Home > Interviews > interview with Deft & JJ Mumbles - UKベース、前進する音楽の力(フォース)
未来は若者の力にかかっているというのは、日本もUKも同じだよね。若者をきちんと育てていかなくてはならない、というのは日本にもUKにもすごく重要なことなんじゃないかな。
■音楽を世に出すことで、何か伝えていきたいメッセージはありますか?
デフト:メッセージ性は曲にもよるけど、何で音楽をやっているのかというと一番はやっぱり楽しいからだし、メシを食っていくために頑張るものでもあるよね。曲を作る、ということはすごくパーソナルな行為なので、その動機に関しても、やっぱりパーソナルな部分が大きいよ。つまり何かのメッセージを伝えたいというよりは、自分はこれまでいろんな音楽を聴いて育ってきたし、それによっていまの自分があるわけだから「他の人にも自分の音楽を聴いてもらいたい、自分が音楽にしてもらってきたことを他の人にも経験してもらいたい」ということが目的やモチベーションになっている。だからとくに何か、ポリティカルなメッセージとかがあるわけではなくて。あとは「自分の感情を表現する手段」という部分もあるかな。その時のフィーリングによってつくる曲も違ってくるしね。感情やフィーリングを曲を通じて表現するために、昇華するために音楽を作っているというのはある。
JJ:自分は本当に、曲を作っていれば1週間でも2週間でも作り続けられるような人間だし、本当に楽しいということが第一だよ。ただ自分の場合はそれと同時に、メッセージを伝えたいという気持ちもある。さっき話したような、歌詞のある曲を作っているのもそういう理由、動機からで。自分は良質なポップ・ミュージックを作りたいという思いがあるんだ。それは17、18歳ぐらいのキッズのための音楽というよりは、もっと大人が楽しんで聴けるような音楽、そういうものを作りたい。それは自分がソウル・ミュージックなどを聴いてきたというバックグラウンドがあるからなんだけど、自分もそういうところを目指してみたい。あと自分の場合はポリティカルな部分で思うこともあるから、もしそれを音楽を通じて表現できるのであれば、やっていきたいとも思っている。
■それはどういった思いなんですか。
JJ:仕事でユースワーカー(若者の自立を支援する専門職)をしているから、10代の子たちと日常的に接しているんだけど、2011年のイギリス暴動に見られるように、僕らの国でも若者を取り巻く状況は厳しいんだ。お金があれば大学に進んだりもできるけれど、そういうチャンスがない人も多くて。若い人たちになるべくたくさんのチャンスが与えられるような社会にしていきたい、と僕は思っている。
■音楽のメッセージ性というのは、JJの場合はずっと親しんできたソウル・ミュージックなどの影響なんですよね、きっと。あと、例えばルーツ・レゲエにもいわゆるレベル・ミュージック、被抑圧者の音楽という面がありますけど、現在のUKのベース・ミュージックにもそうした面は引き継がれているのでしょうか?
JJ:まず、いまのUKで言う「ベース・ミュージック」というのは、ルーツ・レゲエの系譜というよりは、パーティ・ミュージックとしての側面が強いと思う。ルーツ・レゲエみたいに、抑圧された人たちが声を上げるための音楽としては、グライムやロード・ラップがそれにあたるだろうね。グライムやロード・ラップで唄われていることや音楽のスタイルはすごくアグレッシヴなのはたしかだけれど、それは彼らが正直に自分たちの気持ちを表現していることの表れなんだ。
デフト:ベース・ミュージックにも「コミュニティ」があるけど、それは政治的なものというよりもパーティをするために集まっているものだよね。一方、グライムやロードラップのコミュニティは自分たちの声を上げて、何とかして状況を変えるために力を合わせているんだけど。誤解している人も多いみたいだけど、グライムやロードラップはギャングスタ・ラップとは全然別物だよね。
JJ:2011年のイギリス暴動に話を戻すと、アッパー・ミドル・クラスといわれる人たちよりも上の階層の人たちは、何で暴動が起きたのかをまったく理解していないんだ。単にトラブルメーカーの若者たちが起こした騒ぎだとしか認識してないし、ちゃんとした形で理解しようという動きもない。若者がトラブルを起こしたから静かにさせなきゃ、というぐらいのことしか考えてないんだよ。
「階級の低い」子どもたちがそこから抜け出すための機会が全然与えられずにそこにとどまるしかなくて、抜け出そうとしても抜け出せないという状況になっている。だからこそ子どもが犯罪に走ってしまうという悪循環があるわけだし、あの暴動にはそういう背景があるんだけど......僕は、これからそういう若者に力を与えることで、社会を変えていかなくてはいけないと思っている。〈WotNot Music〉も、レーベルがもうちょっと大きくなったらインターンを募集したりして、若者たちが犯罪など以外で生きていく術を見つけるための手助けをしていきたいと思っているんだ。
■このインタヴューを行っている山谷という地域は日雇い労働者の宿場街なんですけど、いまはこの街に長期滞在している労働者の多くは、生活保護を受けて過ごしているんです。日本もイギリスに追随して新自由主義主義の道を進んでから格差がどんどん広がってきていて、このまま行くと、いまJJが教えてくれたイギリスの状況のようになりかねないですね。そんななかで2年前の原子力発電所の爆発事故に際して政府への不信・怒りが強くなっていて、日本でもかつてないほど、社会運動に自発的に参加する若者が増えてきているんです。パーティ・ピープルのなかにもそういう子は多いですし、彼らの精神的支えであるようなラッパーやミュージシャンも出てきています。社会運動に関しては、イギリスは日本の大先輩ですから。
JJ:未来は若者の力にかかっているというのは、日本もUKも同じだよね。そうでなければディストピアというか、『ブレードランナー』みたいなお金持ちだけがいいところに住んで、それ以外は皆スラムに追いやられる、という世界になってしまうよ。そうならないためにも若者に投資して、若者をきちんと育てていかなくてはならない、というのは日本にもUKにもすごく重要なことなんじゃないかな。
たしかに僕も日本人には、例えば「労働時間がメチャクチャ長くてもそんなに文句を言わない」みたいなイメージを持っていた(笑)。一方でUKは反政府運動の歴史がすごく長くて、行動の参考にできるものがたくさんあるから、その点はいいといえるね。日本もUKも、お互い勉強しあって進んでいけばいいんだと思うよ。
■本当にそうですよね。
JJ:あと、そうだ。さっきも言ったけど僕の祖父母は南アフリカのケープタウン出身で、まだアパルトヘイトが実施されていた時代をそこで過ごしたんだよ。当時のケープタウンは、アパルトヘイトにちょっと反対するようなことを言っただけで牢屋に入れられたりするような状況だったという。その点、いまの自分は政治的なメッセージを発したり、行動したぐらいでは逮捕されたりはしないから、それを思うと勇気をもらえるね。祖父母から学んだことというのは「その人を憎むのではなくて、その人がそういうことをしている理由は何かというのを考えなさい」というメッセージなんだ。
■最後に、今後の予定を教えてください。
デフト:まずはリミックスを提供した、フランスのアーティスト・123MRKの作品が〈インフィニト・マシーン(Infinite Machine)〉というレーベルから5月早々に出る。それと〈WotNot Music〉からも新しいEPを出す予定で、これはほぼ作り終わっているんだ。あとはオランダの〈Rwina〉からの新しいEPとか、ほかにもいくつかリリースの話が来てる。リリース先は未定だけど、アルバムの制作も進行中だよ。あとはフェスでのDJ。ヨークシャーとマンチェスターとでフェス3本、あとカンタベリーのフェスでは〈WotNot Music〉でステージを1つ用意するんだ。DJじゃなくてライヴのセットも準備しているよ。
JJ:僕自身のリリース予定は、先ほど言った、DA-10のDAnalogueをシンガーにフィーチャーしてのシングル。〈WotNot Music〉としてはDA-10の新しいEP『The Shape Of Space』と、それから僕がコンパイルするコンピレーション『Dancefloor Sweets vol.1』が出たばかり。これはヨーロッパのアーティスト中心の内容で、これをチェックしてもらえば、いま自分がどんな人たちに注目しているかががわかると思う。次のリリースにはグレン・ケリー(Glenn Kelly)というロンドン郊外のディープ・ハウス・ガイのシングルが控えている。その後はK15というアーティストのアナログ・リリース。これには大阪のメトメ(Metome......3月にファースト・アルバム『OPUS cloud〈moph records〉』をリリースした新鋭)と、カイディ・テイタム(Bugz In The Atticのメンバー)とによる2ヴァージョンのリミックスを収録予定なんだ。
アルバムも2枚出したいと思っていて、ひとつはさっき話に出た沖縄のスティルサウンド。あともうひとつはサッカー96という名義でも活動するDAnalogueと10-Davidによるふたり組・DA-10。彼らは〈WotNot Music〉が初めてリリースしたアーティストなんだけど、プログラミングではなくて、自分たちでハードウェアを叩いたり弾いたりして曲を作るんだ。そういうスタイルのアーティストがいることが、〈WotNot Music〉としてはすごく重要なんだよ。あとは、〈ライフ・フォース〉と〈WotNot Music〉でコラボレーションしてコンピレーションCDをリリースする話も進行中なんだ。
取材・文:メタル、 yasuda koichiro(WHY)(2013年6月03日)