Home > News > RIP > R.I.P. Jaun Atkins - 追悼:ホアン・アトキンス
なにを書いていいのか……朝、電車のなかで知って、目を疑った。そしてたったいま、PCの前にいる。偉大な人だ。書かなければならないことはたくさんあるし、しかしそんなことを考えていたら何も書けなくなってしまう。感傷の大波が来る前に、最低限のことを書いてみよう。
この人こそ、国際舞台で「テクノ」というジャンル用語を広めた張本人であるが、それ以上のことをした人だ。ラディカルに解釈したP-FunkのコンセプトをTR-808やコルグのMS-10を使ってエレクトロ化したような曲、サイボトロンの“Clear”(1983)。過去を一掃(クリア)すること、記憶の喪失を祝福すること、過去(モータウン)なんぞ忘れちまえ。
あるいはまた、マシン(機械)であること。ピンク・フロイドの“Welcome to the Machine”における冷たいディストピア、ボブ・マーレーが歌う「お前は機械のようだ」などなど、ネガティヴな喩えとして使われてきた「マシン」こそホアンにとっての未来だった。このすさまじい逆説は、明らかにブラック・ミュージックにおける特異点であり、はじまりだった。デトロイト・テクノが生まれ、世界中の人たちが「テクノ」を作り、踊り、愛している。過去を一掃するマシンであるからこそ、人種もジェンダーも越えたのだ。
去る9月、久しぶりに来日したホアン・アトキンスに会って、ここ最近の2枚のシングル(「Maintain」と「Parallel Shift」)をとっかかりに話を訊いた。娘さんのミラン・アトキンスも一緒だった。ホアンは、なんていうか、老師然としたように見えて、相変わらず彼の尖った考えを喋ってくれた。来年は、サイボトロンのアルバムが出ると言った。
モーリッツ・フォン・オズワルドとは何で気が合うのかと訊いたら、いまでも自分の作品で“I Wanna Be There”(1995)が好きで、そのとき一緒にやったのがモーリッツだったと彼は言った。“I Wanna Be There”はみんなが好きな曲のひとつだ。この曲の歌詞について、当時、ホアンに質問したら、「ちょっと宗教的なところもあって、あまり喋りたくないんだ」と彼は答えた。ホアンのような人でもそういうところがあるのかと、そのとき思った。歌詞といっても、以下の言葉を繰り返すだけなのだが、しかし、ブラック・ミュージックにおいては、反復それ自体が意味をもつ。
あなたが帰ってきたら、そこにいたい。
いま、世界中のテクノ・ファンが泣いているだろう。私たちはマシンにも涙があることを知っている。そのとき、マシンは削除されたはずの記憶を思い出してしまうのだろう。ホアン、ありがとう。あなたが創造した「テクノ」は、あまりにも大きい。
野田努