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Hudson Mohawke vs James Blake

──ハドソン・モホークとジェイムス・ブレイクの論争から考える「コラボとは何か?」

Sep 02,2016 UP

 8月半ば、ハドソン・モホークとジェイムス・ブレイクとの間で興味深いやりとりが交わされた。そのやりとり自体はよくあるミュージシャン同士のビーフで、つまりは単なるゴシップなのだけれど、「コラボとは何か?」という問題を提起するものでもあったので、簡単に経緯を記しておきたい。

 ことの発端は、あるひとりのファンが「ハドソン・モホークとジェイムス・ブレイクとのプロジェクトが必要だ」とツイートしたことにある(8月11日23時16分)。そのツイートを受けてハドソン・モホークは、フランク・オーシャンとだけでなくジェイムス・ブレイクともデモ作りをおこなっていたことを明らかにした(8月11日23時43分。オーシャンの名前が挙がっているのは、昨年末、オーシャンのために作ったとされるハドモーの音源がリークされて話題になったことが念頭に置かれているため)。その音源が日の目を見ることになるかどうかは不明だが、これ以上トラブルに巻き込まれたくないハドモーは、「何もリークするつもりはない」とツイートを続ける(8月12日0時21分)。
 その後ジェイムス・ブレイクは、このハドモーの発言を真っ向から否定するツイートを投稿する。「彼には才能があると思うけど、ぼくはハドソン・モホークと仕事をしたことはないし、彼が何のことを話しているのかわからない。敬意を表しつつも、困惑している」(8月13日3時10分)。
 この発言を受けてハドモーは、ブレイクがハドモーの音源を用いていくつかのことを試みたが、それが失敗に終わったこと、またハドモーはフランク・オーシャンとも一緒に仕事をしたが、それも失敗に終わったこと、そしてそれらが日の目を見ることはおそらくないが、もしそうなったら最高だということを連投し(8月14日23時27分)、「これを証明しないといけないなんて信じられない」というコメントとともに、ブレイクから送られたと見られるeメールのスクリーンショットを公開した(8月15日4時58分)。そこには、2014年2月5日という日付とともに、「きみが送ってくれたビートでいくつかのことを試してみたけれど、うまくいかなかった。すまない」という内容が記されていた。
 これに対しブレイクは、長めに書かれたメモのスクリーンショットを直接ハドモー宛てに送信する(8月15日8時50分)。

あーもう、頼むよ。そうさ、ぼくはその音源を聴いて、丁重にお断りした。2年経ってきみは、リークできる何かがあるような段階までぼくらがコラボしたという考えを仄めかしている……? [それなら]きみが持っているものをリークしたらいい。ぼくのヴォーカルや入力のないきみ自身のビートをリークすることになるだろうけどね。ぼくらが一緒に仕事をしたことはなかった。そのことを神に感謝するよ。ぼくは自分の音楽をきみに預けることなんてできないからね。もしきみが音楽をリークすると脅かし続けるなら、いずれ、もしくはそうすることができると仄めかすだけで、すぐに誰もきみに音楽を預けなくなるだろう。もう一度言う……困惑している。

 これに対しハドモーは、「帰ったら連絡する。プライベートに話そう」と返信している(8月15日10時30分)が、ここで唐突にOPNがふたりのやりとりに介入している。OPNはハドモーとブレイクの両者に宛てて、「去年の夏きみたちが何をしたか、ぼくは知っている」と記された映画『ラストサマー』の画像を添付し、白紙のリプライを送信(8月15日13時29分)。その後ハドモーは「ジェイムスとは何の問題もない」とツイートし(8月15日17時07分)、事態の収束を図った。

 行き違いはふたつある。ひとつは、ハドモーの「デモを作った」、「自分のビートを使ってブレイクが作業した」という発言内容を、ブレイクが「一緒に仕事をすること」すなわち「コラボ」としては見做さなかったということ。もうひとつは、ハドモーの「音源が日の目を見たらいいのに」という願望を、ブレイクが「音源をリークするぞ」という脅しとして受け取ったということ。このふたつが絡み合って、どんどん話がこじれていったのである。まあ要するによくある誤解の積み重ねなのだけれども、それが『ピッチフォーク』をはじめとする様々なメディアに取り上げられることで大きな騒動へと発展してしまったわけだ。
 そういった表面的な行き違いの部分、あるいはふたりの間の感情的なしこりを無視して、「コラボした/していない」という点にのみ着目すると、興味深い問題が浮かび上がってくる。
 ハドモーはブレイクにビートを送った。ブレイクはそれを使って色々と試みたが完成には至らず、最終的に作業を断わった。したがってハドモーは、完成品はもちろん作業途中の音源さえもブレイクから受け取っていないのだが、ハドモー的にはこの時点で共同作業=コラボが成立している。ハドモーのビートを用いてブレイクがあれやこれやと格闘したのだから、それはもう共同作業=コラボでしょう、というわけだ。他方ブレイク的には、制作が途中で行き詰まりトラックが完成しなかったので、共同作業=コラボは成立していない。
 つまり今回のビーフは、コラボレイションという概念に関して、過程を重視するかそれとも結果を重視するか、という争いだったのである。誰かが作ったものに別の誰かが手を加えたら、たとえ作品が未完成であったとしてもその作業自体はコラボである(ハドソン・モホーク)。最終的に作品が完成しない限り、誰かが作ったものに別の誰かが手を加えたとしてもその作業はコラボではない(ジェイムス・ブレイク)。はたして共同作業=コラボとは過程のことなのか、それとも成果のことなのか?
 文化的なものは、たとえそれが物理的にはたったひとりの手によって生み出されたものであったとしても、多かれ少なかれ過去の様々な遺産や他者とのコラボレイションである──たしかにそうなのだけれど、そういった大きな次元の話ではなく、もっとプラグマティックなレヴェルで「コラボとは何か?」ということを考えるとき、今回のハドソン・モホークとジェイムス・ブレイクとの論争は非常に示唆に富んだやりとりだったのではないだろうか。(小林拓音)