「S」と一致するもの

#1:ベルグハインの土曜日 - ele-king

ベルリンのダンス・ミュージックの歴史、狂気、快楽、自由、そして懐の広さ......その全てが凝縮されていると言っても過言ではないクラブ、それがベルグハイン/パノラマ・バーだ。世界最高、現代のパラダイス・ガラージと称され、世界中のDJやクラバーたちが憧れる場所。これが存在していることが、ベルリンがどれほど特別な街なのかをよく物語っていると思う。

 以下は今年ドイツで出版された本、『Lost and Sound: Berlin, techno and the Easyjetset』からベルグハインに関する記述の一部を抜粋したものである。この本の英語翻訳版をベルリンのレコード・レーベル、Innervisionsが発売*するにあたり、Resident Advisorに掲載されたものを和訳した。行ったことのある人はうんうんと頷ける、行ったことのない人にはかなり妄想を掻き立てられる的確な描写なのでここにご紹介したい。

*英語版は限定のハードカバー(予定販売価格:22ユーロ)が12月15日にInnervisionsウェブショップといくつかのセレクトショップで、ペーパーバック(予定販売価格:14ユーロ)が2010年2月に全世界に向けて発売予定。

  正確には、土曜日とはいつのことを指しているのだろうか? ほぼすべてのクラブは深夜にオープンするのだから、常に土曜の夜のクラビングはすでに日曜日になっている。クラブに出かけるまでの時間は、どうにかして潰さなければならない ―― バーに行くなり、街をブラつくなり、家で待つなりして。1時前にクラブに到着してしまおうものなら、空っぽのダンスフロアに迎えられるだろうし、DJもこの時間に踊る人などいないことを良く知っているので、たとえ誰かがいたとしても踊らなそうな曲をプレイしている。そう、まだお客さんは中ではなく、外にいるからだ。外の行列に。

 これはどこのクラブでも変わらないことだが、〈ベルグハイン〉では特に顕著だ。行列は砂の地面にヘビのように長く伸びている。後方は建設現場用のフェンスで区切られ、前方のドア付近ではS字に組まれた鋼鉄の柵に囲い込まれていて、まるで違う国に入国しようとする人々の列のように見える。ある意味、彼らは違う国に入ろうとしているとも言える。一般的には、ドアの外で待たされる時間が長ければ長いほど、そのクラブの特別さが増すと信じられている。この考えは恐らく1970年代に、20世紀で最も有名なディスコテックだったニューヨークの〈スタジオ54〉に入るために並ばされていた人たちから継承されてきたものだろう。ここでもドアマンの恐怖政治によってセレブリティー、カネ、美、若さの見事なミクスチャーが形成されていたわけで、その影響は今も残っている。中に入れと手招きされるか ―― もしくはされなかった場合は、外に突っ立って見ることしかできない。そんな光景が一晩中繰り広げられることもある。誰に強要されたわけでもないのに待ち続けるのは、富と名声とセンスがナイトライフを支配する街で、人気が人気を呼ぶクラブに少しでも足を踏み入れたいという欲求があったからだ。

 しかし、ベルリンはそういった類いの街ではない。

 それどころか、こうした考えで90年代にクラブをオープンさせたプロモーターたちは皆大失敗に終わった。ベルリンでは、アート・シーンを除いて、カネとセンスは別ものだからだ。90年代以降、このシーンはかつて親密な関係にあったテクノ/ハウス・クラブから完全に離れてしまい、ただエキジビションのオープニングにだけはDJを欠かしてはならないという考えだけが残った。今日アーティストやギャラリー・オーナー、アート・コレクターに批評家たちは、ベルリン=ミッテ地区のレストランやバーで内輪に集まることを好んでいるようだ。またこの地区には、〈スタジオ54〉のドア・ポリシーを僅かに思わせる唯一のクラブもある。ウンター・デン・リンデンの〈クッキーズ〉だ。

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 〈ベルグハイン〉外の有名な行列に並んでいると、そんなあれこれが頭を巡るが、この行列が他の行列と決定的に違うのは全員が体験するという点だ。ゲストリストも存在するが、決して長くはないしそれ以上の重みはない。リストに載っていても待たなければならず、支払いが免除されるというだけである。行列を飛び越すことができるのは、その夜出演するDJとその取り巻き、そして極一部の〈ベルグハイン〉関係者だけだ。行列の進み具合にはほとんど影響がない。1時間の間に3~4組が通り過ぎる程度で、それ以上はない。彼らを眺めながら待つのだ。1時だろうが、朝の6時だろうが、待たされることに変わりはない。ときには行列半ばのところにドアマンが立っていることがあることがあるが、彼の役目は誰もが同様に見定められる〈ベルグハイン〉のドアにおいて、なぜか自分だけは例外だと思い込んでいるワナビーたちを追い返すことなのである。

「今夜は追い返されるんじゃないか?」

 このポリシーの徹底ぶりは、かすかにジャコバン派(フランス革命期の政党)の恐怖政治を連想させるものがある。女王だろうが農民だろうが、誰にでもその恐怖が降り掛かるからだ。つまり、ここのドアは何よりも第一に民主主義的なのである。それでいて第二に、何年間通っていようとも、行く度に自分に「今夜は追い返されるんじゃないか?」と問いかけ続けなければならない独断的な面もある。

 この疑問は〈ベルグハイン〉の行列の全員によぎるものだ。そわそわしないようにお互い注意し合っているカップルも、ベルリンのクラブ・ファッションを地元の雑誌で研究してきたかのようなイタリア人グループも。彼らは大振りのサングラスにこれでもかとアシンメトリーにしたヘアカットという、ニュー・レイヴ・ルックできめてきている。女の子たちはパープルのレギンスに毒々しいグリーンのトップス、男の子たちは脱アイロニック・スローガンがプリントされたTシャツを着ている。ある女性は追い返されるかもしれないという恐怖心からか、故郷のヴッパータール(ドイツ西部の町)のことを延々と喋っている。彼女が行列で知り合った2人のオランダ人男性は、何とか彼女との会話からフェードアウトしようと、たまに「んー」、「あー」と相づちをうつ。別の2人組の男は追い返された人たちを笑いものにしながらも、あまり声が大きいと今度は自分たちが同じ目に遭うと牽制し合っている。
 
〈ベルグハイン〉は建物自体が大聖堂を思わせる造りになっているだけでなく、実際にテクノの教会そのものだ。どこまでが意図的に仕組まれているのかは定かではないが、行列に並ぶところから儀式は始まっていて、ドアに近づくに連れてお腹の中に蝶が舞うような感覚を味わうことになる。前に並んでいる人たちが追い返されるのを見つめながら、入店条件を割り出そうと必死になる。大抵の場合はシンプルである。若い男性のグループは苦労することが多い。それが観光客で、ストレートで、さらに酒に酔っていようものならなおさら難しい。しかし、これはかなり大ざっぱな分析でしかない。入れなかった若者が「ファック・ユー、ドイツめ! このスカムどもが! 俺はウィーンから来たんだぞ!」と怒鳴るのを聞いて、みんな小さな声で笑う。

 パーティする相手は誰でもいいという訳にはいかない。だから、追い返された人たちに同情する者はいない。それと同時に、その独占権を得るためには、自分も追い返されるリスクを追わなければならないのだ。

 冷酷なドアマンとの関係性には期待と不安が入り交じる ―― 〈ベルグハイン〉までの道のりには、矛盾する様々な感情が駆け巡る。そう、それでいいのだ。クラブの中に最初の一歩を踏み入れた瞬間の解放感を味わうために、その緊張感があるのだから。入店の儀式は、次にレジ横のエントランス・エリアで行われる、念入りなドラッグ検査へと続く。清めの儀式だ。そしてお布施を納め、クロークルームへの通過が許される。その広々としたスペースにはいくつかのソファがあり、ポーランドの芸術家ピョートル・ナザンによる「The Rituals of Disappearance」(消滅の儀式)と名付けられた巨大な壁画がそびえている。

 照明がまた儀式の雰囲気をしっかり演出している。真っ暗な屋外から、薄暗いエントランス・エリアを通り、明るいクロークルームに入る。そして最後の敷居をまたぐと、低音が轟くホールはまた真っ暗なのである。ホールを横切って大きな鋼鉄の階段を登っていき、ダンスフロアを前に立って雷のような音を浴びると、何のために何時間もかけてここに来たのかわかっていても、毎回同様の鋭い衝撃を味わう。そして数秒、ストロボに目が順応しようとするまでの間、半減した視覚にしばし彷徨う。少し顔を殴られた時の感じに似ている ―― まだ素面状態の自分よりも、2時間ほど長くここにいたと思われる汗ばんだ身体をかき分けて自分の行く手を進まなければならないだけでなく、音楽の波動による身体的な攻撃も受けるからだ。

 まずは一杯飲もう。

 〈ベルグハイン〉と〈パノラマ・バー〉には、合計6つのバーが全三階に渡って設けられている。ひとつは〈ベルグハイン〉のダンスフロアの右側、ゴシック教会の側廊のようなイメージの空間にある。かつての建築家たちが窓や細い柱の視覚効果を上手く使って天国との繋がりを強調したように、ここでもスポットライトの巧みな配置によって天井が実際以上に高く感じられる。もうひとつのバーはダンスフロアの左側、"ダークルーム"付近に隠れている。近くにある階段を上ると、〈ベルグハイン〉よりも少し小さくて明るめの〈パノラマ・バー〉がある。上の階はハウスでストレート、下の階はハードでゲイ、となっているのだ。

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「上の階はハウスでストレート、下の階はハードでゲイ、となっているのだ。」

 〈ベルグハイン〉には遅めか、場合によってはとても遅い時間に行く。ベルリンっ子は観光客のピーク時間を避けて、家で寝ながら朝8時まで待つこともある。そして長時間滞在する。そんな長い間自分が何をやっていたのか、思い出せないことがほとんどである。それはその間に摂ったかもしれない気分を変えるお薬やおやつの影響だけでなく、〈ベルグハイン〉特有の時空間に入り込んでしまったからだ。他のクラブの場合は、中に入ってしばらく滞在したら、また他の場所に移動する。だが、ここではみんな残る。外の世界は消滅してしまう。〈ベルグハイン〉に入ると、地図上から消えてしまうのだ。ここは、その意思がある人だけが来る場所。何百人という完全に出来上がったパーティ・ピープルが盛り上がっている中で自分だけが素面だと、置いて行かれたような気分になることもあるだろう。これほど巨大な ―― 多い日は延べ3000人以上が入場する規模のクラブでは、なおさらだ。その一方で、それぞれに完璧に調和のとれた各スペースでは、まるで自分の家のような ―― というと言い過ぎだが、「魚の水を得たるが如し」とでも表現すべき居心地の良さがある。何しろ、みんな自分の家とは違うからこそここに集っているのだから。

 写真撮影は〈ベルグハイン〉内では許されず、携帯のカメラでさえも禁止されている。理由を尋ねたところ、多くのお客さんは自分のセクシャル・ファンタジーを実体験しているところを撮られたくないからだ、とドアマンは言っていた。それもあるだろうが、それ以上に写真は中と外界とを繋ぎ、外の世界を思い出させてしまうからだろう。〈ベルグハイン〉ほど外界を切り離すことに成功したクラブはない。外では太陽が空高く昇っていようとも ―― 常に店内は早朝の薄暗さに覆われているようなのだ。

 もちろん、ここでは暗い隅っこでなければできないことをしている人たちもいる。ここに来たことがある人ならみんな、バーでセックスをしている人を見たことがあるか、話には聞いているはずだ。もしくはソファーで。あるいはダンスフロアの横で。より露骨なセックス・パーティは隣接する別の店、〈ラボラトリー〉で(広義のゲイに含まれるあらゆる性的趣向に合ったテーマのイベントが夜な夜な行われている。「Yellow Facts」に「Fausthouse」、「Beard」に「Slime」、バイカー専用のパーティ「Spritztour」まで)開かれているが、〈ベルグハイン〉内にも"ダークルーム"がふたつ存在する。そしてその中では、あらゆる抑制から解放され、あんなことやこんなことが繰り広げられているという話がいろいろある。

 しかし、これら〈ベルグハイン〉の逸話のほとんどは、こんな変な人がいたとか、こんなにぶっ飛んだ人がいたといった体験談ばかりだ。誰かが別の誰かと一緒にトイレの個室に入り、その後極端に気分が良くなって、あるいは悪くなって出て来たとか。だいたいのエピソードは2~3日は笑いのタネになるようなものだが、ちょっと笑えないものもある。

 いずれにせよ、こうした物語は勝手に広まっていく。〈オストグート〉(同じオーナーが経営していた〈ベルグハイン〉の前身となったクラブ)や〈ベルグハイン〉に何年も通っているような常連は、逸話が次々と生み出されては、このクラブの伝説を塗り替えていることを実感しているはずだ。大勢がその週末の出来事を振り返っては話題にし、誰かがこんな体験をした、自分はどんな光景を見た、あんな話を聞いていたが実際にはこうだった、といった会話があちこちでされている。物語の数々が繰り返し話題となり、強調され、膨れ上がり、検証され、説明されていく。そして、みんなお互いにこんなことばかり続けていてはダメだよねと言い合いながらも、密かに次に行く機会を待ちわびるのだ。

 これらはクラビングにまつわる当たり前の物語で、他のクラブでも起こることばかりだ ―― ただし、ここ以外の場所では現実世界に戻るのが日曜の夕方5時ということは滅多にない。他と異なるのは、これらの物語が常に〈ベルグハイン〉そのものの話題性を築き上げているところである。〈ベルグハイン〉のダンスフロアでパートナーに拳を突っ込んでいた男は、二の腕にセンチメートルの目盛りを入れ墨していたとか。友人ががトイレで出会った見知らぬ女は、彼を見るなり「今すぐファックして、早く」と言ってきたが、気が進まなかったので断ったらパンチをくらわしてきて何日も目の周りのアザが残ったとか。あるいは、ある男がトイレで小便をしていると、隣に立っていた男がいきなり丸めた手のひらでそれを受け止め、飲み干したかと思うとまた消えて行ったとか......「せめて一言断ってからにして欲しいよね!」といった具合に。

 〈ベルグハイン〉の伝説はそうやって築き上げられ、維持されている。さらに、そうした話題はベルリンの電話ネットワークを遥かに超えた規模に広がっている。体験談がニュースグループで議論され、中国からの発言がストックホルムやミラノにまで伝わる。メルボルンの人たちの耳にも届いていたりする。『New Zealand Herald』紙がベルリンにはダンスフロアでセックスするのが当たり前だというクラブがあるらしいと書き立てたかと思えば、それを読んだ何人かのニュージーランド人がベルリン行きの航空券を予約するのだ。

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"調子のいい夜の〈ベルグハイン〉と〈パノラマ・バー〉のダンスフロアは、世界で一番だ"

 伝説を築くという意味においては、それらの出来事が本当に起こったことなのか否かはさほど重要ではない。そんな逸話が存在し、語り継がれているというだけで十分なのだ。

 そして〈ベルグハイン〉は〈バー25〉ともまた違う。シュプレー川のほとり、カラスが飛び交える数百メートル程度しか離れていない距離にあり、ここも奔放なパーティ伝説が先行している場所ではあるが、〈バー25〉はさらにエクストリームでグロテスクだ。ある逸話では、女の子が芝生に寝転び、自分の携帯をヴァイブレーター代わりに使って「ヴァギナ会話中! ヴァギナ会話中!」と叫んでいたとか。それと比較すると、〈ベルグハイン〉の営みはまだ文明的に思える。確かに〈パノラマ・バー〉の横にある金属製の棚スペースのところでセックスする人たちは存在する。でも、基本的にここに来ている人たちは自分の行動をわきまえているのだ。もしくは、ちゃんと一言「ごめんね、しばらくどうでもいいことを喋りたいんだけど、いいかな?」と断りを入れる礼儀を持ち合わせている。

 そう言ってもらえれば、我慢するのもそれほど苦にならない。

 中を歩き回ってみて、あちらやこちらで何が起こっているか把握しつつ、一杯飲み、トイレに行って〈パノラマ・バー〉背後の小便器越しに、窓の外の荒れ地に奇妙に伸びた行列を眺める。知り合いや、全くの他人や、多種多様な人々に会う。バーで順番を待っていると、20代前半のフランス人青年が、モンペリエでテクノDJをやっている自分にとってベルリンに来ることは、イスラム教徒がメッカに巡礼するようなものだと説明してくる。階段では半裸でスキンヘッドの大男が、笑顔でこんなクラブは他にない、「ロシアでさえも」と話しかけてくる。ダンスフロアの隅っこでは、数週間前に途絶えていたダブ・レゲエについての議論がまた始まっている。

 そして、踊る。

 調子のいい夜の〈ベルグハイン〉と〈パノラマ・バー〉のダンスフロアは、世界で一番だ。ハウスとテクノ20年の歴史の集大成を作り上げているかのように。客の音楽的理解も素晴らしいが、盛り上がってくればそんなこととは無関係に思いっきり楽しむという姿勢もあるところがいい。その客層のユニークさは、ゲイとストレート、若者と年配者、男性と女性、ベルリンっ子と観光客といった多文化が混在しているというだけではなく、独特のダイナミズムをもたらす能力にある。ベルリンのテクノのベテランたちに埋め尽くされたダンスフロアでは、みんなパーティを知り尽くしている。だから、DJが8ビートのブレイクを挿んだ後にベースをぶち込んでも、期待通りの熱狂が得られないこともある。このようなトリックは聴き慣れているからだ。これが、初めて〈ベルグハイン〉に来て思いっきりはしゃいでいる若きゲイのイタリア人相手だったとしたら、トリックの善し悪しなどはどうでもいい ―― 毎回必ず盛り上がってくれるはずだ。でも、そうした客のバランスが素晴らしいのである。何年もかけて形成された、どのDJに何を期待すべきか知り尽くしたダンスフロアに勝るものはないが、場合によっては通常のパターンを打ち破る柔軟さも備えているのだ。

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「ドアマンに別れの会釈をしてしまうのは、
何か彼らに恩義があるような気持ちになるからだ」

 そして、目の前に霧がかかったようなおぼろげな意識の中、エレクトロニック・ダンス・ミュージックにおける行動学があることを確信することになる。それはダンスフロアにおける人々の関わり方に表れているのがわかる。ここでは行動をわきまえ、自分のスペースを確保し、他者の邪魔にならないよう気をつける。これらは自らの経験で学んでいくことで、誰かが教えてくれることではない。

 心得ておかないと、かなり強烈な憎悪を向けられる瞬間がある。例えば、ドアからバーへの最短距離がダンスフロアを横切るルートであると思っている集団に押しのけられたとき。もしくは、踊りながらどうしてもタバコも吸わなければならないと思い込んでいる隣の男に、腕に根性焼きされたとき(残念ながら、今では喫煙室以外の場所では喫煙することができなくなってしまったが)。あるいは、人を押しよけてまでそのスポットで踊りたいという欲求をコントロールする経験を持たない2人組の男が目の前で踊りはじめ、しかもしばらくして別の場所に移ったかと思えばまた戻ってきて、押しよけてきたとき。

 このような状況下に置かれたとき、クラブにもある種のグッドガバナンスの必要性を感じる。優れたダンスフロアでは、そこにいる全員が、どんな状態であれ自分が何をやっているか把握している。好きなだけ酔っぱらい、ぶっ飛んでいても、周囲に対するリスペクトは失わない。スペースが足りなくても、みんなが必要以上にスペースを取り過ぎないことを暗黙の了解としている。

 ここで踊っていると、そんなことを意識するのである。

 〈ベルグハイン〉と〈パノラマ・バー〉では、他のクラブとは異なる次元の高揚感がある。パーティの山場は、日曜の午後まで上がり続ける。これは、パラレル社会のような世界がクラブ内に作り上げられていることと関係している。ここでは、外の世界を完璧にシャットアウトすることに成功している。それどころか、パーティを盛り上げる刺激として、それをエフェクトとして活用しているのだ。〈パノラマ・バー〉の照明係が窓のブラインドを数秒感開け、太陽の光でフロアを照らすと、ダンスフロアが高揚感の波に飲み込まれるのを身体で感じることができる。人々が喝采し、両手を振り上げると ―― あまり急激に太陽の光をあて過ぎると世界が消滅してしまうんじゃないかという気になる。ヴァンパイアのように、客が全員灰になってしまうんじゃないかと。

 でもいつかは、終わりがやってくる。何しろ、〈ベルグハイン〉はクラブであって、アフター・パーティの会場ではないのだから。クロークに行って、タグを手渡す ―― これも細かい気遣いがよく表れている部分だ。他の店のような番号の書かれたチケットではなく、紐の付いた金属製のタグになっているので、首から下げたりどこかにくくり付けておくことができるのだ。だから店を出るときがどんな状態であれ、必ずコートを返してもらうことができる。ここではそういったところまで考え抜かれているのである。そこまで落ち着いた精神状態の人ばかりではない状況下では、とても重要なことだ。

 そして、ドアから光の下によろめき出る。ドアマンに別れの会釈をして ―― 彼らと知りだからというわけではないのだが、何か彼らに恩義があるような気分になってしまうからだ。その一晩の終わりを締めくくるような動作が欲しくなるのだ。周りを見渡し、新鮮な空気を肌に感じ、自分がどれほど汗をかいていたのか実感する。耳の奥のかすかな残響が小鳥のさえずりや、その辺りでビールを飲みながらお喋りしている人々の声や、建物から僅かに漏れてくるサウンドシステムの音が聴こえている。

 やっと家に帰る時間だ。それとも、〈バー25〉に寄って行こうか。

トビアス・ラップ
著者について

この記事は、トビアス・ラップの素晴らしい著書、『Lost and Sound: Berlin, techno and the Easyjetset』からの抜粋である。複数の短い章から成る本著書では、ラップはベルリンのクラビングの歴史を掘り下げ、客観・主観両方の観点から詳細に取り上げている。それも、彼のジャーナリストとしての経験に裏付けられたもの。この本の執筆中、現在38歳の彼は左傾の日刊紙『taz』の音楽エディターだった。英語版の紹介文の表現を借りれば、彼は「年老いたロッカーやアンダーグラウンド・トレンドを興味本位で追いかけるブルジョワとは一線を画す」視点で原稿を書ける人物だと評価されている。本著の成功と『taz』紙での仕事ぶりが認められ、現在ラップはより大きな舞台、ドイツで最も高い売上を誇るニュース雑誌『Der Spiegel』で、ポップ・ミュージック・エディターとして活躍している。

Flashback 2009 - ele-king

■ドラムンベースは、リアル・アンダーグラウンド・ミュージックそのものだった

 2009年を代表する作品といえば『Sub Focus』だ。このアルバムがシーンにもたらした功績は計り知れない。プロディジーが先導した初期レイヴ・シーンの影響をフラッシュ・バックさせるかのような"恍惚的な"インスピレーション、類まれなるプログラミング技術によるダンス・ミュージック本来の軸、まさに"あるべき姿"を体現しているサブ・フォーカスは現代のプロデューサーの最高峰に位置すると言っても過言ではない。そう、これが皆が思い描いた現代のレイヴ・ミュージックの夢であり、すなわち、それが"エクストリーム・レイヴ・ドラムンベース"なのだ。

 そのサブ・フォーカスと双璧をなすかのようにアルバムを待望されていたダーク・サイバーの伝道師、エド・ラッシュ&オプティカルがダーク・サイドという名の観点を貫く大作『Travel The Galaxy』を発表した。前作『Chameleon』から3年ぶりとなる今作もエレクトロニック・ダーク・ドラムンベースの最先端を走る話題の作品となって、近年のダーク・サイバー/ニューロ・ファンクの急先鋒として捉えられていたオーストラリア/ニュージーランドのアーティストたちにも多大な影響を及ぼすことになった。

 オセアニア地区ではドラムンベースのシーンが年々活発化している。オーストラリアのパースが誇るモンスター・ドラムンベース・バンド 、ペンドラムが世界を席巻しているのは記憶に新しいが、同じくパース出身のショック・ワン(SHOCK ONE)やフェスタ(PHETSTA)、レギュラ(RREGULA)などの才能溢れる若手プロデューサーも台頭している。オセアニアは2009年のエレクトロ/ニューロ・ファンク、ドラムンベースのムーヴメンにおける主要拠点にまで成長しているのだ。

 ちなみに2009年は、ショック・ワンのメイン・リリースでもあるリバプールのレーベル、フューチャーバウンド(FUTUREBOUND)の主宰する〈VIPER〉が、エレクトロ・ドラムンベース・コンピレーション『Acts Of Mad Men』をリリースしている。すでにこれは最高傑作の呼び声高い。『Acts Of Mad Men』には、ショック・ワンの他に〈BREAKBEAT KAOS〉から傑作『Act Like You Know』を発表し、ダブステップ・アーティストとしても知られている奇才ネロ(NERO)、ブルックス・ブラザーズ(BROOKES BROTHERS)との共作『Drifter』が記憶に新しいリキッド・ローラー、ファーロング(FURLOUNGE)、〈VIPER〉におけるエレクトロの異端児メトリック(METRIK)、オーストリアの新世代カモ&クルックド(CAMO & KROOKED)等々、こうした若手プロデューサーを起用したところにレーベル未来が見える。そして200年は、レーベル主宰者であるマトリックス&フューチャーバウンドマスターが「Fallin'」などの素晴らしいシングルで、プロデューサー並びリミキサーとして大活躍した年でもあった。

 ドラムンベースの本国UKでは様々なジャンルとの交流が活発した年でもあった。ドラムンベースが初期から持っているハイブリッドかつフレキシブルに交感し合うタクティクスが再燃したのだ。ダンス・ミュージックの固定観念に一石を投じる"付加価値"がより多く見受けられた。それは、UKアンダーグラウンド・ミュージックの最先端をひた走り、リードするダブステップとの交流によってより顕著に表れている。ドラムンベースが共存の道を選ぶことはシーンの活性化を思えば必然的行為で、ダブステップのほうでもまたドラムンベースの背中を追いかけている。このように、影響を互いに吸収しあって、グローアップしたからこそ、ふたたびビック・ムーヴメントに発展しようとしているのだ。

 そもそも、このふたつには互いに"雑食性"としてのリレーションシップがある。そしてその雑食性こそ、UKアンダーグラウンド・ダンスミュージックの特性だ。だから当然の成り行きとも言える。ドラムンベース界のビッグ・レーベルである〈RAM〉や〈BREAKBEAT KAOS〉、あるいは〈DIGITAL SOUNDBOY〉や〈HOSPITAL〉までもがダブステップのリリースを活発化させている。これによってチェイス&ステイタス(CHASE & STATUS)やネロ(NERO)、ブリーケイジ(BREAKAGE)などいったふたつを行き来する新しいタイプのスター・プロデューサーも数多く生まれたのである。

 ドラムンベース界のトップ・リキッド・ファンク・レーベル〈HOSPITAL〉からもエレクトロ色をふんだんに盛り込んだニュー・コンピレーション、『Sick Music』が世に送り出されている。これは時代性を見据えた内容によって大ヒットとなった。ロジスティックス(LOGISTICS)のニュー・アルバム『Crash Bang Wallop!』も驚異的なクオリティだった。〈HOSPITAL〉は相変わらず、素晴らしく刺激的なリリースを続けている。

 2009年は、メインストリームのドラムンベースとは一線を画したもうひとつの"トレンド"も生まれた。ディープでアトモスフェリックで知的なそのシーンは、いまやまるで成熟した果実のようである。その代表は、カリバー(CALIBRE)による『Shelf Life Vol.2』(Signature)、リンクス(LYNX)による『Raw Truth』、コミックス(COMMIX)や〈SHOGUN AUDIO〉クルー......。かつてLTJブケムが提唱した"アートコア"という異端的な感覚は、レイヴ・ジャングル/ハードコア・ジャングル全盛のいまではそのサブジャンルとして展開しているのだ。こうしたシーンは、どちらかと言えば、お決まりのパターンに陥りやすい作曲や、DJのスキルばかりが評価されがちなドラムンベースにおいて、マンネリズムを免れるべく、つねに刺激的なアイデアを出している。いわばシーンの陰の功労者的な動きである。

 すっかり停滞してしまったクラブ・ミュージックにあって、ドラムンベースはいまだに変化や展開が起きているシーンだ。このジャンルがいまでもまだ、まるで終わりなき道をひた走るように走っていることを再認識させられた1年でもあった。ドラムンベース/ジャングルの革新者たちが訴え続ける一体感がもっといろんな場面でもその意義が認められて、またさらなる発展を求め、いつかまた初期のレイヴ・シーンのように劇的に躍動することを願っている。

■DRUM&BASS 2009

SUB FOCUS/Sub Focus(RAM)
ED RUSH & OPTICAL/Travel The Galaxy(VIRUS)
V.A./Acts Of Mad Men(VIPER)
AGENT X FT.MUTYA & ULTRA/Fallin -MATRIX & FUTUREBOUND RMX/SHOCK ONE RMX- (VIPER)
CONCORD DAWN/Take It As It Comes(UPRISING)
DJ FRESH FT STAMINA MC & KOKO/Hypercaine(BREAKBEAT KAOS)
ZARIF & DANNY BYRD/California(FULL ENGLISH)
V.A./Sick Music(HOSPITAL)
DRUMSOUND & BASSLINE SMITH/10 Years Of Technique(TECHNIQUE)
GOLDIE & COMMIX/Envious(METALHEADZ)
CALIBRE/Shelf Life Vol.2(SIGNATURE)
SPOR/Aztec(SHOGUN AUDIO)
LYNX/Raw Truth(SOUL:R)
ORIGINAL SIN/Grow Your Wings(PLAYAZ)
SERIAL KILLAZ/Mash You Down(GANJA)

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■"プログレス"こそ、いまのダブステップを象徴するキーワードだ

 南ロンドンで産声を上げたシーンは現在、もっともホットで最先端なジャンルとなった。当時これほど大きなムーヴメントになると誰が想像してただろう。

 2009年のダブステップにおける、ミニマル・サイドには2枚の大きなリリースがあった。2枚とも革新と確信の両方を秘めたエポック・メイキング的なものだった。マーティン(MARTYN)による『Great Lenghs』、2562による『Unbalance』だ。マーティンは、元々はドラムンベースのプロデューサーだった。マーカス・インタレックスが主宰する〈SOUL:R〉のサブ・レーベル〈REVOLV:ER〉や〈PLAY:MUSIK〉からのリリースを重ねているが、いまではすっかりダブステップのアーティストとして人気が出てしまった。実際、彼の才能を遺憾なく発揮したのが『Great Length』だった。それはパーカッシブかつハイブリッドな次世代のダブステップで、『MIXMAG』誌の「TOP50 ALBUM OF 2009」にも選出されるなど、実に広く賞賛されたアルバムとなった。

 2562=デイヴ・ハイスマンス(DAVE HUISMANS)、この空間音響処理系天才オランダ人にはいくつかの顔がある。2562ではミニマル・ダブステップ、ア・メイド・アップ・サウンド(A MADE UP SOUND)名義では漆黒のビートダウン、ドッグデイズ(DOGDAZE)名義ではブロークンビーツ/ブレイクビーツ。彼はこのように、自分の音楽性を面白いように使い分けている。彼はそのメイン・プロダクションである2562は、ベルリン・ダブとダブステップの融合を実現したと評された1stアルバム『Aerial』から1年後の2009年に発表されたセカンド・アルバムで、さらに研ぎすまされた硬質なビートスケープを見せつけた。まさに2009年の象徴的存在のアーティストだ。

 ミニマル・ダブステップもうひとりの異端者、ダークヒーローことシャックルトン(SHACKLETON)も忘れてはならない。彼はアップルブリム(APPLEBLIM)とともに〈SKULL DISCO〉レーベルをスタートさせ、クリック/ミニマル界のスターリカルド・ヴィラロボスによってリミックスされた「Blood On My Hands」で異例のカルト・ヒットを実現し、そして瞬く間にファンを増やしている。その後レーベルを〈MORDANT MUSIC〉に移すと同時に、活動の拠点もベルリンに移している。そして、あのクリック/ミニマルの最重要レーベル〈PERLON〉から驚愕のダーク・ベースラインが唸る独創的ミニマル・ビーツ・アルバム『Three Eps』をリリースしたのである。

 数年前のダブステップのシーンはまるで初期ドラムンベース/ハードコア・ジャングルのシーンのように大きくふたつに分類するに過ぎなかった。そう、ダークサイバー・ドラムンベースとアートコア・インテリジェンスのふたつのように。だが、そこからサブジャンルがいくつも生まれたのは周知の通りで、ダブステップにも同じことが起きている。いまはすごいスピードで多様化しているのだ。2009年の傾向のひとつに、4つ打ちを取り入れた作風が目立った。その象徴がスキューバ(SCUBA)の「Aesaunic EP」(HOT FLUSH)やラマダンマン&アップルブリム(RAMADANMAN & APPLEBLIM)の「Justify RMX」だ。また、ジョイ・オービジョン(JOY ORBISON)などのUKガラージから派生したポスト・ガラージ・アンセムの「Hyph Mngo」やアントールド(UNTOLD)による「Gonna Work Out Fine EP」のようなミニマルの静寂性とUKガラージの高揚感を混合し、効果的にハイブリッドさせたまったく新しいサウンドも生み出された。マーラ(MALA)の〈DEEP MEDI MUSIK〉からは美しくも繊細なシルキー(SILKIE)の『City Limits Vol.1』がアーバン・アートコア・ダブステップとしての歴史的傑作となった。

 ダブ・カルチャー/ジャングル・シーンにおいての聖地ブリストルでもダブステップは発展を遂げている。ロブ・スミスがRSD名義で『Good Energy』(PUNCH DRUNK)をリリース。ピンチ(PINCH)が自身のレーベル〈TECTONIC〉から発表した『Tectonic Plates Volume 2』も話題となった。フライング・ロータス、マーティン、2562......はたまたスクリームやベンガといったメインストリームの怪人たちや、ブリストルのウォブリー・マスターであるジョーカー(JOKER)、あるいはベルリンのミニマル・レーベル〈OSTGUTーTON〉のシェド(SHED)といった幅広いメンツが参加している。そして〈PUNCH DRUN〉を主宰するペヴァーレリスト(PEVERELIST)が満を持して1stアルバム『Jarvik Mindstate』を発表。スライトリー・ダブとしての観点からきらびやかなコズミック感覚やミニマル感覚を注入し、なんとも素晴らしい先品が誕生したものだ。

 ウォブリー・ダブステップに話を移そう。スクリームがドラムンベースのビック・レーベル〈DIGITAL SOUNDBOY〉から、まるでロブ・プレイフォードの2バッド・マイス、そう、〈MOVING SHADOW〉さながらの初期レイヴ・ジャングルなアーメン・ビートを用いた「Burning Up」をリリースしている。もちろんこれはダンス・アンセムとなった。いっぽう、ベンガは「Buzzin'」(TEMPA)をリリース、ウォブリー・アンセムとなり、その健在ぶりを知らしめた。この両雄の活躍がシーンの生気を確認させ、また、ふたりの底力をみせつけたとも言えるだろう。

 その両雄とも並ぶとも劣らない活躍を見せたのがブリストルのジョーカーだった。ミニストリー・オブ・サウンド主宰のレーベル〈DATA〉やメジャー・レーベルのリミックス・ワークを立て続けに発表したジョーカーには、今後も大注目である。そして、忘れてはならないのがコード9(KODE 9)の〈HYPER DUB〉からレーベル5周年を記念してリリースされた12インチのシリーズ「Hyperdub 5.1~5.5 EP」だ。その先進的サウンドは、縦横無尽に動き回るダブステップ本来の雑食感が詰まっている。いわばダンスフロア・シンフォニーとしてのオルタナティブ・ダブステップだ。

 2009年は、さまざまなドラムンベースのアーティストがダブステップへと転身した。数年前、その先駆けとなったのが、もともと〈RAM〉でリリースしていたサイバーステッパーのエディ・ウー(EDDY WOO)である。彼は現在、セヴン(SEVEN)名義でダブステップ・プロデューサーとして良質かつキャッチーなトラックで、フロアヒットを飛ばしている。他にも、自らドラムンベースのレーベル〈DEF COM〉を主宰し、ダークコア・ステッパーの区リプティック・マインズ(KRYPTIC MINDS)、アーメン・マスターであったブリーケイジ(BREAKAGE)、〈NON PLUS〉のインストラ:メンタル(INSTRA:MENTAL)らも、現在トライバル・ステップ・リーダーとして活路を見いだし、その存在意義を証明している。

 そして〈RAM〉からの大ヒット・アルバム『More Than Alot』も記憶に新しいドラムンベースのプロデューサーとしてはトップに君臨するチェイス&ステイタス(CHASE & STATUS)やネロ(NERO)が、ダブステップ・アンセムからリミックス・ワークまでをもこなし、なおかつビック・チューンを生み出せる数少ないマルチ・プロデューサーとして注目されている。

 UKレイブ・カルチャーの象徴であるドラムンベースの雑食性を見事に受け継ぎ、90年代初期から中期にかけてのレイヴ・ジャングルさながらの熱狂と凶暴性も兼ね備えた、まさに21世紀の代表的クラブ・カルチャー/ムーブメントに成長したダブステップ。先進的エレクトリックなプログラミング、他の追随を許さない圧倒的な雑食性を武器に、すべてを飲み込む貪欲さが他との類似性を拒み、柔軟な思考回路とともに歩む最先端サウンド。この先も予想不能なミステリアスに包み込まれた、誰も想像できない可能性に満ちた音楽性でもある。これが現在のダブステップのすべてだ。この魅惑的なリズムは音を変え続けていく。未来である明日にも、すぐに。

■DUBSTEP 2009

MARTYN/Great Lengths(3024)
2562/Unbalance(TECTONIC)
SHACKLETON/Three Eps(PERLON)
SCUBA/Aesaunic(HOT FLUSH)
RAMADANMAN & APPLEBLIM/Justify(APPLE PIPS)
ELEMENTAL/Messages From The Void(RUNTIME)
JOY ORBISON/Hyph Mngo(HOT FLUSH)
UNTOLD/Gonna Work Out Fine EP
PEVERELIST/Jarvik Mindstate(PUNCH DRUNK)
PINCH FEAT.YOLANDA/Get Up -RSD RMX-(TECTONIC)
SILKIE/City Limits(DEEP MEDI MUSIK)
INSTRA:MENTAL,BREAKAGE/Futurist,Late Night(NAKED LUNCH)
KRYPTIC MINDS/One Of Us(SWAMP 81)
SKREAM/Burning Up(DIGITAL SOUNDBOY)
V.A./Hyper Dub 5.1~5.5 EP(HYPER DUB)
BENGA/Buzzin'/One Million(TEMPA)
LEE PERRY WITH SAMIA FARAH vs KODE 9/Yellow Tongue(ON-U)

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■ベース・ミュージックにおける色気、UKファンキー

 ファンキーはUKガラージから派生し、変容を遂げたコンテンポラリー・ソウル・ダンス・ミュージックである。それはラテン、アフロビート、コンテンポラリー・R&Bを吸収したニュー・ガラージ・サウンドだ。この目覚ましい発展のフロントラインには、コード9が仕掛けた「Black Sun」がある。そして同じく〈HYPER DUB〉のフィメール・プロデューサー、クーリー・G(COOLY G)によるドリーミーかつムーディーなアトモスフェリックが心地よいトリッピーな「Narst/Love Dub」。この2枚がシーンの拡大に多大な貢献を果たすこととなる。

 新星ロスカ(ROSKA)による「Twc EP」のリリースも忘れがたい。彼はゼド・ビアス(ZED BIAS)の「Neighbourhood -ROSKA 2009 RMX-」の成功によってシーンの代表的なアーティストとしてすでに認知されている。そしてドネーオー(DONAE'O)がUKアーバンにおける至高のガラージ・アルバム『Party Hard』でUKファンキーとしてのデビューを飾った。さらにUKガラージ/2ステップ界のスター、MJコールがUKファンキーを本格化させるなど、フレッシュな話題が続いている。

 大御所のジンクがドラムンベースを離れて早数年が経過し、現在、"Crack House"と銘打ったモダン・アーバン・エレクトロ・ハウスの提唱者として各地での布教活動に勤しんでいる。タイトル名「Crack House EP」は、もともとは初期の〈BINGO BEATS〉のアーティストたちがトラック・メイクしていたハーフ・ステップ主体のベースライン・サウンド直系のもので、現在のクラブ・シーンのトレンドであるエレクトロ、フィジット・ハウス、ダブステップ、ブレイクスなどをハイブリッドにミクスチャーしたファンキーなダンス・ミュージックだ。ブレイクステップのテイストまで取り入れた4つ打ちのダンスフロア・アンセムとして、UKファンキー/ガラージ界から、さらに広くエレクトロのシーンにまでその名を轟かせているジンクはやはり生粋のベース・マスターであり、いつかまたドラムンベースに復帰することを願っている。

■UK FUNKY/CRACK HOUSE 2009

ZINC/Crack House EP(BINGO BASS)
FLORENCE & THE MACHINE/You Got The Love -JAMIE XX REWORK FT THE XX- (FLOXX)
COOLY G/Narst , Love Dub(HYPER DUB)
KODE 9/Black Sun(HYPER DUB)
ATTACCA PESANTE FT SHEA SOUL/Make It Funky For Me(DIGITAL SOUNDBOY)
ROSKA/Twc EP(ROSKA KICKS & SNARES)
V.A./Fantastic 4 EP(FANTASTIC 4)
ZED BIAS/Neighbourhood -ROSKA 2009 RMX-(SIDESTEPPER)
DONAE'O/Party Hard(MY-ISH)
MJ COLE FT.DIGGA/Gotta Have It -MJ'S FUNKY DUBB-(PROLIFIC)

七尾旅人×やけのはら - ele-king

 4つのリミックスを加えたかわいいファンク集。意外な組み合わせと思ったが、ふたりは以前からの友人同士という。たしかふたりとも、清志郎ファンじゃなかったかな。

 何気ないラヴ・ソングといえばラヴ・ソング。けれども清志郎の歌みたいに"彼女"の形が前面に出てくるようなものでなく、街という背景があって、僕と恋人が絡みあってそこを転がっていく。レコードが回り、グルーヴがすべてのふたりきりの世界であって、同時にふたりを飲み込もうとする世界(「運命」)がある。直接ふたりを搾取するわけではない、もっとその茫漠とした、ふたりの、僕の、不安や不幸も幸福も否応なくそこと関らざるを得ない世界への意識がある。たぶんそういうところが、清志郎のラヴ・ソングとは違うところではないか。けれども、にもかかわらず、僕もふたりも幸福そうで、ストリート・カルチャーを通過した以降のごく普通の感覚のようにも思える。

 「朝よ来ないで」という"最後のつぶやき"は決して適うことはないけれど、そのつぶやきこそふたつの世界の拮抗点だ。「朝よ来ないで」。このつぶやきを何度感じたことだろう。最終電車が入口となる、たとえば朝がきたからといって行くべき場所なんかない人間たちの世界ののんきさと寂寥感と不安と快楽に満ちた"幸せ"な時間はいつもすぐに終わって朝が来て、朦朧としながら重い足を持ち上げ駅の階段をもういち度登る。数年前に感じていた、社会と接点がないという接点というような感覚が、ストリートにはあったように感じていた。私はその空気がとても好きだった。その好きだった空気が、やけのはらの少し拙いようなだるいようなラップもふくめて、"Rollin' Rollin'"にはある。たとえばそれは、フィッシュマンズの"新しい人"とはまた違う夜明けの迎え方なのだ。

 リミックスのメンツは、複雑なリズムが出色のCherry Boy Function、せわしなさが刹那的な切なさを煽るようなSKYFISH、うってかわって川辺ヒロシのレイト・サマー・フィールド・ミックスがその際限のない終わらなさを問いかける。ラストはオリジナルのアレンジも担当したDollianのゆったりしたドラムンベース。同じ曲が5回も繰り返されること自体が歌詞の言葉とも絡みあっているかのよう。

 いちばん好きなこのフレーズを返したい――「Rollin' Rollin' 回り続ける 君(たち)のかわいい考えが Oh Sorry Darlin' 君と二人 坂を登り 坂を下る」。

Flashback 2009 - ele-king

DJはいまや渡り鳥のように全国をまわっている。吟遊詩人のように旅を続ける。まるでフウテンの寅さんのように列車に揺られている。ベテランDJの高橋透が、1年を回想する!

1976年からDJ活動をはじめ、1980年にNYへ移住、1981年に一時帰国、〈椿ハウス〉、〈玉椿〉、〈CLUB-D〉などの80年代を代表する箱のメインDJを務める。1985年にNYへ戻り、DJとして活動する。1989年に帰国。その後も芝浦〈GOLD〉でのレジデントをはじめ、数多くのクラブ、パーティに関わる。現在は宇川直宏、MOODMANと主催するディープ・ハウスパーティ〈GODFATER〉のひとりとして活躍。ミックスCDとして『GODFATHER 10th ANNIVERSARY SPECIAL MIX VOL.1』、また自身の半生を綴った著書『DJバカ一代』がある。

  有名アナログ店舗の相次ぐ閉店にはじまり、日本のクラブ・シーンを長年牽引してきた老舗クラブ〈YELLOW〉のクローズ、音楽専門誌やカルチャー誌の激減など、2008年から2009年にかけてクラブ・シーンを取り巻く環境が大きく変化し「この先この業は大丈夫なのか?」って考えさせられた年初めではありましたが、終わってみれば「さほど心配する必要がなかったのか」って、例年通り数多くのパーティーが各地で開催されていたし、仲間内でのいつも通りのパーティ談義やイヴェントの評判を直接聞いたりネットで見たりね。今年の後半にはメディアもクラブもアナログ店も来年に向けて活発な動きがあることも知り、例の「サイバーノリピー事件」を除いては少しもネガティヴな状況じゃないのかな、っていうのが実感です。

  2009年を振り返ると、個人的には長年行きたかった沖縄を初体験できたことがまず嬉しかった。呼んでくれた友人ミーパンやリュウジ君クルーに熱く迎えられ、数ヶ月前から仕込んでくれたという特設のダンスフロア、ブースの前に設えられた銀色に光り輝く鳥居には沖縄の熱いエネルギーを感じさせられた。他にも、広大な庄内平野の田んぼのなか、看板もネオンも何も無く営業を続ける知る人ぞ知る山形屈指のアンダーグラウンド・パーティ〈ハーモニー〉"も相変わらずコアなクラウドだった。瀬戸内海の荒波が打ち寄せるファンキーなロケーションで毎年お盆に開催される姫路〈彩音〉も忘れるわけにはいかない。GODFATHERとしては3年連続で出演、年々進化し続けている。そして......DJ WADAくんと行った群馬桐生〈レベル5〉が10周年というのははっきり言って驚かされた。坂田頑張ってるわ! GODFATHERで最多出場を果たしている博多〈デカダン・デラックス〉に至ってはなんと21周年! 凄いのひと言だ。博多のクラウドは今年もタフだったしね(ナベさん、西やんありがとう)。初登場させてもらった神戸〈トゥループカフェ〉も16周年、楽しくプレイさせていただきました。で、青山〈ループ〉が14周年(望っチャン、花チャン、スタッフ全員お疲れ様)。野田さんの実家〈のだや〉を皮切りに〈ラジシャン〉と〈フォー〉でスタートした静岡〈フォー〉の4周年では静岡パワーを見せられた感じ。五十嵐&海野くんお疲れさまでした。文田に行けなかったのは残念だったけれど! 

  とにかく2009年はレギュラー参加しているパーティやイヴェントのほか、初めて呼ばれるクラブやパーティも多くて、たくさんの人たちとの出会いやその地域のダンス・ミュージック・ファンに僕のプレイを体感してもらえたこと、音楽好きが集まる小さなバーからライヴ・ハウス・パーティまで数多くのダンス・ミュージック・ファンと素晴らしい時間を共有できたことが最高に楽しかったし、嬉しかった。もちろんすべてのパーティに全力投球してきたし、それが自分の使命であり、自分にとってもっとも幸せなことだなと今年関わったすべての人に感謝しています。

  ここ数年、新たに生まれた店が多いことや無事に○周年を迎える店も多く、日本のクラブ事情を見る限り、バブル期の派手さは無いけれど着実に新たなアンダーグラウンド領域に入ってきているような気がして、これからまた面白くなりそうな感があります。だいたい僕が虜になったダンス・ミュージックの世界はそんなに簡単に無くなるはずはないだろうし、ヨーロッパでもアメリカでも基本的にはメディア以外何も変わってないと思います。その証拠にダンス・ミュージックのデータ配信ビートポートなどはますます元気だし、それは配信される音楽の多様性を見てもうなずけるでしょう。

  だから僕はダンス・ミュージックの先行きに関して何の心配もしてないし、来年以降がますます楽しみになっているくらいですから。僕らができることはまだまだあるように思うし、チャレンジすることもいっぱいある気がして、ワクワクしていますね。宇川くん野田さんタッグが『エレキング』のネット配信をそろそろスタートする予定もあるし、JEYPEGの修平くんたちはネットラジオで面白いことやっているようだし、マンハッタン・レコードもネットでの動きを活発にすると聞いて、新たな時代に突入しているんじゃないかなって強く感じます。

  ずいぶん長いこと海外に出ていないなーって最近思うのですが、よく考えてみると、とくに行かなくても国内で満足させられているのかな~て、つまり昔ほど海外への憧れが無くなってしまったということです。海外が遠かった当時と比べ、ネットで海外と日本の時差が無くなった今日、当然と言えば当然でしょうが、何年か前から自分の感覚がディスカバージャパンになっていることも作用しているようです。歳かもしれませんが、たぶん70年代に憧れたアメリカや80年代に憧れたニューヨークより、現代は日本のほうが面白いことをやっているんじゃないかってね、もちろんダンス・ミュージックの配信ではヨーロッパものが俄然多く、音楽を通じてヨーロッパの活気を知ることはできますが、それでもそこへ行って滞在したいという気にあまりならないんですね。それよりも日本人として、日本のダンス・ミュージック文化を大事にしようと思うのです。僕にとっていまは日本がピッタリくるというか、居心地よくなっているのかもしれません。

  僕は日本の歴史が大好きで、これまでずいぶんと歴史小説を読みあさってきました。とくに史実に基づいた物語が好きで、なかでもお気に入りの作家は司馬遼太郎です。歴史小説を読んでみて日本の優れた歴史上の人物に出会う度に、日本人として生きるということに魅力を感じて、この二度と来ないいまという時代のなかで日本人のためになるオリジナルな生き方をしたいって考えるようになっているのです。生意気なことを言うようですが、これも歳のせいかも知れません。

  いずれにしてもダンス・ミュージックの世界は経済に関係なく、確実に前を向いているから2010年は2009年よりも必ず面白くなるはずだし、僕らひとりひとりがそうしなくてはいけないって思っています。踊るという行為は、人類が誕生したはるか昔から受け継がれて来た尊い文化で、お祝いごとや悲しい出来事が起こる度に人間は踊ることで喜びを分かち合い、悲しみを発散してきたんです。僕らの時代になって、サブカルチャーとしてディスコが流行し、若者の心を捉えていまに至っていますが、これは世界的な潮流でもあるし、僕らにとって重要な文化なんです。僕はDJという職業に出会えたことは本当に幸せだと思っています。なぜならば皆がハッピーになれる時間を作り出せる側にいるからです。踊らせること、楽しませることが何よりも好きだからなんです。

  真剣にこの文化に取り組んでいる側からすれば、ノリピー事件は怒って当たり前の残念な出来事で、一般社会から見れば同じに見えるかもしれませんが明らかに異なる文化を作り出してきているはずです、それももう何年ものあいだです、でも世界には、黒服とV.I.Pと軟派がセットになったお金の匂いがするキラキラしたディスコ文化というのが僕らの世界と平行してずうっとあるし、そこへ集う人たちも多いという事実もあります。言ってみればそれもひとつのディスコ文化と言えるから比較はできませんが、心情的には一緒にしてほしくないわけです。

  ちょっと横道にそれましたが、2009年全般を考えると、クラブ・シーンにとっては過渡期だったと思います。各地のクラブにとっても厳しい年であった事は否めませんが、それでも僕らと同じようにダンス・ミュージック文化が大好きな人たちがこの日本には多いという事実がこの1年で確認できたし、実感しました。2010年も楽しみましょう。

Top 20 of 2009 by Toru Takahashi

1 Sharam / She Came Along feat Kid Cudi -Sharams Ecstasy Of Ibiza Mix- (DCI)
2 Destination Danger / Du Rififi Au Katanga(Circus Company)
3 Argy / What Time Is It (These Days)
4 Jona / Freefall (Resopal Schallware)
5 Fuse / Dimension Intrusion -Layo Bushwacka Fuze Remix-(Plus 8 Records)
6 Crash Course In Science / Flying Turns(From Jupiter)
7 Danny Fiddo、Affkt / P oints -Mathias Kadens Chalet De Verano Remix-(Barraca Music)
8 Will Saul_Tam Cooper / Where Is It ? feat Ursula Rucker -Lazersonic Remix-(Simple records)
9 Marc Houle / Single Cell -Original Mix- (Minas)
10 Luna City Express / Diamonds Pearls(Moon Harbour Recordings)
11 Guy J / Ballroom Sians Vernacular Mask Remix (Bed Rock Records)
12 dOP / The Dust -dOP Mix-(Enliven Music)
13 Collabs, Chris Liebing, Speedy J / Magnit Express feat Speedy J & Chris Liebing (Electric delaxe)
14 Michel Cleis / La Mezcla feat Toto La Momposina (Strictly Rhythm)
15 EP1 B2 / Hauntologists (Hauntologists )
16 Mirko Loko / Tahktok (Cadenza)
17 Seth Troxler / Panic Stop Repeat ! ( Spaxtral Sound)
18 Alexi Delano / Adjust the Frequency (Clink)
19 LosUpdates,RicardoVillalobos / Driving Nowhere_Audio George Remix(Nise Cat Records)
20 Michael Jackson / Heal The World

vol.1:2009年のニューヨーク - ele-king

 ニューヨークはブルックリンの〈スーパーコア・カフェ〉〈ハートファスト〉よりお届けです。最初なので、少し自己紹介をします。

 〈スーパーコア〉は、ブルックリンのウィリアムスバーグにあるカフェ、レストラン。〈ハートファスト〉は、〈スーパーコア〉が運営するレコード・レーベルで、イヴェントを企画したり、ピクチャー7"w/DVDシリーズ(ライアーズ、アップルズ・イン・ステレオ、オブ・モントリオール、フェイク・メール・ヴォイス(TV・オン・ザ・レィディオのTundeのソロ)等をリリースしています。

 〈スーパーコア〉には、ナダ・サーフ、フリー・ブラッド、TV・オン・ザ・レィディオ、レ・サヴィ・ファヴ、イエーセイヤー等々、近所に住んでいるバンド連中が集まってはお喋りしたり、仕事をしたりする、いわば憩いの場所になっています。面白いことに、みんな仕事は家でもできるのに、わざわざカフェにやって来てはラップトップを開き、たまに通りかかる友だちに挨拶したり、コーヒーを飲んでいます。


USA is a monster last show @ market hotel

 カフェのまわりには、彼らもよく演奏しているライヴ・スペースがたくさんあります。大きい会場から〈ミュージック・ホール・オブ・ウィリアムスバーグ〉、〈ブルックリン・ボウル〉、〈パブリック・アセンブリー〉、インディ系では、〈グラスランズ〉、〈ディス・バイ・オーディオ〉、〈ブルアー・フォールズ〉等々。ウィリアムスバーグと言うエリアには、カフェ、レストラン、本屋、洋服屋などもたくさんあります。

 まわりのバンドの人たちはフレンドリーで社交的な人が多く(無口かと思えば、しゃべってみると止まらなかったり)、自分たちの家でショーをオーガナイズしたり、空き地を陣取ってパーティを開催したりもします。バンドをやりながら、自分でバーやレストランを経営したり、グラフィック系の会社、アート・ギャラリー、コミック・ショップなどを経営していたりしている人たちです。音楽を軸としながら、いろんな分野で活躍する多才な人が多く、DIY精神が大きいのが特徴と言えるでしょう。

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Williamsburg water front park

Williamsburg fashion week @ glasslands

 また、例えばフリーのショーでもやりっ放しではなく、バンドの人たちにはドネーションとしてお金が入るようになっているし(多くの場合は)、同じようにニューヨークでは地下鉄ミュージシャンがたくさんいるのだけれど、良いと思ったらみんなきちんとドネーションをします。エンターテイメントには"お金"と言う物差しによる評価がある、この辺がとてもニューヨーク的というか、チップ社会のアメリカを良く表しているように思います。ショーに行っても自分が好きでなかったら途中で帰ったり、直接「何がだめだったか」など具体的なコメントをもらうし、反対に良かったら、すぐに「何々が良かった!」などの反応もある。そんな感じで、何回でもショーに足を運びます。いろんな意味でシビアだけれど、良いことをしていたらきちんと評価される、それゆえどんな時代でも何かが起こっている町なのでしょう。

 2009年もまた、ニューヨークのバンドが大活躍した年でした。思いつくだけでも、たくさんの名が挙がります。ダーティ・プロジェクターズ、アニマル・コレクティブ、グリズリー・ベアー、MGMTなどの活躍は目覚ましかったし、個人的にはサンティ・ゴールド、ホワン・マクリーン、ソニック・ユース、TV・オン・ザ・レィディオが印象に残っています。ニューヨーク以外のバンドでは、オブ・モントリオール、ライアーズ、リッキー・リーを良く聴いた。

 新しい所では、ALのアトラス・サウンド、LAのガールズ、ウエーブス、ダムダム・ガールズ、ヘルス、ギャングリアンズ、ニューヨークのトーク・ノーマル、ティース・マウンテン、リーズ・ア・パワーズ、リアル・エステイト、ベア・イン・ヘヴン、ドラゴンズ・オブ・ジンズ、ハード・ニップス......等々、キリがありません。


Fake Male Voice @ glasslands

 とにかく現在のシーンは、マイスペース、フェイスブック、ツイッターからiphoneなどのテクノロジーの登場も含め、確実に新しい局面を迎えて、新しい盛り上がりをみせていると言えます。なにしろ......いままでレコード屋に行って購入しないと聴けなかった音楽がいまではMP3で簡単に聴ける。試聴するのもクリックひとつ、それが好きだったら1曲単位で購入できる(1曲でそのバンドを評価するのもどうかと思うが)。家から一歩もでなくて良い。いままでレコード屋に行ってフライヤーをチェックしたり張り紙を見たりしてライヴ情報を得ていたのが、emailはもちろん、テキストメッセージやフェイスブックなど、どんな所からでも流れるように情報が手に入るようになりました。情報がありすぎて、どれを取るか、どれを捨てるか迷っているうちに、結局どれにも行けなかったりとか、自己管理が大切になってきます。だから逆に言えば、意思がなく、情報に流され、友だちに流され、本当に見たいモノや聴きたいモノをいとも簡単に逃してしまうこともあります。好む好まざるに関わらず、これがいま私が生きている世界です。そしてだからこそ、みんながカフェに何となく集まってくる、そんな状況に繋がっているのかもしれません。

 こちらでたったいま生まれた音楽が、遠く離れた日本でもすぐに聴くことができて、ライヴ映像も見ることができるのはすごいことです。ただし、やはりどうしても、実際その場所に行って生で体験することは特別な感動があります。それがひょっとしたら、ニューヨークと日本の音楽シーンの活気の温度差にも表れているのかもしれません。それでもできるだけ、その温度差を埋めていけるように、ここニューヨークからダイレクトに情報をお伝えしていきたいと思います。

Top 10 Albums of 2009 by Yuko Sawai
1. Sonic Youth/ The Eternal (Matador)
2. Dirty projectors/ Bitte Orca (Domino)
3. N.A.S.A./ The Sprit of Apollo (Anti-)
4. Juan Maclean/ The Future Will Come (DFA)
5. Lightning Bolt/Earthly Delights (Load)
6. Pylon/ Chomp More (DFA)
7. Health/ Get Color (Lovepump United)
8. Simian Mobile Disco/ Temporary Pleasure (Wichita)
9. Talk Normal/ Sugarland (Rare book room)
10. Fuck Buttons/ Tarot Sport (ATP)

渋谷慶一郎 - ele-king

 近しい人の死をきっかけに作られた音楽は古今枚挙に暇がない。フォーレの"レクイエム"は、自身の母親の死をきっかけに作られたが、直接的に死者を悼むための音楽であるそうしたレクイエムのような作品ではなくても、たとえば後期ロマン派の作曲家ブルックナーの交響曲第7番の第2楽章の終結部のように、崇拝する師(楽劇の創始者R.ワーグナー)逝去の知らせを受け(あるいは、その予感を持って)、新たに慟哭のようなコラール楽段を付け加えたものもある(このコラールは、1994年にドイツのテクノ・ユニット、サン・エレクトリックがコペンハーゲンで行なったライヴの実況録音盤において、エレクトロニクスの海とみごとな融合を果たしている)。

 こうした曲は、例外なく「美しい」。それはもちろん、作曲に導く動機ゆえということもあるだろう。その動機から、醜くひき歪んだ創造物を作り出すということはまず考えにくいからだ。たとえ「美しさ」という概念にひとそれぞれ違いがあったとしても、おそらくそのほとんどは普遍的な観念に回収されるものである。

 この渋谷慶一郎(東京藝術大学作曲家卒・2002年よりレコード・レーベル「ATAK」主宰)による初のソロ・ピアノ作品集「for maria」は、彼の奥様であるマリアさんの死が直接的、あるいは間接的な契機となって作られたアルバムであるという。なるほど、それならば、これまでに渋谷が作り出してきたエレクトロニックな音楽にくらべて、よりわかりやすい美しさを持った音楽になっていることには納得がいく。

 が、しかし、おそらく渋谷はこんなセンチメンタリズムめいたことばでアルバムをジャッジされることを好まないだろう。それはなぜなら、このアルバムの美しさは、単に美しいという言葉だけではすまされない、これまでに感じたことのない「凄み」があるからだ。

 この「凄み」を感じる最初の要因は、ここで聴かれる音そのものの「凄み」でもある。最初の1音が鳴った瞬間から、これは違う、と感じさせる鳴りがある。鳴り、というか、ピアノの音がホログラフィックな体裁を持って立ち現れる。聞けば、本作は本来スーパーオーディオCDのための技術として開発されたDSD(Direct Stream Digital)でレコーディングされているという(エンジニアは名手オノ・セイゲン)。確かにこれはまさにCDの44.1kHZ/16bitをはるかに超える再現性を持つDSDならではの空気感の再生音だ。場の空気感の再現こそがDSDの真骨頂であるとぼくは思っているのだが、しかし驚かされるのはその空気感が、いくとおりもの質感を持って再現されること。もともと渋谷は音色でもって世界観をドラスティックに強制変換するタイプの音楽家であったと思うが、ここでは音が放射される空間の質感がその出音(これもまたすばらしく変化に富んだ音色がすばらしい。ベーゼンドルファーの銘器とのこと)によってさまざまに変化してゆくことによって、渋谷のそうした特質がいっそう強調されている。われわれはその「美しさ」のみに耽溺することなく、クールな感情を持ってその成り行きを見つめることができる。ここには慟哭や歎きのメロディはない。メロディとか和声といった音楽要素を超えて、それを形作るあらゆるエレメンツがひとつになって聴き手の心に届くとき、印象はその都度更新される。よってこの音楽は、永遠に古びることがないのだ。

いろのみ - ele-king

 東京・吉祥寺と京都を拠点に「電子文化の茶と禅」をコンセプトに活動する電子音楽レーベル〈涼音堂茶舗〉。ネーミングの強烈さだけでも忘れがたい「アンビエント茶会」とか「サクラチルアウト」といった異色のクラブイベントを行なったり、寺院や温泉でのイヴェントなど、クラブという空間から離れても機能する電子音楽をさまざまなかたちで追及してきたこのユニークなレーベルは、snoweffect(レーベル主宰メンバーを含む)やFiro、PsysEx、OTOGRAPH、Coupieをはじめ、各地に点在するアーティストたちのネットワーク的な機能を果たしていると言えるだろう。決して大きな動きではない。しかし、それは明らかになにかとてつもない地平に接近しつつあるのではないか、と、ここ数ヶ月の間にやっと彼らの存在を知ってあわてて追跡を開始したばかりのぼくは、そう感じているのである。

 彼らの現時点での最新リリースとなるのがこの「いろのみ」という、ピアノとギターによるデュオ・ユニットの4作目である。まず、この「いろのみ」という文字から、さまざまな連想が行なわれるだろう。「色のみ」なのか。「色の実」なのか。「い・ろのみ」なのか。「Hilonome」なのか。カタカナでもなく、漢字でもなく、アルファベットでもなく、シンプルなひらがな表記がいい。MySpaceの彼らのプロフィールによれば「季節のさまざまな色の実を鳴らす」ことをコンセプトにしているというが、まさにこのユニット名こそが、無数の色を内包したこの音楽の特質を本質的に表したすぐれたものだと思える。

 柳平淳哉のピアノと、磯部優のギター(およびラップトップ/エフェクト)が紡ぎ出す柔らかな音楽が描くもの、それはタイトルからも想像できるように(ubusunaは、漢字で書けば産土、つまり生まれた土地を守護する神であり、それは郷土意識と強く結びつく)、自然主義音響的なものと言えるが、ぼくがこのアルバムを聴いていて思い出した音楽があった。それはドイツにおいてシンセサイザーによる(後年はアコースティック・ピアノ)自然神秘主義音響を追求したフローリアン・フリッケによるPopol Vuhである。

 フリッケの音楽観は、初期はドイツの陰鬱な森を思わせるもので、それが徐々に独自の宗教的な概念を加えていくことで、初期の名盤「Hosianna Mantra(1972年)を生み出すことになるのだが、彼の持つ自然に対する感覚、また宗教に対する概念は、ヨーロッパにおいてはきわめて普遍的なものでもあった。フリッケは2001年に他界したが、少なくとも彼らは21世紀に入るまでアップ・トゥ・デイトな活動を続けていたのも、そうした理由ゆえであっただろう。いろのみの音楽を聴いていると、四季の移り変わり、山の緑の色が変化していく様、海辺の波の様相の移ろいなどが表現されているようにも感じられるが、それは当然のことながらフローリアン・フリッケが描き出す自然音響よりもより親密な響きを帯びている。あちこちに聴かれる細やかなエフェクト、左右にちりばめられたピアノの点描的な響きが、われわれの目の前に常にありながらも気づくことのなかった風景を、改めて思い出させてくれるのだ。

Chart by LOS APSON? 2009.12 - ele-king

Shop Chart


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ORANGE SUNSHINE

ORANGE SUNSHINE BULLSEYE OF BEING MOTORWOLF / Leaf Hound / 12月 »COMMENT GET MUSIC
1970年春にレコーディング?されるも2007年までお蔵入りし、1stプレスはジャケなし黒ラベルでLTD.300リリースされたが即完売。続いてこの2ndプレスが、A面別ミックス(A1.中盤にシタールのチャンネル/A2.のアウトロにディレイが差し込まれた程度)でジャケありLTD.300でリリースされたのですが、ある事情でその後出回らずにいたブツ。

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AXEL KRYGIER

AXEL KRYGIER PESEBRE Los Anos Luz Discos (ARG) / 12月 »COMMENT GET MUSIC
現代アルゼンチン音楽シーンのキーパーソンにして、'10年代以降のメジャーもアンダーグラウンドも関係ない、ポップも実験行為すら乗り越えた、パラレルな時間を楽しむ為の音楽の在り方を示唆するアクセル・クリヒエール待望の!充実の!4作目。

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CHUCHO VALDES TRIO

CHUCHO VALDES TRIO JAZZ BATA & TEMA DE CHAKA Malanga / 12月 »COMMENT GET MUSIC
その後、ラテン・ファンク集団イラケレを率いることになるチューチョ・バルデースが、1973年に発表した豊潤な意欲作にして異色作!革命後キューバン・ジャズの出発点とも言える記念碑的アルバムがコレなんです!!!!! ジャケット、オリジナルのアートワークでリリースしてほしかったなぁ?。

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HUGO FATTORUSO

HUGO FATTORUSO CAFE Y BAR CIENCIA FICTIONA SJAZZ / 12月 »COMMENT GET MUSIC
一聴してみて今作は地味かな、、、なんて思わせるのですが、いやいやどうしてどうしてっ!!! 聴き込むほどに愛聴盤になってしまう一枚です!!! 前作の言葉どうりの→NEW ROOTSなカンドンベ大傑作「emotivo」のような熱いリズム太鼓隊との掛け合いはここにはありませんが、ソロ・ピアノを中心とした熟れたインプロバイズに触れることが出来ます!!! 歳を取ってしてもなお、決して枯れることにおもむきを置いていないフレッシュな息吹に勇気づけられます!!! Shhhhhお気に入りのドラムがユルい四つ打ちを打つ"LA PARTIDA"なんかも収録しています。

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GRUPO FOLKLORICO Y EXPERIMENTAL NUEVAYORQUINO

GRUPO FOLKLORICO Y EXPERIMENTAL NUEVAYORQUINO Concepts In Unity Clave Latina / 12月 »COMMENT GET MUSIC
あのダンス・クラシックス名門レーベル=SAL SOULのサルサ部門からからオリジナル・リリースされた、SAL SOULダンス・サウンドのルーツ、キューバやプエルトリコの音楽(グアグアンコー/アバクア/グアヒーラ/プレーナ/マスルカ etc.)を全面に押し出した、'70s N.Y.のストリート・サウンド!ハード・サルサ(デスカルガ)隆盛期、名盤中の名盤!!!!! メンバーに名を連ねたのは、エディー・パルミエリの門下生アンディ&ジェリー・ゴンサーレス。彼らと共に後、キップ・ハンラハンのアメリカン・クラーヴェの中心アーティストとなるミルトン・カルドーナ。コンフント・リブレのドン、マニー・オケンド。アルセニオ・ロドリーゲスのバンドでも活躍したチョコラーテ・アルメンテロスなどなど、伝統音楽の進化系を都市で楽しむ為のチャレンジ・バイブスで塗り替えた、言葉どおりの実験NEW ROOTS的ラテン・サウンド!!!!!

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HIKARU

HIKARU for life dub / 12月 »COMMENT GET MUSIC
BLAST HEADのDJ HIKARUが一番最初にリリースした、幻のフェイバリット・レゲエ/ダブMIX盤!!!!! 次から次へとイイ感じの名曲が繰り出される大スイセン作!!!!! ライフ・ダブ→島と都市でみがかれたナイス・バイブが充満してます!!!!!

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HIKARU

HIKARU To Home CD / 12月 »COMMENT GET MUSIC
DJ KeNsEi、三重eleven.のAPOLLOとの吉祥寺スターパインズカフェでやった「ゆるいツアー」で初売りしソッコー売り切れてしまった、ブラストヘッドのHIKARUによる幻の名作人気MIX CDが、やっとで復活!!! お待たせしました!!! ぜったい買い逃さないで下さい!!! 「ゆるいツアー」用にMIXしただけあって全編まった?り&ほっこ?りとナイス・バイブが隅々まで充満しています!!! ほんと飽きのこないHIKARUの魅力満点の大スイセン・ロングセラーMIX!!!

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ALTZ

ALTZ Get It Down ! ALTZMUSICA (JP) / 12月 »COMMENT GET MUSIC
ライブやDJでの活躍はもちろん、WOODMAN主宰のRARE BREEZE、山辺圭司の時空レーベルからリリースを軸に、BEAR FUNK(UK)、DFA(US)、LUNAFLICKS(NORWAY)といった海外からのリリースでも人気。リミキサーとしても引っ張りだこのアルツが、自らレーベルを始動!第1弾は、アルツ本人の新曲となる3 TRACKS EP!! 12インチ、アナログ・リリース!

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DU BARTAS

DU BARTAS Fraternitat! L'autre distribution (FRA) / 12月 »COMMENT GET MUSIC
高音質で強烈なリズム・サウンドが登場!!! 録音状態がほんと素晴らしく、音の粒立った大勢の太鼓隊が目の前に出現します!!! クラブ・プレイもまったく問題なくイケル大スイセン盤!!! これかかったら踊るしかないでしょ!!! これで踊らなかったら、まったくもって音楽インポだぞっ!!!

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戸張大輔

戸張大輔 ドラム BUMBLEBEE (JP) / 12月 »COMMENT GET MUSIC
やっぱ、とんでもなく素晴らしい!!!!! ロスアプが、初期のカセットテープ時代から追っかける孤高の音楽家!戸張さんの待ちわびていた新作!!!!! '09年の辺境音楽を探究してきた耳にも、やたら新鮮に響くこの極プライベートなギターと声のみの音楽は、今年の着地点なのだっ!!!!! そしてこれを聴くと「永遠の時」の住人なのだっ!!!!! ここへ立ち戻り、また辺境探索へと旅立てばいいのさ。。。いろんなことがあっても、ここに戻ってくればだいじょうぶだよ。。。

第6回 THE VERY THOUGHT OF YOU(前編) - ele-king

 火事になったら、
  一枚のレンブラントより一ぴきのねこを救おう
  そしてその後で、そのねこを放してやろう
――アルベルト・ジャコメッティ
(長田弘『ねこに未来はない』より)

 真夜中、BOSEのポータブル・プレイヤーでナット・キング・コールの『ザ・ヴェリー・ソウト・オブ・ユー』を流しながら、この文章を書き始めている。1958年、唯一無二の甘く、ほろ苦い声を持つジャズ・シンガーが、煌めくようなオーケストラをバックに、ひたすら幸福なラヴ・ソングを吹き込んだ、この世で最も美しいレコードのひとつ。ハーブを吹かし、ラムでも舐めながら聴いたらさぞかし最高なことだろう。しかし、今は仕事中なのでそういう訳にもいかないというのと、ある時から、このCDを再生することは、ひとつの悲しい記憶を思い出すのとイコールになってしまった。今、目を閉じると、満点の星空が浮かび、小さな啜り泣きの声が聴こえてくる。音楽というものは、人生の前では無力だ。でも、それでいい。いずれにせよ、僕たちは人生と向き合わなければならない。音楽はそこから目を逸らすためのものではなく、そっと後押しをしてくれるものであるべきだ。まず、長く険しい人生がある。そして、その傍ら、小さな音で音楽が鳴っている。僕たちは時々、立ち止まってそれに耳を傾け、また決心して歩き出す。イメージするのはそういうことだ。

    飛行機が徐々に高度を下げ、真っ青な世界から真っ白い世界へ突入し、ややあって、鼠色の世界に顔を出した瞬間、美しい夢から覚めたら醜い現実が待っていたような、悪い夢だと思っていたのが正真正銘の現実だったような、そんな気分になった。僕はヘッド・フォンを外し、眼下に広がる雨に濡れた成田を眺めながら、あぁ、何て汚い街なんだろうと思い、隣の席の妻にその感想を告げようと顔を覗きこむと、彼女は同じように外に目をやっているのか、それともただ虚空を見つめているのか、とにかくハッとするような憂鬱な表情をしていて、僕は慌てて手を握り締めた。膝に置いたヘッド・フォンからはストリングスがほとんどホワイト・ノイズになってささやかな音を立てていた。

  猫のチーが死んだという連絡が入ったのはフレンチ・ポリネシア諸島のひとつ、ボラボラ島に滞在する最後の日の事だった。まだ、たった4歳で、死因は突然死としか言いようがないと、後日、かかりつけの獣医さんは言っていた。正確には、チーは僕たちが日本を経った10月某日、月曜日昼から丸一日経ったか経っていないかの、火曜日昼、留守の世話をお願いしていたペット・シッターの方に、床に倒れているところを発見された。彼はすぐにメールで報告をしてくれたのだが、僕たちはスケジュールを詰め込んでいたためなかなかメールを確認する暇がなく、僕がそれに気付いたのは日本時間の木曜日昼辺りだった。妻がホテルの備え付けのスパに行っている間、パソコンをいじろうと、レクリエーション・ルームでHotmailにアクセスし、「悲しいお知らせをしなければなりません」という書き出しが目に飛び込んで来た瞬間の気持ちを、僕は一生忘れる事がないだろう。それまで、自由の象徴のように思えた、ディープ・ブルーの空と、エメラルド・グリーンの海の間に浮かぶ美しい島が、まるで密室みたいに感じられた。僕はひとりで、5.4万坪という広大な敷地を持つセントレジス・リゾート・ボラボラを檻に閉じ込められた猿のようにウロウロと歩き回りながら、あと2時間もすれば妻は部屋に帰って来る、その時、一体何て説明したらいいんだろうと、その事ばっかり考えていた。

  今回の旅行は、結婚して2年目、僕たち、決して豊かとは言えない共働きの夫婦がようやく手に入れた休暇と溜まったお金を継ぎ込んだ、言わば遅いハネムーンだった。せっかくだから思いっきり遊べるよう、仕事は出発前までに出来るだけ片しておいた。しかし、ひとつだけ心配だったのが、2匹の猫を1週間という、今迄にない長い間、残して行く事であった。病院やペット・ホテルに預ける事も考えたが、猫は犬よりも住み慣れた家から離れることをストレスに感じると聞いて、ペット・シッターにお願いする事にした。打ち合わせに自宅までやって来たSさんは、犬や猫の毛だらけのトレーナーを着た、如何にも人の良さそうな、そして動物の好きそうな中年男性で、この人に任せておけば大丈夫だろうと大して心配もしていなかった。「東京では暑い日が続いています。お父様とお母様は荼毘にふされた方がいいのではと仰っていますが、私はどうにかおふたりの帰りを待っていてもらおうと提案し、今、チーちゃんはドライ・アイスを抱いて、眠ってくれています」。Sさんからのメールにはそう書いてあった。残されたもう1匹のアーが如何にも怯えた表情で食器棚の上から様子を伺っている写真も添付されていた。僕は絶対に亡骸を保存しておいて欲しい事、残されたもう1匹のアーをくれぐれもよろしく頼むとの事をメールにしたため、送信した。たった数100文字のメールなのに、手が震えて、書き終えるまでにかなりの時間がかかった。

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  子供のいない僕たちにとって、チーとアーは唯一の家族だった。二匹なのだから唯一という言い方は可笑しいのかもしれないけれど、全員でひとつという意味で、それはまさに唯一だった。僕ら夫婦が今まで上手くやってこれたのは、2人きりだと息が詰まってしまう時に風通しをよくしてくれ、2人の心が離れそうな時は間に入ってくれる彼女たちがいてくれたおかげだと思う。4年前の春、歳上の友人である石田義則さん――と言うよりは、ラッパーのECDと言った方が話が早いだろう――から、家で子猫が生まれたから貰い手を捜しているという連絡が来た。彼が07年に出した小説『失点イン・ザ・パーク』には、飼猫、プーちゃんの出産シーンがある。今度の子猫たちはその次、2度目の出産だった。2人とも猫が好きで、兼ねてから飼いたかったものの、ペット・ショップで買うのはどこか抵抗があった僕たちは喜んで下北の石田さんの自宅に向かった。招き入れられまま家の中に入れば、片付けることが苦手な僕もちょっと驚くぐらい荒れた果てた部屋の中で、猫たちはまるで森の中を駆け回るように遊んでいた。4、5匹いたのだろうか。「どの子にする?」。石田さんに訊かれ、決めあぐねていると、「この子とこの子は仲良しだから一緒にもらってあげて欲しいな」、そう言いながら、2匹でも片手で抱えられそうな小さなメス猫たちを手渡された。その当時、僕は豪徳寺のアパートに引っ越したばかりで、そのまますぐに連れて帰ったように思う。ついさっきまでの住処に比べると、まるで森から草原にやってきたようにガランとした部屋の中を2匹は恐る恐る嗅いで歩きながら、ゆっくりとテリトリーを広げ始めた。「名前は何にしようか?」「鼻が茶色い方がチーで、赤い方がアー」。どちらともなく適当に決めたのに、その後、彼女たちは、チーはチー、アーはアーとしか言いようがない、まるで生まれる前からそう決まっていたかのような猫に育っていった。

 2匹は姉妹らしく仲が良くて、いつも合わせ鏡みたいにぴったりと顔を寄せ合って寝ていたし、ふと見ると全く同じポーズで佇んでいることもしばしばだったけれど、キャラクターは真逆で、チーはチーという名前の響き通り少し惚けた、アーはアーという名前の通り少し神経質な性格だった。チーは甘えん坊で、常に人の膝に座りたがったし、音楽に合わせて操り人形みたいに踊らせても、嫌な顔ひとつしなかった。一方、アーは誇りが高くて、ひとと触れ合うのは自分がそうしたいと思った時だけで、無理矢理抱き上げられたりするのが好きではなかった。身繕いに関してもチーは無頓着でアーは丁寧。アーがじっくり自分の身体を舐めていると、チーは自分のことそっちのけで手伝おうと、アーの顔を舐め始め、最初はアーも気持ち良さそうにしているのだが、それがあまりにもしつこいので、そのうちイライラしてきて、アーが飛び掛り、チーがこてんぱんにされるのがお決まりのパターンだった。アーは機嫌が悪い事も多く、壁中に引っ掻き傷を付けたが、チーは手がかからない猫で、喉を鳴らしている時間の方が長いんじゃないかと思うぐらいだった。1歳になったぐらいだろうか、アーは血尿を出し、慌てて動物病院に連れて行くと結石だと診断され、以降、治療用の餌を食べていた。だから、チーが死んだと知った時、一瞬、アーの間違いじゃないかと疑ったものだ。でも、ひょっとしたら、アーは定期的に病院に連れて行っていたけれど、チーは放ったらかしだったので、病気が発見出来なかったのではと思うと、悔やんでも悔やみきれない。僕たちの中でチーは元気でひょうきんなイメージしかなかった。出発前日の夜、チーは部屋に広げられた見慣れないアタッシュ・ケースに興味津々で、ふと目を離した隙に中に潜り込み、「連れていけって言ってるよ」と僕らは笑い合った。

 チーとアーは家から出したことがなかった。猫を外に出さないのは、今や都会の愛猫家の間では常識である。家に閉じ込められていたら窮屈ではないかと思う人もいるだろうが、猫のテリトリーというのは実はとても狭く、外に出しても家の周辺をウロウロしているだけで、あまり変わらないのだそうだ。何より、車の事故や、感染病といったリスクを回避する事が出来る。しかし、外の世界を知らない事は確実に猫自身の性格に影響を及ぼすとは思う。チーもアーも、既に生後4年を越えた立派な成猫だったが、顔はまるで子猫ように幼く、可愛らしいままだった。臆病で、わがままで、いつもニューニャー鳴きながら僕たちの後ろを付いて回った。野良猫のふてぶてしく、逞しい表情や態度と比べれば違いは明らかだ。そして、また、そのことは猫と人間の関係性にも多大な影響を及ぼす。例えば、詩人の長田弘が71年に出したエッセイ集『猫に未来はない』を読むと、約40年前の日本では、猫と人間は今よりももっと緩やかに、大らかに付き合っていたことが分かる。この本にはそれまで猫嫌いだった長田が、大の猫好きの女性との結婚を機に猫を飼い始め、段々と猫好きになっていく過程が書かれている。今年に入って知ったこの本に出てくる、彼等が飼う最初の猫も、偶然にもチイという名前なのだけれど、その一代目チイも、二代目チイも、三番目に飼われるジジも、皆、家出してしまったり、他の猫との喧嘩に負けて死んだりしてしまう。夫婦は一代目チイがいなくなり、落ち込んでいる時、チイをくれた猫好きの知人に「そのくらいのことでグシャグシャになっちまうようじゃ、ほんとうのねこ好きにはなれないな。ねこ好きのひとはみんな、一度ならずじぶんのねこがいなくなったり死んだりすることに耐えることで、まえよりもっとねこ好きになってきたんだからね」と励まされ、次の猫を飼う決心をする。そこにある想いは現代と何ら変わるところはないし、この言葉にはとても励まされる。

  しかし、驚くのは2代目チイと、ジジをくれる、近所の猫好きおばさんが生まれたばかりのジジを手渡す時に言うこんな台詞だ。「待ってたかい? やっと昨日生まれたんだよ。混血の器量よしだよ。(中略)四ひき生まれたんだけどさ、ほら、ここんとこあまり次つぎにみんないなくなっちゃうだろ? また他人ちにやると、それだけあとでがっかりする気もちを分けてやるみたいになっちゃうのが、どうにもわたしにゃ気が重いのさ。まあ、あんたたちにだけは約束してたからね、そんなかでいちばん好いのを選ってさ、あとはこう(と、手をひねるそぶりをみせて)しちゃったんだ」。この、要するに子猫を間引いたという描写は、何てことのない、とてもさり気ない調子で出てきて、それについて特に言及されることもない。勿論、現代だって行なわれていることなのだろうけれど、数年前に日経新聞で作家の坂東真砂子が子猫を間引くエッセイを書いて激しくバッシングされた事からも分かるように、今では大っぴらに書くことは許されないエピソードだろう。猫好きにも関わらず、この話を普通に聞き流す長田夫婦の感性は、外で飼うことが原因で愛猫を何回も失っているにも関わらず、何の対策も講じないし、去勢すらしようとしない事にも繋がっているし、その背景にはこのような思想があると思う。同書に収められたもうひとつのエッセイ『ねこ踏んじゃった』で長田は書いている。「おそらくねこぐらい、あるひとたちにとってはひどく好かれながら同じぐらいあるひとたちには評判のわるい愛玩動物も、ほかにはまずいないといっていいんじゃないでしょうか? そのことは、ぼくたちにとってねこと同様に親密な動物である犬とくらべてみるとき、いっそうはっきりします。犬が、数千年におよぶ人間とのつきあいの歴史のなかで、じぶんの生きかたを、犬は人間にとっての犬なんだというしかたに変えてきたことにくらべれば、ある動物学者のいうように"数千年にわたる人間とのつきあいで、ねこほどかわらなかった動物はない"のですから」。「人間は猫を飼うことである種の禊をしているのだ」というような事を言ったのは、中島らもだった。つまり、長田の、猫を愛しているにも関わらず、現代からすると妙にそっけない態度とは、人間にとっていちばん身近な野生である猫の本能に対する敬意とは解釈出来ないだろうか。それに対して、我々の猫との付き合い方は良く言えばより親密になって来ているし、悪く言えば、その親密さとは猫の野生性を殺すことで得たものであり、また、親密さは依存と置き換えることも出来るだろう。社会のポスト・モダン化によって人間たちに引き起こされた絶対的な孤独を癒すために、猫たちは本能を奪われてしまったのだろうか。果たして、それは彼らにとって幸せなことなのだろうか。

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  多摩川のホームレスと野良猫の写真を撮り続けているカメラマン、小西修を追ったドキュメンタリー番組「ひとりと一匹たち~多摩川河川敷の物語」で、彼と一緒に野良猫の世話をする彼の妻が、ずっと気にかけていたのに、しばらく姿を見せなかった野良猫が草むらの中で死んでいるのを発見し、泣きながら、その硬くなった亡骸を抱きしめ、呟いた言葉が忘れられない。「生きてても、良い事なんかなかったね。でも、もう苦しい思いをしなくていいんだよ」。その猫に比べたら、チーはずっと幸せだっただろう。死ぬその瞬間まで、嫌な思いをほとんどせずに生涯を終えたはずだ。でも、幸せってなんなんだろうか。去勢され、家に閉じ込められたまま死んで行く飼い猫は幸せなんだろうか。それとも、繁殖出来るだけ繁殖し、寒くてひもじい思いをしながら死んでいく野良猫の方が幸せなんだろうか。そもそも、猫に幸せなんていう価値観があるのだろうか。飼い猫が欲しがるままに、肉や魚のみならず、ケーキまで与え、ブクブクと太らせた姿を嬉々として写真に収める中川翔子の行いは虐待にあたらないのだろうか。それとも、カロリー・コントロールされた簡素な味のドライ・キャット・フードしか与えない方が虐待という考え方も出来るのだろうか。猫は何も言わないから分からない。猫を飼うなんてことは、所詮は人間のエゴだし、無駄なことである。ただ、人間はエゴを押し殺せないし、無駄なことをせずには生きていけない。猫は黙ってそれを受け止めてくれる。僕が思い出すのは、僕と妻がベッドに寝ている間に潜り込んできて、目を細め、喉を鳴らすチーの表情である。あれを、幸せそうと言わなかったら、何を幸せそうと言うのだろうか。そして、僕たちがそのチーを撫でた時に手に伝わってきた温もり、そして胸に沸いて来た感情を幸せと言わなかったら、何を幸せと言うのだろうか。――僕は白い砂浜に置かれたベッドに独り座って、裸ではしゃぎ回るよく日焼けした白人の子供と、それを微笑みながら見守る若い夫婦をぼんやりと見つめ、そんなことを延々と考え続けていた。気付けば、2時間が経っていた。そろそろコテージに戻らなければならない。

(つづく)

『SNOOZER』でお馴染みの「のだなカンタービレ」、そのライヴ・ショーをやることになりました! 時間帯が昼なので、野田も前回のリキッドルームのときのように泥酔することはないと思います。また、田中宗一郎が高校時代に撮った映画を見せられることもないと思います。どうぞ、お気楽に遊びに来てください!! 


「人類の青春時代が敗北感とともに終息した70年代。成熟と爛熟と享楽の80年代。絶望と諦念と内向の90年代」、例えばこのようなストーリー性の成立が困難となり、あらゆるものが「ネタ」と化したゼロ年代に、ロックはどのように展開したのでしょうか。2008~09年を軸にゼロ年代ロック・シーンを総括し、来る2010年代に成立可能なロックの姿を占います!さらに、ロックのみならず「ロック雑誌」というメディアは今後どのような存在意義を持つのか、いま「レビュー」と「ポップ」の集積としてではなく「ロック」という命題について語ることにどのような意味があるのか、またそのようなことは未来において可能なのでしょうか!? 永遠の「リアル・リスナー」田中宗一郎氏と野田努氏をお招きして開催するロック・タウン・ミーティング!「のだなカンタービレ」withディスクユニオン渋谷ロック館!!

日時:1月23日(土) 15:00~(終了17:30予定)
場所:リキッドルーム2Fギャラリー
入場料:1,500円(ドリンク付き)
チケット取り扱い場所:ディスクユニオン渋谷ロック館(03-3461-1809)、リキッドルーム(03-5464-0800)

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