、女性たちがチャンスを逃がしてしまうという問題です。上記の歌詞は氷を操る能力を隠すように言い聞かされて育った姉・エルサの孤独を描写するものですが、女性全般が感じがちな抑圧にも通じるのではないでしょうか。同書で紹介されている「ハイディ・ハワード実験」は、こうした抑圧の源となるバイアスを明らかにしています。実験内容は、実在する野心的な女性起業家が成功した過程を、ある学生グループに対しては男性名「ハワード」で、もう一つの学生グループには女性名「ハイディ」で、それぞれ読み上げるというもの。すると性別以外の情報はそっくり同じだったにも関わらず、ハワードは好ましい同僚と見なされ、ハイディは自己主張が激しく自分勝手で一緒に働きたくない人物と見なされたのです。単純に言ってしまえば、男性の場合は成功と好感度が正比例し、女性の場合はその逆ということなのでしょう。


『リーン・イン 女性、仕事、リーダーへの意欲』(日本経済新聞出版)
シェリル・サンドバーグ著、村井章子訳
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 著者のシェリル・サンドバーグ自身も、フェイスブックに転職した際、ライフルを構えたコラージュ写真がネットに掲載されるなど激しいバッシングにさらされたといいます(3章「できる女は嫌われる」)。「そして結局、いちばんいいのは無視することだとわかった。無視する。そして自分の仕事をするしかないのだ、と」。まさに「I don't care what they're going to say.Let the storm rage on.(もう皆に何を言われようとも気にしない。嵐よ吹き荒れるがいい)」という“レット・イット・ゴー”の歌詞のとおりです。
 とはいえ、著者は「みんなに嫌われても全然オッケー!」とは言いません。「本音を言えば、チームの和を乱す女だとみなされるのではないか。文句ばかり言ういやな女だと思われるのではないか」とおびえ、意見を言うテーブルにつこうとしない女性たちに、本音でありながら怒りを招かない言い方はスキルとして習得できるとアドヴァイスしています(6章「本音のコミュニケーション」)。また、女性の能力を認めてくれる有力者が目をかけたくなるような実力を身につけ、信頼関係を築き、味方につけなさい、とも(5章「メンターになってくれませんか?」)。『アナと雪の女王』について、「エルサほどの能力があれば世界征服をすればよかったじゃないか。あの結末は日和ってる」「国民を楽しませるだけでは偉大な力の無駄遣いだ」という(主に男性の)感想をちらほら見かけます。たしかにエルサが男性であれば、「世界征服かっけー!」と力に憧れる男性たちが貢ぎ物を持ち寄り、その権力を目当てに女性たちが群がって、強者である自分に満足しながらつつがなく暮らしてゆくことができたかもしれません。しかし、エルサはあのままでは国民とともに飢え死にするほかなかったでしょう。強者ゆえの孤独は男性にもあるかもしれませんが、女性のそれは死に直結しかねません。エルサの物語は、能力を隠しきれなかったことで孤独に陥りながらも、わかってくれる者と信頼関係を築き、その能力を隠すのではなく他者の利になるようにコントロールすることで居場所を獲得したシェリルの人生に似ています。女性が健全なアイデンティティを育むには、まずは抑圧をはねのけて自我のありようを肯定し、その上で信頼できる他者に受け入れられる術を探るという2段階のプロセスをたどる必要があるのです。そう考えれば、プリンセス映画でありながら女児モノの枠を超えて大人の女性を虜にし、世界的に大ヒットした理由も想像できます。
 もちろん、一般女性はエルサやシェリルのような特別な能力を有していないかもしれません。しかし「権利を主張したり賢しらにふるまったりしたら“ブス”“フェミ”として社会から排除するぞ。そうすれば生きていけないぞ」という恐怖にコントロールされ、理不尽をニコニコやり過ごしてきた女性たちも、SNSの発達で自己表現したり、同性と連帯する楽しさを知りつつあります。劇場で声を揃えて「レリゴ~」と歌う女性たちは、ひととき小さな女の子になって「女の子大好き! 自分大好き!」という自己肯定感を育み直すことで、嵐吹き荒れる社会に立ち向かう活力を得ているのかもしれません。

interview with Lee Bannon - ele-king

 リー・バノンは1987年、カリフォルニア州のサクラメントに生まれた。本名はフレッド・ウィーズリー。リー・バノン名義では、これまでに2枚のアルバムと4枚のシングルやEPを発表している。チルウェイヴを追っていた人たちは彼がファースト・パーソン・シューター名義で発表した『モービリティ・フォー・ゴッズ』を耳にしていたかもしれない。前作の〈プラグ・リサーチ〉から発表された『ファンタスティック・プラスティック』は自由度が高いヒップホップ作品だった。そして、今作『オルタネイト・エンディングス』で彼が挑戦したのは、なんとジャングルである。

 ヒップホップを軸にしつつ、チルウェイヴからジャングルまでを往復する──彼のようにさまざまなスタイルを持ったプロデューサーには共通する部分が多い気がする。たとえば、彼らとダンス・ミュージックとの邂逅は多くの場合、ベッドルームで起こった。しかも大きなスピーカーとウーファーがあるわけではなく、ヘッドホンを通して一対一で音と向き合う場合が多い。「クラブでこの曲がかかると盛り上がる」とか、「あのジャンルが流れるあのパーティへ行こう」という前提なしに彼らは「音」を楽しんでいる。そこにジャンルなどは関係ない。素晴らしい作品を聴いていると、音楽を聴くだけでは足りなくなり、自分で作った曲を手にクラブへ行くようになる。リー・バノンの作品を聴いていて、そんな人物像を彼に被せていた(今回話を聴いてみて、実際にそうだった)。


Lee Bannon
Alternate/Endings

Ninja Tune/ビート

Tower HMV iTunes

 さて、今回の作品でジャングルがひとつのテーマになっているものの、前作で実験的なヒップホップをやった男が、直球のジャングルを作るわけがない。さまざまな声や音がサンプリングされ、細切れにされ、それがジャングルの高速リズムと絡み合ったかと思えば、いきなりスローダウンして幻想的で荒廃したイメージが広がるトラックもある。映画好きなバノンにとって、サウンドトラックは音ネタの宝庫のはずだ。だが、今回彼はスタジオでマーズ・ヴォルタのベーシストのホアン・アルデッテという強い味方を発見し、自分で楽器を演奏することによってサンプリングに縛られない音の構築にも足を踏み入れた。本作のタイトルは『オルタネイト/エンディングス』(選択可能な結末という意味)である。現在、映画やゲーム(彼の別名儀でもある「ファースト・パーソン・シューター」はまさしくゲームの一ジャンルを意味するものでもある。)の結末を観客が選べたりするように、バノンはそのカラフルな引出しの数々によって自分でアルバムの結末を選べるようにまでなった。

 今回のインタヴューは4月19日の土曜日、ドラムンベース・セッションの会場で行われた。カラフルなスニーカーに白いティー・シャツを着たリー・バノンはニコニコと質問に答えてくれた。「次はデンバーとトロントへ行くんだ。DJラシャドも一緒だよ!」と楽しそうに彼は言った。フェイスブックなどで近況をチェックしたところ、DJラシャドと一緒に写真に写るバノンを確認することができた。インタヴューでテックライフやラシャドとは友だちだと答えており、「今度はフットワークやってよ!」とお願いしてその日、僕はバノンと別れた。

正直なところ、最初は自分がやろうとしているドラムンベースが受け入れられるのかどうかもわからなかったから、始めは俺のヘッドホンの中だけで流れている音楽って感じだった。だけど、ライブをやるようになってから、自分の音楽がみんなに自然と受け入れらていったんだ。

前作『Fantastic Plastic』はヒップホップを軸とした作品でしたが、今作ではジャングルやドラムンベースが主体となっています。どのような経緯があったのでしょうか?

リー・バノン(以下、LB):前作はアルバムっていうよりは、俺の音を集めた作品集的な意味合いが強いものだった。でも今回の作品は、なんていうか、もっと本当の意味で自分の翼を広げて、自分がいまできることを全部投入したっていう感じかな。

なぜいまジャングルなのでしょうか?

LB:とくにジャングルに変えようとしたというよりは、単純にいろんなジャンルをやってみたいという感じだったんだ。いまの自分の音がどういう感じで聴こえるのか、まだ純粋な感じに聞こえるのか、とかね。

今作ではマーズ・ヴォルタのベーシスト、ホアン・アルデッテが参加しています。彼とはどのように出会ったのですか?

LB:このアルバムを作っているときに偶然スタジオで会ったんだ。だから、それまで彼がマーズ・ヴォルタで発表した作品もまったく聴いたことがなかったんだよね(笑)。なんとなくそこで意気投合して、彼がベースを弾き始めたから、俺はペダルを持ってきて一緒にちょっとやってみて、そういう流れで出来上がった感じかな。

今作であなたはピアノを披露していますが、プロダクションをはじめるにあたって、生楽器を使用することが多いのでしょうか?

LB:もちろんドラムマシンやシーケンサーも使っているんだけど、今回はピアノを入れてみたんだ。これからはもっとギターなんかも入れていきたいね。

デジタルが発展し、ソフトウェアのみを使用するプロデューサーの数も多くなっています。その風潮のなか、なぜあなたは生楽器を入れようと思ったのですか?

LB:理由は簡単で、生楽器を入れることでもっと音に深みを持たせたり出来るし、よりピュアな音が表現できると思うんだよね。

プロダクションのデジタル化についてどう思いますか?

LB:まぁ、人が求めているひとつの選択肢としては別にいいんじゃないかな。俺にとってはひとつのツールという認識でしかないけどね。

あなたは今作をゲーム『メタル・ギア・ソリッド』のサウンドトラックのようだと答えています。メタルギア・シリーズはブリアルのようなミュージシャンにも影響を与えていますが、あなたは『メタル・ギア・ソリッド』のどこに魅かれますか?

LB:そうだね、『メタル・ギア・ソリッド』とかからの影響はあると思う。このゲームをしながら育ったしね。とくにどの部分に細かく惹かれたとかはないけれど、そのバイブは自分のなかに影響された部分としてあると思うよ。

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『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』はとてもシリアスな映画じゃない?だから近作も俺の中でかなりシリアスな作品にしたかったからこの映画のシリアスさを参考にしてこんな感じの作品に仕上げたかったというところで影響されたのはあるかもね。

あなたはカリフォルニア州サクラメントでキャリアをスタートさせました。サクラメントとはどのような街なのでしょうか?

LB:とてもユニークな街だと思う。とくに“この街”っていう特徴的な音はなかったと思うんだけど、俺やデスグリップスとかの登場で、こういう音を鳴らすアーティストがいる街っていう認識ができたんじゃないかな。

どのようにクラブ・カルチャーと関わっていくようになったのですか?

LB:自然に入っていった感じかな。正直なところ、最初は自分がやろうとしているドラムンベースが受け入れられるのかどうかもわからなかったから、始めは俺のヘッドホンの中だけで流れている音楽って感じだった。だけど、ライブをやるようになってから、自分の音楽がみんなに自然と受け入れらていったんだ。

レコードからサンプリングをしているようですが、普段はどのようなスタイルで音楽を聴いているのでしょうか?

LB:実は、最近はもっぱらデータばっかりなんだ。もちろんCDやレコードも買うけどほとんどデータだね。

今回はライヴ・セットを披露しますが、DJもするのでしょうか?

LB:普段はあまりDJはしないんだよね。基本的に自分の曲だけでセットを作っているよ!

ヒップホップのアーティストが最初に使う機材はアカイのサンプラーであるMPCの場合が多いですが、あなたはローランドのドラムマシーンで作曲をはじめました。この最初の機材との出会いは、いまのあなたにどう影響していますか?

LB:最近はまたMPCを使いはじめているんだ。俺にはロジック(アップルの音楽制作ソフト)よりもこっちの方が、音的にしっくりくるんだよね…….他にローランドのSP555(サンプラー)を使っていて、これはエフェクトには最適なマシーンなんだ。このローランドのマシンは俺に新しい音の使い方を示唆してくれたりする。最初の入り口が生楽器ではなかったから、いまでもサンプラーやドラムマシンから影響を受けていると思うよ!

あなたに影響を与えたヒップホップのアーティストを教えてください。

LB:実は最近はあんまりいないんだけど……。ラキムとかは好きだったよ。Jean-Luc King Brownもいいよね。

フライング・ロータスが主催する〈ブレインフィーダー〉周辺では、現在も実験的なヒップホップを作るプロデューサーが多くいますが、彼らのことをどう思いますか?

LB:いいんじゃないかな。いろんなジャンルの垣根を越えて、例えばフットワークとか新しいものを作っているわけだし。

あなたはファースト・パーソン・シューター名義で『モービリティ・フォー・ゴッズ』というチルウェイヴ的な作品を発表しています。なぜこの作品は生まれたのでしょうか?

LB:このプロジェクトは友だちとやってる超レフトフィールドなものなんだけど、チルウェイヴよりもっとアンビエント寄りのことをやりたかったんだ。例えばここに来る間に15時間飛行機の中で作った音が結構良かったから、もっと完全なアンビエントな作品としてまとめてもいいかなって思ってる。環境音楽的なものを入り口として広げていくのも悪くないね。

ファースト・パーソン・シューターとして曲を発表したとき、あなたは自分の素性を明かすことはありませんでした。リー・バノンも本名ではありません。どのように名義を分けているのですか? またあなたにとって匿名性とは何でしょうか?

LB:匿名性ってのは、もっと自分を大きく見せるツールのひとつでもあると思うんだよね。なんていうかもっと自分とは切り離された別物というか……。例えば、もし会社に行って自分が経理担当だとしたら、自分の名前が“経理”ってわけじゃないけど、“経理の仕事をした人”っていうことになるじゃない?でも家に帰れば自分自身に戻る。俺もそれと似た感じなんだ。それに違う音をやりたい時もあるから、そういう意味でも都合がいいというか。その音がその名前に帰属するというか、その名前によってその音だと認識して貰いんだよね。

カリフォルニアからニューヨークへなぜ引っ越したのでしょうか?

LB:ジョーイ・バッドアスのため、っていうのがいちばん大きい理由かな。俺は、彼の作品のプロデュース以外にツアーのDJもやってたりするから彼の近くにいる必要があるしね。

ニューヨークおける音楽のシーンはどのような感じなのでしょうか?ドラムンベースやヒップホップに限らず教えてください。

LB:ニューヨークのシーンは大好きさ。バイブや雰囲気がいまの俺の感じにとても合っているのもあるしね。ドラムンベースやヒップホップ以外にもボサノヴァとかのシーンもあるだろうけど、そこまでいろんなシーンはないんじゃないかな(笑)。

ジュークはBPMがドラムンベースに近いため、両方をプレイするDJが増えてきました。あなたにとってジュークはどのような存在なのでしょうか?

LB:俺にとってのジュークは、DJ アールや友だちのテックライフ、DJラシャドとかのことなんだ。次はカナダでラシャドと一緒のイヴェントに出る予定だよ!

今回の作品を制作するうえで、影響を受けた音楽作品はありますか?

LB:今夜出演する予定のソース・ダイレクトなんかよく聴いていたよ! だから今回のブッキングはすごく嬉しかった。さっきみんなで夕食に行ってきたんだけど、ナイス・ガイだった。それと『エクササイズ・アンド・ディーモン』は影響された作品だね。

今作のインスピレーションの源として、ポール・トーマス・アンダーソン監督の映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を挙げています。この作品のどのような部分にインスパイアされたのでしょうか?

LB:インスパイアされたというより、対比したものの参考にしたと言う方が正しいかな。この映画はとてもシリアスな映画じゃない?だから近作も俺の中でかなりシリアスな作品にしたかったからこの映画のシリアスさを参考にしてこんな感じの作品に仕上げたかったというところで影響されたのはあるかもね。

お気に入りの映画とサウンドトラックを教えてください。

LB:オリジナル版の『コスモ』のサントラは凄くいいね。最近だったら『ネッフルマニア』のサントラが良かった。

既存の映画のサウンドトラックを作り変えられるとしたら、どの映画を選びますか?

LB:うーーーん、良い質問だね(笑)。そうだな、もし出来るとしたらフランス映画なんだけど『ブルー・イズ・ザ・ウォーメスト・カラー』っていう映画のサントラをやりたいかな。

「同じことを2回しない」ことを信条としていますが、今後はどのような作品を発表する予定ですか?

LB:今俺は新しいステージにいると思ってるんだけど、しばらくはいまのサウンドを追求していきたいかな。そしてまたそこから新しい可能性を見つけて発展させたい。もちろんジャングルやジュークも先にはありえると思うけどね。

昨夜大阪公演でエイフェックス・ツインの“ウインドウ・リッカー”を演奏されていましね。

LB:(笑)! そうなんだよ。俺、彼の大ファンなんだよね。彼の音って不思議の国のアリスの兎のように追いかけても追いかけても捕まらないっていう不思議な音速感があるんだよ。

 この取材から1週間後の27日の朝、DJラシャドの訃報が舞い込んできた。新作の『ダブル・カップ』は最高の1枚で、このマスターピースを携えて、彼はほんの少し前に〈ハイパー・ダブ〉のイヴェントで来日したばかりだった。フットワークという言葉を彼は世界に広め、ジャンルを超えて多くのミュージシャンからリスペクトされてきた。フェイスブックページで、ワンマンやカーンなどの若手から、アンダーグラウンド・レジスタンスのような重鎮までが追悼の意を寄せるなか、そこにはリー・バノンのコメントもあった。彼はDJラシャドの死をどのように受け止めていくのだろう。ただ悲しみに暮れるだけでは故人は救われない。
 新しいステージに足を踏み入れたバノンの次の作品には、ラシャドへのリスペクトが込められているはずだ。

ピクシーズ、この6枚。 - ele-king

■ピクシーズ、まさかの新譜『インディ・シンディ』をクロス・レヴュー

Pixies - Indie Cindy
Review

Pixies - Indie Cindy
Pixies Music / ホステス

結成から29年、再結成から10年。「オルタナ」あるいは「グランジ」といった音楽的潮流の下、90年代以降のインディ・ロックに多大なる影響を及ぼしたバンド、ピクシーズの新譜がリリースされた。「本当に新譜が出るとは……!」という往年のファンから、「オルタナ」がオルタナティヴではなくなってしまった時代に聴きはじめた若いリスナーまで、もちろんその反応は一様ではない。しかし、どの聴き方にも真実がある。合評スタイルで多角的にアプローチしてみよう。 黒田隆憲、久保正樹、天野龍太郎による渾身のクロス・レヴュー!

■ピクシーズ、名盤Pick Up

文章:天野龍太郎、加藤直宏、久保正樹、黒田隆憲

『カム・オン・ピルグリム』
Come On Pilgrim
4AD / 1987年

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 映画『キャリー』でもっとも怖く印象に残るのは、クライマックスのキャリーの暴走ではなく、キリスト教原理主義のあの母親だ。アメリカの病理というべきか、歪んだ正義に息苦しさ、いや狂気を感じた子どもたちによる逆襲。ピクシーズというバンドもそうしたアメリカのダークサイドに唾を吐きかけたバンドのひとつだ。ジャケットを見てほしい。女装をした男の背中に、獣のような体毛が生えている。キリスト教右派たちからすれば、すぐさまに火をつけて、燃やしたくなるだろういかがわしいヴィジュアルだ。歌詞においても高く評価されるフランシス・ブラックがキリスト教社会や学歴社会に対してアンチを投げかけてきたことはよく知られているところだが、バンドの結成から間もない1887年に名門〈4AD〉との契約を勝ち取り、デビュー・アルバムに先駆けてのリリースとなったこのEP『カモン・ピルグリム(ピルグリムとは巡礼者のこと)』のジャケットは、ピクシーズというバンドの存在を見事に説明しているように感じられる。そして本作に収められたサウンドはこのジャケット以上に、聴く者に何か切実なものを訴えかけてくる。
 ピクシーズ史上もっとも美しいメロディを持つ曲のひとつ“カリブー”、パール・ジャムの“スピン・ザ・ブラック・サークル”を思わせる“イスラ・デ・エンカンタ”(彼らはこの曲ヒントにしたのかもしれない)、“エド・イズ・デッド”、乾いたスパニッシュ系のギター・リフに痺れる“ニムロッズ・サン”、ラップのようなフランシスのヴォーカルが特徴的な“アイヴ・ビーン・タイヤード”など、結成から1、2年のバンドとは思えないほど、アイディアに溢れ、完成度の高い楽曲が並んでいる。ピクシーズを聴くなら、本作も必ず押さえておくべき。(加藤直宏)

『サーファー・ローザ』
Surfer Rosa
4AD / 1988年

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 いま聴いてもゾクゾクする。ブラック・フランシスのささくれだった金切り声、頭を掻きむしっているかのように鳴らされるギターのノイズ、混沌のサウンドの中にふいのカウンターパンチのように散りばめられたポップなメロディやコーラス……、若き4人の匂い立つような初期衝動がスティーヴ・アルビニのプロデュースによって、生々しく記録されている。1988年に〈4AD〉からリリースされたこのファースト・アルバムは、グランジはもとより、その後のギター・ロックに大きな影響を与えたオルタナティヴ・ロックの金字塔として知られている。カート・コバーンが『ネヴァーマインド』を制作する際に本作から多くのヒントを得たというのは有名な話だし、2002年にチャンネル4で放送されたドキュメンタリー『Gouge』ではデヴィッド・ボウイ、ボノ、トム・ヨーク、ブラー、PJハーヴェイ、トラヴィスといった面々がピクシーズへの想いを語っていたが、本国を超えてそのサウンドは多くのミュージシャンたちに影響を与えている。アルビニのプロデュースも手伝ってか、本作ではとりわけ彼らのアルバムの中でもパンキッシュで攻撃的なサウンドが展開されている。どの曲も短くソリッドで、しかし強烈なフックを持っている。ピクシーズでもっとも有名な曲のひとつであり、後にブリーダーズを結成するキム・ディールが歌う“ギガンティック”(アップルの最新CMでも使われていているのはこの曲)、映画『ファイトクラブ』のエンディングで流れる“ホエア・イズ・マイ・マインド?”など名曲揃い。サイモン・ラーバレスティア(Simon Larbalestier)による退廃的なジャケットの写真も素晴らしい。(加藤直宏)

『ドリトル』
Doolittle
Rough Trade / 1989年

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スティーヴ・アルビニを迎えた前作『サーファー・ローザ』でUKインディー・チャートのトップに躍り出た彼らは、通算2枚めとなる本作でさらなる飛躍を遂げる。ルイス・ブニュエルの短編映画『アンダルシアの犬』からインスパイアされたという冒頭曲 “ディベイサー(Debaser)”は、まるでグランジ〜オルタナの「幕開け」を告げるかのようなインパクト。キム・ディールのベースライン/コード進行は、その後のインディ・ギター・バンドにとって、一種の「ひな形」になったといっても過言ではないだろう。不気味なうめき声と制御不能な咆哮を、1曲の中で目まぐるしく使い分ける“テイム”や“アイ・ブリード”など、ブラック・フランシスのヴォーカル・スタイルはもはや唯我独尊の域に達し、我関せずとばかりにレスポンスするキムのクールな声とのコントラストも、楽曲を立体的に際立たせている。変態的で、どこかオリエンタルな響きを持つジョーイ・サンチャゴのギターももちろん絶好調だ。ガールズポップのようなポップ・ソング“ヒア・カムズ・ユア・マン”や、屈指の名曲“モンキー・ゴーン・トゥ・ヘヴン”も収録された本作を、彼らの「最高傑作」と呼ぶファンは多い。(黒田隆憲)

『ボサノヴァ』
Bossanova
4AD / 1990年

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1990年リリースの通算3作め。『ドリトル』の延長上にある作品だが、楽曲はよりシンプルに、ストレンジながらもクリアな音作りも優れたバランス感覚で鳴っている。冒頭、オルタナティヴ版ベンチャーズのようなサーフ・ロック調のインストゥルメンタル“セシリア・アン”が意表を突く。全編にわたってブラックが叫び散らす「ロック・ミュージック」の行き詰まった焦燥は、ピクシーズとブラックの真骨頂ともいえる美しい瞬間を捉えている。黄金のリフを奏でる“ヴェロリア”、ロックンロールに駆け抜ける“アリソン”、ポエトリー・リーディングとギターのファンキーなカッティングからじつに美しいメロディへと流れこむ“ディグ・フォー・ファイア”には色褪せない輝きが。スペーシーなジャケットにも表れているとおり、宇宙やUFOが登場するリリックも興味深い。メインストリーム寄りのアルバムとして批判する向きもあるが、僕にとっては重要なアルバム。(天野龍太郎)

『トゥロンプ・ル・モンド』
Trompe Le Monde
4AD / 1991年

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前作『ボサノヴァ』でアレンジ/サウンド・プロダクションの幅を一気に広げ、全英でヒットを記録した彼らが、リハーサル・スタジオから漏れ聴こえるヘヴィ・メタル(オジー・オズボーンやラット)に触発され、ヘヴィメタ要素を大々的にフィーチャーした通算4枚め(ちなみに邦題は『世界を騙せ』)。16ビートのギター・バッキングやライト・ハンドの早弾きなどヘヴィメタ奏法で聴き手の血をたぎらせつつも、いきなりワルツをぶち込んで意表を突くアルバム表題曲をはじめ、随所で顔を見せる天の邪鬼っぷりは健在。キャプテン・ビーフハートやスネイクフィンガーとの共演経験を持つキーボード奏者、エリック・ドリュー・フェルドマンを迎え、これまで以上にシンセ・サウンドを取り入れたのも印象的だ。畳み掛けるような前半のテンションはとにかく異様で、アルバム全体のメタリックな感触にリリース当時は少々戸惑ったものだが、人を食ったようなジザメリのカヴァー“ヘッド・オン”をはじめ、いま聴くと親しみやすい曲もけっこう多い。何より、ナンバーガールやART-SCHOOLなど90年代以降に登場した日本のギター・バンドに多大なる影響を与えたアルバム、という意味でも重要な一枚だ。(黒田隆憲)


サーフ・ポップがねじれをこじらし、波乗りしていたらうっかり宇宙の哲学にまでたどり着いてしまった問題作『ボサノヴァ』の後にリリースされた5枚め。当時、最新ファッションとまで化していたグランジ・ブームのど真ん中で、もろに直球な“プラネット・オブ・サウンド”、幻想的にひた走る“ちびのエイフェル”あたりにシーンとのリンクを聴くことができるものの(というかシーンが追いついたのだが)、UKの〈4AD〉(←当時はデカダンな意匠をまとっていた)からのリリースというところにほかのUS産とはちがうワイアードな恍惚を感じたものだ。ミクスチャー風なグルーヴを採り入れた“スペース” “サバカルチャー”など、これまでにない骨太感も聴こえるが、やっぱり、インパクトのあるギターリフ、そして、妙ちきなくせに鮮やかなメロディをなぞるてろてろしたヴォーカルからの脂肪分たっぷりの絶叫に骨抜きにされてしまう。“モーター・ウェイ・トゥ・ロズウェル”の美しさもさることながら、シーンをともに築いた盟友ジーザス&メリー・チェイン“ヘッド・オン”のカヴァーを、悪意も皮肉もなくストレートに披露する懐の広さにもじんときたものだ。(久保正樹)


「世界を騙せ」と題された本作は、彼らの4枚めのフル・アルバムであり、今回の『インディ・シンディ』がリリースされるまでは、彼らのラスト・アルバムとして記憶されていた。本作を最後にして、1993年にバンドは解散。フランシス・ブラックはソロでの活動をスタートさせ、ベースのキム・ディールはすでに人気のあったブリーダーズでの活動に本格シフトしていくようになる。しかしながら、だからといって本作が輝きを失うわけではない。これほどの作品が作れるというのに、これで解散してしまうのはあまりにもったいないと思った人も多かったことだろう。それぐらい本作にはいい曲がたくさんある。“アレック・エッフェル”“プラネット・オブ・サウンド”“レター・トゥ・メンフィス”といった名曲に加え、ジーザス&メリーチェインの“ヘッド・オン”のカヴァーも収録。サード・アルバム『ボサノヴァ』でのサーフ・ロック的な路線から一転、本作では『サーファー・ローザ』時代に戻ったような、パンキッシュでささくれだったギター・サウンドが展開されている。フロントマンのブラック・フランシスはバンドを結成する際に「ハスカー・ドゥとピーター・ポール&マリー(1960年代にUSで大成功を収めたフォーク・バンド)が好きなメンバーを求む」と募集をかけたそうだが、ピクシーズというバンドは本当にそんな感じのサウンドだ。歪んだギターの轟音の中に、とてつもなくポップなメロディが潜んでいる。『トゥロンプ・ル・モンド』もそんなピクシーズの魅力を存分に味わえるアルバムだ。(加藤直宏)

『ピクシーズ・アット・ザ・BBC』
Pixies at the BBC
4AD / 1998年

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当時からライヴの良し悪しがその日の状態によって大違いなバンドとして定評(?)のあるピクシーズ。妙々たる奇跡のようなパフォーマンスの傍に──いつがっかりさせられてもおかしくない──垢抜けない要素がべっとり貼りついているところが、彼らを信頼できる所以であったりする。88年から91年までのBBCライヴを収めた本作は、テンション高く、キレも抜群で、アルバム以上にムキ出しズルむけとなったピクシーズのセンスとユーモアを存分に味わうことができる。フランシスの乾いたギターと、サンティアゴの艶っぽいギターの絡みもいつになくスリリングで、キムのコーラスもぱっと華やか。『サーファー・ローザ』以外の各作品から、ライヴ映えよろしい楽曲が選りすぐられていて、ピクシーズ初心者にも心の底からオススメできる内容だ。そして、玄人のあなたにはこちら。締めを飾るピーター・アイヴァースのカヴァー“イン・ヘヴン”(デヴィッド・リンチ監督『イレイザーヘッド』のなかで、おたふく娘が歌い上げる悪夢の幻想バラード)のフランシスの咆哮にまみれ、世にも美しい後味の悪さに浸ることをオススメする。(久保正樹)

Pixies - ele-king

結成から29年、再結成から10年。90年代以降のインディ・ロックに多大なる影響を及ぼしたバンド、ピクシーズの新譜がリリースされた。「本当に新譜が出るとは……!」という往年のファンから、「オルタナ」がオルタナティヴではなくなってしまった時代に聴きはじめた若いリスナーまで、もちろんその反応は一様ではない。しかし、どの聴き方にも真実がある。合評スタイルで多角的にアプローチしてみよう。

マイブラもブラーもローゼズも未踏、“正真正銘の最新アルバム” 黒田隆憲

 マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやブラー、それからストーン・ローゼズと、いわゆる“90年代レジェンド・バンド”の再結成(再始動)がここ数年は大きな話題となったが、その先駆けとなったのがピクシーズであったことは周知の事実である。2004年に彼らがオリジナル・メンバーで再び集まり、精力的にライヴをおこない、たとえばセックス・ピストルズのような従来の再結成バンドとはまったくちがう“現役っぷり”を見せつけたのは、ロック・シーンにおいてエポックメイキングな出来事だったと思う。ただ、再結成した彼らが新曲(およびニュー・アルバム)を作り上げてくれるかどうか? というのはまた別の話で、正直なところずっと懐疑的だった。ドキュメンタリー映画『ラウド・クァイエット・ラウド』を観るかぎり、ブラック・フランシスとキム・ディールの間の溝はもはや埋めようのない状態だったし、「この調子じゃスタジオに入って新作のレコーディングなんて夢のまた夢だな」と個人的には思っていた。おそれていたとおり2013年にキムはバンドを脱退。「もはや、バンド存続すら絶望的かも」と半ば覚悟していただけに、まるで吹っ切れたかのようにニューEPを次々と発表、ついには最新アルバムをリリースという、昨今の怒濤の展開には呆気に取られるばかりだ。「狐につままれたような気分」というのはまさにこのこと。マイブラもブラーもローゼズも、未だ成し遂げていない“正真正銘の最新アルバム”を、そこからもっとも遠いと思っていたピクシーズが最初に作り上げてしまったのだから(先だってのマイブラ最新作は、過去のマテリアルをケヴィン・シールズがひとりでまとめ上げたようなものなので、彼らは次が勝負だろう)。

 キムを除くオリジナル・メンバー、フランシス(ギター&ヴォーカル)、ジョーイ・サンチャゴ(ギター)、デヴィッド・ラヴァリング(ドラム)の3人と、サポート・ベーシストにはザ・フォールの元メンバーで、PJハーヴェイとの仕事でも知られるサイモン“ディンゴ”アーチャーがスタジオ入り。バッキング・ヴォーカルは今回ジェレミー・ダブスで、新ベーシストとして最近加入した美女パズ・レンチャンティンの出番はまだのようだ(レコード・ストア・デイの限定アナログ盤には、彼女が参加した“ウイメン・オブ・ウォー”がボーナス・トラックとして収録されている)。

 セカンド・アルバム『ドリトル』以来の朋友ギル・ノートンをプロデューサーに迎えたこともあり、サウンド・プロダクションはまったく申し分なし。感触としては『ボサノヴァ』の延長線上と言えるだろうか。楽曲も、“アイ・ブリード(I Bleed)”を彷彿とさせるような“グリーンズ・アンド・ブルーズ”、“ボーン・マシーン”のトーキング・ヴォーカルを引き継ぐ“インディ・シンディ”、“セシリア・アン”のスリリングな疾走感を連想する“スネイクス”など、過去曲に引けを取らぬクオリティのものが並ぶ(とにかく“メロディ指向”で、フランシスも丸くなったなーと感慨深いことしきりだ)。ジョーイ・サンチャゴの変態ギター、デイヴィッド・ラヴァリングのソリッドでタイトなドラムも健在だし、「ファンが聴きたかったピクシーズ」としての要件は十二分に満たしており、これを引っさげての〈サマソニ'14〉はいまから楽しみである。
ただ、新たな驚きというか、新機軸と呼べる要素はあまり感じられなかったのも事実。あくまでも本作はウォーミングアップなのだろう。GREAT3の『愛の関係』のように、ピクシーズも復帰第2弾で完全復活を高らかに宣言してくれるであろうと心から期待している。

黒田隆憲

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■過去の名盤を聴いてみよう。
代表作レヴューはこちらから!

・『カム・オン・ピルグリム』(1987年)
・『ドリトル』(1989年)
・『トゥロンプ・ル・モンド』(1991年)
・『サーファー・ローザ』(1988年)
・『ボサノヴァ』(1990年)
・『ピクシーズ・アット・ザ・BBC』(1998年)

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僕らがピクシーズに求めるもの 天野龍太郎

 ピクシーズが23年ぶりにアルバムをリリースする、との報を聞いたときには、正直なところ不安しか感じなかった。むしろ作品をリリースする、ということ自体に失望感すらあった。『ドリトル』がリリースされた年に生まれた僕なんかがいまさら書くまでもないことだが、1980年代のオルタナティヴ・ロックの黎明――既存のロック的表現から踏み外し、その異なる可能性をいびつでノイジーな音でもって探索していたそのさなか――において大きなインパクトを残し、カート・コバーンやトム・ヨーク、向井秀徳や峯田和伸らにトラウマティックな音楽的影響を与えてしまった4枚の作品を生み、そしていちどは完結した存在だ。ピクシーズにはオルタナティヴ・ロック/インディ・ロックの歴史のなかでたしかな存在感を放ったまま眠っていてほしい。そのように思っていた。

 それでもなお、ピクシーズの新譜に期待していなかったと言えば嘘になる。「俺はアンダルシアの犬だ!」(“ディベイサー”)と繰り返すブラック・フランシスの痛々しい叫びに、凍てつくような乾いたサウンドに、刺々しい音の隙間からのぞかせるいびつで美しいメロディに、崩壊寸前のシュールレアリスティックな詩世界に宿っていたあのジリジリとした焦燥感を再び聴くことができるのかもしれない。彼/彼女らがかつて表現していたあの混乱と狂気のさなかにある焦燥を。そんな期待が微かにあったこともまたたしかだ。しかし『インディ・シンディ』はその期待を裏切る。これはけっしていい意味ではない。

 ギターはノイジーに分厚くうねり、ドラムスのサウンドは荒々しく暴力的で、フックのメロディはポップである。ブラック・フランシスのハイトーン・ヴォイスは若干の衰えを見せながらもいまだ繊細な響きをたたえている。『インディ・シンディ』はじつによくできたオルタナティヴ・ロック・アルバム、というふうに感じる。教科書的、と換言してもいい。ロックのいちジャンルとして確立し固定化してしまったオルタナティヴという表現を焼き直しているだけのように聞こえる。
 周知の通りキム・ディールは去ってしまった。彼女の声とベースを失ったグループからはユニークな均衡がなくなり、匿名的なバンド・サウンドになっている(『ボサノヴァ』から『トゥロンプ・ル・モンド』へと至る時点でキムのバンドにおける役割はそれほど大きなものではなくなってしまっていたのではあるが、それでも)。ブラック・フランシスはトレード・マークとも言える叫び散らすヴォーカル・スタイルをほぼ排し、ずいぶんと落ち着き払って堂々と歌っている。ゆえに狂気も、焼けつくような痛々しい焦燥感も、ここにはない。むしろ余裕さえ感じられる。メロディには以前のような輝きもストレンジな感覚もなく、どこかチープな響きを持っている。

 1曲めに置かれた“ワット・ゴーズ・ブーム”はピクシーズの復活の幕開けを飾る曲としては完璧かもしれない――もしブラック・フランシスが叫び散らしていれば、より完璧だっただろう(この曲はバンドを去ったキム・ディールについての歌なのだろうか。そうだとしても、“Are we going to get rocking?”というフレーズはあまりクールじゃない)。『ボサノヴァ』のマナーを使い回すタイトル・ソングや、ブラック・フランシスお得意のポエトリー・リーディング的なヴォーカルがフィーチャーされた“バッグボーイ”はたしかに過去のピクシーズを思い起こさせてくれる。が、それらは過去の自身の表現の使い回し、というふうにしか感じられないのもまたたしかである。

 アウトサイディドな焦燥と狂気の表現のその先で、ピクシーズは堂々たる、しかしほとんど空虚なオルタナティヴ・ロックを演奏している。“グリーン・アンド・ブルーズ”はR.E.M.から芯を引き抜いたようなフォーキーなスタジアム・ロックであるし、“スネイクス”では野外ステージで合唱が起こりそうなメロディを付してヴェルヴェット・アンダーグラウンドを骨抜きにしている。“アナザー・トー・イン・ジ・オーシャン”の大仰なメロディ、“アンドロ・クイーン”の腑抜けたフォーク・ロックを取り繕う喋喋しいサウンド、単調なリリックで歌われるまるでTVドラマのテーマ・ソングのように清々しい“ジェイム・ブラヴォ”、“シルヴァー・スネイル”の間延びしたマッチョな歌……。こういったものはかつてのピクシーズからは想像できなかったものだ。ギターのリフやブラックの歌唱はまるで焼きが回ったハード・ロック・バンドのそれだし、ニッケルバックをインディー・ロックふうに仕上げたかのようなクリーンな音作りには居心地の悪さを感じる。

 奇妙に歪んだオルタナティヴ・ロックで複雑な詩情を奏でていたピクシーズがその先で到達した場所が「よくできたオルタナティヴ・ロック」であるとしたら、それは僕の求めるものではない。世界を騙せ、と引き攣った声で薄暗がりから呼びかけていたピクシーズの音楽は、もはや騙されるほうの明るく正しい「世界」の側から響いてきているかのようだ。かつてピクシーズの音楽が持っていた特別な意味、いまにも壊れそうな均衡のもとにある刺々しくも美しいサウンドが表現するところの苛立たしい焦燥や倦怠感や絶望や混乱はもはや彼らの手元にはなく、それらは遺産を引き継いだ若き先鋭的な音楽家たちが表現している――『インディ・シンディ』が教えてくれるのはただその一点である。

天野龍太郎

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■過去の名盤を聴いてみよう。
代表作レヴューはこちらから!

・『カム・オン・ピルグリム』(1987年)
・『ドリトル』(1989年)
・『トゥロンプ・ル・モンド』(1991年)
・『サーファー・ローザ』(1988年)
・『ボサノヴァ』(1990年)
・『ピクシーズ・アット・ザ・BBC』(1998年)

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“絶叫”が後退、滲出する官能性 久保正樹

 1993年。沸点を迎えた(そして、間もなく終息する)グランジ/オルタナティヴ・ロック・ムーヴメントを横目に—──まるでお役目ごめんと言わんばかりに──そそくさと解散したピクシーズ。とくにここ日本では向井秀徳がナンバーガール時代からその影響を公言していることもあり、彼らのことをリアルタイムで知るものも、知らないものも、オルタナティヴを志すものにとってはひとつの大きな憧れとなり、みんなの意識のとんでもなく高いところに鎮座していたわけだが、2004年に突然オリジナル・メンバーで再結成。その後もコンスタントに活動を継続し、いまや仰々しい伝説から僕たちのピクシーズとしてすっかり身近な存在となっている。というか、みんなピクシーズが存在しているというだけで満足してはいないかい?

 昔の名前で出ているピクシーズもいいけれど、あんなにもふてぶてしい面格好をした連中に華やかなお祭り騒ぎはもういらない。そう、僕たちは新しいピクシーズがほしいのだ! 誰もがそんなことを感じはじめていたであろう2013年。彼らから不意に4曲入りEPが届けられた。5000枚限定の10インチ・アナログ盤&ダウンロードという形で発表されたこのEPは、第3弾まで連続的にリリースされ、ピクシーズ完全復活の狼煙を上げる。残念ながらその間にバンドの看板女将、ベースのキム・ディールは脱退してしまったが、そのEPすべての楽曲をコンパイルしたピクシーズ23年ぶりのアルバムが、本作『インディー・シンディー』というわけだ。長かった。再結成からじつに10年めのことである。

 のっけからかき鳴らされるディストーション・ギターにじりじりと立ち現れる絶叫。1曲めの“ホワット・ゴーズ・ブーム”を再生してからほんの5秒。もうこれだけでピクシーズ。センスの塊としか言いようがない、ジョーイ・サンティアゴのフィードバックを活かしたギター・リフ。じつはマジシャンだったりするデイヴィッド・ラヴォリングのタイトなドラム。ブラック・フランシスのふらふら漂い遊ぶハイトーン・ヴォイス。どこまでもストレンジで孤高なのに、すんなり耳に入ってくるメロディ。かゆいところをくすぐる絶妙なコーラス・ワーク。思いっきり切ないのに思いっきり力強い。そんなピクシーズ節がこれでもかと畳み掛けてくる。ああ……あと足りないのは、キムの可愛らしく伸びのあるコーラスだけではないか。キムのいないピクシーズなんてクリープの入っていないコーヒーみたいな……いや、待て、みなまで言うな。そんな野暮はここではまったく無用だ。巧妙に組み立てられた曲の構成、いつ爆発するのかわからない破壊力を隠しもった緊張の持続は、キムの不在を忘れさせるには十分すぎるものだ。そして、YouTubeなどでチェックしてもらいたいのだが、キム・ディール脱退後に加入したキム・シャタック(元ザ・マフス)の解雇(!)を経て、現在ツアーにも同行中の新ベーシスト、パズ・レンチャンティンにも注目だ。ア・パーフェクト・サークル〜ズワンにも在籍していた彼女の凛とした存在感。すらり容姿端麗にしてひらりガーリーな魅力も放ち(ベースのヘッドにはお花が!)、低く構えた大きなベースをクールに弾き倒す姿は、世に多い女性ベーシスト・フェチの心をがっちり掴んで離さないであろう。もちろんコーラスもばっちりだから最高ではないか。

 閑話休題。内容に戻ろう。『ドリトル』から『トゥロンプ・ル・モンド』まで、往年のピクシーズ・サウンドを支えたギル・ノートンをプロデューサーに迎えた『インディー・シンディー』。ギターとヴォーカルが、自由に漂泊して哲学するための空間を残したドラムとベースの8ビート。サビに向かいながら、ぐしゃっと潰れた音が密集するバンド・アンサンブル。そのサウンドの緩急と分離のよさは、まさにギル・ノートンの仕事だ。アコースティックな響きとエレクトリックな艶が絶妙にブレンドされた名曲“グリーン・アンド・ブルース”。リズムマシンのビートを採り入れた“バグボーイ”。フランシスの咆哮がマックスに達するヘヴィ・ロック・チューン“ブルー・アイド・ヘクセ”。見た目からは想像もつかない(失礼!)異様に美しくグラマラスな“インディー・シンディー” “スネイクス”。優しく柔らかに浮遊する“シルヴァー・スネイル” “アンドロ・クイーン”。シュガーコーティングされたとびきり甘いギターポップ・チューン“リング・ザ・ベル”、そして、切なさがいつまでも尾をひく本編ラストの“ジャイメ・ブラヴォ”などなど、楽曲のヴァリエーションの豊かさはこれまでの作品のなかでもピカいちで、最新型のピクシーズを堪能するにはこの上ない内容となっている。

 しかし、どこから聴いてもピクシーズなのに、これまでのどの作品とも違う肌触りはなんだろう。エキセントリックな展開や地の底から湧いたような絶叫が後退し、ひねてねじれたメロディとアレンジの妙が、楽曲の大部分に侵食してきたからだろうか。シンプルにして中毒性のある構成に焦点をしぼり、これまで巨体のインパクトが邪魔をして(フランシス少しやせた?)表に現れにくかった色気、一度ハマったら二度と抜け出せないねっとりとした官能が誘惑して、こちらの悦楽中枢をじんわりと濡らしてくれる。また、度重なる昂揚の裏に、これまでピクシーズに感じることは少なかった涙腺をくすぐる瞬間もたくさんあったりして。何度聴いても、何度も新しい。

 鈍い光を放ち、攻撃の手はゆるめず、しかし、随所にロマンチシズムをちらつかせるパイオニアの大きすぎる一歩がいま踏み出された。「らしさ」を残しつつ、過去の焼き増しとはまったく別のところに技巧をこらしたピクシーズが帰ってきたのだ。結成から29年。どこまでもストレンジなのに、どこまでもイノセント。まるで世界の奇観を眺めているような風変わりな透明感は、ますます度を増して、ある意味暴力的。これをファンタジーと呼ばずして、何と呼ぼうか?

久保正樹

■過去の名盤を聴いてみよう。
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・『カム・オン・ピルグリム』(1987年)
・『ドリトル』(1989年)
・『トゥロンプ・ル・モンド』(1991年)
・『サーファー・ローザ』(1988年)
・『ボサノヴァ』(1990年)
・『ピクシーズ・アット・ザ・BBC』(1998年)

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