「R」と一致するもの

NODA - ele-king

1989年、長崎生まれ、東京在住、DJ。

Sakana、Zatoとともに月1でネット・ストリーミングを行なう〈T.R Radio〉を2014年に始動。その他、渋谷LXで開催されるパーティFallにDJ Teiと共にレギュラー出演中。

今後のDJスケジュール
2/25 TBA at 渋谷 OTO
2/28 T.R Radio with Mincer
3/6 Leisure System presents New Build at Liquidroom Guest: Shackleton, Objekt

Soundcloud
https://soundcloud.com/noda-kohei

T.R
https://mixlr.com/tr--2/

NODAが選ぶ、2月の10枚。

Just Off - ele-king

 米国生まれの漂泊のチェリスト、トリスタン・ホンジンガーはデレク・ベイリーのカンパニー、ミシャ・メンゲルベルグ、ハン・ベニンクらのICP、アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハやペーター・ブロッツマンとのグローブ・ユニティ、セシル・テイラーの欧州グループに名を連ねる歴戦の即興者であるばかりか日本にも浅からぬ縁がある。22年前の初来日のおりの近藤等則、ペーター・コヴァルト、豊住芳三郎との『What Are You Talking About?』はこの顔ぶれからすわ、ごりごりばりばりの即興かと身がまえたリスナーをあざやかにいなすフォービートあり、歌ものあり、全員が脳天から突き抜けて裏がえしになるかのような集団即興ありの、ジャズのポストモダンうんぬんのしちめんどくさい議論する以前の奇妙でひとなつこい顔つきでひとを喰った即興カーニヴァルの趣だった。そこでのトリスタンは弦を軋ませメロディを紡ぐだけでなく、調性と常道からの逸脱合戦を近藤とくりひろげながら、狂言回しとして即興の導線をきりもりした。それはたぶん、ことジャズにおいて、チェロの構造上の特性(音域とか)とそこから導かれた役割とが、彼の生来の資質とタマゴとニワトリさがらの関係なるところから来るものでありいまもそれは変わらない、というか変わりようがないけれども変わらないからといってなにか問題でも?

 ジャスト・オフはトリスタンと千野秀一、向島ゆり子、瀬尾高志との、上述のアルバムと同じくカルテット編成だがこちらは三艇の弦楽器に千野秀一の鍵盤を加えた変則弦楽アンサンブルが基調である。表題の『The House Of Wasps』の“Wasps”はトリスタン自身ライナーで断っているとおり、ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタントとは関係ない。もっといえばブラッキー・ローレス率いるメタル・バンドとも(たぶん)関係ない。これはまったくの余談だから読み飛ばしてけっこうだが、私はブラッキー・ローレスは血濡れたパブリックイメージを保つためみずからヤスリで歯を削り尖らせていたとむかしものの本で読んだ憶えがある。ものすごく痛いそうだ。トリスタン・ホンジンガーは歯を削ることはないであろう。しかしながらしっかりした歯並びの間から彼の発する音楽言語はもはやトリスタン・ホンジンガー固有の独立語といえるほどのものだ。トム・コラともハンク・ロバーツともちがう。無数の記号を散りばめるのに、ネコのようの軽やかに身をかわし、毛を逆立てたと思えば日だまりに丸まって前足を舐めるような弓づかいに指づかい。朗々としたバリトンに高音の金切り声。その声音は意味を伝えるためのみにあるものではない。私たちがラッキーなのは音はどんなものであれともかくも聴けてしまう、聴いてしまうことだ。

 ジャスト・オフもまた弦楽曲の既視感を借りながら形式を断裁し、飛躍をひそませることで異化しながら曲のかもす情感にゆさぶりをかけつづけ、沖縄民謡やらキャバレー・ミュージックやらフリージャズやらがひょっこり顔を出す数分の旅路のうちに手の内に掴まえていたはずのモチーフが気づけば雲散霧消している。これを現代音楽ないしインプロにくくって知ったふうになって遠ざけるのはもったいない。前半の組曲形式に、“Ace Of Wasps”“Queen Of Wasps”“Jack Of Wasps”などの「wasp」入りの曲の数々。そこでは12本の弦と白鍵と黒鍵が追いかけっこするうちに結び目にもつれたかと思えば解けていく。もちまえのユーモア感覚こそ今回はやや抑え気味だが、大道芸人は宮廷道化師にとりたてられたからといってやることに変わりはない。だからといって彼らはトリックスターなどではない。それもまたわかったつもりになるための道具にすぎない。『The House Of Wasps』にはただ蜂(wasp)の羽音に似た唸りがあり、複雑性の謂いともいえるそれに擬態/描写するトリスタン・ホンジンガーの変わらぬ資質があり、ジャスト・オフにしかできない協奏と狂騒がある。まったく自然だ。

Praezisa Rapid 3000を知っているか? - ele-king

 2012年、world's end girlfriendやSerphなどのリリースで知られる〈noble〉が、海外バンドとして初めて手掛けたPraezisa Rapid 3000。彼らはドイツはライプチヒを拠点として活動するトリオで、マウント・キンビー(Mount Kimbie)やアントールド(Untold)などベースミュージック勢との共演がある一方で、今回のツアーでもコラボレーションするように、〈Morr Music〉のSing Fangなどカラフルでドリーミーなエレクトロニカとも共振する音楽性が魅力的だ。今回報ぜられた来日情報は桜の頃を過ぎるが、楽しみに待ちたい。

■Praezisa Rapid 3000 - Japan Tour 2015

ドイツはライプチヒの新世代トリオ、Praezisa Rapid 3000。待望の初来日ツアーが今年4月に決定しました。
ドイツ東部ザクセン州の音楽都市、ライプチヒを拠点に活動するPraezisa Rapid 3000は、Simon 12345、Devaaya Sharkattack、Guschlingの3名からなるトリオバンド。ネパールやインド、中近東など、多国籍なエキゾチック・サウンドに最新のベース・ミュージックを掛け合わせた2nd アルバム『Miami/Mumbai』のリリースも記憶に新しい彼らが、今年4月に待望のジャパン・ツアーを行います。

東京公演には、昨年12月に1stフル『White Girl』をnobleよりリリースしたmus.hibaと、100%サンプリング製法を謳い、昨年11 月にVirgin Babylon Records より初のCD アルバムをリリースしたcanooooopyも登場。京都では、ベルリンのMorr Musicからリリースする共にアイスランドのアーティストSoleyとSin Fangとのコラボでの来日公演を行います。山形公演には、nobleとも何かと縁の深い現地在住のアーティスト/DJ のSHINYA TAKATORI も出演。埼玉公演には、kilk 勢に加え、2nd『Miami/Mumbai』にもリワークで参加した服部峻も大阪より駆けつけます。

今回のツアーには、Simon12345による別動トリオSimon12345 & The Lazer twinsのメンバー二人もサポート・ミュージシャンとして来日し、5人編成でのパフォーマンスを行います。

世界中の好事家たちを魅了する、錬金術師めいた抜群のコラージュ・センスで生み出されるレフトフィールド・ポップス、どこかユーモラスで謎めいた、新世代のハイブリッド・サウンドを、ぜひ生でご堪能ください。みなさまのお越しをお待ちしております。

■Tour Details

Praezisa Rapid 3000 - Japan Tour 2015

東京公演:
Miami/Tokyo
4月22日(水)
東京・渋谷 O-nest(https://shibuya-o.com/category/nest
Live Act: Praezisa Rapid 3000、mus.hiba、canooooopy
開場:19:00/開演:19:30
料金:3,000円(前売)/3,500円(当日)_ドリンク代別
チケット:ローソンチケット(Lコード:71522)/e+
問い合わせ:O-nest(https://shibuya-o.com/category/nest

京都公演:
night cruising「Praezisa Rapid 3000 Japan Tour 2015 "Döbeln/Kyoto"」+「sóley & Sin
Fang Japan Tour 2015 in Kyoto」
4月23日(木)
京都 METRO(https://www.metro.ne.jp/
Live Act: Praezisa Rapid 3000、sóley、Sin Fang、miaou
開場:19:00/開演:19:30
料金:3,000円(前売)/3,500円(当日)_ドリンク代別
予約:info@nightcruising.jp
問い合わせ:night cruising(https://nightcruising.jp/

山形公演:
Yamagata/Mumbai supported by RAF-REC
4月26日(日)
山形 sandinista(https://www.sandinista.jp/
Live Act: Praezisa Rapid 3000、SHINYA TAKATORI、about me
DJ:Satoru Akiyama (CSGB)、A-bit (slow motion)、Takatox、
Live Painting : SOLID
開場&開演:19:00
料金:2,500円(前売)/2デイズチケット : 3,000円(※27日のアフターパーティーとの通しチケット
です)/3,000円(当日)_ドリンク代別
予約:RAF-REC(https://rankandfilerec.com/)/sandinista(https://www.sandinista.jp/
問い合わせ:RAF-REC(https://rankandfilerec.com/

山形公演アフター・パーティ:
pr3k ancient spacebase
4月27日(月)
山形 RAF-REC(https://rankandfilerec.com/
DJ:Simon12345、Devaaya Sharkattack、;..(from Praezisa Rapid 3000)、SHINYA TAKATORI
(RAF-REC)
開場&開演:19:00
料金:1,000円(当日)
問い合わせ:RAF-REC(https://rankandfilerec.com/

埼玉公演:
Saitama/Detroit
4月29日(水)
埼玉・大宮 ヒソミネ(https://hisomine.com/
Live Act: Praezisa Rapid 3000、服部峻、Aureole、at her open door
開場:18:00/開演:18:30
料金:3,000円(前売)/3,500円(当日)_ドリンク代別
チケット:Peatix(https://peatix.com/event/72632)
問い合わせ:ヒソミネ(https://hisomine.com/

 

ツアー企画・制作:noble
共催:night cruising(4/23)、RANKandFILE RECORDS(4/26, 4/27)、kilk(4/29)
助成 ドイツ連邦共和国外務省
協力:Goethe-Institut ドイツ文化センター、HiBiKi MaMeShiBa (GORGE IN)
ツア


第27回:保育士とポリティクス - ele-king

 わたしは保育士である。
 で、これはたとえ話だが、ある保育士の落ち度で、いや、こう言ったほうがいい。保育園経営者の明らかなる怠慢や失態や、またはこの経営者が実は児童虐待者で幼児が血を流す姿を見て性的興奮をおぼえる、あるいはその姿をこっそり撮影してその筋の方々に売りさばいて金儲けするなどの腹黒い人間であり、そんな経営者がわざと子供が怪我をする状況を準備していたため、血まみれになった幼児たちが園の庭に倒れているとする。
 それを見た保育士はまずどうするだろう。
 激怒してオフィスに殴り込み、「こうなったのは非人道的な貴様のせいだ」「貴様などに保育園を経営する資格はない」「やめろ、死ね」と経営者に食ってかかるだろうか。
んなわけはない。
 保育士はまず血まみれで倒れている子供たちに応急処置を施し、必要であれば救急車を呼び、どうも危険な細工が施してあるらしい庭から子供たち全員を避難させ、血を見て泣いている子供がいれば彼らを自分の胸に抱きしめて落ち着かせるだろう。
 経営者への非難はそれからである。

             ******

 イラン人の友人は、今でも底辺託児所と呼ばれる(わたしが勝手に呼んでいるのだが)施設で働いている。が、政府から補助金を切られ、民間からの寄付も底をついたせいで、託児所は週3日しか開けられなくなったそうだ。資金不足で午前中だけしか運営できなくなったという話は聞いていたが、今年からはいよいよ毎日運営できなくなったのだ。世知辛い。
 ISに日本人の人質が殺害されたとき、日本には「こんなとき、英国なら特殊部隊S.A.Sがバリバリ活躍して」みたいなことを言っていた人もいたようだが、「いやーもうそういう時代じゃないって。S.A.Sもリストラされてるよ、緊縮で。軍隊も警察も規模縮小してるもん。へろへろよ、この国」というのが英国人たちの反応だった。緊縮は底辺生活者サポート施設利用者の層もガラリと変えたという。施設名物であったと言っても過言ではない、自ら仕事をしないことを選び、主義主張や思想のために生きていた英国人の姿はもはやそこにはないらしい。
 「どこを見渡しても、移民、移民。英国人はもういない。まるで難民センターみたいになった。英国人は幹部だけ。幹部はセンターから給料もらってるからね。後はみんな仕事についたんでしょう。生活保護切られて」
とイラン人の友人は言う。
 彼女が言うには、今やセンター利用者のほとんどはアフリカ系と中東系の外国人だそうで、「わたしは中東の人間だから、逆に以前より難しい時がある。『西側化された女』みたいな、そういうネガティヴな感情が信仰深いムスリムの母親から垣間見えたりして」と言っていた。
 まったく異なったもの同士のほうが互いをわかろうとするからうまく行き、同胞の方が違いを見つけては批判し合うからかえってうまく行かないというのは、まあユニヴァーサルな事実なんだろう。

            ********

 『The New Statesman』誌に、白人のムスリム女性がオックスフォード・ユニオンで行ったスピーチの全文が掲載されていた。「フェミニズムは白人のミドルクラスの女性にハイジャックされている」というセンセーショナルな文句が見出し。通勤バスの中で読むには適さないクソ難しそうな文章だなと思いながら、つい読んでしまった。
 「フェミニストの問題を論じるには、ジェンダーだけではなく、人種と階級の問題が切り離せない」と書かれていた。「聞こえない声というのは存在しない。それはただ、わざと聞いていないか、聞きたくないということだ。フェミニストたちはオルタナティヴな声を自分たちのムーヴメントに加えることに抵抗する」「フェミニズムが白人女性にハイジャックされているというのは、すべての分野で白人文化のナラティヴが支配していて、オルタナティヴな声は、西側が優れているという彼らにとっての不変の真実を肯定するためのちょっと古風な意見として使われていないかということだ」
 「ムスリムのフェミニストとして、私は自分の宗教の中に男女同権のストラグルがあることを知っている。だが、ジェンダーの不平等の問題は宗教だけに起因させておけば済む問題ではない。そこには貧困と家父長制度がある」「私が共感するフェミニズムは、帝国主義や搾取や戦争や家父長制に抵抗する女性たちのフェミニズムだ。レイプ文化と戦うインドの女性たちや、イスラエルの占領に抵抗するパレスチナの女性たちや、西側のフェミニストたちが着ている洋服の縫製工場で安全な職場環境を求めて戦っているベンガルの女性たちだ」。おお。このフェミニズムならわたしにもわかるぞ。と思った。UK国内でだって貧民街の女たちのストラグルは、ミドルクラスの女性たちのフェミニズムにとってのオルタナティヴな声だ。それはなんか「ちょっと遅れているもの」として無視されたり、あまりお近づきにはなりたくないものとして眉さえ顰められる(顔に痣を作った若いチャヴ女子を見た時のインテリ女性たちの反応がその典型だ)。
 「200人のナイジェリアの女子学生たちがボコハラムに拉致された時もそうだ。少女たちを見つけることに重点を置くのではなく、その話は継続中のテロに対するグローバルな戦いを正当化するために使われた」と同記事には書かれていた。「そうした話」は対テロを正当化するだけでなく、こんな泥沼を作った政治を批判する材料にも使われるのだが、なぜか犠牲になっている女たちは二の次になる。それはイラクやシリアでも同じだ。戦争時や貧困階級では女という性が犠牲になることは誰もが知っている。で、それは戦争や貧困を作りだした政党や政治家や首相や大統領や国連や陰謀家や大企業などが悪いからだ。だから人々は人差し指を挙げてそれらを批判し、罵倒し、誤りを指摘する。
 でも、血まみれで倒れている女たちは放っといていいんだろうか?
 どうやら保育士という仕事をしている人間は、あまり政治を考えるのは向いてないらしい。

Frank Bretschneider - ele-king

 フランク・ブレットシュナイダーは東ドイツ出身の音楽家・映像作家である。1956年生まれで、あのカールステン・ニコライらとともに〈ラスター・ノートン〉の設立に関わっている人物だ(フランク・ブレットシュナイダーとオラフ・ベンダーが1996年に設立した〈ラスター・ミュージック〉と、カールステン・ニコライの〈ノートン〉が1999年に合併することで現在の〈ラスター・ノートン〉が生まれた)。

 ブレットシュナイダーは1980年代より音楽活動をはじめている。1986年にAG Geigeを結成し、1987年にカセット・アルバムをリリースした。いま聴いてみると奇妙に整合性のあるパンク/エレクトロ・バンドで、現在の彼とはまるでちがう音楽性だが、そのカッチリとしたリズムに後年のブレットシュナイダーを感じもする。その活動は東ドイツのアンダーグラウンドの歴史に大きな影響を残したという。
 そして1999年から2000年代にかけて、正確/複雑なサウンド・デザインと、ミニマルなリズム構造による「数学的」とも形容できるグリッチ/マイクロスコピックな作風を確立し、あの〈ミル・プラトー〉や〈12k〉などからソロ・アルバムをリリースすることになる。コラボレーション作品も多く、たとえば〈ミル・プラトー〉からテイラー・デュプリーとの『バランス』(2002)、〈12k〉からはシュタインブリュッヘルとの『ステータス』(2005)などを発表した(どちらも傑作!)。カールステン・ニコライ、オラフ・ベンダーとのユニット、シグナルのアルバムも素晴らしいものだった。また昨年(2014年)もスティーヴ・ロデンとの競演作(録音は2004年)を〈ライン〉からリリースした。

 2000年代中盤以降のソロ・アルバムは、おもに〈ラスター・ノートン〉から発表している。『リズム』(2007)や『EXP』(2010)などは、反復するリズム構造と、複雑なグリッチ・ノイズのコンポジションによってほかにはない端正なミニマリズムが実現されており、レイト・ゼロ年代を代表する電子音響作品に仕上がっている傑作だ。また、2011年にコメット名義でリリースした『コメット』(〈Shitkatapult〉)もフロア向けに特化した実に瀟洒なミニマル・テクノ・アルバムである。
 2013年、〈ラスター・ノートン〉からリリースした『スーパー.トリガー』は、カールステン・ニコライとオラフ・ベンダーのダイアモンド・ヴァージョンとも繋がるようなエレガント/ゴージャズなエレクトロ・グリッチ・テクノ・アルバムである。いわば「音響エレクトロ」とでもいうべきポップでダンサンブルな音響作品であり、彼の新境地を拓くものだった。

 そして、本年リリースされた新作において、その作風はさらに一転する。サージ・アナログ・シンセサイザーなどモジュラー・シンセサイザーを鳴らしまくったインプロヴィゼーション/エクスペリメンタルなアルバムに仕上がっていたのである。音の雰囲気としては2012年に〈ライン〉からリリースされた『Kippschwingungen』に近い(東ドイツのラジオ/テレビの技術センターRFZで、8台のみ開発されたという電子楽器Subharchordを用いて制作された)が、本作の方がよりノイジーである。アルバム全8曲41分にわたって、アナログ・シンセサイザーの電子音のみが横溢しており、電子音フェチ悶絶の作品といえよう。
 制作は2014年7月にスウェーデンはストックホルムのEMSスタジオに滞在して行われたという。じつはすでに2017年7月に、EMSでモジュラー・シンセを駆使する動画が公開されていたので、まさに待望のリリースでもあった。

 アルバム・タイトルはドイツ語で「形式と内容」という意味で、カオス(=ノイズ)を操作して、デザイン(形式化)していくという意味にも読み込める。ジャケットの幾何学的なアートワークや、アルバム・リリースに先駆けて公開されたMVにも、そのような「形式と内容=デザインとカオス」の拮抗と融合と反復とズレを感じることができるはずだ。

 この「フランク・ブレットシュナイダーによるモジュラー・シンセサイザーのみのアルバム」というある意味では破格の作品が成立した過程には、近年のモジュラー・シンセによるコンクレート・サウンドの流行も関係しているだろう。町田良夫からトーマス・アンカーシュミット、マシーン・ファブリックまで、サージなどのモジュラー・アナログ・シンセサイザーを用いた音楽/音響作品がひとつのトレンドを形成しているのである。
 しかし、そこはサイン派やホワイトノイズを用いて、リズミックかつ建築的なウルトラ・ミニマル・テクノを作り続けてきた電子音響・グリッチ界の「美しきミニマリスト」、もしくは「世界のミニマル先生」、フランク・ブレットシュナイダーの作品だ。「ツマミとプラグの抜き差しによるグルーヴ」とでもいうべき電子音が自由自在に生成変化を繰り返すのだが、そのフリーなサウンドの中にも、どこかカッチリとしたリズム/デザインを聴き取ることができるのである。とくにシーケンスとノイズを同時に生成させる4曲め“Free Market”にその傾向が随所だ。また、5曲め“Funkstille”や6曲め“Data Mining”などは、エレクトロニカ的なクリッキーなリズムも感じさせるトラックである。
 カオスと形式(=ノイズとリズム)に着目して聴くと、複数の音のパターンがモチーフになって変化していることも聴き取れてくる。その傾向は、1曲め“Pattern Recognition”、8曲め“The Machinery Of Freedom”に特徴的に表れている。いくつもの音のエレメントが反復・変化するモチーフとして展開していくさまが手にとるように(?)わかるだろう。
 そう、このアルバムで、フランク・ブレットシュナイダーが鳴らしている電子音は、インプロヴィゼーションであっても、どこかデザイン的なのだ。たとえば、3曲め“Fehlfunktion”のように極めてノイジーなトラックであっても、そこにデザイン化されたリズム(形式化)を聴取することが可能である。

 前作『スーパー.トリガー』における「80's的なゴージャズなエレクトロとグリッチ・ビートの融合」が2013年~2014年のモードだったすると、本作の情報量豊富なフリー・インプロヴィゼーション的電子ノイズの生成・運動感覚は、紛れもなく2015年のモードだ。もしかすると、現在のわれわれの耳は、電子音楽/音響の中にあるマシニックな形式性を侵食する音響の運動性・肉体性のようなものを求めているのかも知れない。その意味で、まさに「いま」の時代ならではのアナログ・シンセサイザー・アルバムである。現在進行形の電子音楽マニア、全員必聴と断言してしまおう。

 最後に。本作に関係する重要なプロジェクトして、フランク・ブレットシュナイダーがピアース・ワルネッケ((https://piercewarnecke.blogspot.jp/)と共同制作をした同名インスタレーション作品を挙げておこう(ふたりはベルリンで開催されたエレクトロニック・ミュージック・フェスティバル“CTM”でもパフォーマンスを披露したという)。このインスタ作品は、本作を思考する上で重要な補助線を引いてくるはずである。

SINN + FORM // Preview from Pierce Warnecke on Vimeo.


BURGER RECORDS JAPAN OFFICIAL STORE OPEN - ele-king

 BURGER RECORDSのジャパンオフィシャルウェブストアがオープン!! アメリカ本国から取り寄せたカセットテープはもちろん、日本オリジナルプロダクトのアパレル&雑貨を取り揃えております!初回購入者特典もありますのでチェックしてみてください!

JAPAN OFFICIAL STORE
https://burgerrecords.jp

JAPAN OFFICIAL Twitter
@BurgerRecordsJP

■ And A BURGER RECORDS STORE OPEN

2月20日(金)からAnd A渋谷店にて、And A BURGER RECORDS STOREがオープン!!

東京都渋谷区神南1-3-4 And A 渋谷店
TEL:03-5428-6720
営業時間:12:00~20:00

And A
https://www.and-a.com

□ about BURGER RECORDS

2009 年 LA のオレンジ・カウンティにて、ザ・メイクアウト・パーティ! (Thee Makeout Party!)というバンドのメンバーであった、リーとショーンによって設立された音楽レーベル兼レコードショップ。
 「ドライブ中にカセットで音楽を聴くのが好きだから」という理由で、カセットテープでの発売を中心に展開している。西海岸を中心に個性的なアーティスト・バンドを多数輩出。
 また、サンローランのクリエイティブ・ディレクターであり、音楽好きとして知られるエディ・スリマンも絶賛。レーベル所属アーティストであるザ・ガーデンズやレックスなどをモデルとして起用。
 さらにこれまでベックやダフト・パンクが登場したサンローラン ミュージック プロジェクト(SAINT LAURENT MUSIC PROJECT)において、バーガー・レコーズ所属のカーティス・ハーディングをフィーチャーするなど、ファッション界でも熱視線が注がれている。他にも、90年代より活躍するパンク・バンド、ザ・マフスが所属。


Vakula - ele-king

 ブライアン・イーノにベースを足せばジ・オーブ、ジョン・ケージにベースを足せばOPN、テリー・ライリーにベースを足せばジェフ・ミルズで、ペリー&キングスレーにベースを足せばジェントル・ピープル。そう、ニュー・ウェイヴにベースを足せばエレクトロクラッシュで、UKガラージにベースを足せばダブステップと、なんでもベースを足せばクラブ・サウンドに早変わりしてしまう(われながらテキトーだなー)。では、ピンク・フロイ ドにベースを足せば……『アルクトゥールスへの旅』である。TJ・ヘルツによるオブジェクトが19世紀の中編小説「フラットランド」にヒントを得れば、こちらは20世紀初頭にコーンウォールへと引きこもったSF作家の代表作を一大音楽絵巻に仕立て上げた。基本的にはシンセサイザーが波打ちつつも、曲によってはホーンが炸裂し、ギターもソロのリードを弾きまくる。風景は次から次へと移り変わる。まさに「旅」である。(1時間29分40秒)

 トーン・ホークやマーク・マッガイアーによるアメリカのクラウトロック・リヴァイヴァルとはやはりどこかが違う。ヨーロッパに特有の淀みがあり、〈デノファリ(Denovali)〉に通じる絶望感も成分としてはしたたかに含まれている。ここまでくるとディープ・ハウスという文脈もさすがに遠のいて、プログレッシヴ・ロックをエレクトロニック・ヴァージョンとして再定義したと捉えるほうがぜんぜん素直だと言える。そういう意味では2000年に再始動したブレインチケットの試みに追従するものとはいえ、全体的な瞑想性の強さでも踏襲している部分は多い。フュージョン的なセンスもまったくといっていいくらい同じ。違いがあるとすれば、それぞれの立場だろうか。ヴァクラはご存知の通り、停戦とは名ばかりの状態が続くウクライナからこの作品を発している。彼が住み、前作のタイトルにも使われたコノトープは軍事的な意味合いの多い場所だという。ヨーロッパで売れなくなった天然ガスを日本に売るため、サハリンと茨城をパイプラインで結ぶという計画がいまも話し合われていると思うと、ウクライナが置かれている立場はまったくの他人事とは行かないだろう。

 前人未踏の地へ突き進んでいく勇気を描いた『アルクトゥールスへの旅』は彼の音楽的なチャレンジ精神をトレースするものであると同時に、真実と虚偽やこの世とあの世を超越しようという哲学の書でもある。本人がそこまで意識しているかどうかはわからないけれど、戦争体験を経た水木しげるが『河童の三平』で同じ問いを投げかけていたことを思うと、彼の目の前で起きていることから人間というものについて何かを考えざる得なかったのだろうという推測はどうしても進んでしまう。そして、そのような思索のなかに彼がハウス世代であること、つまりは、プログレッシヴ・ロックの世代にはない若さやわずかな希望を聴き取れるような気がしてしまう。少なくとも〈デノファリ(Denovali)〉にはもはやこのような足掻きさえ感じられないからである。あるいはフランスのトランペット奏者とメキシコのモダン・ミニマルが組んだ『ビーイング・ヒューマン・ビーイング』である。2回めのコラボレイションとなるトラファズとムルコフのセッションはあまりにも絶望感が強く、アルクトゥールスへと旅立つ前にそのまま座り込んでしまう音楽にしか聴こえない。そして、もちろん、それには説得力がある。

 エリック・トラファズはジャズにクラブ・ミュージックの要素を持ち込もうとした先駆者のひとりである。初期の代表作となった『ベンディング・ニュー・コーナーズ』(1999)からいきなりラップをフィーチャーし、最後まで一定のテンションを保つ演奏内容はなかなか見事だった。その後もアラブ音楽を取り入れたり、トリップ・ホップをイメ-ジしているようなサウンドと、ここまでやってしまうと果たしてジャズ・ファンは聴くのかなというぐらいの逸脱ぶりを見せたものの、個人的にはどうにも締りのない演奏に成り果てていったという印象が拭えない。ムルコフとのジョイント・アルバム『メキシコ』(2008)はそのような低迷を経て彼がたどりついた新機軸であった。ベーシック・チャンネル・ミー ツ・ジョン・ハッセルとでもいえばいいだろうか。スウィングすることを拒否されたようなビートがストイックに構築され、トランペットはどこか凍りついたように悲しみを掻き立てていく。どちらかというとムルコフの世界観にトラファズが色を添えたものに思えた。

 これが6年を経て、もっと複雑な音楽性を表現するものに発展することとなった。リズムは多様性にあふれ、等しく絶望的でありながらも、そこにはさまざまな色合いが認められるような瞬間の連続に成りかわっていったのである。『人間であること』というタイトル=問いはヴァクラとそう遠くにあるものとも思えない。遠くまで行く体力はもうないかもしれないけれど、考える力なら同じかそれ以上だと言いたげでもある。社会が効率を求めれば意味と自由は失われるとマックス・ヴェーバーが予言し、それを回復するのではなく、肯定するところからはじめようといったハーバーマスの言葉を思い出す。

ジャンル的にはまったく異なるものの、『アルクトゥールスへの旅』と『ビーイング・ヒューマン・ビーイング』がどうしても合わせ鏡のように聴こえて仕方がない(ジャケット・デザインが似ていることには、いま、ここまで書いてから気がついた)。悪く言えばヨーロッパ的な観念性は堂々巡りでしかない。しかし、ヨーロッパ的な精神にはそれができることが取り柄だともいえる。ウクライナでまた兵士が4人ほど死んだらしい。 

Model 500 - ele-king

 昨年末、ファンカデリックは33年ぶりの3枚組33曲入りのオリジナル・アルバムを発表した。ジョージ・クリントンはいまはもうデトロイトにはいないが、彼の地にPファンクが存在したことは、デトロイト・テクノを語る上で強調し過ぎてもいいくらい重要である。「デトロイト・テクノとは、エレヴェイターのなかでクラフトワークとジョージ・クリントンが鉢合わせになった音楽」とはデリック・メイの名言だが、その「ジョージ・クリントン」の部分、すなわちモータウンとキング牧師の記憶、すなわちレベル・ミュージックとしての黒人音楽というコンテキストは、デトロイトならではのメルクマールであり、そういう意味でホアン・アトキンスとは、文字通りのゴッドファーザー・オブ・デトロイト・テクノだ。
 “ノー・UFOズ”は、ハウスとエレクトロ(=クラフトワーク)を融合した最初の曲だと評価されているが、同時にリリックには、Pファンクのセンスが注がれている。ダマされるな、UFOはいる(希望はある)、飛べ……この「飛べ(fly)」には、ハイになるイメージと飛翔するイメージが重なっている。
 いまならこの曲こそ重要だったと言えるのだが、当時はいろいろなものがいちどにどさっと来てしまったので、紛れてしまったのだろう。あるいは彼の政治性は70年代的なものを引きずった古くさいものに見えてしまったのかもしれない。アシッド・ハウスの時代では、ひたすら踊るのに歌詞は邪魔だった。

 モデル500名義でのアルバムとしては、1999年の『Mind And Body 』以来の4枚目(うち1枚はベスト盤だから、オリジナル・アルバムとしては3枚目)となる。マイク・バンクスとアンプ・フィドラーという、Pファンクを知るふたりが参加した本作は、まさに「クラフトワークとジョージ・クリントンが鉢合わせた」音楽としてのデトロイト・テクノだ。1曲目の“ Hi NRG”から順に聴けばいい。ファンクとテクノ、あやゆる要素をひとつのまとめた“ノー・UFOズ”の頃のアトキンスがいる。6曲目の“GROOVE”では、“マゴット・ブレイン”のエディ・ヘイゼルじゃないかと錯覚してしまうであろうギターソロが挿入される。
 アルバムのほとんどはクラフトワーク『コンピュータ・ワールド』のアフロ・アメリカン・ヴァージョンだが、作品にはミニマル・テクノがあり、驚くべきことにダブステップへのリスペクトもある。新生〈R&S〉は、5年前に、みんが知るところの青と銀色のスリーヴでモデル500の新曲をリリースしたものだが、あれはたしかに粋だった。これが俺たちのルーツだ。レーベル側の主張が見える。「CMYK」がヒットしていた頃だったからなおさら。
 アルバムの最後は、2012年に〈R&S〉からシングルとしてリリースされた“ Control”。クラフトワークが歳を取らないように、モデル500はいまも現役のマンマシンだ。電子音に命を吹き込み、リスナーの感情を発展させる華麗なマシン・ファンク。しかもこれはデトロイトでしか生まれない音なのである。

RHYDA(VITAL) - ele-king

都内を中心に活動するサウンドフリーク集団「VITAL」のMC。B-BOY文学でありながらパンクとも形容されるLIVEは唯一無二!必見です!

3.15土曜、今年一発目の”You gonna PUFF?”@吉祥寺WARP開催します。
チャートにもいれたvvorldはtoo smell record店長赤石による新band。
鬼すぎるのでチェック12!

3.15sat
You gonna PUFF?
@吉祥寺WARP
open 0:00 Entrance 1500/1d

Live:
櫻井響 / vvorld / RHYDA

DJ:
Libelate / OG / RESORT / m28 / g1
NSR Dubby X / charabomb

Clothing:
Delta Creation Studio
mo'
MBJP

https://vitality-blog.blogspot.jp/

Father John Misty - ele-king

 なにしろ“Bored in the USA”である。“Born in the USA”の字面もメロディももじって男が歌うのは、「やつらが俺に与えたものは、役に立たない教育と、職人風の家のサブプライム・ローン!」「アメリカにはうんざりだ」……一瞬直球なのかと思ったが、そこに典型的なシットコム風の録音された笑い声が挿入されれば、なんとも居心地の悪い皮肉な空気で覆いつくされる。何よりアメリカの人気TVショウ『レターマン』でのライヴ出演が決定的だった。ひげ面でスーツ姿の男が自動演奏のグランドピアノに座り、くねくねと身悶えしつつ切なげに歌いあげる……笑っていいのか戸惑っていると、まさにそこであの死んだような笑い声が響き渡るのである。その不思議空間。『ピッチフォーク』がアンディ・カウフマンの名前を挙げるのもわからなくはない、妙な芸風のスタンドアップ・コメディアンのようなシンガーだ。

 その男、ファーザー・ジョン・ミスティことジョシュア・ティルマンのセカンド・フル『アイ・ラヴ・ユー、ハニーベア』が笑って泣けて、ひどく熱い一枚だ。フリート・フォクシーズの元ドラマーの……という冠はむしろ余計かもしれない。僕はフリート・フォクシーズも大好きだし、どちらも大きくフォーク・ロックと言えばそうなのだが、なんというか反応する神経がぜんぜんちがう。なんでいたの? と訊きたいぐらいだ。フリート・フォクシーズにおける、少しのミストーンも許されないような完璧に構築されたハーモニー=調和の厳格さはまるでなく、エモーショナルで人間くさく、枠から大らかにはみ出る豪放さがあり……平たく言えば、暑苦しい。音楽的にもフリート・フォクシーズがビーチ・ボーイズのいた60年代の語り直しを負っていたとすれば、ファーザー・ジョン・ミスティは70sシンガーソングライター風のざっくばらんさとスウィートネスを纏っている。バンド以前もかなりのキャリアがあったそうなのでこのひと個人の味がより出せるようになったということだろうが、その路線は前作『フィア・ファン』よりわかりやすくドラマティックに開放されている。おもにピアノとアコースティック・ギターによる演奏に合わせて情熱的にソウルフルに歌唱されるナンバーがほとんどで、“トゥルー・アフェクション”のようなエレクトロニカ・ポップ風の曲もあるが、すべての曲でティルマンの歌が中心に置かれている……身体の奥から噴出するような歌が。

 そしてここでティルマンが歌っているのは、(おそらく)虚実入り乱れる彼の人生と愛についての物語である。ワン・ナイト・スタンド体験を私小説風に綴ったのだと思われる“ザ・ナイト・ジョシュ・ティルマン・ケイム・トゥ・アワ・アパートメント”、ティルマンの愛妻にちょっかいを出そうとした(?)男へのイチャモン“ナッシング・グッド・エヴァー・ハプンズ・アット・ザ・ゴッダム・サースティ・クロウ”。ドラッグでのトリップとセックス、怒りと悪態と、自虐に皮肉……まさにドタバタ・コメディの様相だ。より人物像を怪しげにしたスフィアン・スティーヴンスか、あるいはシンガー版『シンプソンズ』? だがとくに中盤、ジャジーでゴージャスなアレンジのオーケストラル・ポップ“ナッシング~”、スタンダード・ポップス風の“ストレンジ・エンカウンター”や 荒々しくスイングするロック・チューン“ジ・アイディール・ハズバンド”での熱唱を聴いていると、これがギャグなのか本気なのかよくわからなくなってくる。

 いや、“ボアド・イン・ザ・USA”にしたって、何もミドルクラスの白人の倦怠感への皮肉とからかいだけではないのだろう。リーマン・ショックのタイミングで浮上したフリート・フォクシーズの理想主義的な音が示唆していたのはかつてのアメリカン・ドリームの斜陽だったが、ティルマンがそのコミュニティのなかではややだらしないタイプだったとしても、彼とて新しい世代の行き止まり感を嗅ぎ取っていたにちがいない。そのシリアスなはずの感覚がジョークとして表出するところに彼のウィットを見いだせるだろう。僕たちは“ボアド・イン・JAPAN”が仮にあったとしてどんな歌詞になるか想像するといいが、それは本来「ぜんぜん笑えない」はずなのだ。だが、そこに乾いた笑いを乗せることで彼は「タフになれ」と告げているようだ。

 それに、ふいに彼の本気がしっかりと輪郭を持つ瞬間もある。“ボアド・イン・ザ・USA”を経ての“ホーリー・シット”がビリー・ジョエルが歌っていてもおかしくないような甘いピアノ・バラッドで、しかしこれが衒いなく直球で迫ってくるラヴ・ソングなのだ。現代のライフスタイルにまつわる事象をランダムに羅列しながら、やがて「ああ、誰も本当のきみを知らないし、人生は短い」、「愛は人間の弱さに支えられた制度に過ぎないんだ」というラインに辿りつき、そしてティルマンは、向き合うべき「あなた」をそこに見出そうとする。僕たちの世代が生きるのはどうひっくり返しても貧しい世のなかだと、それは変えられない宿命だとしても、それでも湧き上がるものがあるのだ……と、この男の奇妙に熱を持った歌は懸命に示そうとするようだ。

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