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Milledenials

EmoShoegaze

Milledenials

Youth, Romance, Shame

Pヴァイン

春日正信 Mar 05,2026 UP

 目隠しで聴かされたら、バリ島出身のバンドによる2020年代の新作とは気づかないのではないだろうか。粗削りなファズで歪んだテンション・コードとノイズの奔流はソニック・ユースやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを思わせる。甘くてほろ苦いメロディは往年のラッシュ(Lush)やペイル・セインツ、ヴェルヴェット・クラッシュのようだ。深くかけられたリヴァーブは90年代の残響なのだろうか。
 ありとあらゆる音楽が聴けるようになったこの時代に、彼(彼女)たちは、なぜこのスタイルを選び、何をつかみ取ったのか?
 インドネシア・バリ島のデンパサールで2020年に結成されたバンド、ミレディナイアルズ(Milledenials)の日本デビュー作『Youth, Romance, Shame』を聴きながら、そんなことを考えた。

 ヴォーカル/ギターのナディヤ・ナリタを中心に、マデ・クリスタナ(ギター)、バグス・アディティヤ(ベース)、ダリン(ドラム)の4人で活動するミレディナイアルズは、自分たちの音楽を、シューゲイザーとエモを融合した「エモゲイズ(Emogaze)」と呼んでいる。「Millennials(ミレニアル世代)」を「milled(すり減らされる)」と「denial(拒絶)」にかけたバンド名には、ティーンエイジャーを過ぎて20代半ばで青春のピークを失い、メンタル・恋愛・キャリアの消耗にさいなまれる彼らの心情が込められている。
 2010年代に普及したSpotifyやApple Musicといったサブスクリプションの影響下で育ったデジタル・ネイティヴ世代の彼らは、90年代のインディ/オルタナティヴ・ロックの文法を、自分たちのアンニュイな痛みに引き寄せてつかみ取った。そのリアリティと切実さが、全14曲・約42分のアルバム『Youth, Romance, Shame』に込められている。

 25歳で人生のピークは終わった。家族からは結婚しろと圧力をかけられる。そんな疲労感と憂鬱が歌われる “Youth LiFe”、うまくいかない人生のなかで見失った自分を取り戻そうともがく “Precious Me”。ツアーから帰ってひとり家にいると瓶のなかに閉じ込められている気持ちになるというバーンアウト感覚を歌った “Feel Any Pain”。
 楽しかった夜の翌朝に襲ってくる後悔と自己嫌悪、くすぶり続ける青春の蹉跌。“You Know That Youth Never Left” で歌われる、自分はもう若くないのに、青春が自分から去らない、若さが延命されるという感覚。
 “Nothing” はタイトルどおり、何もない空っぽの自分、夢のなかへの逃避、消えてしまいたい願望、虚無と絶望を、轟音ギターの甘い響きで麻痺させ絶叫で吹き飛ばす。
 アルバム・タイトル『Youth, Romance, Shame』とは、もとになった3枚のEPのタイトルからとられたものだと思われるが、過ぎ去った青春(Youth)、破綻した恋愛(Romance)、それでも歌い続けることへの自己嫌悪=恥(Shame)とも深読みできる。

 SNSのライヴ映像でバンドとオーディエンスが一体になって歓喜に満ちた表情でモッシュする光景を見ると、かの地の同世代にとってミレディナイアルズがどんな存在なのか、どのように受け入れられているのかが伝わってくる。もみくちゃになりながら合唱する姿には、彼らがどれほど愛されているか、大事に思われているかという熱い共感が伝わってくる。
 疲労感と絶望、みじめな現実への拒絶が、見失ったセルフイメージと尊厳の回復をドライブする。ミレディナイアルズの音楽は、打ちひしがれた者たちの祝祭なのだ。

 高級リゾートホテルが立ち並び、訪れる富裕層が華やかな暮らしを満喫する世界でも有数の観光地、バリ島(インドネシア共和国・バリ州)。芸能・芸術の島として知られ、観光収入が全体の3分の2を占めているが、近年はリゾート開発の過剰化とグローバル化が伝統文化を脅かしている。
 中世東南アジアの大国・マジャパヒト王国からインドネシア全域に伝播した伝統音楽ガムランはバリでも発展・定着しており、土着信仰とヒンドゥー教が習合した「バリ・ヒンドゥー」と結びついた信仰と儀式の文化のなかで受け継がれ、色彩豊かな建築物や民芸とともに現地における共同体の精神を育んできた。

 ミレディナイアルズの拠点であるバリ最大の都市デンパサールの音楽シーンでは、サーフ・ロック、パンク、オルタナティヴ、レゲエ、DJミュージックが盛んで、インドネシアの首都ジャカルタほど規模が大きくないぶん、さまざまなジャンルのアーティストが雑居し、DIY精神をもって活動している。地方都市によく見られる構造だが、そのなかでもとりわけミレディナイアルズのようなバンドはかなり少数派のようだ。
 ちなみにバリのインディーズ・シーンはベノア湾埋め立て反対運動のような社会運動と結びついており、伝統と開発圧力のはざまでアイデンティティの危機を抱える若者たちが、平和的・創造的抵抗を生み出している。

 伝統的な共同体のなかで孤立する個人の喪失感と虚無感。ミレディナイアルズはこのコントラストを蠱惑的に奏で、時代の気分と集合無意識を形にしている。この叫びには、観光地バリ島の華やかなイメージの陰画のような、鮮烈なリアリティがある。

春日正信