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Anthony "Shake" Shakir

Anthony "Shake" Shakir

Frictionalism 1994-2009

Rush Hour

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野田 努 Feb 17,2010 UP

 かつて彼は自分自身を"テクノの透明人間"と形容している――つまり、いるのかいないのかよーわからんと。まあ、たしかにアンソニー・シェイカーが目立ったことはいちどもないけれど、彼は紛れもなくデトロイト・テクノのヴェテランのひとりである。初期のトラック"シークエンス"は1988年の歴史的コンピレーション『Techno! The New Dance Sound of Detroit』に収録されているばかりか、シェイカーはホアン・アトキンスとヴィジョンズ名義で作品を出したり(89年)、オクタヴ・ワンの"アイ・ビリーヴ"(90年)の共作者でもある。彼は本物のオリジナル世代なのだ。ただ......、アンソニー・シェイカーは他のデトロイトのプロデューサーのように自分自身をアピールすることが得意ではなかったのかもしれない。たしかに彼は自身が自虐的になるほど地味な存在ではあったが、しかし、彼が音楽活動を止めたことはなかった。シェイカーは20年代以上にも渡ってリリースを続けているのだ。

 彼は、90年代は主にシェイクの名義で自身のレーベル〈フリクショナル・レコーディングス〉から10枚以上の12インチを発表している。そして、〈メトロプレックス〉や〈トラック・モード〉、〈パズルボックス〉や〈セヴンス・シティ〉、〈ムーズ&グルーヴス〉や〈インターナショナル・ディージェイ・ジゴロ〉等々からも地道に12インチを切っている。2000年にはフランクフルトの〈クラング・エレクトロニック〉からアブストラクトなアルバム『Mr. Shakir's Beat Store』を発表しているし、2009年にはフランスの〈シンクロフォン〉からまったく素晴らしいシングル「アライズ」をリリースしている。

 『フィクショナリズム 1994-2009』はシェイカーの〈フリクショナル・レコーディングス〉時代のトラックを中心に編集されたベスト盤だ。12インチ・ヴァイナルだと4枚組、CDでは3枚組(全35曲)となる。アンソニー・シェイカーの音楽の特徴を簡潔に言うなら、彼のサイケデリックなセンスにある(なにせホアン・アトキンスとのコラボレーターだ)。そしてB-52'sの熱烈なファンである彼は、自分のトラックのなかにどこか捻れた(アーティな)センスを注入する。わっかりやすいハウスやテクノではないし、機能性を重視したトラックでもない。あくまで音楽的なのだ。

 実際、3時間以上におよぶ彼のこのセットは多様性に富んでいる。ジャジーなダウンテンポ"デトロイト・ステイト・オブ・マインド"、ベースとドラムマシンが見事に絡み合う"ローミング"、これこそデトロイト・テクノだと言わんばかりの"アライズ"......アンビエントもあればアシッディなファンクもある、クラフトワーキッシュなテクノ・ポップもある。『フィクショナリズム』を聴いていると、いままで日の当たらなかったデトロイト・テクノの歴史を思い知るようだ。嬉しい発見が随所にある。デリック・メイが彼の13振りのミックスCDの最初にシェイカーのトラックを選んだのも、なにか含みがあるんじゃないかとさえ思えてくる。

 〈ラッシュ・アワー〉はとても良い企画盤を思いついたものだ。控えめなだが眩しいオールスクールの輝き、自称"テクノの透明人間"に尊敬を込めて――。

野田 努