Home > Interviews > 対談:MIKUMARI x OWLBEATS - ルードなRAP/実験的なBEAT/生きたHIP HOP
OWLBEATS ( 以下OB ) :煙草吸いすぎじゃない?
MIKUMARI ( 以下M ) :メンソールだですーっとするでなあ……
MIKUMARI x OWLBEATS FINE MALT No.7 RCSLUM RECORDING |
こんな普通の会話のように、気がつけばOWLBEATSのビートもMIKUMARIのラップも、自然に積み上げられたCDのなかにあり、当たり前のように2人でライヴをする姿を見ていた。2人のライヴを初めて見たのは、中目黒でみんなで馬鹿みたいに飲んで、MIKUMARIが酩酊しながらOWLBEATSの奏でるビートのなかで酔いどれた夢を見せてくれたときだと記憶してる。その記憶は正しいのだろうか?
RCslumの中核をなすルードボーイ・ラッパー、MIKUMARI。RCslumの多くの作品にトラックを提供、アルバムもリリースする鹿児島のドープ・ビートメーカーOWLBEATS。「裏」サイドの共作を経て、リリースとなったオリジナル・アルバム『FINE MALT No.7』は“「酩酊」という感覚を教えてくるヒップホップ”という、誰かにとってベストでワーストな瞬間を再生してくれる。そして、誰かにとっては、未知の世界を疑似体験させてくれる。そんな作品だ。もちろんVRの機材なんていらない。再生するのに難しいことはない。
狭いっす。もう8畳くらいの1ルームで、ソファーがあって、そこが来た人の寝床で、俺は下に布団敷いて寝てる。(MIKUMARI )
■今回のアルバムは最初どういうやりとりで作りはじめたの?
M:なんか何曲かやろうかって言ってて、その流れでトラックが色々入ったCD-Rをもらってて。
■それって2人で会ってるときに?
M:OWLBEATSがしょっちゅう来るもんで、会ってるとき。
■場所は名古屋ですよね? どれくらいのペースで来てるんですか?
OB:今年やばいっすね。いまのところ7回くらい行ってて(*このインタヴューは9月末に行ってます)。
■名古屋ではどこに滞在してるのですか?
M:俺んち。
■MIKUMARIの家は広いの?
M:狭いっす。もう8畳くらいの1ルームで、ソファーがあって、そこが来た人の寝床で、俺は下に布団敷いて寝てる。
■俺の場合は俺の方がソファーなんですけど、前にYUKSTA-ILLとそういう合宿みたいの俺の家でしてた(笑)。
(*YUKSTA-ILL「TOKYO ILL METHOD」ときもWDsoundsオフィスというかPRESIDENTS HEIGHTSと言われていた自分の家も6畳、2畳の1Kでした。)
OB:もともと自分が住んでいた家が間取りが一緒なんで落ち着くなっていう(笑)。
OB:そうですね。ほとんど同じような構成で。自分はレコードがばーってあって、MIKUMARIはCDがばーってある。
M:ギャングスタ・ラップはCDの方が多いんだよね。レコードはシングルカットとかしかないやん。
■レコードよりCDの方が高いものが多いイメージです、ギャングスタ・ラップ。
M:CDでしか出てないっていうのがあるじゃないですか。LPは出てないっていう。
■たしかに。レコード屋もCDメインですもんね。じゃあ、名古屋でそのトラックが入ったCD-Rの受け渡しがあったと?
OB:そう。でも、結構前だよね。本格的にやろうってなったのが1年くらい前。ちょうどATOS (*RCslumのオーナー。TYRANT / M.O.S. / INFAMIY FAM)が鹿児島に来ているとき。
M:そう。レコーディングしに行くわ~って言ってそのとき、鹿児島行ったんですけど、何も録らずに帰ってきて。
OB:ちょっと俺怒るみたいな。ずっとご飯しか作らないから(笑)。
■鹿児島だとレコーディングはどこでしてるんですか?
OB:LIFESTYLE(鹿児島を代表するハードコア・バンド)の久保さんっているんですけど、その人がやってるスタジオがあって。そこで大体録ってる。
M:名古屋のときは鷹の目のところ(STUDIO NEST)ですね。
■RCslumのアルバムもあったり、客演も多いからずっと作ってる印象あるんですけど、前のアルバム( MIKUMARIの1stアルバム『FROM TOP OF OF THE BOTTOM』)のリリースって3年前くらい?
M:2013年すね。リリースしたのが。REMIX(*MIKUMARIのアルバムをOWLBEATSがすべてREMIXした『URA BOTTOM』)が2014年ですね。
■その『URA BOTTOM』はアルバムがリリースになって、OWLBEATSの方からオファーして作ったんですか?
OB:そうですね。アルバムにトラック提供したギャラはいらないから、アカペラくれって言ってそれで作ったんだよね。
M:それで、1曲新しい曲を入れたいって話して。じゃあ、OWLBEATSのアルバム(*OWLBEATSの1stアルバム『?LIFE』)に入っているビートでやりたいって曲録って逆にREMIXみたいな感じ。
■『?LIFE』は?
OB:2012年。
■他にOWLBEATSの名義のリリースって?
OB:ブートでMIXはガンガン出してますね。月に1、2本作ってそれをライヴで売るっていうのをやってます。
MIKUMARIとOWLBEATSを軸にした作品やライヴはすごく自然に存在していて。そこに世界が広がっている。先述したお互いのファースト・アルバムが交差する線上にあるというよりは、交差した後に生まれたより立体的な空間のなかに生まれた曲たちがある。「酩酊」という自由な空間を通してでしか説明できないように、このアルバムは説明できない必然で生まれたと感じる。熟成されたと感じるけれど、間隔は空いていない。
■すごく自然な組み合わせだと思うんですけど、このタイミングで今回2人でのオリジナル・アルバムというパッケージでのリリースにしたのは?
M:俺もOWLBEATSとリミックスでなくてオリジナルで1枚というのは作りたいと思ってて。
■前作やいままでのMIKUMARIのラップのイメージってすごくリリカルにトピックをラップするイメージなんだけど、今作はすごく音 / ビートに乗っているっていうのがまず第一に感じてすごく2人で作ってるって思って。単純に載せてるとかじゃない何かを感じました。
M:それはあります。ビートもいままでよりも、民族的なビートが多かったと思ったし。うん。あんまり意識はしてないんですけど、ビートに見合うようなやり方でラップするっていうのは考えた。
■それって、スタジオで色々と試しながらって感じですか。このビートでラップするっていう前提でアルバムは作ってるんですか?
OB:うーん。打ち合わせしながらやってるのもある。数曲ボツになったりもしてるし、そもそも、俺のやる気が削がれたり(笑)。
■さっきも話してましたね。制作期間はまあまああるんですよね?
M:うん。さっき言った通り、俺も、レコーディングしてなくて怒られたりしてるでね笑 制作は1年くらいで、本格的にやりだしたのは今年の3月からでそこからはタイト。
自分のイメージとしては、最初遊びはじめたときはもっとバカなことばっかしてて、その延長で音楽を作ってるような感覚だったんですけど。『URA BOTTOM』までは。でも、そうじゃなくなってきた。さらに先に行ったというか。(OWLBEATS)
この2人の組み合わせにはシンプルな表現が多い。細かい部分は曲で伝わってくる。瞬間で作ってるようでもあり、時間がかかってるようでもある。8月に行われたRCslumのイベント「METHOD MOTEL」で会ったときに、MIKUMARIがJEDI MIND TRICKS (*PHILLADELPHIAのハードコア・ヒップホップを代表するグループ)のTシャツを着ていて、意外なようでしっくりきて話したのがすごく印象に残っていて、その事実は個人的にはこのアルバムを聞く中で重要に感じた。
■少し話変わるんだけど、JEDIとかARMY OF PHARAOHSとかそういうHIP HOPのイメージを今作で少し感じたんだけど。このあいだMIKUMARIがTシャツ着ててそういう話になったのもあるけど(笑)。なんて言えばいいかわかんないんだけど。意識はしてない?
M:多少は作ってる期間に、新譜が出たとか。その時だと、LA COKA NOSTRAとかVINNY PAZとか。その間にもHORACE ANDYとかレゲエも買ったりして、そういうのを聴いてかっこいいなと思って。多少あるのかなと。
■MIKUMARIはギャングスタ・ラップの影響も多いけど、いま言ったようなヒップホップのAPATHYとか、そういうイメージに近いのかなと個人的に最近勝手に感じてる。
M:好きですね。
■ちょっと気持ち悪い俺の勝手な思いを話しちゃってすいません(笑)。あらためて、音的なアプローチのイメージに関して聞いていい?
M:そういう最近買ったCDをOWLBEATSにも聴かかせたりして「良いでしょう?」みたいな。
OB:前より、MIKUMARIがギャングスタラップ的な表現と変わってきてるのも感じて、自分なりにも感じた方向にアプローチしてみたのはありますね。
■ラップが上手いっていう印象より全体として曲が立ってるように感じました。
M:広がったよね。ビートに交わるようにっていうのは意識した。
OB:自分のイメージとしては、最初遊びはじめたときはもっとバカなことばっかしてて、その延長で音楽を作ってるような感覚だったんですけど。『URA BOTTOM』までは。でも、そうじゃなくなってきた。さらに先に行ったというか。
■今回は「DOPE MUSIC」って表現が頭に浮かびました。
M:まあ、言葉とかも昔はチャキチャキしてたと思うすけど、少し緩くなったと思うすね。
■そうですか? 緩くとは思わないんですけど変化を感じます。
M:一貫性があると思いますね。
■感じます。では、どういうタイミングで曲を完成と区切ってますか?
OB:そんな話し込む感じで作ってないですね。
M:レコーディングが出来たものを送って、それで、OWLBEATSが音を足してきて。
OB:難しい感じじゃなくて、これでOKって。お互い来たもんで対応する。2人でこれを作ろうというよりは送ったトラックに録ったものを聞いて、それを編集して。作ってる。
M:お互いを信用してる感じだよね。
■その作り方ってトラック提供だったり、声を吹き込んでもらったりの一回一回のやり取りとは違ったりしますか?
OB:他のアーィストと 俺は違うかな。MIKUMARIの場合は、複雑なんだけど、どこかでわかりやすいリズムがあるイメージで。他のラッパーだったらずらしたりするんだけで、MIKUMARIはドンピシャで頭でキックとって歌う。あくまでそれはずらさない。
M:やってくうちに今回こういうのきたか? って感じでレベルが上がっていくんだよね。
■一番レベル高いと思ったのは?
M:うーん。最後かあれ、与太ルードボーイ。頭から乗せるとダラダラするやん。だから裏で合わせたみたいな。そういうのなかったってもんで、だから、気に入ってる。良くできたというよりは、考えたっすね。
OB:MIKUMARIには難しいことあんまりしないですね。他の人にはすごく複雑にしたものを渡したりするんですけど。
M:そういうのも最初もらったりしてたんですけど、そういうのは選ばない(笑)。これは違うぞ。
OB:最初はドラムンベースでやってもらおうとかあったんですけど。
■やったら面白そうですよね。
M:面白そうなんだけど……タイミングってのもあるし。今回みたいなものにはならないかな。あとVOODOOは上出来だったな。
■いま話聞いてて、音源聞いた感じではセッションしてるイメージだったんですけど、実際はお互いで作ってるのに驚きました。
M:基本、名古屋で録って、どうするこうするっていうのは一緒におるときに話して。そんなに細かい話はしてないですね。
OB:友だちの感覚もあるんで、ガッチリやると時間がかかるかもしれないってのは
■ありそうですね
OB:終わらないかもしれない。
M:あるかもしれんねえ(笑)。遊んじゃったーとか
「遊びながら作る」それはスタジオでアーティストが作って生まれる曲だったり。トラックを受け取ったラッパーが、好きに曲を書いたり録ったり。アカペラを受け取ったトラックメーカーがリミックスを作ったり。いろいろな方向や可能性がある。今作品は、いままで聞いたように、トラックメーカーとラッパーが2人で作りあげてきた遊びから生まれたコミュニケーションから、アルバムを作るというシンプルな発想にたどり着いたように感じる。OWLBEATSの『?LIFE』はビートアルバムだ。MIKUMARIの『FROM TOP OF THE BOTTOM』は多数のゲストが参加したラップアルバムだ。2人で作る今作は決定的に何かが違う。
■今回ゲストアーティストは絞ってると思うんですが(MC KHAZZとハラクダリ)、それは2人で決めた?
M:それは俺が決めました。常にいる長いやつとやるっていうのは俺の決まりで。ハラクダリに関しては、作ってくれって話が結構前からあって、それがこの2人でっていう曲で、あれが一番時間かかったなあ。
OB:あんとき、ハラクダリいなかったんだよね。
■最初の方でハラクダリのエピソードがリリックで出てきて、でもその曲にはハラクダリは参加してなくて、後半の曲で参加してるじゃないですか? 自分、それがツボで、聴くたびに、「あ、この曲じゃないんだよな、ハラクダリ入ってるの」って、曲の終わりくらいでいつも思うっていう。
OB:それは狙ったっす。わかってくれて嬉しいっす。
■じゃあ、曲順は2人で決めてるの?
OB:ほぼ自分が決めました。
■全部曲が揃ってから?
OB:そうですね。
M:それで並べたものを送ってもらって、この曲とこの曲は順番変わってる方がいいなーとか、そういう話をして。
OB:はい。そこは元々はDJなんで、その感覚で曲を並べて自分の色を出すのもいいなと思って。
■できた曲を聴きながら、流れを作っていく?
OB:そうですね。これとこれはこの順番がいいとか。自分は鹿児島なんで、目の前に桜島があるんですよ。出来た曲を海とかでぼーっと聴いたりして。街中なんですけど、すぐに海があって。そこで聴いて、流れ的なものを考えて。1曲変えると暗くなったりもするし。
M:最初、考えとった曲順とは変わったよね?
■どのあたりが?
M:最初は自分の予想通りだったけど、真んなかあたりはOWLBEATSらしさを感じて。後半はイメージにあって。5~10のあたりの曲はすごく癖を感じた。
■全体としては30分強で14曲ってかなりコンパクトに作られていると思って。すごく好きなんです。長さは意識しましたか?
M:自分でも丁度いい長さかなって。最初は、できた段階で長さこれしかないって言ってたけど。途中で入っているスキットも含めて全体はバッチリで。
■スキットはアルバム収録曲のレコーディングが終わってから作ってるの?
OB:1曲は元々あった曲でこの曲入れたらって思ったものもあれば、作ったものもある。イントロもアウトロもそんな感じ。
■すごく自然に作ってるんですね。
M:うん。作ってる段階で、あれ入れようか、これ入れようかって話しながら自然に。
OB:スキットも何回かかえてるもんね。
■今回のアルバム聴いてほしいなってすごく思うんですよ。すごくDOPEな作品だと思って。でも、そういう音楽を作っている人って自分で完結していて、リスナーを必要としない人たちもいるじゃないですか? OWLBEATSはどういうタイプ? 変な質問なんだけど。人に聴いてほしいかというか……
OB:インスト基本でやってるんで。インストに関しては歌っているというか自分ですごく個性が出せてると思うんですよ。人と関わることによって、斜めな見方というか、「ラップ乗りそう」とか意見があることによって俺も発見になるんで、知って取り入れて作るみたいな形なんですけど。いまはインストと人の声が乗るものは分けますね。
■その基準っていうのはありますか?
OB:音数ですね。音の位置というか、曲ごとで題があるんですけど。ハイハットが前とかそういう。レイヤーですね。
■今作はすごく息が合っていると思うし、このために作ったという所が強いと思うんですけど、インストだと考えて作ると違う?
OB:そうですね。歌わせない! というか。その感覚。
この後に聞いた話も最高に面白かった。でもここでインタヴューを終わらせるのが最高だと勝手に思った。このアルバムには余白がある。詰まっているんだけれど余白がある。
いま、RCslumのインタヴューをするどんなライターより自分は彼らを知っている。こうした記事を自分が書くことが不適切と言われるくらいに。以前の作品ではリリースにも関わっている。その不公平性をここでしっかりと公言しておく。そんな独白を読んでも、このインタヴューは成り立つ。
MIKUMARIとOWLBEATSが作るこの作品にある余白は2人だけのものだ。どんな知識や経験よりも勝る感覚がここにある。聴けば聴くほどに「現在のHIP HOPだ」と感じられるこの作品は聴けば聴くほどに聴く者の感覚に委ねられる。「生きたHIP HOPだ」
取材・文:COTTON DOPE(WDsounds)(2017年10月19日)