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RIP

R.I.P.:Sly Stone

R.I.P.:Sly Stone

追悼:スライ・ストーン

野田努 Jun 13,2025 UP

1968年にオレが真剣になって聴いていたのは、ジェームズ・ブラウン、ジミ・ヘンドリックス、“ダンス・トゥ・ザ・ミュージック”をヒットさせたばかりのスライ&ザ・ファミリー・ストーンだった。スライの音楽には、ありとあらゆる種類のファンキーな要素が詰まっていて、そりゃあすごいものだった。 ——マイルス・デイヴィス*

衣装はロック史上もっとも奔放なものだった。並外れたショウマンであり、そのスタイルはラリって頭のいかれたフィルモア地区のぽんびきと同じようにいかれているあのフィルモア公会堂的楽天主義とを故意に組み合わせものだった。(…)スライ&ザ・ファミリー・ストーンは、かつて誰も聴いたことのない音楽を作った。 ——グリール・マーカス**

 映画『サマー・オブ・ソウル』におけるスライ&ザ・ファミリー・ストーンは別格だった。ぼくのような後追い世代がジミ・ヘンドリックスを別格に思えたのと同じようにそのすべてが別次元で、サウンドはさることながら、バンド編成それ自体も20年先をいっていた。白黒男女混合、しかも黒いグルーヴを叩くドラマーは白人男性、トランペットは黒人女性、マーカスにいわく「第一級の文化策士」たるこの集団は、サマー・オブ・ラヴが白人中心主義でしかなかったというその矛盾を余裕で克服すると同時に、60年代後半、音楽的にはマンネリズムに陥っていた黒人音楽を、いや、ポップ・ミュージックをまったく新しいところに導いてしまった。そして、では、それがどんなところだったのか——たとえばマーク・フィッシャーは2016年に次のように書いている。

スライ&ザ・ファミリー・ストーンはすべてを手にしているように思えた。どこかで荒々しく、即興的で、それでいてしんみりと踊れるようなサウンド、感傷的でもなく、かといって聖人ぶってもいない、ユーモラスであり、それと同時に極めて真剣でもあったその音楽で。(…)スライ&ザ・ファミリー・ストーンが体現した戯けた自由と大胆さ。それらは、ある種の前衛集団による活躍だったかもしれないが、エリートに限定される必然性はなかった。むしろ反対に、ラジオやテレビに登場した彼らの存在は、「このようなボヘミアは誰にでも開かれるべきではないのか?」という問いを絶えず投げかけるのであった。***

 2025年6月12日、つまり昨晩、新宿のブルックリンパーラーで、DJヨーグルトはお馴染みの名曲を7インチのドーナッツ盤と12インチのアルバムからかけていた。“ダンス・トゥ・ザ・ミュージック”“アイ・ウォント・トゥ・テイク・ユー・ハイアー”“スタンド!”“エヴリデイ・ピープル”“エブリバディ・イズ・ア・スター”……もっともふざけた曲“スペース・カウボーイ”をかけなかったが“サンキュー”はかけてくれたし、彼はセットの後半にはブライアン・ウィルソンへの追悼もしなければならなかったから、まあ、ヨシとするか。

 スライのそうした曲のほとんどは、よく言われるように、サマー・オブ・ラヴの前向きなエネルギーの熱量をほかのどんな音楽よりも強烈に反映させていた。また同時に、彼ら彼女らは、ワシントン大行進以降の理想主義への情熱をも思う存分に充満させていた。ジェイムズ・ブラウンのファンクやサム・クックのソウル、ゴスペル、ビートルズ、ボブ・ディラン、ビーチ・ボーイズ、サイケデリック・ロックなどなどを混合しスケールを拡大させたその音楽が、興奮を抑えきれない当時の若者たちに、これがみんなをひとつにしてくれる音楽なんだと思わせたことは、いまでも容易に納得できる。そう、『サマー・オブ・ソウル』やウッドストックの映画を観れば、あの時代の頂点がなんだったのかが一目瞭然だ。それから、リッキー・ヴィンセントが言うように「EW&F、Pファンク、マイケル・ジャクソン、プリンスの豪華絢爛な舞台は、すべてスライ・ストーンが豪華で馴染みやすい雰囲気にまとめあげたファンクの延長上にある」****。またヴィンセントは、ジェイムズ・ブラウン以上に、当時スライの音楽がリスナーたちに人種問題の話題をうながしたことも書いている。まあ、「俺をニガーと呼ぶな、白んぼめ」などとも歌ったわけだし。
 ぼくがスライがすごいと思うのは、彼がやったことが、過去の出来事に収まってはいないという事実に関してである。サウンド面でもそうだが、コンセプトにおいても。その一例として、フィッシャーの引用をしている。あの、いかにも狡猾な面構えのスライ、マークスがスッタガリー神話になぞって論じた文字通りのトリックスター、自由というものの複雑さを表現したスライ……。
 
 スライ&ザ・ファミリー・ストーンには『暴動』という、ポップス史上指折りの問題作がある。スライは、2023年に上梓した彼の回想録『サンキュー』のなかで、これはマーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイング・オン』へのアンサーだと語っている。「いったい何が起きているんだい?」「暴動が起きているんだ(There's a Riot Goin' On)」というわけだ。この言葉だけを見たらいかにも威勢の良さそうな『暴動』を連想してしまいそうだが、周知のように『暴動』は、まったくそんな作品ではない。全体的にダークだし、なにせクレジットされているタイトル・トラックは0分0秒、つまり無である。ドラムマシンを導入し、オーヴァーダビングの果てに生まれた、天真爛漫さとは真逆のこのアルバムを、「もっとも荒涼としてぶっきらぼうな、革命後の世代におけるPTSD(心的外傷後ストレス障害)のさながら心電図測定値」*****、このように表現したのはグレッグ・テイトだった。あるいは、スライは自分の絶望には意味があることを示した、こう書いたのはマーカスだ。ニクソンが大統領に就任して2年後、政治史で言えば、新自由主義が起動しはじめたときにこのアルバムを生まれた。黒人の活動家たちが次から次へと暗殺され、強まる社会的プレッシャーのなかで、そしてそこに逃避するかのようにスライはドラッグに溺れに溺れた。

 スライの物語が難しいのはそこだ。音楽を変えたこの男の全盛期は、20代で終わっている。『暴動』のときは28歳、次作『フレッシュ』が30歳だ。そこから先のスライは、ドラッグの巣窟と化した自宅で、ほとんど毎日キマリ、ただだらだらと過ごしていたわけではないが、やがて本人いわく「新たな記録」というほどいろんな理由で何度も逮捕された。自叙伝では、彼が星よりもまぶしかった最初の30年の人生のあとの、さんざんだった50年の出来事も克明に語られている。つねに親身になってくれたジョージ・クリントンといっしょにツアーをしたりハイになったりした日々も綴られている。スライは一生懸命にカムバックの努力をしたのだろうが、それは簡単ではなかった。ドラッグが原因で4回入院し、彼は4回目の入院でようやくドラッグを断った。
 2025年6月9日、スライ・ストーンことSylvester Stewartはロサンゼルスで息を引き取った。82歳。あまりにも若くして音楽を変え、そして若くして音楽シーンから消えてしまったかのように見えていたスライ。白人が(おそらく日本人も)もっとも知りたくない黒人の表情をじつに巧妙に見せたアーティスト。アルバム『暴動』は、アナログ盤で聴かなければ意味がないのは、A面の最後にクレジットされた、針がレコードの溝の内側をぐるぐるまわりはじめるその手前の瞬間ではじまって終わる“There's a Riot Goin' on”があるからだ。チリノイズのなかの声なき反乱。聴こえない音に耳を澄ませと彼は言っているのだろう。
 なお、全米黒人地位向上協会は、rest in peaceではなく、rest in powerと彼の死を悼んだ。

  悪魔を見て、銃を見てにやける
  指が震えて、俺は走り出す

  俺はかつて頂点にいた
  ありがとう、もういちど俺らしくしてくれて

——スライ・ストーン“Thank You”(1970)

* マイルス・デイビス、クインシー・トループ 著/中山康樹 訳『マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ』p131
** グリール・マーカス 著/三井徹 訳『ミストリー・トレイン』p137
*** マーク・フィッシャー 著/河南瑠莉 訳『アシッド・コミュニズム』p243
**** リッキー・ヴィンセント 著/宇井千史 訳『ファンク』P132
**** グレッグ・テイト 著/山本昭宏ほか 訳『フライボーイ2』p208

※スライ・ストーン 著/新井崇嗣 訳『サンキュー(またおれでいられることに)——スライ・ストーン自叙伝』はele-king booksより7月30日に刊行予定。

*6/16追記:内容に一部誤りがありましたので訂正しました。

野田努

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