明るい未来にツバを吐く男として知られる田中宗一郎はゼロ年代の重要項目の5本のうちのひとつにLCDサウンドシステムを選んでいたが、ジェイムス・マーフィのコンセプトにはポスト・パンク期におけるニューヨークのディスコ・カルチャー、通称ミュータント・ディスコがあったことは間違いない。70年代から80年代にかけてのニューヨークの創造的な不協和音めいたシーンの盛り上がりについては、長いあいだ気にはなっていた。だいたい......〈パラダイス・ガラージ〉がある一方で〈CBGB〉があり、ロフト・ジャズのシーンがある一方で〈キッチン〉のシーンがある。ディスコ、パンク、前衛、ジャズ、ミニマルとドローン、そしてサルサ......これらがマンハッタン島内部で交錯していたのが70年代のニューヨークだった。それは戦後の好景気が崩壊し、白人の中産階級が郊外逃亡を加速させ、アフリカ系やラテン系などの移民であふれ、そして商業施設が衰退した時代の産物でもあった。カネのないアーティストや音楽家などは、産業施設としては使い物にならなくなった天井の高い(しかも家賃が安い)ロフトに住むようになると、アメリカ中からも似た者たちが集まるようになった。むしろボロボロの都市だったからこそ、そこには移民もゲイも、貧しいアーティストも暮らしていけたのである――と、ティム・ローレンスはそんなようなことを綴っている。
そうした文化的な猥雑性の高まりのなかで、ディスコは冒険心に富んだ異端児たちの使い勝手のよろしいフラスコとなって、まるで小学生が理科の授業を楽しむように、そのなかにいろんなものを放り込んでは掻き混ぜたのだった。ただしそれは、素人が意味もなくやったわけではない。音楽のスキルを持った連中が、そう、子供のように無邪気に遊んだのだ。それが今日で言うところの"レフトフィールド・ディスコ""ディスコ・ノット・ディスコ"、そして"ミュータント・ディスコ"と呼ばれる一群である。
こうした急進的なディスコの遺産をこの10年のあいだ蘇らせたのは、ロンドンの〈ストラット〉レーベルが2000年に仕掛けた『ディスコ・ノット・ディスコ』シリーズなるコンピレーションだ。これを契機にいっきに再評価(というかようやっと評価)の機運が加速したのが、かのアーサー・ラッセルである。翌年にはシリーズの第二弾がリリースされているけれど、そこにはカンやイエローがアレキサンダー・ロボトニクスやザ・クラッシュとともに収録され、その後の〈DFA〉的な折衷主義の青写真といえる内容となっている。当時は異端視された"レフトフィールド・ディスコ"だが、現代の耳で聴けばエクレクティックなこちらのほうがソウルフルなオリジナル・ディスコよりむしろ親しみやすく感じるのである。
このところ〈P・ヴァイン〉から〈ZE Records〉のバックカタログが再発されている。Z=ジルカとE=エステバーンによる〈ZE〉は、広くはジェイムス・チャンスやザ・コントーションズなどノーウェイヴで知られている。が、他方でレーベルはレフトフィールド・ディスコとも交錯していた。ありていに言えば、〈ZE〉はパンクとディスコを繋げたレーベルである。
『ディスコ・ノット・ディスコ』の第一弾にはウォズ(ノット・ウォズ)のクラシック"ホィール・ミー・アウト"が収録されていたが、あたかもこのチャンスを逃すまいと、〈ZE〉は2002年に再活動をはじめ、2003年には自らも『ミュータント・ディスコ』と名乗ったコンピレーション(CD2枚組)を発売している。〈Pヴァイン〉からの再発では、すでに『Vol.1』と『vol.2』がリリースされ、そして最近は『Vol.3』も発売された。『Vol.1』と『vol.2』は......実は2枚組で発売された2003年の『ミュータント・ディスコ』の評判があまりにも良かったので、レーベルが2005年に2枚に分けてさらに再リリースしたものだと思われる。この2枚には、キッド・クレオール&ザ・ココナッツやウォズ(ノット・ウォズ)をはじめ、ガール・ディスコの先駆けとなったリジー・メルシエ・デクルーやクリスティーナ(......そしてマニアが喜ぶであろうオーラル・エキサイターズ)といったレーベルの顔役たちのフロア・ヒット曲が収録されているわけだが、結局のところ――良い悪い好き嫌いは抜きにして――ジェイムス・チャンス関連のニヒリズムよりもエクレクティックなこちらを掘ったほうが現代的だったのだ。だいたいレフトフィールド・ディスコにおける最大のヒット・メイカーと言えばトーキング・ヘッズであり、ここ数年のシーンの動向を見ていればデヴィッド・バーンとリディア・ランチとではどちらが必要とされているのかは問うまでもないだろう。
『Vol.1』と『vol.2』は捨て曲なしの好コンピレーションだったが、今回発売された『Vol.3』も前2作に劣らぬ良い内容だ。なによりアルバムの最後にスーサイドの"ドリーム・ベイビー・ドリーム"が収録されているだけで価値があるってものだ。石野卓球から中原昌也、はてやブルース・スプリングスティーンまでもが愛する"ドリーム・ベイビー・ドリーム"は、深い闇のなかで錯乱するニューヨーク・アンダーグラウンドにおいて宝石のように輝けるトランス・アート・パンクの名曲である。また、アラン・ヴェガ(スーサイドのヴォーカリスト)の"アウトロー"のオーガスト・ダーネル(キッド・クレオール&ザ・ココナッツ)によるリミックス・ヴァージョンもある。これがまたロカビリーとディスコの煌びやかな融合となっている。
オーラル・エキサイターズとボブ・ブランクによる"ラ・マラディ・ダムール"の退廃的なガール・ディスコも魅力的だ。マニアックなところではデトロイト・テクノのオリジナル世代からリスペクトされている先駆者ケン・コリアーとウォズ(ノット・ウォズ)とのコラボ、スウィート・ピア・アトキンスの"ダンス・オア・ダイ"もある。また、キッド・クレオール&ザ・ココナッツの"サムシング・ロング・イン・パラダイス"のラリー・レヴァンによるリミックス・ヴァージョンもある(それほど褒められた出来とは思えないが......)。レーベルのピークが過ぎた1983年以降に発売されたトラックが何曲か入っているけれど、ロン・ロジャースの"ノーティ・ボーイ"(1982年)や"ヤーヤ"(1983年)、ないしはコーティ・ムンディの"シー・ヘイ"(1984年)のような当時を物語るディスコとヒップホップのふたつからの影響を反映した曲もまた面白い。とはいえ、下手くそな日本語ラップをフィーチャーしたデイジー・チェインの"ノー・タイム・トゥ・ストップ・ビリーヴ・イン・ラヴ"は......ちと恥ずかしい。
「?」と言うキーワードを使うとき、決まってマーク・プリチャードの〈Ho Hum〉からリリースされた10インチ「?」を思い出す。2008年9月20日、 DBS〈DRUM & BASS x DUBSTEP WARZ〉にて筆者とユニットフロアで共演したマーラが1曲目にスピンした鮮烈な作品だ。何故ならこれは......ノンビートだからである。漆黒アンビエントが5分以上続くそのオープニングに会場は一時......静まり返った! 「なんだ、この曲は!?」、みんなそう思ったに違いない......文字通り「?」であった。そこからのマーラのプレイは言うまでもなく素晴らしいものであったが、いろんな意味を含めて話題をさらったセンセーショナルな作品が「?」だ。
UKダブ・カルチャーの拠点"ブリストル"でもダブステップは刻々と進化を続けている。90年代初期のジャングルがレイヴを席巻していたように......。その進化の過程とともに、ピンチの〈Tectonic〉と双璧の如く歩んで来たのがぺヴァーリストの〈Punch Drunk〉。90年代のジャングル/ドラムンベース・ムーヴメントを通って来たであろう彼らブリストル・ダブステッパーたちは、UKダンス・ミュージックの特性である"ハイブリッド"を巧みに取り入れた全く新しいブリストル・サウンドの提唱者となった。
筆者は、とにかくクリプティック・マインズのダブステップ・サウンドが大のお気に入りである。〈Tectonic〉からの「768」、ピンチ&ムーヴィング・ニンジャ「False Flag -Kryptic Minds RMX-」や〈Osiris〉の「Life Continuum/Wondering Why」、〈Disfigured Dubz〉から「Code 46/Weeping」など......最近のリリースすべて注目している。
サブトラクト(Sbtrkt)。脅威のニューカマーとして昨年のデビュー以来、破竹の勢いで上り詰めた天才エレクトリック・ダブステッパー。すでにベースメントジャックス、フランツ・フェルディナンド、モードセレクター、ゴールディといった大物達のリミックスを手掛け、ミニマル~ガラージ~ファンキー~エレクトロと縦横無尽に行き来している今年その動向がもっとも期待されている大注目株である。
イーピーロム(Eprom)は、サンフランシスコ在住の新進気鋭ウエスト・コースト・ベース・テクニシャン。ファンキーの要素とテッキーなカッティング・ビート、ハッシュされた女性ヴォーカルにアトモスフェリックな上ものを巧みにコントロールした、これぞニュー・テック・ファンキーだ。アメリカやカナダでも大盛り上がりを見せているダブステップやベースライン・ミュージックだが、アメリカでその代表格と言えば、ファルティDL(Falty DL)、6ブロック(6Blocc)、スターキー(Starkey)、ノアD(Noah D)等々だ。今回の"Never"のリミックス・ワークを担当したのがファルティー・DLだ。


































