「W K」と一致するもの

Making Contakt - ele-king

 一昨年の年末近くに幕張メッセでやった、初回の〈Womb Adventure〉に寒いなか行った人なら覚えているだろうけど、あのイヴェントはとにかくオペレーションがひどかった。予想したより客が集まってしまったからか、トイレも屋台も数が足りず、小便に行くと30分は軽く並び、ただ水やビールを買うだけで1時間近く待たされた。トイレに行かないために酒を飲むのを控えたり、床に転がったペットボトル(ある時刻を過ぎると水すら紙コップに移して販売していたのだ!)を拾ってトイレの水道水を汲んで飲んだりというサヴァイヴァルは初めて経験した。

 そんな環境で心からダンスを楽しめるというのは相当の強者だと思うが、このDVDを見ると、クライマックスの東京公演のフィナーレでは、広いメッセの会場を埋めつくしたテクノ・ファン、M_NUSファンの全員が最高にハッピーに見えるから不思議だ。


 本DVDは、デトロイトを皮切りに、バルセロナ、ロンドン、アムステルダム、ローマ、ブエノスアイレス、そして東京を世界をツアーしたCONTAKTの旅と音楽の冒険のドキュメンタリーである。タイトルが示唆するように、映像の主眼はステージそのものより、バックステージとインタヴュー証言にあり、リッチーがCONTAKTというコンセプトで何を表現したかったのかが徐々に明らかにされる。

リッチー以下、マグダ、トロイ・ピアス、マーク・ハウル、ハートスロブ、ガイザーといったM_NUSオールスターズの面々は、各自の記名性や作品性といったものはかなぐり捨ててリンクされたコンピュータ上でバンド・メンバーさながらにパーツ的な音を奏でる。また音同様に信頼のおけるアーティストが帯同したヴィジュアル、ライティング等の視覚表現も含め、ひとつの即興的電子音楽パフォーマンスが繰り広げられる。ミックスされるのはサウンドだけでなく、各人の表情や手元を写す小型カメラの映像や、インターネット経由でのチャットの文字やVJ映像も、すべてがLEDスクリーンに飾られた広大なステージを核に実際のフロアへ、そしてネットを介してその場にいないリスナーにまで届けられる、という意欲的な試みだった。冒頭では図解入りでシステムの解説がなされ、数々のハイテクが入り組んだ大所帯のステージは、想像を遙かに超えた複雑さで設置も運営も大変そうだというのがわかる。リッチーは、「テクノとは前に進む、進化する音楽だ」という大昔からの持論をここでも展開するが、初期のリハーサルでは各人の機材をリンクさせたり、とにかく大人数でひとつの音楽を一緒に演奏するといういちばん最初のステップですでに思うように進まない。

 このDVDに興味を持つようなひとなら「DJなんてただ他人のレコードかけてるだけでしょ?」というような安直な理解はしてないだろうが、それにしてもこんなギリギリまで可能性を追いこみ、会場ごとにまったく異なる設備やスタッフに四苦八苦してDJたちのツアーがおこなわれていたとはと感嘆するだろう。例えば、いろいろな事情で急遽ブッキングされた"聖地"デトロイトでは、準備不足と会場のボロさで最悪のツアー初日になってしまう。観客の視界に訴える重要な要素であるスクリーンは天井にしか設置スペースがなく、老朽化した建物は低音が響くたびにコンクリートの破片をメンバーの機材の上にボロボロと落とす。まるで誰かがドラマを盛り上がるためにシナリオを書いたような悲惨な展開なのだ。

 トラブルの連続を書きつづっただけでかなりおもしろいのだが、あまり細々と内容を書くと興を削ぐと思うからほどほどにする。しかし、ひとつ言えるのは、本来同じタスクを延々繰り返していく巡業というものを通して、比較文化論的なアプローチで各地の模様を切り取っていて、ただ出演者たちに土地土地のツーリスト的な感想を聞くよりよほどリアルな差異があぶりだされているのが、とても興味深い。ロード・ムーヴィーのようにツアーを追いかけたロックなフィルムはこれまでもたくさんあった。スターが泥酔したり暴れたり落ち込んだりといったショットがそれらの醍醐味だとしたら、ここでのアーティストたちは学者かエンジニアのように冷静に問題点を話しあったり、あくまで理知的に最高のショーを実現しようと考える。だからこそ、これだけユニークなドキュメンタリーが仕上がったのだろうし、最終目的地の東京では少し羽目を外して夜の街を楽しむ彼ら(―といっても、プリクラやカラオケだが)が微笑ましい。

 結局のところ、東京の印象は、ヘルメットをかぶって黙々とスケジュール通りに完璧な設営をこなす裏方にスポットを当てて紹介される。どうしたって、ロボット的な印象が強いのだろう。ただ、やはり日本にこれだけ来て、酒蔵に行ったり家族で温泉巡りしたりと本気で日本のカルチャーを愛してくれているリッチーのこと、『ロスト・イン・トランスレーション』的違和感の提示だけでは終わらない。ショーの幕が上がってからのフロアにいるテクノ・フリークたちはなんだかとってもかっこよく見えるし、冒頭で書いたようにすごくハッピーなのだ。

 朝方、リッチー自身の手でカーテンが引かれ、すべてのツアーが終了する。

 「信じられないくらい大変なツアーだった。最後に至ってもまだ理解してない人もたくさんいただろうけど、理解してくれた人たちは僕らの創りだしたたくさんの瞬間はものすごくスペシャルなものだって理解してくれたはず。それを創ったのは、ミュージシャンだけじゃなくてスタッフ全員、それに全世界に散らばるクラウドのみんななんだ。それが重要だった。あたりまえだと思ってるようなことを使って、世界のどこか遠くにいる人や、すぐ隣にいる人を分け隔てなく一体化させるっていうことがさ」と語るリッチーにオーヴァーラップされる、笑顔で感謝の意を体全体で表現して帰っていくひとりの日本人クラバーの映像。これが、とっても泣ける。グッと来るんだ。

 語り主体の作品にもかかわらず、字幕はフランス、イタリア、ドイツ、スペインの欧州主要言語のみ。内容を理解するのは骨かもしれないが、おまけにサントラCDもついてくるようだし、気合い入れて見る価値はあるだろう。まぁどこかで日本版を出してくれたら最高だけどね。

Riva Starr / If Life Gives You Lemons, Make Lemonade - ele-king

 数年前から目につくようになった、MySpaceとかで注目されてヒットに結びついたみたいな新人のエピソードにはいいかげん食傷気味だ。だいたいからしてこれだけネットでいろんなチャンネルができて毎日誰もがネットにつながって何かしらの発信をしたり相当量の情報を得てるんだから、レコード会社がそこから情報を得てないわけもないし、要するにそういう売り文句自体ただちょっと新世代のアーティストっていう箔付をしたいから宣伝に使われてるにすぎないだろ、と突っ込みたくもなる。リヴァ・スターことナポリ出身のステファーノ・ミエーレも、ドアーズの"ジ・エンド"のリミックスだのを勝手に作ってネットで配布し、それがきっかけでノーマン・クック、ジェシー・ローズ、クロード・ヴァンストロークなど売れっ子DJ/レーベル・オーナーたちに注目されて一気にブレークしたと喧伝されている。まぁたしかに、テキトーにブートのリミックスをサイトに置いてそれでおいしい契約が転がり込んできたなんてシンデレラ・ストーリーがホントにあるなら、みんなそうやればいいじゃんという気もするが、彼自身別の名義(本名やMadoxなど)で10年以上の多数のリリース歴があって、まぁいきなりブレイクした新人とは言い難い。世の中そんなに甘くないって!

 ジェシー・ローズのレーベル〈Made To Play〉初のアーティスト・アルバムとしてリリースされた本作は、クラブ・ミュージックの最前線を渡り歩いてきた巧者っぽい仕掛けや音のキレもさることながら、全編に渡って途切れることなく注入され続けるあれやこれやのアイデアが素晴らしい。バルカン音楽に傾注してるというだけあって、シングル曲"I Was Drunk"(ヴォーカルにユニークなデュオ、Nozeを起用)やユーゴスラビア映画『黒猫・白猫』(エミール・クストリッツァ監督/98年)を題材にした"Black Cat, White Cat"あたりはそういったジプシー的陽気さをもった伝統音楽の断片を再構築して、えもいわれぬ雰囲気の曲に仕上げている。一発インパクトのあるネタをもってきて切り刻んでファンキーなリズムに乗せて料理するって言う手法は、もう何年も前から「次はコレ」みたいに言われつづけてるフィジット・ハウスだよということなのかもしれないけど、それで「あぁ~、アホっぽいちゃらいやつね。まだあるんだ?」みたいな受け取られ方で敬遠されるくらいなら、いまいちばん笑えて踊れるハウスとでも言ってしまってもいい。自身、MySpaceのジャンル欄には「コメディー」「ハウス」と書いてるくらいだからな。

 〈Cadenza〉あたりのフォルクローレ的流れと呼応する部分もあるのだろうか、ブルガリアの女性ヴォイスとラッパ、クラップの絡む"Bulgarian Chicks"はいかにも土着的なダンスの悦びを感じさせる曲だし、"Maria"も元ネタはどこの楽曲かわからないがRebootあたりがやった曲と言われても納得しそうだ(こちらは昨年〈Get Physical〉のサブレーベルからでたシングル"War Dance"に収録されていた)。しかし一方で、"China Gum"はブリーピーでブーミーなベースが炸裂するブレイクビーツ曲だし、呪術的ラップがキモチワルカッコイイ"Dance Me"はストレートなアシッド・ハウス、"Riva's Boogaloo"は全盛時のジェフ・ミルズ~パーパス・メーカーを思わせるピアノのループのグルーヴだけで引っぱる曲、そして"Tribute"はその名の通りMr. Fingersの名曲"Can You Feel It"を彼なりに再構築というかカヴァーした曲だ。ヒヨッコにはかもせない風格というか加齢臭というかも、微妙に漂ってくるではないか。リヴァ・スター自身が編集した"Dance Me"のヴィデオ(たぶん無許可)を見ると、ヴァニラ・アイスやMCハマーからリック・アストリー、Mr. T、そしてニュー・オーダーといったまったく節操のないチョイスのダンスの映像がカットアップされていて、間をつなぐのはとにかくぶっといジョイント。年齢もオリジンも音楽背景も「???」となりそうなセンスなのだが、たぶんこの無意味さ無法さこそが彼の本質なのだ。そのくせ、誰でもメロを口ずさめるロシアの軍歌"ポーリュシカ・ポーレ"の切ない主題をなぜかレゲエ調のトラックにのせてしみじみ聞かせる「Once Upon A Time」が、アルバムの山場にポンと置かれる。たぶん、日本のテクノ好きでこういう趣味をガッツリ否定できるひとは少ないはず。ん~すんばらすぃ~。

 ちなみに、日本盤ではジェシー・ローズとオリヴァー$のリミックス2曲が追加収録され、3月3日に発売になるそうだ。楽しみ!

CHART by JAPONICA 2010.02 - ele-king

Shop Chart


1

HOLGER CZUKAY

HOLGER CZUKAY A GOOD MORNING STORY CLAREMONT 56/UK / 2月15日 »COMMENT GET MUSIC
先日リリースされた限定10インチが瞬く間にソールドアウトとなったクラウト・ロックの伝説的グループCANのオリジナル・メンバー、ホルガー・シューカイが99年にリリースした大傑作アルバムが10年の時を経て2LPで登場!当時もCDオンリーでのリリースだったため今回が初のアナログ化!未発表音源を 3曲収録、見開きジャケット仕様、ナンバリング入りの世界限定500枚プレス!

2

ANDRES

ANDRES II PART 2 MAHOGANI / US / 2010/2/9 »COMMENT GET MUSIC
先行リリースCDアルバムに続き「・」アナログ盤第二弾が遂にリリース!JAZZ、SOUL、LATINなどのブラック・ルーツ・ミュージックから抽出されたエッセンスをANDRESのフィルターを通しMOODYMANN、J DILLA同様のデトロイト漆黒グルーヴを継承した最新のHOUSE、HIPHOPへと昇華された極上ビート全10トラック収録!

3

COFFEE & CIGARETTES BAND

COFFEE & CIGARETTES BAND LOVE THING EP FACE THE MUSIC RECORD / JPN / 2010/1/29 »COMMENT GET MUSIC
キャリア集大成的な大傑作1stアルバム「LOVE THING」からの限定12inchシングルは、2009/10/10、京都クラブ METROにて開催された京都が誇る名物パーティー「OUTPUT 10th ANNIVERSARY」でのSOFTによる"LOVE THING"の一夜限りのカヴァーをそのままライブ・ヴァージョンで収録!さらにそのSOFTのメンバーでもあるKNDによるエディットも収録したスペシャルな一枚!

4

BISON

BISON WAY TO LA CLAREMONT 56/UK / 2月15日 »COMMENT GET MUSIC
好調なリリースを重ねるPAUL MURPHYことMUDD主宰のCLAREMONT 56より、CANのHOLGER CZUKAYシンガーのURSA MAJOR、そしてレーベル主宰PAUL "MUDD" MURPHYとSMITH & MUDDのBENJAMIN SMITHによる新ユニットBISONによるデビュー・シングルが限定10インチで到着!メンバーの個性をイイとこ取りしたオブスキュア・ロック・ディスコ傑作です!

5

THE SOUL JAZZ ORCHESTRA

THE SOUL JAZZ ORCHESTRA RISING SUN STRUT / UK / 2010/2/14 »COMMENT GET MUSIC
ジャイルス・ピーターソンはじめ数多くのトップDJたちも絶賛するカナダはオタワ発、現行アフロ・ファンク・バンTHE SOUL JAZZ ORCHESTRA、待望の4thアルバムが鉄板レーベル<STRUT>よりリリース!アフリカンなパーカッション、ホーンが吹き荒れるアフロ・ファンク "AGBARA"やPHAROAH SANDERSのカヴァーとなる"REJOICE PT.1&PT.2"など70'sサウンドを踏襲し洗練された最新のアフロ・ファンク・グルーヴを披露した大傑作アルバム!

6

HENRIK SCHWARZ / AME / DIXON

HENRIK SCHWARZ / AME / DIXON A CRITICAL MASS LIVE EP INNERVISIONS / GER / 2010/2/15 »COMMENT GET MUSIC
INNERVISIONSの看板アーティスト達による強力な一枚!09年に行われたツアー音源をベースにした本作は、ROY AYERSをネタにしたHENRIK SCHWARZの名曲"CHICAGO"のニュー・ヴァージョンに加え、HENRIK SCHWARZ、AME、DIXONによる共作"BERLIN-KARLSRUHE EXPRESS"を収録!シーンの最先端をいくエレクトリック・トラックに脱帽です!

7

THE WHITEFIELD BROTHERS

THE WHITEFIELD BROTHERS EARTHOLOGY NOW AGAIN / US / 2010/2/12 »COMMENT GET MUSIC
USディープ・ファンク・バンドWHITFIELD BROTHERS、待望の2ndアルバム!先行カットされたEDAN & MR. LIFのラップをフィーチャーして贈る"THE GIFT"はもちろん、おなじくラップにPERCEE PとMEDの<STONES THROW>ファミリーを迎えたファンク・ヒップホップ"REVERSE"、QUANTICをフィーチャーしラテン/アフロな味付けが施された "LULLABY FOR LAGOS"等、豪華な客演陣参加でワールド・ワイドな音の広がりを見せ付ける濃密ディープ・ファンク・アルバム!

8

GEORGIA ANNE MULDROW

GEORGIA ANNE MULDROW KINGS BALLAD UBIQUITY / US / 2010/1/30 »COMMENT GET MUSIC
GEORGIA ANNE MULDROW待望の新作フル・アルバム!!GEORGIA自身が全曲全てオリジナルで書き下ろし、夫でありまた良きパートナーでもあるDUDDLEY PERKINSも全面的にバックアップした今作は彼女の秀でたプロダクション・スキルも堪能できるヒップホップ・トラックからエレクトリックなロービート・トラックまでバリエーション豊かに展開され、そこにGEORGIA独特のヴォーカルが冴え渡るネオ・ニュー・ソウル・ナンバーをずらりと収録!

9

RON HARDY

RON HARDY SENSATION RUSH HOUR / NL / 2010/2/15 »COMMENT GET MUSIC
説明不要のRON HARDYによる激レア・シカゴ・クラシック!中古市場では1万円オーバーで取引される事も多かった幻のレア盤が、リマスタリングされて待望のリイッシュー!

10

SIDE HUSTLE / NEMOY

SIDE HUSTLE / NEMOY SECOND INTRO / FLYWHEEL BONZZAJ / A FEW AMONG OTHERS / CHE / 2010/2/6 »COMMENT GET MUSIC
FORCE OF NATUREのDJ KENT率いるユニット「ENTERPLAY」のメンバーでもあり、HOUSE/TECHNOファンにはおなじみスイスのIANEQによるラップに THADDEUS CLARKを迎えたヒップホップ・プロジェクト=SIDE HUSTLEは激スペイシーな90'sライク・アングラ・シット!一方<BONZZAJ>からのリリースがあるビートメイカーNEMOYによる "FLYWHEEL"はパーカッシヴな生音感とエレクトリック感を見事に融合させた高揚感抜群ナイス・ブレイクビーツ・トラック!

Anthony "Shake" Shakir - ele-king

 かつて彼は自分自身を"テクノの透明人間"と形容している――つまり、いるのかいないのかよーわからんと。まあ、たしかにアンソニー・シェイカーが目立ったことはいちどもないけれど、彼は紛れもなくデトロイト・テクノのヴェテランのひとりである。初期のトラック"シークエンス"は1988年の歴史的コンピレーション『Techno! The New Dance Sound of Detroit』に収録されているばかりか、シェイカーはホアン・アトキンスとヴィジョンズ名義で作品を出したり(89年)、オクタヴ・ワンの"アイ・ビリーヴ"(90年)の共作者でもある。彼は本物のオリジナル世代なのだ。ただ......、アンソニー・シェイカーは他のデトロイトのプロデューサーのように自分自身をアピールすることが得意ではなかったのかもしれない。たしかに彼は自身が自虐的になるほど地味な存在ではあったが、しかし、彼が音楽活動を止めたことはなかった。シェイカーは20年代以上にも渡ってリリースを続けているのだ。

 彼は、90年代は主にシェイクの名義で自身のレーベル〈フリクショナル・レコーディングス〉から10枚以上の12インチを発表している。そして、〈メトロプレックス〉や〈トラック・モード〉、〈パズルボックス〉や〈セヴンス・シティ〉、〈ムーズ&グルーヴス〉や〈インターナショナル・ディージェイ・ジゴロ〉等々からも地道に12インチを切っている。2000年にはフランクフルトの〈クラング・エレクトロニック〉からアブストラクトなアルバム『Mr. Shakir's Beat Store』を発表しているし、2009年にはフランスの〈シンクロフォン〉からまったく素晴らしいシングル「アライズ」をリリースしている。

 『フィクショナリズム 1994-2009』はシェイカーの〈フリクショナル・レコーディングス〉時代のトラックを中心に編集されたベスト盤だ。12インチ・ヴァイナルだと4枚組、CDでは3枚組(全35曲)となる。アンソニー・シェイカーの音楽の特徴を簡潔に言うなら、彼のサイケデリックなセンスにある(なにせホアン・アトキンスとのコラボレーターだ)。そしてB-52'sの熱烈なファンである彼は、自分のトラックのなかにどこか捻れた(アーティな)センスを注入する。わっかりやすいハウスやテクノではないし、機能性を重視したトラックでもない。あくまで音楽的なのだ。

 実際、3時間以上におよぶ彼のこのセットは多様性に富んでいる。ジャジーなダウンテンポ"デトロイト・ステイト・オブ・マインド"、ベースとドラムマシンが見事に絡み合う"ローミング"、これこそデトロイト・テクノだと言わんばかりの"アライズ"......アンビエントもあればアシッディなファンクもある、クラフトワーキッシュなテクノ・ポップもある。『フィクショナリズム』を聴いていると、いままで日の当たらなかったデトロイト・テクノの歴史を思い知るようだ。嬉しい発見が随所にある。デリック・メイが彼の13振りのミックスCDの最初にシェイカーのトラックを選んだのも、なにか含みがあるんじゃないかとさえ思えてくる。

 〈ラッシュ・アワー〉はとても良い企画盤を思いついたものだ。控えめなだが眩しいオールスクールの輝き、自称"テクノの透明人間"に尊敬を込めて――。

CHART by JET SET 2010.02-2 - ele-king

Shop Chart


1

ポチョムキン

ポチョムキン BRAND NEW LOVE »COMMENT GET MUSIC
ポチョムキンが代弁する脱力東京ラヴ・ストーリー!?Zazen Boys向井氏制作のアノ曲が12"に!刺激的な都会暮らしの中にあっても、決して満たされることのない性的衝動。男の悲しい性(さが)を、東京上空から夜の街へと降下するエレクトロ・ファンクに浮かべた逸品"Brand New Love"加えて、B面にはPUNPEE(P.S.G.)、Mountain Mocha Kilimanjaro、Olive Oilという超豪華メンバーが集結!

2

RONI NACHUM

RONI NACHUM GUEST SERVICE SHALOM (MARK E REMIX) »COMMENT GET MUSIC
Mark Eリミックス収録のグレイト・リリース!!Limited300!!何かと話題作をドロップしてくるUK発"Fine Art Recordings"からマスト・アイテム到着。エルサレムからの新鋭"Roni Nachum"×ご存知"Mark E"。バッチリっす!!

3

ITAMAR SAGI

ITAMAR SAGI COMMON SENSE »COMMENT GET MUSIC
Be As Oneのトップ・イスラエリー・クリエイター、Itamar SagiがDrumcodeから!!これまでにもJosh Wink率いるOvemやKlap KlapそしてSomaなど世界各国の優良レーベルより作品をリリースをしてきた実力派、I.Sagiが奥行きのある覚醒的なドープ・ミニマルをリリース!!

4

SLUGABED

SLUGABED ULTRA HEAT TREATED EP »COMMENT GET MUSIC
☆特大推薦☆スクウィー x ウォンキーなカラフル特大傑作トラックス!!北欧産エレクトロ・ファンク最前線サウンド=スクウィーへの憧憬を公言するUK鬼才がPlanet Muから放つ特大傑作EPがこちら!!

5

RED RACK'EM

RED RACK'EM THE NIGHTSHIFT »COMMENT GET MUSIC
デトロイト注目レーベルからの見逃せない一枚!!Hot Coins名義でも御馴染み、ニュー・ディスコ~ディープ・ハウスを横断するDaniel BermanによるRed Rack'em名義でのグッド・リリース。

6

COSMETICS

COSMETICS SOFT SKIN »COMMENT GET MUSIC
Glass Candy~Nite Jewel直系のダーク・ウェイヴ・ディスコ・ポップ!!メチャ最高です。こんなのも出しますCaptured Tracks。カナダの男女デュオ、Cosmetics!!レトロ・シンセに気だるい女子ヴォーカル、ロウファイ感も加わった完璧シンセ・ウェイヴ・ディスコ。グレイテスト!!

7

D1

D1 JUS BUSINESS »COMMENT GET MUSIC
☆大推薦☆天才ダブステッパーD1がデス・テクノをネタ使いした超話題盤です!!ダブステップ史上初のディープ・ハウス・ネタ名作"I'm Loving"を手掛けた鬼才が、今度はデス・テクノと鍵盤ハウスを下敷きにしたA1をお届け~!!

8

U.S. GIRLS

U.S. GIRLS GO GREY »COMMENT GET MUSIC
US最狂女子、Siltbreezeからの強烈セカンド・アルバム!!かなりスゴイことになってます。ポートランド在住のMegan Remyによるソロ・ユニット、U.S. Girls。この人は本当にヤバい。ロウファイ~ジャンク~ドローン~トライバル全てメチャクチャにかき回す23世紀ポップ!!最高。

9

DJ HELL FEATURING BRYAN FERRY

DJ HELL FEATURING BRYAN FERRY U CAN DANCE 1/3 (CARL CRAIG REMIX V.2) »COMMENT GET MUSIC
Carl CraigによるリミックスVersion 2を収録。アルバム『Teufelswerk』から一挙に3枚同時リリースされたリミックス・シングル3部作のうちの第1弾がこちら!!

10

ARTO MWAMBE

ARTO MWAMBE LOVE LIFT »COMMENT GET MUSIC
ブリージー・エレクトロニックなオールドスクール更新型ハウス大傑作!!エレクトロニカ方面の方にも是非聴いて頂きたい4つ打ちサウンド推薦盤。細身な男性ヴォーカルが際立つ爽やかなアッパー・トラックが憎らしい!!

Alayavijana - ele-king

 どっちが先だったか忘れてしまったけれど、昨年は春先に東京経済大学で粉川哲夫氏の身体パフォーマンス論にオイゴル(LKO+ユザーン)を紹介し、2時間の長丁場を持たせるために彼らがタカシタールを連れてきてライヴをやったことと、『スタジオヴォイス』ではミニマル・ミュージックの特集をやるというので、あれこれと打ち合わせをしているうちにミニマル・ミュージックにはアフリカ起源とインド起源のものがあるだろうということになり、そのせいでシタールやタブラといったインドの楽器がやたらと気になっていた時期があった。そこに『朝日新聞』で洋楽CDのセレクションをやっているからか、デバシシュ・バタチャルヤという、それまで1ミリも聴いたことがないインドのスライド・ギタリストによるサード・アルバム『オー・シャクンタラー!』が送られてきて、ラ・モンテ・ヤング以外のドローン・ラーガを初めて長々と聴くことになった。これが......けっこうよかった(朝日の会議で強く推したけれど、ほかには誰も聴いてなかった)。

 そして、年末から年始にかけて手塚るみ子さんと『手塚治虫 エロス1000ページ』を急ピッチで編集していたら、彼女がやっているレーベルからの新作だといって『アラヤヴィジャナ4』を渡された。『ゲゲゲの娘 レレレの娘 らららの娘』も先行して作業していたんだから、一体、いつの間に......と思ったものも束の間、家に帰って再生してみると、これがまた最初から最後までドローン・ラーガで、えー、なに、手塚るみ子ってテクノしか聴かないのかと思っていたのにアッチョンプブリケで、慌てて調べてみると、これって最初はヨシダダイキチとユザーンがはじめたグループだったりして、ありりー、だけど音楽はただ静かにフワフワと気持ちよいループを繰り返し続け、バタチャルヤに比べると緩急があまりなく、一本調子なためにドラマ性が排除され、いわゆるテクノやハウスで経験してきたトランス状態に近いものになっているのではないかと。これがほんとのゴア・トランスだ......とはいわない方が身のためですが、光を求めて時空を彷徨っているかのようなバタチャルヤとは違い、低音部がしっかりし過ぎているためか(?)飛ぶというよりは地に足をつけたまま揺らめいているというところが日本製だし、奇妙なリアリティを伴って聴けるという感じ。オイゴルにしてもインド音楽をそのままやろうとしているわけではなく、そのことに仮託しながら表現しているのはやはり「いま・ここ」だということが強く伝わっくる。

PS 日本はいま、都会を歩く人びとの足の速さでは一気に16位にまでずり落ちたとか(1位はシンガポール)。そーいやー、繁華街が歩きづらくなったことはたしか。通勤ラッシュのことはよく知らない。

The Album Leaf - ele-king

 ジ・アルバム・リーフは......先日レヴューしたフォー・テット同様、10年前のポスト・ロック/エレクトロニカ時代にそのシーンのひとりとしてデビューしている。西海岸のサンディエゴを拠点とするジ・アルバム・リーフことジミー・ラヴェルは、それ以前はスウィング・キッズなど地元のハードコア・バンドにも参加していて、あの奇妙なコスチュームで知られる英雄的バンド、ザ・ローカストのオリジナル・メンバーだったという経歴まである。もちろんジ・アルバム・リーフの音楽はザ・ローカストとは180度違った種類のもので、それは透明なタッチを特徴とする抒情派IDMといったところだ。シガー・ロスに見出され、アイスランドのシガー・ロスのスタジオで録音して、2004年にシアトルの〈サブ・ポップ〉とベルリンの〈シティ・スラング〉から発売された3枚目のアルバム『イン・ア・セイフ・プレイス(In A Safe Place)』が初期の代表作である。

 ポスト・ロックは、それが注目された頃は毒にも薬にもならない"壁紙音楽(wallpaper music)"などと揶揄されたものだが、しかし90年代の狂騒におけるチルアウトとして機能した......と僕はフォー・テットのレヴューで書いたが、しかしそれがダンス・カルチャーと切り離され、それ自体の独立を求められたときに、ではこれら音楽は何を目的意識とすればいいのかという問題が生じてくる。ボーズ・オブ・カナダはサイケデリックな荒野を選び、そしてジ・アルバム・リーフの辿ってきた道は、その問いに対する典型的な回答のひとつとなった。それはポスト・ロック/エレクトロニカのチルアウト感覚とアーティな香りを残しつつポップになること=俗称ポップトロニカへの道である。

 ジ・アルバム・リーフにIDM的な目新しさ、刺激や奇矯さを見出すのは困難だが、より親しみやすい音楽、より柔らかいチルアウトへと進んでいる。透明なタッチで描かれた風景画のようであり、詩情漂う写真集のようでもある。飛び道具のように電子音を使うことはないが、ここには美しいメロディがあり、エレガントなアンサンブルがある。毒のないボーズ・オブ・カナダ、もしくは抒情派アンビエント・ポップとでも言おうか。

 通算5枚目のアルバムとなる『ア・コーラス・オブ・ストーリーテラーズ』も優秀なポップトロニカだ。ポップといっても、ジ・アルバム・リーフの音楽はメランコリックである。彼の音楽を特徴づける電子ピアノの音色は美しいが、同時に悲しく、淋しく響いている。そして"Summer Fog"、"There is a Wind"、"Falling from the Sun"......こうした曲名から彼が自然をモチーフに好んでいることがわかる。あるいは"Within Dreams"という曲名からも喚起させるように、彼の音楽には良くも悪くもロマン派的なこってりとした抒情が表現されている。変形された電子音によるドラム・ループとシンセサイザーのストリングス、そしてピアノのメロディ、あるいはヴァイオリンが重なっていくその曲は、アルバムのベスト・トラックである。彼のメロディ・センスが光る鮮やかなドリーム・ポップ"Falling from the Sun"も素晴らしい。しかしこの人にしかできないスタイルがあるとしたら、ほとんどヴァイオリンとピアノ、そしてストリングのみで構成される"Summer Fog"のような曲だろう。

 いっそうのこと、ブライアン・イーノの『ディスクリート・ミュージック』もしくは『ミュージック・フォー・エアポート』の領域まで振り切ってしまえばいいのにと思うのだが、しかしこの人はあくまで中道なのだ。この音楽を聴かないなんてもったいない! とは決して言わないけれど、買って聴いても損はない......と思われる。安心して聴けるという意味において。

Four Tet - ele-king

 フォークトロニカを定義した2001年のセカンド・アルバム『ポーズ』は、よく聴いたものだった。上質なクリームのように甘くドリーミーなテクノ・サウンドは、あの時代が生んだ価値ある1枚のひとつである。

 この潔癖性的なエレクトロニカは、1990年代半ばのポスト・ロックを出自としている。フォー・テットを名乗るキエラン・ヘブデンは、元々はロンドンを拠点とするフリッジのメンバーで、いわばトータス・フォロワーだった。それは行き詰まりを見せていたダンス・カルチャーにおける新潮流で、結局のところ、ポスト・ロックにしてもエレクトロニカにしても、なかばの風俗と化したドロドロのダンスフロアに背を向けて「もうちょい品良くいこうぜ」ということだった。僕は当時のこうした気持ちを理解できる。ジャズとクラウトロックとアンビエントとの融合だとか、いろんなことが語られてきたが、大きな目で見れば、ポスト・ロックにしてもエレクトロニカにしても、これらは1990年代というディケイドにおけるチルアウトだったのだ。

 『ポーズ』も良かったし、サード・アルバムの『ラウンズ』(2003年)も愛聴した。彼のライヴにも行った(まあまあだった)。キエラン・ヘブデンはそれから、『ラウンズ』を最後に彼のフォークトロニカを止めてしまい、2005年の『エヴリシング・エクスタティック』ではビートを強調した。悪くないアプローチだった。『ポーズ』も『ラウンズ』もリズムという観点ではヒップホップの影響を取り込んでいるとは思えないほど凡庸なところがあった......が、『エヴリシング・エクスタティック』はその弱点と向き合った。ロマンティックな彼の音楽のなかにダンスの要素を取り入れようと試みた。それは結果として成功し、それからヘブデンは売れっ子リミキサーとなった。他方で彼は自分のフリー・ジャズ趣味を満足させるかのようにジャズ・ドラマーのスティーヴ・リードのプロジェクトにも参加した。サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンの『ファイヤー・エスケープ』では見事なプロデュース・ワークも見せた。

 ヘブデンは、そして2008年のシングル「リンガー」でミニマル・テクノに挑戦すると(それは決して出来が良いとは思えなかったが)、おそらくその延長としてブリアルとのスプリット・シングルを自身のレーベル〈テキスト〉から昨年発表した(こちらは素晴らしかった)。この流れで考えれば、5年ぶりのアルバムとなる『ゼア・イズ・ラヴ・イン・ユー』がミニマリズムの冒険になることは納得のいく話なのだろう。

 だとしても、新しいアルバムは4つ打ちを基調としている......などと書けば昔ながらのファンは懐疑的になるかもしれない。繰り返すが、フォー・テットとは10年前の4つ打ちの狂騒へのアンチテーゼだったのだ。が、ご心配は無用である。ヘブデンは今世紀のベルリンではなく1970年代のニューヨークもしくは1970年代のデュッセルドルフへと向かっている。スティーヴ・ライヒのミニマリズム(現代音楽における"陶酔")であり、クラウトロックにおけるアートのほうに。

 アルバムは女性の美しい声の反復とエディットによるミニマリズム"エンジェル・エコーズ"ではじまる。夢見るブレイクビートの"ラヴ・クライ"が再生され、そしてベスト・トラックのひとつ"サークリング"へと続く。スティーヴ・ライヒ的な音の重なりによって場面が変化しながら、絶妙にクラウトロックへとスライドする"サークリング"には、ヘブデンの音楽の良いところすべてが凝縮されている。ドリーミーで、ロマンティックで、つまり潔癖なトランスなのだ。

 それでもヘブデンは、興味深いことに、前作以上にダンスフロアを目指している。"シング"はコーネリアスがミニマル・テクノをやったようなユニークな曲で、リスナーはサイケデリックな遊園地のメリーゴーランドを楽しむことになる。『ゾビゾーゾー』の頃のクラスターをわかりやすく現代風にしたような"ディス・アンフォールズ"のユーモラスでキュートなエレクトロニカも魅力的だ。心地よいパーカッションと素朴な単音によるメロディがディレイで重なっていく"シー・ジャスト・ライクス・トゥ・ファイト"もまた素晴らしくラヴリーな曲で、このアルバムの最後に相応しい出来だと言える。

 時代の"チルアウト"から離れて、フォー・テットは彼のダンスフロアを練り上げた。危険なほど甘く、溶けてしまいそうなそこは、現実などクソ食らえと言わんばかりに妖しく発光している。

Massive Attack - ele-king

 ロバート・デル・ナジャ......3Dによれば彼が『ヘリゴランド』のポスターのために描いた絵は、ロンドンの地下鉄では使えないそうで、何故ならそれがあまりにも"ストリート・アート"すなわちグラフィティに見えてしまうからだという。もっともそれはマッシヴ・アタックにとって今回のアルバムが成功していることの証左でもある。しばしデヴィッド・リンチを引き合いに出して語られるマッシヴ・アタックの"暗さの芸術(art of dark)"は、ごくありふれた日常のなかの暗い予感を拡大してみせる。「嵐を予感すると人は背を向ける/不安だから」、と『ヘリゴランド』の"パラダイス・サーカス"でホープ・サンドヴァルが歌っているが、これは彼らの不朽の名曲"アンフィニッシュド・シンパシー"でシャラ・ネルソンが歌った「夜も知らないでどうやって昼を過ごせると思うのか」というフレーズとまあ同じようなもので、マッシヴ・アタックはこの世界の負性のようなものと向き合うことで自らのアートを磨いてきた。彼らは闇を友とし、雨を祈願した。コミュニケーションよりもディスコミュニケーションを、笑みよりも無愛想でいることを選んだ。そうした暗さの芸術家たる姿勢がいまやお馴染みとなった3Dの政治活動にも繋がっているのだろう。

 ただ、ファンにとって複雑だったのは、3Dが積極的な反戦デモ活動をおこしていた時期にマッシヴ・アタックが発表した『100th・ウィンドウ』が実に不可解な出来となっていたことだった。彼らのそもそもの武器――つまり、彼の地の音楽における二大要素=パンクとレゲエを繋ぐことのできた彼らの方法論――それは言うまでもなくヒップホップである。バンドからマッシュルームが去ったとき、多くのファンがマッシヴ・アタックから離れたのは無理もない話なのだ。彼らの暗さの芸術に眩い光沢を与えていたのはマッシュルームのブレイクビートであり、サンプリングのセンスだったのだから。『100th・ウィンドウ』にはそして、ダディー・Gすら関わっていない。豊富な音楽の知識を持つブリストルのベテランDJも離れ、音楽からは"ソウル"が消えてしまった。3Dは明らかに孤立し、そしてマッシヴ・アタックは長い冬眠に入った。もちろん誰一人としてそれを責めなかった。彼らは1990年代にクラシックと呼べる最高のアルバムを3枚(+1枚)も発表しているのだから。

 そんなわけで昨年の先行シングルを聴くまでは、僕はこのブリストルの大物の新作に何の期待もなく、注目もしなかった。だが、2008年にポーティスヘッドの10年振りの『サード』が素晴らしかったように、7年振りの『ヘリゴランド』も見事だった。3Dとダディー・Gはふたたびタッグを組んだ。多くの協力者が集まり、マッシヴ・アタックはソウルを取り戻したようだ。

 昨年リリースされて先行シングル「スプリッティング・ジ・アトムEP」を聴いてあらためて感心したのは、彼らの"暗さ"だった。中毒性の高いスカンキング・ビートをバックに、地上に釘付けにされたようなダディー・Gの(音程をキープできるギリギリの低音の)歌ではじまり、続いてホレス・アンディの高く甘い声、そしてまたダディー・G、そしてまたホレス・アンディ、それから3Dの妖艶な声へと代わっていくそのタイトル曲は、不機嫌というよりは恐怖の領域で鳴っている。そしてタチの悪いことに、曲も歌詞も魅惑的なのだ。「ドープなしではホープはない。失業者のお帰りだ」――とても他人事とは思えないだろ? 結局"スプリッティング・ジ・アトム"はアルバムのなかでもベストな1曲で、曲のモチーフは昨年の、G20金融サミットときの銀行を粉々にしたロンドンにおける反資本主義の暴動ではないかと思われる。(筆者による『SOOZER』誌のための取材で3Dは、暴動はコンサートよりもマシだと大いに肯定している)

 『ヘリゴランド』の1曲目となった、TV・オン・ザ・レイディオのヴォーカリスト、トゥンデ・アデビンペをフィーチャーする"プレイ・フォー・レイン(雨乞い)"の不気味なパーカッションによる墓場のダンスホールもたまらない魅力がある。が、マルティナ(トリッキーの初期の名作におけるヴォーカリスト)の個性あるパンキッシュな声をフィーチャーした蜃気楼のダブステップ"バベル"、アシッディなミニマリズムとマルティナの歌による"サイケ"、あるいはホレス・アンディが歌い、ブレイクビートと震動するベースラインがしなやかな絡みを見せる"ガール・アイ・ラヴ・ユー"のような曲こそファンが待ち望んでいるマッシヴ・アタックかもしれない。これらの曲は『ブルー・ラインズ』へと接続する。そして、エルボウのガイ・ガーヴェイをフィーチャーしたドラッギーな悲歌"フラット・オブ・ザ・ブレード"、西海岸から参加したホープ・サンドヴァルの妖艶な声とピアノ・サンプルのループが目眩を生む"パラダイス・サーカス"は『メザニーン』へと接続する。

 3Dが歌う"ラッシュ・ミニット"もまた『メザニーン』的な――つまりヴェルヴェット・アンダーグラウンド的な暗いトリップで、これが『ヘリゴランド』のハイライトである(残念なことに日本盤ではこの曲の訳詞が割愛されている)。盟友デーモン・アルバーンのソウル・ヴォーカルをフィーチャーした"サタデー・カム・スロー(土曜日はゆっくり来る)"は、エリザベス・フレイザーによる"ティアドロップ"をはっきりと思い出させる。

 3Dによれば、アルバムの歌詞にはあらゆる位相において政治的な問題提起がされているとのこと。なお、日本盤には"フェイタリズム"の坂本龍一と高橋幸宏によるリミックスが収録されている。昨年マッシヴ・アタックがメルトダウン・フェスティヴァルのキュレーターを務めたときに、3Dいわく「政治的な理由から」YMOを呼んでいる。また、ブリアルによるリミックスも近い将来に聴くことができそうである(グレイト!)。

Scout Niblett - ele-king

 この10年、いわば退廃的な女性シンガーというのが顕在化していて、ホープ・サンドヴァル、キャット・パワー、あるいはエマ・ルイーズ"スカウト"ニブレットあたりがその代表と言えよう。彼女たちはまるで......とくに在米イギリス人のスカウト・ニブレットは、スティーヴ・アルビニと組んだサード・アルバム『アイ・アム』(2003年)以降は、温かいブルースと激しいのソウルのミックスジュースで、エレガントなバラードを歌うかと思えば、ローファイ・ノイズ(エレクトリック・ギターとドラムによる)が爆発する曲もある。牧歌的なフォークもあるし、天文学についての曲もある。だが、いずれにしてもニブレットの本質とはブルースなのだ。それもまた、傷ついて、疲れ、すり減った心が歌う勇敢なブルース。彼女がいまだに熱心なファンを逃さないのは、彼女の音楽にはどうしようもなく魂を揺さぶられるような瞬間があるからである。

 〈トゥ・ピュア〉を離れ、〈ドラッグ・シティ〉からのリリースとなった通算6枚目のアルバム『ザ・カルシネーション・オブ・スカウト・ニブレット』は、ウィル・オールダムとのデュエットなどに象徴されるような3年前のフォーキーな前作とは打って変わって、よりハードに、よりノイジーに、よりシンプルに、ニブレットのブルースが強調されている。エレクトリック・ギターのみで弾き語られる"I.B.D."のようなバラード、"ベルジン"のような美しいブルースは彼女の独壇場で、彼女のこの手の曲はいつ聴いてもうっとりさせらる......が、このアルバムはこれまでの彼女のキャリアのなかでもっともハードな作品になっている。

 アルバムはまるでストゥージズのように、彼女の強烈に歪んだギターからはじまる。そして2曲目の"ザ・カルシネーション・オブ・スカウト・ニブレット"や"ルーシー・ルシファー"のような不機嫌なブルース・ロックがアルバムの方向性を浮かび上がらせる。アルバムの後半も穏やかさと激情が交錯する"リップ・ウィズ・ライフ"、ひときわノイジーな"ストリップ・ミー・プルート"(彼女が好きな天体をモチーフとしている)といった曲が続く。

 ニブレットの歌は、間違いなく研磨されているようである。彼女のなかの激しさは自分の理性によってコントロールされ、アルバムでは彼女の新しいスタイルが作られようとしている。それはいわばローファイ・オルタナティヴ・ブルース・ロックで、長年のパートナー、スティーヴ・アルビニの手によってあたかもライヴハウスで聴いているような音になっている。その驚くほどの生々しさが、彼女のエモーショナルな音楽をさらに特別な響きにしている。

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