Home > Reviews > Live Reviews > METHOD MOTEL- @名古屋・栄CENTRAL

「METHOD MOTEL」の主謀者のひとりATOSONEとMrs.Pのふたりがブースに立つと、メインフロアの3階をびっしり埋めたひとびとから熱い視線が注がれる。目の前には、ものすごい人、人、人。ドリンクを買うのにも苦労するほどで、なかなか前に進めない。ヒップホップやレゲエ、ジャズなど、それぞれの曲の魅力を丁寧に引き出しながら展開していく、ハードコアかつお洒落な、夫妻のB2Bから、このパーティの懐の深さ、幅が伝わってくる。

ATOSONE & Mrs.PのB2B(写真提供:ATOSONE)
8月29日、舞台は名古屋。時刻は23時を回っていた。新幹線が名古屋駅に着いたのが22時ちょっと過ぎ。地下鉄東山線に乗り換え、栄駅で降りる。外は小雨だ。広小路通を東へ進み、すこし歩いたら角を右へ折れる。名古屋最大級の商業中心地の表通りから一本入ると道幅は狭まり、飲食店やバーなどが密集する栄の歓楽街、通称「女子大」だ。客引きの姿も多く、ちょっとした緊張感がある。5、6階建てほどの雑居ビルがそこかしこに立ち、その一棟ごとにいくつもの夜の店が積み重なっている。その一角にCENTRALというビルはある。
そこで開かれていたのが「METHOD MOTEL」だ。ヒップホップ/ラップが中心にあるが、ハードコア・バンドも出るし、数多くのDJがいろんなダンス・ミュージックをかけることで、東海、関西を中心に、気合いの入った音楽好きと遊び人が集結するパーティ。出演者ふくめ、東京、関東から来た、たくさんの友人たちにも会った。その日は、3階から5階までを会場にしていて、階段を上へ行ったり下へ行ったりしているだけで汗だくになった。暑い! ビル一棟でくり広げられるフェスと言った方がしっくりくる。それにしてもすごい人の数で、入口で配られた「METHOD MOTEL」の手ぬぐいで汗を拭くのにみんな必死だ。遊びに来ている人たちがまたみんなイケてる。パーティは遊びに来ている人らが主役とはよく言うが、ストリートのファッション・ショーのような様相で、階段の踊り場でひと休みして行き交う人たちをながめているだけで飽きることがない。
ISSUGI & Mr.PUGのライヴには残念ながら間に合わなかったが、その次に登場した、ソウル、カリプソやボサノヴァ、ルーツ・レゲエやラヴァーズ・ロックを、キャバレー的なムードを醸しだしながら演奏するUG Noodle楽団のライヴにはなんとか間に合った。UG Noodleはtofubeatsとも楽曲を作っている男だ。彼らのうっとりするステージの次がATOSONE & Mrs.Pだった。ボビー・コールドウェルのロマンチックな名曲 “What You Won't Do for Love” のレゲエ・カヴァーがかかっていたのか。18時に始まり、朝までつづく長い、長い一晩の、24時前にハードなヒップホップとメロウなムードで流れを作る、これが彼らのやり方だ。

UG Noodle楽団のうっとりする演奏(写真提供:ATOSONE)
5階でやっているYOTA SQUADのライヴを観なければ! YOTA SQUADとは、MIKUMARI、MC KHAZZ、ハラクダリから成るラップ・グループ。いわば名古屋のヒップホップの最も濃い部分をやっている人らだ。文字どおり滝汗を飛び散らせながら声を張り上げ、ときにどぎついブラック・ユーモアを炸裂させる彼らのライヴを観ていると、アメリカ南部の猥雑なトラップを現地の人はこんな気持ちで聴いているのかもしれない、そんなことを思った。MIKUMARI & MC KHAZZ名義で9月にリリースされた新作『THE YOTAMI CITY TAPE VOL.1』からも何曲かやっていた。

MIKUMARI & ハラクダリが向かい合ってる(写真提供:ATOSONE)

YOTA SQUADの迫力のライヴ!(photo by 船津晃一朗)
東京から来た仙人掌のライヴも良かった。「熱狂的な現場をありがとう」、彼はたしかそんな謝辞をクラウドに向けて伝え、「こんなフロアを見たら昔を思い出すよ」というような言葉を添えていた気がする。池袋にかつてあったクラブ=〈BED〉のことを思い出しているのかなと、僕は酔った頭でそんな思いを巡らせていた。あの凄まじい熱気を目の当りにしたら、そう言いたくなる気持ちはわかる。そして、仙人掌はMASS-HOLEのバックDJで代表曲 “Show Off” をハードに歌った。「足止まってんなら先動くぜ」――このリリックはいつ聴いてもしみるぜ。

仙人掌、愛されてるね。(写真提供:ATOSONE)
「METHOD MOTEL」とは、ATOSONEとDJ BLOCKCHECKが2009年に名古屋で始めた不定期のパーティだ。その前年の2008年にはATOSONEが〈RCSLUM RECORDINGS〉を設立している。〈RCSLUM〉は、その日出演していた、MIKUMARI、YUKSTA-ILL、CAMPANELLA、NERO IMAI、RAMZA、COVAN、MC KHAZZ、C.O.S.A、TOSHI MAMUSHIらの楽曲/作品をリリースしてきたレーベルで、〈Dogear〉や〈WDsounds〉とも関係が深い。〈RCSLUM〉は2010年前後から、いわゆる「NEO TOKAI」と呼ばれる名古屋/東海の新しいヒップホップのムーヴメントを作ってきた。ATOSONEは4年ほど前に名古屋駅の近くに「COMMON」というギャラリー&バーを開いた。そこにはDJブースもあり、日々パーティがおこなわれている。そんな彼と仲間たちが約20年つづけてきた「METHOD MOTEL」は、このシーン、地域にとって、圧倒的に特別な祭りなのだ。後日DMでひとしきりパーティの感動を伝えたうえで、ATOSONEに「METHOD MOTEL」とは何か? と改まって訊くと、ATOSONEらしい容赦なく鋭い言葉が返ってきた。
「『METHOD MOTEL』は聖域なのです。半グレにも、芸人のようなラッパーにも、フリースタイルコンテスト芸人にも、阿呆の金持ちにも、何者にも汚染されていない、本来順位、勝ち負けなどあるはずもない、音楽と街が、唯一、自由にひとつになる完璧な空間なのです」

COVANのライヴも素晴らしかった。まさにステージとフロアが一体だ(photo by 船津晃一朗)

フロアの熱気!!(photo by 船津晃一朗)
これまで「METHOD MOTEL」には数回遊びに行ったことがあるが、昔からいる人たちだけで固まるのではなく、新しい人が加わり、違う音楽やセンスが入り込むことで、その都度更新されながら続いていたことがよくわかった。東京から若手のラップ・グループ、BYORAが呼ばれていたし、4階で聴いた、BYORAに紹介されたmarinのDJや、アブノーマルな女たちのプレイも心地良かった。〈RCSLUM〉とは古くからの付き合いの、鹿児島のハードコア・バンド、LIFESTYLEによるフロアを切り裂く、深夜の轟音も忘れられない。

左からCHOUMAN、山口啓祐、marin(写真提供:ATOSONE)

東京の若手ラップ・グループ、BYORA(写真提供:ATOSONE)

LIFESTYLE×YUKSTA-ILLの共演(photo by 船津晃一朗)
「先に言及したように、音楽を目で見るのではなく、耳で観ることができる人たちを選出しています。これは虚飾、過飾に塗れた現代においては特殊技能なのです」。ATOSONEは「METHOD MOTEL」のブッキングの厳密な精神についてそう述べ、さらにあの日を振り返って、特別なパーティには、純度の高いコミュニティの力が必要であることを教えてくれる。
「基本的には何も変わらないのだけれど、今回はチケットのネット販売や当日券の販売などを徹底的に排除して、演者、もしくは友人の経営するお店でしかチケットを購入することができないようにしました。それによって極端なことを言えば、俺とひろし(DJ BLOCKCHECK)のツレとツレのツレが集まるパーティになりました。だもんで全く知らない奴がいないこの状況は、パーティ自体のグルーヴ感が異常に高い、信じられない、異様な、美しく奇妙で幸福な空間が生まれました」
その日、出演者ふくめ1000人以上が集まったという。朝、何時にCENTRALを出て、どうやって東京まで帰り着いたのかさえ記憶が曖昧だけれど、僕がここで言いたいのは、「日本のヒップホップ」の最深部を体験したいのであれば、「METHOD MOTEL」は、ぜひ遊びに行ってほしい特別なパーティであるということだ。

「METHOD MOTEL」の主催のふたり=ATOSONE & DJ BLOCKCHECK(photo by midori)
取材・文:二木信