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ディアフーフ
ディアフーフ vs イーヴィル

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 『ディアフーフVS.イーヴィル』は、ディアフーフにとって10作目のアルバムとなる。驚くべきことに、キャリアはすでに16年。『アップル・オー』からの印象が強いためか、ディアフーフといえば2000年代のインディ・シーンを支えてきたバンドだというイメージがあるかもしれないが、彼らは実際のところ90年代組だ。しかしたとえば、昨年20年のキャリアを持つスーパーチャンクの新作が長年のファン層をメインに温かく迎え入れられたこととは好対照に、本作は2011年の作品として、あたかも新人バンドであるかのような緊張感を持って聴かれるはずだ。「新人バンド」とは言い過ぎだろうか。成熟した彼らの音には、シーンを彩る若きローファイ勢を蹴散らされかねない横綱相撲の風格があるのだから。それでもそう呼びたくなるのは、ディアフーフが頑固にトレンドから距離をおき、ひとつひとつの作品がつねに新しくあるように自らのオリジナリティを深めているからだ。今作もじつに刺激的で、かつストレート。まさにオンリー・ワンな存在感を見せつけている。
 
 2010年の暮れまで1年余りの短い帰国生活を送っていたヴォーカルのマツザキ・サトミ氏に取材することができた。氏はディアフーフのその強烈な個性を大きく担っているばかりではなく、世界で活躍する日本人女性としても非常にリスペクタブルな存在である。彼女自身が始祖ともいえる平板でチャイルド・ライクなヴォーカル・スタイルには、音としても姿勢としてもマッチョイズムに対する批評を感じるし、その意味では古巣である〈キル・ロック・スターズ〉が持つライオット・ガール的な表現を、彼女たちと真逆の方法で示しているとも言えるだろう。
 さらにそこには、敗戦からのモチーフである「大人になれない日本」というイメージもどこかで重ねられているのではないだろうか。奈良美智氏の絵画や村上隆氏が戦略的に用いているアニメ的表現と共通する問題を、世界は「サトミ・マツザキ」の中にも求めている......女性として、また敗戦国側の人間として、彼女の歌は強い外部性として機能するはずだというのが筆者の推論である。本インタヴューでは、アルバム制作の背景についてもさることながら、マツザキ・サトミという無二のヴォーカリストが帯びるそうした記号性にも迫りたい。
 ......と意気込んだが、質問は非常に鋭くかわされてしまい、むしろ客観的な日本評を突きつけられる形となった。結果として氏の軽やかでシャープな知性をビシビシと感じられるテキストになっていると思います。ご堪能ください!

2000年......一生懸命ディアフーフをやっていたので、あっという間に過ぎましたね。曲つくってアルバム出してツアーして、『アップル・オー』くらいは毎年出してますよね、ツアー行きながら録音してて。レディオヘッドのオープニングやってるときなんて楽屋でミックスしてました!

今回の作品が10作目で、キャリアも16年とすごく長い活動をされているわけですよね。でも90年代半ばくらいから活動を続けているバンドだと、普通は「アガリ」感が出てしまって、新作が出ても昔からのファンが買うだけだったり、話題にはなるけど若い人が買わないといったことになりがちですが......

サトミ:「アガリ」って、「お茶があがる」とかの「アガリ」......?

すごろくでゴールにたどりつくとか、「一丁あがり」とかの「アガリ」です。

サトミ:ああ、そっちの。はい。

はい。ですが、ディアフーフの新作を聴かせていただいたんですが、もうほんとに現役感があるというか......

野田:現役だよ!

はは。なんというか、ほんとの意味での現役感というか、若いバンドに与える緊張感が大きいと思いました。昔からのファンが、ファンだから聴くとかいう感じじゃなくて、作品として今に訴える鋭さがあり、若いアーティストもリアルなライヴァルとして聴く、というか。今作についてあらかじめこうしようというコンセプトや方向性というのはあったのでしょうか。

野田:10作目って感じがしないもんねえ。

サトミ:ええと、今作は16年目ということで「スウィート・シックスティーン」というコンセプトでつくったんですね。「16歳」っていうイメージは、カラフルで、ポップで、反抗的で、ちょっとひねくれてて......っていうものです。すごく複雑な心境が16歳にはあるから、そこからイメージをふくらませていったら、エレクトロで、キャッチーで展開が速くて、流れる感じになりました。あとアルバムも短くなって。16歳だからアテンションも短い。

大作、という感じではなくて、勢いを大事にしたような感じでしょうか。

サトミ:うーん、「大作」って、べつに大袈裟でなくてもいいと思うんですけど。やっぱり16歳って考えてることがどんどんどんどん変わっていきますよね、いま話してたと思ったら次の人がもう全然違う話してたりっていう。あとはスーパー・ヒーローとか、ゲーム感とか、エキサイティングで落ち着きがないものを作っていったら、今作ができあがってました。

たしかに、たとえば『レヴェリ』とかと違って、すごく実験的でめまぐるしい展開があってという作風ではなくて、すごく疾走感のある、前に前に駈けてるような印象の曲があったりします。たとえば6曲目("スーパー・デューパー・レスキュー・ヘッズ")とか。2曲目("ビホールド・ア・マーヴェル・イン・ザ・ダークネス")とかもすごく好きです。

野田:僕も好きです。

サトミ:私も"ビホールド・ア・マーヴェル・イン・ザ・ダークネス"好き。なんかこう、アコースティック・ギターの気持ちいいストラミングが流れるようで、さわやか。16歳は元気だけど、瞬発的でたまに疲れちゃうから。たとえば高校の科目とかでも体育のあとに美術のクラスがあって、上り下がりがあって疲れちゃう。それで息抜きの感じで入れたんです。ほんとは20曲くらいあって、めまぐるしく、面白い曲ももっとありました。でも、短いくらいがすごくしっくりきたんですよ。コンセプトに。

ストロングでストレートな力っていうのを感じるアルバムで、その点ですごく愛される作品になると感じました。評価ということとは別に、愛聴されるアルバムってあると思うんですよ。『レヴェリ』とかもすごく好きで素晴らしいアルバムだと思うんですけど、普段よーく聴くかっていうとまたちょっと違って。この作品はほんとによく聴くことになるだろうなあと思いました。

サトミ:バンド自体が同じことを繰り返したくないっていうのと、他のバンドを例に挙げるとキャリアが長ければ長いほど、ファンが前のヒット曲に執着しちゃって、ライヴにその曲を聴きにくる場合が多いと思います。アンコールにヒット曲とかを取っておいて、最後にそれをやるからみんなも最後までいる、みたいな感じになりますけど、そういうのは目指してなくて、いつも新しいことをみんなが期待してくれるような、そういうバンドになりたいな。だから過去のアルバムでやったことは次はやらない。新しいことにチャレンジしていくのが常に目標です。

まさにそういう作品だと思います。ご自身で好きな曲はどれですか?

サトミ:私も2曲目("ビホールド・ア・マーヴェル・イン・ザ・ダークネス")です。その曲は最近のツアーでも演奏しています。だから毎日弾いてると、それだけ理解も深まるし、愛着も湧いて。

「理解が深まる」というのは面白いですね。メンバーのひとりひとりがわりとがっちりと曲を作ってくるって聞いたことがあるんですが。

サトミ:だからレコーディングしたときは、みんな初めて聴いたっていう感じになります。「じゃ、こういう進行でハイっどうぞ」みたいな。「ハイっ、Now!」みたいに始まる。そんなふうだから、逆に真っ白な頭のままですね。飛び込んできたままのを、さらっとやります。

それはかなりかっちり曲を作ってあるからということですか?

サトミ:かっちりっていっても、フィーリングとか弾き方とかは、レコーディングしながら何テイクも録って選ぶので、最終的には自分たちでも意外な感じに仕上がることが多いです。「あ、このテイクとあのテイクを採って、繋げた!」みたいな。それで、ライヴをこなしているうちにまたアレンジとかが変わっていきます。それが「(曲への)理解が深まる」っていうことなんでしょうね。

なんか楽譜が売られてたりするって聞いたので。

サトミ:あ、それは前のアルバムですね。どちらにしても、リリース前は誰かがリークするんです。それでリークを防ぐために譜面にしようって。今回のはグローバル・リーキングといって、すでに世界各国で1曲ずつリークされてます。だから全曲フリーでストリーミングできます!

なるほど、では皆さんが楽譜で曲を作って持ち寄っているというわけではないんですね。そうだとしたら変わったバンドだなあと思ったんですが。

サトミ:そういうわけではないですね。メンバー全員アメリカ各地に住んでいるので、mp3を送りあって作っています。「ここはこうした方がいいんじゃない?」って、その度にテキストで打って、また作り直して送りあうっていう感じで。

わりと突発的な印象の曲もあるのに、じつは緻密に作られていたりするのかなと想像しました。

サトミ:ライヴはすごく突発的で、アレンジとかもバラバラに変えたりとかします。けっこうカット・アップした感じで、今回もA-B-A-Bとか決めてなくて、あとでパズルみたいに部分部分を組み合わせたりしてます。

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べつに日本人を意識してなくて、普通ですよ。アメリカってほんとに人種がいっぱいいる国で、日本人だからって持ち上げられることもないです。ディアフーフを好いてくれる人ってオープン・マインドな人が多いんです。だから、アメリカだけに引きこもってる人たちじゃなくて、インターナショナルな音楽に興味がある人たちが多いんで。


ディアフーフ
ディアフーフ vs イーヴィル

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少しお話が変わるのですが、今回〈キル・ロック・スターズ〉から〈ポリヴァイナル〉への移籍には、おもな理由としてはどういったことが挙げられるのでしょうか。

サトミ:〈キル・ロック・スターズ〉はすごく長かったので、いまでもすごくいい関係なんですけど、この前〈ポリヴァイナル〉からL.A.のバスドライバーというラッパーと7インチを出したんです。彼がディアフーフの新作の中の1曲でヴォーカルをやるという企画で。そのときに〈ポリヴァイナル〉の人たちと仲良くなって。前から〈ポリヴァイナル〉からはディアフーフと何かをしたいって言われてました。でもずっと忙しかったせいもあって。今回はいい機会で、一緒にお仕事してすごく楽しかったですし、違うオーディエンスにも聴いてもらえるかな? と思い、移籍しました。

なるほど。

サトミ:すごい似てるんです。ポリシーが。インディ・レーベル同士で、ファミリ―経営で。

イメージとしては〈ポリヴァイナル〉とディアフーフって合っていると思うんですが。オブ・モントリオールとか知的で一癖あるエクスペリメンタル・ポップみたいな。

サトミ:オブ・モントリオールは仲いいんですよ。あとフェスで知り合った、ジャパニーズ・アメリカンのユキさんて人がやってる......

アソビセクス!

サトミ:そう、彼女はニューヨークに住んでて、ジャパニーズ・アメリカンだからアメリカ育ちなんですよ。

へえー、そうなんですか!

サトミ:ユキさんとお話してたら、「いいよー、〈ポリヴァイナル〉。」って教えてくれて。

あ、そうか。ジャパンドロイズとかトクマルシューゴとかもいますね。

サトミ:ジャパンドロイズは知らないな。トクマルくんは最近ですよね。「一緒に移りました」とか言っとこうかな。「トクマルくんが移るから私たちも移りました」って(笑)。

ははは。あとはアロハとかジョーン・オブ・アークとか。ちょっと古いエモ/ポストロックからオブ・モントリオール、そして若いところだとアソビ・セクスやジャパンドロイズ。そのなかにすっとディアフーフは合うのかなと思いました。

サトミ:そうですか。自分たちは合うかな? って思ってたんですが(笑)。

え、そうなんですか(笑)。

サトミ:でも仕事が円滑っていうか、コミュニケーションのレヴェルがすごいんですよ。アイディアを出したら、すぐにそのアイディアを膨らませて返ってくるし、すぐそれを実行してくれるから。日本みたいに、みんながんばって働いてるなあって。

真面目な、きちんとしたレーベルなんですね。ところで、アルバムでいうと『アップル・オー』から以降が、ごく一般的なディアフーフのイメージだと思います。体制も現体制に近いものなのかなと思いますし。だから実際の結成は90年代なかばでも、どちらかというと2000年代のバンド、2000年代のインディ・シーンを充実させ、更新しつづけてきたバンドだと認識しています。それは『ピッチフォーク』などのメディアと相補的な関係で築かれてきたものだとも思うのですが、2000年代というのはサトミさんにとってどのような時代でしたか。

サトミ:そう、もう2000年代終わっちゃったんですね。2000年......ずっとサンフランシスコに住んでいたんですけど、もう、一生懸命ディアフーフをやっていたので、あっという間に過ぎました。あんまり切り替えがないくらい忙しくて。曲つくってアルバム出してツアーして、『アップル・オー』くらいは毎年出してますよね、ツアー行きながら録音してて。レディオヘッドのオープニングやってるときなんて楽屋でミックスしてました!

それは外から作れ作れっていうプレッシャーがあるんじゃなくて、自らのモチベーションでそうなるんですよね?

サトミ:モチベーションもあるし、もう楽屋待っているだけの時間がもったいない!って。ツアーってほとんど移動なので、仕事ができる期間が少なくて、みんなが一緒にいない時間はプライヴェートに過ごしたいし、一緒にいられる時間っていったら移動時間しかない。移動と楽屋。で、すごいがんばってたんですけど、そしたらトム・ヨークも曲作りやってて(笑)。アトムス・フォー・ピース(トムの新ユニット)のやつを隣りの部屋で。「あ、やってる!」って、こっちも負けじとやりました。

ははは。

サトミ:でもやっぱり多いですよ。空いてる時間を有効にって思ってるバンドは。

ではまわりからいろいろ摂取するというよりは、内側から吐き出す、出力するという時間だったんでしょうか。この10年は。

サトミ:まわりからの圧力はなかったのに、自分たちでモチベーションを上げて、レーベルに「はい、これできました。」ってどんどん渡して。インディ・レーベル所属でディアフーフはDIYでプロデュースするので、渡せばすぐリリースしてもらえて、よく知らないのですけれど、メジャー・レーベルみたいにサラリーマン的なやり方じゃなくて自由です。だからインディ・レーベルが好きです。セルフ・マネジメントして、人に動かされないで、自分たちがやりたいようにやって。悪の組織っぽいものに巻き込まれないようにがんばっていきたいです。ディアフーフ対悪!

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その頃のヒッピーたちがサンフランシスコにはまだたくさん残っています。それかすごい若いヒップスターたち。かわいい服来てバーに飲みに行くっていう感じの。ヤッピーとかまわりではひとりも知らないけど、たぶんヤッピーが80パーセント。いまニューヨークとサンフランシスコって家賃が同じくらいの相場です。そのヤッピー化がすごい深刻で、もう引っ越そうって。


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はい。仕事もそうなんですが、サトミさんご自身にとってこの10年の空気ってどんな感じだったんでしょう。たとえばこんなバンドが印象深かったとか、映画でもなんでもいいですし。

サトミ:一緒にツアーしたバンドのことはよくわかるんですけど、私すごい疎いんです。だって、この前初めてジャスティン・ビーバー知ったんです、1週間くらい前。

(一同笑)まあ、私もちゃんと聴いたことないですけどね。

サトミ:みんなにすごい驚かれました。ココロージーの人にもこのあいだ東京でばったり会ったんですけど、名前は知ってたんですけど、音楽は知らなくて。

(笑)ココロージーはけっこう活動長いんですけどね。〈タッチ・アンド・ゴー〉ですよ。

サトミ:そう、すごい疎いんですよ。あんまり自分でサーチとかしなくて、人からもらったりするミックスCDとか聴いて、ああこれいいなあとか思ったり。でも「コンゴトロニクス」は好きで、コノノNO.1とか、友だちと踊りに行ったりしてました。そしたら、偶然、「コンゴトロニクス」のクラムドディスクの方から声がかかって、リミックスをしたりしました。

あ、そうですよね! セールスやツアーとかでは、とくに相性がいい国とかはありますか? やっぱりヨーロッパとか日本になるんでしょうか?

サトミ:この前、初めて東ヨーロッパをツアーしたんですが、それはすごい盛り上がりました。ロシアとかもけっこう行ってて。どうなんだろう。ディアフーフがいちばん受け入れられないなって感じるのは、イタリアですね。

はははは! そうなんですか?

サトミ:それはメンバー全員一致でそう。受けないんですよね。なんかポスト・ロックとかが好きな土地みたいで、すごくかっちりしたバンドが受けるみたいなんですね。すごくテクニカルなものが。ディアフーフって、全部がゆるく流れるような大っきい動きだから。あと、なんか冗談とかもたぶんちょっと違うんだと思う。国民性っていうかツボみたいなものが。ちょっと残念なんですけどね、イタリア大好きなのに!

それはオーディエンスの感じから伝わるんですか。

サトミ:そうですね。熱いお客さんはいるんですけど、もう行くことないかも。

へえー。サトミさんの、そういう佇まいというか、サトミさんというモデルの影響力はすごく大きいと思うんです。ノイズ・ロックと日本人女性の平板な感じのヴォーカル、っていう。起伏の少ないすごく特徴的なヴォーカル・スタイルで、サトミさんひとりで日本人女性アーティストの対外的なイメージすべてを担っているというくらいの影響力があると思うんですが、そういうものが受け入れられる国とそうでない国、ということですかね。あ、でもブロンド・レッドヘッドとかは......

サトミ:イタリア人ですよね!

そうですよね、イタリア人兄弟+日本人女性ですよね。サトミさん自身は、サトミさんご自身へのオーディエンスからのリスペクトや支持・人気を感じますか?

サトミ:そうでもないです。ロックスター・スタイルがぜんぜんなくて。べつに日本人を意識してなくて、普通ですよ。アメリカってほんとに人種がいっぱいいる国で、日本人だからって持ち上げられることもないです。ディアフーフの音楽がほんとに好きって言ってくれる人がいるだけですね。けっこう日本人ヴォーカルだって知ってる人も多いし、ディアフーフを好いてくれる人ってオープン・マインドな人が多いんです。だから、アメリカだけに引きこもってる人たちじゃなくて、インターナショナルな音楽に興味がある人たちが多いんで、とくにいまの時代はそういう(人種に線引きをする)若い人たちって少ないと思います。

ヴォーカルについてのお話をもう少しお聞きしたいです。「平板」と先ほど申し上げましたが、チャイルディッシュで神秘的で、でもとっても知的で。歌詞もそうだと思うんですが、そういう要素がマッチョなものに対する批評として働いていて、ディアフーフの音楽自体と同様に、それはひとつの革命だったと思います。ライオット・ガール的な問題をライオット・ガールとは逆の方法論で提示している。〈キル・ロック・スターズ〉ってライオット・ガールのイメージが強いですよね。

サトミ:うんうん。90年代初頭、って感じですね。

はい。そういうマッチョイズムに対する批評として、サトミさんのヴォーカル・スタイルにはすごい影響力があると思いますが、どうでしょうか?

野田:今のは、あれだよね。橋元さんのディアフーフ論で。結局、あえて抑揚をつけないことの意味って何なのかってことでしょう?

サトミ:ああー。ディアフーフはヴォーカルと楽器を同じように扱ってて、たとえばレディー・ガガだったらヴォーカルをすごく強調してたりするけど、ディアフーフはトランペットとかとヴォーカルの扱いは一緒で。だから逆に、こぶし?(ヴィブラート)とかつけないでって言われるんですよね。音としてとらえて、ヴォーカルとしてとらえない。だからおもしろいダイナミクスがあるんですね。モヘアみたいな。どこかが飛び出てるけど、必ずしもヴォーカルでない。ライヴでもギター(のレヴェル)を上げます。ヴォーカル上からかぶせないで。そういうコンセプトはあります。でも、それ当たってるかも。マッチョなものが嫌いで。ジャズやクラシックとか好きです。マッチョな音作りは避けます。ベースとかもミュートしたり、リズミカルにして、そういうところには気を遣っているつもりです。

面白いのが、ギター・バンドとしてのプライドというか美学もすごくあると思うんですよ。それなのに全然マッチョじゃないのは、バンドとしてのまとまりや音楽性がすごく完成されているからだと感じます。ご自身のスタイルはずっと、最初からあったものなんですか?

サトミ:そうですね。オペラティックや演歌っぽいスタイルはたぶん自分にないものです。自分にそのカードがない。あとヴィブラートとかはあんまり音に合わないと思います。合えばやってもいいんですけど。ほんと、だからブラス・バンドみたいにこう「ボー」っとした、音みたいな声、そういうのが合うと思ってて。

でも、すごくフォロワーを生んだんじゃないでしょうか。あまりにオリジナリティがあるから真似は難しいですけど、意識や雰囲気としては。

サトミ:あ、でもこの前ライヴに来てくれたグループが「カヴァーやってます」って言ってて。ディアフーフのカヴァー・バンド。だからどんなんだろうなって思ってユーチューブで観てみたら、すっごいヴィブラートつけて歌ってたの。

(一同笑)それ違うじゃんっていう!

サトミ:歌い方が全然違うっていう。しかもすごい叫んで歌ってて。それであれをディアフーフがやったら、違うかなーって思いました。自分でやってみたことないから、人がやってるのを観てすごい勉強になる(笑)。それからユーチューブでいろいろ探してみたら他にもけっこうカヴァー・バンドがいて、面白いんですよ。

新解釈だったかもしれませんね(笑)。

サトミ:けっこうリンクでいろいろなカヴァーを観れて、面白いです。いろいろな国にいて。スウェーデン人の男の子がファルセットで歌ってたりして。

ははは! カヴァー・バンドばっかり10組とかで面白いアルバムができそうですね。

野田:ヴォーカリストとしてインスピレーションを受けた人っているんですか?

サトミ:前にもインタヴューで言ったことあるんですけど、スウィングル・シンガーズとか好きです。あの、女の人4~5人でラララッーって歌う感じの。

コーラス・グループみたいな人たちですか?

サトミ:そうですね。あとは......なんでも聴くんですけど、そんなに自分のヴォーカルを研究したことがなくって、歌ってたら「そんな感じがいいんだよ」ってまわりに言われて。で、みんなも「それでそれで」ってリクエスト受けてます。

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歌詞もみてないのに、このきのこ雲入れてきたんですよ、デザイナーは。アメリカってカルチャー的にそうなんでしょうね。すごくポリティックな話題をよくするんですよ。みんな政治に興味があるから、シティ・カレッジ行ってたときももう政治の授業がパンパンに人入ってて。


ディアフーフ
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日本って戦争に負けて以来大人になれないというか、軍隊も持てない子どもの国ってことで「12歳」なんて揶揄もありますけど、そうしたものを重ねて見られたりすることはありませんか? 奈良美智とか......

サトミ:はい。いちどお会いしたことあります。

ああ、そうなんですか! 好きですか?

サトミ:ええと、はい。好きですね。海外のミュージアムに行ったりすると、奈良さんの作品ってあったりしますね。

「ネオテニー・ジャパン」なんて言い方もありますね。大人なんだけど子どもの形をしている。あるいは村上隆さんとかがたとえばアニメを用いて戦略的に提示しようとされている日本人としての表現手段。バンドとしてそうした意識はなかったとしても、やはりディアフーフを見る側にはそういう視線もあると思うんですが。

サトミ:うーん。そうなんだろうなーと思います。

(笑)あ、そうなんですか。

サトミ:自分でそうアプローチしてやってるわけではないですけど、なんか「子どもっぽい歌い方をしている」とか書かれるんですよ。でも、自分でそういうふうにして歌ってるつもりじゃないんです。なんでそうなるんだろう? 「フェアリー」とか「チャイルドライク」とか、言われます。逆に、Jポップとか聴くとみんなすごい似てるなと思うんです、歌い方が。ちょっと不思議。

ははは。カラオケ文化の産物ですかね。

野田:インターナショナルなところではやっぱり日本のアーティストとしてそういう型にはめやすいって部分はあるだろうね。

その部分で面白いディアフーフ評はありますか? レヴューされたことで印象深かったことというか。

サトミ:うーん、「何を言っているかわからない」って書かれたことはありますね。英語のアクセントが下手だから。で、なんか当て字っていうか、推測で「こう言ってるんでしょ?」って書かれたメールとかがきて(笑)! 言葉として伝わってないことが多いみたいです。だから今回のアルバムは、言葉を少なくしました。歌詞のリフレインとか、ヴァリエーションを増やして、文字数は少ないです。もっとこう、音として頭に入ってくるし、何回もリフレインすれば言葉も頭に入ってきやすいので、「またこの言葉?」みたいな繰り返しになってます。あとは、毎回子どもっぽいって言われ続けてるので、逆にドライに歌って、クールで冷静な姿勢を見せようと思って。そんなつもりなんですけど。あ、でも今回は言われてないですよ「チャイルドライク」って! そこは成功。

(一同笑)

サトミ:もうチャイルドとは言わせないぞってくらいの勢いで。

野田:ははは。「ミルクマン」のイメージも強いんじゃない?

サトミ:そうですね。あのかわいい感じ。音とかもこう、鉄琴を使ったりして。だから今回鉄琴はヤメようって。

ははは、鉄琴禁止!

サトミ:そう、鉄琴禁止令。これ、わたし論なんですけど、突き詰めたらドラマーって鉄琴にいく確率高いんですよ。

はははは! 面白い。そうですか?

サトミ:そう、絶対。出た鉄琴! みたいな。ああ、この人も鉄琴いくんだーって。ドラマーって、ジャズとかでも、長ければ長いほど周りにモノが増えていって。こう、サンプラーとか。ドラムの横でヴィブラフォンとか弾いちゃったり。叩けるものは全部叩け、みたいな。グレッグにいつも「鉄琴だけはヤメてね」って言ってるんです。

詞は、詩的な結晶度が高いというか、絵本のように少ない言葉で多くのものを喚起させるというスタイルですよね。好きな詩人とか作家はいますか?

サトミ:名前を出すのはあんまり好きじゃないんですけど、ジャック・タチとかすごい好きで、毎回涙流して笑っちゃう。ほんとすごいかわいくて。ひねくれたユーモアが飛び出してきて、ディアフーフみたい!

野田:いいじゃないですか!

サトミ:あとは安部公房とか好きです。すごく写真的で。けっこう私もビジュアルから入って考える方なんで、散歩とかして頭ん中で考えたりとか。他のメンバーは違うんですよ。こう、ずーっとギター持ってじっと考えてたり。でも、あんまり影響された人とかはいないですね。好きなものと自分がやることは別。

サンフランシスコは住んでいていい場所でしたか? 場所として影響を受けたりされました?

サトミ:そうですね。ずっと天気だし、みんなすっごいゆっくりしてます。生活スタイルが。だからマイペースになりますね。カリフォルニアは。

若いバンドで刺激的なお友だちとかは?

サトミ:タッスルやヘラは個人的に仲いいです。あとは若くないけど、グワーとか。あの怪獣みたいな着ぐるみの。

グワー! 個性的でひねくれた人たちが多いですね。

サトミ:サンフランシスコは個性的な人が多いかな。アメリカ人って皮肉なジョークに溢れているので、日本に帰ってきて、みんなすごいピュアだなあって感心します。安心する。落ち着きますね。アメリカでは「クール!オーサム!グレート!」の3拍子があるけど、一種の挨拶で「こんにちは」の意味ととらえていいと思います。おおげさに表現するのがスタンダード。個性的といえば、同じマンションの人が多重人格性で一回ナイフを突きつけられたことがあって。すごい怖かったですね。

うわあ。多重だから誰に責任を問うていいのかわからない!

サトミ:いまでもたまにディアフーフのショーに来てくれるんですけど、春になるとオンになるみたい。そのナイフの方の人格に。それでいまどっちなのかなあとか思ったりして、怖いですね。たぶん70年代の影響があって、そのくらいにアシッドとかやりすぎておかしくなっちゃった人が多いかなあ、みたいな場所。その頃のヒッピーたちがサンフランシスコにはまだたくさん残っています。それかすごい若いヒップスターたち。かわいい服来てバーに飲みに行くっていう感じの。ヤッピーとかまわりではひとりも知らないけど、たぶんヤッピーが80パーセント。いまニューヨークとサンフランシスコって家賃が同じくらいの相場です。そのヤッピー化がすごい深刻で、もう引っ越そうって。

ああ、そうなんですか。

サトミ:もうどこ行っても。昔よく行ってたかわいいカフェとか、みんなが集まるようなとこもぜんぶスターバックスになっちゃったし、高いレストランばっかりになっちゃって、なんか、つまんないですね。

あれ? いまお住まいって......

サトミ:恵比寿です。去年の8月に引っ越してきて。

野田:ああ、それでキモノズとかに参加してたんですか。

サトミ:はい。でもいままた引越準備してるんです。また来年からツアーが11月までずっと入ってて、もう帰って来れないので、出ちゃおうと思いました。

日本ライフはどうでしたか?

サトミ:もう楽しくって! もっといたかったです。

野田:ははは。日本帰ってきた人はみんなそう言うね。

サトミ:楽しいっていうか、日本だと話も通じるし、アメリカはやっぱり貧富の差も激しいし。日本は平和ですよね。むこうはふつうに強盗とかもあるから、ずっと気を張ってるし、12時以降は外出るのやめようとか。タクシー乗ろうとか思っても、タクシーの運転手さんにどこ連れてかれるかわからないし。だから最初帰ってきたときは挙動不審だったんです。アメリカの緊張感でいるから、すごい怖がられて。そういう防衛意識を捨ててふらふら歩いてても日本は大丈夫なので、すごく、明るくなりました。性格が。

日本以外にずっと住んでおられたことで、日本に対して客観的な視線を持つことができると思うのですが、帰国されて改めて見えてくる日本というものはありますか。面白いもの、よくないもの、なんでもいいのですが。

サトミ:平和だなというのと、みんな優しい。

テレビとか観ないんですか?

サトミ:あんまり観ないです。だからジャスティン・ビーバーとかも知らなくて。

ああ、そうですね。じゃ、AKB48とかもご存じない?

サトミ:AKBはなんか、友だちにユーチューブを無理矢理観せられました。「これは絶対観なければならない!」とか言われて。

どうでした?

サトミ:80年代っぽいなあという感じで、アイドル・カルチャーはあんまり変わってないなって思いました。それはアメリカも同じだから。

ドラマとか映画とかは観ないんですか?

サトミ:アメリカのコメディ。ユーチューブとかで観ますね。すごい面白いです。なんか毒々しいんですよね。

アメリカのになっちゃうんですね。コメディなんだ。

サトミ:あ、今日はたまたまドラマ観てました。で、思ったんですけど、日本の刑事物って絶対最後に犯人が告白っていうか後悔したり謝罪したりして、これはアメリカにはない展開だなって思いました。

はははは!(一同笑)

サトミ:犯人が謝るだなんて、ないですよ!

はははは!

サトミ:これが日本なんだなって! テレビで道徳の授業が受けられる。テレビも教育の一環だっていう。

■犯人は撃たれて終わり。徹底的に外部的な存在で、こっちの世界に回収されることはない......

サトミ:ていうか、いい人が撃たれて終わるんです。子どもがレイプされて死んじゃうとか、アメリカのテレビ観て、これはほんとショッキングで寝れないなって最初の頃は思ってて。でもだんだん慣れてきちゃってどんな展開でもアリかなっていまは楽しめます。

なにかおすすめはありますか?

サトミ:『ティム&エリック』や『チルドレンズ・ホスピタル』っていうコメディはぶっとびー。『サーティー・ ロック』とかはふつうに面白いです。アメリカのお笑いって、ちょっと冗談キツすぎて笑えないっていうところがあるけど、慣れるとはまります。

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ディアハンターの初めてのショウって、ディアフーフのオープニングなんですよ。それでね、ディアハンターが有名になってからはすごい間違えられるんですよ。ディアハンターが出るのに「ディアフーフ!」ってMCが紹介したり、ディアフーフが出るのに「ディアハンター!」って言われたり。


ディアフーフ
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さて、ではこのアルバム・タイトルについてお伺いします。「イーヴィル」っていうのはつまり?

サトミ:はい。「悪」なんですけど、「スウィート・シックスティーン」というのがコンセプトだったので、そういうティーンエイジャー的な、キャッチーなタイトルがいいねっていう話になって、そしたらグレッグが「じゃあ、『ディアフーフ対イーヴィル』は?」って言い出して。"スーパー・デューパー・レスキュー・ヘッズ"って曲がありますけど、まさにスーパー・デューパー・レスキュー隊っていう、ゲームっぽい感じがいいんじゃない? ってことでこうなりました。「ナントカ隊」とか「ゴジラ対キングギドラ」みたいな感じ。ティーンらしい。

なんとなく「イーヴィル」という言葉によって名指されているもの、イメージっていうのはないんですか?

サトミ:みんなが思いつく「イーヴィル」っていうのはそれぞれ違うと思うんですけど、戦争だったり、メディアだったり、みんなが思いつく悪だったら何でも。

はい、ゲーム的なイメージの戦争だったりってことでしょうか。

サトミ:ゲーム的にテレビで放送されるブラウン管の向こうの遠い戦争。悪ってなんだろう? って。だからってディアフーフが悪じゃないわけじゃないんです。それはみんなのイメージを膨らませて考えてほしいです。先生が悪だっていうティーンもいるだろうし。

でも「ディアフーフ対善」ではなくて、「悪」なんですよね。

サトミ:そうですね。「ディアフーフ対善」でも良かったかも! でも、それだと毒々しさが欠けるかな。「対悪」がディアフーフっぽいかなというのがありました。どうですか? どんなふうに感じました。

私は「ディアフーフ対世界」って感じの意味かなと。

サトミ:そこまでおおきくなっちゃいますか?

野田:それはむちゃくちゃ深読みだね。

すみません(笑)。「イーヴィル」って「悪」って意味ですけど、「全体」というイメージで捉えました。ディアフーフ対それ以外のすべて。

サトミ:じゃあ孤立してるんだ。

「自分対それ以外のすべて」っていう感じで16歳の子が立ってる。

サトミ:ああ、それいいですよ。それ、じゃあ「イキ」で。

野田:最近は対立構造っていうのをあんまりはっきり言わないじゃないですか。

去年だとハイ・プレイシズがちょっと似たタイトルでしたね。

サトミ:ああ、それこの前なんかのインタヴューでも尋かれました。ハイ・プレイシズ対、何でしたっけ?

マンカインド......

野田:マンカインドだね。

サトミ:マンカインドを敵に回したらヤバイでしょう!? それはちょっと。

ははは! では「イーヴィル」は「マンカインド」ではない。

サトミ:「カインド」ではないですよ。「マンカインド」って人類じゃないですか。「ディアフーフ対人類」はひどくないですか? 「ザ・マン」ならわかりますけどね。社会的にいちばんトップの人とかが「ザ・マン」だから、そういう人って悪い人かもしれないけど、「マンカインド」は。すごいですね、そのタイトル。

はははは。ジャケットのハートは「スウィート」の意味ですかね。

サトミ:たぶんそういう冗談ですね。マットっていう......マシュー・ゴールドマンってアーティストが作ってくれて、「ディアフーフ対イーヴィル」って言ったら、もうそのタイトルで頭の中浮かんだ! って言って、描いてくれました。アートワークができあがってから思ったんですけど、「イーヴィル」については、ソニック・ユースの昔のアルバム『イヴォル(Evol)』を連想しました。「ラヴ」の逆。善と悪は常にお隣同士、「ラヴ」と「イーヴィル」(「イヴォル」)は背中合わせのイメージ。だから(ハートの)後ろに原爆が写ってたりとか......

ああ、これ原爆ですか。

サトミ:きのこ雲ですね。

じゃあ、なんとなくイーヴィルのイメージも固まりますね。

野田:もうティーンエイジャーのイメージではないね。ポリティカルだね。

サトミ:でも中開けるとポリティカルじゃないですよ。女の子がこうして写ってて。中見てみてくださいよ!......ほら、こんなにカラフルで!あ、でもこれ一瞬ポリティカルにも見えますね。

ちょっとヒップホップのイメージですね。

サトミ:ぱっと見がゲームのパッケージみたいから、子どもが間違えて買っていけばいいなあ。

野田:デザイナーにこういうイメージがあったんでしょうね。イーヴィルっていったら戦争だよなっていうような。

サトミ:歌詞にちょっとそういう言葉もあるんですけど、歌詞もみてないのに、このきのこ雲入れてきたんですよ、デザイナーは。アメリカってカルチャー的にそうなんでしょうね。すごくポリティックな話題をよくするんですよ。みんな政治に興味があるから、シティ・カレッジ行ってたときももう政治の授業がパンパンに人入ってて。

野田:でもアメリカで「原爆」っていう表現は、それこそアメリカ批判の奥の手というかねえ。ある意味すごくきわどいデザインなんじゃないですか。中身は可愛くても。

サトミ:なんか原爆をモチーフにしてるものって多いですよね、パンク・ロックとか。たぶんこれもわざとなんだと思うんですよね。ほら、パンク・ロックだと必ず原爆が出てきて、今回ディアフーフは「スウィート・シックスティーン」がテーマなわけだから、マシューはすごくパンク・ロック的なイメージで使ったのかなと思います。デッド・ケネディーズとか、アシュックとか。

白黒の。

サトミ:そう、だからあんまり色を使わない。色っていうか、何色も何色も使わない。モノ・トーンな感じで。最初のギタリストのロブがものすごくポリティカルだったんですよ。メンバーも私以外みんなベジタリアンで、でもロブはもっともっとすごくて。フード・ノット・ボムズってオーガナイゼーションがあるんですけど、みんなボランティアでホームレスに食事を作ったりするんですよ。私も一回行ったことがあって、チャーチの地下とかで食事を作るんです。明日賞味期限が切れちゃうような食品をもらってきて、それで料理するんですね。そしたらホームレスがそれをジャッジし出すんですよ。「このスープはいまいちだな」とかって。もう「ええー!?」って感じ(笑)。

野田:僕の同級生もサンフランスコで同じことやってましたけど、その文化は日本では一般的ではないですよね。

サトミ:隣りで一緒にホームレスのおじさんと食べながらね。面白いんですよ。けっこう政治的な関心が高いから、あとはアニマルの保護とかにいったり。その頃に遊んでた友達がみんなけっこうおもしろくて。カリフォルニアの木が伐られるからって言って、木に自分を縛りつけたりとかするの。

野田:おおー。「俺を斬ってから木を伐れ」という(笑)。

はははは!(一同笑)

サトミ:そう、そしたらその彼が「ちょっと僕ポートランド行くからディアフーフの車に乗せてって」って言ってきたんで一緒に行ったことがあったんですよ。それで途中のガソリン・スタンドですれ違ったとき見たんですけど、彼、手を洗ったあとに何枚も紙を使ってました!

ははははは!(一同笑)

サトミ:なにそれ、それちょっとわかんない! って(笑)。「それはいいの?」って訊きました。

ちょっとそういう意識が高いあまりに病的になっちゃうんですね。意味があべこべになっちゃう。さっきソニック・ユースの名前が出ましたが、ディアフーフってギター・バンドとしてのプライドがすごくあると思うんです。

サトミ:そうですか? 私はあんまりディアフーフにギター・バンドになってほしくないです。いつももっと「キー・ボード、キー・ボード!」って言ってます。

ソニック・ユースとかにも共通する、90年代のギターの音と、2000年代の知性と、サトミさんのヴォーカルとでほんとにずっと新鮮な音を出しているという印象なんです。ここ2、3年は深いディレイやリヴァーブのかかったギターの音がインディ・シーンでは主流で、そんな中でディアフーフのようにソリッドなギターの音が聴こえてくるとすごく緊張するんですね。あ、違う音がなってるって。たとえばディアハンターとか、どうですか?

サトミ:はい、お友だちです。ディアハンターの初めてのショウって、ディアフーフのオープニングなんですよ。

野田:ああ、そうなんですか!

へええ! そうなんですか!

サトミ:それでね、ディアハンターがポピュラーになってからはすごい間違えられるんですよ。ディアハンターが出るのに「ディアフーフ!」ってMCが紹介したり、ディアフーフが出るのに「ディアハンター!」って言われたり。

はははは! 大雑把だなあ。音ぜんぜん違うのに!

サトミ:Hまで合ってるから、いいかな。

よくないよくない!

サトミ:「ディアハンターでーす」とかって言ったりして。

もしディアフーフがすっごいリヴァービーだったりするとびっくりしますが。ではシューゲイザーとか興味はないですか?

サトミ:うーん、シューゲイザーってカテゴリーなんですか? だってシューを見てるっていう意味なんじゃ......

ですよね。でもカテゴリーになっちゃってますね。私よく言うのが、彼らは「シュー芸ザー」だっていう。シュー芸、つまりマイブラやスロウダイヴごっこをやる芸人さんたちなんです。そういう人たちでなんというかコミュニティというか。シーンが出来上がってしまっている。

サトミ:あははっ。シュー芸。なるほど。たぶんぜんぜん興味ないですね。でもディアフーフは何やってもよくて。レゲエとかやってもいいんですよ。ジャズやってもいいし。レゲエはあんまり上手じゃないですね。たまにリハとかでレゲエやろうよとか言って、ッジャッ、ッジャッ、ってはじめるんですけど、全然合ってないっていうか、常夏のイメージが全然出ないねってなって。難しいですねレゲエ。どう思いますか、ディアフーフのレゲエ。

野田:いや、面白いね。すごい聴きたいです。次のアルバムはぜひ(笑)。

サトミ:あはは、ほんとですか? 「ジャー!」って言って出てくるんです。

ははは。ダジャレじゃないですか! では次作の方向性も見えてきたということで(笑)、どうもありがとうございました。

 ありがとうございます。おかげさまでele-king、売れています!

 さて、ただいまタワーレコード新宿店 8Fのクラブ・コーナーにて、ele-king 復刊記念として、アルバム・レヴューにて紹介された商品を一挙15タイトルご試聴いただけます。近くに行かれた方はぜひ覗いてみてください!! そしてele-king読みながら、試聴しましょう!!

[Dubstep & Techno & others] #4 - ele-king

1. Shackleton / Man On A String Part 1 And 2 / Bastard Spirit

Woe To The Septic Heart!


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 相変わらず豪邸暮らしのメタルが書いてくれないので、自分で書くことにする。昔から言われているように、人間は満足してしまうと欲を無くすのだ。ある意味では羨ましい限りであり、また、メタルのような人間がDJとして暮らしていけるというのも悪いことではないか......などと思ったりもする。
 さて、昨年末、テクノ・シーンにおいてもっとも評判となったアルバムがシャックルトンのミックスCDである。全曲自分のトラックでミックスされたそれは、いわばミュータント・ワールド・ミュージックであり、アフリカン・パーカッションのポスト・ダブステップ的展開である。その素晴らしいミックスCDとほぼときを同じくしてリリースされたのがこのシングルで、いまだロング・ヒット中である。
 実際の話、「マン・オン・ア・ストリングス/バスタード・スピリット」は魅力いっぱいのシングルだ。アフロ・パーカッションをベースにしているとはいえ、サイケデリック検定試験ではAクラスの飛びようで、意味不明な効果音と脈絡のない展開の迷宮のなかで、アシッドをきめながら薄暗い熱帯雨林を歩いていると珍獣に出会ってしまっかのような、あるいはJGバラードめいた極彩色のディストピアが広がる。それでもベースは太く、グルーヴがある。DJならずとも欲しい1枚である。こういうシングルが売れるのは......、まったく悪いことではない。
 ミックスCDに関しては、後日レヴューする予定です。

2. Jessie Ware & SBTRKT / Nervousem | Numbers


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 サブトラクトには素晴らしい才能があると思う。ジョイ・オービソンとならぶ才能だ。ロスカがケヴィン・サンダーソンなら、サブトラクトとジョイ・オービソンははっきりとカール・クレイグだと言える。さすが、ザ・XXを輩出した〈ヤング・ターク〉がダブステップ・シーンから引っこ抜いただけある。とにかく、部族の仮面を被ったこのトラックメイカーは2011年の注目株のひとつだし、ジェームス・ブレイクと並んでアルバムが期待されているひとりである。
 サブトラクトの音楽性は幅広い。いまとなってはダブステップというよりも、デトロイティッシュなエレクトロやディープ・ハウス、あるいはジャジーなブロークンビーツ風の作品のほうが印象深い。12インチ2枚組の「2020」にはアトモスフェリックなテクノ色が強く出ていたし、〈ヤング・ターク〉から発表した"サウンドボーイ・シフト"にはダブの深みが広がっていた。"ルック・アット・スターズ"は彼のなかではもっともキャッチーな曲で、それこそカール・クレイグの作る歌モノのようなエレガントな色気がある。
 「ナーヴァス」は昨年末にリリースされたシングルで、タイトル曲はジェシー・ウェアのR&Bヴォーカルをフィーチャーしたキラー・チューンである。シンセのベースライン一発で決まってしまうという、クラブ・ミュージックにおいてハイレヴェルの曲だ。B面のアップリフティングなファンキー調の曲も捨てがたい。世界にはダンス・ミュージックを作れる人と作れない人の2種類がいる。サブトラクトは間違いなく前者である。

3. M.I.A. / It Takes A Muscle (Pearson Sound Refix) | XL Recordings


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 〈XL〉も味なことをする。これは昨年の『/\/\/\Y/\』収録曲の、ラマダンマンのピアソン・サウンド名義による片面のみのリミックス・シングルだ。広くはダブステップ・シーンのひとりではあるけれど、アルバムに参加したラスコとは毛色が違う。ラマダンマンは、ラスコと違ってアンダーグラウンドである。クレジットを見ただけで迷わず買ったこのシングルだが、ドラムマシンのスネアを主体としたプラスティックマン流の打ち込みの、よく知られるところのラマダンマン・サウンドで、違いといえばM.I.A.の声が入ることぐらいなのだが......まあ、良しとしましょう。キャッチーだし、後半のトリッピーな展開もありがちだが親しみやすい。まあ、M.I.A.の声がこのビートに混じっているだけでも興奮するよ。

4. Silkie / City Limits Volume 1.4 | Deep Medi Musik


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 シルキーは本当に格好いいよなー。A面の"スロウジャム"における重量級のダブステップ・ビートから最後の最後で鳴り響くメロウなサックスを聴くと彼がマイク・バンクスやイアン・オブライアン、あるいは4ヒーローのようなプロデューサーの系譜にいると言っても差し支えないんじゃないかと思える。 B面の"ワンダー"におけるシンコペーション、さりげないサックスの入り方、ベースのうねり、そして鍵盤の音色もそうだ。これが最新のアンダーグラウンド・ブラック・ミュージックであり、これがアーバン・ミュージックというもの。"シティ・リミッツ"シリーズの最新は、まったくを期待を裏切ることのないソウルフルな1枚であり、しかもこの人からは目が離せないとますます思わせる良いシングルである。

5. Moritz Von Oswald Trio / Digital Mystikz - Restructure 2

Honest Jon's Records


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 「ベルリンでミニマル」と言われただけで耳に栓をするような人は少なくない。僕が「ベルリンでミ......」と言った時点で不機嫌になる。わからないでもない。僕も昔は「ニューヨークでパ......」と言われただけで不機嫌になった。しかし、そんなせっかちな人にもこのシングルは薦めてみたい。モーリッツ・フォン・オズワルド(k)、マックス・ローダーバウアー(b)、サス・リパッティ(per)の3人と、そしてティキマン(g)によるモーリッツ・フォン・オズワルド・トリオの新作である。昨年リリースされたライヴ・アルバムも欧米ではすこるぶる評判が良かったが、メタルが何も言わないので僕はまだ聴いていない。それでもこのシングルを何故買ったかとえば、驚くべきことにB面をDMZのマーラがリミックスしているからである。ベルリン・ミニマルのゴッドファーザーが初めてロンドンのダブステップと手を組んだのだ。そして......マーラのリミックスは悪くはないのかもしれない、が、しかしA面に収録されたオリジナルの前ではかすんでいる。というか、マーク・マッガイアの蜂蜜たっぷりのミニマルを聴き込んだ耳にはこのストイシズムが新鮮に聴こえる。単調なキックドラムと曲の背後でうねっているベースとのバランスは見事で、抑制されたキーボード、ギターが地味であることの良さを最大に引き出す。

 年末の『エレキング』(紙版--もう書店に並んでいるので、みなさんよろしくお願いします)をホウホウの体で入稿したあとののんびりした正月の一週間で『漱石を読む』(福武書店)を読んだ。につまって個体になったブラックコーヒーのような文章の連鎖をたどるだけで、私はたいへん幸福な気分になる。以前湯浅学氏が『レコード・コレクターズ』で「溶けた鉛を飲みこむような」と評した――もしかしたらちがう人が書いたかもしれない--キャプテン・ビーフハートの代表作『トラウト・マスク・レプリカ』を文章に置き換えたら、こんな感じかもしれないと思った。いや、ほんとうは、いまから20年ほど前、学生だった私は、学生はつねにそうであるようにサヨク的であり、井上光晴をよく読んでいたが、彼が死んでひと月ほど経った『群像』だったかに彼の追悼特集が組まれ、特集とは関係のない、その号の巻頭にあった小島信夫の短編(「羽衣」だったと思う)のひとを食ったというよりも前提を無視した書き方に衝撃を受け、当時新刊だった『漱石を読む』はそのとき買ったのだが、小島信夫の批評集成が水声社からでたのを知って、再読したのだった。じつはビーフハートを聴いたのは、恥ずかしながら、その翌年の暮れにワーナーからはじめて国内盤CDがでたときであり、順番は逆だった。彼らの古典の誇張、いや、むしろ古典のディシプリンと呼びたくなる行為のなかからなにかが反転し、前衛と意図することのない道筋を、目の前に広がる道なき荒野に浮かびあがらせる感じは方法意識におもに焦点をあててきたが、私には抽象論、概念論だけではない、端正なフォーマットを否定する行為を運動に転化させる意図があった。膨大に引用する過去作品が薪や炭のように内燃機関を燃えあがらせ、吐き出した煙は粉塵をあとにのこした。エコロジカルな洗練は微塵もない。彼らは過去を他者をリスペクトしたように見せかけながら、小説や批評、あるいはブルースとブルースのあとに連なったポピュラー音楽のうえにことごとく「私ではないもの」としてあるときは傍線を引き、またあるときはその上に二重線を書きこんだが、「私」とはどういうものか?

 私は大晦日の紅白歌合戦のサワリだけ見ようと、テレビをつけると浜崎あゆみが歌っていた。"ヴァージン・ロード"という歌だった。彼女は純白のウエディング・ドレスを着てNHKホールの客席の後方から現れ、ドレスの後ろ裾は何十メートルにも及んでいたようだった。その姿は歌の内容とそぐわないわけではなく、むしろそのものなのだが、彼女がウエディング・ドレスを着て熱唱したただそれだけのシンプルな演出は、NHKホールの客席はおろか、テレビの画面を眺める私たちにも向けていないようであった。歌に没頭するというより、目もくれず演じるようであり、その歌唱にはチェリッシュから平松愛理を経て木村カエラにいたる、満ち足りた結婚ソングにはない非日常性が際だっており、ひとことでいえばオペラめいており、またそれは俗流のオペラや演劇や文学がそうであるように感傷的であり悲劇的に思えた。ケータイ小説的といってもよかった。2011年になって、YouTubeで"Virgin Road"のPVをみて、そのときかんじたことの一端はわかった。PVで彼女は花嫁姿で武装していた(形容でなくマシンガンをもった花嫁を演じていた)。浜崎あゆみは"Virgin Road"を映像化するにあたり、社会と切断した、ゼロ年代にセカイ系と呼ばれたものの雛形として、秩序を向こうにまわし戦ったボニーとクライド(『俺たちに明日はない』)を記号化したドラマがあったが、誰もが知っている通り、ボニーとクライドは悲劇である(これがシドとナンシーだったらもっと喜劇的だったろうに)。そこにはカタルシスに向かって感情を増幅させていくヴェクトルがあり、それはきわめて音楽的であるだけでなく、一面的に音楽的、つまり予定調和であり様式である。
 はたして彼女はその数時間後に、シェーンベルグから〈メゴ〉に至るまで、形式と抽象主義の大国オーストリア出身の俳優と結婚したのだが、いいたいのはそんなことではない。結婚の翌日か翌々日に彼女は「私はこれからも私であり続ける」というふうなコメントを出した。ここで彼女いう「私」はどんな「私」だろうか? 彼女個人ばかりでなく、90年代後半から彼女が音楽を通して代弁してきた、無数のシチュエーションとそこに直面した無数のひとたちの心情はそこに含まないのだろうか? 結婚という人生の転機においてさえも変わらない「私」とはなんだろうか?

 私には妻も子もいる(だんだん文章が妙な方向にいきそうだが......)。家庭をもつ身には家賃が高い上に狭い東京のマンションの一室では音楽さえまともに聴けない。『明暗』の津田のように親の援助を得られない境遇ではなおさらで、家人が寝静まった夜に蚊の鳴くような音でストゥージズを聴くこともしばしばである。私は強がってそこにこそ発見があるとはいわないけれども、主体はつねに状況の変容の憂き目に晒されていて、「私」は変わることは前提にある。もちろん状況とは結婚そのものを指してもいて、彼女は旧態依然とした結婚という制度に絡めとられないと宣言したとも考えられなくはない。では、ジェンダーが問題になるかといえばそうではない。ジェンダーの基底にある社会と制度、そこで拮抗する進歩主義と保守主義の両面から中心を眺めるときの視差があり、感覚的に後者に目を瞑ることで、主体である「私」は遠近感が曖昧にならざるを得ないということかもしれない。私は保守主義に与したいのではなく、制度をとりまく考えの両翼が問題にする以上に現状は屈折しており、結婚しようとしても簡単にできるものではない。との前置きを置くなかでは、戦後すぐの作家たちの初期設定だった家族観を共有できた時代--江藤淳が戦後の象徴とし、上野千鶴子が「男流」と呼んだ小島信夫に代表される家族観への両者の意見こそ視差だろう--はいまの時代、牧歌的にすら映るが、牧歌的な風景において当の「私」は家族という集団のなかで一筋縄ではいかない個別の問題を抱え翻弄される。それは古典的な制度の特異点かもしれないが、特異点としての「私」は普遍性への迂回路として機能しはじめる、そしてそういった特異点は関係性のなかにしか存在し得ないと小島信夫であれビーフハートであれいっていたように思える。浜崎あゆみにはそれがない。彼女の「私」は代名詞でこそあれ、変数ではない。90年代末、あるいはゼロ年代初頭に彼女が代弁していた最大公約数としての「私」は消え、彼女はすでにマジョリティの声ではない、というのは、産業としての音楽の斜陽化と、ポップ(アイドル)ミュージックにおける人工美がさらに加速したことが原因かもしれないし、背景にあるハイパー個人主義は多数派を作ることすら躊躇わせる何ものなのかもしれない。ハイパー個人主義というより個人主義のインフレーションが起こったこの10年は同時に、先鋭性とひきかえに金メッキのように薄く引き延ばされた(新)保守主義が社会の表層にはりついた10年だったといいかえてもいい。カルチャー全体の古典回帰はその背景と無縁ではないと思うし、私もこの数年古典に触れる機会は多かった。小島信夫しかりキャプテン・ビーフハートしかり。それらには制度/形式という組織体が存続するかぎりそこに巣くっていて蠕動する感じがある。かつてそうだっただけでなくいまでもそうなのである。そのとき「私」というものはそこでは、任意の空間における任意の点であるだけでなく、ブラウン運動をする点どうしの特殊な関係性のなかで、不確定性原理に似た対象との関わりを持たざるを得ない。となると、「社会は存在しない」という観点と、(ポスト・)フェミニズムをあわせて検証することになり、煩雑かつ長大になるので避けるが--後者については、『ゼロ年代の音楽 ビッチフォーク編』(河出書房新社)という本があるのでそちらを参照ください--ゼロ年代以降の「私」のうしろには公約数が控えているのではなく無限の匿名性が広がっており、もとが匿名的だったダンス・カルチャーの停滞はゆえなきことではなく、無数のジャンルが乱立したのは反動かもしれない。しかしそれぞれが音楽の制度であるジャンル・ミュージックとの関係を特殊に保つかぎり音楽はいくらか延命する可能をのこしている。ビーフハートのようにわかれないものとして、歴史のなかに宙づりになって。
 彼はいまは絵描きとして暮らしているが、ほんとうにまた音楽をはじめるチャンスはゼロなのだろうか。そう思う間もなく、浜崎あゆみの入籍より2週間も早く、ビーフハートは鬼籍に入ってしまった。

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 キャプテン・ビーフハートことドン・ヴァン・ブリートは2010年12月17日に没した。その2週間前、高校の同級生で『トラウト・マスク・レプリカ』をプロデュースしたフランク・ザッパの命日にあたる12月4日に、トークショウで湯浅学氏とザッパについて話した。
「ザッパはキャプテン・ビーフハートの才能に嫉妬してはいなかったでしょうか?」
 私はそう訊くと、湯浅氏は「それはあっただろう。ビーフハートみたいに形式を無視した音楽を作ったひとは、ザッパのような音楽主義者には疎んじられただろうが、憧れられもしただろう」
 そう述べたのは、ビーフハートの音楽はデルタ・ブルースを土台にしたが、やり方はブルースを洗練させるものではなく、緊張させ、野生化したのだといいたかったと思われる。それがもっとも顕著にあらわれたのはいうまでも『トラウト・マスク~』だが、その前の2作『セイフ・アズ・ミルク』『ストリクトリー・パーソナル』にしてもブルースに収まりきらないものはある(後者は彼らの英国ツアー中にマネージャーが勝手にだしたものだが)。ただ遠心点をどこに置くかには迷いというか、若干の逡巡はかんじる。逆説的にいえば、ブルースはおろか、音楽さえも追い越す音楽をこの世に生み出すことの畏れを乗り越えた結果、この世に生まれたのが『トラウト~』だったといえる。それほどこのアルバムはたいへんな戦いの涯に生まれた。「作曲8時間、練習1年、録音1週間」かかったとこのアルバムは語り草になっている。しかし筆舌に尽くしがたかったのは、音楽よりヴァン・ヴリートの意を汲むところにあった、と当時マジック・バンドの一員だったズート・ホーン・ロロことビル・ハークルロートは『ルナ・ノート』(水声社)で『トラウト~』の制作過程を述懐している。
「俺はなんとなくもう『奴隷犬』みたいになりかけていた。不可能と思われるパートの練習に三時間も悪戦苦闘し続けて、豚のように汗まみれになっていたのを思い出すな。実際、それは絶対に不可能だったんだ! 最終的に俺はその八十パーセントぐらいを達成し、俺にできる限りのことはやったという結論に落ち着いたが、それは実に九ヶ月の間この曲を練習続けた後のことだ! 何より最悪なのは、どこで曲が終わるか、曲の長さがどのくらい引き延ばされるのか、いつ変更されるのかもわからない。はっきり言ってドンの気まぐれ次第だったんだ」

 ヴァン・ヴリートはほとんど弾けないピアノを叩きながら『トラウト~』の曲を作曲し、マジック・バンドのメンバーに声音を使ったり色や情景で説明したりしたという。カリスマといわれるミュージシャンにありがちな過剰な自意識がそこに絡んでいるようにみえる。しかしそのエゴはただ肥大して存在を誇示するのではなく、周囲を飲みこみ、世間と衝突する運命にあった。およそ最悪な独裁者といわれてもしょうがないヴァン・ヴリートのコントロール・フリークぶりと疑心暗鬼と独善性は、彼の音楽が理解されないことへの怒りの裏返しであり、また同時に理解され得ない音楽に執着せざるを得ないみずからへの苛立ちの反動でもある。ロバート・ジョンスンが十字路で悪魔と取り交わした契約に、69年のドン・ヴァン・ヴリートは手を染めた......と書くと情緒的に過ぎるが、それほど『トラウト~』の異質さはロック史に鮮烈にのこっている。そして、つけくわえるなら、サマー・オブ・ラヴの時代の悪魔はすくなくとも戦前よりトリッピーだったはずだ。
 ハークルロートはこうも述べている。
「ドンの創造力というのは、純粋に音楽的な意味では、あまり明確な形を持ってないんだな。むしろものの見方が彫刻家の目なんだよ。音も、体も、人も、全部道具として見ているのさ。結局彼のバンドの一員としての俺達の使命は、彼の持つイメージを、何度でも再生可能な『音』に変えることだった」
 ハークルロートが彫刻家にどんなイメージをもっていたかはわからない。しかしヴァン・ヴリートの音楽をこれほど的確に表す評言もない。ポリフォニーともヘテロフォニーともいえる音楽の構造を空間の奥行きに置き換えたキャプテン・ビーフハートと彼のマジック・バンドは、フィル・スペクターやビートルズがスタジオに籠もって行った実験を、灼熱の砂漠にもちだしたといっても過言ではない。ビーフハートにはオーディオマニアックな人間がよろこぶ立体感やら奥行きやらはない。がしかし、どもるようにシンコペートし、強迫神経症のようにイヤな汗をかいたままループするフレーズの数々は、一音一音がそれぞれを異化し、触れられるほどの物質感をもっている。前からだけでなく、後ろからも斜めからも眺められる。賢明な読者のみなさんはもうお気づきかと思うが、それはまるでサイケデリックな体験の渦中のようだ。


追記:浜崎あゆみの入籍から3日後、元ジャパンのベーシスト、ミック・カーンが物故者になった。『トラウト~』の13曲目、"Dali's Car"と同名のバンドを元バウハウスのピーター・マーフィと再始動しようした矢先の訃報だった。ヴァン・ヴリートと同じく絵描きであり彫刻家でもあった彼のベース・ラインは音楽の規範を逸脱した、ハークルロートにならうなら、まさに彫刻的なものだった(とくに『錻力の太鼓』のアイデアは、ホルガー・シューカイとジャコ・パストリアスをつなぐものだったとも思う)。
 ともにご冥福をお祈りします。

ele-king vol.1 - ele-king

巻頭対談:戸川純×の子(神聖かまってちゃん)
〈特集〉最期の実験 拡張するUSアンダーグラウンド(野田努)     他

LUKE SOLOMON JAPAN TOUR 2011 - ele-king

 ルーク・ソロモンといえばダーティなハウスの達人、シカゴのディープ・ハウスと共振するUKアンダーグラウンドの顔役。1990年代なかば、シカゴ・ハウスのマスターのひとり、デリック・L・カーターとももに設立した〈クラシック・ミュージック〉で一世を風靡したアンダーグラウンドの大物だ。来日するので、ファンは忘れないように。なお、1/24(月)にはドミューンにも出演する。

1/21(金)-大阪 A NIGHT WITH... LUKE SOLOMON @ TRIANGLE
HP: www.triangle-osaka.jp

1/22(土)-東京 A1 supported by LEMIOLI @ AIR
HP: www.air-tokyo.com

東京公演 詳細

AIR presents A1  supported by LEMIOLI  LUKE SOLOMON
DJ:
LUKE SOLOMON (Classic / Rekids / MFF / Freaks / from UK)
REMI (R20)
Kouki.K
LIVE:
DEXTRAX
VJ:
LA-COSMOS (R20)

"Licence to Dance" vs R20" LOUNGE
Hiroaki OBA -Live- (Licence to Dance)
ITTETSU (Licence to Dance / THERME)
Marii (Licence to Danace / THERME / S)
PECO (R20)
TIERA (R20)
MARCY (R20)

Artist Coordinated by Primitive Inc.
www.primitive-inc.com

プロフィール

LUKE SOLOMON (Classic / Rekids / MFF / Freaks / from UK)

シカゴ・ハウス第2世代Ron Trent、Chez Damier等が中心に躍り出た96年にHeaven And EarthやPurple Hazeの名義で作品をリリースし、シカゴ・ハウス・シーンに衝撃を与えたLuke Solomon。その後、Chez DamierのパーティーでDJをした際に知り合ったDerrick L. CarterとレーベルClassic Music Companyを設立。Gemini、DJ Sneak、Herber、Blaze、Metro Area等といった幅広いアーティ ストたちの良質な作品をリリースし、最重要レーベルの1つとして知られている。

99年にはレーベルMFF ことMusic For Freaksを設立。Justin HarrisとのユニットFreaks名義でも4枚のアルバムをリリースしている。08年に初のソロ・アルバム『The Difference Engine』をRadio SlaveのレーベルRekidsから発表。クリック、ミニマル・ハウスにアシッドを注入したようなサウンドにより、エレクトロ・ハウスの新機軸としてスマッシュ・ヒットを記録した。尚、この作品は2010年にリ・エディット、リ・プロダクションを施した、よりDJフレンドリーな改訂盤もリリースされている。
その後も自身の楽曲制作以外に、レーベルLittle Creaturesの設立、Damian Lazarusのアルバム『Smoke The Monster Out』のプロデュースを行うなど、活動は多岐に渡っている。また2011年には休止状態となっていたClassic Music Companyの再始動がアナウンスされている。DJとしての評価も高く、ロンドンを中心にしながら世界中の名門クラブでギグをこなしている。数多くの音源の中から癖のある楽曲をプレイし続ける選曲眼と抜群のミックス・ワークで独特のグルーヴを生み出すDJスタイルから変態ハウスとも称され、一部の好事家から熱狂的ともいえる支持を得ている。

THE ORB - METALLIC SPHERES JAPAN TOUR 2011 - ele-king

 昨年リリースされた『メタリック・スフィアーズ』を聴いて『チルアウト』を思い出した人も多いはずだ。なにせデヴィッド・ギルモアのメロウな泣きのギターとアンビエント・ハウスとのブレンドである。『メタリック・スフィア』は、楽天性を欠いたメランコリックな『チルアウト』だと僕は思った。
 そしてジ・オーブは、今週末から金曜日と土曜日にライヴをやる。宇宙に飛びたい人、集まろう!

1.21 fri @ 大阪 SOUND-CHANNEL "テクノ喫茶 SPECIAL"

Live:
THE ORB, TERRAs
DJs: ALEX PATERSON (THE ORB), nakamoto, kobayashi, mongoose, kanadiann
Bar Space DJs: 威力, mikiako, yoshi, HaRuKa, makishi, kunio asai, YURI OGUSHI
VJ: HiraLion Deco: ONA, chancom a.k.a Emile
SHOP: parampara, 甘茶蔓, Lily Deva, abetica, ArihiruA

Open / Start: 20:00-
¥3,000 (Advance), ¥3,500 (Door) 共に w/ 1 Drink
Info: 06-6212-5552 (SOUND-CHANNEL) www.sound-channel.jp
TICKETS: newtone records (06-6281-0403), tamtamcafe (06-6568-9774), sound-channel (manager@sound-channel.jp), sea of green (info-seaofgreen01@hotmail.com) *上記アドレスまでパーティー開催日/お名前/ご連絡先/枚数を明記の上、送信ください。当日エントランスでの支払いとなります。

1.22 sat @ 東京 UNT "UBIK"

Live: THE ORB
DJs: ALEX PATERSON (THE ORB), yoshiki (Runch, op.disc), DJ SODEYAMA (ARCHIPEL, NO:MORE REC)
Saloon: Timothy Really Lab - Ryujiro Tamaki, tosi, y., kon, Sisi, Ngtom

Open / Start: 23:30-
¥3,000 (Advance), ¥3,500 (w/ Flyer), ¥4,000 (Door)
Info: 03-5459-8630 (UNIT) www.unit-tokyo.com
TICKETS: PIA (126-724), LAWSON (76503), e+ (eplus.jp), DISK UNION CLUB MUSIC SHOP (SHIBUYA, SHINJUKU, SHIMOKITAZAWA), DISK UNION (IKEBUKURO, KICHIJOJI), TECHNIQUE, WARSZAWA

THE ORB(ジ・オーブ)
www.theorb.com www.myspace.com/orbisms

イギリス出身のDJ/プロデューサー、アレックス・パターソンとThe KLFのジミー・コーティーによって、88年に結成。ジミー・コーティーの脱退以降、スラッシュや、キリング・ジョークのユース、システム7のスティーヴ・ヒレッジなど多数のアーティストがアルバム毎に参加。移り変わりの激しいエレクトロニック・ミュージック・シーンに於いて、常に時最先端で革新的な作品を送り出し続けている。代表作は『The Orb's Adventures Beyond The Ultraworld』『U.F.Orb』『Orbus Terrarum』など数知れない。

「アンビエント・ハウス」というチルアウト・ミュージックのジャンルを事実上具現化したアーティストであり、その後のエレクトロニック・ミュージックに多大な影響を与えた。近年はファースト・アルバム以来の盟友でありジャーマン・エレクトロニック・ミュージック界の重鎮トーマス・フェルマンとの共同作業が多く、2005年にはヨーロッパに於ける最優良テクノ・レーベルKOMPAKTから『Okie Dokie It's The Orb On Kompakt』、2009年にはドキュメンタリー映画「Plastic Planet」のサウンドトラック『Baghdad Batteries』など、ミニマル~クリック以降のテクノの潮流を独自解釈しながらも、The Orb本来のサウンドスケープを継承する珠玉の作品をリリースしている。
2010年12月、元ピンク・フロイドの伝説的ギターリスト、デヴィッド・ギルモアをフィーチャーした『Metallic Spheres』をリリースしたばかりである。

interview with Simi lab - ele-king

 神奈川県は相模原を拠点とするヒップホップ・ポッセ、シミラボはまだオリジナル・アルバムを出していない。が、しかし、彼らが2009年12月にYouTubeに何気なくアップした1本のミュージック・ヴィデオの衝撃だけで、彼らを現時点でele-kingに紹介するのには十分であると確信している。
 シミラボは突如として現れた異邦人たちである。これはある意味でメタファーであるが、そうでないとも言える。彼らの存在はわれわれが生きる社会の常識や固定観念に揺さぶりをかけているようにさえ思える。たかがヒップホップ・グループと侮ってはいけない。

 "WALKMAN"と名付けられた曲のMVには、ふたりの黒人男性のラッパーとラテン系と思しき女性ラッパー、そして小柄な東洋系の男性ラッパーが登場する。と、何の情報もなかった僕は最初そう認識した。妖しげなミニマル・ファンク・トラックの上で4人全員が日本語でラップしている。それが英語訛りの日本語なのか、それともネイティヴの日本語なのか。それさえ判別がつかなかった。4人ともおそらく20歳かそこそこだろうと思った(いくつかの思い違いはインタヴューで明らかになる)。
 部屋のなかで愉しげにラップし、コンビニに買い物に出かけ、夜道を颯爽と歩く。ただそれだけの、おそらく彼らのなんの変哲も無い日常を捉えたチープな映像だったが、この国の現実の速度に自分の感覚や想像力が追いつけていないことをまざまざと思い知らされた気がした。いったい彼らは何者なのだろうか? シミラボの瑞々しくユーモラスな音楽――奇妙なファンクネスが漂うトラック、変則的でリズミカルなラップ、人を煙に巻くようなリリック、それらには特別な輝きがあり、未知の可能性を秘めていることは間違いなかった。


QN From SIMI LAB
THE SHELL

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 2010年7月に〈ファイル〉からリリースされた、シミラボのリーダー的存在のQNのソロ・デビュー・アルバム『THE SHELL』も素晴らしかった。また、今年の3月にリリースされる予定の、アース・ノー・マッド(QNのトラックメイカー名義)のファースト・アルバム『Mud Day』の仮ミックス段階の音源を聴いたが、これはきっとさらにユニークな作品となって完成することだろう。"WALKMAN"はこのアルバムに収録される。グループとしてのアルバムも今年出す予定だという。
 正直言えば、僕はシミラボについてまだ上手く言葉にできていないでいる。しかし、答えを急ぐ必要はない。まずは彼らの話を聞こう。今回、取材に参加してくれたのは、ディープライド(DyyPRIDE)、マリア(MARIA)、QN、オムスビーツ(OMSB`EATS)、ハイスペック(Hi`Spec)の5人だ。シミラボとして初となるロング・インタヴューをお送りする。

シミラボのひとりひとりがマイノリティの世界で生きてきた人たちで、世界や社会を外から細かいところまで見てた人たちだと思うんです。この歳にしてはわかりきっちゃってる部分もある。もともとマイノリティだったものが集まって化学反応が起こったんだと思う。


QN

"WALKMAN"のMVを観て、シミラボに興味を持ったんです。まず「何者なの?」というのがあって。肌の色も性別もいろいろだし、しかも、みんな、日本語でラップしている。HPを見ても全貌がつかめないし(笑)。トラック、ラップ、リリック、すべてが斬新だと思いました。これまでにないユニークなスタイルを持った人たちが現れたことに興奮したんです。

マリア:うんうん。

新代田の〈フィーヴァー〉のライヴにも行きました。で、とにかく会って話したいと思ったんです。今日はみなさんの音楽的、人種的ルーツも含めてじっくり話を訊ければと思ってます。まずはひとりひとり軽く自己紹介からお願いできますか。

QN:そういうのはやっぱディープライドからじゃない。

ディープライド:いま21歳です。親父はアフリカのガーナの人です。

お父さんはどういう経緯で日本に来たんですか?

ディープライド: 曾じいさんが、1960年にガーナ大使館が建つときにはじめて日本に来たガーナ大使一行のひとりだったんです。親父はじいさんにその話を聞いてて、20歳から10年間エジブトで家庭教師をしたあと日本に来たらしいです。オレがまだ小さくて両親がいっしょだった頃、親父は現場仕事、工場、英会話教師をやってたみたいです。寝ないで働いてたって聞きました。最近、ガーナに不動産を買ったらしく、そろそろ帰るみたいですね。

お母さんは日本人の方ですか?

ディープライド:そうです。

ディープライドくんは日本生まれ日本育ち?

ディープライド:横浜生まれのちらほら育ちって感じっす(笑)。中学時代はオレのねぐらは押し入れでしたね。引きこもってました。ドラえもんみたいなもんです。CDプレイヤーと漫画を持って、押し入れにこもってずっと音楽を聴いてたりしてた。映画のサントラ集とか。その頃から、リリックじゃないけど、殴り書きはしてました。そこからラップを歌い出すまでに2、3年ぐらいかかってる。兄貴がDJやってて、親父が昔のR&Bとか聴いてたから、ラップとか音楽をやるようになったのはそういうのもあるかもしれない。

引きこもってたんだね。

ディープライド:押し入れのなかにこもってばかりだったオレが行けるような高校は私立で3つぐらいしかなかったから、定時制に行くつもりだったんだけど、母ちゃんが「昼間の学校に行けよ」って言ってくれて、頭の弱い高校になんとか入れてもらいましたね。卒業してからは普通に仕事してて、ラップをはじめたのは1年半前ぐらいです。

最初にガツンとやられた音楽はなんだった?

ディープライド:はじめて自分で買ったCDが50セントの『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』でしたね。試聴して言葉じゃ説明できないぐらい食らって、CD買ったんですよ。あとからいろいろ調べて、50セントの逆境に立ち向かう姿にも感銘を受けて。50セントは自分のなかにあった反骨精神に火を付ける引き金になったと言っても過言ではないと思いますね。ほんとに衝撃だった。

なるほど。まずはそんなところで、次はマリアさんお願いできますか。

マリア:22歳です。お父さんはアメリカ人でお母さんは日本人です。小学生のときにぜんぜん友だちがいなくて。日本の学校に通っていたから、米軍にも友だちがいなかったんです。

お父さんが米軍の人なんですか?

マリア:そうです。私の出身は青森の三沢基地で、そこから横浜にある根岸の米軍基地のPハウスに引っ越しました。基地のなかにティーン・センターみたいな10代の子たちが集まる施設があったんです。みんなの溜まり場みたいなところ。友だちはいなかったんですけど、そこでいつも映画とか観たりしてました。米軍のなかには白人のハーフより黒人のハーフが多くて、みんなヒップホップとかR&Bを聴いてて、小4ぐらいのときにスヌープ・ドッグの"ザ・ネクスト・エピソード"が出たんですよ。

うんうん。ドクター・ドレの曲だ。

マリア:そう、あれをみんな超かけてて。密かにカッコイイなって思ってたんですよ(笑)。小学校から中学校に上がっていくに連れて、自分から音楽を聴くようになって、高校に入ってはじめてブッダ・ブランドを聴いたんです。ニップスのラップを聴いたときに、日本のヒップホップってこんなカッコイイんだってはじめて実感したんですね。自分もラップしようと思ったのは15歳のときです。だから、やりはじめてからはけっこう長いです。高校に入ってからはヒップホップはどういうルーツで来ているかにすごく興味が沸いて、ファンクとかソウルを聴くようになって、いまは自分なりにいちばんカッコイイと思うやり方をしてます。

歌も歌ってますよね?

マリア:そうですね。デバージやアイズレー・ブラザーズなんかのソウルも好きだし、やっぱりブーツィー・コリンズは外せないですね。エアロスミスやマリリン・マンソンみたいなロックも好きです。あとは、アーハの"テイク・オン・ミー"とかクラウデッド・ハウスの"ドント・ ドリーム・ イズ・ オーヴァー"とか、ビリー・ジョエルも外せないですね。気持ちに残る爽やかなメロディが好きなんで、歌も少しやってる状態ですね。

なるほど。

マリア:ヤバい! チョー緊張する! 

お互いどんどんツッコミ合っていいですよ。

ディープライド:マリアはジャーマンの血も入ってるでしょ。

マリア:うちの父親がアメリカとドイツのハーフですね。

ディープライド:親父がハーフなの?! じゃあ、マリアはクォーターなのか。

マリア:そう。まあ、ハーフでもクォーターでもなんでもいいんだけどさ!

ディープライド:でも、言っとくけど、クォーターがいちばんモテるからね。

一同:ハハハハハッ!

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アメリカと日本のハーフです! 小さい頃に離婚して親父はいないんですけど、結婚したときに挨拶がてらに日本に来て住み着いたんだと思います。親父の仕事は足が臭かったんで土木だと思います。ちなみにいまはアメリカの従兄弟の家に居候してて、シャブ中らしいです(笑)。


OMSB'Eats

では、QNさん、お願いします。


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QN:僕はいま20歳で、母ちゃんはよくフィリピン人に間違えられる日本人です(笑)。親父は普通の日本人です。僕のルーツはなによりうちの姉ちゃんで、姉ちゃんがヒップホップが好きですごい聴かされてました。中学ぐらいで何を思ったか、吹奏楽に入ったりもしました。あと、オレ、事故にあって、かなり重症だったんです。生存確率が50%の事故で脳みそがいまでも右だけ腫れてるらしいんです。みんなにそれを話したら、「だから、QNって音楽的にすごいんだね」って。喜んでいいのかなんなのか。自分の才能には事故にあったことがでかいのかなって思ってますね。

ディープライド:よかったんじゃない!

QN:あと、気づいたら、自分がマイノリティっていうか少数派であることのほうが似合ってるんじゃないかなって思いはじめて。3人ぐらいで風呂行こうよって言って、けっきょく15人ぐらいで行くことになったときとか、じゃあ、オレ行かないって。

マイノリティってそういうことか(笑)。

QN:みんな行くならオレいいやって。

天邪鬼なところがあるんだね。

QN:そうっすね。オレの世代はやっぱエミネムがでかくて。『8マイル』があったし、流行ってました。みんながエミネム聴くなら、オレは他の聴こうって。それでスティーヴィー・ワンダーとか、そっちに行きました。

ラップやトラックを作りはじめたのはいくつぐらいですか?

QN:DJは中学3年のときにはじめました。親父の仕事先を手伝って、溜まった金でターンテーブルを買いました。それから2年後ぐらいに自分でトラック作るようになって、ラップするヤツもいないし、ラップもしようかなって。自分でやったほうが調子がいいなって。

最初はひとりではじめたんだね。

QN:そうっすね。中学の頃に仲良かったヤツをむりやり「やるぞ!」って誘ったけど、そいつは野球部で忙しくて。

オムスビーツ:いま、あいつはギャルちゃんとよく遊んでるけどね!(笑)

ハハハ。じゃあ、次はオムスビーツさんにお願いしますか。

オムスビーツ:21歳です。アメリカと日本のハーフです! 小さい頃に離婚して親父はいないんですけど、結婚したときに挨拶がてらに日本に来て住み着いたんだと思います。親父の仕事は足が臭かったんで土木だと思います。ちなみにいまはアメリカの従兄弟の家に居候してて、シャブ中らしいです(笑)。義理の父親がいるんですけど、そっちのほうが付き合いが長いしマトモなんで、父親って感じですね。

そうなんだね。

オムスビーツ:僕はもともと音楽とか嫌いだったんですよ。小さい頃、親が車でヒップホップを爆音で流してて、「音、下げろよ!」とかずっと言ってました。当時、ビギーが流行ってたから、『レディ・トゥ・ダイ』の"ギミ・ザ・ルート"のフレーズをよく覚えてますね。

へー、すごい小さいときですよね。

QN:子供のころ、オムスビーツがなにかを聴いて踊ってる写真があるよね?

オムスビーツ:MCハマーでしょ。あ、違う、R・ケリーだ!

ませた子供だねー。それも親が持ってたCDだったの?

オムスビーツ:そうですね。R&Bで踊ってました。あんま音楽とかどうでもよかったんですけど、中学の頃に地元の神奈川TVで『サクサク』っていう音楽番組がやってて、そこで紹介されるインディーズ・ロックが面白くなって。

たとえば、どういうバンド?

オムスビーツ:木村カエラが司会の番組だったんですけど、いきものがかりとかが出てましたね。その流れでヒット・チャートの音楽が好きになった。

親がヒップホップを聴いてたことにたいする反動があったの?

オムスビーツ:いや、反動ではないと思います。中学の頃にエミネムの"ルーズ・ユアセルフ"と"ウィズアウト・ミー"が流行ってて、それを聴いて「ヤバイ!」って思いましたよ。それから親が持ってるCDをパクりはじめた。『レディ・トゥ・ダイ』を聴いて、「あれ?! これ聴いたことあるな」って。当時はビギーより2パックのほうがリスペクトされてて、やんちゃな中学生Bボーイは2パックが好きだったから、ビギーを貸しても「微妙だな」って言われてた。でも、オレはビギーが好きだった。高校になって、ひたすら親のCDをパクって聴いてましたね。

QN:悪いね。

オムスビーツ:高校になってバイトをはじめて、やっと自分でCDを買うようになった。それからサウスに行きました。スリー・シックス・マフィアが"ステイ・フライ"を出して爆発寸前の時期ぐらいにそれのスクリューを聴いてた。ああ、気持ちいい~って。

マリア:ヤバイね。

オムスビーツ:それで、オレ、DJやるわってなって、高2ぐらいのときにタンテを買った。そのときに『ソース・マガジン』もゲトって。MFドゥームとマッドリブのマッドヴィレインってあるじゃないですか? あれをジャケ買いしてすごく良かったから、それぐらいからサウスが抜けてきた感じですね。

それからラップを自然にやるようになったんですか?

オムスビーツ:いまもシミラボのメンバーにいるDJアット(ATTO)っていうヤツと高校の頃に知り合って、よく遊ぶようになった。そしたら、たまたま知り合った、前はシミラボのメンバーだったマグってヤツと3人で音楽やりたいってなったんです。マグのフリースタイルを見て、自分もラップしたいと思って、その3人でIDBってグループを作りました。そいつらと〈サグ・ダウン〉(神奈川の相模原を拠点とするヒップホップ・ポッセ、SDPのパーティのこと)に遊び行ったときに、QNが当時やってたイヴェントのフライヤーを配ってて、オレがそれに遊びに行ったんです。それでなんか気が合って、オレとマグとアットとQNと当時いたヤツらでシミラボができたんです。

シミラボ結成の話はまたあとでじっくり訊こうと思いますが、最後にハイスペックさん、よろしくです。

ハイスペック:23歳です。父親と母親は純日本人です。

一同:フフフフフッ。

どうしたの?

ハイスペック:いや、オレ、いつもメキに見られるんで。

メキ?

ハイスペック:メキシカンの血が入ってるんじゃないかって。

ああ、掘りが深い顔してますもんね。

ハイスペック:だから、あえて純日本人だって言ったんです。自分が中1、2ぐらいのときに兄貴がDJをはじめて、オレもヒップホップを聴くようになりました。ちょこちょこターンテーブルを触らせてもらうようになって、そこから興味持ちはじめたのが高校入ってぐらいからですね。高校の文化祭で人の曲を使ってラップしたりして、高校卒業したら自分たちでちゃんとやりたいなって。

最初はどういう音楽だったんですか?

ハイスペック:湘南乃風とかですね。

オムスビーツ:レゲエじゃん。

ハイスペック:最初にはまったヒップホップはウェストサイドでしたね。『アップ・イン・スモーク』が流行ってて。卒業してグループ作って、自分もMCやる予定だったけど、DJがいなかったから、オレがDJやることになった感じです。ライヴも1回しかやってないんですけど。

で、いまはシミラボのメインバックDJですよね?

ハイスペック:そうです。オレが本厚木のほうでイヴェントをやってて、そのときにいっしょにやってた友だちがジョーダンを誘ってきて。

オムスビーツ:ジョーダンじゃわからないだろ!

ハイスペック:あ、オムスビーツのことです。

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私が横須賀のクラブでディープライドをカッコイイなって思って逆ナンしたんですよ。でも、彼女がいたからそのときは諦めて。そのあと、私は1年ぐらいアメリカに行ってて、帰って来て久しぶりにディープライドと遊んだんです。「お前、まだ音楽やってるか? オレ、ヤバいヤツらと知り合ったんだよ」ってディープライドが言うから、いっしょにQNの家に遊びに行ったんです。


MARIA

さっきも少し話が出ましたけど、シミラボが結成された経緯を教えてもらえますか。


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オムスビーツ:やっぱりQNが中心でしょ。

マリア:まず私が横須賀のクラブでダン......、あ、ディープライドをカッコイイなって思って逆ナンしたんですよ。でも、彼女がいたからそのときは諦めて。そのあと、私は1年ぐらいアメリカに行ってて、日本に帰って来て久しぶりにディープライドと遊んだんです。「お前、まだ音楽やってるか? オレ、ヤバいヤツらと知り合ったんだよ」ってディープライドが言うから、いっしょにQNの家に遊びに行ったんです。そこではじめてみんなと会ったんだよね。

クラブとかで知り合ってじょじょに形成された感じだ。みんな同じ地元や学校ではない?

一同:ぜんぜん違います!

高校のころからクラブに遊びに行ってたんですね?

ディープライド:ぜんぜんしてましたね。

クラブのIDチェックとか厳しかったから大変だったんじゃない?

オムスビーツ:厳しかった。

QN:うん、厳しかったよ。

マリア:でも、六本木はぜんぜん厳しくなかったよ。

ディープライド:マリアは女だからだよ。

オムスビーツ:しかも、マリアは老けてるし。

マリア:うるせーよ!

ディープライド:女だと甘いよね。男だと目くじら立ててさ。「わかってんのかよ!」って怒られるけど、女の子だと入れる。

どんなところに遊びに行ってたんですか?

ディープライド:みんなけっこう違うんだよね。この3人(QN、オムスビーツ、ハイスペック)が軽くまとまってる感じで、このふたり(マリア、ディープライド)は遊んでた場所がまたちょっと違いますね。

QN:渋谷のクラブでDJするときも普通にIDチェックされて、顔が若いからライヴがあるのに入れないって言われたりしてた。

3人が遊んでたクラブとふたりが遊んでたクラブの違いはどういったところにあるの?

ディープライド:クラブやジャンルで違いをうまく説明できないけど、オレは当時ウェッサイどっぷりだったから、横浜が多くて、都内なら六本木でした。高校時代はずっと昔のウェッサイばっかり聴いてたから。それ以外は音楽として興味ないぐらい。イージー・E、アイス・キューブ、スヌープ・ドッグ、ほんと西ばっかりでしたね。20歳ぐらいになってから、ルーツ・レゲエとかウェッサイの元ネタになってるファンクやソウルを聴くようになりましたけど。

オムスビーツ:オレがはじめて会ったとき、ディープライドはアフロだったよね。

マリア:私がナンパしたときもアフロだった。

QN:そのときスティード乗ってたよね。あれでヘルメット被るんだって。

ディープライド:2年間もアフロをすきもしないで、伸ばし放題だったから。いまの髪の毛の7倍ぐらいあった。当時は地下への階段を転げ落ちるぐらい飲んで、綺麗なお姉さんと遊ぶことしか頭になかったです。というか、当時はそれが最高の現実逃避の処世術でしたね。

マリア:私は普段六本木なんですけど、友だちがすごく黒人が好きで米軍の近くの横須賀のクラブに行ったときがあったんです。そこで、「めっちゃイケメンじゃん」と思った人がいて、それがディープライドだった。あのときはまわりの女がみんな敵に見えましたね。

ハハハ。シミラボは気づいたら出来上がっていた感じなんだね。

マリア:ほんとそうだよね。

オムスビーツ:やっちゃおうよって。

マリア:"WALKMAN"のPVもノリで撮ったしね。QNが「このパソコンでPV作れるぜ」って言ってて、じゃあやろっかってなったんだよね。

"WALKMAN"が話題になったことについてはどう思ってる?

オムスビーツ:もういいかなって(笑)。"WALKMAN"のイメージが付いちゃってるとイヤだ。他にもいろんなこともできるのに。

QN:逆にイメージ付いてるからそれを壊したときのインパクトがあるよ。

あれはいつ作ったんですか?

QN:去年の冬だからもうすぐ1年経つよね。

マリア:もう1年経ったよ!

どんな反応がいちばん多かった?

QN:ポンっといきなりアップされたから、まずこの人たちは誰? みたいな反応ですよね。

マリア:具だくさんだしさ。わけわかんない色が集まってるから、何系みたいな? ヒップホップなのはわかるけど、こいつら日本語話せちゃうんだって反応もあった。

QN:感想で「日本語でラップするガイジンのPV」みたいのがあった。

一同:ハハハハハッ!

英語は話せるの?

マリア:私しかしゃべれない。

自分のネイティヴの言語は日本語?

ディープライド:そうです。ネイティヴって意味ではマリアもそうかもしれないし。

マリア:日本語ですね。

オムスビーツ:英語が嫌いになりそうだよ。

ディープライド:恨んだこともあるよ。

オムスビーツ:あるある。

それは「英語を話せるんだろ」って見られるから?

オムスビーツ:そうそうそう。ガイジンにも日本人にもそう思われるから。

いちいち説明しなくちゃいけないよね。

オムスビーツ:そう、とにかくめんどくさかったですね。

マリア:やっぱりハーフとして生まれると英語が話せないってほんとにコンプレックスだよね。私ももともとも聴くぐらいしかできなくて、アメリカに行ってはじめて話せるようになった。

QN:それは純日本人のオレが見ても感じたね。ディープライドはとくにそういうのを意識してる部分があるし。

ディープライド:意識し過ぎちゃいました(笑)。

オムスビーツ:オレはそれも通り過ぎて、どうでもよくなっちゃった。

QN:そういう意味では開き直ってるオムスビーツと先に知り合ってたから、マリアやダン(ディープライド)と知り合ったときにぜんぜん違和感なく入っていけた。

マリア:だからよかったのかもね。

QN:オムスビーツなんてうちにはじめて遊びに来たときに......

オムスビーツ:納豆食ったもんね!

一同:ワハハハハハッ!!

QN:旨そうに納豆食ってるから、「あ、こいつ日本人なんだ」って。

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オレは当時ウェッサイどっぷりだったから、横浜が多くて、都内なら六本木でした。高校時代はずっと昔のウェッサイばっかり聴いてたから。それ以外は音楽として興味ないぐらい。イージー・E、アイス・キューブ、スヌープ・ドッグ、ほんと西ばっかりでしたね。


DyyPRIDE

"WALKMAN"が話題になったとき、驚く反面、当然だろうなって気持ちもあった?


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オムスビーツ:まあね! みたいな。

QN:ぶっちゃけ、"WALKMAN"でこれだけ話題になって、「これでいいの?」っていうのはあった。

オムスビーツ:それはあったよね。

マリア:これからだよね。

QN:ぜんぜんまだスタートしてない。

「こいつら何者だ?」というのもあったけど、やっぱりトラックとラップが格好良かったからここまで評判になったんだと思いますよ。

マリア:それはQN様様だと思いますよ。はじめてあのトラックを聴いたとき、私はニヤニヤして帰ったもん。

オムスビーツ:ほんとにー?!

マリア:ほんとだよ。私はDJじゃないけど、それなりに幅広いジャンルを聴いてるし、ヒップホップはとくに深く聴いてるから、QNのあのトラックは間違いないと思った。

これまでとは違った何かを感じましたね。

マリア:タイム感ですかね。

:そうそうそう。

ディープライド:なにそれ?

マリア:なにそれじゃないよ。いまさら言うなよ!

オムスビーツ:マリア、説明して!

マリア:普通の人は普通に歩くじゃない。うちらはちょっとつまずいてる感じ。

上手い表現しますね。

ディープライド:みんな変わってるんだよね。すべての感覚が変わってる。そうとしか言いようがないよね。普通の人がラップしてもありがちなラップにしかならないけど、良くも悪くも変わってるんだと思いますよ。

QNくんは、ソロ・アルバムもそうだったけど、すごくオープンマインドな感覚で音楽を作ってますよね。アフロ・ファンク・テイストのトラックやソウルフルなR&Bテイストの曲やGファンク風の曲があったかと思えば、一方で"WALKMAN"みたいのも作るし。

オムスビーツ:QNに会うたびに、「これがヤバイんだよ!」ってCDを持って行ってたし、QNがうちに来たときはCDの山をごっそり貸してましたね。

QN:ごっそりね。

オムスビーツ:そういうのが何束かあるよね。

そこにはどんなCDがあったんですか?

QN:う~ん、なんだろう? たとえば、エドガー・アレン・フローとか。具体的には忘れちゃったけど、オムスビーツと知り合う前は「90年代がヤバイ!」ってずっとDJプレミアのビートとかばっかりにやられてて、最近のメインストリームなんてヒップホップじゃねぇって感じだった。

オムスビーツ:デム、マザーファッカー!

QN:っていう感じだったんですけど。オムスビーツがカンパニー・フロウとかリヴィング・レジェンズを聴かせてくれた。オムスビーツが「ヤバイ」って言ってるから、とりあえず、オレも「ヤバイ」って言うようにしてた。

ディープライド:ハッハッ!

オムスビーツ:「あぁ、知ってる、知ってる」って。

QN:こいつがヤバイって言ってるなら、聴きこもうっていうのはあった。マッドヴィレインもオムスビーツから教えてもらった。

マリア:"WALKMAN"に関しては、オープン......なんでしたっけ? 

オープンマインドですね。

マリア:そう。QNは決め付けることをしないで何でも聴くから。昭和のアニメのサントラを聴いてたり。

オムスビーツ:フォークも聴くしね。

マリア:ヒップホップの人があまりしない聴き方って言ったらおかしいかもしれないですけど、昭和の日本的なエッセンスも混ぜてるから、こういう妖しい雰囲気が出てくるんだと思う。

中古で昔のCDやレコードを買ったりもしてるんですか?

QN:ずっとしてますね。中学からDJやってたから。高校に入ったらみんなバイクとか車に興味を持つところなんですけど......

ディープライド:オレとかね。

QN:オレは、「そのマフラー、2スト? 4スト?」とかそれぐらいしかわからないから。

オムスビーツ:それぐらいわかれば十分でしょ。

QN:とりあえず、金があったらレコード買ってましたね。

音好きだったんだね。

QN:みんなと同じことをやりたくないっていうのがあったんです。

そこも天邪鬼だったんだ。シミラボがいまのシミラボとして精力的に活動し始めたのはここ1年ぐらいと考えていいのかな?

オムスビーツ:シミラボはとっくにあったけど......

ディープライド:いまの形で活動しはじめたのは1年ぐらい前っすね。

QN:そうだね。ここ1、2年だね。"WALKMAN"はマリアとダンがいてこそだよね。

オムスビーツ:絶対そうでしょ。

QN:最初のほうは「マリアとダンは最近入ったばかりで関係ないでしょ」みたいな感じだったけど。

ディープライド:そんなに!

QN:いや、ちょっといまの話は盛ったけどさ。いまとなってはマリアとダンがいなければ、あそこまで話題になってないよ。それはほんとに思う。この4人っていうのがやっぱりでかかった。

でも、まだまだいろんなメンバーがいるらしいですね。

QN:この3倍ぐらいはいますね。

マリア:いる。

オムスビーツ:いるいる。しかも強いよね。

なんかウータン・クランみたいな感じだね。

QN:最初はそんなことを考えてましたね。

オムスビーツ:2軍とか作りたいよねって。ウータンは3軍、4軍までいるからね。

マリア:へ~。

ところで、シミラボっていう名前の由来はなんですか?

QN:クルーとしても、音楽としても"染み渡る"という意味からきてますね。友だちだけでもないし、家族でもない。「just a simi lab」という感じですね。でも、家族ぐらいの絆なのかもしれないし。

ディープライド:結束しようとし過ぎてないからそこがいいと思いますね。

ラップや歌やトラックを作ったり、音楽をやるのはエネルギーのいることじゃないですか。表現欲求はどこから出てくるんですか?

ディープライド:もちろんヒップホップをカッコイイと思ってたけど、2、3年ぐらいひきこもってたときにいろいろ書いてて、ラップはその延長ですね。ラップは自分のなかのものを吐き出す術ですね。どうせ紙に書いたものがあるなら、ヒップホップが好きだし、ラップをやろうと思いました。

マリア:私はもともとソウルとかロックも好きだったし、詩もよく見てたんです。自分も音楽で人を動かせたらいいなって気持ちが強い。それではじめたのが大きいです。とくにいまなんか仕事もバリバリやってるから、音楽をやるのはエネルギーがす~ごいいるんです。ちょっと仕事で疲れてるから、QNのところに行くの今日は止めておこうと思ってると自分はそのレヴェルで止まってしまって、まわりが成長していくっていう現状があって。でも、みんなと会うことで刺激を受けて、いいものを作ろうって思える。みんなのことをどんどん好きになれるし。仕事は大変ですけど、エネルギーを使う価値があると思ってます。

QN:フフフフフ。

マリア:なに笑ってんの! いますごいいい話してるのにさ!

QN:思い出し笑いしちゃった(笑)。「みんなのことをどんどん好きになれる」って言ったからさ。最初は、ジョーダンは超ブサイクだし、オレはぜんぜん愛想のないヤツみたいなことをマリアは言ってたから。

オムスビーツ:お前、そんなこと言ってたの!

マリア:アハハハハッ!

オムスビーツ:超ブサイクか~。

マリア:最初はしょうがないじゃん。

オムスビーツ:ああ、オレは超ブサイクだよ! あ~、泣ける。

マリア:それは表向きだけだよ。でも、なんか、みんなと会ってるうちに見慣れてきた。いまとなってはみんなめっちゃ好き!

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最近、英語を勉強してて、再来年ぐらいから英語でラップしようと思ってますね。ディープライドと話したんだけど、日本語訛りの英語がカッコイイってヤツがいるかもしれないじゃんって。日本語訛りの英語のフロウがあっちでヤバイじゃんってなるかもしれないし。


DJ HI'SPEC

みんな仲が良いね(笑)。やっぱ、ヒップホップや音楽をやる悦びってみんなで集まって何かを作ることだったりする?


QN From SIMI LAB
THE SHELL

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マリア:それはすごいある。

オムスビーツ:でも、集まるけど、何かを作ろうってなかなかつながらないんだよ。

マリア:でも、いまは何かをやろうってなってるでしょ。

オムスビーツ:そうだね。ここ最近だよね。

遊びの延長線上でやっている感じ?

ディープライド:オレはそんなのないな。遊びじゃない。オレはさっきも言いましたけど、自分のなかから出てくる炸裂した脳細胞を処理していますね。他のみんなは違うかもしれないけどね。

『Mud Day』に入ってる"Madness Lab"のディープライドくんのラップで、「あっしの故郷はエイジアの極東/ジャパニーズ・ソサヤティ/(中略)こんな僕なんてほっといてちょうだい/さもなきゃ包丁から飛び出しナイフ」という歌詞があるじゃないですか。そこで表現しているのは疎外感ですか?

ディープライド:いや、劣等感ですね。

QN:第三者的にダンを見る限りだけど、ほんとに最初オレらと知り合ったときは、自分から言葉が漏れてくる感じがした。

ディープライド:そうだね。

QN:でも、ここ最近のラップを聴いてると、そこを脱してやっとラップっていうひとつの表現方法を楽しみはじめてる感じが伝わってくる。

ディープライド:前まで自分の腕を切ってたりしてて、「お前はもう死んだほうがいい」っていう声がずっと聞こえてた。

マリア:ほんとヤバかったよ。

ディープライド:そうなると、物とかがすべてゆがんで見えるんですよ。自分の意識が夢を見てるだけみたいな。そういうときに言葉しかなかったんですよ。

劣等感を感じてしまう理由はなんだったんですか?

ディープライド:それはさっきも話したけど、日本語しかしゃべれないことをバカにされることとか。あと、家族のなかでハーフが自分だけなんですよ。兄弟はいるけど、ハーフはオレだけで、自分が不自然な存在に思えるんです。なにが普通なのかがわからなくなったりしてた。劣等感はそういうところから来てるんでしょうね。どんなに真面目にやっててもお前は普通じゃないと言われるし。

QN:ダンがそういうこと言うのはほんとに冗談じゃないから。そういうことですごい共感しちゃう部分もあるし、ぜんぜんついていけない部分もある。

オムスビーツ:ダンの話を聞いてると、オレはそういうことを何も考えてなかったなって思う。

QN:いまはいっしょかもしれないけど、ぜんぜん違う世界を生きてきたんだなってことが伝わってくる。ダンはほんとに大変な思いをしてきたんだろうけど、ある意味僕らからしたら魅力的な経験をしてるとも思う。

オムスビーツ:毎日、そういうこと話されるのはいいけど、花金とかにあって、そういうこと話されるのは楽しい。

QN:たしかに毎日だと勘ぐるもんね。オレも精神的に病んでるときは、ダンが言った「普通なんてないよ」っていう言葉に1週間ぐらい考えさせられたりする。

マリア:だから、ラッパー・ネームがDyyPRIDEなんですよ。

たとえば、"WALKMAN"や"知らない先輩"にはいい意味で生意気な態度が出てると思ったんですよ。年功序列や世間の常識に媚びてないというか、媚びたくないっていう気持ちが強く出てるなって。

QN:シミラボのひとりひとりがマイノリティの世界で生きてきた人たちで、世界や社会を外から細かいところまで見てた人たちだと思うんです。絶対そうでしょ? ある意味冷たい部分もあったりするだろうし。この歳にしてはわかりきっちゃってる部分もある。もともとマイノリティだったものが集まって化学反応が起こったんだと思う。

マリア:ひとりひとりの家庭の事情もあったし。普通に育ってきたらマイノリティの考えなんて生まれなかったと思うんですよ。やっぱりそれなりにラフな道のりがあったから。人からいろんなことを言われたり、客観的に自分を見ることが多かった。

シミラボのHPのプロフィールやMVを観ると、観る側を煙に巻こうみたいな感じもするんだけど、あれは意識的にやってる?

QN:いや、HPに関して言えば、オムスとオレが遊びでやってるだけですね。

マリア:私も知らない。

QN:自分で自分の解析するのもあれですけど、オレはけっこう物わかりがいいんじゃないかなって思う。オレ自身、すごい人生を歩んできたわけではないし、こんなに変わった人たちといっしょに同じレヴェルで会話できたり、同じ遊びができるのは......。

ディープライド:でも、QNは天才バカボンだよね。バカと天才は紙一重って言うじゃないですか。スゲェ変な言葉使いをするし、右に行くと思ったら、左に行くような感じがある。人がわからないようなイメージを持ってて、立体映像を見ているような脳みその持ち主なんですよ。

シミラボってシリアスな部分とユーモアの部分のバランスがいいですよね。今日の話を聞いてても思ったけど。真面目にふざけてる感じがあるというか。

ディープライド:真面目にふざけてるっていい言葉ですね。

ところで、日本のヒップホップはそんなに聴いてきたわけではないんですか? やっぱ海外のもの?

マリア:私は洋楽が普通だったから、日本の曲はまじダセェって思ってました。カッコイイと思ったのはXジャパンぐらいだった(笑)。それもおかしな話なんですけど。やっぱりニップスにすごく影響されました。他にはジブラとかドラゴンアッシュとか。あと、スケボーキングのラップがすごい好きでよく聴いてました。どういう日本語のラップがカッコイイんだろうって観点で日本語ラップを聴いてました。

QN:オムスやオレやハイスペックは、敏感とまでは言えないけど、日本のヒップホップ・シーンにある程度アンテナを張っていて、マリアやディープライドがオレらの知らない音楽を持ってくる感じですね。

なるほど。これからの展望は何かありますか? 人生的にも音楽的にも。

QN:全体的に将来こうしようっていうのはあるのかな?

マリア:あんまりないかな。私、女だし。

オムスビーツ:意味わかんないよ。

QN:ハイスペックはどう? 今後どうしたいかいちばん訊いてみたいよ。

ディープライド:ハイスペック、YO!

QN:2年後は?

ハイスペック:日本だけじゃなくて、広い世界でやりたいとはほんとに思います。日本だけだと人も少ないし、世界で考えたら、オレらの音楽を気に入ってくれる人はもっとたくさんいるわけで。

QN:人によっては「なに言ってるんだよ!」っていう人もいるかもしれないけど、「見てろよ!」って感じですね。2011年はディープライド、アース・ノー・マッド、オレのEP、シミラボのアルバム、あとはハイスペック、オムスビーツ、アース・ノー・マッドのミックスCDを出すつもりです。日本でシミラボの地位をがっつり上げて、再来年ぐらいから本気で世界的なプロモーションができればなって。マリアは英語しゃべれるしね。

ディープライド:英語しゃべれちゃうしね!(笑)

マリア:六本木のガイジンに"WALKMAN"を聴かせたりすると、「オー、ナイスビーツ!」とか言うし。

オムスビーツ:ソー・クール・メ~ン!

マリア:向こうのみんなにも受け入れられるものがあると思う。実際、日本人も洋楽の意味ってわかってなかったりするから、日本語が他の国の人にわからなくてもいいものができれば浸透していくと思うし。

QN:最近、英語を勉強してて、再来年ぐらいから英語でラップしようと思ってますね。ディープライドと話したんだけど、日本語訛りの英語がカッコイイってヤツがいるかもしれないじゃんって。日本語訛りの英語のフロウがあっちでヤバイじゃんってなるかもしれないし。

マリア:そうだよ。

QN:フィリピン人がUSでデビューしたり、韓国人だって英語でラップしてるじゃん。

ファー・イースト・ムーヴメントなんていまアメリカで凄いでしょ。

マリア:ヤバイっすよね。

QN:日本っていう環境でほとんど英語が話せないのもすごいまずいことだし、英語で言いたいことを表現できれば、地球規模の音楽として評価されることもあるだろうし。そこらへんはオムスビーツのビートにしても、マリアの歌にしても、ディープライドの表現にしても、ガイジンに劣ってるかって言ったら、通用する自信はかなりあるので。

マリア:自信があったからここまでやってこれたしね。

ディープライド:オレは他にもやりたいことがいっぱいありますね。映画を撮りたいと思ってるし、自分自身の本も書きたい。

ディープライドくんにとってラップは表現方法のひとつなんですね。表現欲求がまずさきに溢れ出てくる感じだ。

ディープライド:そうですね。言葉でつながっていきたい。

QN:じゃあ、ハイスペック最後に一言!

ハイスペック:トラックも作っていきたいっすね。そこをどんどん前に出していきたい。みんなのライヴをしやすいように、バックDJもやっていきますけど。

ディープライド:自分もちゃんと目立ってくれないとね!

マリア:そうだよ。

オムスビーツ:脱ぐぐらいしないと!

山本精一 - ele-king

 「僕は僕から離れていく(I could walk away from me)」......、ルー・リードの歌う"キャンディズ・セズ"を高校生の頃、自分の足りない英語力で一生懸命に訳したときに、この美しい歌の最後のフレーズが心に残った。それは......やはり男が男を止めて女になることを意味しているのだろうか、いや、それともアルチュール・ランボーが「酩酊船」で幻視したような、歴史に作られた「俺」から逃れるように、荒れ狂う大海原に放たれた「俺」と同じような感覚なのだろうか、それとも強力なドラッグ体験によるある種の離脱感覚なのだろうか、そもそもなぜ「僕」が「僕」から離れることをルー・リードはこの不思議な歌の最後の締めにもってきたのだろうか......、実際のところそこにどんな意味が込められていようとも、それは実に象徴的な言葉として鋭く機能して、どこまでも思いを巡らせるのだ。そして、「僕は僕から離れていく」というその感覚は、山本精一がカヴァーするに相応しいと僕は思う。彼の音楽からは、多くの人が執着する何かを思い切り突き放した果ての妙な静寂さを感じるのだけれど(それは悟りや諦念といった言葉に置き換えたくはない何かである)、新作では彼の"キャンディズ・セズ"が聴けるのだ。

 『プレイグラウンド~アコースティック』は、昨年の『プレイグラウンド』に収録された曲のうち8曲、そしてPhewといっしょに作ったマスターピース『幸福のすみか』からの2曲ほか"キャンディズ・セズ"のカヴァーなどを加えた、アコースティック・ギターによる弾き語りアルバムである。つまり、山本精一の"言葉"と"歌"が際だつ作品となっている。言うまでもなく山本精一は詩人と呼びうる言葉を持った音楽家のひとりなので、早くから彼の言葉を感受していたリスナーのみならず、七尾旅人や前野健太や豊田道倫らを通じてフォークに傾倒しているリスナーにとっても興味深い作品と言えるだろう。
 そう、山本精一の"言葉"......とはいえ、アルバムのはじまりは『幸福のすみか』の1曲目に収録されたPhewの作詞の"鼻"で、しかし実に平明な言葉で綴られたアナーキーな歌は、本作の内容の序章としては最高の効果を生んでいる。山本精一は、あの歌の言葉の素晴らしさをあらためて伝えたかったという思いもあったのかもしれないけれど、"鼻"で歌われる、幸せではないと自覚しながら悲しくもないと感じる見事に裏返った感覚は、そのまま『プレイグラウンド』における日常へと流れ込むようだ。

 「コトバの海であたりは水浸し」......代わり映えのない、かつて永山則夫が銃口を向けた日本の退屈な風景をスリーヴアートにした『プレイグラウンド』は、たいした深みを持たずに使い捨てられていく表面的には前向きな言葉たちへの鎮魂歌のように聴こえる。「こんなに多くの声と交わって/だれひとりの声も知らないで」......アコースティック・ヴァージョンの"PLAYGROUND"からは、痛みがさらにヒリヒリと伝わってくる。「手紙が来るのは いつごろだろう」、素晴らしい絶望が美しいメロディとともに広がる。私たちはどこに行けない、実は本当は、どこにも行けない、『プレイグラウンド』の曲はそう訴えている。
 そして彼は、うちに秘めた憤怒をそう簡単に見せたりはしない。「静かな場所が嫌いだ」とルー・ルードは歌っているが、山本精一は「思ったより世界は静かだ」と歌いはじめている。その曲"待ち合わせ"には、山本精一の歌の、簡単には割り切れない深さが滲み出ている。「であいはいつも孤独/きれいな人にであい/小さな闇に気づき/その闇はしだいに深い朝へ変わる」
 真面目に生きれば生きるほど小さな闇に気づいてしまう。山本精一はさらに"宝石の海"でこう歌う。「限られた部屋でいつも叫んでいる/こころさえも見せずに」......苦しみや絶望のない音楽など信用するに値しない、とまでは僕は言わないけれど、しかしそれを持っている確実に表現は飽きられることはない、大切に聴かれ続けるのだ、"キャンディズ・セズ"のように。

 『プレイグラウンド~アコースティック』は、山本精一の控えめな狂気が、古典的なポップ・ソングの様式を用いた親しみやすいメロディのなかで礼儀正しく踊っている。このアルバムを聴けば彼が魅力的なソングライターであることを誰もが認めるだろう。"待ち合わせ"や"PLAYGROUND"にしても、"宝石の海"にしても、このヴァージョンで聴いてあらてめて曲そのものの輝きを思い知る。そしてすべての曲はヴェルヴェット・アンダーグラウンドのサード・アルバムの通称クローゼット・ミックスのように、生々しく録音されている。ちなみにファンのあいだで名曲として知られる(そしていつもele-kingで写真を撮ってくれる小原泰弘君が酒に酔うと必ず歌い出す)"まさおの夢"(作詞はPhew)のアコースティック・ヴァージョンも収録されている。

復刊! ele-king - ele-king

 というわけで、紙版が蘇りました。
以下、目次です。せっかくの紙版なので、店頭で、ぜひ実物を手にとってください。
宇川デザインのラメ入り表紙が怪しく光っています。

ele-king Vol.1

4 巻頭グラビア 「風景 抽象」 鵜飼悠

10 EKジャーナル
〝世界〟を席巻したチップチューンのセカイ 三田格
 デイヴィッド・リンチのストレート・テクノ 松村正人

12 ユタカワサキバンド改めucnvバンド インタヴュー ばるぼら

20 TAL-KING 1
巻頭対談:戸川純×の子(神聖かまってちゃん) 水越真紀/三田格/小林エリカ

36 特集 最期の実験 松村正人/塩田正幸
 拡張するusアンダーグラウンド 野田努
 マーク・マッガイア(エメラルズ) インタヴュー 野田努
 エクスペリメンタル・ナウ&ゼン 往復書簡:松村正人×三田格
 〈解析・〉実験の伝統/伝統の実験 畠中実
 〈解析・〉アニコレ的サイケデリアの拡散 橋元優歩
 ワンオウトリックス・ポイント・ネヴァー インタヴュー 三田格
 ジェイムズ・プロトキン インタヴュー 三田格
 最後の最後の実験~40の実験ディスク 松村正人/三田格

74 no ele-king
 豊田道倫 磯部涼/菊池良助

82 小特集
 ポスト・ダブステップ・カタログ
 ダブステップの現在 野田努
 ダブステップ以降の加速的な広がりに関するレヴュー 飯島直樹/野田努

91 論考
 ヘテロフォニック・グルーヴ・ミュージック 山口元輝

96 TAL-KING 2
 PSG インタヴュー 磯部涼/小原泰広

104 連載コラム
 20禁のおもひで Shitaraba
 キャッチ&リリース tomad
 私の好きな 牛尾憲輔(agraph)
 編年体ノイズ正史 T・美川/グレート・ザ・歌舞伎町
カルチャーコラム
 EKかっとあっぷあっぷ
 文芸/思想 五所純子
 漫画 三田格
 映画 粉川哲夫
 アート 結城加代子
 写真 小原真史
 演劇 プルサーマル・フジコ

128 TAL-KING 3
 シーフィール インタヴュー 野田努

134 再録
 ウェブ・エレキング・より、2010年ジャンル別レヴュー集

174 特別対談
 宇川直宏×三田格 DOMMUNEが可視化したテン年代の音との戯れ

巻末特集
 2010年、私の選ぶ10枚
  agraph、E-JIMA、今里、Eccy、加藤綾一、Shitaraba、渋谷慶一郎、
  DJ NOBU、テツジ・タナカ、チン中村、tomad、永井聖一、ナカコー、
  野田努、二木信、Phew、やくしまるえつこ、world's end girlfriend

表1、4 宇川直宏
表2、3 高橋恭司

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