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1978年にムジーク(Musique)の『キープ・オン・ジャンピン』の大ヒットによってディスコの頂点へと登り詰めたのがエンジニアのボブ・ブランクで、その当時、スイティーヴ・ダクィストがアーサー・ラッセルとの"キス・ミー・アゲイン"の録音のためにブランクのスタジオ〈ブランク・テープス〉を手配すると、録音に神経質なアーサー・ラッセルが喜びを隠しきれなかったというエピソードが物語るように......、あるいは当時、ニューヨークのアートの中心であった〈キッチン〉に関わっていたラッセルがディスコを本気でやろうと決心したときにブランクの『キープ・オン・ジャンピン』を研究したように......、それからラッセルがアレン・ギンズバーグをブランクに紹介したように......、そう、ボブ・ブランクはディスコ全盛期のニューヨークの、喩えるならクラウトロックにおけるコニー・プランク、ルーツ・レゲエにおけるリー・ペリーのような存在と言えよう。彼はディスコの一流の職人のひとりで、実際に関わった作品の数はあまりにも多い。〈サルソウル〉や〈プレリュード〉や〈ウェスト・エンド〉といった名門から、〈ZE〉のようなポスト・パンク......なんてものではない、なにせ〈サルソウル〉前夜からそこにいたのだ。作品を挙げれば枚挙にいとまがないが、ひとつ言えるのはファンクからラテン、ディスコからミュータント・ディスコの時代にかけて、彼は間違いなくダンスのエキスパートだったということである。
『ザ・ブランク・ジェネレーション』は、そんなブランクの膨大なカタログから『Last Night DJ Saved My Liffe』の著者が13曲を選んだもので、マニアックな選曲によってブランクの多様な側面を楽しめる内容となっている。
サン・ラの"ホエア・パスウェイズ・ミート"やジェイムス・ブラッド・ウルマーの"ジャズ・イズ・ザ・ティーチャー、ファンク・イズ・ザ・プリーチャー"といったジャズとファンクとディスコの融合、ザ・ネセサリーズ(アーサー・ラッセルもメンバーだったニューウェイヴ・バンド)の"ステイト・オブ・アート"やリディア・ランチ(ノーウェイヴの女王)の"ア・クルーズ・トゥ・ザ・ムーン"といったポスト・パンクのミュータント・ディスコ、チャランガ76(ヒスパニック系のバンド)の"ミュージック・トランス"のようなセクシーなラテン・グルーヴ......他にも、ひと癖もふた癖もあるディスコ・ナンバーが揃っている。ジェイムズ・ブラウンのライヴでバック・コーラスを務めていたブランクの妻ローラ・ブランクの"ワックス・ザ・ヴァン"(アーサー・ラッセルによるバレアリック・クラシック!)、バンブレビー・アンリミティッドの"アイ・ガット・ア・ビッグ・ビー"(底抜けに明るいガラージ・クラシック)、フォンダ・レイ"オーヴァー・ライク・ア・ファット・ラット"(ヒップホップのDJからも愛される永遠のクラシック)、そして素晴らしいとしか言いようがないグラッディ・ナイトの"イッツ・ア・ベター・ザン・グッド・タイム"のウォルター・ギボンズのリミックス・ヴァージョン等々......。
このコンピがあなたの人生を救うことはないが、ディスコの奥深さを知ることはできる。ディスコとは刹那的な音楽だが、いまも鑑賞にたえうる音楽なのだ......という言い方はボブ・ブランクに失礼だろう。先述したように、彼はディスコのコニー・プランクなのだから。なお、リリース元はゼロ年代の初っぱなの『ディスコ・ノット・ディスコ』シリーズによってDFAなど新しい世代によるレフトフィールド・ディスコの登場を準備して、アーサー・ラッセル・リヴァイヴァルをうながした〈ストラット〉。ラッセル周辺をはじめ、小野洋子からカンやイエローまで収録した『ディスコ・ノット・ディスコ』も好企画だったけれど、これも負けじと劣らぬ気の利いたコンピレーションである。
野田 努