Home > Reviews > Album Reviews > Shafiq Husyan- Shafiq En’A-free-ka
ニュー・フレッシュ(フォー・オールド)からジュース・アリームの素晴らしい初ソロに続いて、やはりイスラム系ヒップ・ホップのサー・ラからフロント・マン(?)の初ソロ。軽くスウィングするようなヒップホップ・サウンドは母体とそれほどは変わらなく、音楽性の範囲はもっとブラック・ミュージック全般に広げられているものの、サー・ラの新作として聴いても大して違和感があるわけではない。強いていえばビートが細かくなっていて、同じ場所に行くにしても丁寧に運んでくれるというか。デトロイト・テクノのイディオムをまったく使わずにあのソウル・サウンドをヒップホップで再現していると考えれば、足りないのはインパクトだけで、しかし、それを補って充分なスウィング感にあふれている。フライング・ロータスがインパクトよりもリズムの複雑さを重視したアンダーグラウンド・レジスタンスなら、これは同じくカール・クレイグかイナーゾーン・オーケストラに相当するような。
アルバム・スリーヴに堂々とイスラム系であることが印象付けられるように姿を現しているのは、やはり、意味があるんだろう。周囲に置かれているのは仮面や矢じりなど、古代の文明を想起させるものばかりで(すべてエジプト文明か?)、マルチ・カルチャラルな生き方がそこには示唆されている(か、あるいはそのように勝手に推し量れる)。サー・ラでは押し隠されていた感覚だし、あえてそれらをプッシュする位置にはいなかったとも思うのだけれども、ソロ・ワークを展開することの必然性がここにはあるのだろう。そうかと思えばM10"メジャー・ヘヴィ"はあからさまなビートルズ・サウンドだったり、デイダラスが参加するM14"ル・スター"はジェントル・ピープル風で、その前後にはセヴンティーズに擬態させたエイティーズ・サウンドやその逆など、奇妙なデラシネ性も発揮され、アーカイヴの迷宮を楽しませてくれる面も音楽的には申し分ない(中盤は音楽に詳しい人ほど面白がれるかも)。いわゆるジェイ-Zとかネプチューンがヒップホップだとしたら、これはかなり実験的な音楽です。念のため。
三田 格