![]() Wild Nothing Nocturne Captured Tracks/よしもとアール・アンド・シー |
デビュー・フル『ジェミニ』がしずかに、しかしつよい支持をもってシーンに迎え入れられたのは、ここ数年にわたるエイティーズ・ブームのもうひとつの側面を象徴していたと言えるかもしれない。シンセ/エレクトロ・ポップなどがふたたび参照され、さらなる先鋭化がほどこされている状況は多くのリスナーの知るところであるし、インディ・ダンス・シーンも同様である。あのマーク・マッガイアですらがライヴでディスコをかけてしまうほど80年代色は強烈に機能してきた。
ワイルド・ナッシングやそのリリース元である〈キャプチャード・トラックス〉は、そうしたものと共鳴しながらも、よりポスト・パンクやギター・ポップ、シューゲイザーといったUK寄りの音に新しい息を吹き込んだ存在だ。より内向的な音楽性を特徴として、UKインディの美しい遺産を掘り当ててきた。いま、そうしたトレンド自体は徐々に次のフェイズへと移りゆこうとしているが、変わらぬものをいとおしむように――ポップスとしての普遍性を取り出して研磨するように――、ジャック・テイタムはセカンド・アルバム『ノクターン』を完成させた。ソングライターとしての才と、レコード・コレクターとしての愛情や探求心がこぼれそうにたたえられた作品である。眠れぬ夜を相手に紡ぎだされたというそれぞれの曲には、以下の回答に明瞭に示されるとおり、彼の繊細で真面目な性質までもが陰影ゆたかに彫り込まれている。
ぼく自身はあのプロダクションにすごく惹かれるんだよね。あと、あの時代の音楽には、すごく純粋な感触がある気がする。ある意味すっごくシリアスなんだけど、同時にシリアスでもないっていう。
■好きなアーティストとしてザ・スミスなどの名が挙がっていますが、まわりの同世代もザ・スミスを聴いていたりするのですか?
ジャック:別に周りが聴いてたわけじゃないな。ぼくはつねに音楽を探して、レコードを買ってるような人間のひとりなんだよ。つねに音楽をリサーチして。いまでもそう。レコード屋に毎日通って、何時間もいて、あるバンドに繋がる別のバンドを発見していって。そういうのってオブセッションになったりもするしね。
■〈キャプチャード・トラックス〉には、あなたの他にもミンクスやクラフト・スペルズなど、〈クリエイション〉や〈サラ〉、〈ファクトリー〉といった80年代UKのギター・ポップ、あるいはニュー・ロマンティクスと呼ばれたようなバンドの影響が感じられます。ミンクスもクラフト・スペルズもあなたも、みなアメリカのアーティストであるということがおもしろいのですが、あなたからは80年代のUKや音楽はどのように見えますか?
ジャック:ぼく自身はあのプロダクションにすごく惹かれるんだよね。あと、あの時代の音楽には、すごく純粋な感触がある気がする。ある意味すっごくシリアスなんだけど、同時にシリアスでもないっていう。ソングライターとして、キュアーにしてもスミスにしても、何故かぼくにとってはすごくコネクトできるんだ。ぼくの音楽を好きな人も、ああいう音楽を聴いてる人、聴いたことがある人が多いと思う。だって......いい音楽だから(笑)。
■〈キャプチャード・トラックス〉が埋もれていたシューゲイザー・バンドの発掘を行っている点などからみると、あなたがたは自然に集まってきたというよりは、主宰者であるマイク・スナイパーによって招き入れられたという感じなのでしょうか?
ジャック:その通り。全部マイクのアイデアなんだよね。ぼくの場合、マイクがぼくをインターネットで見つけてきた。いくつか自分の曲をアップしてたんだけど、それを聴いたマイクが「もっと聴きたい」って連絡してきて。最初はもっと曖昧な関係で、ぼくは彼のことをあんまり知らなかったし、レーベルのこともよく知らなかったんだ。その頃はまだ〈キャプチャード・トラックス〉も7インチしか出してなかったし。でもニューヨークに行って、彼に会うことになって......今ではしょっちゅう会ってるし、レーベルの全員と仲がいいんだ。ある意味ファミリーなんだよね。音楽的なアイデンティティをシェアしてるし、みんな音楽のファンで、80年代UKの音楽に参照点があるのも同じだから。
■MTVに象徴されるような、アメリカの80年代の音楽へのあこがれやシンパシーはありますか?
ジャック:そういうのってないかも。コンテンポラリーなポップ・ミュージックについていくのって、僕にとってはすごく疲れちゃうんだよね。ラジオも聴かないし、テレビもあんまり観ないし、ラジオから流行ってる曲が流れるたびにびっくりしちゃうんだ。それが何か全然わからないから(笑)。遅れてるんだよ。
[[SplitPage]]いまではしょっちゅう会ってるし、レーベルの全員と仲がいいんだ。ある意味ファミリーなんだよね。音楽的なアイデンティティをシェアしてるし、みんな音楽のファンで、80年代UKの音楽に参照点があるのも同じだから。
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■『ノクターン』は、大半がツアーのために滞在したジョージア州で書かれたということですね。滞在したのはどのような場所でしたか? また、こうした生活のなかで印象深かったことがらについて教えてください。
ジャック:ジョージアは関係してると思う。曲のほとんどは、ツアーじゃなくてジョージアに住んでたときに書いた曲だし、もともとジョージアに引っ越したいちばん大きな理由が......ある意味、当時僕のまわりで起きてたことから離れるためだったんだよ。あの頃、僕はつねにツアーをしてて、帰る家があるって感じられなかったんだよね。大学のためにヴァージニアに移ったあと、ずっとツアーが続いてて。で、休みに入ったときに、友だちが住んでるジョージアに引っ越したんだ。とにかく、いろんなことからいったん離れるのにいい場所だと思ったんだよね。ずっと旅をして、毎晩ライヴをやるのって、ほんとに疲れるから。「ジョージアだったら静かな生活が送れるだろう」って思えた。でも結局どうだったかっていうと、もちろん快適で、住み心地もよかったんだけど......やることがほとんどなくて(笑)。自分の時間を有効に使ってると思えなかったんだ。その頃もまだツアーはあったし、なんか落ち着かなかったんだよね。そのせいで眠れなくなって。でも、それがいい結果にもなった。ジョージアにいるときにいい曲が書けたし。他にやることがなくて、音楽のことばっかり考えるようになったせいでね(笑)。ずっと言ってることなんだけど、このレコードの大半は深夜に書かれたし、心が落ち着かない、うまく眠れない――みたいなフィーリングから生まれてきたんだ」
注)現在はブルックリンに居住
■ファースト・アルバムはガレージ・バンドでひとりでつくりあげたということですが、今作はプロデューサーとしてニコラス・ヴェルネスが加わっていますね。はじめにあなたからどのような作品にしたいというお話をされましたか? また彼とのレコーディングの模様について教えてください。
ジャック:このレコードについて話した人たちのなかにニコラスがいたんだよね。いっしょにやる相手としては、他にも何人かプロデューサーと話したんだけど。そう、まだ引っ越す前にニューヨークでいろいろ人とミーティングをしたときに、彼とも話をしたんだ。そのときはちょっとだけだったんだけど、ニコラスの人柄やプロセス全体への彼のアプローチが気に入ったんだよ。もともと会おうと思った最初の理由は、彼がブラッドフォード・コックス――ディアハンターやアトラス・サウンドでやってた仕事が好きだったからなんだ。で、会ってみたら美意識的にも音楽的にもしっくりきて。実際、最初に会ってからレコーディングに入るまでにはかなり期間が開いてたんだよ。知り合った頃、僕はまだ曲を作りながら、セカンド・アルバムで何をやりたいのか模索してたから。で、ニューヨークに引っ越してから、またニコラスと話すようになって、彼とレコードを作ろうって決めた。
■前作のラフでもこもことこもったようなプロダクションも好きでしたが、今作はすっきりとクリアに整えられたように感じました。"ディス・チェイン・ウォント・ブレイク"や"パラダイス"などのように、ベース・ラインやビートもシャープになったと思います。あなたのなかでもっとも前作とちがうと感じている部分はどのようなところですか?
ジャック:今回とりかかったときに考えてたのは、前よりもクリーンで、ああいうサウンドに頼らないものにしよう、ってことだった。最初はリヴァーブとかのエフェクトをもっと削ぎ落としたサウンドを試したんだよ。
■リヴァーブやディレイはいまでもあなたのなかで新鮮なエフェクトだと感じられますか?
ジャック:いまでも重要なエフェクトだと思うよ。必ずしも不可欠じゃないけど、やっぱりつねに好きなサウンドではあるから。
■ジャケットも美しく、中古レコード屋でみつけた80年代の隠れ名盤のような趣があります。こうしたヴィジュアル・イメージもあなたのアイディアによるものですか?
ジャック:もともとはひとつのカヴァーにするつもりだったんだよ。でも候補が挙がってきたときに、全部マーブル紙的なアートワークで、それからひとつ選ぶことになって......。たぶん、最初に「全部やろう」って提案したのは〈キャプチャード・トラックス〉だったと思う。パルプの『ディファレント・クラス』みたいなアイデアだね。あのアルバムのスリーヴって、表が切り抜きになってて、6枚のちがうインサートが入ってるだろ? だから僕らも6枚のインサートを作って、好きなように変えられるようにしようってことになった。いったんそのアイデアが出てくると、全員が興奮したんだよね。いまじゃもうないようなアイデアだから。僕自身レコード・コレクターだから、フィジカル・コピー、ヴァイナルとしておもしろいし、人がそれを買う理由になるのにも惹かれた。ネットからダウンロードしたりするだけじゃなくて、物としての価値があるってところにね。
■日本盤のボーナス・トラックである" フィール・ユー・ナウ"などには、よりエレクトロニックな方法が試されているように感じますが、これからの音楽的な展開として思い描いているようなことはありますか?
ジャック:しばらくそういうことは考えないんじゃないかな(笑)。あれはちょっと出てきたアイデアっていうだけだと思うし。まだ次のアルバムのための新曲も書きはじめてないし。"フィール・ユー・ナウ"は確かに他の曲とちょっとちがうけど、実際、いつでも同時進行でいろんな種類の曲があるんだよ。『ノクターン』でも、他の曲と合わないから入れなかった曲がたくさんある。アルバムの一貫性が欲しかったからね。まあ、次のアルバムを作りはじめるときには僕のテイストががらっと変わるかもしれないし......まだわかんないよ。
■マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのカタログが再発されましたね。あなたはどの作品が好きですか?
ジャック:どれも大好きだよ! 僕がいちばん好きな曲は実際、EP『グライダー』に入ってるんだ。"オフ・ユア・フェイス"っていう曲。すっごくきれいな曲なんだけど、あのギター・サウンドもあって。どれも好きだけど、初期の『エクスタシー・アンド・ワイン』はすごく好きだな。
■ひとりで音楽づくりをはじめる前に、バンドを組んだりしてはいないのですか?
ジャック:大学に入るまで、他の人とプレイすることはなかったんだ。バンドもやったんだけど、本気でやってたわけじゃなくて。
■いまあなたがとくに関心を寄せている音楽について教えてください。
ジャック:んー、なにかな。実際、前より60年代の音楽に興味がわいてきてるところなんだ。バーズとか、ホリーズとか。クラウトロックも聴きはじめてる。あと、ビージーズの初期のレコードをかなり聴いてるんだよね(笑)。フェイクなロック・バンドだった頃。見つけたときには、そのこと知らなかったんだけど......だから、すっごくエキサイトして。なんていうアルバムだっけ? たぶん、『ビー・ジーズ・ファースト』っていうタイトルだったと思う(笑)。

















