Home > Reviews > 七尾旅人×やけのはら- Rollin' Rollin'
4つのリミックスを加えたかわいいファンク集。意外な組み合わせと思ったが、ふたりは以前からの友人同士という。たしかふたりとも、清志郎ファンじゃなかったかな。
何気ないラヴ・ソングといえばラヴ・ソング。けれども清志郎の歌みたいに"彼女"の形が前面に出てくるようなものでなく、街という背景があって、僕と恋人が絡みあってそこを転がっていく。レコードが回り、グルーヴがすべてのふたりきりの世界であって、同時にふたりを飲み込もうとする世界(「運命」)がある。直接ふたりを搾取するわけではない、もっとその茫漠とした、ふたりの、僕の、不安や不幸も幸福も否応なくそこと関らざるを得ない世界への意識がある。たぶんそういうところが、清志郎のラヴ・ソングとは違うところではないか。けれども、にもかかわらず、僕もふたりも幸福そうで、ストリート・カルチャーを通過した以降のごく普通の感覚のようにも思える。
「朝よ来ないで」という"最後のつぶやき"は決して適うことはないけれど、そのつぶやきこそふたつの世界の拮抗点だ。「朝よ来ないで」。このつぶやきを何度感じたことだろう。最終電車が入口となる、たとえば朝がきたからといって行くべき場所なんかない人間たちの世界ののんきさと寂寥感と不安と快楽に満ちた"幸せ"な時間はいつもすぐに終わって朝が来て、朦朧としながら重い足を持ち上げ駅の階段をもういち度登る。数年前に感じていた、社会と接点がないという接点というような感覚が、ストリートにはあったように感じていた。私はその空気がとても好きだった。その好きだった空気が、やけのはらの少し拙いようなだるいようなラップもふくめて、"Rollin' Rollin'"にはある。たとえばそれは、フィッシュマンズの"新しい人"とはまた違う夜明けの迎え方なのだ。
リミックスのメンツは、複雑なリズムが出色のCherry Boy Function、せわしなさが刹那的な切なさを煽るようなSKYFISH、うってかわって川辺ヒロシのレイト・サマー・フィールド・ミックスがその際限のない終わらなさを問いかける。ラストはオリジナルのアレンジも担当したDollianのゆったりしたドラムンベース。同じ曲が5回も繰り返されること自体が歌詞の言葉とも絡みあっているかのよう。
いちばん好きなこのフレーズを返したい――「Rollin' Rollin' 回り続ける 君(たち)のかわいい考えが Oh Sorry Darlin' 君と二人 坂を登り 坂を下る」。
水越真紀